説明

汚染物質の拡散防止装置および拡散防止システム

【課題】隣接して配置されたダーティエリアとクリーンエリアとの間において、ダーティエリアからクリーンエリアへ汚染物質が拡散するのを防止する。
【解決手段】ダーティエリア11とクリーンエリア10を遮断する方向に向けて、水平な空気流を上下方向に連続して吹き出すスリット状吹き出し口22と、スリット状吹き出し口22と対向して配置された、上下方向に連続して空気を吸引するスリット状吸い込み口23と、スリット状吸い込み口23で吸引された空気をスリット状吹き出し口22に送る空気流路25と、空気流路25に設けられたファン26およびフィルタ27を有し、上から見た状態において、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流の中心軸22’の指向位置に対して、スリット状吸い込み口23の中心軸23’がずれて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接して配置されたダーティエリアとクリーンエリアとの間において、ダーティエリアからクリーンエリアへ粉塵などの汚染物質が拡散するのを防止する装置とシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の製造工場では、塗装の前処理としてダストオフ等を行った車体を待機させる待機ブースと、車体に対して塗装を行う塗装ブースが隣接して配置されている。かかる場合、塗装ミストが塗装ブース外へ流れ込むため、待機ブースを汚染する。よって、塗装ブースを汚染源(ダーティエリア)と見なすことができる。また、待機ブースに塗装ミストが蓄積されると肥大化したゴミが車体に落下し、塗装前の欠陥(ゴミブツ)を発生させることとなる。よって塗装ミストは、塗装欠陥を引き起こす要因となっており、汚染物質と見なすことができる。そのため、塗装前の車体を待機させている待機ブースは、汚染物質(塗装ミスト)の飛散が実質的に制限されたクリーンエリアに保たれることが要求される。そこで、このように塗装ブースなどのダーティエリアと待機ブースなどのクリーンエリアが隣接して配置されている場合は、例えばエアーカーテンなどによって各エリア間を仕切る方策が採られている。
【0003】
従来、例えば特許文献1には、塗装ブースの出入口に天井面から床に向かって加圧した空気を吹出すエアーカーテンを設け、吹出し噴流が床面に当ることで、塗装ブース内気流と塗装ブース外気流とに分流させる技術が開示されている。塗装ブース内気流は、塗装ブースからの粉体塗料などの汚染物質(塗装ミスト)の流出を防止し、塗装ブース外気流は、塗装ブース外からの汚染物質(ゴミ、塵埃等)の流入を防止する。これにより、塗装ブースからの汚染物質(塗装ミスト)の漏洩や塗装ブースへの汚染物質(ゴミ、塵埃等)の浸入を阻止する。
【0004】
また一般に、エアーカーテンは、例えば温度差のある隣接した空間、特に室内と室外の空気の流れを防止するに適用されており、その気流は上下方向と水平方向のいずれも知られている。例えば特許文献2には、風除室において、水平方向に気流を設け、かつ開口の前後2箇所にエアーカーテンを設け室内と室外の間に気流が循環する中間層を設けることで、1つのエアーカーテン前後の温度差を緩和し室内外の空気の流れを低減する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−5050号公報
【特許文献2】特開2007−10237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の発明では、塗装ブースからの汚染物質(塗装ミスト)の漏洩、塗装ブースへの汚染物質(ゴミ、塵埃等)の流入を防止するためにエアーカーテンを利用している。しかし、吹出し噴流が床面に到達する過程において廻りの空気を誘引するため、床面で分流した空気には、塗装ブース内に浮遊している汚染物質(塗装ミスト)や塗装ブース外に浮遊している汚染物質(ゴミ、塵埃等)が混入する可能性があり、その混入した汚染物質が分流時に塗装ブース内外に拡散する。特に、エアーカーテンの吹出し噴流が当たる位置を車体が通過する際には、車体廻りの気流が乱れるため、汚染物質が塗装ブース内外に拡散する可能性が高まる。塗装ブース内においては、塗装ミストは天井面から床面に向かって整流化された流れにのって除外されるが、塗装ブース前の搬送経路においては、除外されず、内壁に付着することとなる。蓄積された塗装ミストは、肥大化したゴミとなり、車体表面に落下付着し、塗装欠陥(ゴミブツ)を引き起こす。
