説明

汚泥用脱水剤及びその製造方法

【課題】 溶液重合によって製造することができ、各種汚泥に対して優れた凝集性能及び脱水性能を発現する粉末状の汚泥用脱水剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 以下の(a)〜(c)成分、
(a)成分:4級アンモニウム塩基及び/又は3級アミノ基を有するカチオン性のビニル単量体、
(b)成分:酸基の35〜80モル%がアルカリ性物質によって中和されているアニオン性単量体、
(c)成分:ノニオン性単量体、
が20〜70質量%含まれる水溶液中でこれらを溶液重合する重合工程と、
前記重合工程により得られる生成物から水を除去する乾燥工程と、
を含んでなる製造方法により汚泥用脱水剤を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種汚泥に添加され、汚泥を凝集させることにより、汚泥の脱水処理の効率を高める汚泥用脱水剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般産業廃水処理場や下水処理場、し尿処理場等から排出される汚泥の脱水処理には、カチオン性高分子凝集剤が用いられている。カチオン性高分子凝集剤の添加によって汚泥の粗大なフロックが形成されると、汚泥の脱水性は向上する。
【0003】
近年、環境保護の観点から、産業廃水が高度に処理されるに伴い、廃水処理場や下水処理場、し尿処理場から排出される汚泥は細粒化される傾向がある。その結果、これらの汚泥の脱水効率を低下させている。脱水効率を高めるために、フィルタープレスなどの脱水装置を高負荷運転してもその効果は十分ではない。
【0004】
このような状況下、脱水機能を発現する凝集剤には一層の性能向上が求められている。
【0005】
特許文献1には、酸基の3〜30モル%がアルカリ性物質により中和されてなるアニオン性単量体と、カチオン性単量体及びノニオン性単量体よりなる3種の単量体を重合して両性高分子重合体を製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献1に記載の乳化重合法で製造される両性高分子重合体は、優れた脱水性能を示す。しかし、本発明者らの検証によれば、乳化重合法以外の方法で製造される両性高分子重合体は脱水性能が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−218298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、溶液重合法によって製造することができ、各種汚泥に対して優れた脱水性能を発現する粉末状の汚泥用脱水剤及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
高分子重合体の重合方法のうち、乳化重合法は、反応中における反応液の粘度変化が少なく、容易に反応熱が除熱できるため、重合温度の範囲は狭くなる。一方、溶液重合法は、重合反応の進行とともに反応液は増粘乃至ゲル化する。反応液がゲル化すると、反応速度が小さくなるばかりでなく、反応液が除熱され難いため、乳化重合法による場合と比較して重合反応における温度履歴は複雑になる。そして、反応速度と温度履歴とは、得られる高分子重合体が発現する脱水性能に大きく影響することを見出した。本発明者らは鋭意検討した結果、溶液重合法によって製造され、優れた脱水性能を有する高分子重合体を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0011】
〔1〕
以下の(a)〜(c)成分、
(a)成分:4級アンモニウム塩基及び/又は3級アミノ基を有するカチオン性のビニル単量体、
(b)成分:酸基の35〜80モル%がアルカリ性物質によって中和されているアニオン性単量体、
(c)成分:ノニオン性単量体、
を水溶液中で溶液重合した後、水を除去して得られる高分子重合体であって、前記高分子重合体を0.5質量%含む4%塩化ナトリウム溶液の25℃における粘度が10〜100mPa・sである高分子重合体
を含んで成ることを特徴とする汚泥用脱水剤。
【0012】
本発明の汚泥用脱水剤を構成する高分子重合体は、溶液重合法により製造される物に限定される。また、本発明の汚泥用脱水剤は〔2〕〜〔6〕に記載される場合を含む。
【0013】
〔2〕
