説明

汚染防止剤存在下でのオレフィン重合方法

【課題】汚染防止剤と、クロム−タイプの触媒またはチーグラー−ナッタ触媒との存在下で実行されるオレフィンの重合方法。
【解決手段】上記汚染防止剤が平均分子量(Mw)が1000ダルトン以上である汚染防止ポリマーから成り、この汚染防止ポリマーは(1)一つまたは複数のブロック−(CH2−CH2−O)k−(各kは1〜50の数)と(2)一つまたは複数のブロック−(CH2−CH(R)−O)n−(各Rは1〜6つの炭素原子を有するアルキル基、各nは1〜50の数)とを含み、且つ、R'末端基およびR''末端基(ここで、R'は OHまたは1〜6つの炭素原子を有するアルコキシであり、R'' はHまたは1〜6つの炭素原子を有するアルキルである)で終わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合反応装置の汚染を防ぐための新規なオレフィン重合方法、特に、酸化クロム−タイプ(いわゆるフィリップス−タイプ)またはチーグラーナッタ−タイプの触媒を用いたオレフィン重合方法に関するものである。
本発明は
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合方法は周知であり、そうした周知の方法の中でも懸濁液中、溶媒中または液体モノマー中でのスラリー重合が広く実施されている。これらの重合方法は撹拌タンク型反応器中または閉ループ反応装置で実行される。一つ以上の反応装置を使用することができる。この種の重合方法では固体のポリマー粒子が小さな触媒粒子上に成長する。放出された重合熱は反応装置の壁および/または熱交換機を介した冷却によって除去される。
【0003】
しかし、工業的なスケールの場合、ポリマー粒子が希釈剤に不溶か実質的に不溶なときにはポリマー製品が重合反応装置の壁上に堆積する傾向があるということが分かっている。このいわゆる「汚染(ファウリング、fouling)」の結果、反応装置中のバルクと反応装置の周りの冷却液との間の熱交換効率が低下する。その結果、過熱のため反応装置の制御ができなくなったり、凝集物(ロープ、チャンク)の形成に起因して反応装置またはその下流のポリマー処理機器が故障することがある。
【0004】
この「汚染(ファウリング)」の原因の一つは微粉末であり、他の一部は反応装置の壁上の静電荷の蓄積にある。スラリー重合中の汚染を避けるために、重合媒体中に汚染防止剤を添加することが試みられている。一般に、汚染防止剤は媒体の伝導性を上げて、反応装置の壁上にポリマーが蓄積する原因の1つである静電荷の形成を防ぐものである。
【0005】
下記文献には、炭化水素の希釈剤中で酸化クロムをシリカ、アルミナ、ジルコニアまたはトリアの少なくとも一つと組合せた触媒を使用してオレフィンを重合する方法が開示されている。
【特許文献1】米国特許第3995097号明細書
【0006】
反応装置の汚染はアルキルサリチル酸のアルミニウムまたはクロム塩とアルカリ金属アルキル硫黄スクシナートとの混合物から成る組成物を加えることで低下すると記載されている。
【0007】
下記文献にも炭化水素の希釈剤中でシリカ、アルミナ、ジルコニアまたはトリアの少なくとも一つと組合せた仮焼したクロム化合物から成る触媒を使用するか、米国特許第2908671号明細書、米国特許第3919185号明細書および米国特許第3888835号明細書に開示のような触媒系を使用してオレフィンを重合する方法が記載されている。
【特許文献2】欧州特許第EP 0005215号公報
【0008】
この方法ではスルホン酸残基を含む化合物から成る汚染防止剤を使用する。この汚染防止剤は(a)ポリスルホンコポリマーと、(b)重合したポリアミンと、(c)、油溶性スルホン酸とから成る。実施例ではStadis 450として知られる製品を汚染防止剤として使用している。
【0009】
下記文献には、メタロセン錯体を含む触媒系を使用したC2−C12アルケンのポリマーの製造方法が開示されている。
【特許文献3】米国特許第6022935号明細書(欧州特許第EP0803514号公報に対応)
【0010】