【0006】
また、特許文献1の発明では、塗装ブースに用いるエアーカーテンの気流が上下方向に定められていた。この理由は、塗装ブース内の空調が天井面吹出し床吸込みの垂直層流方式であり、水平方向の気流はブース内の流れ場を乱すため適用できなかったことによる。
【0007】
一方、特許文献2の発明は、温度差による空気の流れを低減する方法としては有効である。しかし、粉塵等の汚染物質の流出防止に対しては有効ではなく、汚染物質が空気の循環に誘引されてダーティエリアからクリーンエリアへと移動してしまう。
【0008】
本発明の目的は、隣接して配置されたダーティエリアとクリーンエリアとの間において、ダーティエリアからクリーンエリアへ汚染物質が拡散するのを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するために、本発明によれば、ダーティエリアとクリーンエリアとの間において、前記ダーティエリアから前記クリーンエリアへ汚染物質が拡散するのを防止する装置であって、前記ダーティエリアと前記クリーンエリアを遮断する方向に向けて、水平な空気流を上下方向に連続して吹き出すスリット状吹き出し口と、前記スリット状吹き出し口と対向して配置された、上下方向に連続して空気を吸引するスリット状吸い込み口と、前記スリット状吸い込み口で吸引された空気を前記スリット状吹き出し口に送る空気流路と、前記空気流路に設けられたファンおよびフィルタを有し、上から見た状態において、前記スリット状吹き出し口から吹き出される空気流の中心軸の指向位置に対して、前記スリット状吸い込み口の中心軸がずれて配置されていることを特徴とする、汚染物質の拡散防止装置が提供される。
【0010】
この拡散防止装置によれば、スリット状吹き出し口から吹き出した空気流によって、汚染物質をダーティエリア内に閉じ込めると共に、空気流に誘引されて混入した汚染物質をスリット状吸い込み口に吸引させてフィルタで捕捉することができる。これにより、ダーティエリアからクリーンエリアへ汚染物質が拡散するのを防止できるようになる。
【0011】
この拡散防止装置において、上から見た状態において、前記スリット状吹き出し口から吹き出される空気流が湾曲する分、前記スリット状吹き出し口から吹き出される空気流の中心軸の指向位置に対して、前記スリット状吸い込み口の中心軸がずれて配置されていることが望ましい。また、上から見た状態において、前記スリット状吸い込み口の幅が、前記スリット状吹き出し口から吹き出されて前記スリット状吸い込み口に到達した空気流の全体幅以上になっていることが望ましい。また、上から見た状態において、スリット状吹き出し口から吹き出されて前記スリット状吸い込み口に到達した空気流における前記クリーンエリア側の端部が、前記スリット状吸い込み口の前記クリーンエリア側の端部を越えないことが望ましい。
【0012】
また、本発明によれば、ダーティエリアとクリーンエリアとの間に、前記拡散防止装置が設けられた汚染物質の拡散防止システムであって、前記拡散防止装置よりも前記クリーンエリア側の位置に、空気中の汚染物質の粒子個数を測定するパーティクルカウンターが設置され、前記パーティクルカウンターの測定値に基いて前記ファンの稼動が制御されることを特徴とする、汚染物質の拡散防止システムが提供される。
【0013】
この拡散防止システムによれば、クリーンエリアの粒子個数が例えば所定の値を超えたときにファンを運転する発停制御も可能となる。これにより、ファンの運転時間が短縮され、省エネルギーと機器の長寿命化が図れる。さらに、フィルタの交換もしくは洗浄間隔も長くでき、保全費用の削減となる。
【0014】
この拡散防止システムにおいて、前記スリット状吹き出し口と前記スリット状吸い込み口を複数組有していても良い。また、少なくとも前記ダーティエリアから前記クリーンエリアへ空気が流入している高さの範囲には、前記スリット状吹き出し口と前記スリット状吸い込み口を設けるようにしても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ダーティエリアからクリーンエリアへ汚染物質が拡散するのを防止できるので、例えば車体に対して塗装を行う塗装ブースから、塗装前の車体を待機させている待機ブースへの汚染物質(塗装ミスト)の拡散を防止することによって、待機ブース内壁の汚染を防止し、落下ゴミによる塗装欠陥(ゴミブツ)の発生を無くすことができる。これにより、塗装不良を低減でき、歩留り低下を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照にして説明する。図1は、自動車車体の塗装工程ラインに適用した、本発明の実施の形態にかかる拡散防止システム1の説明図である。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
