汚染物質回収装置及び汚染物質回収方法
【課題】簡易な手法で、液滴を試料体の表面に沿って移動、試料体表面の汚染物質を回収すること。
【解決手段】ウエハWを保持部2に保持し、当該ウエハWの両面に、夫々ウエハWの表面上における液滴が位置する領域から前記表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成する磁場形成部材3A,3Bを設ける。そして、前記保持部2と磁場形成部材3A,3Bとを相対的に前記表面に沿って移動させることにより、前記液滴を磁場勾配に沿って移動させる。こうして、ウエハ表面の汚染物質を液滴に溶解させ、当該液滴を回収する。
【解決手段】ウエハWを保持部2に保持し、当該ウエハWの両面に、夫々ウエハWの表面上における液滴が位置する領域から前記表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成する磁場形成部材3A,3Bを設ける。そして、前記保持部2と磁場形成部材3A,3Bとを相対的に前記表面に沿って移動させることにより、前記液滴を磁場勾配に沿って移動させる。こうして、ウエハ表面の汚染物質を液滴に溶解させ、当該液滴を回収する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場形成部材と試料体とを相対的に移動させて、試料体の表面において液滴を移動させ、回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
処理装置の性能の検査や、プロセス条件の決定等を行うために、評価用の基板例えば半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)を装置内にて処理し、そのウエハの汚染状況を調べることが行われている。この評価は、例えばエッチング処理の後や洗浄処理の後に行われ、ウエハに付着している金属やハロゲン等のイオン等の汚染物質の量を分析している。
例えば金属汚染量を評価する場合には、酸溶液を用いてウエハ上の汚染物質を溶解し、また、イオン物質汚染量を評価する場合には、純水を用いてウエハ上の汚染物質を溶解する。そして、これら溶液を回収し、当該溶液中の金属濃度やイオン物質濃度を夫々検出することが行われる。この際、前記汚染物質を溶解する溶液の量が多いと、汚染物質の希釈率が大きくなり、高精度な分析を行いにくいため、ウエハ表面にて少量の液滴を走査させ、当該液滴に汚染物質を溶解させることが好ましい。
【0003】
ところで、シリコンウエハの汚染状況を評価する場合、ウエハの表面は酸化して、親水性のシリコン酸化膜(SiO2)となっている。ここで、酸溶液を用いた金属汚染量の評価では、ウエハ表面では、フッ酸(HF)を含む酸溶液が前記SiO2を溶解してウェハ表面が疎水性となるため、ウエハ上に酸溶液の液滴を形成して当該液滴を走査させることができ、特に問題はない。一方、イオン物質の付着状況の評価は純水を用いているので、親水性のウエハ表面と、純水との間で十分な表面張力を確保することができず、純水の液滴を形成して走査させることは困難である。このため、例えばトレイ内にウエハを載置し、当該トレイ内にてウエハの表面が覆われるまで純水を溜め、ウエハ表面の汚染物質を溶解させることが行われている。
【0004】
しかしながら、この手法にて300mmサイズのウエハを評価する場合、純水が100〜300ml程度必要となる。このため、汚染物質量に対して純水の量が多く、希釈率が大きすぎて、汚染物質濃度の分析感度が低下してしまう。その対策として、ウエハに数mlの液滴を滴下し、この液滴の周囲に多数の吐出口からエアーを吐出させ、エアーにより液滴を閉じ込めた状態で、液滴を移動させる手法が検討されている。しかしながら、この手法では、大量のエアーが必要である。また、ウエハ表面の親水性が大きい場合には液滴の形状を維持することが不安定になり、さらに、周囲の環境成分も取り込んでしまうため分析精度に不安が残るという懸念がある。
【0005】
ところで、前記液滴を移動させる方法として、特許文献1には、塗布剤に超電導磁石による磁界を印加させて、塗布液を広げる技術が提案されている。しかしながら、超電導磁石は高価であり、コスト的に不利である。また、特許文献2には、被測定物の表面をHNO3等の蒸気にて曝露し、次いで被測定物の表面を回収液で覆い、この回収液を回収して当該回収液中の不純物量を測定する手法が記載されている。しかしながら、この手法では、被測定物の表面をHNO3等の蒸気にて曝露する工程が必要であり、被測定表面に残留する硝酸(HNO3)成分の影響によって、汚染解析対象となるイオン成分のNO3-およびNO2- の計測が困難となる。さらに、電気的に濡れ性を制御するエレクトロウェッティング法も知られているが、電気的に液滴を移動させる方法では、微細な回路を形成する必要があるため、構成が複雑化し、製造コストや運転コストが高くなる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−137666号公報
【特許文献2】特開平10−332554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、簡易な手法で、液滴を試料体の表面に沿って移動させ、試料体の表面の汚染物質を回収することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明の汚染物質回収装置は、
非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する装置であって、
前記試料体を保持する保持部と、
前記試料体に供給された液滴が位置する領域から当該試料体の表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成する磁場形成部材と、
前記液滴を磁場勾配に沿って移動させるために、前記保持部と磁場形成部材とを相対的に前記試料体の表面に沿って移動させるための移動機構と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の汚染物質回収方法は、
非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する方法であって、
前記試料体を保持する工程と、
前記試料体に液滴を供給する工程と、
前記試料体上の液滴が位置する領域から当該試料体の表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を磁場形成部材により形成する工程と、
前記液滴を磁場勾配に沿って移動させるために、前記保持部と磁場形成部材とを相対的に前記試料体の表面に沿って移動させる工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料体の表面において液滴を移動させるにあたり、磁場形成部材により、試料体の表面上における液滴が位置する領域から前記表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成し、前記試料体と磁場形成部材とを相対的に前記表面に沿って移動させることにより、前記液滴を前記磁場勾配に沿って移動させている。従って、磁場形成部材を試料体と相対的に移動させるという簡易な手法で試料体の表面にて液滴を移動させ、前記表面の汚染物質を液滴に溶解して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る汚染物質回収装置を備えた汚染物質分析装置の一実施の形態を示す平面図である。
【図2】前記汚染物質分析装置の要部を示す側面図である。
【図3】前記汚染物質回収装置の概略を示す斜視図である。
【図4】前記汚染物質回収装置に用いられる磁場形成部材を示す斜視図である。
【図5】前記磁場形成部材を示す断面図である。
【図6】前記磁場形成部材により形成される磁場のイメージを示す平面図である。
【図7】ウエハ表面に沿って磁場形成部材により液滴が移動する様子を示す断面図である。
【図8】前記汚染物質回収装置の作用を説明するための側面図である。
【図9】前記汚染物質回収装置の作用を説明するための側面図である。
【図10】本発明に係る汚染物質回収方法の一実施の形態を示す平面図である。
【図11】本発明の汚染物質回収装置の他の例を示す概略斜視図である。
【図12】磁場形成部材による液滴の移動実験にて用いられた実験装置を示す側面図である。
【図13】磁場形成部材による液滴の移動実験において、磁場形成部材同士のギャップと、液適量との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の汚染物質回収装置を備えた汚染物質分析装置の一実施の形態を示す平面図であり、図2はその一部の側面図、図3はその要部の概略斜視図である。前記汚染物質分析装置は、処理室10内に本発明の汚染物質回収装置よりなる回収部11と、汚染物質量の分析を行う分析部12と、を備えている。前記回収部11は、非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する装置であり、前記非磁性材からなる試料体としては、例えばケイ素を含むシリコンウエハや、ケイ素と炭素とを含むSiC基板、ケイ素と酸素とを含むSiO基板や、フォトレジスト等の有機膜等が用いられるが、以下では、試料体がシリコンウエハWである場合を例にして説明する。
