説明

汚染環境に備え付けられる物品の表面保護構造

【課題】本発明は、汚染環境に備え付けられる物品に関し、その表面構造を改善することで、物品の表面を汚染物から保護しやすくする。
【解決手段】物品は基材を含むものであり、基材の汚染環境に接する側の表面に、
少なくとも一つの末端に加水分解可能な官能基を2個又は3個有し、且つジメチルシロキサンユニット(−Si(CHO−)の数が30〜400である直鎖状ポリジメチルシロキサン、及び
加水分解可能な官能基を有し、且つフルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数が1〜12であるフルオロアルキルシランのそれぞれを、加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合せしめ、加水分解反応前において、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの質量比が15:1〜1:10とし、前記ジメチルシロキサンユニットと前記フルオロカーボンユニットを物品の表面に露出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染環境に備え付けられる物品の表面を汚染物から保護するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分煙化が進み、例えば、建造物内等では、喫煙する空間は、仕切られた空間とされ、該空間の仕切りには、スリガラス、模様が刻まれた間仕切りガラス等の不透明ガラスが使用され、該ガラスは、枠体等と共に該空間に備え付けられている。該空間は、汚染環境の一つであり、その他の汚染環境として、喫煙者の多いパチンコ、スロットマシーン等の複数の遊戯機器を抱える遊戯空間、喫煙者の住居する居住空間等があり、これら空間に備え付けられる物品として、鏡、衛生陶器、タイル、仕切り壁、間仕切りガラス等の不透明物品が挙げられる。
【0003】
また、汚染環境に備え付けられる物品の表面を汚染する脂源として、煙草の他に指紋を始めとする人の皮脂、化粧品やハンドクリーム、スキンクリーム、サンオイル、枠体からのシリコンシーラント、テープの粘着剤等があり、汚染環境に備え付けられる物品は、通常の営みで、脂等で頻繁に脂汚れにさらされることになる。脂等で表面が汚染された物品は、黄色や茶色を帯びた色味となり、しかも洗浄に労力を要す。
【0004】
特許文献1及び2は、物品表面に光半導体粒子を担持し、紫外線照射で物品の表面に付着した脂汚染を分解し、表面を浄化する方法を開示している。
【特許文献1】特開平7−51646号公報
【特許文献2】再公表98/12048号公報
【特許文献3】国際公開2006/22118号のパンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脂等の汚染物が物体の表面に付着してそれが蓄積されていくと、物体表面から汚染物を取り除くことが難しくなる。特に汚染物の物体の表面への付着態様が被膜化されたものである場合には一層物体表面から汚染物を取り除くことが難しくなっていく。これは、特に煙草の喫煙によって生じた脂汚染の場合には顕著となる。また、汚染環境が、特に閉鎖された空間の場合では、脂等の汚染物の物体の表面へ付着する頻度が高く、物体表面への汚染物の蓄積が速くなる。
【0006】
物品の表面にこうした汚染物が蓄積されると、物品は黄色を帯びた色味となり、人に不快感を与えることになりやすい。本発明は、汚染環境に備え付けられた物品に関し、その表面構造を改善することで、物品の表面を汚染物から保護しやすくする技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の物品の表面保護構造は、汚染環境に備え付けられる物品、特には閉鎖空間となる汚染環境に備え付けられる物品の表面保護構造であり、該物品は基材を含むものであり、基材の汚染環境に接する側の表面に、
少なくとも一つの末端に加水分解可能な官能基を2個又は3個有し、且つジメチルシ ロキサンユニット(−Si(CHO−)の数が30〜400、好ましくは 100〜350である直鎖状ポリジメチルシロキサン、及び
加水分解可能な官能基を有し、且つフルオロカーボンユニット(CF又はCF) の数が1〜12、好ましくは1〜8、より好ましくは4〜8であるフルオロアルキ ルシラン
のそれぞれを、加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合せしめ、加水分解反応前において、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの質量比が15:1〜1:10、好ましくは10:1〜1:5とし、前記ジメチルシロキサンユニットと前記フルオロカーボンユニットを前記物品の表面に露出させることで、脂の物品の表面に対する滑り性を向上させたことを特徴とする。
【0008】