この方法では帯電防止剤が使われる。一般に、重合に適した全ての帯電防止剤が使えるということが記載されている。その実施例はメディアラニック(medialanic)酸のカルシウム塩、N-ステアリルアンスラニリック酸のクロム塩、一般式:(RR‘)−CHOSO3Meのスルホン酸エステルの脂肪酸石鹸、ポリエチレングリコールと脂肪酸とのエステル、ポリオキシエチレン アルキルエーテルから成る混合塩である。
【0011】
下記文献には少なくとも一つのループ反応装置とそれに続く少なくとも一つの気相反応装置とから成る重合プロセスの気相反応装置のシーティング問題を防止するか方法が記載されている。
【特許文献4】欧州特許第EP0820472号公報
【0012】
上記問題に対して使用する汚染予防剤剤はC14−C18アルキルサリチル酸のCr塩、Caジアルキルスルホサシネート、アルキルメタアクリレートと2−メチル−5−ビニルピリジンとの共重合体との混合物のキシレン溶液である。触媒としてはクロム−タイプの触媒、チーグラー−タイプの触媒およびメタロセン触媒が記載されている。
下記文献にはオレフィンのスラリー重合方法が記載されている。
【特許文献5】日本特許第JP 2000−327707号公報
【0013】
この特許には特に、支持されたメタロセン触媒で観測される反応装置の壁の汚染とシーティングの問題が記載されている。この特許の方法ではポリアルキレンオキサイド、アルキルエーテル、アルキルジエチルアルコールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミンおよびポリアルキレンオキサイドブロックから選択される化合物の存在下で重合が実施される。
下記文献にはバルクループ反応装置中でのプロピレンの重合方法が記載されている。
【特許文献6】欧州特許第EP 1 316 566号公報
【0014】
この特許は特にバルクループ反応装置中で1つの触媒系から他の触媒系への遷移状態と、それに関連する課題とに関するものである。この方法ではメタロセン触媒はチーグラー−ナッタ触媒系とがバルクループ反応装置中に噴射される。この特許にはクロム酸化物タイプの触媒を用いた場合は記載がない。第3頁の[0009]に記載の実施例では多量の汚染防止剤が触媒混合系中に添加される。使用可能性な3つの汚染防止剤が記載されている。第10〜11頁の記載は明らかに汚染防止剤がメタロセン触媒系用のもので、従来のチーグラー−ナッタ触媒系用のものではないことを教えている。さらに、特許文献6(欧州特許第EP 1 316 566号公報)ではメタロセン触媒およびチーグラー−ナッタ触媒がループ反応装置にシーケンシャルに噴射され、同時に噴射されることはない。従って、両者が反応装置中に同時に存在することはなく、メタロセン触媒系中に存在する汚染防止剤がチーグラー−ナッタ触媒系と接触することはない。
【0015】
上記の通り、オレフィン重合プロセスで用いられる多数のいわゆる汚染防止剤が公知である。しかし、従来の公知の汚染防止剤にはいくつかの問題があり、特にクロム−タイプの触媒(時としてチーグラー−ナッタタイプの触媒)を使用した重合プロセスで問題がある。これらの問題には汚染防止剤の存在によって活性ロスが生じ、触媒の消費量が増加するという問題が含まれる。これは代表的に使われている重合プロセスでも低レベルではあっても観測される。触媒の活性ロスは活性サイトの被毒、例えば汚染防止剤の極性サイト(アルコールおよびスルホネート・・・)による被毒の問題とリンクしている。
【0016】
従来公知の汚染防止剤の他の問題は毒性の問題である。これは特に溶剤タイプ(トルエン)のため、および/または、活性試薬のため、Crベースの汚染防止剤や特許文献2(欧州特許第EP 0005215号公報)に記載の市販のStadis 450のような汚染防止剤を使用した場合に問題になる。
【0017】
