説明

汚染物質の分析方法及び捕集器

【課題】半導体素子の製造工程における雰囲気の環境の汚染物質を調べるだけではなく、光化学反応による生成物を調べるために、実際に半導体露光装置で暴露されている環境下でフォトマスクのごく近傍の雰囲気の汚染物質を調べる分析方法及び捕集器を提供する。
【解決手段】捕集材料として常温環境において不揮発性の高分子膜11を使用して、フォトマスク保管、使用環境のフォトマスク近傍の雰囲気における汚染物質を捕集するために、フォトマスクのサイズ同様のフレーム型の治具であるフレーム12に高分子膜11を固定し捕集器10を作成する。この捕集器10をフォトマスクの保管、使用環境に放置し捕集を行い、次に、これを脱離して分析すれば雰囲気中の汚染物質を判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造環境における汚染物質を分析する分析方法及びこの汚染物質を簡単に捕集する捕集器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子における製造工程における環境・雰囲気のクリーン度への要求は、半導体素子の微細化に伴いますます厳しくなっている。半導体素子の微細化が進むにつれて、半導体素子を生産する工程は、より高度な清浄空間が必要になってきていて、クリーン度への要求は、さらに強化される。
例えば、フォトリソグラフィ工程に用いるフォトマスクに異物が付着したり形成されたりすると、パターン転写先であるウェーハ上に誤ったパターンが転写されてしまう。これにより、半導体素子で、フォトマスクに生じた異物に起因する回路間のショートや回路の断線等の欠陥が生ずる。そこで、フォトマスクに直接異物が付着しないように、フォトマスクを保護する、いわゆるペリクルが用いられている。
しかし、更に、粒子状汚染物質に加えてガス状汚染物質の低減も必要になっている。特に、近年における短波長を用いるフォトリソグラフィ工程を有する半導体素子の製造工程においては、フォトマスク使用環境のクリーン度は重要である。フォトマスクのペリクル内部の雰囲気中の汚染物質は、ペリクル膜における外部と内部の圧力差によりペリクルに設けられた気圧調整のための通気孔およびペリクル膜そのものを透過して吸排気されるために、大気中に含まれる亜硫酸ガスやアンモニア等を完全に除去することは困難である。また、ペリクル膜をペリクルフレームに貼り付けるための接着剤や粘着剤、ニトロセルロース、フッ素樹脂などの薄膜で形成されたペリクル膜自身からの放出された汚染物質がペリクルの内部空間に放出される。これらを完全に除去することは非常に困難である。
【0003】
さらに、近年、半導体素子の微細化により、フォトリソグラフィ工程においては、露光に用いる光源の短波長化が進んでおり、短波長で紫外線領域の光を発生させるKrFエキシマレーザ(248nm)、ArFエキシマレーザ(193nm)及びF2レーザ(157nm)を用いた場合には、その光エネルギが高いためにペリクルの内部空間における汚染物質を、照射される紫外線をエネルギとして光化学反応させて、ヘイズ(HAZE)と呼ばれる反応性異物が生成され、半導体素子の生産性を低下させる要因となっている(非特許文献1、非特許文献2)。
この反応性異物は、露光用に照射された紫外線の積算照射量によって成長したり分解されたりする。また、中にはほとんど変化しないものもある。さらに、この紫外線の積算照射量によって異物の透過率や反射率も変化する。すなわち、紫外線の積算照射量により成長する反応性異物は、ペリクル内部空間の雰囲気中に存在する亜硫酸ガスやアンモニアなどの活性ガスに高エネルギの紫外線が照射されることに起因するもの、あるいはフォトマスクの洗浄工程で使用する洗浄液の残留硫酸イオンや残留硝酸イオンに起因するものがある。
【0004】
このために、レチクルのペリクル内部で、どうのようなガス、汚染物質によって反応性異物が生成されるのかを詳細に調べることが重要である。
一般に、雰囲気中に存在する有機物を調べるには、活性炭などの捕集材を詰めた捕集管を用いた捕集方法や、一定時間ウェーハを放置して汚染物質をウェーハに吸着させる捕集方法などが用いられてきた。具体的には、例えば、特許文献1では、空気中の半導体汚染物質を捕集する方法において、吸着物質としてシリコン粉末を充填したサンプリング管に空気を通過させて捕集する半導体汚染物質の捕集装置が開示されている。また、特許文献2では、ウェーハ表面に強制的に空気を送り込み捕集する半導体汚染物質の捕集装置を用い、更に、昇温脱離ガスクロマトグラフ質量分析する分析方法が開示されている。