説明

汚泥焼却炉の温度制御装置および汚泥焼却炉の温度制御方法

【課題】砂層部の温度を一定温度に維持しつつ、フリーボード部の温度を高温に維持する温度制御を精度高く安定して行うこと。
【解決手段】フリーボード中部3、フリーボード上部4、砂層部5の各温度と、汚泥性状検出器8が検出する汚泥性状情報と、酸素濃度検出器29が検出する酸素濃度と、砂層部下部5に供給される燃料12の流量と、流動空気16の風量と、フリーボード中部3およびフリーボード上部4に供給される空気17,18の風量とを制御入力とし、燃料12の流量および流動空気16の風量および供給空気17,18の風量を制御出力とし、燃料12の流量および/または流動空気16の風量、供給空気17,18の風量が所定範囲内に収まる制約条件下で、フリーボード中部3、フリーボード上部4および砂層部5の各温度をそれぞれ異なる目標値としてモデル予測制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、砂層部とフリーボード部とを有し、前記砂層部に供給される汚泥を燃焼し、前記フリーボード部でさらに燃焼させる流動床式の汚泥焼却炉の温度制御装置および汚泥焼却炉の温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、汚泥等の被焼却物を効率よく、確実かつ短時間に完全燃焼させる焼却炉として流動床焼却炉が多用されている。この流動床焼却炉は、流動層に、ノズルを介して流動・燃焼用空気を吹き込んでこの流動層を構成する砂層を流動させ、砂層の流層と砂の優れた伝熱特性を利用して被焼却物を解砕・ガス化させるとともに、発生したガスを燃焼させる燃焼室であるフリーボードを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−232014号公報
【特許文献2】国際公開2009/060885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の環境問題に対応するため、汚泥焼却炉から排出されるNOなどの温室効果ガスを低減することが要望されている。この温室効果ガスの低減を図るためには、フリーボード部の温度を高め、完全燃焼の度合いを高めることが有効である。たとえば、フリーボード部の温度を800℃から850℃に上げることによって温室効果ガスは、約7割低減する。一方、砂層部の温度は、燃焼が保たれるように一定温度以上に維持する必要があり、そのために燃料の増加をする必要があった。
【0005】
ここで、従来のPID制御では単一の目標値に対してのみしか制御できないため、砂層部の温度を一定温度に維持しつつ、フリーボード部の温度を高温に維持しようとする複数の目標値がある場合、カスケード制御などによって温度制御が行われるが、この場合、燃料の流量と流動空気の風量とが干渉し、過剰な流動空気の供給による燃料の過剰供給が生じたり、砂層部の温度低下による燃焼停止が発生する場合があり、安定した燃焼制御を行うことができない場合があった。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、砂層部の温度を目的の一定温度に維持しつつ、フリーボード部の温度を目的の高温に維持する温度制御を精度高く安定して行うことができる汚泥焼却炉の温度制御装置および汚泥焼却炉の温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御装置は、砂層部とフリーボード部とを有し、前記砂層部に供給される汚泥を燃焼し、前記フリーボード部でさらに燃焼させる流動床式の汚泥焼却炉の温度制御装置であって、前記砂層部の温度と、前記フリーボード部の温度と、汚泥性状情報と、前記汚泥焼却炉から排出される酸素濃度と、前記砂層部下部に供給される燃料の流量と、前記砂層部に供給される流動空気の風量と、前記フリーボード中部、および前記フリーボード上部に供給される空気の風量とを制御入力とし、前記燃料の流量および前記流動空気及び供給空気の風量を制御出力とし、前記燃料の流量および/または前記流動空気及び供給空気の風量を所定範囲内に収める制約条件下で、前記砂層部および前記フリーボード部の各温度をそれぞれ異なる目標値としてモデル予測制御を行うことを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