説明

汚泥スラリーの脱臭方法、脱水ケーキの脱臭方法、及び脱臭剤

【課題】排水処理設備で生じた汚泥スラリーから発生する硫化水素やメチルメルカプタンに由来する臭気を、汚泥の種類に左右されることなく、速やかにかつ長期間にわたって安定的に抑制することが可能な汚泥スラリーの脱臭方法を提供する。
【解決手段】硝酸塩及び/又は亜硝酸塩からなる第一の成分と、亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩からなる第二の成分とを含有する脱臭剤を汚泥スラリーに添加する工程、或いは第一の成分と第二の成分をそれぞれ汚泥スラリーに添加する工程を有し、第一の成分と第二の成分の合計100質量%に対する、第二の成分の割合が15〜85質量%である汚泥スラリーの脱臭方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理設備における汚泥スラリーや脱水ケーキから発生する硫化水素やメチルメルカプタン等の有害悪臭物質に由来する臭気を効果的に防止することができる脱臭方法、及びそれに用いる脱臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場、し尿処理場、食品工場、及び紙パルプ工場等から生ずる有機性産業排水の処理工程からは、各種の汚泥、及びこれらの汚泥を含むスラリー(汚泥スラリー)が発生する。下水処理場を例に挙げると、下水を沈殿池で固液分離すると初沈生汚泥が発生する。活性汚泥を含む曝気槽を用いて沈殿池の上澄水を処理すると、活性汚泥の量が増加する。曝気槽から最終沈殿池へと導入された処理水から分離された活性汚泥の一部は、返送汚泥として曝気槽に返送される。そして、活性汚泥の残部は余剰汚泥となる。初沈生汚泥や余剰汚泥を含む汚泥スラリーは、汚泥濃縮槽を経由して汚泥貯留槽に貯留された後、脱水機等により脱水されて脱水ケーキとされる。
【0003】
汚泥貯留槽や脱水機の周辺では、汚泥スラリーから悪臭物質が揮散している。悪臭物質としては、硫化水素、メチルメルカプタン等のイオウ化合物;アンモニア、トリメチルアミン等の窒素化合物;吉草酸、イソ酪酸等の低級脂肪酸;汚泥の乾燥焼却工程から発生するアルデヒド類等がある。なかでも、硫化水素とメチルメルカプタンの発生量は特に多く、その強烈な臭気が問題となっている。
【0004】
なお、脱水ケーキは腐敗しやすいので、悪臭物質に由来する臭気が発生しやすい。また、脱水ケーキは開放系で運搬、保管される場合が多いので、臭気対策はより重要である。さらに、脱水ケーキの最終埋め立て地において臭気が拡散してしまうと、環境に悪影響を及ぼす恐れもあるので、有効な臭気対策が求められていた。例えば、過酸化水素、過硫酸アルカリ、及び亜塩素酸塩等の活性酸素発生化合物を用いる、即効性に優れた脱臭方法が知られている。しかしながら、これらの活性酸素発生化合物は、短時間で効果を失ってしまうといった問題がある。
【0005】
一方、嫌気的条件下での硫酸還元菌による硫化水素の発生を防止する方法として、微生物の生育環境に亜硝酸塩を存在させる方法が提案されている(特許文献1参照)。また、亜硝酸塩、亜硫酸塩、又は亜硫酸水素塩を含有する脱臭剤、及びこの脱臭剤を用いる脱水ケーキの脱臭方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−60319号公報
【特許文献2】特開2000−202494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、亜硝酸塩を用いる脱臭方法は、即効性を有する反面、長期間にわたって臭気を抑制する効果は必ずしも十分であるとは言えなかった。また、汚泥の種類によって臭気の抑制効果が変動しやすく、安定的に臭気を抑制することが困難であった。このため、汚泥の種類に左右されることなく、速やかにかつ長期間にわたって安定的に臭気を抑制可能な脱臭方法を開発することが切望されていた。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、排水処理設備で生じた汚泥スラリーや脱水ケーキから発生する硫化水素やメチルメルカプタンに由来する臭気を、汚泥の種類に左右されることなく、速やかにかつ長期間にわたって安定的に抑制することが可能な汚泥スラリー及び脱水ケーキの脱臭方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の課題とするところは、排水処理設備で生じた汚泥スラリーや脱水ケーキから発生する硫化水素やメチルメルカプタンに由来する臭気を、汚泥の種類に左右されることなく、速やかにかつ長期間にわたって安定的に抑制することが可能な脱臭剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