特許文献3では、1又は複数の貫通孔と、前記貫通孔毎にサポート部とを有する試料用ウェーハ片保持治具本体に試料用半導体ウェーハ片を収容し、前記試料用半導体ウェーハ片保持治具本体を評価すべき半導体ウェーハ収納容器内に収納して所定時間放置した後、前記試料用半導体ウェーハ片表面に吸着ないし付着して捕集された汚染物質を測定することにより前記半導体ウェーハ収納容器内の局所的な汚染状態を評価する評価方法が開示されている。特許文献4では、基板搬送容器に袋体を該開口部が該袋体で外気と遮断されるように装着した後、前記蓋体による該開口部の閉塞状態を解除して該容器本体内部空間と該袋体内部とを連通させ、該袋体に設けられたガス導入孔から不活性ガスを前記容器本体内に導入しながら、該袋体に設けられたガス排出口から排出される排出ガスを捕集し、該排出ガス中の汚染物質を分析する評価方法が開示されている。特許文献5では、光学素子の周囲の空間を含む雰囲気の不純物の濃度を検出する検出器を有することを特徴とする光学装置と、前記光学装置によりデバイスパターンで前記ウェーハを露光する段階と、該露光したウェーハを現像する段階とを有するデバイス製造方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−160299
【特許文献2】特開2000−028596
【特許文献3】特開2004−340685
【特許文献4】特開2006−234608
【特許文献5】特開2001−110698
【非特許文献1】「Investigation of reticle defectformation at DUV lithography」, SPIE, Vol.4889, p.478-487, Dec 2002
【非特許文献2】「Reticle surface contaminants and theirrelationship to sub-pellicle defect formation」, SPIE, Vol.5375, p.355-362, May2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の雰囲気中の汚染物質の捕集方法では、捕集機材の設置場所に特別な処理をする必要があり、設置場所に制限があった。また、フォトマスクに発生する反応性異物には、フォトマスクを放置しておくだけで発生するものと、光化学反応を伴い時間経過の中で反応性異物が徐々に形成されていくものがある。したがって、従来の方法では、上述のように設置場所に制限があり、また、ペリクル膜の内外での異なる環境、一定の環境の中で時間経過、露光条件等の異なる場合の反応性異物の発生状況等のように、実際に使用される環境のごく近傍の汚染物質を調べることは困難であった。
【0007】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、単にフォトマスクを保管、使用されている雰囲気の環境の汚染状態を調べるだけではなく、光化学反応による生成物を調べるために、実際に半導体露光装置で暴露されている環境下でフォトマスクのごく近傍の雰囲気の汚染物質を調べる分析方法及び捕集器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する手段である本発明の特徴を以下に挙げる。
本発明は、主にフォトマスクの保管環境、使用環境のフォトマスク近傍の雰囲気の汚染物質の捕集及び実際に半導体素子製造の際使用される暴露環境下での光化学反応による生成物を捕集して分析する汚染物質の分析方法及び生成物を捕集する捕集器である。
具体的には、捕集材料として常温環境において不揮発性の高分子膜を使用して、フォトマスク保管、使用環境のフォトマスク近傍の大気汚染物質を捕集するために、フォトマスクのサイズ同様のフレーム型の治具に高分子膜を固定し捕集器を作成する。この捕集器をフォトマスクの保管、使用環境に放置し捕集を行い、次に、これを脱離して分析すれば雰囲気中の汚染物質を判別することができる。
また、透過率90%以上で、常温で不揮発性の高分子膜を使用して捕集器を作成し、半導体露光装置のレチクルステージに乗せ、実際の半導体製造と同様に暴露処理を行えば、フォトマスク暴露環境下でのフォトマスク近傍の雰囲気状態を擬似的に作り出し、実際のフォトマスク暴露時に光化学反応によりフォトマスク近傍に発生する生成物を捕集して、分析する。これによって、反応性異物が生成する汚染物質の特定、生成するまでの過程を解析することができる。