御装置は、上記の発明において、前記制約条件は、前記汚泥の燃焼に必要な空気の理論流量と前記燃料の燃焼に必要な空気の理論風量との合計理論風量に対して、砂層下部より供給する流動空気およびフリーボード中部より供給する空気の空気比を所定範囲内にすることを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御装置は、上記の発明において、前記制御出力である前記燃料の流量および前記流動空気の風量の予測結果を示す評価関数の値が所定値以下で最小となるようにモデル予測制御を行うことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御装置は、上記の発明において、前記制約条件下で前記評価関数の最小値を求める場合に該評価関数の要素が前記制約条件外となる場合、前記制約条件の所定範囲の上限および下限に許容誤差を与えて該制約条件の所定範囲を広げ、該広げた制約条件を修正制約条件とし、該許容誤差の2乗に所定の重みを乗算したペナルティ関数を前記評価関数に加えた関数を修正評価関数とし、前記修正制約条件下で前記修正評価関数の最小値を求めることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御装置は、上記の発明において、前記砂層部の温度および/または前記フリーボード部の温度は、それぞれ複数点の温度であり、異なる各温度をそれぞれ目標値としてモデル予測制御を行うことを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御方法は、砂層部とフリーボード部とを有し、前記砂層部に供給される汚泥を燃焼し、前記フリーボード部でさらに燃焼させる流動床式の汚泥焼却炉の温度制御方法であって、前記砂層部の温度と、前記フリーボード部の温度と、汚泥性状情報と、前記汚泥焼却炉から排出される酸素濃度と、前記砂層部下部に供給される燃料の流量と、前記砂層部に供給される流動空気の風量と、前記フリーボード中部、および前記フリーボード上部に供給される空気の風量とを制御入力とし、前記燃料の流量および前記流動空気及び供給空気の風量を制御出力とし、前記燃料の流量および/または前記流動空気及び供給空気の風量を所定範囲内に収める制約条件下で、前記砂層部および前記フリーボード部の各温度をそれぞれ異なる目標値としてモデル予測制御を行うことを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御方法は、上記の発明において、前記制約条件は、前記汚泥の燃焼に必要な空気の理論流量と前記燃料の燃焼に必要な空気の理論流量との合計理論流量に対する空気の実流量の比である空気比を所定範囲内にすることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御方法は、上記の発明において、前記制御出力である前記燃料の流量および前記流動空気及び供給空気の風量の予測結果を示す評価関数の値が所定値以下で最小となるようにモデル予測制御を行うことを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御方法は、上記の発明において、前記制約条件下で前記評価関数の最小値を求める場合に該評価関数の要素が前記制約条件外となる場合、前記制約条件の所定範囲の上限および下限に許容誤差を与えて該制約条件の所定範囲を広げ、該広げた制約条件を修正制約条件とし、該許容誤差の2乗に所定の重みを乗算したペナルティ関数を前記評価関数に加えた関数を修正評価関数とし、前記修正制約条件下で前記修正評価関数の最小値を求めることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御方法は、上記の発明において、前記砂層部の温度および/または前記フリーボード部の温度は、それぞれ複数点の温度であり、異なる各温度をそれぞれ目標値としてモデル予測制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、砂層部の温度と、フリーボード部の温度と、汚泥性状情報と、前記汚泥焼却炉から排出される酸素濃度と、砂層部下部に供給される燃料の流量と、前記砂層部に供給される流動空気の風量と、前記フリーボード中部、および前記フリーボード上部に供給