この拡散防止システム1では、塗装前の車体aの待機ブースとなる搬送通路10と、車体aに対して塗装を行う塗装ブース11との間に、汚染物質の拡散防止装置2が設けられている。搬送通路10と塗装ブース11には、車体aを搬送するコンベア12が設置されており、車体aはコンベア12によって搬送通路10から塗装ブース11に順次搬送される。
【0018】
搬送通路10の上流には、塗装の前処理として車体aに向けて空気を吹き付けてダストオフ等を行うダストオフ領域15が形成されている。そして、ダストオフ等を行った車体aがダストオフ領域15から搬送通路10に搬送されて待機させられている。このように、搬送通路10は、塗装の前処理としてダストオフ等を行った車体aを待機させる待機ブースとなっている。そして、こうして搬送通路10に待機させられた車体aは、その後、塗装ブース11に搬入され、塗装ブース11において、車体aに対する塗装工程が行われる。
【0019】
かかる場合、塗装ブース11では汚染物質(塗装ミスト)が飛散しているので、塗装ブース11はダーティエリアとなる。一方、搬送通路10(待機ブース)に汚染物質(塗装ミスト)が入り込むと、除去されることなく内壁に付着、蓄積し、肥大化したゴミが車体に落下し、塗装欠陥(ゴミブツ)なる。そのため、塗装前の車体aを待機させている搬送通路10(待機ブース)は、汚染物質(塗装ミスト)の飛散が実質的に制限されたクリーンエリアに保たれることが要求される。そこで、このように隣接して配置された塗装ブース11(ダーティエリア)と搬送通路10(クリーンエリア)との間に、本発明の実施の形態にかかる拡散防止装置2が設けられている。
【0020】
図2に示すように、拡散防止装置2は、一対の吹き出し部20と吸い込み部21を有している。これら吹き出し部20と吸い込み部21は、コンベア12によって搬送される車体aの左右の一方側に吹き出し部20が配置され、他方側に吸い込み部21が配置されており、コンベア12によって搬送される車体aが、これら吹き出し部20と吸い込み部21の間を通過するようになっている。
【0021】
吹き出し部20の前面(コンベア12によって搬送される車体aに向っている面)には上下方向に連続するスリット状吹き出し口22が設けられており、吸い込み部21の前面(コンベア12によって搬送される車体aに向っている面)には上下方向に連続するスリット状吸い込み口23が設けられている。これらスリット状吹き出し口22とスリット状吸い込み口23が、コンベア12によって搬送される車体aを挟んで向かい合って配置されている。
【0022】
吸い込み部21から吹き出し部20に空気を送る空気流路25が設けられており、この空気流路25には、ファン26およびフィルタ27が設けられている。ファン26の稼動により、フィルタ27で汚染物質を除去された清浄な空気が、吹き出し部20前面のスリット状吹き出し口22から水平な空気流となって車体aに向けて吹き付けられる。この場合、スリット状吹き出し口22は上下方向に連続しているので、吹き出し部20前面のスリット状吹き出し口22からは、ダーティエリアである塗装ブース11とクリーンエリアである搬送通路10を遮断する方向に向けて上下所方向に連続する水平な空気流が吹き出される。
【0023】
一方、吹き出し部20と対向して配置された吸い込み部21では、スリット状吹き出し口22から吹き出されて車体aを通過した後の空気が、吸い込み部21前面のスリット状吸い込み口23に吸い込まれる。こうして、スリット状吸い込み口23に吸い込まれた空気が、フィルタ27で汚染物質を除去された後、吹き出し部20前面のスリット状吹き出し口22から水平な空気流となって車体aに向けて再び吹き付けられる。
【0024】
図3に示すように、上から見た状態において、吹き出し部20前面のスリット状吹き出し口22から吹き出される空気流の中心軸22’の指向位置に対して、吸い込み部21の前面に形成されたスリット状吸い込み口23の中心軸23’が、クリーンエリアである搬送通路10側に距離Xだけずれて配置されている。
【0025】