【0013】
前記回収部11には前記ウエハWを保持する保持部2が設けられており、この保持部2は例えば非磁性体例えばガラスや樹脂等により構成されている。図1〜図3中、処理室10の幅方向をX方向、処理室10の長さ方向をY方向として説明すると、前記保持部2は例えばウエハWの一部を保持するように前記Y方向に長い長方形状の板状体により構成されている。
また、当該保持部2は支持部21を介して移動部材22に取り付けられている。この移動部材22は、X軸駆動機構23によりX方向に移動自在に構成されていると共に、前記X軸駆動機構23は、Y軸駆動機構24によりY方向に移動自在に構成されている。これらX軸駆動機構23及びY軸駆動機構24としては、例えばボールネジを利用した駆動機構が用いられ、夫々駆動部をなすモータM1,M2によりボールネジが回転するように構成されている。
【0014】
これらモータM1,M2には図示しないエンコーダが接続されており、後述する制御部100がエンコーダのパルス数のカウント値に基づいてモータM1,M2を介して、ウエハWの移動、停止制御を行っている。こうしてウエハWはX方向及びY方向に移動自在に構成される。この例では、保持部2、支持部材21、移動部材22、X軸駆動機構23、Y軸駆動機構24により、移動機構が構成されている。
【0015】
ここで、図1及び図2に示す保持部2の位置は、後述する移載機構により当該保持部2に対してウエハの移載を行う移載位置であり、ウエハは当該移載位置にて保持部2に移載された後、Y方向の一端側(図1及び図2中左側)に向けて移動する。従って、以降の説明では、前記Y方向の一端側を移動方向の前方側、Y方向の他端側(図1及び図2中右側)を移動方向の後方側として説明する。
【0016】
また、前記回収部11は、保持部2に保持されたウエハWに供給された液滴が位置する領域から、当該ウエハWの表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成する磁場形成部材3を備えている。この例では、磁場形成部材3は、前記保持部2に保持されたウエハWの両面側に、当該ウエハWを介して対向する一対の磁場形成部材3A,3Bにより構成されている。これら磁場形成部材3A,3Bは、前記移載位置にある保持部2上のウエハに対して、移動方向の前方側であって、前記ウエハのX方向のほぼ中央に、ウエハと干渉しないように設けられている。
【0017】
これら磁場形成部材3A,3Bとしては、例えば永久磁石をハルバック型に配列した磁石が用いられる。具体的に前記磁場形成部材3A,3Bの構造について、磁場形成部材3Aを例にして、図4に基づいて説明する。当該磁場形成部材3Aは、複数の永久磁石31を環状に配列すると共に、その中央に飽和磁束密度の高い部材より構成された芯部材32を設けて構成される。この例では、磁場形成部材4A及び芯部材32は、夫々平面形状が正方形状の四角柱状に構成され、その底面がウエハWの表面と平行になるように配置されている。
【0018】
前記飽和磁束密度の高い部材として例えば鉄等の金属が用いられ、永久磁石31A〜31Dの材質としては、ネオジウム等が用いられる。そして、前記芯部材42の周囲に、平面形状が台形状の4つの永久磁石31A〜31Dを、例えば外側がN極になるように配列して構成されている。図4中矢印は、磁力線の方向を示している。
【0019】
また、この磁場形成部材3Aは、磁場が局所的に小さい領域を形成するように構成されている。このため、ウエハWの表面に沿った方向で見たときに透磁率が局所的に小さくなる部分を備えており、この部分は、磁場形成部材3Bの厚み方向(Z方向)全体に形成された空隙33として構成されている。前記空隙33は平面形状が長方形であって、磁場形成部材3Aの芯部材32と永久磁石31Dの間に跨るように、磁場形成部材3Aの中心近傍から外側に向けて伸びる長方形状に構成されている。
【0020】
一方、磁場形成部材3Bも磁場形成部材3Aと同様に、中央に飽和磁束密度の高い部材よりなる芯部材35を設けると共に、この芯部材35の外側に4つの永久磁石34A〜34Dを配列して構成され、磁場形成部材3Bの上面がウエハWと平行になるように配置されている。また磁場形成部材3Bの、4つの永久磁石34A〜34Dは外側がS極になるように配列され、磁場形成部材3Aの空隙33と対応する位置に、同様の形状の空隙36が、磁場形成部材3Bの厚み方向(Z方向)全体に形成されている。
【0021】
このように、夫々の磁場形成部材3A,3Bでは、その内部に飽和磁束密度の高い芯部材32,35を設けると共に、この芯部材32,35の外側に、外部磁界の向きと同じになるように永久磁石を配列して構成されている。このため、芯部材32,35の下方側においては磁場が大きく、芯部材32,35から外方に向かうにつれて磁場が小さくなる磁場勾配が形成される。一方、芯部材32,35の下方側における、空隙33,36を囲む領域は磁場が局所的に小さい領域として構成される。
【0022】
また、このような磁場形成部材3A,3Bを、永久磁石31,34の磁極が互いに異なるように構成し、上下に組み合わせているので、磁場形成部材3A,3Bの芯部材32,35が設けられた領域の間の空間には、磁場形成部材3A,3Bを単独で配置した場合よりも、大きな磁場が形成される。一方、空隙33,36を囲む領域は磁場が局所的に小さい領域として構成されているので、空隙33,36を囲む領域と、空隙33,36の外側の領域との間には、大きな磁場勾配形成されることになる。
【0023】
これら磁場形成部材3A,3Bは、互いに所定間隔を開けて対向するように、夫々処理室10の天井部及び底部に支持部材37A,37Bを介して取り付けられている。また、例えば上側の磁場形成部材3Aの支持部材37Aは、磁場形成部材3A,3B同士が最も接近する液滴移動位置と、液滴移動位置よりも上方側の待機位置との間で、昇降機構38により昇降自在に構成され、磁場形成部材3A,3B同士の間隔が変えられるようになっている。さらに、前記磁場形成部材3Aが液滴移動位置にあるときに、磁場形成部材3A、3B同士の間を、保持部2に保持されたウエハWが通過できるように、磁場形成部材3A,3B同士の間隔が設定されている。
【0024】
ここで、磁場形成部材3A,3Bの大きさの一例について説明すると、例えば正方形を構成する一辺が50mmに設定され、芯部材32,35は正方形を構成する一辺が例えば10mmに設定され、空隙33,36は、例えば縦5mm、横5mmに夫々設定される。 また、ウエハWと保持部2の積層体の厚さは例えば2mmに設定され、磁場形成部材3Aの底面とウエハW表面との距離は例えば1mm、保持部2の裏面と磁場形成部材3Bの上面との距離は例えば0.5mmに夫々設定される。
【0025】
さらに、上述の回収部11は、前記移載位置にある保持部2上のウエハWに対して、汚染物質回収用の液滴を供給する液滴供給ノズル41を備えている。この液滴供給ノズル41は、前記磁場形成部材3Aの近傍、例えば前記移載位置にあるウエハWのY方向の一端側におけるX方向のほぼ中央に前記液滴を供給するように設けられている。この例では、液滴供給ノズル41は、例えば処理室10の天井部に取り付けられた昇降機構42により、前記保持部2上のウエハWに対して液滴を供給する供給位置T1と、この供給位置T1よりも上方側の移載位置との間で昇降自在に構成されている。前記移載位置とは、後述する移載機構と保持部2との間でウエハの移載を行うときに当該移載作業を妨げない位置である。
【0026】
また、液滴供給ノズル41には、ポンプP1を備えた供給路43aにより、汚染物質回収用の回収液例えば純水を貯留する回収液貯留部43が接続されている。そして、前記ポンプP1の作動により、回収液貯留部43から所定量例えば0.02ml〜10mlの純水を保持部2上のウエハの所定位置に供給するように構成されている。なお、ポンプP1の代わりにバルブの開閉により、回収液貯留部43から所定量の純水をウエハに供給するようにしてもよい。この例では、液滴供給ノズル41、ポンプP1、供給路43a、回収液貯留部43により、液滴供給部が構成されている。
【0027】
さらにまた、上述の回収部11は、ウエハWから汚染物質回収用の液滴を回収するための液滴回収ノズル51を備えている。この液滴回収ノズル51は、例えば前記移載位置にあるウエハWのY方向の他端側におけるX方向のほぼ中央にて、前記液滴を回収するように設けられている。この例では、液滴回収ノズル51は、図2に示すように、駆動機構53により昇降自在及び鉛直軸まわりに回動自在に設けられた支持アーム52によって、ウエハ上の液滴を回収する回収位置T2と、この回収位置T2よりも前記移動方向の後方側の移し替え位置T3との間で移動自在に構成されている。前記移し替え位置T3とは、回収された液滴を容器50に供給する位置である。この容器50は、例えばガラス等によりシャーレ状に構成され、その上縁には略水平に伸びる鍔部50aが形成されている。