、即効性を有する硝酸塩や亜硝酸塩と、持続性を有する亜硫酸塩や亜硫酸水素塩とを特定の割合で組み合わせて用いる(併存させる)ことによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、硝酸塩及び/又は亜硝酸塩からなる第一の成分と、亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩からなる第二の成分とを含有する脱臭剤を汚泥スラリーに添加する工程、或いは前記第一の成分と前記第二の成分をそれぞれ汚泥スラリーに添加する工程を有し、前記第一の成分と前記第二の成分の合計100質量%に対する、前記第二の成分の割合が15〜85質量%である汚泥スラリーの脱臭方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、硝酸塩及び/又は亜硝酸塩からなる第一の成分と、亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩からなる第二の成分とを含有する脱臭剤を汚泥スラリーに添加する、或いは前記第一の成分と前記第二の成分をそれぞれ汚泥スラリーに添加した後、前記汚泥スラリーを脱水処理する工程を有し、前記第一の成分と前記第二の成分の合計100質量%に対する、前記第二の成分の割合が15〜85質量%である脱水ケーキの脱臭方法が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、汚泥スラリー又は脱水ケーキの脱臭に用いられる脱臭剤であって、硝酸塩及び/又は亜硝酸塩からなる第一の成分と、亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩からなる第二の成分とを含有し、前記第一の成分と前記第二の成分の合計100質量%に対する、前記第二の成分の割合が15〜85質量%である脱臭剤が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の汚泥スラリー及び脱水ケーキの脱臭方法によれば、排水処理設備で生じた汚泥スラリーや脱水ケーキから発生する硫化水素やメチルメルカプタンに由来する臭気を、汚泥の種類に左右されることなく、速やかにかつ長期間にわたって安定的に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の脱臭剤を用いれば、排水処理設備で生じた汚泥スラリーや脱水ケーキから発生する硫化水素やメチルメルカプタンに由来する臭気を、汚泥の種類に左右されることなく、長期間にわたって安定的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。本発明の汚泥スラリーの脱臭方法は、(i)第一の成分と、第二の成分とを含有する脱臭剤を汚泥スラリーに添加する工程、或いは(ii)第一の成分と第二の成分をそれぞれ汚泥スラリーに添加する工程を有する。また、本発明の脱水ケーキの脱臭方法は、(i)第一の成分と、第二の成分とを含有する脱臭剤を汚泥スラリーに添加する、或いは(ii)第一の成分と第二の成分をそれぞれ汚泥スラリーに添加した後、汚泥スラリーを脱水処理する工程を有する。そして、汚泥スラリーの脱臭方法と、脱水ケーキの脱臭方法のいずれおいても、第一の成分と第二の成分の合計100質量%に対する、第二の成分の割合を15〜85質量%とする。
【0017】
また、本発明の脱臭剤は、汚泥スラリー又は脱水ケーキの脱臭に用いられる脱臭剤であり、第一の成分と第二の成分とを含有するものである。そして、本発明の脱臭剤に含有される第二の成分の割合は、第一の成分と第二の成分の合計100質量%に対して15〜85質量%である。
【0018】
第一の成分は、硝酸塩と亜硝酸塩の少なくともいずれかである。硝酸塩の種類には、特に制限はない。硝酸塩の具体例としては、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、硝酸亜鉛等を挙げることができる。なかでも、硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムは、脱水ケーキの二次使用を行う場合にも利用先での悪影響がないために好ましい。これらの硝酸塩は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、硝酸塩は、亜硝酸塩に比して、コスト面及び生体への影響(安全性)の面で好ましい。このため、特に大量の汚泥スラリーを処理する場合には、第一の成分として硝酸塩を用いることが好ましい。