また、捕集器は、フォトマスクに用いるペリクルフレームに、一定の環境下で不揮発性であって、透明性の高い非晶質(アモルファス)樹脂を用いる。とくに、透明性が高く、表面エネルギが低く、吸着した汚染物質を脱離しやすいフッ素系のペルフルオロ樹脂が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の汚染物質の分析方法では、半導体露光装置のフォトマスク暴露環境下におけるフォトマスクのごく近傍での雰囲気において、従来に比べて容易に且つより効率的に雰囲気中の汚染物質を分析することが可能である。
本発明の捕集器では、従来できなかった半導体露光装置のフォトマスク暴露環境下におけるフォトマスクのごく近傍での雰囲気における汚染物質を捕集することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の汚染物質の分析方法では、光透過性の高分子膜11を有する捕集器10に汚染物質を吸着させる吸着工程と、前記捕集器10の高分子膜11から汚染物質を分離して、分析する分析工程とを有する。
図1は、本発明の捕集器の構造を示す概略図である。図1に示すように、捕集器10は、ペリクルフレームと同様のフレーム13と、高分子膜11と、これらを接合させるネジ3によって構成されている。
吸着工程は、フォトマスクのペリクルと透明性基板のパターン面とで形成される内部空間に存在する汚染物質を、フォトマスクが用いられるのと同じ工程に用いることで、捕集器10の高分子膜11に実際の半導体素子の製造工程に存在する汚染物質を吸着させる。このために、捕集器10は、汚染物質を吸着させる高い光透過性を有する高分子膜11が設けられている。この捕集器10は、半導体素子の製造工程で用いられるフォトマスクと同様に、保管、搬送できるような大きさ、形状にして、フォトマスクと同じ汚染物質の存在する環境下に配置する。さらに、半導体素子の製造工程で、フォトマスクと同様の雰囲気を形成するために、フォトマスクで用いるペリクル膜と同様に、光透過性の高い高分子膜11を用いる。
次に、捕集器10を回収して、高分子膜11に吸着したガス等の汚染物質を脱離させて分離し、これを分析する分析工程を行う。分析装置及び分析方法を、特に、限定しないが、高分子膜表面に吸着した汚染物質は非常に微量であり、そのままの状態で分析する表面分析、透過させて分析する透過分析は困難であり、分離して濃縮して測定する分析方法が適している。特に、ガスクロマトグラフィー分析方法(GC−MS)を用いる。ガスクロマトグラフィー分析方法(GC−MS)は、分離した汚染物質を含有するキャリアガスを通気し、多孔性高分子系吸着剤あるいはグラファイトカーボン系吸着剤が充填された捕集管を捕集装置として用い、捕集した物質の定性・定量する。キャリアガスとしては、Arガスの他、窒素(N2)ガス、ヘリウム(He)ガス等の不活性ガスを用いてもよい。加熱温度は、高分子膜11の表面に付着している汚染物質が分解しない、例えば100℃〜300℃の範囲とすることが好ましい。
【0011】
フレーム13は、材質を特に限定しないが、半導体素子の製造に用いるフォトマスクに用いられるペリクルフレームと同じ材質のものを用いる。材質としては、表面を陽極酸化処理したアルミニウム合金を用いる。
高分子膜11としては、周囲の雰囲気中にある汚染物質を吸着させることができる材質を用い、かつ、ペリクル膜と同様の、光透過性の高い材質を用いる。特に、ArFエキシマレーザの波長であるλ=193nmにおける光透過性が高いことが好ましく、具体的には、90%以上の透過率を有する。さらに、99%以上の透過率を有することがいっそう好ましい。これは、実際のフォトマスクと同じ環境雰囲気を形成するためであり、さらに、短時間の間に反応性異物を形成することができるようにするためである。
また、50℃以下の温度の環境下で高分子膜11から汚染物質として揮発性物質を揮発させない材質を用いる。揮発性物質としては、高分子膜11を合成するときの溶媒、モノマー、その他の重合開始剤、添加される可塑剤等の低分子量成分を挙げることができる。これらが、高分子膜11から揮発すると、通常は、半導体素子の製造工程で存在しない揮発性の物質が存在することで、反応性異物の成長が促進・抑制されると、実際の半導体素子の製造工程と異なる反応になって、分析する意味が無くなる。
【0012】
また、汚染物質を吸着させる高分子膜11は、具体的には、ニトロセルロース、フッ素樹脂が好ましい。これは、透明性が高く、また、化学的に安定で揮発性物質を放出することが少ない。特に、非晶質のフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂は表面エネルギが小さいために汚染物質を脱離しやすい。
また、結晶性樹脂は、同じフッ素系樹脂の中で考えると、透明性が低い。結晶性の高い樹脂ではなく、非晶質のフッ素樹脂にすることで、透明性を高くすることができた。さらに、非晶質の方が、柔軟性があり、また、温度変化による収縮率が小さく、そりも少ないという利点がある。