される空気の風量とを制御入力とし、燃料の流量および流動空気及び供給空気の風量を制御出力とし、前記燃料の流量および/または前記流動空気及び供給空気の風量を所定範囲内に収める制約条件下で、前記砂層部および前記フリーボード部の各温度をそれぞれ異なる目標値としてモデル予測制御を行うようにしているので、砂層部の温度を一定温度に維持しつつ、フリーボード部の温度を独立して高温に維持する温度制御を精度高く安定して行うことができるとともに、酸素濃度から求まる空気比を一定に制御できるので、一層、温室効果ガスの生成を抑えることができ、さらには、燃料の流量および流動空気の風量を少なくすることができるので、一層、燃料の使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1にかかる制御装置を含む汚泥燃焼システムの概要構成を示す模式図である。
【図2】図2は、制御装置内におけるモデル予測演算処理を示すブロック図である。
【図3】図3は、モデル予測演算処理における評価関数の最適値演算を説明する説明図である。
【図4】図4は、モデル予測制御による測定結果を示すタイムチャートである。
【図5】図5は、図4に示した状態における汚泥の含水率の変化を示すタイムチャートである。
【図6】図6は、図4に示した砂層中部温度とフリーボード中部温度の変化を拡大して示したタイムチャートである。
【図7】図7は、従来の制御結果と本発明の実施の形態1によるモデル予測演算処理結果の具体的な比較結果を示す図である。
【図8】図8は、この発明の実施の形態2による評価関数の最適化演算処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態である汚泥焼却炉の温度制御装置および汚泥焼却炉の温度制御方法について説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1にかかる汚泥焼却炉の温度制御装置である制御装置を含む汚泥燃焼システムの概要構成を示す模式図である。図1に示すように、この汚泥燃焼システム1は、汚泥焼却炉2を有する。汚泥焼却炉2は、略円筒形状をなし、炉内には、流動床を形成する砂層部5と、砂層部5の上部空間であるフリーボード中部3と、フリーボード中部3の上部空間であるフリーボード上部4とを有する。
【0021】
フリーボード中部3には、汚泥流量検出器20および含水率測定器9を有する汚泥性状検出器8、および汚泥供給部11を介して、脱水された汚泥である汚泥10が供給される。砂層部5には、バルブ41、燃料流量検出器21、および燃料供給部13を介して燃料12が供給される。なお、バルブ41は、燃料流量調節器31によって、燃料流量検出器21によって検出された燃料流量が制御装置Cから指示された制御量となるように開度制御される。
【0022】
汚泥性状検出器8は、汚泥の性状を検出し、汚泥性状情報として出力する。汚泥性状情報には、含水率、固形分、発熱量などが含まれる。ここで、汚泥の固形分は、固形分=汚泥流量×(1−含水率)で求められる。また、この固形分の組成成分分析結果から燃焼分が得られ、発熱量を得ることができる。汚泥流量は、汚泥流量検出器20によって得られ、含水率は、含水率測定器9によって得られる。したがって、汚泥性状検出器8は、少なくとも汚泥流量と含水率とを得ることができ、これらから固形分を得るいことができる。また、汚泥性状検出器8は、固形分の組成成分分析を行う図示しない組成成分分析器を有し、燃焼分の発熱量を得ることができる。なお、含水率測定器9は、たとえば、汚泥にマイクロ波を照射し、その透過度をもとに含水率を求める。具体的には、予め作成されたマイクロ波透過強度と汚泥の含水率との相関関係を示す検量線を用いて含水率を求める。
【0023】