さらに、上記の公知汚染防止剤は実際の使用上に多くの問題がある。ある種お汚染防止剤は所定の触媒系でしか使えないため、実際の使用で問題が生じる。それによって製造中の触媒系と触媒系との間の遷移(transition)をより難しくする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、上記従来製品の欠点がなく、クロム−タイプの触媒、遷移金属(late transition metal)−タイプの触媒またはチーグラー−ナッタ−タイプの触媒を用いたオレフィン重合方法で使用可能な新規な汚染防止剤に対するニーズがある。上記の問題は下記の本発明方法で解決できる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、汚染防止剤と、クロム−タイプの触媒またはチーグラー−ナッタ触媒との存在下で実行されるオレフィンの重合方法において、上記汚染防止剤が平均分子量(Mw)が1000ダルトン以上である汚染防止ポリマーから成り、この汚染防止ポリマーは下記の(1)および(2):
(1)一つまたは複数のブロック−(CH2CH2−O)k−(ここで、各kは1〜50の数)、および
(2)一つまたは複数のブロック−(CH2−CH(R)−O)n−(ここで、各Rは1〜6つの炭素原子を有するアルキル基、各nは1〜50の数)
を含み、且つ、R'末端基およびR''末端基(ここで、R'は OHまたは1〜6つの炭素原子を有するアルコキシであり、R'' はHまたは1〜6つの炭素原子を有するアルキルである)で終わることを特徴とする方法にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明方法での(CH2−CH(R)−O)nブロックは親油性とみなされ、(CH2CH2−O)kブロックは親水性とみなされ、ポリマーの一端は親水性であり、ポリマーの他端または中間部分は親油性であるのが好ましい。
上記のような汚染防止剤自体は公知であり、特にオレフィン重合の分野以外ではよく知られており、水洗洗剤の汚染防止剤は特に知られている。
【0021】
しかし、驚くことに、上記タイプの汚染防止剤が、クロム−タイプ触媒、遷移金属(late Transition Metal-type)触媒またはチグラー−ナッタ−タイプ触媒を使用するオレフィン重合方法で有利に使用できるということを本発明者は発見した。特に、クロム−タイプ触媒を使用したプロセスでこの汚染防止剤を使用すると、Stadis 450のような他の公知の汚染防止剤を使用した場合に比べて、触媒の活性が向上するということは予想し得ないことであった。事実、活性が2倍になることが観測された。金属アルキルのようなスカベンジャーをしないため、汚染防止剤の存在に起因する触媒毒が触媒の活性低下がクロム−タイプ触媒で特に問題になっているので、この点は予想外のことである。
【0022】
さらに、遷移金属(late Transition Metal-type)触媒またはチーグラー−ナッタタイプ触媒を使用したプロセスでこの汚染防止剤を使用した時には、活性のロスが生じないということも分かった。これは、複数のオレフィン重合プロセスで触媒のタイプ(例えば、クロム-タイプ、遷移金属(late Transition Metal-type)タイプ、チーグラー−ナッタタイプまたはメタロセンタイプ)とは無関係に単一の汚染防止剤が使用できるという意味で、ロジスティックの面から特に好ましいことである。これは公知の大部分の汚染防止剤では不可能で、複数の触媒系の1つの活性がロスする。
【0023】
さらに重要なことは、本発明の汚染防止剤を使用しても樹脂製品のレオロジーおよび機械特性が実質的に変わらないことである。
本発明の汚染防止剤はさらに、例えば、Cr−化合物または芳香剤希釈剤を用いた汚染防止剤より人間に対する安全性が高いという点で有利である。本発明の汚染防止剤は必ずしも溶媒を必要としないので、従来一部で使用されていた溶剤(例えばトルエン)を避けることができる。
【0024】
本発明の汚染用ポリマーはブロックポリマー、好ましくはトリブロック・ポリマーであり、好ましくは下記一般式(I)(II)のブロックポリマーである:
【化4】

【0025】
(ここで、Rはアルキル基、R'およびR''は末端基、kは1〜50の数、nは1〜50の数、mは≧1、aは1〜50の数、bは1〜50の数、cは0〜50の数であり、k、m、a、bおよびcは互いに同一でも異なっていてもよい)
【0026】
RはC1〜C3アルキル基であり、好ましくはメチル基である。
好ましい実施例ではkは1以上であり、mも1以上である。また、他の好ましい実施例ではaが0か、cが0である。
【0027】