該物品として用いられる基材としては、鏡、スリガラス、模様が刻まれたガラス等の半透明から不透視のガラスや反射機能を利用するガラスからなるもの、セラミックス、プラスチック、金属などからなるものが挙げられる。本発明は、特にはガラスやセラミックスなどの表面に形成されることが好ましい。ガラスやセラミックスの表面には、水酸基を始めとする活性基が多く存在しており、この活性基が脂を始めとする汚染物を引きつける作用をもつために、基材から脂を始めとする汚染物の除去を困難にしていると考えられる。本発明の表面保護構造を基材の表面に形成することにより、脂と基材の間の引き合う作用を弱くし、脂の物品の表面に対する滑り性を向上させることで、物品に固着した脂などの汚れでも、容易に洗浄せしめることを可能にしている。
【0009】
該物品の表面保護構造において、ジメチルシロキサンユニット(−Si(CHO−)の数が30〜400、好ましくは100〜350である直鎖状ポリジメチルシロキサン、及び加水分解可能な官能基を有し、且つフルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数が1〜12、好ましくは1〜8、より好ましくは4〜8であるフルオロアルキルシランのそれぞれが加水分解反応を経て、基材の表面に化学的に結合し表面保護構造を形成する。該構造において、前記直鎖状ポリジメチルシロキサン、前記フルオロアルキルシランのそれぞれが、加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合することで、ジメチルシロキサンユニットとフルオロカーボンユニットとが物品の表面に露出したものとなる。
【0010】
従って、保護構造の形態は、直鎖状ポリジメチルシロキサン分子、フルオロアルキルシラン分子それぞれの大きさ(分子量)、形状(分子の主鎖の剛直性)に影響される。前記直鎖状ポリジメチルシロキサンの主鎖は、剛直性は低い。従って、加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合した前記直鎖状ポリジメチルシロキサンにおいて、ジメチルシロキサンユニットは、前記基材表面に結合した部位から離れるに従って、基材表面と平行に近い関係で配置されるようになる。前記直鎖状ポリジメチルシロキサンにおいて、ジメチルシロキサンユニット(−Si(CHO−)の数は好ましくは30〜400、より好ましくは100〜350とされる。
【0011】
ジメチルシロキサンユニット数が30未満の場合では、各直鎖状ポリジメチルシロキサンにおいて、基材表面と平行に近い関係で配置されるようになるジメチルシロキサンユニットが少なくなり、各直鎖状ポリジメチルシロキサンが基材表面を覆う領域が狭くなる。基材表面に存在するシラノール基(前記直鎖状ポリジメチルシロキサン及び前記フルオロアルキルシランと、基材との化学的な結合点)は有限であり、該ユニット数が少なくなると、物品表面に露出されるジメチルシロキサンユニットが少なくなり、脂の物品表面の滑り性の向上させることが難しくなる。
【0012】
他方、ジメチルシロキサンユニット数が400超では、ジメチルシロキサンユニット数に対する基材の表面との結合点が相対的に少ないものとなる。このため、表面保護構造部の耐摩耗性が低いものとなりやすく、脂に対する滑り性を長期に維持できないものとなりやすい。
【0013】
前記フルオロアルキルシランの主鎖は、剛直性が高い。従って、加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合した前記フルオロアルキルシランにおいて、フルオロカーボンユニット(CF又はCF)は、前記基材表面に結合した部位から離れる従って、基材表面とも離れるように配置されるようになる。前記フルオロアルキルシランにおいて、フルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数を1〜12とすることが好ましく、特に1〜8、さらには4〜8とすることが好ましい。
【0014】
フルオロカーボンユニットの数が12超となると、該フルオロアルキルシランの凝固点が常温以上となるため、該化合物を基材の表面に化学的に結合させることが難しくなる。また、フルオロカーボンユニットの数が4以上の場合、表面保護構造部の撥水性向上にも効果があり、物品表面に付着した脂汚れは、被膜性の脂汚れであっても、水洗浄、又は水を伴う布等による払拭によって容易に物品表面から除去させやすくなる。
【0015】
そして、加水分解反応前において、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの質量比を15:1〜1:10とし、特に好ましくは10:1〜1:5とすることで、物品表面の脂の滑り性が向上するとともに、水に対する撥水性、及び布に対する滑り性も向上するので、物品表面に付着した脂汚れは、被膜性の脂汚れであっても、水洗浄、又は水を伴う布等による払拭によって容易に物品表面から除去させやすくなる。