【0019】
亜硝酸塩の種類には、特に制限はない。亜硝酸塩の具体例としては、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸ルビジウム、亜硝酸セシウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸ニッケル、亜硝酸銅、亜硝酸銀、亜硝酸亜鉛、亜硝酸タリウム等を挙げることができる。なかでも、亜硝酸ナトリウム及び亜硝酸カリウムは、脱水ケーキの二次使用を行う場合にも利用先での悪影響がないために好ましい。これらの亜硝酸塩は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
第二の成分は、亜硫酸塩と亜硫酸水素塩の少なくともいずれかである。亜硫酸塩の種類には、特に制限はない。亜硫酸塩の具体例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム等を挙げることができる。なかでも、亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸カリウムは、脱水ケーキの二次使用を行う場合にも利用先での悪影響がないために好ましい。これらの亜硫酸塩は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
亜硫酸水素塩の種類には、特に制限はない。亜硫酸水素塩の具体例としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素カルシウム等を挙げることができる。なかでも、亜硫酸水素ナトリウム及び亜硫酸水素カリウムは、脱水ケーキの二次使用を行う場合にも利用先での悪影響がないために好ましい。これらの亜硫酸水素塩は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
処理対象となる汚泥スラリーに対して、第一の成分と第二の成分のいずれをも含有する本発明の脱臭剤を添加してもよいし、第一の成分と第二の成分を、それぞれ添加してもよい。脱臭剤は、粉末等の固体の状態で汚泥スラリーに添加してもよく、水溶液の状態で汚泥スラリーに添加してもよい。また、第一の成分と第二の成分をそれぞれ添加する場合にも、第一の成分と第二の成分は、いずれも粉末等の固体の状態であってもよく、水溶液の状態であってもよい。
【0023】
なお、第一の成分と第二の成分の合計100質量%に対する、第二の成分の割合は15〜85質量%であり、好ましくは30〜70質量%、さらに好ましくは40〜60質量%である。第二の成分の割合を上記の数値範囲内とすることで、汚泥の種類に左右されることなく、速やかにかつ長期間にわたって安定的に臭気を抑制することができる。第二の成分の割合が15質量%未満であると、臭気を抑制する効果が短くなるとともに、汚泥の種類によっては臭気を抑制する効果が不十分になる。一方、第二の成分の割合が85質量%超であると、即効性が不十分となる。
【0024】
汚泥スラリーに対する第一の成分と第二の成分の合計の添加量は、20〜2000mg/Lとすることが好ましく、50〜1000mg/Lとすることがさらに好ましく、200〜600mg/Lとすることが特に好ましい。添加量が20mg/L未満であると、脱臭効果が不十分となる場合がある。一方、添加量を2000mg/L超としても、脱臭効果は頭打ちとなって、それ以上の効果は見込めなくなる傾向にある。なお、連続的に流入してくる汚泥スラリーに対して、脱臭剤又は第一の成分と第二の成分を継続的に添加することが、脱臭効果がより高まるために好ましい。
【0025】
処理対象となる汚泥スラリー及びそれに含まれる汚泥は、どのような施設、設備、或いは処理工程から発生したものであってもよい。例えば、下水処理場、し尿処理場、食品工場、及び紙パルプ工場等から生ずる有機性産業排水の処理工程で発生した汚泥を含む汚泥スラリーに適用して処理することができる。
【0026】
本発明の脱臭剤を汚泥スラリーに添加するか、又は第一の成分と第二の成分をそれぞれ汚泥スラリーに添加した後、汚泥スラリーを脱水処理する。脱水剤等を汚泥スラリーに添加した後、脱水までの経過時間は、15分以上とすることが好ましく、3時間以上とすることがさらに好ましい。脱水剤等を添加してから15分以上経過した後に脱水することにより、脱水ケーキからの悪臭成分の発生をより長時間にわたって防止することができる。
【0027】