【0028】
また、液滴回収ノズル51にはポンプP2が接続されており、このポンプP2の作動により、ウエハ表面の液滴をノズル51内に吸い込むことにより当該ノズル51内に回収して保持したり、当該ノズル51内に保持された液滴を前記容器50に吐出するように構成されている。この例では、液滴回収ノズル51とポンプP2とにより、液滴回収部が構成されている。
【0029】
さらに、前記移し替え位置T3にある容器50は、搬送機構により分析部12に搬送されるように構成され、この例では、前記搬送機構はY方向に伸びるベルトコンベア54により構成されている。図中M3はベルトコンベア54の駆動モータである。このベルトコンベア54の上部では、Y方向の一端側が前記移し替え位置T3に相当し、他端側が分析位置T4に相当する。そして、前記分析部12では、移し替え位置T3にて分析用の液滴が供給された容器50が分析位置T4までベルトコンベア54により搬送されるようになっている。
【0030】
また、前記分析位置T4では、薬液供給部55から所定の薬液が容器50内に供給された後、例えばイオンクロマトグラフィーのような計測装置に導入することにより、回収された液滴中の汚染物質(イオン成分)の量の分析が行われる。こうして、分析位置T4にて汚染物質の分析が行われた容器50は、ベルトコンベア54により再び移し替え位置T3まで戻される。
【0031】
図1中56は、容器50の移載アームであり、容器50の鍔部50aを下方側から支持するアーム部56aが、進退自在、昇降自在及び鉛直軸周りに回転自在に構成されている。この移載アーム56は、前記ベルトコンベア54上の移し替え位置T3と、多数の容器50が多段に配設される容器棚57との間で、容器50を移載するように構成されている。この容器棚57には、使用前の容器50や、使用済みの容器50が互いに区画されて、多段に収納されている。
【0032】
さらに、汚染物質分析装置は、ウエハを載置する載置部13を備えており、移載機構14により、この載置部13と前記移載位置にある保持部2との間でウエハWの移載が行われるように構成されている。前記移載機構14は、ウエハを保持するU字型の保持アーム15が進退自在、昇降自在、鉛直軸周りに回転自在に構成されている。一方、保持部2には、図8及び図9に示すように、保持アーム15の昇降を妨げないように、当該保持アーム15に対応する切り欠き2aが形成されている。
【0033】
また、この汚染物質分析装置は制御部100を備えている。この制御部100は、例えばコンピュータからなり、プログラム、メモリ、CPUからなるデータ処理部を備えていて、前記プログラムには制御部100から回収部11の昇降機構38,42、駆動機構53、モータM1,M2、ポンプP1,P2、分析部12のモータM3等に制御信号を送り、汚染物質回収用の液滴をウエハW上に供給し、予め設定した移動軌跡に沿って移動させ、次いで液滴を回収し、当該液滴内の汚染物質の量を分析するという一連の動作を自動で実施するように命令(各ステップ)が組み込まれている。このプログラムは、コンピュータ記憶媒体例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)等の記憶部に格納されて制御部100にインストールされる。
【0034】
続いて、この汚染物質分析装置の作用について、例えばエッチング処理の後に、純水よりなる汚染物質回収用の液滴を用いて、ウエハに付着しているハロゲンイオン等のイオン物質を汚染物質として回収する場合を例にして説明する。この際、回収部11では、ウエハWの表面において、液滴がモーゼ効果により、磁場形成部材3によって形成された磁場勾配に沿って移動する。つまり、ウエハWは2つの磁場形成部材3A,3Bの間に存在するため、ウエハWの表面には、既述のように強力な磁場が形成されている。一方、当該実施の形態で用いられる液滴は純水であって、弱い反磁性体であるため、当該液滴は、磁場形成部材3A,3Bの間に形成される強力な磁場から離れようとして、磁場の弱いエリアに移動していく。
【0035】
こうして、磁場形成部材3に対してウエハW(保持部2)を移動させると、液滴は、ウエハ表面上を磁場形成部材3によって形成された磁場勾配の小さい方へ移動していくことになる。この際、磁場勾配が大きいほど、磁場の強いエリアから弱いエリアに向かう力が大きくなり、液滴がスムーズに移動する。
【0036】
ここで、図6に磁場のイメージを示す。磁場形成部材3A,3Bにより形成された磁場300において、芯部材32、35に対応する領域301が最も大きく、ここから外方に向かうに連れて磁場が小さくなっていく。図6中、磁場の大きさは4段階にて示しており、磁場の大きさは磁場301>磁場302>磁場303>磁場304であるが、実際には無段階に小さくなる。
【0037】
また、既述のように、前記磁場形成部材3A,3Bには、空隙33,36が形成されているので、図6に示すように、空隙33,36に対応する領域には、磁場が小さい局所領域304が形成される。この局所領域304は、芯部材32,35の中央側に頂点があり、ここから空隙33,36の長さ方向に向かって広がる二等辺三角形状に形成されると推察される。このため、液滴は、強い磁場から離れようとして、結果的に2つの等辺の間に収まって、前記局所領域304に閉じ込められる状態となる。
【0038】
そして、図7に示すように、磁場形成部材3A,3Bにより形成される磁場の局所領域が液滴の移動方向の前方側に位置するように、保持部2を磁場形成部材3に対して移動させることにより、液滴Lがウエハ表面を前記磁場の局所領域にトラップされた状態で移動していくことになる。従って、液滴LをウエハWのX方向(Y方向)に移動させるときには、ウエハWを保持した保持部2を移動方向と反対方向に移動させて磁場形成部材3を相対的に移動方向に移動させると、液滴はウエハW表面を、磁場形成部材3A,3Bと共に、磁場勾配が小さい移動方向の前方側に向けて移動していく。
【0039】
この際、後述の実施例からも明らかなように、既述のように、永久磁石をハルバック型に配列した磁場形成部材3A,3Bを上下に組み合わせることにより、これら磁場形成部材3A,3Bの間では、3.2テスラ程度の磁場を形成することができ、直径が5mm〜10mm程度の液滴を移動することができることが認められている。
【0040】
続いて、図8〜図10を参照しながら、前記汚染物質分析装置1の作用について説明する。先ず、移載機構14により、載置部13に載置された、エッチング処理終了後のウエハWを、回収部11の保持部2に移載する。このとき、回収部11では、図8に示すように、保持部2を移載位置に位置させると共に、液滴供給ノズル41を移載位置、磁場形成部材3Aを待機位置に夫々上昇させ、液滴回収ノズル51を移載作業に干渉しない位置に移動しておく。そして、図9に示すように、載置部13からウエハを受け取った移載アーム15を、保持部2の上方側に進入させてから下降させることにより、保持部2にウエハを受け渡す。このとき、移載アーム15は、保持部2の切り欠き部15aを通過して、保持部2の下方側まで下降し、その後退行する。
【0041】
次いで、図10に示すように、ポンプP1を作動させて、液滴供給ノズル41から、直径10mm程度の液滴Lを、ウエハW表面における開始位置、例えばY方向の一端側(保持部2と反対側)におけるX方向のほぼ中央に供給する。そして、磁場形成部材3Aを液滴移動位置まで下降させてから、X軸駆動機構23によりウエハをX方向の一端側に向けて移動させ、こうして液滴Lをウエハ表面における前記一端側まで移動させた後、所定ピッチ分Y軸駆動機構24によりウエハWを移動させる。次いで、X軸駆動機構23によりウエハWをX方向の他端側に向けて移動させ、こうして液滴Lをウエハ表面における前記他端側まで移動させた後、所定ピッチ分Y軸駆動機構24によりウエハWを移動させる。 このようにして、X軸駆動機構23及びY軸駆動機構24により、磁場形成部材3に対して保持部2を相対的に移動させ、図10に点線にて移動経路を示すように、液滴LをウエハWの全面に亘って所定の移動経路で移動させる。この移動経路は、液滴Lがウエハ表面全体に満遍なく接触するように、ウエハ表面における液滴Lの大きさを考慮して決定される。このような一連の動作は、既述のように制御部100に格納されたプログラムによって実行される。
【0042】
そして、図10に示すように、ウエハ表面における終了位置、例えば、保持部2が移載位置にあるときに、回収位置T2にある液滴回収ノズル51により、当該ウエハ表面の液滴の回収が行われる位置に移動させる。この位置は、ウエハのY方向の他端側(保持部2側)におけるX方向のほぼ中央である。こうして液滴Lを移動させた後、磁場形成部材3Aを待機位置まで上昇させてから、保持部2を移載位置まで移動させる。このように磁場形成部材3Aを上昇させるのは、保持部2の移動に伴う液滴の移動を抑えるためである。 次いで、液滴回収ノズル51を回収位置T2に移動し、ポンプP2を作動させて、当該液滴回収ノズル51内に液滴Lを回収する。液滴Lが回収されたウエハは、移載機構14により載置部13に移載される。この移載動作は、液滴供給ノズル41及び液滴回収ノズル51を移載作業に干渉しない位置に移動しておいてから、移載アーム15を保持部2の下方側に進入させ、上昇させる。こうして保持部2から移載アーム15にウエハを受け取った後、当該移載アーム15を保持部2の上方側から退行させる。
