説明

汚染物質分解機能付き浴室

【課題】 浴室内照明の光が照射しにくい箇所の汚染物質をも光触媒機能によって効率よく分解することのできる浴室を提供する。
【解決手段】 浴室用部材の表面が、励起波長端400nm以上の可視光型光触媒で被覆されており、浴室内照明装置の光が直接照射しない浴室用部材表面に光照射する補助照明装置を備え、浴室内照明装置および補助照明装置のそれぞれの光によって可視光型光触媒を光励起させて浴室用部材表面の汚染物質を分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、浴室に発生する水垢、湯垢、石鹸垢等の汚染物質を光触媒機能によって分解する浴室に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浴室においては、入浴行為に伴い、水垢や湯垢、石鹸垢等の汚れ成分が発生し、床、壁、浴槽、カウンター等に付着する。これらの汚れ成分は、放置すると浴室の湿潤環境下にてカビ等を発生させる原因となるため、浴室においては頻繁な清掃が不可欠であり、利用者の負担となっている。
【0003】
そこで、浴室に用いられる部材(床材、壁材、天井材、浴槽、カウンター部材等)には清掃容易性が求められている。またカビや微生物の発生、増殖を抑制するための抗菌機能も求められてきている。
【0004】
一方、浴室の暖房、乾燥機能を利用して、洗濯物を浴室で乾燥させるシステムが普及してきている。しかし太陽光の照射がない室内で洗濯物乾燥を行うと、洗濯物に微生物が増殖して乾燥後の衣類等が臭気を発することが知られている。従って、浴室乾燥機能を備えた浴室の場合には、臭気物質の分解機能を付与することも今後の課題である。
【0005】
このような清掃容易性や抗菌機能あるいは臭気分解性を浴室部材に付与する方法の一つとして、光触媒を含有した層を浴室部材の最表面に適用する方法がある。酸化チタンに代表される光触媒は、一般に紫外線を吸収して触媒性能を発現し、触媒酸化作用によって有機系物質を分解することが知られている。例えば特許文献1には、光触媒性チタニアを含む層で被覆された浴室用部材が開示されており、この浴室用部材は、太陽光や室内照明によって光励起された光触媒性チタニアの作用によって汚れ成分が分解され、またカビや微生物が死滅あるいは増殖抑制されるようになっている。
【特許文献1】特許第3534072号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような、光触媒作用を有する浴室用部材によって構成された浴室は、太陽光や浴室内照明が照射する領域の清掃容易性や抗菌性、臭気分解性を向上させることができる。しかしながら、浴室には、太陽光はもとより浴室内照明の光も照射しない箇所も多い。例えば、浴室カウンターの裏側やその下部の床、壁面の一部などである。
【0007】
本願発明は、以上のとおりの従来技術における限界を解消し、浴室内照明の光が照射しにくい箇所の汚染物質をも光触媒機能によって効率よく分解することのできる浴室を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の汚染物質分解機能付き浴室は、第1には、浴室用部材の表面が、励起波長端400nm以上の可視光型光触媒で被覆されており、浴室内照明装置の光が直接照射しない浴室用部材表面に光照射する補助照明装置を備え、浴室内照明装置および補助照明装置のそれぞれの光によって可視光型光触媒を光励起させて浴室用部材表面の汚染物質を分解することを特徴としている。
【0009】
本願発明の汚染物質分解機能付き浴室は、第2には、補助照明装置の光の300nm〜励起波長端波長の範囲における照射強度積分値が、全照射強度積分値の90%以上であることを特徴としている。
【0010】
本願発明の汚染物質分解機能付き浴室は、第3には、補助照明装置が、非入浴時に手動または自動点灯することを特徴としている。
【0011】
本願発明の汚染物質分解機能付き浴室は、第4には、補助照明装置が、浴室付属設備に連動して自動点灯することを特徴としている。
【0012】
なお、本願発明において、「浴室用部材」とは浴室内に露出する部材であって、浴室の床、天井、壁面、浴槽、室内照明のカバー、浴室カウンター部材、浴室扉、浴室用鏡面、カラン、シャワー、窓を有する場合の浴室の窓枠、窓ガラス等である。
【0013】
また「汚染物質」とは、水垢や湯垢、石鹸垢等の汚れ成分、カビや微生物、あるいはこれらを原因とする臭気物質等である。そしてこの汚染物質の「分解」とは、汚れ成分や臭気物質の分解のほか、カビや微生物の発生や増殖を防止または抑制する、あるいはカビや微生物を死滅、分解することを意味する。
【0014】
さらにこれらの汚染物質を光触媒機能によって分解する「可視光型光触媒」とは、紫外線だけでなく、蛍光灯はもちろん紫外線が含まれていない白熱灯や、LEDランプなどの室内照明の光(=可視光)にも反応して光触媒機能を発揮できる物質である。
【0015】
さらに「励起波長端」とは、可視光型光触媒を励起させる光の最長波長を意味する。
【0016】