R'およびR''はH、OH、アルキルおよびアルコキシ基を含むのが好ましい。好ましいアルキル基はCl〜C3アルキル基である。好ましいアルコキシ基はC1〜C3アルコキシ基である。既に述べたようにポリマー末端は親水性でなければならない。従って、式(I)および式(II)のR'はOHまたはアルコキシ基、好ましはOHまたはCl〜C3アルコキシ基であるのが好ましい。R''はHまたはアルキル基、好ましくはHまたはCl〜C3アルキル基である。
【0028】
特に好ましいポリマーは下記一般式を有する:
【化5】

【0029】
(ここで、R'、R''、k、nおよびmはそれぞれ上記定義のものを表す)
さらに好ましいポリマーは下記一般式(IV)を有する:
【化6】

【0030】
(ここで、R、k、nおよびmはそれぞれ上記定義のものを表す)
【0031】
好ましいa、b、c、k、nおよびmの値は、本発明汚染防止剤ポリマーの好ましい分子量と本発明汚染防止剤中でのエチレンオキサイドの好ましい含有比率とから決定できるということは理解できよう。
本発明方法では、必要に応じて、触媒(例えばチーグラー‐ナッタ触媒)を活性化させる活性化剤や製品ポリマーの性質を修正するための試薬が必要であるということは理解できよう。適切な活性化剤は周知であり、必要に応じて使用できる。そうした活性化剤にはI族、III族の有機金属系またはハイドライド化合物、例えば一般式AlR3、例えばEt2AlClおよび(I−Bu)3Alが含まれる。好ましい活性化剤の一つはトリイソブチルアルミニウムである。
【0032】
重合方法がスラリー重合方法の場合には液体希釈剤中で実行される。この希釈剤は液体のモノマーまたはコモノマー(例えばプロピレン、ヘキセン)または不活性液体(例えばアルカン)にすることができる。好ましいアルカン希釈剤はイソブタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサンおよびこれの混合物が含まれる。
【0033】
汚染防止剤は本発明方法の任意の適切な段階で添加できる。この添加は連続的またはバッチで行うことができる。汚染防止剤は重合媒体中に別個に加えることがで、また、モノマーまたはコモノマーと一緒に混合した後、重合媒体中に添加することができる。汚染防止剤を均一に導入するために、汚染防止剤はモノマーのヘッダを介して反応装置に添加するのが好ましい。
【0034】
汚染防止剤は室温で液体であるのが好ましく、従って、汚染防止ポリマーは室温で液体であるのが好ましい。汚染防止ポリマーが室温で液体であるか否かは2つの原理的ファクタ、すなわち、汚染防止ポリマーの分子量と、汚染防止ポリマー中のエチレンオキサイドの重量%で決定できる。
汚染防止ポリマー中のエチレンオキサイドの重量%は5〜40重量%、好ましくは8〜30重量%、より好ましくは10〜20重量%、最も好ましくは約10重量%である。
汚染防止ポリマーは5000未満の分子量(MW)を有するのが好ましい。触媒に対する触媒活性低下の影響を避け、得られたポリマー製品からの残留物の染出しを最小にするために、分子量は1000ダルトン以上、好ましくは2000ダルトン以上にし、最も好ましくは2000〜4500ダルトンにする。
【0035】
以上の説明から分かるように、汚染防止剤が室温で液体であるためには汚染防止ポリマーの分子量と、汚染防止ポリマーのエチレンオキサイドの重量%とをバランスさせなければならないということは理解できよう。分子量が増加すると汚染防止ポリマーの活性が低下するという点に注意されたい。従って、実際には汚染防止ポリマーの分子量を増加させるのではなく、汚染防止ポリマーのエチレンオキサイドの重量%を増加させて、室温で液体である汚染防止剤にするのが好ましい。
【0036】
以上の説明から分かるように、汚染防止ポリマーの分子量は汚染防止ポリマーのエチレンオキサイドの重量%を考えて選択しなければならない。見本値として、本発明者はエチレンオキサイドの比率を10重量%にし、分子量を4000〜4500の範囲にした汚染防止ポリマーが本発明方法には好ましいということを見出している。