前記(a)成分が、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、及びこれらの塩酸塩、硫酸塩、メチルクロライド第4級塩、ジメチル硫酸第4級塩、ベンジルクロライド第4級塩から成る群から選択される1種以上である〔1〕に記載の汚泥用脱水剤。
【0014】
〔3〕
前記(b)成分が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸である〔1〕に記載の汚泥用脱水剤。
【0015】
〔4〕
前記(c)成分が、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドである〔1〕に記載の汚泥用脱水剤。
【0016】
〔5〕
前記(a)〜(c)成分のモル比が、(a)成分:(b)成分:(c)成分=10〜85:2〜40:8〜88である〔1〕に記載の汚泥用脱水剤。
【0017】
〔6〕
前記(a)〜(c)成分のモル比が、(a)成分:(b)成分:(c)成分=10〜85:2〜40:8〜88であり、かつ、
前記(a)と(b)成分のモル比が、(a)成分:(b)成分=0.5〜15:1である〔1〕に記載の汚泥用脱水剤。
【0018】
〔7〕
以下の(a)〜(c)成分、
(a)成分:4級アンモニウム塩基及び/又は3級アミノ基を有するカチオン性のビニル単量体、
(b)成分:酸基の35〜80モル%がアルカリ性物質によって中和されているアニオン性単量体、
(c)成分:ノニオン性単量体、
が20〜70質量%含まれる水溶液中でこれらを溶液重合する重合工程と、
前記重合工程により得られる生成物から水を除去する乾燥工程と、
を含むことを特徴とする〔1〕に記載の汚泥用脱水剤の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の汚泥用脱水剤は、汚泥に対する凝集性能及び脱水性能が高い。また、本発明の汚泥用脱水剤は、溶液重合法により通常の装置を用いて製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の汚泥用脱水剤は、所定の高分子重合体を含んで構成される。この高分子重合体は、以下の(a)〜(c)成分が、水溶液中で共重合されて得られる両性高分子重合体である。
【0021】
[1](a)成分
(a)成分は、4級アンモニウム塩基及び/又は3級アミノ基を有するカチオン性のビニル単量体である。このカチオン性のビニル単量体としては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの塩酸塩や硫酸塩、メチルクロライド第4級塩、ジメチル硫酸第4級塩、ベンジルクロライド第4級塩や、
ジメチルジアリルアンモニウムクロライドが例示される。これらの中でもジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの塩酸塩や硫酸塩、メチルクロライド第4級塩、ジメチル硫酸第4級塩、ベンジルクロライド第4級塩を用いることが好ましい。これらは単独又は2種以上が組み合わされて使用される。
【0022】
[2](b)成分
(b)成分は、酸基の35〜80モル%がアルカリ性物質によって中和されているアニオン性単量体である。アニオン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の一塩基性酸及び二塩基酸が例示される。これらの中でもアクリル酸及び/又はメタクリル酸(以下、「(メタ)アクリル酸」と記載する)を用いることが好ましい。これらは単独又は2種以上が組み合わされて使用される。
【0023】
高分子重合体の製造にあたっては、これらのアニオン性単量体は、酸基の35〜80モル%がアルカリ性物質によって中和されてから重合に供される。酸基の中和が35モル%未満又は80モル%超の場合には、凝集性能や脱水性能が著しく低下する。酸基の中和に使用されるアルカリ性物質は特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物や水酸化アンモニウムが例示される。
【0024】
[3](c)成分
(c)成分は、ノニオン性単量体である。ノニオン性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレートが例示される。これらの中でも(メタ)アクリルアミドを用いることが好ましい。これらは単独又は2種以上が組み合わされて使用される。
【0025】
[4](a)〜(c)成分の配合比率
