説明

汚泥処理工程における硫化水素の発生抑制方法

【課題】汚泥や汚水に殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を添加して汚泥処理工程における硫化水素の発生を抑制する方法において、薬剤の添加量を低減する。
【解決手段】複数の処理段階およびそれらを接続する経路からなる汚泥処理工程の汚泥または汚水に、殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を添加して、硫化水素の発生を抑制する方法であり、前記処理段階および経路内の硫化水素もしくは溶存硫化物(S-2)濃度または前記処理段階および経路の汚泥または汚水の酸化還元電位を測定し、測定された硫化水素もしくは溶存硫化物(S-2)濃度が0ppmを超えるかまたは酸化還元電位が−100mV未満になり、非嫌気性から嫌気性に変化する処理段階または経路を決定し、決定した処理段階または経路の前の処理段階または経路に、前記薬剤を添加して、硫化水素の発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥処理工程における硫化水素の発生抑制方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、タンパク質に由来する工場汚泥または汚水から発生する硫化水素を効果的に抑制し得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場、紙パルプ工場、下水処理場、し尿処理場などの有機物、特に高濃度のタンパク質を含有する汚泥および汚水は、酸素の強制供給がなくなると硫酸還元菌などの微生物の活動により嫌気性腐敗が起こり、硫化水素やメチルメルカプタンなどの含硫黄化合物を発生する。これら嫌気性の汚泥および汚水の処理工程の近くでは、発生した硫化水素などにより労働環境が悪化し、ひどい場合には中毒または死亡事故につながることがある。また、汚泥やその脱水ケーキを運送する場合には、一般道路での臭気が問題となり、一般市民に迷惑がかかるという問題がある。
【0003】
これらの対策として、(1)殺菌剤を添加して汚泥または汚水中の菌群を抗菌または殺菌して硫化水素の発生を抑制する方法、(2)発生した硫化水素を酸化剤で酸化して除去する方法、および(3)発生した硫化水素を金属塩などに吸着させて除去する方法などやこれらを組み合わせた方法がとられている。
方法(1)では、殺菌剤として、例えば、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジアセトキシプロパン、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ベンゾイソチアゾロン、5−クロロ−2−メチルイソチアゾロン、ビスブロモアセトキシ−2−ブテン、ビスブロモアセトキシエタン、α−クロロベンズアルドキシム、3−ヨード−2−プロパギルブチルカーバメート、2,2−ジブロモ−2−シアノプロピオンアミドおよび1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントインなどが用いられている。
【0004】
方法(2)では、酸化剤として、例えば、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、亜臭素酸ナトリウムおよび塩素化シアヌル酸塩などが用いられている。
方法(3)では、金属塩として、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化銅、硫酸銅、炭酸銅、銀塩、コバルト塩、ニッケル塩、チタン塩および錫塩などが用いられている。
【0005】
例えば、特開昭63−209798号公報(特許文献1)には、イソチアゾロン化合物が汚泥消臭剤として硫化水素やメチルメルカプタンなどの悪臭防止効果に有効であり、その効果が2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールよりも優れていることが開示されている(特許請求の範囲、実施例2の試験結果である第3表中比較例参照)。
また、特開平4−126597号公報(特許文献2)には、酸化剤と静菌剤とを併用して、脱水汚泥ケーキからの硫化水素やメチルメルカプタンなどの悪臭発生を抑制する方法が開示されている(特許請求の範囲参照)。