【0043】
一方、液滴回収ノズル51は、ベルトコンベア54の移し替え位置T3に置かれた容器50の上方側に位置させ、ポンプP2の作動により、当該容器50内にノズル51内に保持された液滴を吐出する。この後、容器50をベルトコンベア54により分析位置T4まで搬送し、ここで、既述の手法にて、液滴内のハロゲンイオン等のイオン物質(汚染物質)の量を分析する。この結果、汚染物質の量が予め設定された閾値を越えていれば、汚染物質の原因となるエッチング装置内の残留物を除去するプロセスを組んだり、又はエッチング処理のプロセスレシピを変更する等といった、対応策が検討される。ウエハにハロゲンイオンが付着していると、大気中の水分と反応して配線が腐食するおそれがあるからである。一方、汚染物質の量が前記閾値値内であれば、エッチング装置において、現状のプロセスレシピにてエッチング処理が続行される。
【0044】
上述の実施の形態によれば、磁場形成部材3によりウエハWの表面上における液滴が位置する領域から前記表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成し、前記ウエハWと磁場形成部材3とを相対的に前記表面に沿って移動させているので、磁場形成部材3の相対的移動に伴い、前記液滴をウエハWの表面において前記磁場勾配に沿って移動させることができる。
【0045】
この際、ウエハW表面が親水性であって、液滴が純水であっても、液滴は反磁性体であるため、既述のように、磁場形成部材3から離れるように磁場勾配に沿って移動する。従って、ウエハW表面において、液滴形状を維持した状態で、液滴を移動することができる。
【0046】
これにより、ウエハ表面全体に液滴を満遍なく移動することができるので、ウエハ表面に付着した汚染物質を残すことなく液滴に溶解させることができ、この液滴を回収することにより、ウエハ表面に付着した汚染物質を確実に回収することができる。また液滴の液量が少ないため、汚染物質の希釈率が小さくなり、高精度に汚染物質濃度の分析を行うことができる。また、液滴の移動面積はウェハ全面から液滴径程度の大きさまで任意に調整する事が可能である。
【0047】
この際、磁場形成部材3は永久磁石を利用しているので、磁場を形成するために電力供給が不要である。このため、電界を利用して液滴を移動させる方式のような複雑な回路パターンや、電磁石を用いる場合に比べて、簡易な構成で、常に安定した磁場を形成することができる。従って、電界を利用して液滴を移動させる方式や電磁石を用いる構成に比べて製造コストが安価となる。また、磁場の形成のための電力供給が不要であり、駆動機構も保持部2のモータM1,M2であって、メンテナンスも容易であることから、運転コストが低減する。
【0048】
以上において、磁場形成部材3は、空隙33,36が形成されていない構成であってもよい。この場合であっても、磁場形成部材3により、前記ウエハWの表面上における液滴が位置する領域から前記表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配が形成されるので、前記ウエハWと磁場形成部材3とを相対的に前記表面に沿って移動させることにより、前記液滴を磁場勾配に沿って移動させることができる。
【0049】
また、磁場形成部材3A,3Bは、ウエハWの両面側に設けることにより、これら磁場形成部材3A,3Bの間に高磁場が形成されるが、液滴の反磁性の程度や大きさによっては、磁場形成部材3はウエハWの一方側に設けるようにしてもよい。さらに、ウエハWと磁場形成部材3とは相対的に移動する構成であればよく、例えば図11に示すように、磁場形成部材3側を移動させるようにしてもよい。図11中、20はウエハWの保持部2の支持台である。また、磁場形成部材3A,3Bは、支持枠61に支持され、支持部材62、移動部材63を介して、X軸駆動機構64、Y軸駆動機構65により、X方向及びY方向に移動自在に構成されている。図11中60は、磁場形成部材3A側の支持枠61を昇降させる昇降機構である。前記X軸移動機構64、Y軸移動機構65としては、例えばボールねじを利用した機構が用いられ、図中M4,M5はボールねじのモータである。
【0050】
さらに、本発明では、回収部11に対するウエハの搬送や、ウエハに対する液滴の供給や回収、回収部11と分析部12との間の容器50の搬送を作業者が手作業で行うようにしてもよい。また、ウエハに対する液滴の供給は、ウエハが保持部に保持される前に行うようにしてもよいし、ウエハに対する液滴の回収は、ウエハが保持部上にある場合以外に行うようにしてもよい。
【0051】
また、本発明の試料体はシリコンウエハには限らず、その表面が撥水性のものであってもよい。また、液滴は純水に限らず、過酸化水素溶液であってもよい。
【実施例】
【0052】
以下に、図12に示す実験装置を用い、磁場形成部材の移動により液滴が移動するか否かを確認するために行った実験について説明する。図中、81は、シリコンより構成された厚さ0.75mmの試料体であり、3A,3BはウエハWの両面に夫々配置された磁場形成部材である。磁場形成部材3A,3Bは、上述の構成のものを用い、永久磁石の材質は、ネオジウム、中間部材の材質は鉄とした。また、磁場形成部材3の大きさは、既述のとおりである。そして、磁場形成部材3A,3Bの間のギャップ(磁石間ギャップ)Gと、液適量を変え、磁場形成部材3の移動に伴い、液滴82が移動するか否かについて、目視により確認した。なお、直径が5mm〜10mmの液滴とは、液適量が20μl〜100μlに相当する。
【0053】
この結果について、図13に示す。図中縦軸は磁石間ギャップ、横軸は液適量を夫々示し、■は磁場形成部材の移動により移動した液滴、□は移動しなかった液滴を夫々示している。この結果、磁場形成部材の移動に伴い、親水性のシリコンウエハの表面において、液滴が移動することが認められた。また、液滴量が少ないときには、液滴を移動させるためには、磁場形成部材同士の間のギャップを小さくして、磁束密度を高める必要があることが理解される。
【符号の説明】
【0054】
11 回収部
12 分析部
2 保持部
23 X軸移動機構
24 Y軸移動機構
3(3A,3B) 磁場形成部材
31,34 永久磁石
32、35 芯部材
33,36 空隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場形成部材と試料体とを相対的に移動させて、試料体の表面において液滴を移動させ、回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
処理装置の性能の検査や、プロセス条件の決定等を行うために、評価用の基板例えば半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)を装置内にて処理し、そのウエハの汚染状況を調べることが行われている。この評価は、例えばエッチング処理の後や洗浄処理の後に行われ、ウエハに付着している金属やハロゲン等のイオン等の汚染物質の量を分析している。
例えば金属汚染量を評価する場合には、酸溶液を用いてウエハ上の汚染物質を溶解し、また、イオン物質汚染量を評価する場合には、純水を用いてウエハ上の汚染物質を溶解する。そして、これら溶液を回収し、当該溶液中の金属濃度やイオン物質濃度を夫々検出することが行われる。この際、前記汚染物質を溶解する溶液の量が多いと、汚染物質の希釈率が大きくなり、高精度な分析を行いにくいため、ウエハ表面にて少量の液滴を走査させ、当該液滴に汚染物質を溶解させることが好ましい。
【0003】
ところで、シリコンウエハの汚染状況を評価する場合、ウエハの表面は酸化して、親水性のシリコン酸化膜(SiO2)となっている。ここで、酸溶液を用いた金属汚染量の評価では、ウエハ表面では、フッ酸(HF)を含む酸溶液が前記SiO2を溶解してウェハ表面が疎水性となるため、ウエハ上に酸溶液の液滴を形成して当該液滴を走査させることができ、特に問題はない。一方、イオン物質の付着状況の評価は純水を用いているので、親水性のウエハ表面と、純水との間で十分な表面張力を確保することができず、純水の液滴を形成して走査させることは困難である。このため、例えばトレイ内にウエハを載置し、当該トレイ内にてウエハの表面が覆われるまで純水を溜め、ウエハ表面の汚染物質を溶解させることが行われている。
【0004】
しかしながら、この手法にて300mmサイズのウエハを評価する場合、純水が100〜300ml程度必要となる。このため、汚染物質量に対して純水の量が多く、希釈率が大きすぎて、汚染物質濃度の分析感度が低下してしまう。その対策として、ウエハに数mlの液滴を滴下し、この液滴の周囲に多数の吐出口からエアーを吐出させ、エアーにより液滴を閉じ込めた状態で、液滴を移動させる手法が検討されている。しかしながら、この手法では、大量のエアーが必要である。また、ウエハ表面の親水性が大きい場合には液滴の形状を維持することが不安定になり、さらに、周囲の環境成分も取り込んでしまうため分析精度に不安が残るという懸念がある。