【0016】
前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの質量比が15:1〜1:10から、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンが多くなる方に外れると、前記表面保護構造の耐摩耗性の低下などが懸念される。
【0017】
本発明の物品の表面保護構造は、清掃において雑巾等で払拭される時に荷重を掛けて摩擦されることになる。そのため、耐摩耗性に優れる表面保護構造の形成は、実用上の観点から非常に重要となる。
【0018】
一方、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの質量比が15:1〜1:10から、前記ジメチルシロキサンユニット量が少なくなる方に外れると、前記表面保護構造の滑り性が低下し、本来の易洗浄性が得られにくくなる。
【0019】
さらに、本発明の物品の表面保護構造は、指や爪、くし等の衛生用品、カード類などによる引っ掻きや、硬貨やパチンコ玉をはじめとする金属などの硬い物品との小面積での接触に対して優れた耐久性を有することが望ましい。
【0020】
上記耐久性を鑑みて、本発明の物品の表面保護構造の表面硬度は、鉛筆硬度で8H以上が好ましい。さらに、長期間に亘る実使用を考慮して、9H以上であるとより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の汚染環境に備え付けられる物品の表面保護構造は、物品の表面に付着した脂汚れに関して、被膜性の脂汚れであっても、容易に表面から除去できるので、汚染環境におかれた物品の清掃等のメンテナンス作業を容易とする。特に汚染環境が、煙草の煙、合成脂にさらされやすい環境、例えば喫煙室、遊戯空間、これら物品がシーラント等を用いて施工されている環境、人が身繕いを行う環境等の場合に効果が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の汚染環境に備え付けられる物品の表面保護構造においては、少なくとも一つの末端に加水分解可能な官能基を2個又は3個有し、且つジメチルシロキサンユニット(−Si(CHO−)の数が30〜400である直鎖状ポリジメチルシロキサン、及び加水分解可能な官能基を有し、且つフルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数が1〜12であるフルオロアルキルシランの双方を、加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合せしめ、加水分解反応前において、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの質量比が15:1〜1:10、好ましくは10:1〜1:5とし、前記ジメチルシロキサンユニットと前記フルオロカーボンユニットを物品の表面に露出させることで、脂の物品の表面に対する滑り性が向上している。
【0023】
前記直鎖状ポリジメチルシロキサンは、片側末端又は両側末端に加水分解可能な官能基を2個又は3個有していることが好ましく、特に、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンは、加水分解可能な官能基を両側末端に有することが好ましい。両側末端に加水分解可能な官能基を有していると、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンは、両末端にて基材と化学的に結合するようになり、より安定な保護構造部を形成できるようになる。
【0024】
前記表面構造は、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとが混入された塗布液を基材の表面に塗布することで、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとを加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合せしめてなるものが好ましい。この場合、塗布液の総量に対して、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの総量が好ましくは0.3〜3.5質量%、さらに好ましくは0.4〜2.0質量%混入されたものとされる。
【0025】
前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランが、塗布液の総量に対し、0.3質量%未満では得られる表面保護構造部の脂の滑り性が低いものになるとともに、該構造部の耐摩耗性が低いものとなりやすい。
【0026】