具体的には、ポリテトラフルオロエチレン系共重合体(以下、PTFEという。)とペルフルオロ(ω−ビニルオキシ−1−アルケン)をラジカル環化重合することで得られる非晶質なペルフルオロ樹脂を用いる。波長200から1500nmにおいて現在知られている有機光学材料の中で最も透明性が高い。また、その厚さは1100nm以下にする。
このような捕集器10にすることで、この捕集器10を擬似的にフォトマスクそのものと見立てることができ、フォトマスクの使用、保管環境であればフォトマスクと同じように搬送、保管、処理することが可能である。従って、このような捕集器10を実際の半導体露光装置で保持し、暴露を行なえば、実際にフォトマスクを使用して半導体素子の製造を行なっている環境を擬似的に作り出すことが可能である。
しかしながら、本発明は、図1の構造に必ずしも限定するものではなく、捕集器10のサイズや高分子膜11の種類、フレーム13の材質は任意である。
【0013】
この高分子膜11を備える捕集器10は、半導体素子の製造工程で、フォトマスクと同様に、搬送、露光等の処理を行うことができる。図2は、半導体素子の製造工程を簡単に示すフローチャートである。最初に、設計工程で、使用・特性に合わせた半導体素子の回路設計を行なう(ステップS1)。マスク製作・保管工程では、回路設計の設計パターンに基づいてフォトマスクを製作し、そのフォトマスクを実際に用いるまで保管するする(ステップS2)。一方、ウェーハ製造工程では、シリコン等の材料を用いて半導体素子の基板となるウェーハを製造する(ステップS3)。次に、ウェーハ処理工程で、フォトマスクとウェーハを用いて、リソグラフィー技術によってウェーハ上に実際の回路を形成する(ステップS4)。次に、組立工程では、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の組立て工程を含むもので、作製されたウェーハを用いて半導体チップ化する(ステップS5)。検査工程では、製造された半導体素子の動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行なう(ステップS6)。こうした工程を経て半導体素子が完成し、これを出荷する(ステップS7)。したがって、フォトマスクが半導体素子の生産に影響を与えるのは、マスク製作・保管工程(ステップS2)とウェーハ製造工程(ステップS4)である。
【0014】
このために、捕集器10は、半導体素子の製造工程の中では、一つとしてフォトマスクの製作・保管工程で汚染物質の捕集・分析に用いられる。フォトマスクは、フォトマスクストッカーにそのまま保管されるかケースに入れて保管されているが、このフォトマスクストッカーは、クリーンルーム内の空気、フィルタを通過したクリーンエア、不活性ガスを吸排気することで雰囲気を形成しているが、フォトマスクのペリクル内部空間の全ての雰囲気を吸排気することは困難であり、また、汚染物質は、ペリクルに用いられる接着剤等の内部から時間経過に伴ってペリクル内部空間の雰囲気中に排出されるものもあって、全ての汚染物質を排出することは困難である。そこで、このフォトマスクストッカー内に存在する汚染物質を捕集器10の高分子膜11に吸着させて分析する。
【0015】
さらに、捕集器10は、半導体素子の製造工程の中でウェーハ製造工程で汚染物質の捕集・分析に用いられ、特に、ウェーハ製造工程の中でも、フォトマスクを用いて露光する工程に適用される。図3は、半導体素子の製造工程における半導体露光工程で、捕集器を用いて捕集する状態を説明するための概略図である。
図3(1)の露光装置20では、光源21であるArFエキシマレーザ光源から出射された紫外線22は、反射ミラー23により進行方向が変更されて、ウェーハステージ26に向けて照射される。反射ミラー23とウェーハステージ26の間には、フォトマスクを載置するレチクルステージ24と、光を集光するレンズ群25が順に配置されている。エキシマレーザ光源21からの紫外線22は、フォトマスク、レンズ群を通ってレジストが塗布されたウェーハ30に照射され、これによりフォトマスクのパターンがウェーハ30に転写されることになる。このときに、より微細な半導体素子のパターンを形成するために、波長の短い紫外線22を照射する。この紫外線22は、生産効率を高めるために高エネルギのものを用いている。特に、ArFエキシマレーザ光源は、波長193nmの光にピークを有する紫外線を発生させる。これを、フォトマスクに照射して、ウェーハ30上に45nmデザインルールの微細な半導体素子のパターン形成が行うことができる。
【0016】