この場合、図4に示すように、距離Xは、上から見た状態において、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流の湾曲を考慮して決定される(なお、図4では、クリーンエリアである搬送通路10を右側、ダーティエリアである塗装ブース11を左側に示す)。即ち、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流は、スリット状吸い込み口23に到達するまでに、クリーンエリアである搬送通路10とダーティエリアである塗装ブース11との間で発生する気流によって湾曲する。ここで、ダーティエリアとクリーンエリア間の気流とは、両者間に温度差がある場合に生じる温度差換気、風量収支による差圧などによるもので、例えば両者間の温度差および差圧がゼロの場合は、ダーティエリアとクリーンエリア間の気流も無しとなる。そこで、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流が、ダーティエリアとクリーンエリア間の温度差、差圧等によって発生する気流によりクリーンエリア側(搬送通路10側)に距離Xだけずれる場合であれば、この気流による空気流の湾曲を考慮して、上から見た状態において、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流の中心軸22’の指向位置に対して、スリット状吸い込み口23の中心軸23’が、距離Xだけクリーンエリア側(搬送通路10側)にずれて配置される。
【0026】
また、上から見た状態において、スリット状吸い込み口23の幅Dは、スリット状吹き出し口22から吹き出されてスリット状吸い込み口23に到達した空気流の噴流幅Xcを考慮して設定される。即ち、図4に示すように、上から見た状態において、幅Dのスリット状吹き出し口22から吹き出された空気流が、スリット状吸い込み口23に到達した際に噴流幅Xc(スリット状吸い込み口23に到達した際の空気流の全体幅は2Xc)となる場合であれば、スリット状吸い込み口23の幅Dは、空気流の全体幅2Xc以上に設定される。
【0027】
このように、上から見た状態において、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流の中心軸22’の指向位置に対して、スリット状吸い込み口23の中心軸23’が搬送通路10側に距離Xだけずらし、かつ、スリット状吸い込み口23の幅Dを、スリット状吸い込み口23に到達した際の空気流の全体幅は2Xc以上に設定した結果、空気流の中心軸22’の指向位置から、スリット状吸い込み口23のクリーンエリア側(搬送通路10側)の端部までの距離X(ずらし幅X)はX+Xc以上となっている。このようにずらし幅XをX+Xc以上とすることにより、上から見た状態において、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流におけるクリーンエリア側(搬送通路10側)の端部が、スリット状吸い込み口23のクリーンエリア側(搬送通路10側)の端部を越えることがなく、スリット状吹き出し口22から吹き出した空気流が、クリーンエリア側(搬送通路10側)に漏れ出なくなる。
【0028】
さて、以上のように構成された拡散防止システム1において、搬送通路10の上流において、塗装前の車体aに対してダストオフ等が行われる。そして、ダストオフ等を行った車体aがダストオフ領域15を通過した後、搬送通路10に待機させる。その後、塗装ブース11に搬入され、塗装ブース11において、車体aに対する塗装工程が行われる。
【0029】
このように車体aが、搬送通路10(クリーンエリア)から塗装ブース11(ダーティエリア)に搬入されるが、その際、スリット状吹き出し口22から水平な空気流が車体aに向けて上下方向に連続して吹き出される。そして、車体aを通過した空気流は、速やかにスリット状吸い込み口23に吸引され、こうして、搬送通路10(クリーンエリア)と塗装ブース11(ダーティエリア)の間にエアーシールが形成される。
【0030】
この場合、スリット状吹き出し口22とスリット状吸い込み口23を、車体aを挟んで水平方向に対向させて配置させたことにより、搬送通路10(クリーンエリア)と塗装ブース11(ダーティエリア)の間の開口を確実にエアーシールすることができる。即ち、仮にスリット状吹き出し口22とスリット状吸い込み口23を上下に対応させて配置した場合、車体aを搬送するコンベア12によってスリット状吹き出し口22から吹き出された空気流が分断され、汚染物質のの捕集効率が低下してしまう。これに対して、空気流を車体aの横方向から当てることで、コンベア12が邪魔とならず、車体通過時の空気流を遮断する面積が少なくなり、エアーシールが阻害されるのを極力低減することができる。