高分子重合体の製造にあたって使用される上記(a)〜(c)成分の配合比率は、モル比で(a)成分:(b)成分:(c)成分=10〜85:2〜40:8〜88であることが好ましく、10〜80:2〜35:10〜88であることが特に好ましい。
【0026】
また、上記(a)〜(c)成分の配合比率を充足し、かつ、(a)、(b)成分の配合比率が、モル比で(a)成分:(b)成分=0.5〜15:1であることが好ましく、0.6〜14:1であることが特に好ましい。(a)成分の(b)成分に対するモル比が0.5倍未満である場合は、得られる高分子重合体のアニオン性が強くなりすぎ、汚泥の凝集性能が著しく損なわれる。一方、(a)成分の(b)成分に対するモル比が15倍を超える場合、得られる高分子重合体が有する汚泥の凝集性能は、従来のカチオン性高分子が有する汚泥の凝集性能と殆ど変わらない。
【0027】
(a)〜(c)成分が上記の比率で製造される高分子重合体は、汚泥の凝集性能や脱水性能が特に高い。
【0028】
[5]高分子重合体の製造方法
本発明の汚泥用脱水剤を構成する高分子重合体(以下、「本高分子重合体」ともいう)は、上記(a)〜(c)成分を水溶液中で溶液重合した後、水を除去して得られる。
【0029】
本発明でいう溶液重合法とは、単量体と、前記単量体を重合させて得られる重合体とがともに溶解する溶媒である水を用いて、水中で前記単量体を重合させる方法である。但し、重合過程において不可避的に加えられる少量の有機溶媒の存在を否定するものではない。いわゆる乳化重合法は本発明でいう溶液重合法には含まない。乳化重合法による生成物には、油脂や界面活性剤等が残存する。一方、溶液重合法による生成物は、高分子重合体と未反応単量体、溶媒(水)、少量の重合開始剤のみである。そのため、溶液重合法によって製造される高分子重合体は、汚泥用脱水剤として用いるのに好適である。
【0030】
また、本高分子重合体は、断熱的重合法によって製造されることが好ましい。断熱的重合法とは、水溶液重合法のうち、重合反応中に外部からの人為的な加熱や除熱を行わずに重合反応を進行させる方法である。重合容器が断熱処理されているか否か、又は重合容器が温度制御されているか否かを表すものではない。断熱的重合法においては、重合反応の進行に伴い、反応熱により反応温度(反応液の温度)は上昇する。重合反応がほぼ完結すると温度上昇は停止し、最高温度に達する。断熱的重合法においては、重合反応中に温度が制御されない。そのため、重合温度の範囲は広い。
【0031】
例えば、本高分子重合体は以下の方法で製造される
先ず、上記(a)〜(c)成分が混合する単量体水溶液を調製する。
【0032】
単量体水溶液はどのような方法で調製してもよいが、例えば、上記(a)〜(c)成分を単に水に溶解させることによって調製できる。
【0033】
又は、上記(a)、(c)成分と、酸基が中和される前の(b)成分にかかるアニオン性単量体と、が混合する水溶液を調製しておき、ここに所定量のアルカリ性物質を加えることにより調製してもよい。水溶液にアルカリ性物質が加えられると、該アニオン性単量体の酸基が中和されて上記(b)成分となる。アニオン性単量体としてアクリル酸が使用される場合には、アルカリ性物質を用いて水溶液のpHを4.0〜4.9に調整することにより、アクリル酸の酸基の35〜80モル%が前記アルカリ性物質により中和される。
【0034】
ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、及びこれらの塩酸塩や硫酸塩、メチルクロライド第4級塩、ジメチル硫酸第4級塩、ベンジルクロライド第4級塩などのカチオン性単量体はエステル基構造を有する。これらエステル基構造を有するカチオン性単量体はアルカリ性物質によって加水分解される恐れがある。そのため、これらのカチオン性単量体を含む水溶液にアルカリ性物質を加える場合には、この水溶液をできるだけ低温としておくことが好ましい。また、水溶液にアルカリ性物質を添加する際には、水溶液を強く撹拌しながらゆっくりと添加することにより、添加されたアルカリ性物質を迅速に拡散させることが好ましい。
【0035】
単量体水溶液中における単量体の濃度は、20〜70質量%であり、30〜60質量%が好ましい。単量体の濃度が20質量%未満である場合は、重合の進行が遅くなり、結果的に製品中の残存モノマーが増加する。単量体の濃度が70質量%を超える場合は、重合が急速に進行するとともに、水の蒸発により発泡し、設備トラブルを引き起こす場合がある。
【0036】