このときに、露光装置20にフォトマスクの代わりに捕集器10を配置する。この捕集器10に、同様に、ArFエキシマレーザ光源の紫外線を照射することで、高分子膜内の内部空間に存在する汚染物質が反応して、高分子膜11の表面に反応性異物を形成する。
図3(2)は、半導体露光装置内におかれた捕集器の断面を示す斜視図である。フレーム13と高分子膜11とで形成する内部空間に存在する。この内部空間で、汚染物質同士が紫外線22のエネルギで反応して中間的な生成物、最終的には反応性異物は発生する。捕集器10は、レチクルステージ24へフォトマスクと同様に自動搬送される。この捕集器10を通常の半導体露光作業と同じく紫外線を暴露することにより、半導体露光装置20での暴露環境下におけるフォトマスク近傍の雰囲気の汚染物質及び光化学反応により発生する生成物、反応性異物を捕集することが可能である。また、紫外線へ暴露せずに同様のことを行えば、半導体露光工程におけるフォトマスク使用環境のフォトマスク近傍での雰囲気の汚染物質のみを捕集することができる。
【0017】
図4は、フォトマスクに反応性異物が発生する状況を説明するための概略図である。汚染物質が存在している場所で、高エネルギの紫外線22がフォトマスク40に照射されることで、光化学反応を引き起こし、硫酸アンモニウム等の生成物が形成され、これらが分解と凝集を繰り返し成長していわゆる反応性異物45が透明性基板41上へ析出する。ここでフォトマスク40に照射される紫外線22は、ブラインド27により照射範囲が限定される。また、フォトマスク40上の反応性異物45(452)はパターンのないガラス面に発生していることを示す。次に、反応性異物45(451)は、フォトマスク40のパターン44が存在するパターン面に発生していることを示すこれらは、同時に発生することもあれば、一方が先に発生しもう一方が後に発生することもある。また、パターン面の反応性異物45(451)は、パターン44同士をつなぐ様に成長することがあり、これが、ウェーハに転写されると、回路、配線等が接続した配線パターンがウェーハに形成されることになり、半導体素子の欠陥になる。したがって、ペリクル膜42の内外での反応性異物45の発生・成長の状況が異なることから両方を同時に分析することが重要である。
【0018】
図5は、高分子膜を2枚用いた捕集器の構造を示す概略図である。図5(2)に示すように、捕集器10は、3つのフレーム13a、13b、13cと、2枚の高分子膜11、12と、これらを接合させるネジ3によって構成されている。これをネジで接合することで、図5(1)に示すように、一体となった捕集器10になる。このような構造の捕集器10を作成することにより、第一の高分子膜11と第二の高分子膜12を個別に分析することが可能である。
さらに、図6は、図5の断面図であって、高分子膜11、12が雰囲気中の汚染物質を吸着する状態を模式的に示している概略図である。捕集器10をフォトマスクと同様の扱いでレチクルステージ24へ搬送する。次に、フォトマスク40のパターン面に光が収束するように焦点をフォーカスして、捕集器10を紫外線22で暴露するこのときに、下部のレチクルステージ24側の高分子膜11には、レチクルステージ24側の雰囲気で紫外線22の暴露により発生する汚染物質が吸着される。また、上部の光源側の高分子膜12には、光源側の雰囲気で紫外線22の暴露により発生する汚染物質が吸着される。したがって、この捕集器10を紫外線で暴露することで、レチクルステージ24側と紫外線22の光源側での光化学反応により発生する汚染物質を個々に切り分けて捕集することができる。
捕集したレチクルステージ24側の高分子膜11と、紫外線22の光源側の高分子膜12を個々に分析することで、実際に使用されるフォトマスクのパターン面側(レチクルステージ24側)と裏面側(紫外線22の光源側)それぞれの雰囲気における汚染物質を容易に分析することができる。
【0019】
図7は、高分子膜を4枚用いた捕集器の構造を示す概略図である。図7(2)に示すように、捕集器10は、2つのフレーム13d、13eと、4枚の高分子膜11a、11b、11c、11dと、これらを接合させるネジ3によって構成されている。これをネジで接合することで、図7(1)に示すように、一体となった捕集器10になる。このような構造の捕集器10を作成することにより、第一の高分子膜11a、第二の高分子膜11b、第三の高分子膜11c、第四の高分子膜11dを個別に分析することが可能である。
このように高分子膜を独立にすることで、異なった雰囲気に曝されていた高分子膜を同時に紫外線で暴露することが可能となる。

