説明

汚染物洗濯装置及び方法

【課題】有害物質が付着した作業服等の汚染物に対し、除染の有無を確認しつつ汚染物を確実に洗濯することができる汚染物洗濯装置及び方法を提供する。
【解決手段】有害物質が付着した汚染物付着被洗濯物12を洗浄液で洗濯する第1の洗濯装置13と、前記第1の洗濯装置13で洗濯された被洗濯物14を清澄洗浄液15で洗濯する第2の洗濯装置16と、前記第2の洗濯装置16で使用した洗浄液17を貯留する洗浄液タンク18と、前記洗浄液タンク18内の有害物質濃度を計測する有害物質濃度計測装置19と、前記洗浄液タンク18からの洗浄液17を第1の洗濯装置13で使用してなると共に、第1の洗濯装置13で使用した汚染洗浄液17bを貯留する汚染洗浄液タンク20と、該汚染洗浄液タンク20内の汚染洗浄液17bを再生して清澄な再生洗浄液21とする洗浄液再生装置22と、再生洗浄液21を貯留する清澄洗浄液タンク23とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばPCB等の有害物質が付着した作業服等の汚染物に対し、除染の有無を確認しつつ汚染物を確実に洗濯することができる汚染物洗濯装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、PCB(Polychlorinated biphenyl, ポリ塩化ビフェニル:ビフェニルの塩素化異性体の総称)が強い毒性を有することから、その製造および輸入が禁止されている。このPCBは、1954年頃から国内で製造開始されたものの、カネミ油症事件をきっかけに生体・環境への悪影響が明らかになり、1972年に行政指導により製造中止、回収の指示(保管の義務)が出された経緯がある。
【0003】
PCBは、ビフェニル骨格に塩素が1〜10個置換したものであり、置換塩素の数や位置によって理論的に209種類の異性体が存在し、現在、市販のPCB製品において約100種類以上の異性体が確認されている。また、この異性体間の物理・化学的性質や生体内安定性および環境動体が多様であるため、PCBの化学分析や環境汚染の様式を複雑にしているのが現状である。さらに、PCBは、残留性有機汚染物質のひとつであって、環境中で分解されにくく、脂溶性で生物濃縮率が高く、さらに半揮発性で大気経由の移動が可能であるという性質を持つ。また、水や生物など環境中に広く残留することが報告されている。この結果、PCBは体内で極めて安定であるので、体内に蓄積され慢性中毒(皮膚障害、肝臓障害等)を引き起し、また発癌性、生殖・発生毒性が認められている。
【0004】
PCBは、従来からトランスやコンデンサなどの絶縁油として広く使用されてきた経緯があるので、PCBを処理する必要があり、本出願人は先に、PCBを無害化処理する水熱酸化分解装置を提案した。この水熱酸化分解装置の概要の一例を図3に示す。図3に示すように、水熱酸化分解装置120は、筒形状の一次反応塔101と、PCBを含有した被処理物30、油(又は有機溶剤)102、水酸化ナトリウム(NaOH)103及び水(H2O)104の各処理液を加圧する加圧ポンプ105a〜105dと、当該水104を予熱する熱交換器106と、配管を螺旋状に巻いた構成の二次反応塔107と、冷却器108および減圧弁109とを備えてなるものである。また、減圧弁109の下流には、気液分離装置110、活性炭層111が配置されており、排ガス(CO2 )112は煙突113から外部へ排出され、排水(H2O,NaCl)114は放出タンク115に溜められ、別途必要に応じて排水処理される。
【0005】
上記被処理物30、油(又は有機溶剤)102、NaOH103及びH2O104の各処理液は処理液タンク120a〜120dから配管121a〜121d及びエジェクタ122を介してそれぞれ導入される。
また、酸素(O2 )等の酸化剤116は高圧酸素供給設備117により供給され、酸素供給配管118は、一次反応塔101に対して直結されている。なお、油(又は有機溶剤)102を入れるのは、特に分解反応促進のためと、水熱酸化分解装置120の起動時において反応温度を最適温度まで昇温させるためである。また、処理液として上記被処理物30、水酸化ナトリウム103及び水104を混合させて一次反応塔101に投入するようにしてもよい。
【0006】
