説明

汚染質のコンタミネーション排除施設

【課題】入退出に伴う汚染質のコンタミネーションを完全に排除し、男女の更衣室を備え、アクセスも明快で短く、かつ施設運用上も利便性の高い施設を提供することが可能な汚染質のコンタミネーション排除施設を提供する。
【解決手段】外部から遮断され、かつ、建物内の交通が制約されていない区域と切り離された実験室等1や培養室等のエリアにおいて、各実験室等や培養室等の共用の更衣スペースとして更衣室(男)2、更衣室(女)3の男女別の更衣スペースを設け、それぞれの更衣スペースは、実験着等の着衣室7と退出時の実験着等の脱衣室8をそれぞれ独立して設け、前記エリアには、必ず更衣スペースを経由して至るものあり、かつ、それぞれの更衣スペースには、前記エリアの上階ないし下階から階段9等により立体的にアクセスする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物や細胞培養・遺伝子組み換え・動物実験等の生物学的な安全性確保が必要な実験室や培養室等の施設において、バイオハザード動物飼育施設など特に重要性の高い施設のレイアウトにかかわる汚染質のコンタミネーション排除施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオハザード動物飼育施設では、動物の逃亡防止策を施すため、エリア外に出るためには、複数枚のドアを通過しなければならないなどの工夫をしているが、このような生物学的な安全性が必要な施設に対しては、例えばWHOから刊行されている「実験室バイオセーフティ指針」などが国際的な指針として運用されている。
【0003】
例えば、同指針において、バイオセーフティレベル3の施設管理と作業管理において要求される施設レイアウトにかかわる主な項目は以下のとおりである。
(1)実験室用防護着(日常用衣服とは貯蔵を別にする)を着用し、防護着は実験室外では着用してはならず、使用後の防護着は洗濯の前に除染を要す。特定資材を扱うときには、外部衣服を脱いで専用の実験室用防護着に着替えなくてはならない。(レベル4の施設では、完全な着替えが必要である。)
(2)実験室は、建物内の交通が制約されていない区域と切り離さなければならない。前室を通って入室するなどで隔離を強化する。前室には清浄衣服と汚染衣服を分離するための設備と、必要であればシャワーを設ける。
(3)出入り口から実験室に一定方向の気流を確保する制御された換気システムを設置する。
【0004】
このような要請に答えるものとして、図4に示すようなレイアウトが想定される。図中1は実験室等、2,3は更衣室(男)、更衣室(女)、4は複数の実験室等1への共通の進入路、5は退出路である。
【0005】
平面的なアクセス方法であり、外部6から男女それぞれの更衣室2,3に入り、外部服から実験着等に更衣して、進入路4を経て、各実験室等1に入る。実験等1を終えた後、退出路5を経て、男女それぞれの更衣室2,3に戻り、実験着等を脱衣して外部服に更衣して退出する。
【0006】
下記特許文献1は、組換えDNA実験指針に規定されている物理的封じ込めレベルP2またはP3およびGMPに規定されている安全基準を満足するとともに、生産性に優れたベクター作製施設として提案されたもので、準備室、第1のエアロック前室、ベクター作製室、エアロック後室および滅菌処理室を備え、作業者が、前記準備室に入り、前記第1のエアロック前室、前記ベクター作製室および前記エアロック後室の順に各室を移動し、前記滅菌処理室を経て外へ出るという制限された動線を形成するように、各室間に戸が設けられており、さらに各室の室内圧力を調節する室内圧調節手段を備えている。
【特許文献1】特開2003−47457号公報
【0007】
前記準備室の入口戸の外側に更衣室を備え、前記滅菌処理室の出口戸の外側に脱衣室を備えた。
【0008】
この特許文献1では、細胞培養施設内に形成される各部屋は相互に分離されており、原料細胞の保管室や、処理室、あるいは細胞培養室なども分離されるとともに、各室内への作業者の出入りや各部屋間の移動に際しても細胞汚染が生じないように分離しており、細胞培養室の作業者による清浄度の乱れを抑制するため、細胞培養室には更衣室と脱衣室を設け、各室の気圧制御を行っている。
【0009】
そして、作業者および原材料やベクター作製に必要な器具類の動線が一方向に制限されているので、ベクター作製前と作製後の作業者などが接触することがない。また、ベクター作製室の空気が外部に漏出する恐れがなく、すべての廃棄物や搬出物は、外部に搬出される前に高圧蒸気滅菌器により滅菌することが可能であるとされる。
【0010】
