説明

汚染評価方法

【課題】所定の雰囲気中の汚染状態を精度よく評価することが可能な汚染評価方法を提供する。
【解決手段】汚染状態を評価する雰囲気中に鏡面加工仕上げされた表面を有するへき開性物質からなる基板を持ち込んでへき開し(へき開工程)、へき開面をそのまま雰囲気中に所定時間暴露した後、へき開面を表面分析して汚染評価物質を検出する(定量分析工程)。評価する雰囲気中にへき開性物質からなる基板を持ち込んでへき開するので、汚染評価物質が表面に存在していないへき開直後の面が雰囲気中に暴露されることになる。そして、そのへき開面を分析して汚染評価物質を検出するので、評価する雰囲気中から付着した汚染評価物質のみが検出されることとなり、雰囲気中の汚染状態を精度よく評価することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の雰囲気中の汚染状態について評価する汚染評価方法に関し、特にクリーンルーム雰囲気中の汚染評価方法に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の雰囲気中の汚染状態について評価する汚染評価方法として、雰囲気中にシリコンウエハ等を暴露(曝露)した後、そのシリコンウエハ等の表面を分析することにより評価する方法や、そのシリコンウエハ等の表面に吸着された汚染評価物質を脱離せしめて分析することにより評価する方法(例えば特許文献1)などが知られている。
【0003】
また、このようなシリコンウエハ等を用いる方法の他に、汚染評価方法として、空気を直接捕集して分析することにより評価する方法も知られているが、シリコンウエハ等を用いる方法の方が、ウエハ表面に汚染評価物質が濃縮される等の理由により、比較的高精度な評価が可能である。そのため、シリコンウエハ等を用いる方法は、クリーンルーム雰囲気中等の微量汚染が問題となる雰囲気中を評価する場合にも有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−304734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコンウエハ等を用いる方法であっても、高精度な評価が難しい場合がある。
【0006】
具体的には、GaAsやInPなどの化合物半導体ウエハでは、鏡面研磨加工等の加工工程や洗浄工程、その後のウエハ検査工程等においてウエハ表面に付着するSiが問題になっている。これらの工程は、全てクリーンルーム内で行われるので、ウエハ表面に汚染評価物質としてSiが付着することがないよう、クリーンルーム内の清浄度を一定以上に維持することが肝要である。そのため、クリーンルーム雰囲気中の汚染評価方法として、Siによる汚染状態を精度よく評価できる汚染評価方法が必要とされている。しかし、このように評価対象の汚染評価物質がSiである場合、シリコンウエハを用いて評価すると、シリコンウエハ表面のSi粒子が、暴露前から元々表面に存在していたものなのか、暴露することにより雰囲気中から付着したものなのかの区別がつかない場合が多いため、高精度な評価が難しい。
【0007】
一方、GaAsやInPなどの化合物半導体ウエハの表面にはSiが存在しないはずである。したがって、これらをシリコンウエハの代わりに用いれば、評価対象の汚染評価物質がSiである場合でも、容易に高精度な評価を行うことができるように思われる。しかし、実際には、鏡面研磨の研磨剤としてコロイダルシリカが用いられる等の理由により、Si粒子が表面に全く存在しないGaAsやInPなどの化合物半導体ウエハを作製することは容易ではない。そのため、やはり、クリーンルーム雰囲気中のSiによる汚染状態を精度よく評価することが困難となっている。
【0008】
このように、シリコンウエハ等のウエハを用いる方法であっても、評価対象の汚染評価物質が暴露前からウエハ表面に存在していないことが保証できない場合、汚染状態についての高精度な評価が難しい。
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたもので、所定の雰囲気中の汚染状態を精度よく評価することが可能な汚染評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、
雰囲気中の汚染状態を評価する汚染評価方法であって、該評価を行う雰囲気中に鏡面加工仕上げされた表面を有するへき開性物質からなる基板を持ち込んでへき開するへき開工程と、
該へき開面をそのまま該雰囲気中に所定時間暴露した後、該へき開面を表面分析して汚染評価物質を検出する定量分析工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の汚染評価方法において、
前記へき開性物質は、単結晶InPであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の汚染評価方法において、
前記汚染評価物質は、Siであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、評価する雰囲気中にへき開性物質からなる基板を持ち込んでへき開するので、汚染評価物質が表面に存在していないへき開直後の面が雰囲気中に暴露されることになる。そして、そのへき開面を分析して汚染評価物質を検出するので、評価する雰囲気中から付着した汚染評価物質のみが検出されることとなり、雰囲気中の汚染状態を精度よく評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る汚染評価方法について説明するためのフローチャートである。