上記装置において、加圧ポンプ105による加圧により一次反応塔101内は、例えば26MPaまで昇圧される。また、熱交換器106は、H2Oを300℃程度に予熱する。また、一次反応塔101内には酸素が噴出しており、内部の反応熱により350℃〜400℃まで昇温する。この段階までに、反応塔101の内部では酸化分解反応を起こし、被処理物30に含まれたPCBはCO2およびH2Oに分解されている。つぎに、冷却器108では、二次反応塔107からの流体を100℃程度までに冷却すると共に後段の減圧弁109にて大気圧まで減圧する。そして、気液分離装置110によりCO2および水蒸気と処理液とが分離され、CO2および水蒸気は、活性炭層111を通過して環境中に排出される(特許文献1)。
【0007】
このような処理装置を用いてPCB含有容器(例えばトランスやコンデンサ)等を処理することで、完全無害化がなされているが、さらにその施設内に供給するPCB含有トランスやコンデンサを取り扱う場合には、防護服の着用が義務付けられるが、比較的汚染の少ない区域においては、通常の作業服を着用して作業することとなる。このような作用において、万一作業服がPCBによって汚染された場合、その付着量が少ない場合には、汚染作業服を洗浄再生して再利用することが考えられる。
【0008】
【特許文献1】特開2002−248455号公報
【特許文献2】特開2001−327982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来においては、PCBで汚染された汚染作業服を洗浄することの提案はあるものの(特許文献2)、そのPCBが完全に除染されているかどうかを確認することができず、確実に除染されているか否かの有無が求められている。
【0010】
本発明は上述した問題に鑑み、例えばPCB等の有害物質が付着した作業服等の汚染物に対し、除染の有無を確認しつつ汚染物を確実に洗濯することができる汚染物洗濯装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、有害物質が付着した汚染物を洗浄液で洗濯する第1の洗濯装置と、前記第1の洗濯装置で洗濯された被洗濯物を清澄洗浄液で洗濯する第2の洗濯装置と、前記第2の洗濯装置で使用した洗浄液を貯留する洗浄液タンクと、前記洗浄液タンク内の有害物質濃度を計測する有害物質濃度計測装置と、前記洗浄液タンクからの洗浄液を第1の洗濯装置で使用してなると共に、第1の洗濯装置で使用した洗浄液を再生して清澄洗浄液とする洗浄液再生装置とを具備することを特徴とする汚染物洗濯装置にある。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記有害物質がPCBであることを特徴とする汚染物洗濯装置にある。
【0013】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記洗浄液がPCBを溶解する溶剤と洗剤とからなることを特徴とする汚染物洗濯装置にある。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、前記溶剤が塩素系溶剤、アルコール系溶剤又は臭素系溶剤のいずれか一種であることを特徴とする汚染物洗濯装置にある。
【0015】
第5の発明は、第1の発明において、前記第1の洗濯装置と第2の洗濯装置が共用してなることを特徴とする汚染物洗濯装置にある。
【0016】
第6の発明は、第1乃至5の発明のいずれか一つの汚染物洗濯装置を用い、前記第2の洗濯装置で使用した洗浄液の有害物質濃度を計測し、汚染物の清浄化を判定することを特徴とする汚染物洗濯方法にある。
【0017】
第7の発明は、第6の発明において、前記判定の結果、有害物質が残留する場合には、再度洗濯することを特徴とする汚染物洗濯方法にある。
【0018】
第8の発明は、第6又は第7の発明において、前記有害物質がPCBであることを特徴とする汚染物洗濯方法にある。
【0019】
第9の発明は、第6乃至8のいずれか一つの発明において、前記洗浄液がPCBを溶解する溶剤と洗剤とからなることを特徴とする汚染物洗濯方法にある。
【0020】