前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとが混入された塗布液は、特許文献3にあるように、基材に塗布液を塗布、乾燥後に、保護構造部を形成するに至らなかった前記直鎖状ポリジメチルシロキサン、及び前記フルオロアルキルシランが余剰分となり、乾固物となって基材上に残留することがある。3.5質量%を超えると、保護構造部形成の際、乾固物の量が増加し、乾固物の除去に負荷がかかる。除去には、長時間の払拭作業が必要となることから、保護構造部を擦傷する危険性を高め、保護構造部の脂の滑り性、耐摩耗性等に影響を与えることがある。さらには、余剰分は白くまだらに保護構造部に残留することがあり、物品の外観不良につながることがある。
【0027】
前記直鎖状ポリジメチルシロキサンとしては、下記一般式[1]で示されるポリジメチルシロキサンが好適に用いられる。
【0028】

【0029】
ここで、X及びXは、それぞれ、1価の加水分解可能な官能基であり、A及びAは、それぞれ、2価の炭化水素基、-(CH)-NH-CO-O-基([i]は0〜9の整数)、若しくは、酸素である。又、[n]は30〜400の整数でジメチルシロキサンユニットの数を表す。さらに、[a]及び[b]は、それぞれ、0〜3の整数であり、[a]又は[b]の少なくとも一方は2又は3であることが好ましい。
【0030】
また、前記一般式[1]で示されるポリジメチルシロキサンのA及びAは、加水分解可能な官能基と撥水性や滑り性を発現するジメチルシロキサン鎖を繋ぐ部位である。従って、この部位の安定性が低下すると、保護構造部からジメチルシロキサン鎖が容易に脱落するようになり、表面保護構造の耐久性が低下する。このことから、前記一般式[1]で示されるポリジメチルシロキサンのA及びAは安定性に優れる2価の炭化水素基や酸素が好ましい。
【0031】
また、本発明の表面保護構造を形成するための塗布液に使用される前記フルオロアルキルシランは、加水分解可能な官能基を有し、さらに分子中にフルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数が1〜12、好ましくは1〜8、より好ましくは4〜8であるパーフルオロアルキル基(CF(CFt−1−)またはパーフルオロアルキレン基(−(CF−)を有するものが用いられる。フルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数が増加すると、得られる保護構造部の耐摩耗性が向上する。ここで、前記t、及びuは整数を表している。
【0032】
前記フルオロアルキルシランとしては、下記一般式[2]で示されるフルオロアルキルシランが好適に用いられる。
【0033】

【0034】
ここで、Yは1価の加水分解可能な官能基である。さらに、[m]は1〜12の整数であり、フルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数を表す。さらに、[p]は1〜3の整数であり、加水分解可能な官能基の数を表す。
【0035】
前記フルオロアルキルシランとしては、CF3(CF211CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF211CH2CH2SiCH3(OCH32、CF3(CF211CH2CH2Si(CH32OCH3、CF3(CF29CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF29CH2CH2SiCH3(OCH32、CF3(CF29CH2CH2Si(CH32OCH3、CF3(CF27CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF27CH2CH2SiCH3(OCH32、CF3(CF27CH2CH2Si(CH32OCH3、CF3(CF25CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF25CH2CH2SiCH3(OCH32、CF3(CF25CH2CH2Si(CH32OCH3、CF3(CF2CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF2CH2CH2SiCH3(OCH32、CF3(CF2CH2CH2Si(CH32OCH3、CF3CH2CH2Si(OCH33、CF3CH2CH2SiCH3(OCH32、CF3CH2CH2Si(CH32OCH3、CF3(CF211CH2CH2SiCl3、CF3(CF211CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF211CH2CH2Si(CH32Cl、CF3(CF29CH2CH2SiCl3、CF3(CF29CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF29CH2CH2Si(CH32Cl、CF3(CF27CH2CH2SiCl3、CF3(CF27CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF27CH2CH2Si(CH32Cl、CF3(CF25CH2CH2SiCl3、CF3(CF25CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF25CH2CH2Si(CH32Cl、CF3(CF2CH2CH2SiCl3、CF3(CF2CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF2CH2CH2Si(CH32Cl、CF3CH2CH2SiCl3、CF3CH2CH2SiCH3Cl2、CF3CH2CH2Si(CH32Cl等のものが使用できる。