一般に、汚染を防止または大幅に減らすために使用する汚染防止ポリマーの有効濃度はできる限り低くする。これはルーチンの実験で決定できる。好ましくは重合媒体中で0.5〜20ppm、より好ましくは2〜10ppmの濃度で使用する。
【0037】
本発明方法はエチレンのホモポリマーまたはエチレンと一種以上のコモノマーとからコポリマーまたはそれより高次元のポリマーを作るのに用いることができる。コポリマーまたはより高次元のポリマーはランダム、交互またはブロックポリマーにすることができる。好ましいコモノマーはプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンである。本発明方法はさらに、他のアルファオレフィン、例えばプロピレン、ブテン等のホモポリマーまたはコポリマーの製造に用いることができる。本発明方法は高密度ポリエチレンの製造に特に適しているが、それに限定されるものではない。
【0038】
コポリマーまたはより高次元のポリマーがブロック構成をしている場合、ポリマーを作る一つの方法はホモポリマーの「ブロック」を作り、こうした予め作った「ブロック」を重合媒体中にコモノマーと一緒に導入する。あるいは、少量のコモノマーと一緒にプロピレンのモノマーを含む重合媒体中で「ブロック」ポリマーを作ることができる。
エチレンのポリマーの場合、好ましい反応温度は40〜130℃、好ましくは50〜130℃、より好ましくは70〜110℃である。
好ましい圧力は5〜200のバール、好ましくは30〜70バールであり、反応装置の構成および希釈剤に応じて変わる。
【0039】
一般に、本発明方法で使用可能なクロム−タイプ触媒はクロム酸化物タイプの触媒で、酸化クロムをシリカ、アルミナ、チタニア、アルミノホスフェイトまたはトリアの少なくとも一つと組合せるのが好ましい。この触媒は周知である。好ましい酸化クロム−タイプ触媒はCrオンシリカ(Cr on silica)、チタニア、アルミナ、アルミノホスフェイト、フッ素またはこれの混合物をドープしたCrオンシリカ、Crオンアルミノホスフェイトでる。
【0040】
本発明方法で使用可能な遷移金属(late Transition Metal-type)触媒は下記文献に記載のニッケル錯体および鉄錯体を含む。
【非特許文献1】S. T. Ittel, L. K. Johne and M Brookhart, in Chem. Rev. ,2000, 1169)
【非特許文献2】V. C. Dibson, S. K. Spitzmesser, Chem. Rev. 2003, 283
【0041】
このタイプの触媒はこの技術の当業者には周知のものである。
一般に本発明方法で従って、よ可能なチーグラー−ナッタタイプ触媒は担体に支持されたIV−VIII族(主としてTi、ZrまたはV)の遷移金属化合物から成る。この触媒も周知である。チーグラー−ナッタ触媒の例はTiCl4、TiCl3、VCl3、VOCl3である。MgCl2担体上に支持されたチタン塩化物、シリカ担体上に支持されたMgCl2が好ましい。
【0042】
スラリー重合方法に適用可能なバルク反応装置タイプは乱流反応装置、例えばループ形の連続パイプ反応装置である。ループ形の連続パイプ反応装置は液体モノマーまたは希釈剤を液体媒体として使用して液体充填モードで運転される。このいわゆるループ反応装置は周知であり、下記文献に記載されている。
【非特許文献3】Encyclopedia of Chemical Technology、第3版、第16巻、第390頁
【0043】
同じタイプの装置でLLDPEとHDPEの樹脂を逓増できる。
ループ反応装置は一つまたはそれ以上の反応装置(例えば他のループ反応装置)に接続できる。他のループ反応装置に接続されるループ反応装置はダブルループ反応装置とよばれる。
ループ反応装置の代わり撹拌槽タイプの反応器のような大容量の他のタイプの反応装置を使用し、バルクモノマーまたは希釈剤を液体媒体として使用することができる。ループ反応装置と一緒に撹拌槽タイプの反応器を使用することもできる。この場合にはループ反応装置を最初の反応装置とし、撹拌槽タイプの反応器は第2反応装置にする。
【0044】