第10の発明は、第9の発明において、前記溶剤が塩素系溶剤、アルコール系溶剤又は臭素系溶剤のいずれか一種であることを特徴とする汚染物洗濯方法にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明の汚染物洗濯装置によれば、第2の洗濯装置からの洗浄液中の有害物質の濃度を計測することで、除染の有無が確認でき、洗濯物が完全に有害物を除染したことを確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0023】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本実施の形態にかかる汚染物洗濯装置11は、有害物質(例えばPCB)が付着した汚染物付着被洗濯物12を洗浄液17aで洗濯する第1の洗濯装置13と、前記第1の洗濯装置13で洗濯された被洗濯物14を清澄洗浄液15で洗濯する第2の洗濯装置16と、前記第2の洗濯装置16で使用した洗浄液17aを貯留する洗浄液タンク18と、前記洗浄液タンク18内に貯留された洗浄液17aの有害物質濃度を計測する有害物質濃度計測装置19と、前記洗浄液タンク18からの洗浄液17aを第1の洗濯装置13で使用してなると共に、第1の洗濯装置13で使用した汚染洗浄液17bを貯留する汚染洗浄液タンク20と、該汚染洗浄液タンク20内の汚染洗浄液17bを再生して清澄な再生洗浄液21とする洗浄液再生装置22と、再生洗浄液21を貯留する清澄洗浄液タンク23とを具備するものである。
【0024】
前記洗浄液再生装置22は汚染洗浄液17bを例えば蒸留装置等により再生するものであり、冷却部22a、気液分離部22b、気体中の有害成分を吸着する例えば活性炭等のフィルタ22cから構成されている。また、蒸留残渣等の回収物25は有害成分を多量に含んでいるので、前述した図3に示した例えば水熱酸化分解装置120で被処理物30として処理するようにしている。
【0025】
本発明の汚染物洗濯装置11によれば、第2の洗濯装置16からの洗浄液17a中の有害物質の濃度を有害物質濃度計測装置19で計測することで、汚染物付着被洗濯物12の除染の有無が確認でき、被洗濯物が完全に有害物を除染したことを確認することができる。
【0026】
また、本実施の形態では、第1の洗濯装置13と第2の洗濯装置16として説明したが、一般のドライクリーニング装置では洗濯槽を共用しており、共用洗濯槽としてもよく、別々に洗濯槽を設けるようにしてもよい。
【0027】
前記有害物質としては、特に限定されるものではないが、例えばPCB、農薬、特定化学物質等の一般の洗浄とは区別する必要のある物質をいう。
【0028】
前記洗浄液とは、PCBを溶解する溶剤と洗剤とからなり、前記溶剤は例えば塩素系溶剤、アルコール系溶剤又は臭素系溶剤のいずれか一種を挙げることができる。
【0029】
また、洗剤は、ドライクリーニング用洗剤を用いればよく、例えばカチオン系,ノニオン系などの界面活性剤、及び界面活性剤にテトラクロロエチレンや1−ブロモプロパン、イソプロピルアルコール等の溶剤を含む公知の洗剤を用いることができる。なお、洗剤は作業服等の汗等を除去するために用いるもので、必ずしも用いるものではなく、汚染の程度に応じて適宜選択するようにすればよい。
【0030】
ここで、塩素系溶剤としては例えばテトラクロロエチレン(パークロ)、アルコール系溶剤としては例えばイソプロピルアルコール(IPA)、臭素系溶剤としては例えば1−ブロモプロパン(アブゾール(商品名))を挙げることができる。
この溶剤の物性比較を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
作業服を洗浄再生する場合,洗浄終了の判定が重要となる。厚生労働省が公表しているPCBの許容摂取量は5μg−PCB/kg−体重/日であり、作業者の平均体重を60kgと仮定すると1日あたり300μgのPCB摂取までは許容されることとなる。作業服上下で1kgと仮定し、付着するPCBを1日で呼吸または皮膚からの吸収で摂取してしまうとすると300μg−PCB/kg−体重/日の付着まで許容されることとなる。
この値は最大であり、より厳しく管理するとすれば容器処理における部材採取試験法の基準と同じ10μg−PCB/kg−作業服とすれば十分と判断される。
【0033】