【0031】
また、先に図3で説明したように、上から見た状態において、空気流の中心軸22’の指向位置から、スリット状吸い込み口23のクリーンエリア側(搬送通路10側)の端部までの距離X(ずらし幅X)がX+Xc以上となっている。これにより、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流におけるクリーンエリア側(搬送通路10側)の端部が、スリット状吸い込み口23のクリーンエリア側(搬送通路10側)の端部を越えないように設定されている。このため、スリット状吹き出し口22から吹き出した空気流が、クリーンエリア側(搬送通路10側)に漏れ出ることがなく、スリット状吹き出し口22から吹き出された空気流に誘引されて混入した汚染物質は、スリット状吸い込み口23に吸引される。これにより、ダーティエリア(塗装ブース11)からクリーンエリア(搬送通路10)へ汚染物質が拡散することを有効に防止できるようになる。
【0032】
この結果、スリット状吹き出し口22から吹き出した空気流によって、汚染物質をダーティエリアである塗装ブース11内に閉じ込めると共に、スリット状吹き出し口22から吹き出した空気流に誘引されて混入した汚染物質をスリット状吸い込み口23に吸引させることができることができる。これにより、ダーティエリアである塗装ブース11からクリーンエリアである搬送通路10へ汚染物質(塗装ミスト)が拡散するのが防止され、内壁への塗装ミストの付着、蓄積による落下ゴミの発生を防止することができる。
【0033】
そして、スリット状吸い込み口23に吸い込まれた空気は、フィルタ27で汚染物質を除去された後、吹き出し部20前面のスリット状吹き出し口22から水平な空気流となって車体aに向けて再び吹き付けられる。この場合、空気流路25(ダクト経路)は短いので、ファン26は少ない送風機動力で足りる。
【0034】
なお、スリット状吸い込み口23の上下方向の幅(高さ)は、スリット状吹き出し口22の上下方向の幅(高さ)よりも大きく設定することが望ましいが、例えば、スリット状吸い込み口23の上下端部にベルマウスを取り付けることで、より高い捕集効率が得られる。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0036】
例えば、車体aに空気を吹き付けてダストオフ等を行うダストオフ領域15では、粉塵等の汚染物質が発生するので、ダストオフ領域15はダーティエリアと見なすことができる。このため、ダストオフ領域15(ダーティエリア)と搬送通路10(クリーンエリア)との間にも、本発明の実施の形態にかかる拡散防止装置2を設けることにより、ダストオフ領域15(ダーティエリア)から搬送通路10(クリーンエリア)へ汚染物質が拡散することを同様に有効に防止できるようになる。これにより、車体aへのダストの再付着による付着ゴミの発生を防止することができる。
【0037】
ファン26の運転制御は、基本的にはライン稼動時に運転とするが、例えば図1、2に示したように、車体aの搬送が一時停止されて、塗装ブース11への入室を待機している場所などのような搬送通路10の代表点に、空気中の汚染物質の粒子個数を測定するパーティクルカウンター30を設置し、このパーティクルカウンター30の測定値に基いてファン26の稼動を制御しても良い。この場合、例えばクリーンエリアである搬送通路10において汚染物質の粒子個数が所定の値を超えたときに、ファン26を運転するような発停制御も可能である。これにより、ファン26の運転時間が短縮し、省エネルギーと機器の長寿命化が図れる。さらに、フィルタ27の交換もしくは洗浄間隔を長くすることにより、保全費用の削減も図れる。
【0038】
また、以上では、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流の中心軸22’の指向位置に対して、スリット状吸い込み口23の中心軸23’がクリーンエリア側(搬送通路10側)にずれて配置される場合を説明した。しかし、ダーティエリアとクリーンエリア間の温度差、差圧等によって発生する気流により、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流がダーティエリア側(塗装ブース11側)にずれる場合も考えられる。かかる場合は、上から見た状態において、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流の中心軸22’の指向位置に対して、スリット状吸い込み口23の中心軸23’が、ダーティエリア側(塗装ブース11側)にずれて配置されることになる。