汚泥スラリーの脱水方法に特に制限はない。汚泥スラリーの脱水には、例えば、遠心脱水機、ベルトプレス脱水機、スクリュープレス脱水機、フィルタープレス脱水機、真空脱水機等を用いることができる。汚泥スラリーには、脱水性を向上させるために脱水剤を添加することが好ましい。脱水剤の具体例としては、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、塩化第二鉄、消石灰等を挙げることができる。また、汚泥スラリーには、必要に応じて殺菌剤等の成分をさらに添加してもよい。殺菌剤の具体例としては、ジンクピリチオン等を挙げることができる。
【0028】
汚泥スラリーからは、硫酸還元菌の活動により硫化水素が発生するとともに、一般の微生物により含硫黄有機物が分解されて硫化水素とメチルメルカプタンが発生する。本発明の汚泥スラリー及び脱水ケーキの脱臭方法によれば、汚泥スラリーに特定の脱臭剤(本発明の脱臭剤)等を添加して、硫酸還元菌や一般の微生物の活動を抑え、新たな悪臭成分の発生を抑制することができる。さらに、脱水ケーキ中における微生物の活動をも抑制し、脱水ケーキからの臭気の発生を防止することができる。
【0029】
硝酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、及び亜硫酸水素塩は、腐食性が小さいので、汚泥の二次使用に対する悪影響が少ない。特に、硝酸塩、亜硫酸塩、及び亜硫酸水素塩は、より安全性が高いために好ましい。また、硝酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、及び亜硫酸水素塩は、殺菌剤に比べて安価であり、大量の汚泥スラリーを低コストで処理することができる。また、本発明の脱臭剤を用いれば、汚泥スラリーの脱臭から脱水ケーキの作製までを一剤で処理することが可能であり、処理にかかる手間やコストを大幅に削減することができる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の単なる例示であって、本発明の限定を意図するものではない。なお、実施例及び比較例において、硫化水素の分析にはガステック社製のガス検知管「4M」、「4L」、又は「4LL」を用いた。これらのガス検知管の検出下限濃度は0.25ppm(硫化水素)である。また、メルカプタン類の分析にはガステック社製のガス検知管「70」又は「70L」を用いた。これらのガス検知管の検出下限濃度は0.1ppm(メルカプタン類)である。
【0031】
(1)汚泥スラリーの脱臭試験−1
(実施例1)
下水処理場で採取した混合汚泥200mLを500mL容のポリビンに入れ、NaNO3の濃度が400mg/L、及びNaHSO3の濃度が100mg/LとなるようにNaNO3水溶液とNaHSO3水溶液の混合液を添加して試験用汚泥を用意した。ポリビンを密封し、所定の時間が経過するごとにポリビン内のヘッドスペース部の硫化水素濃度及びメルカプタン類の濃度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0032】
(実施例2〜7、比較例1〜3)
NaNO3とNaHSO3の濃度が表1に示す値となるようにしたこと以外は、前述の実施例1と同様にして試験用汚泥を用意した。ポリビンを密封し、所定の時間が経過するごとにポリビン内のヘッドスペース部の硫化水素濃度及びメルカプタン類の濃度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0033】

【0034】
表1に示すように、NaNO3とNaHSO3を併用した場合(実施例1〜7)には、NaNO3を単独で用いた場合(比較例2)に比して、臭気の抑制効果をより長期間にわたって維持できることが明らかである。また、NaHSO3を単独で用いた場合(比較例3)には悪臭成分が低濃度で発生し続けていたのに対して、NaNO3とNaHSO3を併用した場合(実施例1〜7)には長期間にわたって悪臭成分が検出されないか、又は単独で用いた場合よりも抑制可能であった。
【0035】
(2)汚泥スラリーの脱臭試験−2
(実施例8)
下水処理場で採取した混合汚泥200mLを500mL容のポリビンに入れ、NaNO2の濃度が400mg/L、及びNaHSO3の濃度が100mg/LとなるようにNaNO2水溶液とNaHSO3水溶液の混合液を添加して試験用汚泥を用意した。ポリビンを密封し、所定の時間が経過するごとにポリビン内のヘッドスペース部の硫化水素濃度及びメルカプタン類の濃度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0036】
(実施例9〜14、比較例4〜6)
NaNO2とNaHSO3の濃度が表2に示す値となるようにしたこと以外は、前述の実施例8と同様にして試験用汚泥を用意した。ポリビンを密封し、所定の時間が経過するごとにポリビン内のヘッドスペース部の硫化水素濃度及びメルカプタン類の濃度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0037】