また、洗浄再生方法としては通常の水と洗剤を使用した洗濯とドライクリーニングのような溶剤洗浄が考えられるが、洗濯の場合は洗剤の再利用が困難なことや洗濯に使用した排水の処理が問題となることから、溶剤洗浄が好ましく、溶剤洗浄の代表的な装置はドライクリーニングである。本発明では、第1及び第2の洗濯装置13、16は公知のドライクリーニング装置を用いることができる。
【0034】
次に、汚染物をPCB汚染作業服としてその除染の工程を説明する。
図2に示すように、汚染作業服である汚染物付着被洗濯物12は第1の洗濯装置13で1回目の洗浄が行われる(S101)。
次に、被洗濯物14は第2の洗濯装置16で2回目の洗浄が行われる(S102)。
この第2の洗濯装置16での洗浄液17aは洗浄液タンク18に送られ、その後第1の洗濯装置13での洗濯で使用される。
この際、洗浄液タンク18中の洗浄液17aのPCB濃度を有害物質濃度計測装置19で計測することにより、その濃度を測定する。そして、予め求めておいた作業服のPCB残量と洗浄液17a中のPCB濃度の関係から、作業服PCB残留量が洗浄終了と判定される溶剤中PCB濃度となった時点で第2の洗濯装置16での洗濯を終了させる。
未だ、作業服残留PCB濃度が高いと判定された場合には、洗浄終了と判定されるまで上述した洗濯を繰り返す。
その後、PCBが除染された洗濯物は溶剤乾燥工程(S103)に送られ、清浄作業服とされる。
また、汚染洗浄液17bは汚染洗浄液タンク20に送られ、適宜洗浄液再生装置22で再生処理される(S104)。
洗浄溶剤タンク18においては、有害物質濃度計測装置19により洗浄液の判定を行う(S105)。
なお、回収されたPCBや洗剤等の回収物25は、例えば水熱酸化分解装置26により処理される(S106)。
清澄洗浄液タンク23に戻された再生洗浄液21は別途補充される補充溶剤27及び補充洗剤28により、所定の洗浄液濃度に調整される。
【0035】
このように、洗濯装置を用い、作業服洗浄後の洗浄液中のPCB濃度を測定する有害物質濃度計測装置19を設け、洗浄液中のPCB濃度を計測する判定を行うことによって、間接的に作業服の洗浄度合いを判定する。
【0036】
すわなち、洗浄終了後の作業服に付着しているPCB量の測定を、第2の洗濯装置16での洗浄終了後において、その洗浄液17a中に溶解しているPCB濃度を計測することで、付着しているPCB濃度を間接的に測定することにより、個別に作業服が汚染されているか否かの卒業の判定を行うことが不用となる。
これにより、汚染物の除染の有無が確認された清浄作業服29を得ることができる。
【0037】
具体的には、汚染作業服である汚染物付着被洗濯物12を洗浄液タンク18からの1回洗浄に使用した洗浄液17a溶剤を用いて第1の洗濯装置13で洗浄し、その汚染洗浄液17bは洗浄液再生装置22でPCBと分離して清浄溶剤として回収する。
この再生洗浄液21と適宜補充した清澄洗浄液15を用いて第1の洗濯装置13で第1回洗浄後の作業服の第2の洗濯を第2の洗濯装置16で行う。
そして、この第2の洗濯装置16で洗浄に使用した洗浄液17a中のPCB濃度を有害物質濃度計測装置19で測定する。そして、予め求めておいた作業服PCB残留量と溶剤中のPCB濃度の関係から、作業服PCB残留量が洗浄終了と判定される溶剤中PCB濃度となった時点で洗浄を終了させる。また、未だ作業服残量PCB濃度が高いと判定された場合には、洗浄終了と判定されるまで上記手順を繰り返す。
【0038】
また、前記有害物質濃度計測装置19は公知の液体クロマトグラフィ法又は固相抽出法により分離し、GC−ECD又はGC−MSにより分析することができる。
【0039】
[試験例]
次に、前記三種類の溶剤を使用して洗剤を使用しない溶剤単独での洗浄試験を実施した。この際の洗浄試験条件を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように綿と混紡の2種類の試験服地を5cm×5cmの大きさに細断したものを使用し、パークロ,アブゾール及びIPAの三種類の溶剤にて洗浄試験を実施した。なおPCB汚染油濃度は、洗浄後の溶剤中PCB濃度及び服地残留PCB量の分析感度を勘案して1,000mg−PCB/L(濃度を実測した結果は1,280mg−PCB/Lであった)とした。
【0042】
試験は以下の手順にて実施した。
(1)試験服地の初期重量を測定した。