気相反応装置を組込むのが有利な場合もある。この気相反応装置は第2反応装置とし、最初の反応装置、例えばループ反応装置または撹拌槽タイプの反応器に接続することができる。あるいは、気相反応装置を第3反応装置として接続することもできる。気相反応装置(存在する場合)ではコポリマーまたは高次元のポリマー製品のエラストマ部分を作ることができる。ポリマー製品のエラストマ部分はポリマー製品に耐衝撃性を与える。ポリマー製品のエラストマ部分は一般に、コモノマーが豊富(リッチ)である。
例えば「ブロック」ポリマーを製造したい場合、バルク反応装置を気相反応装置に接続することができる。
【0045】
以下、添付図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例ではループ反応装置システムを説明する。
(1)モノマー(例えばエチレン)を、液体希釈剤(例えばイソブタン)、水素、触媒、活性化剤、汚染防止剤および任意成分のコモノマー(例えばヘキセン)中で重合する。反応装置は基本的にトラフエルボによって互いに接続された少なくとも4つの垂直のジャケット付きのパイプ・セクションから成る。
【0046】
[図3]を参照すると、6つの垂直のジャケット付きのパイプ・セクション(1a、1b、1c、1d、1e、1f)がトラフエルボ(3a、3b、3c、3d、3e、3f)によって互いに接続された反応装置が示してある。[図3]の反応装置では3つの下側トラフ・エルボ(3d、3b、3f)と、3つの上側トラフ・エルボ(3c、3a、3e)とがある。スラリーは軸流ポンプ(2)によってこの反応装置中を循環するように維持される。重合熱は垂直なパイプセクション(レグ)の周りの水冷ジャケットによって除去できる。反応物、希釈剤および汚染防止剤は反応装置の下側トラフ・エルボの1つから導入される。一般に、反応物、希釈剤および汚染防止剤は循環ポンプの近く、[図3]に「4」で示した位置から導入される。
【0047】
(2)製品(例えばポリエチレン)は反応装置の下側トラフ・エルボの少なくとも1つから希釈剤の一部と一緒に取り出すことができる。一般に、製品は反応物、希釈剤および汚染防止剤が導入されるトラフ・エルボとは異なるトラフ・エルボから取られる。例えば、[図3]の実施例では反応物、希釈剤および汚染防止剤は「4」の位置で導入され、製品はエルボ3bまたは3dから取り出される。
スラリーの取り出しを洗浄カラムまたは遠心機装置を用いて行うこともできる。
あるいは、スラリーの取り出しを沈殿レグ(settling legs)および不連続吐出弁を介して行うこともできる。この不連続放出方式では全循環流の一部が抜き出される
あるいは、連続抜き出し方式を使うこともできる。
【0048】
直列運転の場合、スラリー抜き出し系を介して集められる第1ループ反応装置の製品は、追加の希釈剤およびモノマーと一緒に第2反応装置中に再噴射される。必要な場合には、追加の汚染防止剤を第2反応装置に追加することもできる。反応装置間で例えば液体サイクロン装置を用いてスラリーを濃縮することもできる。スラリーを他の反応装置へ移す必要がない場合には、ポリマー脱気セクションへ送り、そこで固形分を増加させる。
【0049】
(3)スラリーを減圧する間に、例えば加熱したラインを通ってフラッシュタンクへ移送する間に脱気する。フラッシュタンクで製品と希釈剤とが分離される。パージカラムでさらに完全に脱気する。得られた微粉末製品に添加剤を加え、ペレットにするか、添加剤含有粉末にする。
【実施例】
【0050】
I.本発明汚染防止剤とStadis 450との比較
方法
本質的に異なる2つの汚染防止剤を使用して下記の4つの樹脂(A〜D)を製造した。
樹脂A:IC4中で2.2ppm のStadis 450(RTM)を使用して製造したビモダル(bimodal)な樹脂;
樹脂B:IC4中で2.4ppm のStadis 450(RTM)を使用して製造したフィルム樹脂;
樹脂C:イソブテン(IC4)中で1.1ppmの汚染防止剤I(AFAI)を使用して製造したフィルム樹脂
樹脂D:IC4中で1.0ppm の汚染防止剤I(AFAI)を使用して製造したビモダル(bimodal)な樹脂
汚染防止剤I(AFAI)は本発明によるもので下記式を有する:
【0051】
【化7】

【0052】
汚染防止剤I(AFAI)はOH値が25.5mg kOH/g、おおよそのMwが4400、エチレンオキサイド含有率が10%w/wである。