下記特許文献2は、遺伝子組換え植物工場であり、遺伝子組換え植物を栽培する養液栽培装置と排気フィルタ付き空調装置とが設けられ且つ陰圧に保たれた閉鎖型栽培エリア、前記栽培エリアにエアロック付き搬入口を介して隣接すると共に栽培エリアより弱い陰圧に保たれ且つ収穫後の遺伝子組換え植物を発芽・生長・繁殖又は交雑しないように不活化する植物不活化装置が設けられた不活化エリア、前記不活化エリアにエアロック付き搬送口を介して隣接すると共に陽圧に保たれ且つ不活化後の遺伝子組換え植物を食品又は薬品に調製する装置が設けられた製造エリア、前記栽培エリアからの排水を滅菌処理する排水滅菌器、及び前記栽培エリアと製造エリアとにそれぞれ設けたエアロック付き作業員出入口を備えてなる。
【特許文献2】特開2008−161114号公報
【0011】
この特許文献2では、作業員は、更衣室で作業服を着用したのち、作業員入口から前室及び気密扉付き入口を経て何れかの栽培室に入室する。また栽培室での作業が終了したのち、その栽培室の気密扉付き出口及び後室を経て作業員出口から脱衣室へ退室し、作業服を着替える。
【0012】
このように、各栽培室に対する作業員の入室動線と退室動線とを明確に分けることにより、各栽培室で異なる遺伝子組換え植物Pを栽培する場合でも、作業員の動線の交差による植物Pの汚染及び漏出を確実に防止できるとしている。
【0013】
下記特許文献3は、複数の細胞培養室を併設し、各培養室と原料処理室、製品処理室の間に細胞の搬送を自動で行うロボットを納めた細胞搬送ロボット室を配置し、前記細胞培養室内で細胞の自動培養を行う培養装置に培地をセットする材料据付室を各培養室に共用で設けたことを特徴としている自動細胞培養施設である。前記共用の材料据付室には当該室内への出入用着衣室と脱衣室を設けた。
【特許文献3】特開2009−219415号公報
【0014】
この特許文献3によれば、細胞の自動培養装置を各細胞培養室に配置しておき、搬送ロボットにより原料細胞を選択された細胞培養室に自動供給し、培養後の製品細胞を製品処理室に自動的に搬出することができる。これにより自動細胞培養装置への細胞のセットと培養後の取り出しを自動化し、トータルで自動化、清浄化、省スペースを図ることができる。また、培地を細胞培養室に供給する材料据付室は前記複数の細胞培養室に対して共用スペースとなっており、これに出入りする着衣室と脱衣室も共用で設置することにより、交差汚染を防止しつつ施設スペースを有効活用することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
図4に示すレイアウトの場合には、実験室等1の外周を取り囲うように退出路5を配置する必要があり、実験者は、進入から退出まで、最長ではこの実験室エリアをほぼ一周する必要がある。
【0016】
また、前記特許文献1や特許文献2では、培養室(栽培室)への出入りを、更衣を含めて完全に別ルートとし、独立した更衣室と脱衣室を設けることによって汚染質のコンタミネーションの防止を図ろうとしているが、生産効率を上げようとすると、培養室(栽培室)を多室にせざるを得ない。しかし、多室構造とすると各部屋に付帯する更衣室のための大きなスペースを要するという問題を生じてしまう。
【0017】
特許文献3は、共用の材料据付室を設けるという単純な構成であるが、共用の材料据付室には当該室内への出入用着衣室と脱衣室を設けるとして、各実験室等に対して独立した複数の更衣室(着衣室・脱衣室)を備えており、管理上の利便性や施設の利用効率、建築計画面での面積利用効率が損なわれている。
【0018】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、入退出に伴う汚染質のコンタミネーションを完全に排除し、男女の更衣室を備え、アクセスも明快で短く、無駄な通路等を設けずに面積利用効率が高くかつ施設運用上も利便性の高い施設を提供することが可能な汚染質のコンタミネーション排除施設を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、外部から遮断され、かつ、建物内の交通が制約されていない区域と切り離された実験室や培養室等のエリアにおいて、各実験室や培養室等の共用の更衣スペースとして男女別の更衣スペースを設け、それぞれの更衣スペースは、実験着等の着衣室と退出時の実験着等の脱衣室をそれぞれ独立して設け、前記エリアには、必ず更衣スペースを経由して至るものであり、かつ、立体的にアクセスすることを要旨とするものである。
【0020】