【0005】
ところで、前記液滴を移動させる方法として、特許文献1には、塗布剤に超電導磁石による磁界を印加させて、塗布液を広げる技術が提案されている。しかしながら、超電導磁石は高価であり、コスト的に不利である。また、特許文献2には、被測定物の表面をHNO3等の蒸気にて曝露し、次いで被測定物の表面を回収液で覆い、この回収液を回収して当該回収液中の不純物量を測定する手法が記載されている。しかしながら、この手法では、被測定物の表面をHNO3等の蒸気にて曝露する工程が必要であり、被測定表面に残留する硝酸(HNO3)成分の影響によって、汚染解析対象となるイオン成分のNO3-およびNO2- の計測が困難となる。さらに、電気的に濡れ性を制御するエレクトロウェッティング法も知られているが、電気的に液滴を移動させる方法では、微細な回路を形成する必要があるため、構成が複雑化し、製造コストや運転コストが高くなる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−137666号公報
【特許文献2】特開平10−332554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、簡易な手法で、液滴を試料体の表面に沿って移動させ、試料体の表面の汚染物質を回収することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明の汚染物質回収装置は、
非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する装置であって、
前記試料体を保持する保持部と、
前記試料体に供給された液滴が位置する領域から当該試料体の表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成する磁場形成部材と、
前記液滴を磁場勾配に沿って移動させるために、前記保持部と磁場形成部材とを相対的に前記試料体の表面に沿って移動させるための移動機構と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の汚染物質回収方法は、
非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する方法であって、
前記試料体を保持する工程と、
前記試料体に液滴を供給する工程と、
前記試料体上の液滴が位置する領域から当該試料体の表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を磁場形成部材により形成する工程と、
前記液滴を磁場勾配に沿って移動させるために、前記保持部と磁場形成部材とを相対的に前記試料体の表面に沿って移動させる工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料体の表面において液滴を移動させるにあたり、磁場形成部材により、試料体の表面上における液滴が位置する領域から前記表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成し、前記試料体と磁場形成部材とを相対的に前記表面に沿って移動させることにより、前記液滴を前記磁場勾配に沿って移動させている。従って、磁場形成部材を試料体と相対的に移動させるという簡易な手法で試料体の表面にて液滴を移動させ、前記表面の汚染物質を液滴に溶解して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る汚染物質回収装置を備えた汚染物質分析装置の一実施の形態を示す平面図である。
【図2】前記汚染物質分析装置の要部を示す側面図である。
【図3】前記汚染物質回収装置の概略を示す斜視図である。
【図4】前記汚染物質回収装置に用いられる磁場形成部材を示す斜視図である。
【図5】前記磁場形成部材を示す断面図である。
【図6】前記磁場形成部材により形成される磁場のイメージを示す平面図である。
【図7】ウエハ表面に沿って磁場形成部材により液滴が移動する様子を示す断面図である。
【図8】前記汚染物質回収装置の作用を説明するための側面図である。
【図9】前記汚染物質回収装置の作用を説明するための側面図である。
【図10】本発明に係る汚染物質回収方法の一実施の形態を示す平面図である。
【図11】本発明の汚染物質回収装置の他の例を示す概略斜視図である。
【図12】磁場形成部材による液滴の移動実験にて用いられた実験装置を示す側面図である。
【図13】磁場形成部材による液滴の移動実験において、磁場形成部材同士のギャップと、液適量との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の汚染物質回収装置を備えた汚染物質分析装置の一実施の形態を示す平面図であり、図2はその一部の側面図、図3はその要部の概略斜視図である。前記汚染物質分析装置は、処理室10内に本発明の汚染物質回収装置よりなる回収部11と、汚染物質量の分析を行う分析部12と、を備えている。前記回収部11は、非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する装置であり、前記非磁性材からなる試料体としては、例えばケイ素を含むシリコンウエハや、ケイ素と炭素とを含むSiC基板、ケイ素と酸素とを含むSiO基板や、フォトレジスト等の有機膜等が用いられるが、以下では、試料体がシリコンウエハWである場合を例にして説明する。
【0013】
前記回収部11には前記ウエハWを保持する保持部2が設けられており、この保持部2は例えば非磁性体例えばガラスや樹脂等により構成されている。図1〜図3中、処理室10の幅方向をX方向、処理室10の長さ方向をY方向として説明すると、前記保持部2は例えばウエハWの一部を保持するように前記Y方向に長い長方形状の板状体により構成されている。
また、当該保持部2は支持部21を介して移動部材22に取り付けられている。この移動部材22は、X軸駆動機構23によりX方向に移動自在に構成されていると共に、前記X軸駆動機構23は、Y軸駆動機構24によりY方向に移動自在に構成されている。これらX軸駆動機構23及びY軸駆動機構24としては、例えばボールネジを利用した駆動機構が用いられ、夫々駆動部をなすモータM1,M2によりボールネジが回転するように構成されている。
【0014】
これらモータM1,M2には図示しないエンコーダが接続されており、後述する制御部100がエンコーダのパルス数のカウント値に基づいてモータM1,M2を介して、ウエハWの移動、停止制御を行っている。こうしてウエハWはX方向及びY方向に移動自在に構成される。この例では、保持部2、支持部材21、移動部材22、X軸駆動機構23、Y軸駆動機構24により、移動機構が構成されている。
【0015】
ここで、図1及び図2に示す保持部2の位置は、後述する移載機構により当該保持部2に対してウエハの移載を行う移載位置であり、ウエハは当該移載位置にて保持部2に移載された後、Y方向の一端側(図1及び図2中左側)に向けて移動する。従って、以降の説明では、前記Y方向の一端側を移動方向の前方側、Y方向の他端側(図1及び図2中右側)を移動方向の後方側として説明する。
【0016】
また、前記回収部11は、保持部2に保持されたウエハWに供給された液滴が位置する領域から、当該ウエハWの表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成する磁場形成部材3を備えている。この例では、磁場形成部材3は、前記保持部2に保持されたウエハWの両面側に、当該ウエハWを介して対向する一対の磁場形成部材3A,3Bにより構成されている。これら磁場形成部材3A,3Bは、前記移載位置にある保持部2上のウエハに対して、移動方向の前方側であって、前記ウエハのX方向のほぼ中央に、ウエハと干渉しないように設けられている。
【0017】
これら磁場形成部材3A,3Bとしては、例えば永久磁石をハルバック型に配列した磁石が用いられる。具体的に前記磁場形成部材3A,3Bの構造について、磁場形成部材3Aを例にして、図4に基づいて説明する。当該磁場形成部材3Aは、複数の永久磁石31を環状に配列すると共に、その中央に飽和磁束密度の高い部材より構成された芯部材32を設けて構成される。この例では、磁場形成部材4A及び芯部材32は、夫々平面形状が正方形状の四角柱状に構成され、その底面がウエハWの表面と平行になるように配置されている。
【0018】
前記飽和磁束密度の高い部材として例えば鉄等の金属が用いられ、永久磁石31A〜31Dの材質としては、ネオジウム等が用いられる。そして、前記芯部材42の周囲に、平面形状が台形状の4つの永久磁石31A〜31Dを、例えば外側がN極になるように配列して構成されている。図4中矢印は、磁力線の方向を示している。
【0019】