IC4中の汚染防止剤の濃度およびIC4中のStadis 450(RTM)の濃度は、反応装置に導入される活性体の量が同じになるように計算した。この場合、Stadis 450(RTM)は約50%のトルエンを含むものとして計算した。本発明の汚染防止剤Iは溶媒を含まない。
上記汚染防止剤(AF)はCrオンシリカ−チタニア(Cr on silica-titania)触媒(チタニア2.5%、Cr1%、SA=約500、孔体積=2.5ml/g)を用いた重合反応でテストした。活性化は流動床で、所定温度で、6時間、空気流下に実行した。樹脂A〜Dに対する重合方法の詳細は[表1][表2]に記載してある。
反応装置のパラメータおよび分析法は[表1]にまとめて示してある。
【0053】
【表1】

【0054】
樹脂AとDは同じ反応装置温度、当量のアルキル濃度で、C2オフガスを同じにして製造した。これらの実験で溶融指数(メルトインデックス)MI2およびHLMIはASTM規格D1238の試験方法で190℃の温度で、それぞれ2.16kgおよび21.6kgの荷重下に測定した。密度はASTM規格D 1505の試験方法で23℃の温度で測定した。嵩密度BdはASTM規格D 1895の試験方法で測定した。
汚染防止剤I はStadis 450(RTM)と比較して触媒毒作用が少なく、触媒生産性が高く、メルトインデックスをより低くする可能性を有する。
フラフ(fluff、綿状物)の均質化(homogenising)後にHLMIおよび密度が高いのは樹脂Aで方である。
ワックス(Waxes)の含有量は樹脂AおよびDで同じである。
【0055】
【表2】

【0056】
樹脂BとCは[表2]に示すように同じ反応装置条件で製造したものである。樹脂BとCでの汚染防止剤の使用には、特性および生産性の点では実質的な差異はないが、樹脂Cで汚染防止剤Iを使用すると生産性は約10%高くなる。
【0057】
樹脂の特性
全ての樹脂をゲル透過クロマトグラフ(GPC)およびレオロジカル動的分析(Rheological Dynamic Analysis、RDA)で調べた。
樹脂Aは生産性が低く、樹脂Aは重量平均分子量(Mw)は同じで、分子量分布(MwD)が広い([表3]のGPC結果参照)。溶融性が相違(樹脂D中に汚染防止剤の場合8.8 g/10'、 樹脂A汚染防止剤の場合14.3 g/10'、)し、SR2が等しいことを考えると、樹脂D中には汚染防止剤で長い分岐鎖が作られたことを示しており、これは触媒の生産性が高いことに関連している。全ての性質はペレットで測定した。
【0058】
【表3】

【0059】
Mn、MwおよびMzはそれぞれ数平均分子量、重量平均分子量および平均分子量を表す。RDAの結果から樹脂Aの溶融指数は極めて高いこと、そして、樹脂Dはより長い分岐鎖を含み、および/または、MWDが狭いことが確認された([図1]参照)。
GPC曲線およびRDA曲線は、樹脂Bと樹脂Cは均等であることを示している([表4]および[図2]を参照)。MWDは両方の樹脂で広く、生産性が低いことを示している。
【0060】
【表4】

【0061】
機械特性
ESCRと酸化防止剤(antioxydant)(AO)試験を樹脂Aおよび樹脂D(均質化後のフルフおよびペレットで)で実行した([表5]参照)。
樹脂Aは密度が高いため、観測された製品抵抗性は悪い。また、樹脂Aの場合、100% Antaroxで破面(fractures)が見られるものもあった(全てのサンプルの平均破面時間は703時間である)。
【0062】
【表5】

【0063】
ESCRはASTM規格D 1690の試験方法で測定した。試験は各樹脂の10サンプルで行った。6つのサンプルの平均ESCRは約700hrをわずかに上まわり、、4つのサンプルの平均ESCRは1250時間以上である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】樹脂AとDで行なったレオロジー動的解析(rheoligical dynamic analysis, RDA)の結果を示す図で、Gc(Pa. Sで表示)をWc(rad/sで表示)の関数で表したもの。