さらに、特開2004−275541号公報(特許文献3)には、汚泥スラリーや汚泥脱水ケーキに、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールと塩化亜鉛などを添加する汚泥臭気抑制方法が開示されている(請求項8参照)。
【0006】
また、特開平9−24396号公報(特許文献4)には、汚泥のORP(酸化還元電位)が−100mV以上となるまでオゾン処理すれば、硫酸還元菌の増殖を抑制でき、ORPをモニターすることにより、汚泥腐敗防止効果をモニターできることが開示されている(明細書、段落0034参照)。
また、特開平7−128322号公報(特許文献5)には、解放系容器に収容した水性液状物中の溶存酸素量を経時的に測定し、その測定値に基づいて、水性液状物の腐敗の進行度を予測し、管理処理手段、例えば2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールなどの防腐剤の添加を行う方法が開示されている(請求項1、5および6ならびに明細書、段落0014参照)。そして、ORPでは、腐敗の進行度を予測しようとしても、その変化が確認できず予測が不可能であることが記載されている(明細書、段落0027参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−209798号公報
【特許文献2】特開平4−126597号公報
【特許文献3】特開2004−275541号公報
【特許文献4】特開平9−24396号公報
【特許文献5】特開平7−128322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の先行技術を含めて、これまで、汚泥や汚水などの対象系への殺菌剤や酸化剤などの薬剤の添加に際して、対象系の汚泥などの性状、特に硫酸還元菌、通性嫌気性菌などの微生物の活動状態と薬剤の添加場所、有効添加濃度との関係については特に検討されておらず、添加し易い場所で撹拌混合が可能であればよいとされていた。
例えば、特許文献1には、汚泥に薬剤を添加すること、薬剤の添加量は10〜2000mg/L程度でよいことが記載されている(例えば、明細書、第2頁、右下欄参照)。
また、特許文献2には、汚泥を脱水処理する前であれば、汚泥貯槽の前から脱水機、コンベアに至るまでの所望の場所に添加すること、薬剤の添加量は酸化剤系消臭剤が100〜5000ppm、静菌剤系消臭剤が1〜2000ppmとすることが記載されている(例えば、明細書、第3頁および第1図参照)。
さらに、特許文献3には、最初沈殿池と重力濃縮層の間、混合汚泥貯水槽、ケーキホッパー内に薬剤を添加すること、薬剤の2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールの好ましい添加量は10〜1500mg/Lであることが記載されている(明細書、段落0009および0012ならびに図1参照)。
【0009】
本発明は、汚泥や汚水に殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を添加して汚泥処理工程における硫化水素の発生を抑制する方法において、薬剤の添加量を低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、薬剤のランニングコストの低減を目指し調査した結果、薬剤の添加場所により有効添加量が異なり、その理由が対象系の汚泥などの微生物の活性状態にあることを見出した。そして、本発明の発明者は、さらに研究を進めた結果、対象系の汚泥が嫌気性になる前の段階で薬剤を添加すれば、嫌気性になった後に薬剤を添加する場合と比較して、薬剤の添加量を1/4程度に削減しても同等の硫化水素の発生抑制効果が発揮される事実を見出し、この発明を完成させた。
【0011】
具体的には、対象系の汚泥や汚水における酸化還元電位、硫化水素または溶存硫化物(S2-)の有無などの性状を測定し、その測定結果に基づいて殺菌および/または酸化作用を有する薬剤の添加場所を定めて添加することにより、薬剤の添加量を削減しても同等の硫化水素発生抑制効果が発揮される事実を見出し、この発明を完成させた。
【0012】
なお、上記の特許文献4には、ORPを用いてオゾンの殺菌効果をモニターできることが開示されているが、対象汚泥が嫌気性であるか否かを確認する指標としてORPを用いることは開示されていない。また、上記のように、特許文献5には、ORPでは、腐敗の進行度を予測しようとしても、その変化が確認できず予測が不可能であることが記載されている。
【0013】