【0039】
また、図5、6に示すように、塗装ブース11(ダーティエリア)と搬送通路10(クリーンエリア)との間に、スリット状吹き出し口22とスリット状吸い込み口23を複数組設置することにより、エアーシール性能と汚染物質の捕集効率を向上させることができる。このようにスリット状吹き出し口22とスリット状吸い込み口23を複数組設置すれば、スリット状吹き出し口22とスリット状吸い込み口23の間を車体aが横切った際に、スリット状吹き出し口22から吹き出された空気流が車体側面で影になることがなく、エアーシールの遮断を回避できる。さらに、ダーティエリアからクリーンエリアへの空気の流れ場に対して、空気の流れによる汚染物質の拡散を、ダーティエリア側のスリット状吸い込み口23で捕集し、かつ、クリーンエリア側のスリット状吹き出し口22から吹き出された空気流で、汚染物質をダーティエリア側に押し戻すことで、汚染物質の捕集効率を格段に向上することができる。
【0040】
また、ダーティエリアである塗装ブース11とクリーンエリアである搬送通路10の間で発生する気流の要因として、ダーティエリアとクリーンエリアとの温度差によって開口部で生じる温度差換気がある。この温度差換気では、図7に示すように、ダーティエリア(塗装ブース11)とクリーンエリア(搬送通路10)と間にある開口部31の上下で空気の流れ方向が逆転し、例えば、図7に示すように、開口部31の下半部ではダーティエリア(塗装ブース11)からクリーンエリア(搬送通路10)に向う気流が発生し、開口部31の上半部ではクリーンエリア(搬送通路10)からダーティエリア(塗装ブース11)に向う気流が発生する。このような温度差換気による空流が生じる開口部においては、少なくとも前記ダーティエリアから前記クリーンエリアへ空気が流入している高さの範囲に(図7の例では、少なくとも開口部31の下半部の範囲に)、スリット状吹き出し口22とスリット状吸い込み口23を設置すれば良い。
【0041】
なお参考までに、図8に示すように、室内と外部との間に形成された開口部40で発生する風量は、次式で示される。
【0042】
【数1】

Q:風量(m3/s)
α:開口の流量係数
W:開口幅(m)
g:重力加速度(m/s2)
θO:外気温度(K)
θi:室内温度(K)
H:開口の高さ(m)
【0043】
なお、α:0.7、高温側温度:24℃、低温側温度:23℃、開口幅:4m、開口高さ:3mの条件では、温度差換気量:3、178m/h、平均流入風速:0.147m/s、最大流入風速:0.294m/sとなる。
【0044】
ここで、本発明における計算フローの一例を図9に示す。計算の基本的な考え方は、スリット状吹き出し口22から吹き出された空気流の噴流の広がりと、スリット状吹き出し口22から吹き出される空気流の湾曲をカバーする距離を求めることである。例えば、スリット状吹き出し口22から吹き出された空気流の風速を3m、スリット状吹き出し口22からスリット状吸い込み口23までの距離を3.5mとした場合、ずらし幅Xは約1mとなる。ずらし幅Xはスリット状吹き出し口22からスリット状吸い込み口23までの距離に最も影響を受ける。
【0045】
なお、以上では、クリーンエリアが搬送通路10であり、ダーティエリアが塗装ブース11である場合を説明したが、本発明は、自動車等の製造工場などで隣接して配置されるダーティエリアとクリーンエリアに広く適用できる。その他、本発明は、自動車製造工場に限らず、種々の産業設備において広く適用できる。
【実施例】
【0046】
図1等で説明した自動車車体の塗装工程ラインにおいて、クリーンエリアとダーティエリアで測定された粉塵個数の比率を表1に示す。表1中の数値は、塗装ブース11にて吹付けが行なわれている最中の値である。表1より、クリーンエリアに比べて、塗装ブース11入口における粉塵個数が圧倒的に多いことがわかる。つまり、搬送通路10の塗装ブース入り口側では、内壁に塗装ミストが多量に付着していることが分かる。本発明により、クリーンエリアでは内壁の汚れが防止され、品質向上(ゴミブツ欠陥低減)が可能になると考えられる。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、隣接して配置されたダーティエリアとクリーンエリアとの間における汚染物質の拡散防止に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】自動車車体の塗装工程ラインに適用した、本発明の実施の形態にかかる拡散防止システムの説明図である。