図7に示すように、例えば、異なった雰囲気A、B、C、Dで一定期間保管された高分子膜11a、11b、11c、11dを多面開口フレーム13に保持させる。この捕集器10を、半導体露光装置のレチクルステージへ搬送し、一度に紫外線を暴露する。暴露後、高分子膜11a、11b、11c、11dを個々に分析を行う。暴露の有無による高分子膜11a、11b、11c、11dの分析結果の違いを比較することにより、光化学反応しやすい汚染物質の特定や改善すべき雰囲気の特定を安易に行なうことが可能である。
異なった雰囲気として、例えば、同じフォトマスクストッカーで、高分子膜11a、11b、11c、11dの区切られた部分に、保護カバーを設けて、雰囲気に暴露時間を調整し、フォトマスクの保存期間・貯蔵期間に対する許容範囲を決めるための分析にも用いることができる。
さらに、同じ雰囲気で一定期間保管された高分子膜11a、11b、11c、11dを多面開口フレーム13に保持させる。この捕集器10を、半導体露光装置のレチクルステージへ搬送し、ブラインド27を用いて、区切られた高分子膜に11a、11b、11c、11dに紫外線の波長、強度、時間を変えながら暴露する。これによって、同じ雰囲気に置かれた場合の反応性異物の発生状態を分析することができる。
捕集器10の高分子膜11が複数に区切られていて、それぞれの区切られた箇所で異なる環境の汚染物質を吸着させることで、光化学反応しやすい汚染物質の特定や改善すべき雰囲気の特定を安易に行なうことが可能である。
【実施例】
【0020】
捕集器における高分子膜を保持するためのフレームとしては、陽極酸化処理(アルマイト処理)されたアルミニウム製のフレームを用い、フレームの一辺の長さを152.0±0.4mm、フレームの平面度を1.0μmP−Pとして、6025型のフォトマスクと同様のサイズにした。
また、高分子膜としては、非晶質フッ素樹脂(サイトップ[商品名]、紫外線高透過性/良離型性グレードS:旭硝子(株)社製)を用いて、膜厚830nmの高分子膜を用いた。このフッ素樹脂の化学構造を以下に示す。
【化1】


高分子膜とフレームの固定は、ネジを用いてネジ留めで行なった。
この捕集器では、λ=193nmの波長を99%以上透過することができた。
【0021】
捕集器を用いて、半導体装置露光装置内に載置し、雰囲気中の汚染物質の捕集を行なった。このときに、露光装置を特に、紫外線を暴露しなかった。一定時間経過後、捕集器を回収し、捕集した高分子膜を加熱した。真空容器中で、加熱ヒータを用いて、高分子膜を130℃2.5分間に加熱して、ポンプにより10mL/minの流速で、キャリアガスとしてHeを真空容器中に導入した。
さらに、真空容器に連結している捕集容器内の捕集剤に導き、汚染物質を回収・固定した。捕集剤に回収された汚染物質をn−ヘキサン溶液1mlで抽出し、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)装置を用いて定性定量分析を行った。
このときに、比較のために、従来のウェーハ放置での汚染物質の捕集も同様の手順で行った。ただし、加熱条件は400℃30分とした。
【0022】
表1は、その結果を示すもので、単位面積あたりの有機化合物吸着量と雰囲気中への載置時間を示したものである。単位面積あたりの有機化合物吸着量は、ウェーハ放置での汚染物質の捕集量を1として規格化した。

【表1】


表1からも明らかなように、アモルファスフッ素樹脂の方が、短い時間で、13倍の有機化合物を捕集することができた。従来の分析方法に比べ、より短時間で且つより多くの有機化合物を捕集できていることが分かる
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明した。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、この特許請求の範囲を限定するものではない。なお、本発明に係る特徴を以下を開示する。
(付記1)
本発明の汚染物質の分析方法は、雰囲気中に含まれる汚染物質を捕集して分析する汚染物質の分析方法において、光透過性の高分子膜を有する捕集器を露光装置に装着する工程と、前記高分子膜に露光光を照射する工程と、前記捕集器の高分子膜に吸着した汚染物質を分析する分析工程とを有することを特徴とする。
(付記2)
本発明の汚染物質の分析方法は、付記1において、前記捕集器は、前記高分子膜が、50℃以下の環境下で不揮発性であって、かつ、λ=193nmの波長の透過率が、90%以上であることを特徴とする。
(付記3)
本発明の汚染物質の分析方法は、付記2において、前記高分子膜が、非晶質のフッ素樹脂であることを特徴とする。
(付記4)
本発明の汚染物質の分析方法は、付記1において、前記吸着工程が、複数に区切られた前記高分子膜を配置して、それぞれの区切られた箇所で、異なる環境の汚染物質を吸着させることを特徴とする。