【0036】
また、直鎖状ポリジメチルシロキサン、及びフルオロアルキルシランにおける加水分解可能な官能基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基又はイソシアネート基等を用いることができる。ただし、加水分解可能な官能基の反応性が高すぎると、塗布液を調合する時の取扱いが難しくなるだけでなく、塗布液のポットライフが短くなる。一方、反応性が低すぎると、加水分解反応が十分進行しなくなり、生成するシラノール基の量が十分でなくなるため、基材と得られる表面保護構造の結合が十分でなくなり、表面保護構造の耐摩耗性が低くなる。取扱いの容易さ、塗布液のポットライフ、得られる表面保護構造の耐摩耗性を考慮すると、加水分解可能な官能基としてはアルコキシ基が好ましく、中でもメトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
【0037】
直鎖状ポリジメチルシロキサン及びフルオロアルキルシランと、溶媒、酸、水とが混合され塗布液が形成される。該溶媒には、有機溶媒を用いることができ、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、キシレン等の炭化水素溶媒類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類やそれらの混合物を用いることが好ましい。中でも、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ヘキサン、ジエチルエーテル及びジイソプロピルエーテルの中から選ばれる一種以上の溶媒とエチルアルコールやイソプロピルアルコール等の低級アルコールの混合溶媒は、直鎖状ポリジメチルシロキサン、フルオロアルキルシラン、水及び酸との溶解性が高いため、特に好ましい。
【0038】
前記水は、前記直鎖状ポリジメチルシロキサン及び前記フルオロアルキルシランが有する加水分解可能な官能基の数に対して、好ましくは分子数で1〜100倍量に調整される。1倍未満では、加水分解反応が進行しにくく、保護構造部の耐摩耗性が低下することがある。また、100倍を超えると、前記直鎖状ポリジメチルシロキサン、前記フルオロアルキルシラン、及び水を、均一に溶解させることが難しくなる。また、水の量が増えると、反応速度が大きくなり、結果として塗布液のポットライフが短くなることにつながるので、ポットライフを考慮すると50倍以下とすることが好ましい。
【0039】
前記酸は、直鎖状ポリジメチルシロキサン、及びフルオロアルキルシランにおける加水分解反応を促進させる触媒的な役割をし、硝酸、塩酸、酢酸、硫酸、その他有機酸等を使用することができる。そして、前記水と混合した状態でpH値が好ましくは0〜5、より好ましくは、0〜3となるように混合される。
【0040】
次に、本発明における物品の表面保護構造を得るための塗布液について、好ましい調製方法について説明する。
【0041】
該塗布液は、好ましくは、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランと溶媒の混合物に、水と酸を添加、混合し、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとを加水分解させることにより得られる。直鎖状ポリジメチルシロキサンとフルオロアルキルシランとを先に混合すると、両成分を均質に混合させやすい。
【0042】
次に、得られた塗布液を使用して、表面保護構造を得る方法について説明する。上記で得られた塗布液を基材表面に塗布する塗布方法の例としては、刷毛塗り、手塗り、ロボット塗り、ノズルフローコート法、ディッピング法、スプレー法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法等が挙げられる。特に、刷毛塗り、手塗りやロボット塗りは、本発明の表面保護構造を基材表面にわたって効率的、且つ均質に形成しやすいので好ましい。
【0043】
本発明の物品で使用される基材は、特に限定されるものではないが、例えば、建築物用窓ガラスや鏡に通常使用されているフロ−ト板ガラス、又はロ−ルアウト法で製造されたソーダ石灰ガラス等無機質の透明性がある板ガラスを使用できる。これら板ガラスを用いて形成される鏡等の反射性基材、スリガラス、模様が刻まれたガラス等の半透明から不透明のガラス基材を使用することができる。