またさらに、「浴室内照明装置の光が直接照射しない浴室用部材表面」とは、例えば浴室カウンターの裏側や、その下方の床面、壁面等である。
【0017】
本願発明におけるその他の定義や用語については、以下に詳しく説明する。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の汚染物質分解機能付き浴室においては、第1には、浴室内を構成する浴室用部材の表面が励起波長端400nm以上の可視光型光触媒で被覆されているため、浴室内照明装置と補助照明装置の光によって光触媒が励起される。すなわち光触媒の励起によって、浴室用部材の表面には、例えばヒドロキシラジカルやスーパーオキサイドイオン等の活性酸素種が発生し、これら活性酸素種の強力な酸化作用によって、浴室内に付着した汚れ成分や臭気物質等を酸化分解することができる。また活性酸素種の強力な抗菌作用によって、カビや微生物の発生や増殖を抑制することができる。また、励起波長端400nm以上の可視光型光触媒を使用しているため、蛍光灯に代表される通常の浴室内照明装置の光に含まれる未弱な紫外線および近傍の可視光領域の波長によっても前記の光触媒を励起することができる。さらに、補助照明装置の光によって、浴室内照明装置の光が直接照射しない浴室用部材表面の可視光型光触媒を励起することができるため、浴室内全体の清掃容易性、抗菌性および臭気分解性が大幅に向上する。簡単な清掃作業によって浴室内を常に清潔で無臭な状態に維持することが可能となり、清掃作業の省力化とともに、常に快適な入浴が可能となる。また、洗濯物を浴室内で乾燥させた場合には洗濯物に臭気が付着することがない。
【0019】
第2には、補助照明装置の光の300〜励起波長端波長の範囲における照射強度積分値が、全照射強度積分値の90%以上であることによって、補助照明装置の光が可視光型光触媒の励起波長に特化している。これによって、補助照明装置の光が極めて効率的に光触媒機能を発現させることが可能となる。
【0020】
第3には、補助照明装置が、浴室非使用時に手動または自動で点灯するようになっている。補助照明装置の光を前記のとおりの可視光型光触媒の励起波長に特化させた場合には、その波長は紫外線から近紫外線の領域に相当し、人体には好ましくない。このため、補助照明装置の点灯は、浴室の非使用時に行うことが可能となるようにすることによって、補助照明装置の光の人体への影響を排除することが可能となる。
【0021】
第4には、補助照明装置の点灯を、浴室付属装置に連動させることによって、補助照明装置を、浴室の非使用時に自動点灯させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
浴室用部材の表面を被覆する可視光型光触媒は、励起波長端が400nm以上であり、可視光領域の照射光で光触媒機能を発現させるものを特段の制限なく使用することができる。例えば、酸素欠陥型酸化チタン、色素増感型酸化チタン、金属担持型酸化チタン等である。このような可視光型光触媒を浴室用部材の表面に被覆するには、例えば、可視光型光触媒を含む塗料を塗装するなど、公知の手段により行うことができる。
【0023】
浴室内照明および補助照明は、前記の可視光型光触媒の触媒機能を励起することのでききる光を照射するものであればよく、例えば蛍光灯、白熱灯、LEDランプ等を使用することができる。
【0024】
ただし、補助照明装置は、その光が可視光型光触媒の励起波長に特化していることが望ましい。すなわち、300nm〜励起波長端波長の範囲における照射強度積分値が、全照射強度積分値の90%以上である光を照射できる照明装置である。すなわち、励起波長端以下の波長光を使用することは当然として、300nmに満たない波長光は低波長の紫外線であり、浴室用部材の表面やその塗装を劣化させる恐れがあり、好ましくない。前記範囲の波長光を有する照明装置の例としては、ブラックライトや発光ダイオードが挙げられる。
【0025】
このような補助照明装置は、浴室用照明装置の光が直接照射せず、そのため浴室用照明装置の光によって可視光型光触媒の触媒機能が発現しにくい領域(例えば、浴室カウンターの裏側やその下部の床、壁面等)に光を照射することを主目的として設置される。例えばその設置位置は、浴槽エプロンの下部や浴室カウンターの下部などの1以上である。もちろん、この補助照明装置はそれら特定の領域だけでなく、浴室全体に光を照射するように設置されてもよい。
【0026】
ただし、補助照明装置の光を前記のとおりの可視光型光触媒の励起波長に特化させた場合には、その波長は紫外線から近紫外線の領域に相当し、人体には好ましくない。このため、補助照明装置の点灯を、浴室の非使用時に行うことが好ましい。そのため補助照明装置の点灯スイッチは、浴室用照明装置の点灯スイッチとは独立させ、浴室非使用持に手動点灯させることができるようにすう。あるいは浴室非使用時に自動的に点灯するようにすることもできる。
【0027】