(2)重量測定後の試験服地をPCB汚染油に1日浸漬し、その後汚染油から引き上げて液だれが無くなるまで放置後、重量を測定して汚染油付着量を把握した。
(3)300mL分液ロートを3本準備し、それぞれに3種類の溶剤を別々に150mL入れ、その中に汚染油を染み込ませた綿と混紡を各2枚ずつ、またブランク(汚染物の再付着確認のため)として重量既知の汚染油に浸漬していない綿と混紡を各1枚ずつ、計6枚の試験服地を入れた。
(4)分液ロートを振盪機にセットして5分間振盪洗浄を行う。なお振盪試験装置は透明アクリル製の密閉容器に入れ、容器内空気は活性炭吸着装置を介して外部へ排出することとした。
(5)洗浄溶剤と試験服地を分離し、洗浄溶剤については溶剤中のPCB濃度を分析する。また,試験服地は液だれが無くなるまで液切り後、重量測定を行い、洗浄溶剤の付着量を把握した。
(6)取り出した試験服地は、汚染油を染み込ませた服地各2枚の内1枚ずつとブランクとして入れた服地1枚ずつをそれぞれn−ヘキサン抽出し,服地に残留或いは再付着したPCB量を把握した。
(7)溶剤中PCB濃度及び服地残留PCB量から洗浄効率、PCBの再付着率などを求めた。
(8)1回洗浄試験後、n−ヘキサン抽出に供しなかった試験服地各一枚ずつと重量既知のブランク服地各一枚ずつを分液ロートに入れ、1回目と同一条件で洗浄試験と試験後のPCB分析を行い,洗浄効率,再付着率を求めた。
(9)1回目と2回目の試験結果から、各溶剤の洗浄効率を比較し、PCB汚染服洗浄に適した溶剤を選定した。
【0043】
その試験結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
これらの結果から以下のことが判明した。
(1)1回目洗浄効率を比較すると大きな差ではないがIPA>アブゾール>パークロの順番であった。
(2)2回総合洗浄効率を比較すると大きな差ではないがアブゾール>パークロ>IPAの順番であった。
(3)ブランクの服地への洗浄時のPCB付着量はパークロ<アブゾール<IPAの順番であり、IPA洗浄時のPCB付着量が多くなることが判明した。
(4)作業服地の違いを比較すると,混紡より木綿の方が絶縁油の吸着量が多いことからPCB付着量も多くなり、洗浄後の残留PCB量も多いという結果であった。
(5)2回洗浄後の残留PCB量は綿で1.0〜1.3μg−PCB/g−服地、混紡で0.3〜0.9μg−PCB/g−服地であり、試験に使用したPCB汚染絶縁油濃度が1280ppmと想定される低濃度汚染PCB絶縁油(1000ppm以下)の10倍以上の濃度であることを考えると、万一作業服全体が低濃度PCB汚染絶縁油で汚染されたとしても、何れの洗浄溶剤を用いてもPCBの一日当たりの許容摂取量から計算した300μg−PCB/g−服地を十分達成できるものと考えられる。
【0046】
次に、洗剤併用洗浄試験を行った。
一般のクリーニングにおいては除去汚染物の再付着防止や汗などの水溶性の汚れを除去するためにそれぞれの溶剤に適した洗剤(界面活性剤)を添加することがあるので、パークロとアブゾールを対象として洗剤を併用した洗浄試験を実施した。
【0047】
洗浄試験条件を表4に示す。洗剤併用試験においては1回のみの洗浄試験とし、溶剤単独試験に於ける1回洗浄試験結果と比較することで、洗剤の効果を見ることとした。用いた洗剤は次の通りであり、何れも溶剤に対して0.5重量%添加した。
【0048】
本試験では、パークロ用の洗剤として「ゲンブΣ」(商品名:ゲンブ株式会社製、化学名:界面活性剤・溶剤配合物、界面活性剤(カチオン系,ノニオン系など)、 テトラクロロエチレンを含む)。また、アブゾール用の洗剤として、「ゲンブクリーンVNS」(商品名:ゲンブ株式会社製、化学名:界面活性剤・1−ブロモプロパン配合物:界面活性剤(カチオン系,ノニオン系など)、1―ブロモプロパン、イソプロピルアルコールを含む)を用いた。
【0049】
【表4】

【0050】
試験手順は前述の溶剤単独洗浄試験と同様とした。
試験結果を表5に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
これらの結果からアブゾール、パークロ共に表3の溶剤単独洗浄試験の1回目洗浄効率と比較すると多少向上している。一方、ブランクの服地への洗浄時のPCB付着は溶剤単独洗浄時と殆ど変わらないことが判明した。