砂層部5、フリーボード中部3、フリーボード上部4には、それぞれ1次空気16、2次空気17、3次空気18が供給される。流動ブロア14は、流動空気15の風量を検出する流動空気検出器15を介して流動空気15を熱交換器19に供給する。熱交換器19は、流入した流動空気15を所定温度に加温してバルブ42,43,44に分岐出力する。1次空気温度調節器32は、制御装置Cから指示された制御量の1次空気16を砂層部5に供給するように、1次空気風量検出器22の検出結果をもとにバルブ42の開度制御を行う。また、2次空気温度調節器33は、制御装置Cから指示された制御量の2次空気17をフリーボード中部3に供給するように、2次空気風量検出器23の検出結果をもとにバルブ43の開度制御を行う。さらに、3次空気温度調節器34は、制御装置Cから指示された制御量の3次空気18をフリーボード上部4に供給するように、3次空気風量検出器24の検出結果をもとにバルブ44の開度制御を行う。なお、流動ブロア14の上流側には、バルブ51が設けられる。流動空気調整器50は、流動空気検出器25の検出結果をもとに制御装置Cから指示された制御量の流動空気15を供給するようにバルブ51の開度制御を行う。ここで、流動空気調節器50は、制御装置Cからの制御量ではなく、予め設定された一定の流動空気風量となるように、バルブ51を開度制御してもよい。これは、1次空気16、2次空気17、および3次空気18が、それぞれ1次空気風量調節器32、2次空気風量調節器33、および3次空気風量調節器34によって調整可能であるからである。
【0024】
ここで、フリーボード中部3には、複数の温度検出部として5つの熱電対からなる熱電対群26bが分散配置される。また、フリーボード上部4には、複数の温度検出部として5つの熱電対からなる熱電対群26cが分散配置される。さらに、砂層部5には、複数の温度検出部として5つの熱電対からなる熱電対群26aが分散配置される。
【0025】
汚泥焼却炉2は、フリーボード中部3において、フリーボード中部3に供給された汚泥10を、砂層部5から供給される燃料12および1次空気16と、フリーボード中部3に供給される2次空気17とによって燃焼する。さらに、フリーボード上部4では、フリーボード中部3で不完全燃焼のものを、3次空気18を用いて完全燃焼させるようにする。このフリーボード上部4によって燃焼されたガスは、排ガス28として炉外に排出される。
【0026】
この排ガス28に含まれる酸素は、酸素濃度検出器29によって検出される。なお、排ガス28は、図示しないダクトを介して排出され、酸素濃度検出器29は、このダクト内に設けられる。ここで、ダクトの途中にサイクロン集塵機あるいはろ過式集塵機が設けられる場合、このサイクロン集塵機あるいはろ過式集塵機の前段に設けることが好ましい。サイクロン集塵機やろ過式集塵機の後段は、粉塵や灰などが取り除かれているため、酸素濃度検出器29が粉塵や灰に覆われることがなく、酸素濃度検出器29の寿命を延ばすことができるからである。
【0027】
ここで、制御装置Cには、汚泥性状検出器8、燃料流量検出器21、1次空気風量検出器22、2次空気風量検出器23、3次空気風量検出器24、流動空気検出器25、酸素濃度検出器29からそれぞれ、汚泥性状情報、汚泥流量、燃料流量、1次空気風量、2次空気風量、3次空気風量、流動空気風量、酸素濃度が入力されるとともに、熱電対群26a〜26cからそれぞれ砂層中部温度、フリーボード中部温度、およびフリーボード上部温度が入力され、制御装置Cは、燃料流量調節器31、1次空気風量調節器32、2次空気風量調節器33、3次空気風量調節器34に、それぞれ制御量としての燃料流量、1次空気風量、2次空気風量、3次空気風量を出力する。
【0028】
制御装置Cは、入力された砂層部中部温度とフリーボード中部温度とフリーボード上部温度がそれぞれ設定された温度に保たれ、酸素濃度(空気比)が一定範囲内に収まり、燃料流量、1次空気風量、2次空気風量、3次空気風量が少なくなるように、モデル予測制御を行い、各流量・風量の制御値を、それぞれ燃料流量検出器21、1次空気風量検出器22、2次空気風量検出器23、3次風量検出器24にそれぞれ出力する。燃料流量検出器21、1次空気風量検出器22、2次空気風量検出器23、3次風量検出器24は、それぞれ入力された各制御値をもとに、PID制御によるフードバック制御を各別に行う。
【0029】
制御装置Cは、図2に示すようにモデル予測演算部100を有し、このモデル予測演算部100がモデル予測制御を行う。なお、モデル予測制御とは、システムのモデルをもとに未来の出力や状態を予測し、一定時刻毎に最適制御問題を解き、その時刻での入力を決定する制御である。また、現代制御特有の多入力・多出力制御を可能にし、制御量の干渉を生じさせることがない。特に、このモデル予測制御は、制約条件を容易に記述できることから、制約条件を扱うことができる制御方法として注目されている。この汚泥焼却炉2の制御を行う場合、燃料および空気の各供給量が、炉のサイズなどに大きく依存する未知の制御量であり、この場合、燃焼停止などの問題が生じないような大枠としての制約条件として、燃料および空気の各供給量を当てはめ、フリーボード中部3、フリーボード上部4、および砂層部5の複数の温度目標値を一定温度に保ち、かつ酸素濃度から求まる空気比を一定範囲内に収めつつ、燃料12および空気の各供給量が少なくなるようにモデル予測制御することができる。