かくして、本発明によれば、複数の処理段階およびそれらを接続する経路からなる汚泥処理工程の汚泥または汚水に、殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を添加して、前記汚泥または汚水からの硫化水素の発生を抑制する方法であり、
前記汚泥または汚水の嫌気性の性状として、前記処理段階および経路内の硫化水素もしくは溶存硫化物(S2-)濃度または前記処理段階および経路の汚泥または汚水の酸化還元電位を測定し、
測定された硫化水素もしくは溶存硫化物(S2-)濃度が0ppmを超えるかまたは酸化還元電位が−100mV未満になり、非嫌気性から嫌気性に変化する処理段階または経路を決定し、
決定した処理段階または経路の前の処理段階または経路に、前記薬剤を添加して、前記汚泥または汚水からの硫化水素の発生を抑制することを特徴とする汚泥処理工程における硫化水素の発生抑制方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、汚泥や汚水に殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を添加して汚泥処理工程における硫化水素の発生を抑制する方法において、薬剤の添加量を低減することができる。
すなわち、本発明によれば、最少量の殺菌剤や酸化剤などの薬剤添加により、汚泥処理工程における硫化水素の発生を抑制することができるので、食品工場、紙パルプ工場、下水処理場、し尿処理場などの有機物、特にタンパク質を高濃度で含有する汚泥または汚水処理工程に適用することができ、低コスト化を図ることができる。
【0015】
また、本発明の硫化水素の発生抑制方法は、薬剤が2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールまたは亜塩素酸ナトリウムである場合に、薬剤が水溶性液体組成物として添加される場合に、薬剤が汚泥および/または汚水に対して有効成分として1〜300ppmの濃度で添加される場合に、上記の効果が特に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の硫化水素の発生抑制方法を適用し得る、汚泥処理工程の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の汚泥処理工程における硫化水素の発生抑制方法は、複数の処理段階およびそれらを接続する経路からなる汚泥処理工程の汚泥または汚水に、殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を添加して、前記汚泥または汚水からの硫化水素の発生を抑制する方法であり、
(1)前記汚泥または汚水の嫌気性の性状として、前記処理段階および経路内の硫化水素もしくは溶存硫化物(S2-)濃度または前記処理段階および経路の汚泥または汚水の酸化還元電位を測定し、
(2)測定された硫化水素もしくは溶存硫化物(S2-)濃度が0ppmを超えるかまたは酸化還元電位が−100mV未満になり、非嫌気性から嫌気性に変化する処理段階または経路を決定し、
(3)決定した処理段階または経路の前の処理段階または経路に、前記薬剤を添加して、前記汚泥または汚水からの硫化水素の発生を抑制することを特徴とする。
すなわち、本発明では、殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を、汚泥や汚水が嫌気状態になる前の段階で添加することを特徴とする。
【0018】
以下、図面を用いて本発明を具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の硫化水素の発生抑制方法を適用し得る、汚泥処理工程の一例を示す概略図である。
この汚泥処理工程では、工場などで発生した有機性物質、特にタンパク質を高濃度で含有する排水が、流入槽1、油分離槽2および調整槽3を経て、排水加圧浮上槽4または沈殿槽(図示せず)で固液分離される。ここで分離された固形分は50g/L程度のスラリーとして一旦貯留槽5に保管される。続いて高分子凝集槽(凝集剤混合槽)10で高分子凝集剤を用いた凝集処理がなされ、プレスなどの脱水機6で脱水されて汚泥ケーキとなる。続いて得られた汚泥ケーキは、コンベア7で脱水汚泥ホッパー(コンテナ)8に運搬され貯められた後、堆肥化処理、埋立て処分、焼却処分のいずれかがなされる。図中、図番9は計量升を示す。
【0019】