【0038】
表2に示すように、NaNO2とNaHSO3を併用した場合(実施例8〜14)には、NaNO2を単独で用いた場合(比較例5)に比して、臭気の抑制効果をより長期間にわたって維持できることが明らかである。また、NaHSO3を単独で用いた場合(比較例6)には悪臭成分が低濃度で発生し続けていたのに対して、NaNO2とNaHSO3を併用した場合(実施例8〜14)には長期間にわたって悪臭成分が検出されないか、又は単独で用いた場合よりも抑制可能であった。
【0039】
(3)脱水ケーキの脱臭試験−1
(実施例15)
下水処理場で採取した混合汚泥200mLをビーカーに入れ、NaNO3の濃度が400mg/L、及びNaHSO3の濃度が100mg/LとなるようにNaNO3水溶液とNaHSO3水溶液の混合液を添加した後、薬さじで20回撹拌した。カチオンポリマー系脱水剤(商品名「ケーイーフロックKEC−270」、日鉄環境エンジニアリング社製)の0.2質量%水溶液15.0gを添加した後、2枚羽根付き撹拌機を用いて500rpmで20秒間撹拌した。金網スクリーン(60メッシュ、直径80mm)の上に内容物を注いでろ過し、得られた汚泥をナイロン製のろ布(60メッシュ)で包んだ。遠心分離機を使用し、3000rpm、5分間の条件で遠心脱水して脱水ケーキを得た。得られた脱水ケーキをテトラバックに入れ、脱水ケーキ量(25.0g)の20倍量の空気を入れて密封し、30℃の恒温槽で保存した。所定の時間が経過するごとにテトラバック内の硫化水素濃度及びメルカプタン類の濃度を測定した。測定結果を表3に示す。
【0040】
(実施例16〜21、比較例7〜9)
NaNO3とNaHSO3の濃度が表3に示す値となるようにしたこと以外は、前述の実施例15と同様にして脱水ケーキを得た。得られた脱水ケーキをテトラバックに入れ、脱水ケーキ量(25.0g)の20倍量の空気を入れて密封し、30℃の恒温槽で保存した。所定の時間が経過するごとにテトラバック内の硫化水素濃度及びメルカプタン類の濃度を測定した。測定結果を表3に示す。
【0041】

【0042】
表3に示すように、NaNO3とNaHSO3を併用した場合(実施例15〜21)には、NaNO3を単独で用いた場合(比較例8)に比して、臭気の抑制効果をより長期間にわたって維持できることが明らかである。また、NaHSO3を単独で用いた場合(比較例9)には悪臭成分が低濃度で発生し続けていたのに対して、NaNO3とNaHSO3を併用した場合(実施例15〜21)には長期間にわたって悪臭成分が検出されないか、又は単独で用いた場合よりも抑制可能であった。
【0043】
(4)脱水ケーキの脱臭試験−2
(実施例22)
下水処理場で採取した混合汚泥200mLをビーカーに入れ、NaNO2の濃度が400mg/L、及びNaHSO3の濃度が100mg/LとなるようにNaNO2水溶液とNaHSO3水溶液の混合液を添加した後、薬さじで20回撹拌した。カチオンポリマー系脱水剤(商品名「ケーイーフロックKEC−270」、日鉄環境エンジニアリング社製)の0.2質量%水溶液15.0gを添加した後、2枚羽根付き撹拌機を用いて500rpmで20秒間撹拌した。金網スクリーン(60メッシュ、直径80mm)の上に内容物を注いでろ過し、得られた汚泥をナイロン製のろ布(60メッシュ)で包んだ。遠心分離機を使用し、3000rpm、5分間の条件で遠心脱水して脱水ケーキを得た。得られた脱水ケーキをテトラバックに入れ、脱水ケーキ量(25.0g)の20倍量の空気を入れて密封し、30℃の恒温槽で保存した。所定の時間が経過するごとにテトラバック内の硫化水素濃度及びメルカプタン類の濃度を測定した。測定結果を表4に示す。
【0044】
(実施例23〜28、比較例10〜12)
NaNO2とNaHSO3の濃度が表3に示す値となるようにしたこと以外は、前述の実施例22と同様にして脱水ケーキを得た。得られた脱水ケーキをテトラバックに入れ、脱水ケーキ量(25.0g)の20倍量の空気を入れて密封し、30℃の恒温槽で保存した。所定の時間が経過するごとにテトラバック内の硫化水素濃度及びメルカプタン類の濃度を測定した。測定結果を表4に示す。
【0045】

【0046】
表4に示すように、NaNO2とNaHSO3を併用した場合(実施例22〜28)には、NaNO2を単独で用いた場合(比較例11)に比して、臭気の抑制効果をより長期間にわたって維持できることが明らかである。また、NaHSO3を単独で用いた場合(比較例12)には悪臭成分が低濃度で発生し続けていたのに対して、NaNO2とNaHSO3を併用した場合(実施例22〜28)には長期間にわたって悪臭成分が検出されないか、又は単独で用いた場合よりも抑制可能であった。