アニオン性単量体の酸基の35〜80モル%が中和されている場合、単量体水溶液のpHは概ね3.5〜5.5となる。前述の通り、アニオン性単量体としてアクリル酸を使用する場合の単量体水溶液のpHは4.0〜4.9となる。
【0037】
その後、窒素ガス等を用いて単量体水溶液中の溶存酸素を除去後、重合反応を開始させる。重合反応の開始は、上記方法で調製した単量体水溶液に重合開始剤を添加することにより行う。重合開始温度、即ち重合開始時における単量体水溶液の温度は−5〜30℃が好ましい。単量体濃度が高い場合には重合開始温度は低めにし、単量体濃度が低い場合には重合開始温度は高めに設定する。重合開始剤としては、レドックス重合開始剤や光重合開始剤が好ましい。
【0038】
レドックス開始剤は、公知の酸化剤と還元剤とを組み合わせることにより調製できる。酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドが例示される。還元剤としては、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミンが例示される。レドックス開始剤の添加量は、酸化剤、還元剤ともに単量体水溶液の質量に対して1〜200ppmが好ましい。酸化剤、還元剤の各水溶液を重合開始の直前に単量体水溶液に加えることにより重合を開始させることができる。
【0039】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、アンスラキノン、アシルホスフィンオキサイド化合物、アゾ化合物が例示される。光重合開始剤の添加量は、単量体水溶液の質量に対して200〜5000ppmが好ましい。光重合開始剤を単量体水溶液に加え、光重合開始剤の最大吸収波長の光を含む光を照射することにより重合を開始させることができる。光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯等が挙げられる。
【0040】
単量体水溶液には、重合反応後半の高温時における重合を促進させる目的でアゾ系重合開始剤を添加しておいても良い。
【0041】
アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシルエチル]−プロピオンアミド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]が例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0042】
アゾ系重合開始剤の添加量は、単量体水溶液の質量に対して合計で100ppm以上が好ましく、200〜10000ppmが特に好ましい。アゾ系重合開始剤が水溶性である場合は、アゾ系重合開始剤を単量体水溶液に直接添加してもよいし、アゾ系重合開始剤を水溶液としてから添加してもよい。アゾ系重合開始剤が非水溶性である場合には、アゾ系重合開始剤を単量体水溶液に直接添加しても重合が開始し難い場合がある。この場合には、連鎖移動性が比較的小さく、かつ水に混合されやすいメタノール等の極性有機溶剤にアゾ系重合開始剤を溶解してから単量体水溶液に添加すればよい。
【0043】
単量体水溶液には、前述の単量体、重合開始剤の他、必要に応じて連鎖移動剤、pH調整剤等を加えてもよい。
【0044】
重合反応は断熱的に行う。この場合、通常、重合反応は重合開始後30分〜5時間で50〜100℃の最高温度に達し、ほぼ完結する。重合反応によって得られる重合体を含む水溶液は、常温でゲル状である(以下、これを「重合体ゲル」ともいう)。
【0045】
重合反応は、適当な反応容器中で回分的に行うこともできるし、ベルトコンベア等のベルトの上に単量体水溶液を連続的に流し込み、連続的に重合反応を行うこともできる。
【0046】
上記重合反応によって得られる重合体ゲルは、残留しているアクリルアミド等の単量体の含有量の低減を目的として、熱処理を行ってもよい。熱処理は、反応容器内やベルトコンベア上で重合体ゲルを加熱することにより行う。又は、重合体ゲルを適当な大きさに切断してビニル袋などに密閉包装後、湯浴等の加熱浴中で加熱することにより行う。熱処理条件は70〜100℃で、1〜5時間が好ましい。
【0047】
熱処理後の重合体ゲルを、公知の方法で乾燥及び粉砕することにより、粉末状の本高分子重合体を得ることができる。本高分子重合体の粉末の粒度が大き過ぎると、本高分子重合体を水に溶解させるのに時間がかかる。一方、粉末の粒度が細か過ぎると、本高分子重合体を水に添加する際に、表面がゲル化した粒子状のいわゆる継粉を形成して溶解し難い。本高分子重合体の粒度は、20〜80メッシュの範囲内の粒子が全体の50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0048】