なお、洗剤の効果は添加量にも左右されることと、溶剤単独では汗などの水溶性汚れは除去できないことから、最終的には実際の汚染作業服洗浄の要望に応じて適宜添加するようにすればよいことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる汚染物洗濯装置は、洗濯の途中において、洗浄液中の有害物質の濃度を計測することで、除染の有無が確認でき、常に洗濯物が完全に有害物を除染したことを確認しつつ洗濯することができ、有害物質等に汚染された例えば作業服等の再生に用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態の汚染物洗濯装置の概略式図である。
【図2】本実施の形態にかかるPCB汚染作業服の除染の工程図である。
【図3】水熱酸化分解装置の概要図である。
【符号の説明】
【0055】
11 汚染物洗濯装置
12 汚染物付着被洗濯物
13 第1の洗濯装置
14 被洗濯物
15 清澄洗浄液
16 第2の洗濯装置
17a 洗浄液
17b 汚染洗浄液
18 洗浄液タンク
19 有害物質濃度計測装置
20 汚染洗浄液タンク
21 再生洗浄液
22 洗浄液再生装置
23 清澄洗浄液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質が付着した汚染物を洗浄液で洗濯する第1の洗濯装置と、
前記第1の洗濯装置で洗濯された被洗濯物を清澄洗浄液で洗濯する第2の洗濯装置と、
前記第2の洗濯装置で使用した洗浄液を貯留する洗浄液タンクと、
前記洗浄液タンク内の有害物質濃度を計測する有害物質濃度計測装置と、
前記洗浄液タンクからの洗浄液を第1の洗濯装置で使用してなると共に、第1の洗濯装置で使用した洗浄液を再生して清澄洗浄液とする洗浄液再生装置とを具備することを特徴とする汚染物洗濯装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記有害物質がPCBであることを特徴とする汚染物洗濯装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記洗浄液がPCBを溶解する溶剤と洗剤とからなることを特徴とする汚染物洗濯装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記溶剤が塩素系溶剤、アルコール系溶剤又は臭素系溶剤のいずれか一種であることを特徴とする汚染物洗濯装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記第1の洗濯装置と第2の洗濯装置が共用してなることを特徴とする汚染物洗濯装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つの汚染物洗濯装置を用い、前記第2の洗濯装置で使用した洗浄液の有害物質濃度を計測し、汚染物の清浄化を判定することを特徴とする汚染物洗濯方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記判定の結果、有害物質が残留する場合には、再度洗濯することを特徴とする汚染物洗濯方法。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記有害物質がPCBであることを特徴とする汚染物洗濯方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一つにおいて、
前記洗浄液がPCBを溶解する溶剤と洗剤とからなることを特徴とする汚染物洗濯方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記溶剤が塩素系溶剤、アルコール系溶剤又は臭素系溶剤のいずれか一種であることを特徴とする汚染物洗濯方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−319(P2006−319A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178899(P2004−178899)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】