また、この磁場形成部材3Aは、磁場が局所的に小さい領域を形成するように構成されている。このため、ウエハWの表面に沿った方向で見たときに透磁率が局所的に小さくなる部分を備えており、この部分は、磁場形成部材3Bの厚み方向(Z方向)全体に形成された空隙33として構成されている。前記空隙33は平面形状が長方形であって、磁場形成部材3Aの芯部材32と永久磁石31Dの間に跨るように、磁場形成部材3Aの中心近傍から外側に向けて伸びる長方形状に構成されている。
【0020】
一方、磁場形成部材3Bも磁場形成部材3Aと同様に、中央に飽和磁束密度の高い部材よりなる芯部材35を設けると共に、この芯部材35の外側に4つの永久磁石34A〜34Dを配列して構成され、磁場形成部材3Bの上面がウエハWと平行になるように配置されている。また磁場形成部材3Bの、4つの永久磁石34A〜34Dは外側がS極になるように配列され、磁場形成部材3Aの空隙33と対応する位置に、同様の形状の空隙36が、磁場形成部材3Bの厚み方向(Z方向)全体に形成されている。
【0021】
このように、夫々の磁場形成部材3A,3Bでは、その内部に飽和磁束密度の高い芯部材32,35を設けると共に、この芯部材32,35の外側に、外部磁界の向きと同じになるように永久磁石を配列して構成されている。このため、芯部材32,35の下方側においては磁場が大きく、芯部材32,35から外方に向かうにつれて磁場が小さくなる磁場勾配が形成される。一方、芯部材32,35の下方側における、空隙33,36を囲む領域は磁場が局所的に小さい領域として構成される。
【0022】
また、このような磁場形成部材3A,3Bを、永久磁石31,34の磁極が互いに異なるように構成し、上下に組み合わせているので、磁場形成部材3A,3Bの芯部材32,35が設けられた領域の間の空間には、磁場形成部材3A,3Bを単独で配置した場合よりも、大きな磁場が形成される。一方、空隙33,36を囲む領域は磁場が局所的に小さい領域として構成されているので、空隙33,36を囲む領域と、空隙33,36の外側の領域との間には、大きな磁場勾配形成されることになる。
【0023】
これら磁場形成部材3A,3Bは、互いに所定間隔を開けて対向するように、夫々処理室10の天井部及び底部に支持部材37A,37Bを介して取り付けられている。また、例えば上側の磁場形成部材3Aの支持部材37Aは、磁場形成部材3A,3B同士が最も接近する液滴移動位置と、液滴移動位置よりも上方側の待機位置との間で、昇降機構38により昇降自在に構成され、磁場形成部材3A,3B同士の間隔が変えられるようになっている。さらに、前記磁場形成部材3Aが液滴移動位置にあるときに、磁場形成部材3A、3B同士の間を、保持部2に保持されたウエハWが通過できるように、磁場形成部材3A,3B同士の間隔が設定されている。
【0024】
ここで、磁場形成部材3A,3Bの大きさの一例について説明すると、例えば正方形を構成する一辺が50mmに設定され、芯部材32,35は正方形を構成する一辺が例えば10mmに設定され、空隙33,36は、例えば縦5mm、横5mmに夫々設定される。 また、ウエハWと保持部2の積層体の厚さは例えば2mmに設定され、磁場形成部材3Aの底面とウエハW表面との距離は例えば1mm、保持部2の裏面と磁場形成部材3Bの上面との距離は例えば0.5mmに夫々設定される。
【0025】
さらに、上述の回収部11は、前記移載位置にある保持部2上のウエハWに対して、汚染物質回収用の液滴を供給する液滴供給ノズル41を備えている。この液滴供給ノズル41は、前記磁場形成部材3Aの近傍、例えば前記移載位置にあるウエハWのY方向の一端側におけるX方向のほぼ中央に前記液滴を供給するように設けられている。この例では、液滴供給ノズル41は、例えば処理室10の天井部に取り付けられた昇降機構42により、前記保持部2上のウエハWに対して液滴を供給する供給位置T1と、この供給位置T1よりも上方側の移載位置との間で昇降自在に構成されている。前記移載位置とは、後述する移載機構と保持部2との間でウエハの移載を行うときに当該移載作業を妨げない位置である。
【0026】
また、液滴供給ノズル41には、ポンプP1を備えた供給路43aにより、汚染物質回収用の回収液例えば純水を貯留する回収液貯留部43が接続されている。そして、前記ポンプP1の作動により、回収液貯留部43から所定量例えば0.02ml〜10mlの純水を保持部2上のウエハの所定位置に供給するように構成されている。なお、ポンプP1の代わりにバルブの開閉により、回収液貯留部43から所定量の純水をウエハに供給するようにしてもよい。この例では、液滴供給ノズル41、ポンプP1、供給路43a、回収液貯留部43により、液滴供給部が構成されている。
【0027】
さらにまた、上述の回収部11は、ウエハWから汚染物質回収用の液滴を回収するための液滴回収ノズル51を備えている。この液滴回収ノズル51は、例えば前記移載位置にあるウエハWのY方向の他端側におけるX方向のほぼ中央にて、前記液滴を回収するように設けられている。この例では、液滴回収ノズル51は、図2に示すように、駆動機構53により昇降自在及び鉛直軸まわりに回動自在に設けられた支持アーム52によって、ウエハ上の液滴を回収する回収位置T2と、この回収位置T2よりも前記移動方向の後方側の移し替え位置T3との間で移動自在に構成されている。前記移し替え位置T3とは、回収された液滴を容器50に供給する位置である。この容器50は、例えばガラス等によりシャーレ状に構成され、その上縁には略水平に伸びる鍔部50aが形成されている。
【0028】
また、液滴回収ノズル51にはポンプP2が接続されており、このポンプP2の作動により、ウエハ表面の液滴をノズル51内に吸い込むことにより当該ノズル51内に回収して保持したり、当該ノズル51内に保持された液滴を前記容器50に吐出するように構成されている。この例では、液滴回収ノズル51とポンプP2とにより、液滴回収部が構成されている。
【0029】
さらに、前記移し替え位置T3にある容器50は、搬送機構により分析部12に搬送されるように構成され、この例では、前記搬送機構はY方向に伸びるベルトコンベア54により構成されている。図中M3はベルトコンベア54の駆動モータである。このベルトコンベア54の上部では、Y方向の一端側が前記移し替え位置T3に相当し、他端側が分析位置T4に相当する。そして、前記分析部12では、移し替え位置T3にて分析用の液滴が供給された容器50が分析位置T4までベルトコンベア54により搬送されるようになっている。
【0030】
また、前記分析位置T4では、薬液供給部55から所定の薬液が容器50内に供給された後、例えばイオンクロマトグラフィーのような計測装置に導入することにより、回収された液滴中の汚染物質(イオン成分)の量の分析が行われる。こうして、分析位置T4にて汚染物質の分析が行われた容器50は、ベルトコンベア54により再び移し替え位置T3まで戻される。
【0031】
図1中56は、容器50の移載アームであり、容器50の鍔部50aを下方側から支持するアーム部56aが、進退自在、昇降自在及び鉛直軸周りに回転自在に構成されている。この移載アーム56は、前記ベルトコンベア54上の移し替え位置T3と、多数の容器50が多段に配設される容器棚57との間で、容器50を移載するように構成されている。この容器棚57には、使用前の容器50や、使用済みの容器50が互いに区画されて、多段に収納されている。
【0032】
さらに、汚染物質分析装置は、ウエハを載置する載置部13を備えており、移載機構14により、この載置部13と前記移載位置にある保持部2との間でウエハWの移載が行われるように構成されている。前記移載機構14は、ウエハを保持するU字型の保持アーム15が進退自在、昇降自在、鉛直軸周りに回転自在に構成されている。一方、保持部2には、図8及び図9に示すように、保持アーム15の昇降を妨げないように、当該保持アーム15に対応する切り欠き2aが形成されている。
【0033】
また、この汚染物質分析装置は制御部100を備えている。この制御部100は、例えばコンピュータからなり、プログラム、メモリ、CPUからなるデータ処理部を備えていて、前記プログラムには制御部100から回収部11の昇降機構38,42、駆動機構53、モータM1,M2、ポンプP1,P2、分析部12のモータM3等に制御信号を送り、汚染物質回収用の液滴をウエハW上に供給し、予め設定した移動軌跡に沿って移動させ、次いで液滴を回収し、当該液滴内の汚染物質の量を分析するという一連の動作を自動で実施するように命令(各ステップ)が組み込まれている。このプログラムは、コンピュータ記憶媒体例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)等の記憶部に格納されて制御部100にインストールされる。
【0034】