[6]高分子重合体
上記のようにして得られる本高分子重合体は、該高分子重合体を0.5質量%含む4%塩化ナトリウム水溶液の25℃における粘度が10〜100mPa・sとなり、15〜90mPa・sとなることが好ましい。粘度が10mPa・s未満の場合は、汚泥を十分に脱水させるのに必要な高分子重合体の添加量が多くなり経済的でない。粘度が100mPa・sを超える場合は、形成される汚泥のフロックに粘性が生じて脱水性能が低下する。
【0049】
[7]汚泥用脱水剤
本発明の汚泥用脱水剤は、本高分子重合体を含んで構成される。本発明の汚泥用脱水剤には、本発明の効果を奏する範囲において他の成分、例えば、硫酸バンドやポリ硫酸鉄などの凝集剤が配合されていても良い。また、本高分子重合体の溶解液を安定に維持するために、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム又はスルファミン酸等の添加物が配合されていてもよい。
【0050】
[8]汚泥用脱水剤の使用方法
本発明の汚泥用脱水剤を用いる汚泥の処理は以下のように行われる。
【0051】
先ず、汚泥用脱水剤の0.2〜1.0質量%水溶液を調製する(以下、この水溶液を「汚泥用脱水剤水溶液」ともいう)。次に、この汚泥用脱水剤水溶液を処理対象の汚泥に添加して汚泥のフロック形成を促進させる。汚泥用脱水剤の添加量は、汚泥の固形分質量に対し、高分子重合体として0.1〜5質量%が好ましく、0.3〜2質量%が特に好ましい。
【0052】
上記のようにして得られる汚泥のフロックは、ベルトプレス、スクリュウプレス、フィルタープレス等の圧搾脱水機や、遠心分離機、真空濾過機等の圧力脱水機等を用いて脱水処理される。本発明の汚泥用脱水剤が添加された汚泥は、粗大なフロックが形成される。そのため、処理汚泥が脱水されやすくなり、脱水ケーキの含水率が低減される。また、上記脱水機の脱水効率が上がり、単位時間当たりの汚泥処理量が増大する。
【0053】
本発明の汚泥用脱水剤は、一般産業廃水処理場や下水処理場、し尿処理場から排出される汚泥や、有機性産業廃水の処理工程から排出される汚泥に対して好適に用いられる。有機性産業廃水は、有機物を多量に含み、BOD値が高く、微生物により浄化される廃水である。例えば、パン製造工場、清涼飲料水製造工場、ハム製造工場などの食品工場から排出される廃水や、屠場から排出される廃水、石油化学工場から排出される廃水等が挙げられる。汚泥としては、例えば、生汚泥、余剰活性汚泥、余剰活性汚泥と初沈生汚泥との混合汚泥、及びそれらを消化した消化汚泥が挙げられる。また、一般産業廃水処理で生じる生物性汚泥、凝集汚泥を含む混合汚泥等に特に効果がある。
【0054】
また、本発明の汚泥処理剤は、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第2鉄、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、ポリ鉄(ポリ硫酸鉄、ポリ塩化鉄)、アルミン酸ソーダ等の無機凝結剤と併用することもできる。本発明の汚泥用脱水剤と前記無機凝結剤とを併用する場合は、汚泥に添加する順序を問わず効果を発揮する。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔高分子重合体の0.5%塩粘度の測定方法〕
0.50質量%の高分子重合体水溶液200mLに塩化ナトリウム8.0gを加えて溶解し、試料溶液を調製した。この試料溶液を25℃とし、BL型回転粘度計を用いてこの試料溶液の粘度を測定した。測定された粘度は粘度計の補正式により補正し、「0.5%塩粘度」とした。
【0057】
(実施例1)
79質量%ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド(以下、「DAC」と略記する)4級化水溶液、78質量%ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド(以下「DMC」と略記する)4級化水溶液、80質量%アクリル酸(以下、「AA」と略記する)水溶液、50質量%アクリルアミド(以下、「AAM」と略記する)水溶液を、表1に示す割合で混合した。この混合された単量体の水溶液に水を加えて、単量体濃度が38質量%となるように調整した。この水溶液のpHは2.4であった。この溶液1400gにアクリル酸の中和率が35モル%になるように、20質量%水酸化ナトリウム55.8gを攪拌下に添加した。その時の溶液はpH4.0であった。