【図2】拡散防止装置の説明図である。
【図3】スリット状吹き出し口から吹き出される空気流の中心軸の指向位置と、スリット状吸い込み口の中心軸の位置関係を示す平面図である。
【図4】スリット状吹き出し口から吹き出される空気流の中心軸の指向位置と、スリット状吸い込み口の中心軸の位置関係の詳細図である。
【図5】スリット状吹き出し口とスリット状吸い込み口を複数組設置した拡散防止システムの説明図である。
【図6】スリット状吹き出し口とスリット状吸い込み口を複数組設置した拡散防止装置の説明図である。
【図7】少なくとも開口部の下半部の範囲にスリット状吹き出し口とスリット状吸い込み口を設置した実施の形態の説明図である。
【図8】室内と外部との間に形成された開口部で発生する風量の説明図である。
【図9】本発明における計算フローの一例の説明図である。
【符号の説明】
【0050】
a 車体
1 拡散防止システム
2 拡散防止装置
10 搬送通路(クリーンエリア)
11 塗装ブース(ダーティエリア)
12 コンベア
20 吹き出し部
21 吸い込み部
22 スリット状吹き出し口
23 スリット状吸い込み口
25 空気流路
26 ファン
27 フィルタ
30 パーティクルカウンター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダーティエリアとクリーンエリアとの間において、前記ダーティエリアから前記クリーンエリアへ汚染物質が拡散するのを防止する装置であって、
前記ダーティエリアと前記クリーンエリアを遮断する方向に向けて、水平な空気流を上下方向に連続して吹き出すスリット状吹き出し口と、前記スリット状吹き出し口と対向して配置された、上下方向に連続して空気を吸引するスリット状吸い込み口と、前記スリット状吸い込み口で吸引された空気を前記スリット状吹き出し口に送る空気流路と、前記空気流路に設けられたファンおよびフィルタを有し、
上から見た状態において、前記スリット状吹き出し口から吹き出される空気流の中心軸の指向位置に対して、前記スリット状吸い込み口の中心軸がずれて配置されていることを特徴とする、汚染物質の拡散防止装置。
【請求項2】
上から見た状態において、前記スリット状吹き出し口から吹き出される空気流が湾曲する分、前記スリット状吹き出し口から吹き出される空気流の中心軸の指向位置に対して、前記スリット状吸い込み口の中心軸がずれて配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の汚染物質の拡散防止装置。
【請求項3】
上から見た状態において、前記スリット状吸い込み口の幅が、前記スリット状吹き出し口から吹き出されて前記スリット状吸い込み口に到達した空気流の全体幅以上になっていることを特徴とする、請求項1または2に記載の汚染物質の拡散防止装置。
【請求項4】
上から見た状態において、スリット状吹き出し口から吹き出されて前記スリット状吸い込み口に到達した空気流における前記クリーンエリア側の端部が、前記スリット状吸い込み口の前記クリーンエリア側の端部を越えないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の汚染物質の拡散防止装置。
【請求項5】
ダーティエリアとクリーンエリアとの間に、請求項1〜4のいずれかに記載の汚染物質の拡散防止装置が設けられた汚染物質の拡散防止システムであって、
前記拡散防止装置よりも前記クリーンエリア側の位置に、空気中の汚染物質の粒子個数を測定するパーティクルカウンターが設置され、前記パーティクルカウンターの測定値に基いて前記ファンの稼動が制御されることを特徴とする、汚染物質の拡散防止システム。
【請求項6】
前記スリット状吹き出し口と前記スリット状吸い込み口を複数組有することを特徴とする、請求項5に記載の汚染物質の拡散防止システム。
【請求項7】
少なくとも前記ダーティエリアから前記クリーンエリアへ空気が流入している高さの範囲には、前記スリット状吹き出し口と前記スリット状吸い込み口を設けたことを特徴とする、請求項5または6に記載の汚染物質の拡散防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−186040(P2009−186040A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23504(P2008−23504)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】