【0030】
モデル予測演算部100は、予めこの汚泥燃焼システム1の動的モデルを生成しておく。精密な物理モデルの構築は困難であるため、ここでは、ステップ応答モデルを生成する。ステップ応答モデルは、ステップ入力した場合のステップ応答を飽和するまでの時間と値で表現する。この実施の形態では、熱電対群26aによって検出される5つの砂層部中部温度、熱電対群26bによって検出される5つのフリーボード中部温度、熱電対群26cによって検出される5つのフリーボード上部温度、酸素濃度111から求まる空気比、汚泥性状情報112、1次空気16の風量、2次空気17の風量、3次空気の風量、燃料12の流量に対するステップ応答モデルを生成する。
【0031】
さらに、モデル予測演算部100は、このステップ応答モデルに、空気比の制約条件を記述しておく。上述したように、燃料および空気の制御量は未知のものであり、この燃料および空気を制御するにあたり、空気比の制約条件をステップ応答モデルに記述しておく。ここで、空気比とは、燃料を完全燃焼させる必要最低限の理論空気量Aと実際に供給されている空気量Bの比であり、たとえば、空気比AFRは、
AFR=fair/(ηcake・fcake+ηfuel・ffuel)
として示される。ここで、ηcakeは、汚泥を完全燃焼させるに必要な汚泥理論空気比であり、fcakeは、汚泥の流量であり、ηfuelは、燃料を完全燃焼させるに必要な燃料理論空気比であり、ffuelは、燃料の流量である。そして、空気比AFRは、上限空気比rmaxと下限空気比rminとの範囲内に収まる制約条件が記載される。
【0032】
ここで、空気比AFRは、排ガス28内の酸素濃度112を検出することによって直接求められる。また、fcakeは、汚泥の流量であるが、上述したように、固形分=汚泥流量×(1−含水率)で求められ、さらにこの固形分の組成分析を行うことによって燃焼分を精度高く知ることができる。この燃焼分は、汚泥性状情報112から求められる。すなわち、モデル予測演算部100内には、温度制御のモデル予測演算制御に、酸素濃度112から求められる空気比が、制約条件下、一定範囲内の空気比となる制御が組み込まれ、汚泥性状情報112をもとに燃料の流量および空気の風量を制御するという多変数制御を行う。
【0033】
モデル予測演算部100は、このモデルをもとに、モデル予測演算を行うが、このモデル予測演算を行うために、図2に示すように、まず、5つの砂層部中部温度、5つのフリーボード中部温度、および5つのフリーボード上部温度の設定温度値101を入力する。また、上述した制約条件の条件値である制約条件102を入力する。たとえば、上述した空気比の上限値および下限値である。ここで、設定温度値101と同様に酸素濃度(空気比)設定値を入力するようにしてもよいが、ここでは制約条件102内に空気比の一定範囲として設定している。また、制約条件102として燃料の流量および空気の風量が所定範囲とする条件を設定している。なお、たとえば、フリーボード上部温度の上限値を制約条件として入力してもよい。さらに、演算条件103を入力しておく。演算条件とは、実際の演算に必要な、設定スケールや演算パラメータであり、たとえば、演算周期(サンプリング周期)や予測期間などである。
【0034】
このような設定処理が施されたモデル予測演算部100は、熱電対群26a〜26cから現在温度110を取得し、この現在温度が温度設定値101を維持するためのモデル予測演算を行うとともに、酸素濃度111で決定される空気比が一定範囲内となるようにモデル予測演算を行い、汚泥性状情報112と、入力された燃料の流量および空気の風量の現在操作量120とをもとに、燃料の流量および空気の風量の次時刻操作量130を出力する。なお、現在温度110は、砂層部中部温度、フリーボード中部温度、およびフリーボード上部温度の3箇所としていたが、これに限らず、少なくとも2箇所以上の温度を制御対象とすればよい。したがって、4箇所以上の温度を制御対象としてもよい。