補助照明装置を自動点灯さえるには、浴室付属設備に連動させ、この浴室付属設備からの信号が浴室非使用時であることを示した場合に補助照明装置を点灯させるようにすることができる。例えば、浴室用照明装置の消灯に連動させて、補助照明装置を一定時間、点灯させるようにすることができる。あるいは、浴室乾燥装置の作動に連動させて補助照明装置を点灯させてもよく、また浴室ドアの開閉検知信号を利用して補助照明装置を自動点灯させることもできる。
【0028】
以下、実施例を示して本願発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本願発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
硝酸クロム(III)9水和物(Cr(NO3)3・9H2O)0.4部を94.6部の水に溶解した後、紫外光型の光触媒であるアナターゼ型酸化チタン(商品名:ST-01、石原産業株式会社製)5部を加えてよく攪拌し、常温にて24時間放置した。エバポレーターを用いて100℃、24時間の条件で水を蒸発させた後、得られた固形分を500℃、24時間の条件で焼成することによって、酸化チタン表面にクロムを担持した金属担持型の可視光型光触媒を得た。この光触媒の光吸収特性を分光光度計(商品名:U-4100形分光光度計、株式会社日立内テクノロジーズ製)を用いて測定したところ、吸収波長端は430nmであった。
【0030】
テトラエトキシシラン(商品名:エチルシリケート28、コルコート株式会社製)34部にメタノール60部を加え、さらに水3部および0.01Nの塩酸3部を混合し、ディスパーを用いてよく混合し、60℃恒温槽中にて2時間加熱することにより、無機系塗膜のレジンをなる有機ケイ素アルコキシドの加水分解物および部分加水分解物を得た。これに前記の金属担持型可視光型光触媒20部を添加し、次いで全固形分が5%となるようにメタノールで希釈することによって、可視光型光触媒含有無機系塗料を得た。
【0031】
アルマイト板上に可視光型光触媒含有無機系塗料をスプレーで20g/m塗布し、150℃、1時間の条件で乾燥させることにより、最表面に可視光型光触媒を含有する塗膜を有するアルマイト板を得た。
【0032】
このアルマイト板を浴室の浴室カウンター下部の壁材にシリコンコーティング剤を用いて接着した。なお、アルマイト板を設置した場所は浴室用照明装置(蛍光灯装置)の光が、浴室カウンターに遮られて照射されない位置であることを確認した。
【0033】
浴室の浴槽エプロンにブラックライトを設置し、ブラックライトの光をアルマイト板に照射した。ブラックライトの光は、300〜450nmの範囲における照射強度積分値が、全照射強度積分値の99%以上であることを、スペクトロラジオメーター(商品名:USR−40V、ウシオ電機株式会社製)で確認した。またブラックライト点灯時に、アルマイト板表面における紫外線強度を紫外線強度計UVR−2(TOPCON社製)に同社製受光部UD−36を装着した状態で測定すると、平均0.6mW/cmであった。
【0034】
浴室を一般的に使用状況にて3ヶ月間使用し、各使用後にブラックライトを3時間点灯させた(実施例1)。
【0035】
3ヶ月後、目視によって、アルマイト板の表面におけるカビの発生、微生物発生に伴うヌメリ等の生成を測定した。
【0036】
また、可視光型光触媒を含有しない無機系塗料を塗布したアルマイト板を実施例1と同一位置に設置し、ブラックライトを照射して実施例1と同様に目視測定した(比較例1)。さらに、可視光型光触媒含有塗料を補膜したアルマイト板にブラックライトを照射しない条件(比較例2)および可視光型光触媒を含有しない塗料を塗膜したアルマイト板にブラックライト照射しない条件(比較例3)についても同様に目視測定した。
【0037】
その結果、可視光型光触媒含有の塗料を塗膜したアルマイト板にブラックライトを光照射した実施例1では、アルマイト板表面にカビおよびヌメリの発生は確認されなかった。これに対して、比較例1−3では、赤色のカビ発生と顕著な表面ヌメリが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室用部材の表面が、励起波長端400nm以上の可視光型光触媒で被覆されており、浴室内照明装置の光が直接照射しない浴室用部材表面に光照射する補助照明装置を備え、浴室内照明装置および補助照明装置のそれぞれの光によって可視光型光触媒を光励起させて浴室用部材表面の汚染物質を分解することを特徴とする汚染物質分解機能付き浴室。
【請求項2】
補助照明装置の光の300nm〜励起波長端波長の範囲における照射強度積分値が、全照射強度積分値の90%以上である請求項1の汚染物質分解機能付き浴室。
【請求項3】
補助照明装置が、非入浴時に手動または自動点灯する請求項2の汚染物質分解機能付き浴室。
【請求項4】
補助照明装置が、浴室付属設備に連動して自動点灯する請求項3の汚染分解機能付き浴室。

【公開番号】特開2006−325762(P2006−325762A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151466(P2005−151466)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】