(付記5)
本発明の汚染物質の分析方法は、付記1において、前記半導体素子の製造工程は、フォトマスクを用いる露光工程であることを特徴とする。
(付記6)
本発明の汚染物質の分析方法は、付記1において、前記高分子膜を2枚にした捕集器を用いて、フォトマスク暴露時の光源側、レチクルステージ側の汚染物質を個別に捕集する
ことを特徴とする。
(付記7) 本発明の汚染物質の分析方法は、付記1において、前記分析工程が、高分子膜を加熱して汚染物質を分離して、分析することを特徴とする。
(付記8)
本発明の汚染物質の分析方法は、付記7において、前記分析工程が、汚染物質をガスクロマトグラフィーで分析することを特徴とする。
(付記9)
本発明の捕集器は、半導体素子の製造工程における雰囲気中に含まれる汚染物質を捕集する捕集器において、前記捕集器は、光透過性の高分子膜に吸着させて捕集することを特徴とする。
(付記10)
本発明の捕集器は、付記9において、前記高分子膜が、50℃以下の環境下で不揮発性であって、かつ、λ=193nmの波長の透過率が、90%以上であることを特徴とする。
(付記11)
本発明の捕集器は、付記10において、前記高分子膜は、非晶質のフッ素樹脂であることを特徴とする。
(付記12)
本発明の捕集器は、付記11において、前記フッ素樹脂は、ペルフルオロ樹脂であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の捕集器の構造を示す概略図である。
【図2】半導体素子の製造工程を簡単に示すフローチャートである。
【図3】半導体素子の製造工程における半導体露光工程で、捕集器を用いて捕集する状態を説明するための概略図である。
【図4】フォトマスクに反応性異物が発生する状況を説明するための概略図である。
【図5】高分子膜を2枚用いた捕集器の構造を示す概略図である。
【図6】図4の断面図であって、反応性異物が成長している状態を模式的に示している概略図である。
【図7】高分子膜を複数の箇所に区切って設けられている捕集器の構造を示す概略図である。
【符号の説明】
【0025】
10 捕集器
11、12 高分子膜
13 フレーム
14 多面開口フレーム
15 ネジ
20 半導体露光装置
21 光源
22 露光光(紫外線)
23 ミラー
24 レチクルステージ
25 レンズ群
26 ウェーハステージ
27 ブラインド
30 ウェーハ
40 フォトマスク
41 透明性基板
42 ペリクル膜
43 ペリクルフレーム
44 パターン
45 反応性異物
451 パターン面反応性異物
452 ガラス面反応性異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の製造工程における雰囲気中に含まれる汚染物質を捕集して分析する汚染物質の分析方法において、
光透過性の高分子膜を有する捕集器を露光装置に装着する工程と、
前記高分子膜に露光光を照射する工程と、
前記捕集器の高分子膜に吸着した汚染物質を分析する分析工程とを有する
ことを特徴とする汚染物質の分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の汚染物質の分析方法において、
前記高分子膜は、非晶質のフッ素樹脂である
ことを特徴とする汚染物質の分析方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の汚染物質の分析方法において、
前記吸着工程が、捕集器の高分子膜が複数に区切られていて、それぞれの区切られた箇所で異なる環境の汚染物質を吸着させる
ことを特徴とする汚染物質の分析方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の汚染物質の分析方法において、
前記高分子膜が、50℃以下の環境下で不揮発性であって、かつ、λ=193nmの波長の透過率が、90%以上である
ことを特徴とする汚染物質の分析方法。
【請求項5】
露光工程での雰囲気中汚染物質を捕集する捕集器において、
前記捕集器は、前記雰囲気中汚染物質の吸着部として光透過性の高分子膜を有することを特徴とする捕集器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−8474(P2009−8474A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168859(P2007−168859)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】