請求項1記載の本発明によれば、実験室等への出入りを、更衣を含めて完全に別ルートとすることにより、汚染質のコンタミネーションを防止することができる。また、複数の実験室等を備える施設において、更衣等の管理を容易にするために、各実験室等の共用の更衣スペースとすることができ、これによって施設の利用効率を高めることができる。
【0021】
各実験室等の共用の更衣スペースではあるが、男女別の更衣室を設けていることができ、それぞれの更衣スペースは、実験着等への更衣室と退出時の実験着等の脱衣室がそれぞれ独立して設けられている。
【0022】
更衣スペースとの関係において、複数の各実験室等は独立で、他の実験室等を経由することなく、更衣室とアクセスできる。
【0023】
更衣スペースと実験室等の回流動線は、火災時の非難等の面からも極力短く、単純である。
【0024】
男女別更衣室の場合、同一フロアーからのアプローチでは更衣室前で起こりうる交差汚染の可能性を物理的に排除できないが、立体的にアクセスすることで完全ワンウエイ動線を実現させることができる。
【0025】
請求項2記載の本発明は、立体的なアクセスは、前記エリアの上階ないし下階から階段等により、更衣スペースにアクセスすることを要旨とするものである。
【0026】
請求項2記載の本発明によれば、立体的なアクセスは、前記エリアの上階ないし下階から階段により、更衣スペースにアクセスすることで、階段という通常ありふれた手段でワンウエイ動線を簡単に確保できる。
【0027】
請求項3記載の本発明は、上階より、各実験室や培養室等の天井懐空間を経由することによって、複数の更衣スペースにアクセスすることを要旨とするものである。
【0028】
請求項3記載の本発明によれば、実験目的や内容が異なる複数のエリアの実験室や培養室等を設ける施設で、それぞれのエリア毎に更衣スペースを必要とする施設においてアクセスするもので、前記エリアの上階から階段により、天井懐に換気設備等のために人間の通行が可能な十分な高さをもつ空間を経由して、各エリアの更衣スペースにアクセスすることで、上階には各エリアにアクセスするための階段は最小限の数を設置すればよく、上階の面積を執務空間等として有効に利用することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように本発明の汚染質のコンタミネーション排除施設は、複数の実験室等を備える場合でも、更衣スペースは各実験室等の共用とすることで更衣等の管理が容易となり、これによって施設の利用効率を高められ、さらに、男女別の更衣室を設けることができ、また、それぞれの更衣スペースは、実験着等への更衣室と退出時の実験着等の脱衣室がそれぞれ独立して設けられ、更衣スペースとの関係において、複数の各実験室等は独立であり、他の実験室等を経由することなく、更衣室とアクセスでき、しかも、更衣スペースと実験室等の回流動線は極力短く、単純なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の汚染質のコンタミネーション排除施設の説明図、図2は同上1実施態様を示す平面図で、前記従来例を示す図3と同一構成要素には同一参照符号を付したもので、図中1は実験室等、2,3は更衣室(男)、更衣室(女)、4は複数の実験室等1への共通の進入路、5は退出路である。
【0031】
実験室等1は、建物内において、例えば、2階以上の階や、地下に設けるなどして、外部から遮断され、かつ、建物内の交通が制約されていない区域と切り離された実験室や培養室等のエリアとして構成される。
【0032】
各実験室や培養室等の実験室等1は、複数室が併存するものであり、更衣室(男)2、更衣室(女)3は、出入口が進入路4や退出路5に面し、そしてこれら進入路4や退出路5は複数の実験室等1に共通するものであるので、各実験室等1の共用の更衣スペースとして構成され、かつ、男女別の更衣スペースである。図2の例では、進入路4は準備廊下として、実験室等1(感染前室)の入口がこれに面し、退出路5は実験廊下として、実験室等1(感染後室)の出口がこれに面する。
【0033】
図2に示すように、更衣室(男)2、更衣室(女)3のそれぞれの更衣スペースは、実験着等の着衣室7と退出時の実験着等の脱衣室8をドアや仕切りで区画することによりそれぞれ独立して設けた。脱衣室8を中にして2つの着衣室7,7′が並び、そのうちの着衣室7は進入路4に出口があり、あとの着衣室7′は退出路5に入口がある。
【0034】
上または下の階への階段9が外部から遮断されない、かつ、建物内の交通が制約されていない区域(外部6)とここから切り離された実験室等1の区画とのアクセスとして、更衣室(男)2、更衣室(女)3の更衣スペースには、上階ないし下階から階段9等により、立体的にアクセスするものである。
【0035】