【0035】
このモデル予測演算の概要は、図3に示すように、既知パラメータ201と現在(時刻k)の現在入出力値202を初期値とし、設定パラメータ203を用いて所定サンプリング時刻毎(k+1,k+2,…,k+N:Nは整数)の予測入力値200と予測出力値204とを表す状態方程式を求め、このうちの予測出力値204を用いて評価関数Jを生成し、この評価関数Jに対する最適解、すなわち最小値を求める最適値演算を行う。この最適値演算は、空気比等の制約条件102を満足し、温度設定値101と予測温度値との制御誤差の距離を含む各要素の最小値を求め、このときの予測入力値200を次時刻操作量130として出力する。
【0036】
この結果、砂層部中部温度、フリーボード中部温度、フリーボード上部温度などの温度制御値が複数の目標値に保たれるように制御されるとともに、空気比が一定範囲内に収まるように制御され、NOなどの温室効果ガスを一層低減することができるとともに、燃料の流量および空気の風量が所定範囲に収まり、安定した制御を行うことができ、しかも、空気比も最適なものとなることから、一層燃費低減を図ることができる。
【0037】
特に、この実施の形態では、汚泥焼却炉2内各部の温度制御のみならず、酸素濃度、すなわち空気比に対するステップ応答モデルをも用いているため、空気比に対する制御が一層、精度高くなり、NOなどの温室効果ガスを一層低減することができる。
【0038】
図4は、実際の汚泥燃焼システムにモデル予測制御を適用した場合の測定結果を示すタイムチャートである。なお、ここでは、砂層中部温度T1とフリーボード中部温度T2とを制御対象温度としている。砂層中部温度設定値は、720℃であり、フリーボード中部温度設定値は、870℃である。計測は、0時から24時までである。図4では、フリーボード上部温度、フリーボード中部温度T2、砂層中部温度T1、補助燃料供給量L1、含水率、一次空気流量L11、二次空気流量L12、三次空気流量L13、酸素(O)濃度S1が示されている。
【0039】
このときの汚泥の含水率は、図5に示すように約80%近辺で変動している。そして、燃料流量L1は、この含水率にほぼ対応して変動している。しかし、含水率の変動にかかわらず、砂層中部温度T1およびフリーボード中部温度T2は設定値に保たれ、O濃度S1も変動が少ない。
【0040】
すなわち、図6に示すように、砂層中部温度T1は、砂層中部温度設定値=720℃の±10℃内に保たれ、フリーボード中部温度T2は、フリーボード中部温度設定値=870℃の±10℃内に保たれている。
【0041】
さらに、図7に示すように、汚泥焼却炉2からのNO排出量、すなわち固形分質量に対するNO質量は、従来の0.000645(t−NO/t−cake)から0.000243(t−NO/t−cake)に改善されている。また、汚泥質量に対する燃料供給熱量(供給量)は、従来の1,060(MJ/t−cake)から820(MJ/t−cake)に改善されている。すなわち、温度制御が目標値に保たれ、酸素濃度(空気比)が一定範囲内に収まり、結果として、NO排出量が半減し、燃料供給熱量(供給量)も各段に低減されている。
【0042】
(実施の形態2)
実施の形態1によるモデル予測制御では、制約条件を付して演算を行っていたが、厳しい制約条件を与えると、評価関数の最適化演算結果が、演算不可あるいは制約条件内に解なし、となり最適化演算が停止してしまう場合がある。
【0043】
そこで、この実施の形態2では、実施の形態1の評価関数Jにペナルティ関数f
f=ρε
を加えて最適化演算を行う。ここで、εは許容誤差の値であり、ρは重みの値である。
【0044】
実施の形態1の最適化演算は、評価関数Jに対して以下の演算を行っていた。すなわち、要素y(τ)が上限値ymaxと下限値yminとの範囲内である制約条件下で評価関数Jの最小値を演算していた。
min(J) subject to ymin≦y(τ)≦ymax
これに対して、この実施の形態2では、ペナルティ関数f=ρεを用いて次のような演算を行う。すなわち、
min(J+ρε) subject to ymin−ε≦y(τ)≦ymax+ε