【0058】
次いで、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(以下、「V−50」と略記する。)を2.3g含む水溶液50gを単量体水溶液中に添加し、0℃まで冷却した。このV−50が添加されている単量体水溶液をステンレス製のジュワー瓶に投入した。その後、ジュワー瓶内の単量体水溶液に窒素を5 L/minの速度で導入して十分に脱酸素した。
【0059】
過硫酸アンモニウム(1質量%水溶液として用いた)を単量体質量に対して5ppm量と、硫酸第一鉄アンモニウム(1質量%水溶液として用いた)を単量体質量に対して3ppm量とを、それぞれシリンジに取り、これらを同時にジュワー瓶に投入し、素早く攪拌して重合反応を開始させた。
【0060】
重合反応開始後、3時間放置して断熱的に重合反応を継続させた。これにより、ゲル状の高分子重合体を得た。その後、得られたゲル状の高分子重合体をジュワー瓶内から取り出し、ゲル状物の中心部を細断し、肉挽器を用いて約2〜3mm径の粒状に粉砕した。この粒状のゲル状物約50gをシャーレに取り、温風循環式乾燥機を用いて70℃で2時間乾燥させた。その後、高速回転刃式粉砕機を用いて1分間粉砕して高分子重合体の粉状物を得た。この粉状物は篩を用いて分級し、20〜60メッシュサイズの粉状物を採取して物性測定用サンプルとした。
【0061】
物性測定用サンプルを用いて測定した0.5%塩粘度は46mPa・sであった。結果は表1に示した(A−1)。
【0062】
(実施例2−3、比較例1−2)
実施例1と全く同様にして、単量体溶液を調製した。単量体水溶液のpHは2.4であった。この溶液に表1に示す所定のアクリル酸の中和率になるように、所定量の20質量%水酸化ナトリウムを攪拌下に添加し、調整した。表1にその時のpHを示した。
その後、この単量体水溶液を実施例1と同様の方法によって断熱的に重合し、ゲル状の高分子重合体を得た。
【0063】
ゲル状の高分子重合体は、実施例1と同一の方法により粉状物とし、これを用いて0.5%塩粘度を測定した。結果は表1に示した(A−2、A−3、C−1、C−2)。
【0064】
(実施例4)
79質量%DAC4級化水溶液、80質量%AA水溶液、50質量%AAM水溶液を、表1に示す割合で混合した。この混合された単量体を、単量体濃度40質量%となるように水を加えて調整した。この水溶液のpHは2.3であった。この溶液に表1に示す所定のアクリル酸の中和率になるように、所定量の8%(v/v)アンモニア水溶液量を攪拌下に添加し、調整した。表1にその時のpHを示した。
【0065】
次いで、V−50を2.3g含む水溶液50gを単量体水溶液中に添加し、0℃まで冷却した。
【0066】
このV−50が添加されている単量体水溶液を実施例1と同様の方法によって断熱的に重合し、ゲル状の高分子重合体を得た。
【0067】
ゲル状の高分子重合体は、実施例1と同一の方法により粉状物とし、これを用いて0.5%塩粘度を測定した。結果は表1に示した(A−4)。
【0068】
(実施例5−6、比較例3−4)
実施例4と全く同様にして、単量体溶液を調製した。単量体水溶液のpHは2.3であった。この溶液に表1に示す所定のアクリル酸の中和率になるように、所定量の8%(v/v)アンモニア水溶液量を攪拌下に添加し、調整した。表1にその時のpHを記載した。その後、この単量体水溶液を実施例4と同様の方法によって断熱的に重合し、ゲル状の高分子重合体を得た。
【0069】
ゲル状の高分子重合体は、実施例1と同一の方法により粉状物とし、これを用いて0.5%塩粘度を測定した。結果は表1に示した(A−5、A−6、C−3、C−4)。
【0070】
(実施例7)
79質量%DAC4級化水溶液、80質量%AA水溶液、50質量%AAM水溶液を、表1に示す割合で混合した。この混合された単量体を、単量体濃度39質量%となるように水を加えて調整した。この単量体の水溶液のpHは2.4であった。この溶液に表−1に示す所定のアクリル酸の中和率になるように、所定量の8%アンモニア水溶液量を攪拌下に添加し、調整した。表1にその時のpHを示した。
【0071】