図2で、鎖線矢印は男性研究員、二点鎖線矢印は女性研究員、直線矢印は共通を示しており、外部6から建物内に入り、居室や事務室等がある建物内の交通が制約されていない区域を経て、階段9により、男女それぞれの更衣室(男)2、更衣室(女)3に入る。この階段9は男女それぞれの更衣室(男)2、更衣室(女)3の脱衣室8にしか行けない構造となっている。
【0036】
脱衣室8と着衣室7で外部服から白衣などの実験着等に更衣して、着衣室7を出て、進入路4を経て、各実験室等1に入る。
【0037】
実験等を終えた後、各実験室等1から出て、退出路5を経て、男女それぞれの更衣室(男)2、更衣室(女)3に戻り(着衣室7′に入る)、着衣室7′および脱衣室8で実験着等を脱衣して外部服に更衣し、更衣室(男)2、更衣室(女)3を出て、階段9を経て、外部6に戻る。
【0038】
他の実施形態として、立体的にアクセスするのは、階段9に代えてエレベータ等でもよく、また、男女の更衣室を立体的に構成することや、実験スペースと更衣スペースを立体的に構成することでも可能である。
【0039】
この場合、更に、通例実験室等は清浄度の保持等のために天井内に多くのスペースを必要とし層室に必要な天井高よりはるかに大きな階高を必要とすることから、更衣室を立体的に構成することは、この天井内空間を立体的に有効に利用することが可能となるものである。
【0040】
他の実施形態として、図3に示すように、請求項3記載の本発明は、上階より、各実験室や培養室等の天井懐空間を経由することによって、複数の更衣スペースにアクセスするようにすることもできる。
【0041】
図3は、複数の実験室や培養室等のエリアI、IIに対し、それぞれの更衣スペースを備えた施設の断面図を示している。上階にある執務室から実験室や培養室等にアクセスするには、1箇所の階段を下りて、実験室や培養室等、天井懐に高い空間を必要とするスペースの部分に設けられた通過路を経て、エリアI、IIのそれぞれに設けられた階段でそれぞれの更衣スペースにアクセスし、男女別の更衣室で更衣を行い実験室や培養室等へ至る。
【0042】
実験等を終えた後は、それぞれの更衣室で脱衣、更衣を行い、通過路への階段を上り、通過路を経て上階の執務室への階段を上り、執務室へ戻る。複数のエリアにはそれぞれの階段が必要であるが、執務室には1箇所の階段のみを設けることでアクセスすることが可能となり、執務室の平面を有効に利用することができる。
【0043】
以上の実施態様は生物学的な安全性確保が必要な実験室として説明したが、アイソトープ利用施設や半導体のクリーンルームなどバイオ関連以外の施設において、実験室や培養室以外の作業室で実験着以外の作業着を着用する場合においても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の汚染質のコンタミネーション排除施設の説明図である。
【図2】本発明の汚染質のコンタミネーション排除施設の1実施態様を示す平面図である。
【図3】本発明の汚染質のコンタミネーション排除施設の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1…実験室等 2…更衣室(男)
3…更衣室(女) 4…進入路
5…退出路 6…外部
7,7′…着衣室 8…脱衣室
9…階段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から遮断され、かつ、建物内の交通が制約されていない区域と切り離された実験室や培養室等のエリアにおいて、
各実験室や培養室等の共用の更衣スペースとして男女別の更衣スペースを設け、
それぞれの更衣スペースは、実験着等の着衣室と退出時の実験着等の脱衣室をそれぞれ独立して設け、
前記エリアには、必ず更衣スペースを経由して至るものあり、かつ、立体的にアクセスすることを特徴とした汚染質のコンタミネーション排除施設。
【請求項2】
立体的なアクセスは、前記エリアの上階ないし下階から階段により、更衣スペースにアクセスする請求項1記載の汚染質のコンタミネーション排除施設。
【請求項3】
上階より、各実験室や培養室等の天井懐空間を経由することによって、複数の更衣スペースにアクセスする請求項1及び請求項2記載のコンタミネーション排除施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−85528(P2013−85528A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229732(P2011−229732)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】