【0047】
(5)汚泥スラリーの脱臭試験−3
(実施例29)
下水処理場で採取した混合汚泥200mLを500mL容のポリビンに入れ、NaNO3の濃度が320mg/L、及びNaHSO3の濃度が70mg/LとなるようにNaNO3水溶液とNaHSO3水溶液の混合液を添加して試験用汚泥を用意した。ポリビンを密封し、所定の時間が経過するごとにポリビン内のヘッドスペース部の硫化水素濃度を測定した。硫化水素濃度の測定結果を表5に示す。
【0048】
(実施例30及び31、比較例13〜15)
NaNO3とNaHSO3の濃度が表5に示す値となるようにしたこと以外は、前述の実施例29と同様にして試験用汚泥を用意した。ポリビンを密封し、所定の時間が経過するごとにポリビン内のヘッドスペース部の硫化水素濃度を測定した。硫化水素濃度の測定結果を表5に示す。
【0049】

【0050】
表5に示すように、NaNO3とNaHSO3を併用した場合(実施例29〜31)には、NaNO3を単独で用いた場合(比較例14)に比して、臭気の抑制効果をより長期間にわたって維持できることが明らかである。また、NaHSO3を単独で用いた場合(比較例15)には4〜10ppmの硫化水素が定常的に検出されていたのに対して、NaHSO3とNaNO3を併用した場合(実施例29〜31)には長期間にわたって硫化水素が検出されず、臭気を抑制可能であることが明らかである。
【0051】
(6)汚泥スラリーの脱臭試験−4
(参考例1〜8)
複数箇所の下水処理場でランダムに採取した混合汚泥200mLをそれぞれ500mL容のポリビンに入れた。NaNO3及びNaNO2を、それぞれ表6に示す濃度となるようにポリビン内に添加し、ポリビンを密封した。所定の時間が経過するごとにポリビン内のヘッドスペース部の硫化水素濃度を測定した。硫化水素濃度の測定結果を表6に示す。
【0052】

【0053】
表6に示すように、NaNO3とNaNO2のいずれの薬剤も、単独で使用した場合であってもある程度の臭気抑制効果を示すことが分かる。しかしながら、使用した混合汚泥によって臭気抑制効果にバラつきがあり、長期間にわたって安定的に臭気を抑制することが困難であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の脱臭方法によれば、汚泥スラリーや脱水ケーキの臭気を長期間にわたって安定して抑制することができる。このため、本発明の脱臭方法は、下水処理場、し尿処理場、食品工場、及び紙パルプ工場等から生ずる有機性産業排水の処理工程で発生する汚泥スラリー等の臭気を抑制する方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸塩及び/又は亜硝酸塩からなる第一の成分と、亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩からなる第二の成分とを含有する脱臭剤を汚泥スラリーに添加する工程、或いは前記第一の成分と前記第二の成分をそれぞれ汚泥スラリーに添加する工程を有し、
前記第一の成分と前記第二の成分の合計100質量%に対する、前記第二の成分の割合が15〜85質量%である汚泥スラリーの脱臭方法。
【請求項2】
硝酸塩及び/又は亜硝酸塩からなる第一の成分と、亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩からなる第二の成分とを含有する脱臭剤を汚泥スラリーに添加する、或いは前記第一の成分と前記第二の成分をそれぞれ汚泥スラリーに添加した後、前記汚泥スラリーを脱水処理する工程を有し、
前記第一の成分と前記第二の成分の合計100質量%に対する、前記第二の成分の割合が15〜85質量%である脱水ケーキの脱臭方法。
【請求項3】
汚泥スラリー又は脱水ケーキの脱臭に用いられる脱臭剤であって、
硝酸塩及び/又は亜硝酸塩からなる第一の成分と、亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩からなる第二の成分とを含有し、
前記第一の成分と前記第二の成分の合計100質量%に対する、前記第二の成分の割合が15〜85質量%である脱臭剤。

【公開番号】特開2013−86007(P2013−86007A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227616(P2011−227616)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000156581)日鉄住金環境株式会社 (67)
【Fターム(参考)】