である。これは、上限値と下限値とを許容誤差ε分だけそれぞれ広げ、評価関数(J+ρε)の最小値も、評価関数Jのみの最小値に比べて実質的に大きくし、ペナルティ関数を加えて最小値を求めた場合であっても、最小値として選択されないようにしている。これによって、評価関数の演算が停止することがなくなる。
【0045】
特に、システム立ち上げ時は、制約条件が厳しい場合、評価関数の最適化演算が行えなくなる場合が発生しやすくなり、この評価関数の最適化演算が行えなくなると、システム立ち上げ時間が長くなってしまう。この実施の形態2では、上述したペナルティ関数の導入によって継続的なシステム制御が維持できるとともに、システム立ち上げ時間を短縮することができる。
【0046】
ここで、この図8に示したフローチャートを参照して、この実施の形態2による評価関数の最適化演算処理手順について説明する。まず、ペナルティ関数を加えないで、評価関数Jのみの最適化演算を行う(ステップS101)。その後、最適化演算の結果が解なしなどによる制約条件外であるか否かを判断する(ステップS102)。
【0047】
制約条件外である場合(ステップS102,Yes)には、上述したペナルティ関数f=ρεを導入し、制約条件の上限値および下限値を許容誤差ε分だけ広げ、評価関数Jにペナルティ関数f=ρε加えて(ステップS103)、最適化演算を行う(ステップS104)。
【0048】
その後、ステップS105に移行し、あるいは制約条件外でない場合(ステップS102,No)には、ステップS105に移行し、次の最適化演算があるか否かを判断し(ステップS105)、次の最適化演算がある場合(ステップS105,Yes)には、ステップS101に移行して上述した処理を繰り返し、次の最適化演算がない場合(ステップS105,No)には、本処理を終了する。
【0049】
この実施の形態2では、上述したペナルティ関数を導入して最適化演算を継続して行えるようにしているので、制御のロバスト性を向上させることができる。特に、システム立ち上げ時等のシステムが不安定になりがちな時に、ペナルティ関数を導入して最適化演算を行うことが好ましい。
【0050】
なお、上述した温度制御装置および温度制御方法は、汚泥焼却炉以外に適用が可能である。たとえば、上述した燃料流量制御と空気風量制御とに対応して、ブロア圧力制御と水処理DO制御とが相互に干渉する可能性がある制御システム等に適用することができる。この制御システムに上述したモデル予測制御を適用することによって各制御を安定して行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明にかかる汚泥焼却炉の温度制御装置および汚泥焼却炉の温度制御方法は、砂層部とフリーボード部とを有し、前記砂層部に供給される汚泥を燃焼し、前記フリーボード部でさらに燃焼させる流動床式の汚泥焼却炉に有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 汚泥燃焼システム
2 汚泥焼却炉
3 フリーボード中部
4 フリーボード上部
5 砂層部
8 汚泥性状検出器
9 含水率検出器
10 汚泥
11 汚泥供給部
12 燃料
13 燃料供給部
14 流動ブロア
15 流動空気
16 1次空気
17 2次空気
18 3次空気
19 熱交換器
20 汚泥流量検出器
21 燃料流量検出器
22 1次空気風量検出器
23 2次空気風量検出器
24 3次空気風量検出器
25 流動空気風量検出器
26a,26b,26c 熱電対群
28 排ガス
29 酸素濃度検出器
31 燃料流量調節器
32 1次空気風量調節器
33 2次空気風量調節器
34 3次空気風量調節器
41〜44,51 バルブ
50 流動空気風量調節器
100 モデル予測演算部
C 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂層部とフリーボード部とを有し、前記砂層部に供給される汚泥を燃焼し、前記フリーボード部でさらに燃焼させる流動床式の汚泥焼却炉の温度制御装置であって、
前記砂層部の温度と、前記フリーボード部の温度と、汚泥性状情報と、前記汚泥焼却炉から排出される酸素濃度と、前記砂層部に供給される燃料の流量と、前記砂層部下部に供給される流動空気の風量と、前記フリーボード中部、および前記フリーボード上部に供給される空気の風量とを制御入力とし、前記燃料の流量および前記流動空気および供給空気の風量を制御出力とし、前記燃料の流量および/または前記流動空気および供給空気の風量を所定範囲内に収める制約条件下で、前記砂層部および前記フリーボード部の各温度をそれぞれ異なる目標値としてモデル予測制御を行うことを特徴とする汚泥焼却炉の温度制御装置。