通常、上記の固液分離後の貯留槽から汚泥ケーキに至る間で酸素供給不足が生じて、汚泥ケーキが嫌気性になり硫化水素やメチルメルカプタンが発生する。汚泥ケーキは工場によって異なるが通常1〜3日間、長い場合には7日間程度留め置きされ、その間の硫化水素やメチルメルカプタンの発生防止が求められる。
また、排水を活性汚泥槽で処理する場合でも、曝気後に固液分離が行われ、固形部は上記と同様に貯留槽、高分子凝集処理、脱水処理およびホッパー保管が行われる。したがって、上記と同様に固液分離後の貯留槽から汚泥ケーキに至る間で酸素供給不足が生じて嫌気性になり硫化水素やメチルメルカプタンが発生する。
【0020】
本発明の硫化水素の発生抑制方法では、まず、(1)汚泥または汚水の嫌気性の性状として、処理段階および経路内の硫化水素もしくは溶存硫化物(S2-)濃度または処理段階および経路の汚泥または汚水の酸化還元電位を測定する。
硫化水素濃度および酸化還元電位は、それぞれ実施例で用いられているような市販の硫化水素検知管および酸化還元電位計を用いて測定することができる。また、汚泥または汚水のpHが中性からアルカリ性の場合には、溶存硫化物(S2-)濃度を液体検知管((株)ガステック製液体検知管No.211LL等)用いて測定することができる。
【0021】
本発明において「嫌気性」とは、汚泥や汚水中に、溶存酸素、硝酸性窒素などの結合酸素がほとんどない状態でかつ硫化水素が発生している状態を意味する。逆に「非嫌気性」とは、汚泥や汚水中に、溶存酸素、硝酸性窒素などの結合酸素がある状態でかつ硫化水素が発生していない状態を意味する。
このような「嫌気性」または「非嫌気性」の状態を「嫌気性の性状」という。
これらの状態は、硫化水素の有無または特定の酸化還元電位を指標として確認することができ、本発明ではこれらを測定する。
【0022】
本発明において「複数の処理段階」とは、上記のような粗大固形物の分離処理、油分離処理、固液分離処理、微小固形物などの凝集処理、脱水処理などを意味し、「経路」とは、これらの処理段階を接続する配液管、配送管、水路などを意味する。
【0023】
次いで、(2)測定された硫化水素濃度が0ppmを超えるかまたは酸化還元電位が−100mV未満になり、非嫌気性から嫌気性に変化する処理段階または経路を決定する。
硫化水素もしくは溶存硫化物(S2-)の有無は、硫化水素もしくは溶存硫化物(S2-)濃度が0ppm(測定限界以下)であるか、または0ppmを超えるかにより判断する。
また、酸化還元電位の測定では、汚泥や汚水の状態に多少異なる場合もあるが概ね−100mV以上であるか、−100mV未満になるかにより、前者を非嫌気性、後者を嫌気性と判断する。
上記の判断に基づいて、非嫌気性から嫌気性に変化する処理段階または経路を決定する。
【0024】
次いで、(3)決定した処理段階または経路の直前の処理段階または経路に、薬剤を添加して、汚泥または汚水からの硫化水素の発生を抑制する。
本発明の硫化水素の発生抑制方法において用いることができる殺菌および/または酸化作用を有する薬剤としては、添加対象の汚泥やその中の微生物を殺菌または酸化して本発明の効果を発現し得るものであれば特に限定されず、例えば当該技術分野で公知の殺菌剤や酸化剤が挙げられ、添加対象の汚泥やその中の微生物の種類や量などにより適宜選択すればよい。
【0025】
本発明において「決定した処理段階または経路の前の処理段階または経路」とは、例えば、A処理段階、B経路およびC処理段階が順次設けられた汚泥処理工程において、C処理段階で非嫌気性から嫌気性に変化したとき、すなわちB経路で0ppmであった硫化水素もしくは溶存硫化物(S2-)濃度がC処理段階で0ppmを超えたとき、またはB経路で−100mV以上であった酸化還元電位がC処理段階で−100mV未満になったとき、B経路またはA処理段階を意味する。
ここで、薬剤の添加場所は、直前のB経路とするのが最も好ましいが、装置構成や添加した薬剤の攪拌条件などによっては、その直前のA処理段階としてもよい。
【0026】
そのような殺菌剤や酸化剤としては、具体的には、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジアセトキシプロパン、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ベンゾイソチアゾロン、5−クロロ−2−メチルイソチアゾロン、ビスブロモアセトキシ−2−ブテン、ビスブロモアセトキシエタン、α−クロロベンズアルドキシム、3−ヨード−2−プロパギルブチルカーバメート、2,2−ジブロモ−2−シアノプロピオンアミド、1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、亜臭素酸ナトリウム、塩素化シアヌル酸塩などが挙げられる。