【図2】実施例の結果を示す図である。
【図3】比較例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態では、所定の雰囲気中としてクリーンルーム雰囲気中を例示し、汚染評価物質としてSi(シリコン)を例示して説明することとする。
【0016】
また、本実施形態では、鏡面加工仕上げされた表面を有するへき開性物質からなる基板(以下「へき開性基板」ともいう。)として単結晶InPからなるInP(リン化インジウム)ウエハを例示して説明することとするが、用いるへき開性基板は、鏡面加工仕上げされた表面を有するへき開性物質からなる基板であれば任意であり、評価対象となる汚染評価物質に応じて適宜選択可能である。具体的には、評価対象となる汚染評価物質がSi等の汚染評価物質であれば、単結晶GaAsからなるもの(例えば、単結晶GaAsからなるGaAsウエハ等。ただし、この場合、汚染評価物質としてGaAsを除く)、単結晶GaPからなるもの(例えば、単結晶GaPからなるGaPウエハ等。ただし、この場合、汚染評価物質としてGaPを除く)においても同様に本発明を適用することができる。また、評価対象となる汚染評価物質がSi以外の汚染評価物質であれば、単結晶Siからなるもの(例えば、単結晶Siからなるシリコンウエハ等)においても本発明を適用することができる。
【0017】
図1は、本実施形態に係る汚染評価方法について説明するためのフローチャートである。
【0018】
図1に示すように、まず、クリーンルーム雰囲気中に単結晶InPからなるInPウエハ(表面が鏡面研磨仕上げされたもの)を持ち込んでへき開するへき開工程を行う(ステップS1)。これにより、へき開によってできた結晶面(へき開面)が、クリーンルーム雰囲気中に暴露される。
なお、InPウエハをへき開する手法は任意である。具体的には、InPウエハをへき開する手法は、予めInPウエハの表面にキズを入れておき、クリーンルーム雰囲気中でそのキズに沿ってInPウエハを折り曲げてへき開する手法、予めInPウエハの表面にキズを入れておき、クリーンルーム雰囲気中でInPウエハ全体に圧力を加えてへき開する手法、予めInPウエハの表面にキズを入れておき、クリーンルーム雰囲気中でそのキズに沿ってカッターの刃先等を押し当ててへき開する手法等の中から適宜選択可能である。
【0019】
次いで、当該InPウエハのへき開面をそのまま当該クリーンルーム雰囲気中に所定時間暴露した後、当該InPウエハのへき開面を表面分析して、当該へき開面上のSiを検出する定量分析工程を行う(ステップS2)。
本実施形態では、へき開面の表面分析を、試料表面に存在する微量の原子や分子を同定等することが可能なTOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)を用いて行った。
【0020】
なお、へき開面を表面分析する手法は、TOF−SIMSを用いた手法に限定されるものではなく、へき開面を表面分析してへき開面上に付着する汚染評価物質の有無や汚染評価物質の量(重さや個数)を検出可能な手法であれば任意である。例えば、へき開面を表面分析する手法は、X線光電子分光分析(XPS,ESCA)を用いた手法、全反射蛍光X線分析(XRF)を用いた手法等であってもよい。
【0021】
そして、検出したSiに基づいて、クリーンルーム雰囲気中のSiによる汚染状態を評価する。
【0022】
以上説明した本実施形態における汚染評価方法によれば、汚染状態を評価する雰囲気中に鏡面加工仕上げされた表面を有するへき開性物質からなる基板(本実施形態の場合は単結晶InPからなるInPウエハ)を持ち込んでへき開するへき開工程と、へき開面をそのまま雰囲気中に所定時間暴露した後、へき開面を表面分析して汚染評価物質(本実施形態の場合はSi)を検出する定量分析工程と、を有している。
すなわち、評価する雰囲気中にへき開性物質からなる基板を持ち込んでへき開するので、汚染評価物質が表面に存在していないへき開直後の面が雰囲気中に暴露されることになる。そして、そのへき開面を分析して汚染評価物質を検出するので、評価する雰囲気中から付着した汚染評価物質のみが検出されることとなり、雰囲気中の汚染状態を精度よく評価することが可能となる。
【0023】
以下、具体的な実施例によって本発明を説明するが、発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[実施例]
実施例では、単結晶InPからなるInPウエハを用いて、クリーンルーム雰囲気中のSiによる汚染状態を評価した。
【0025】
具体的には、まず、評価するクリーンルーム雰囲気中に、用意したInPウエハ(表面が鏡面研磨仕上げされた製品レベルのもの)を持ち込んでへき開した(へき開工程)。
【0026】
次いで、当該InPウエハのへき開面をそのまま当該クリーンルーム雰囲気中に所定時間暴露した。暴露時間は、1分、60分、240分の3条件について行った。
【0027】
その後、当該クリーンルーム雰囲気中で、当該InPウエハを窒素で満たされた密閉容器中に封入した。これにより、InPウエハのへき開面がクリーンルーム雰囲気中以外の雰囲気中で汚染されることなく、当該InPウエハを分析室等に持ち運ぶことが可能となる。