【請求項2】
前記制約条件は、前記汚泥の燃焼に必要な供給空気の理論風量と前記燃料の燃焼に必要な供給空気の理論風量との合計理論風量に対する供給空気の実風量の比である空気比を所定範囲内にすることを特徴とする請求項1に記載の汚泥焼却炉の温度制御装置。
【請求項3】
前記制御出力である前記燃料の流量および前記流動空気および供給空気の風量の予測結果を示す評価関数の値が所定値以下で最小となるようにモデル予測制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の汚泥焼却炉の温度制御装置。
【請求項4】
前記制約条件下で前記評価関数の最小値を求める場合に該評価関数の要素が前記制約条件外となる場合、前記制約条件の所定範囲の上限および下限に許容誤差を与えて該制約条件の所定範囲を広げ、該広げた制約条件を修正制約条件とし、該許容誤差の2乗に所定の重みを乗算したペナルティ関数を前記評価関数に加えた関数を修正評価関数とし、前記修正制約条件下で前記修正評価関数の最小値を求めることを特徴とする請求項3に記載の汚泥焼却炉の温度制御装置。
【請求項5】
前記砂層部の温度および/または前記フリーボード部の温度は、それぞれ複数点の温度であり、異なる各温度をそれぞれ目標値としてモデル予測制御を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の汚泥焼却炉の温度制御装置。
【請求項6】
砂層部とフリーボード部とを有し、前記砂層部に供給される汚泥を燃焼し、前記フリーボード部でさらに燃焼させる流動床式の汚泥焼却炉の温度制御方法であって、
前記砂層部の温度と、前記フリーボード部の温度と、汚泥性状情報と、前記汚泥焼却炉から排出される酸素濃度と、前記砂層部下部に供給される燃料の流量と、前記砂層部下部に供給される流動空気の風量と、前記フリーボード中部、および前記フリーボード上部に供給される空気の風量とを制御入力とし、前記燃料の流量および前記流動空気および供給空気の風量を制御出力とし、前記燃料の流量および/または前記流動空気および供給空気の風量を所定範囲内に収める制約条件下で、前記砂層部および前記フリーボード部の各温度をそれぞれ異なる目標値としてモデル予測制御を行うことを特徴とする汚泥焼却路の温度制御方法。
【請求項7】
前記制約条件は、前記汚泥の燃焼に必要な供給空気の理論風量と前記燃料の燃焼に必要な供給空気の理論風量との合計理論風量に対する供給空気の実風量の比である空気比を所定範囲内にすることを特徴とする請求項6に記載の汚泥焼却炉の温度制御方法。
【請求項8】
前記制御出力である前記燃料の流量および前記流動空気および供給空気の風量の予測結果を示す評価関数の値が所定値以下で最小となるようにモデル予測制御を行うことを特徴とする請求項6または7に記載の汚泥焼却炉の温度制御方法。
【請求項9】
前記制約条件下で前記評価関数の最小値を求める場合に該評価関数の要素が前記制約条件外となる場合、前記制約条件の所定範囲の上限および下限に許容誤差を与えて該制約条件の所定範囲を広げ、該広げた制約条件を修正制約条件とし、該許容誤差の2乗に所定の重みを乗算したペナルティ関数を前記評価関数に加えた関数を修正評価関数とし、前記修正制約条件下で前記修正評価関数の最小値を求めることを特徴とする請求項8に記載の汚泥焼却炉の温度制御方法。
【請求項10】
前記砂層部の温度および/または前記フリーボード部の温度は、それぞれ複数点の温度であり、異なる各温度をそれぞれ目標値としてモデル予測制御を行うことを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載の汚泥焼却炉の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−214773(P2011−214773A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83242(P2010−83242)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】