【0027】
本発明においては、殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を、水やジエチレングリコールなどの水溶性溶媒に溶解した水溶性液体組成物として汚泥や汚水に添加するのが、汚泥や汚水と迅速に接触させることができる点で好ましい。
【0028】
上記の殺菌および/または酸化作用を有する薬剤の中でも、硫化水素の発生抑制効果、取扱性、経済性、容易に水溶性液体組成物とすることができる点で、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールおよび亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。
【0029】
また、水溶性液体組成物を汚泥や汚水に添加する方法としては、特に限定されず、薬剤を正確に供給できる方法が好ましく、例えば、ダイヤフラム式やプランジャー式の定量ポンプなどを用いる方法が挙げられる。これらの方法では、薬剤の連続添加または間欠添加で薬剤濃度管理を行うことができる。
【0030】
本発明における殺菌および/または酸化作用を有する薬剤の添加量は、汚泥ケーキの保存期間などにより増減するが、汚泥および/または汚水に対して、通常、有効成分として1〜300ppmの濃度であるのが好ましい。特に好ましい濃度は1〜210ppmである。
【実施例】
【0031】
本発明を製剤例および試験例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例および試験例により限定されるものではない。
【0032】
(製剤例1)
試薬の80%亜塩素酸ナトリウム(白色粉末)31.25gにイオン交換水68.75gを加え混合して、無色透明液体(水溶性液体組成物、「製剤1」という)を得た。
(製剤例2)
2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール(白色結晶)35.0g、ジエチレングリコール55.0gおよびイオン交換水10.0gを混合し1時間撹拌して、無色透明液体(水溶性液体組成物、「製剤2」という)を得た。
【0033】
(試験例1)
この試験では、原料として卵と乳を用いている某食品加工工場の排水加圧浮上槽から分離採取した直後のスラリー汚泥(SS分:54g/L、pH:5.4、溶解性BOD:600mg/L)を用いて、薬剤の添加時点を変化させたときの硫化水素およびメチルメルカプタンの濃度を測定した。
【0034】
具体的には、容量1Lのポリ瓶に汚泥200mLを入れて封印し、これを設定温度30℃の恒温槽に静置した。汚泥の分離採取から10分以内、1時間後、2時間後および6時間後に、表1に示すように製剤1または製剤2をスラリー汚泥に対して300mg/Lまたは600mg/Lの濃度で各ポリ瓶に添加すると共に、汚泥の分離採取から1.1時間後、2.1時間後、6.1時間後、24時間後、72時間後および168時間後に、各ポリ瓶を10回振とう混合し、その直後にガス検知管(株式会社ガステック製、検知管4LK、4LL、4HM)を用いて、各ポリ瓶のヘッドスペースの硫化水素(H2S)濃度を測定した。また、168時間後には、ガス検知管(株式会社ガステック製、検知管70、70L)を用いて、メチルメルカプタン(MM)濃度を測定した。
【0035】
得られた結果を表1に示す。
試験No.2、3、6、7、10、11、14および15は実施例であり、試験No.1、4、5、8、9、12、13、16および17は比較例である。
なお、表中の「ND」は検出限界未満を意味する。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果から、まず薬剤無添加の汚泥(試験No.1)は短時間のうちに嫌気性になり2時間経過すれば硫化水素が発生することがわかる。
汚泥が嫌気性になる1時間前(分離採取から1時間経過)までに、製剤1(亜塩素酸ナトリウム水溶液)または製剤2(2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール溶液)を添加した場合と、汚泥が嫌気性になった2時間(分離採取から2時間経過)以降に製剤1または製剤2を添加した場合とでは、明らかに硫化水素およびメチルメルカプタンの発生抑制効力差が認められる。