その後、この単量体水溶液をステンレス製のジュワー瓶に投入した。ジュワー瓶内の単量体水溶液に窒素を5 L/minの速度で60分間導入して十分に脱酸素するとともに、単量体水溶液の温度を10℃とした。V−50を単量体質量に対して1000ppm量と、重亜硫酸水素ナトリウムを同20ppm量とを単量体水溶液中に添加した。
【0072】
次いで、反応容器の上方から100Wブラックライトを用いて6.0mW/cmの照射強度で60分間光照射して重合を行い、ゲル状の高分子重合体を得た。
【0073】
ゲル状の高分子重合体は、実施例1と同一の方法により粉状物とし、これを用いて0.5%塩粘度を測定した。結果は表1に示した(A−7)。
【0074】
(実施例8−9、比較例5−6)
実施例7と全く同様にして、単量体溶液を調製した。単量体溶液のpHは2.4であった。
この溶液に表1に示す所定のアクリル酸の中和率になるように、所定量の8%(v/v)アンモニア水溶液量を攪拌下に添加し、調整した。表1にその時のpHを示した。その後、この単量体水溶液を実施例7と同様の方法によって光開始重合し、ゲル状の高分子重合体を得た。
【0075】
ゲル状の高分子重合体は、実施例1と同一の方法により粉状物とし、これを用いて0.5%塩粘度を測定した。結果は表1に示した(A−8、A−9、C−5、C−6)。
【0076】
【表1】


【0077】
(評価例1)
し尿処理場から採取した混合汚泥(固形物濃度2.5質量%、pH6.6)に、無機凝結剤である硫酸バンドを2500ppm(質量)添加した汚泥試料150mLを300mLビーカーに採取した。この汚泥試料に対して、高分子重合体(A−1)〜(A−3)及び(C−1)〜(C−2)の0.20質量%水溶液をそれぞれ加えた。高分子重合体の添加量は、汚泥の固形物量に対して各高分子重合体を固形物量として1.2質量%とした。
【0078】
高分子重合体が添加された汚泥試料を、英国トライトン社製CSTミキサーを用いて1000rpmで30秒間撹拌することにより凝集処理を行った。
【0079】
凝集処理後の汚泥試料中に生成したフロックのサイズを目視により測定した。次にこの凝集処理後の汚泥試料を60メッシュのステンレス製濾過管に注ぎ、10秒後の濾水量をメスシリンダーを用いて測定した。
【0080】
ステンレス製濾過管上に残存した汚泥を60メッシュのナイロン(登録商標)製の布に包み、遠沈管式遠心分離器を用いて2000rpmで5分間脱水し、脱水ケーキを得た。この脱水ケーキ中の含水量を常法により測定した。結果は表2に示した。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例1〜3は、汚泥に形成されたフロックサイズが大きいため、ろ水量が多くなり、その結果、脱水ケーキの含水率を低下させることができた。一方、比較例1〜2は、汚泥に形成されたフロックサイズが小さいため、ろ水量が少なくなり、その結果、脱水ケーキの含水率を十分に低下させることができなかった。
【0083】
(評価例2)
下水処理場から採取した下水消化汚泥(固形物濃度1.8質量%、pH6.1)に、無機凝結剤であるポリ硫酸鉄を1000ppm(質量)添加した汚泥試料150mLを300mLビーカーに採取した。この汚泥試料に対して、高分子重合体(A−4)〜(A−6)及び(C−3)〜(C−4)の0.20質量%の各水溶液を加えた。高分子重合体の添加量は、汚泥の固形物量に対して各高分子重合体を固形物量として1.1質量%とした。
【0084】
高分子重合体が添加された汚泥試料を、英国トライトン社製CSTミキサーを用いて1000rpmで30秒間撹拌することにより凝集処理を行った。
【0085】
凝集処理後の汚泥試料中に生成したフロックのサイズを目視により測定した。次にこの凝集処理後の汚泥試料を60メッシュのステンレス製濾過管に注ぎ、10秒後の濾水量をメスシリンダーを用いて測定した。
【0086】
ステンレス製濾過管上に残存した汚泥を60メッシュのナイロン(登録商標)製の布に包み、遠沈管式遠心分離器を用いて2000rpmで5分間脱水し、脱水ケーキを得た。この脱水ケーキ中の含水量を常法により測定した。結果は表3に示した。
【0087】
【表3】

【0088】
実施例4〜6は、汚泥に形成されたフロックサイズが大きいため、ろ水量が多くなり、その結果、脱水ケーキの含水率を低下させることができた。一方、比較例3〜4は、汚泥に形成されたフロックサイズが小さいため、ろ水量が少なくなり、その結果、脱水ケーキの含水率を十分に低下させることができなかった。
【0089】
(評価例3)