【図2】Gc(Pa. Sで表示)をWc(rad/sで表示)の関数で表した、樹脂BとCで行なったRDAの結果を示す図。
【図3】本発明方法で使用可能なループ反応装置を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染防止剤と、クロム−タイプの触媒またはチーグラー−ナッタ触媒との存在下で実行されるオレフィンの重合方法において、
上記汚染防止剤が平均分子量(Mw)が1000ダルトン以上である汚染防止ポリマーから成り、この汚染防止ポリマーは下記の(1)および(2):
(1)一つまたは複数のブロック−(CH2CH2−O)k−(ここで、各kは1〜50の数)、および
(2)一つまたは複数のブロック−(CH2−CH(R)−O)n−(ここで、各Rは1〜6つの炭素原子を有するアルキル基、各nは1〜50の数)
を含み、且つ、R'末端基およびR''末端基(ここで、R'は OHまたは1〜6つの炭素原子を有するアルコキシであり、R'' はHまたは1〜6つの炭素原子を有するアルキルである)で終わることを特徴とする方法。
【請求項2】
Rがメチルである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
汚染防止剤が室温で液体である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記ポリマーが少なくとも約2000の分子量を有する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ポリマーの両端が親水性である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
汚染防止剤が下記一般式(I)または(II)を有するブロック共重合体から成る請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法:
【化1】

(ここで、Rはアルキル基R、R' およびR''は請求項1で定義の末端基、kは1〜50の数、nは1〜50の数、mは≧1、aは1〜50の数、bは1〜50の数、cは0〜50の数である)
【請求項7】
汚染防止剤が下記一般式(III)を有するブロック共重合体から成る請求項6に記載の方法:
【化2】

(ここで、R'、R''、k、nおよびmはそれぞれ請求項5で定義のもの)
【請求項8】
汚染防止剤が下記一般式(V)を有するブロック共重合体から成る請求項7に記載の方法:
【化3】

(ここで、k、nおよびmはそれぞれ請求項6で定義のもの)
【請求項9】
少なくとも一つのループ反応装置中で実行される請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ダブルループ反応装置中で実行される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
40〜130℃の温度で実行する請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
5〜200bargの圧力で実行される請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アルファオレフィンのホモポリマーまたはコポリマーの製造で使用する請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
エチレンのホモポリマーまたはエチレンと一種以上の他のアルファオレフィンとのコポリマーの製造で使用する請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−522301(P2007−522301A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552602(P2006−552602)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050518
【国際公開番号】WO2005/082954
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】