【0044】
前記ガラス製基材の他にタイル、瓦、衛生陶器、食器等に使用されるセラミックス材料よりなる基材、ガラス窓等の枠体、調理器、メス、注射針等の医療器具、流し、自動車のボディ等に使用されるステンレス鋼、アルミニウム、鉄鋼等の金属材料、プラスチック製の基材、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、その他のプラスチック基材を使用することがある。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例について説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。表面保護構造の評価方法を以下に示す。
〔表面保護構造の評価方法〕
(1)接触角
表面保護構造を有するサンプル表面に、純水約2μlを置いたときの水滴とサンプル表面とのなす角を接触角計で測定した。尚、接触角計には協和界面科学製CA−X型を用い、大気中(約25℃)で測定した。
【0046】
(2)布の滑り性
接触面積40cm(一辺の長さ6.3cm)の正方形の滑り片を200g荷重で保護構造部に乗せ、滑り性を測定した。滑り片の底面(供試体との接地面)は、実使用での布払拭を想定してネル(綿300番)で覆った。サンプルの保持角度を1°ずつ上昇させていき、滑り片が滑り出す角度を測定した。
【0047】
(3)脂(タバコのヤニ)汚れ除去性
ビーカー(直径12cm、高さ20cm)の底に、点火したタバコ(商品名:セブンスター(タール14mg)、日本たばこ産業製)を1本立て、ビーカーの口を保護構造部が下になるようにサンプルでフタをした。タバコ1本が燃え尽きるまでそのまま放置して(約10分間)、サンプル表面に黄色のタバコのヤニを付着させた。
【0048】
水、又はガラスクリーナー(商品名:ガラスマイペット、花王株式会社製)約2mlを、紙タオルにしみ込ませ、サンプルに付着したタバコのヤニが取れるまでの払拭回数を測定した。
【0049】
(4)合成脂(テープ跡)汚れの除去性
布テープ(積水化学製、No.600(幅50mm×長さ25m))を約5cm程度切り取ったのち、サンプルの保護構造部に貼り付け、手で充分に押付けたのち、布テープを剥がした。
【0050】
水、又はガラスクリーナー(商品名:ガラスマイペット、花王株式会社製)約2mlを、紙タオルにしみ込ませ、サンプルに付着したテープ跡が取れるまでの払拭回数を測定した。
【0051】
(5)人の皮脂汚れ除去性
サンプルを10cm角に切り出したのち、該サンプルの保護構造部を成人男性の額に押し当てて、人の皮脂を付けた。
【0052】
水約2mlを、紙タオルにしみ込ませ、サンプルに付着した皮脂汚れが取れるまでの払拭回数を測定した。
【0053】
(6)合成脂(シリコンシーラント)汚れの除去性
シリコンシーラント(商品名:トスシール381、GE東芝シリコーン製)約1gをサンプル上に塗り、引き延ばした。
【0054】
イソプロピルアルコール(iPA)約2mlを、紙タオルにしみ込ませ、サンプルに付着したシリコンシーラントが取れるまでの払拭回数を測定した。
【0055】
(7)鉛筆硬度試験
JIS K 5600−5−4(1999年)に準拠して、三菱鉛筆株式会社製ユニ(6B〜9H)を用いて鉛筆硬度試験を行った。透視窓の表面保護構造の表面硬度として8H以上を合格、さらに、9H以上を長期間に亘る実使用を考慮して優れた硬度とした。
【0056】
実施例1
(1)塗布液の調製
塗布液は、直鎖状ポリジメチルシロキサンとフルオロアルキルシランを混合して得られた混合物に酸性水溶液を添加、攪拌することによって得た。先ず、ジメチルシロキサンユニットの数が250の両末端トリアルコキシタイプ直鎖状ポリジメチルシロキサン〔(CHO)SiCHCH{Si(CHO}250Si(CHCHCHSi(OCH〕;0.50g量、メチルエチルケトン;48.85g量、フルオロカーボンユニットの数が6のフルオロアルキルシラン〔CF(CFCHCHSi(OCH〕;0.80g量とイソプロピルアルコール;48.85g量を混合し、約5分間撹拌した。次いで、0.5N硝酸水溶液;1.0g量を添加し、約2時間室温で撹拌した。以上の方法により、塗布液の総量に対し、直鎖状ポリジメチルシロキサンとフルオロアルキルシランとの総量が1.3質量%の塗布液を得た。
【0057】
(2)基材の洗浄
300mm×300mm×5mm厚サイズの鏡を基材とし、該基材の反射面側の表面を、研磨液を用いて研磨し、水洗及び乾燥した。なお、ここで用いた研磨液は、ガラス用研磨剤ミレークA(T)(三井金属鉱業製)を水に混合した2質量%のセリア懸濁液を用いた。
【0058】
(3)表面保護構造の形成