したがって、嫌気性になる前に薬剤添加することの有効性がわかる。
【0038】
(試験例2)
原料として豆乳を用いている某食品加工工場の設備を用いて試験した。
この設備は、図1に示すような(A)排水加圧浮上槽(図番4)の浮上汚泥→(B)貯留槽(図番5)→(C)高分子凝集槽(図番10)→(D)脱水機(図番6)→(E)脱水汚泥ホッパー(図番8)からなる装置を備えている。この工場では排水量の都合により(C)から(E)までの装置を48時間当たり7時間の割合で稼働させている。(A)から(D)までは同じ建屋内に設置され、その建屋内の(D)付近の硫化水素濃度は、労働安全衛生法の規制値(許容濃度)未満ではあるが、平均2ppmという建屋内での最高値を示していた。
【0039】
製剤2(2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール)を、(B)貯留槽の入口配管(薬剤添加ポイントA)(ORP:−100mV、硫化水素濃度:0ppm)に直接、24時間当たり0.6kgの割合で15分毎の間欠注入を実施した(添加濃度:500mg/L)。この操作を2週間(添加量:8.4kg/14日)続けたところ、(D)脱水機付近の硫化水素濃度が検出限界未満になった(実施例)。
なお、ORPは、ポータブルORP計(東亜ディーケーケー株式会社製、型式:RM−20P)を用いて測定した。
【0040】
製剤2(2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール)を、(B)貯留槽の出口配管(薬剤添加ポイントB)(ORP:−248mV、硫化水素濃度:50ppm)に、凝集脱水機が稼働する7時間に2.4kgの割合で連続均等注入(添加濃度:1000mg/L)を実施した。この操作を2週間(添加量:16.8kg/14日)続けたところ、脱水機付近の硫化水素濃度は平均1ppmに低下したが、検出限界以下には至らなかった(比較例)。比較例では実施例の2倍量の薬剤を使用しても硫化水素濃度が検出限界以下にはならなかったことが分かる。
【0041】
これらの結果から、嫌気性になる前のポイントAに薬剤を添加することの有効性とORP値を指標として薬剤添加することの有効性がわかる。
【符号の説明】
【0042】
1 流入槽
2 油分離槽
3 調整槽
4 排水加圧浮上槽
5 貯留槽
6 脱水機
7 コンベア
8 脱水汚泥ホッパー(コンテナ)
9 計量升
10 高分子凝集槽
A、B 薬剤添加ポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の処理段階およびそれらを接続する経路からなる汚泥処理工程の汚泥または汚水に、殺菌および/または酸化作用を有する薬剤を添加して、前記汚泥または汚水からの硫化水素の発生を抑制する方法であり、
前記汚泥または汚水の嫌気性の性状として、前記処理段階および経路内の硫化水素もしくは溶存硫化物(S-2)濃度または前記処理段階および経路の汚泥または汚水の酸化還元電位を測定し、
測定された硫化水素もしくは溶存硫化物(S-2)濃度が0ppmを超えるかまたは酸化還元電位が−100mV未満になり、非嫌気性から嫌気性に変化する処理段階または経路を決定し、
決定した処理段階または経路の前の処理段階または経路に、前記薬剤を添加して、前記汚泥または汚水からの硫化水素の発生を抑制することを特徴とする汚泥処理工程における硫化水素の発生抑制方法。
【請求項2】
前記薬剤が、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールまたは亜塩素酸ナトリウムである請求項1に記載の硫化水素の発生抑制方法。
【請求項3】
前記薬剤が、水溶性液体組成物として添加される請求項1または2に記載の硫化水素の発生抑制方法。
【請求項4】
前記薬剤が、前記汚泥および/または汚水に対して有効成分として1〜300ppmの濃度で添加される請求項1〜3のいずれか1つに記載の硫化水素の発生抑制方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−111560(P2013−111560A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262662(P2011−262662)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】