下水処理場から採取した混合生汚泥(固形物濃度2.6質量%、pH6.0)に、無機凝結剤であるポリ硫酸鉄を1000ppm(質量)添加した汚泥試料150mLを300mLビーカーに採取した。この汚泥試料に対して、高分子重合体(A−7)〜(A−9)及び(C−5)〜(C−6)の0.20質量%の各水溶液を加えた。高分子重合体の添加量は、汚泥の固形物量に対して各高分子重合体を固形物量として0.62質量%とした。
【0090】
高分子重合体が添加された汚泥試料を、英国トライトン社製CSTミキサーを用いて1000rpmで30秒間撹拌することにより凝集処理を行った。
【0091】
凝集処理後の汚泥試料中に生成したフロックのサイズを目視により測定した。次にこの凝集処理後の汚泥試料を60メッシュのステンレス製濾過管に注ぎ、10秒後の濾水量をメスシリンダーを用いて測定した。
【0092】
ステンレス製濾過管上に残存した汚泥を60メッシュのナイロン(登録商標)製の布に包み、遠沈管式遠心分離器を用いて2000rpmで5分間脱水し、脱水ケーキを得た。この脱水ケーキ中の含水量を常法により測定した。結果は表4に示した。
【0093】
【表4】

【0094】
実施例7〜9は、汚泥に形成されたフロックサイズが大きいため、ろ水量が多くなり、その結果、脱水ケーキの含水率を低下させることができた。一方、比較例5〜6は、汚泥に形成されたフロックサイズが小さいため、ろ水量が少なくなり、その結果、脱水ケーキの含水率を十分に低下させることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)成分、
(a)成分:4級アンモニウム塩基及び/又は3級アミノ基を有するカチオン性のビニル単量体、
(b)成分:酸基の35〜80モル%がアルカリ性物質によって中和されているアニオン性単量体、
(c)成分:ノニオン性単量体、
を水溶液中で溶液重合した後、水を除去して得られる高分子重合体であって、前記高分子重合体を0.5質量%含む4%塩化ナトリウム溶液の25℃における粘度が10〜100mPa・sである高分子重合体
を含んで成ることを特徴とする汚泥用脱水剤。
【請求項2】
前記(a)成分が、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、及びこれらの塩酸塩、硫酸塩、メチルクロライド第4級塩、ジメチル硫酸第4級塩、ベンジルクロライド第4級塩から成る群から選択される1種以上である請求項1に記載の汚泥用脱水剤。
【請求項3】
前記(b)成分が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸である請求項1に記載の汚泥用脱水剤。
【請求項4】
前記(c)成分が、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドである請求項1に記載の汚泥用脱水剤。
【請求項5】
前記(a)〜(c)成分のモル比が、(a)成分:(b)成分:(c)成分=10〜85:2〜40:8〜88である請求項1に記載の汚泥用脱水剤。
【請求項6】
前記(a)〜(c)成分のモル比が、(a)成分:(b)成分:(c)成分=10〜85:2〜40:8〜88であり、かつ、
前記(a)と(b)成分のモル比が、(a)成分:(b)成分=0.5〜15:1である請求項1に記載の汚泥用脱水剤。
【請求項7】
以下の(a)〜(c)成分、
(a)成分:4級アンモニウム塩基及び/又は3級アミノ基を有するカチオン性のビニル単量体、
(b)成分:酸基の35〜80モル%がアルカリ性物質によって中和されているアニオン性単量体、
(c)成分:ノニオン性単量体、
が20〜70質量%含まれる水溶液中でこれらを溶液重合する重合工程と、
前記重合工程により得られる生成物から水を除去する乾燥工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の汚泥用脱水剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−101192(P2012−101192A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252656(P2010−252656)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(306048535)MTアクアポリマー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】