なお、本実施例では、InPウエハを封入するための密閉容器を満たす気体として窒素を採用したが、これに限定されるものではない。InPウエハを封入するための密閉容器を満たす気体は、評価対象の汚染評価物質を含まない気体であれば適宜選択可能である。
また、評価するクリーンルーム内にTOF−SIMS等の分析装置があれば、InPウエハの密閉容器中への封入は省略できる。
【0028】
次いで、密閉容器中に封入されているInPウエハを取り出して、InPウエハのへき開面をTOF−SIMSを用いて分析し、当該へき開面上のSiを検出した(定量分析工程)。その結果を、図2に示す。
【0029】
図2に示すように、暴露時間(へき開直後から封入直前までの時間)が増加するにつれて、へき開面上のSiの量が増加することがわかった。これにより、クリーンルーム雰囲気中のSiによる汚染状態を定量的に評価できることがわかった。
ここで、図示は省略するが、InPウエハのへき開面をクリーンルーム雰囲気中に暴露しない場合(暴露時間が0分の場合)において、へき開面をTOF−SIMSで分析したところ、Siは検出されなかった。したがって、検出されたSiは、評価するクリーンルーム雰囲気中からの汚染のみによるものであると言える。これにより、クリーンルーム雰囲気中のSiによる汚染状態を的確に評価できることがわかった。
【0030】
[比較例]
比較例でも、実施例と同様の単結晶InPからなるInPウエハを用いて、クリーンルーム雰囲気中のSiによる汚染状態の評価を行った。ただし、比較例では、評価に用いるInPウエハを、表面汚染を防止するため、作製後に直ちに窒素で満たされた密閉容器中に封入した状態にしておいた。
【0031】
具体的には、まず、評価するクリーンルーム雰囲気中に、密閉容器中に封入されているInPウエハを持ち込み、密閉容器の中からInPウエハを取り出した。
次いで、InPウエハをそのままクリーンルーム雰囲気中に所定時間暴露した。暴露時間は、2分、60分、480分の3条件について行った。
その後、当該クリーンルーム雰囲気中で、当該InPウエハを窒素で満たされた密閉容器中に封入した。
次いで、密閉容器中に封入されているInPウエハを取り出して、InPウエハ表面をTOF−SIMSを用いて分析し、当該表面上のSiを検出した。その結果を、図3に示す。
【0032】
図3に示すように、InPウエハ表面上のSiの量は暴露時間にあまり依存しないことがわかった。また、検出されたSiの量のばらつきも大きいことがわかった。これにより、InPウエハ作製後に直ちに窒素で満たされた密閉容器中に封入して、InPウエハ表面がクリーンルーム雰囲気中以外の雰囲気中で汚染されることがないように注意して扱った場合であっても、InPウエハ表面からは、クリーンルーム雰囲気中からの汚染によるSi以外のSi(クリーンルーム雰囲気中に暴露する前からInPウエハ表面に元々存在していたSi)も検出されることがわかった。また、InPウエハ表面に元々存在していたSiの量自体が不明な上にばらつきもあり、検出されたSiの値のうち、評価するクリーンルーム雰囲気中からの汚染によるSiの量がどの程度なのかを定量的に評価することもできないことがわかった。
【0033】
以上の結果から、InPウエハをクリーンルーム雰囲気中でへき開せずに、その表面を暴露して分析する場合(比較例の場合)は、当該クリーンルーム雰囲気中の汚染状態について精度よく評価できないが、実施例のようにInPウエアをクリーンルーム雰囲気中でへき開して、そのへき開面を暴露して分析すると、当該クリーンルーム雰囲気中の汚染状態について精度よく評価できることがわかった。
【0034】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0035】
例えば、実施形態では、所定の雰囲気中としてクリーンルーム雰囲気中を例示して説明したが、クリーンルーム雰囲気中以外の雰囲気中においても本発明を適用することができる。
【0036】
また、実施形態では、評価対象の汚染評価物質としてSiを例示して説明したが、Si以外の汚染評価物質(分析に用いるへき開性基板が単結晶InPからなる場合はInPを除く)においても本発明を適用することができる。
【0037】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気中の汚染状態を評価する汚染評価方法であって、該評価を行う雰囲気中に鏡面加工仕上げされた表面を有するへき開性物質からなる基板を持ち込んでへき開するへき開工程と、
該へき開面をそのまま該雰囲気中に所定時間暴露した後、該へき開面を表面分析して汚染評価物質を検出する定量分析工程と、
を有することを特徴とする汚染評価方法。
【請求項2】
前記へき開性物質は、単結晶InPであることを特徴とする請求項1に記載の汚染評価方法。
【請求項3】
前記汚染評価物質は、Siであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の汚染評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−168042(P2012−168042A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29900(P2011−29900)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】