続いて、この汚染物質分析装置の作用について、例えばエッチング処理の後に、純水よりなる汚染物質回収用の液滴を用いて、ウエハに付着しているハロゲンイオン等のイオン物質を汚染物質として回収する場合を例にして説明する。この際、回収部11では、ウエハWの表面において、液滴がモーゼ効果により、磁場形成部材3によって形成された磁場勾配に沿って移動する。つまり、ウエハWは2つの磁場形成部材3A,3Bの間に存在するため、ウエハWの表面には、既述のように強力な磁場が形成されている。一方、当該実施の形態で用いられる液滴は純水であって、弱い反磁性体であるため、当該液滴は、磁場形成部材3A,3Bの間に形成される強力な磁場から離れようとして、磁場の弱いエリアに移動していく。
【0035】
こうして、磁場形成部材3に対してウエハW(保持部2)を移動させると、液滴は、ウエハ表面上を磁場形成部材3によって形成された磁場勾配の小さい方へ移動していくことになる。この際、磁場勾配が大きいほど、磁場の強いエリアから弱いエリアに向かう力が大きくなり、液滴がスムーズに移動する。
【0036】
ここで、図6に磁場のイメージを示す。磁場形成部材3A,3Bにより形成された磁場300において、芯部材32、35に対応する領域301が最も大きく、ここから外方に向かうに連れて磁場が小さくなっていく。図6中、磁場の大きさは4段階にて示しており、磁場の大きさは磁場301>磁場302>磁場303>磁場304であるが、実際には無段階に小さくなる。
【0037】
また、既述のように、前記磁場形成部材3A,3Bには、空隙33,36が形成されているので、図6に示すように、空隙33,36に対応する領域には、磁場が小さい局所領域304が形成される。この局所領域304は、芯部材32,35の中央側に頂点があり、ここから空隙33,36の長さ方向に向かって広がる二等辺三角形状に形成されると推察される。このため、液滴は、強い磁場から離れようとして、結果的に2つの等辺の間に収まって、前記局所領域304に閉じ込められる状態となる。
【0038】
そして、図7に示すように、磁場形成部材3A,3Bにより形成される磁場の局所領域が液滴の移動方向の前方側に位置するように、保持部2を磁場形成部材3に対して移動させることにより、液滴Lがウエハ表面を前記磁場の局所領域にトラップされた状態で移動していくことになる。従って、液滴LをウエハWのX方向(Y方向)に移動させるときには、ウエハWを保持した保持部2を移動方向と反対方向に移動させて磁場形成部材3を相対的に移動方向に移動させると、液滴はウエハW表面を、磁場形成部材3A,3Bと共に、磁場勾配が小さい移動方向の前方側に向けて移動していく。
【0039】
この際、後述の実施例からも明らかなように、既述のように、永久磁石をハルバック型に配列した磁場形成部材3A,3Bを上下に組み合わせることにより、これら磁場形成部材3A,3Bの間では、3.2テスラ程度の磁場を形成することができ、直径が5mm〜10mm程度の液滴を移動することができることが認められている。
【0040】
続いて、図8〜図10を参照しながら、前記汚染物質分析装置1の作用について説明する。先ず、移載機構14により、載置部13に載置された、エッチング処理終了後のウエハWを、回収部11の保持部2に移載する。このとき、回収部11では、図8に示すように、保持部2を移載位置に位置させると共に、液滴供給ノズル41を移載位置、磁場形成部材3Aを待機位置に夫々上昇させ、液滴回収ノズル51を移載作業に干渉しない位置に移動しておく。そして、図9に示すように、載置部13からウエハを受け取った移載アーム15を、保持部2の上方側に進入させてから下降させることにより、保持部2にウエハを受け渡す。このとき、移載アーム15は、保持部2の切り欠き部15aを通過して、保持部2の下方側まで下降し、その後退行する。
【0041】
次いで、図10に示すように、ポンプP1を作動させて、液滴供給ノズル41から、直径10mm程度の液滴Lを、ウエハW表面における開始位置、例えばY方向の一端側(保持部2と反対側)におけるX方向のほぼ中央に供給する。そして、磁場形成部材3Aを液滴移動位置まで下降させてから、X軸駆動機構23によりウエハをX方向の一端側に向けて移動させ、こうして液滴Lをウエハ表面における前記一端側まで移動させた後、所定ピッチ分Y軸駆動機構24によりウエハWを移動させる。次いで、X軸駆動機構23によりウエハWをX方向の他端側に向けて移動させ、こうして液滴Lをウエハ表面における前記他端側まで移動させた後、所定ピッチ分Y軸駆動機構24によりウエハWを移動させる。 このようにして、X軸駆動機構23及びY軸駆動機構24により、磁場形成部材3に対して保持部2を相対的に移動させ、図10に点線にて移動経路を示すように、液滴LをウエハWの全面に亘って所定の移動経路で移動させる。この移動経路は、液滴Lがウエハ表面全体に満遍なく接触するように、ウエハ表面における液滴Lの大きさを考慮して決定される。このような一連の動作は、既述のように制御部100に格納されたプログラムによって実行される。
【0042】
そして、図10に示すように、ウエハ表面における終了位置、例えば、保持部2が移載位置にあるときに、回収位置T2にある液滴回収ノズル51により、当該ウエハ表面の液滴の回収が行われる位置に移動させる。この位置は、ウエハのY方向の他端側(保持部2側)におけるX方向のほぼ中央である。こうして液滴Lを移動させた後、磁場形成部材3Aを待機位置まで上昇させてから、保持部2を移載位置まで移動させる。このように磁場形成部材3Aを上昇させるのは、保持部2の移動に伴う液滴の移動を抑えるためである。 次いで、液滴回収ノズル51を回収位置T2に移動し、ポンプP2を作動させて、当該液滴回収ノズル51内に液滴Lを回収する。液滴Lが回収されたウエハは、移載機構14により載置部13に移載される。この移載動作は、液滴供給ノズル41及び液滴回収ノズル51を移載作業に干渉しない位置に移動しておいてから、移載アーム15を保持部2の下方側に進入させ、上昇させる。こうして保持部2から移載アーム15にウエハを受け取った後、当該移載アーム15を保持部2の上方側から退行させる。
【0043】
一方、液滴回収ノズル51は、ベルトコンベア54の移し替え位置T3に置かれた容器50の上方側に位置させ、ポンプP2の作動により、当該容器50内にノズル51内に保持された液滴を吐出する。この後、容器50をベルトコンベア54により分析位置T4まで搬送し、ここで、既述の手法にて、液滴内のハロゲンイオン等のイオン物質(汚染物質)の量を分析する。この結果、汚染物質の量が予め設定された閾値を越えていれば、汚染物質の原因となるエッチング装置内の残留物を除去するプロセスを組んだり、又はエッチング処理のプロセスレシピを変更する等といった、対応策が検討される。ウエハにハロゲンイオンが付着していると、大気中の水分と反応して配線が腐食するおそれがあるからである。一方、汚染物質の量が前記閾値値内であれば、エッチング装置において、現状のプロセスレシピにてエッチング処理が続行される。
【0044】
上述の実施の形態によれば、磁場形成部材3によりウエハWの表面上における液滴が位置する領域から前記表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成し、前記ウエハWと磁場形成部材3とを相対的に前記表面に沿って移動させているので、磁場形成部材3の相対的移動に伴い、前記液滴をウエハWの表面において前記磁場勾配に沿って移動させることができる。
【0045】
この際、ウエハW表面が親水性であって、液滴が純水であっても、液滴は反磁性体であるため、既述のように、磁場形成部材3から離れるように磁場勾配に沿って移動する。従って、ウエハW表面において、液滴形状を維持した状態で、液滴を移動することができる。
【0046】
これにより、ウエハ表面全体に液滴を満遍なく移動することができるので、ウエハ表面に付着した汚染物質を残すことなく液滴に溶解させることができ、この液滴を回収することにより、ウエハ表面に付着した汚染物質を確実に回収することができる。また液滴の液量が少ないため、汚染物質の希釈率が小さくなり、高精度に汚染物質濃度の分析を行うことができる。また、液滴の移動面積はウェハ全面から液滴径程度の大きさまで任意に調整する事が可能である。
【0047】
この際、磁場形成部材3は永久磁石を利用しているので、磁場を形成するために電力供給が不要である。このため、電界を利用して液滴を移動させる方式のような複雑な回路パターンや、電磁石を用いる場合に比べて、簡易な構成で、常に安定した磁場を形成することができる。従って、電界を利用して液滴を移動させる方式や電磁石を用いる構成に比べて製造コストが安価となる。また、磁場の形成のための電力供給が不要であり、駆動機構も保持部2のモータM1,M2であって、メンテナンスも容易であることから、運転コストが低減する。
【0048】
以上において、磁場形成部材3は、空隙33,36が形成されていない構成であってもよい。この場合であっても、磁場形成部材3により、前記ウエハWの表面上における液滴が位置する領域から前記表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配が形成されるので、前記ウエハWと磁場形成部材3とを相対的に前記表面に沿って移動させることにより、前記液滴を磁場勾配に沿って移動させることができる。
【0049】