上記(1)で調製した塗布液;1.0mlを基材上に滴下し、綿布(商品名;ベンコット)で基材全面に十分引き延ばした後、30分程度風乾した。その後、目視で白くまだらに残留している余剰分をイソプロピルアルコールで湿らした紙タオルで拭き上げてサンプルを得た。前記[表面保護構造の評価方法]に記載した要領で評価した結果を、表1に示す。表面保護構造形成により、物品の洗浄負荷が低下することが確認された。また、鉛筆硬度試験において9Hと、優れた硬度を示した。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例2
4mlの塗布液を、スプレーガン(アネスト岩田製、FA−100)によりスプレー塗布し、その後、約2時間乾燥させたのち、目視で白くまだらに残留している余剰分をイソプロピルアルコールで湿らせた紙タオルで拭き上げた。それ以外は、実施例1と同じ手順にてサンプルを得た。前記[表面保護構造の評価方法]に記載した要領で評価した結果を、表1に示す。表面保護構造形成により、物品の洗浄負荷が低下することが確認された。また、鉛筆硬度試験において9Hと、優れた硬度を示した。
【0061】
実施例3
ジメチルシロキサンユニットの数が250の両末端トリアルコキシタイプ直鎖状ポリジメチルシロキサン〔(CHO)SiCHCH{Si(CHO}250Si(CHCHCHSi(OCH〕;0.40g量、フルオロカーボンユニットの数が6のフルオロアルキルシラン〔CF(CFCHCHSi(OCH〕;0.60g量とした以外は、実施例1と同じ手順にてサンプルを得た。前記[表面保護構造の評価方法]に記載した要領で評価した結果を、表1に示す。表面保護構造形成により、物品の洗浄負荷が低下することが確認された。また、鉛筆硬度試験において9Hと、優れた硬度を示した。
【0062】
比較例1
研磨、洗浄した基材を、前記[表面保護構造の評価方法]に記載した要領で評価した結果を、表1に示す。実施例1及び2と比べ、洗浄負荷が大きいものであった。
【0063】
比較例2
直鎖状ポリジメチルシロキサンを使用せず、フルオロカーボンユニットの数が6のフルオロアルキルシラン〔CF(CFCHCHSi(OCH〕を4g量、メチルエチルケトンを47.5g量、イソプロピルアルコール;47.5g量を混合し、約5分間撹拌し、次いで、0.5N硝酸水溶液;1.0gを添加し、約2時間室温で撹拌した以外は、実施例1と同じ手順にてサンプルを得た。前記[表面保護構造の評価方法]に記載した要領で評価した結果を、表1に示す。表面保護構造形成により、物品の洗浄負荷が低下することが確認されたものの、実施例1及び2と比べ、洗浄負荷が大きいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染環境に備え付けられる物品の表面保護構造であり、該物品は基材を含むものであり、該基材の汚染環境に接する側の表面に、
少なくとも一つの末端に加水分解可能な官能基を2個又は3個有し、且つジメチルシロキサンユニット(−Si(CHO−)の数が30〜400である直鎖状ポリジメチルシロキサン、及び
加水分解可能な官能基を有し、且つフルオロカーボンユニット(CF又はCF)の数が1〜12であるフルオロアルキルシラン
のそれぞれを、加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合せしめ、加水分解反応前において、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの質量比が15:1〜1:10とし、前記ジメチルシロキサンユニットと前記フルオロカーボンユニットを物品の表面に露出させることで、脂の物品の表面に対する滑り性を向上させたことを特徴とする汚染環境に備え付けられる物品の表面保護構造。
【請求項2】
前記表面保護構造は、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとが混入された塗布液を基材の表面に塗布することで、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとを加水分解反応を経て基材の表面に化学的に結合せしめてなるものであり、塗布液の総量に対して、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンと前記フルオロアルキルシランとの総量が0.3〜3.5質量%混入されたものであることを特徴とする請求項1に記載の汚染環境に備え付けられる物品の表面保護構造。
【請求項3】
直鎖状ポリジメチルシロキサンが加水分解可能な官能基を両側末端に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染環境に備え付けられる物品の表面保護構造。

【公開番号】特開2010−221212(P2010−221212A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31697(P2010−31697)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】