また、磁場形成部材3A,3Bは、ウエハWの両面側に設けることにより、これら磁場形成部材3A,3Bの間に高磁場が形成されるが、液滴の反磁性の程度や大きさによっては、磁場形成部材3はウエハWの一方側に設けるようにしてもよい。さらに、ウエハWと磁場形成部材3とは相対的に移動する構成であればよく、例えば図11に示すように、磁場形成部材3側を移動させるようにしてもよい。図11中、20はウエハWの保持部2の支持台である。また、磁場形成部材3A,3Bは、支持枠61に支持され、支持部材62、移動部材63を介して、X軸駆動機構64、Y軸駆動機構65により、X方向及びY方向に移動自在に構成されている。図11中60は、磁場形成部材3A側の支持枠61を昇降させる昇降機構である。前記X軸移動機構64、Y軸移動機構65としては、例えばボールねじを利用した機構が用いられ、図中M4,M5はボールねじのモータである。
【0050】
さらに、本発明では、回収部11に対するウエハの搬送や、ウエハに対する液滴の供給や回収、回収部11と分析部12との間の容器50の搬送を作業者が手作業で行うようにしてもよい。また、ウエハに対する液滴の供給は、ウエハが保持部に保持される前に行うようにしてもよいし、ウエハに対する液滴の回収は、ウエハが保持部上にある場合以外に行うようにしてもよい。
【0051】
また、本発明の試料体はシリコンウエハには限らず、その表面が撥水性のものであってもよい。また、液滴は純水に限らず、過酸化水素溶液であってもよい。
【実施例】
【0052】
以下に、図12に示す実験装置を用い、磁場形成部材の移動により液滴が移動するか否かを確認するために行った実験について説明する。図中、81は、シリコンより構成された厚さ0.75mmの試料体であり、3A,3BはウエハWの両面に夫々配置された磁場形成部材である。磁場形成部材3A,3Bは、上述の構成のものを用い、永久磁石の材質は、ネオジウム、中間部材の材質は鉄とした。また、磁場形成部材3の大きさは、既述のとおりである。そして、磁場形成部材3A,3Bの間のギャップ(磁石間ギャップ)Gと、液適量を変え、磁場形成部材3の移動に伴い、液滴82が移動するか否かについて、目視により確認した。なお、直径が5mm〜10mmの液滴とは、液適量が20μl〜100μlに相当する。
【0053】
この結果について、図13に示す。図中縦軸は磁石間ギャップ、横軸は液適量を夫々示し、■は磁場形成部材の移動により移動した液滴、□は移動しなかった液滴を夫々示している。この結果、磁場形成部材の移動に伴い、親水性のシリコンウエハの表面において、液滴が移動することが認められた。また、液滴量が少ないときには、液滴を移動させるためには、磁場形成部材同士の間のギャップを小さくして、磁束密度を高める必要があることが理解される。
【符号の説明】
【0054】
11 回収部
12 分析部
2 保持部
23 X軸移動機構
24 Y軸移動機構
3(3A,3B) 磁場形成部材
31,34 永久磁石
32、35 芯部材
33,36 空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する装置であって、
前記試料体を保持する保持部と、
前記試料体に供給された液滴が位置する領域から当該試料体の表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成する磁場形成部材と、
前記液滴を磁場勾配に沿って移動させるために、前記保持部と磁場形成部材とを相対的に前記試料体の表面に沿って移動させるための移動機構と、を備えたことを特徴とする汚染物質回収装置。
【請求項2】
前記試料体は板状体であり、
前記磁場形成部材は、試料体の両面側に当該試料体を介して対向していることを特徴とする請求項1記載の汚染物質回収装置。
【請求項3】
液滴を前記試料体の表面にて予め設定した移動軌跡に沿って移動させるように前記移動機構を制御する制御部を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の汚染物質回収装置。
【請求項4】
前記試料体に汚染物質回収用の液滴を供給する液滴供給部を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の汚染物質回収装置。
【請求項5】
前記試料体から汚染物質回収用の液滴を回収する液滴回収部を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の汚染物質回収装置。
【請求項6】
前記磁場形成部材は、局所領域に液滴を閉じ込める作用を大きくするために、前記表面に沿ってその全周を囲む領域よりも磁場が局所的に小さい領域を形成するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の汚染物質回収装置。
【請求項7】
前記磁場形成部材は、前記磁場が局所的に小さい領域を形成するために、前記表面に沿った方向で見たときに透磁率が局所的に小さくなる部分を備えていることを特徴とする請求項6記載の汚染物質回収装置。
【請求項8】
前記透磁率が局所的に周囲よりも小さくなる部分は、空隙として構成されていることを特徴とする請求項7記載の汚染物質回収装置。
【請求項9】
非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する方法であって、
前記試料体を保持する工程と、
前記試料体に液滴を供給する工程と、
前記試料体上の液滴が位置する領域から当該試料体の表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を磁場形成部材により形成する工程と、
前記液滴を磁場勾配に沿って移動させるために、前記保持部と磁場形成部材とを相対的に前記試料体の表面に沿って移動させる工程と、を備えたことを特徴とする汚染物質回収方法。
【請求項1】
非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する装置であって、
前記試料体を保持する保持部と、
前記試料体に供給された液滴が位置する領域から当該試料体の表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を形成する磁場形成部材と、
前記液滴を磁場勾配に沿って移動させるために、前記保持部と磁場形成部材とを相対的に前記試料体の表面に沿って移動させるための移動機構と、を備えたことを特徴とする汚染物質回収装置。
【請求項2】
前記試料体は板状体であり、
前記磁場形成部材は、試料体の両面側に当該試料体を介して対向していることを特徴とする請求項1記載の汚染物質回収装置。
【請求項3】
液滴を前記試料体の表面にて予め設定した移動軌跡に沿って移動させるように前記移動機構を制御する制御部を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の汚染物質回収装置。
【請求項4】
前記試料体に汚染物質回収用の液滴を供給する液滴供給部を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の汚染物質回収装置。
【請求項5】
前記試料体から汚染物質回収用の液滴を回収する液滴回収部を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の汚染物質回収装置。
【請求項6】
前記磁場形成部材は、局所領域に液滴を閉じ込める作用を大きくするために、前記表面に沿ってその全周を囲む領域よりも磁場が局所的に小さい領域を形成するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の汚染物質回収装置。
【請求項7】
前記磁場形成部材は、前記磁場が局所的に小さい領域を形成するために、前記表面に沿った方向で見たときに透磁率が局所的に小さくなる部分を備えていることを特徴とする請求項6記載の汚染物質回収装置。
【請求項8】
前記透磁率が局所的に周囲よりも小さくなる部分は、空隙として構成されていることを特徴とする請求項7記載の汚染物質回収装置。
【請求項9】
非磁性材からなる試料体の表面の汚染物質を液滴により回収する方法であって、
前記試料体を保持する工程と、
前記試料体に液滴を供給する工程と、
前記試料体上の液滴が位置する領域から当該試料体の表面に沿って離れるにつれて磁場が小さくなる磁場勾配を磁場形成部材により形成する工程と、
前記液滴を磁場勾配に沿って移動させるために、前記保持部と磁場形成部材とを相対的に前記試料体の表面に沿って移動させる工程と、を備えたことを特徴とする汚染物質回収方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−32338(P2012−32338A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173888(P2010−173888)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】
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