説明

汚泥発酵肥料を用いた作物のりん酸吸収促進方法及びりん酸吸収促進資材の製造方法

【課題】作物へのりん酸吸収促進が可能な方法及び資材を提供する。
【解決手段】りん酸を含有する化成肥料と、そのりん酸成分の5〜30倍の、原料肥料として少なくともし尿汚泥肥料を用いる汚泥発酵肥料とを併用する方法及びりん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で10〜50重量%混合し、60℃未満の温度で造粒・乾燥する作物のりん酸吸収促進資材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚泥発酵肥料を用いた作物のりん酸吸収促進方法及びりん酸吸収促進資材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌に施用した化成肥料中のりん酸は、土壌中のアルミニウム、鉄、カルシウム、マグネシウム等と結合し、作物が吸収利用困難な形態となる。このりん酸の土壌中への固定化は、作物による利用効率の点やりん酸過剰の環境の点でも問題となっている。また近年は、りん酸肥料の主原料であり、天然資源として限りあるリン鉱石が経済発展等による需要の増加とともに高騰し、化成肥料の価格を押し上げる要因にもなっている。このような背景から、作物の生産資材として最も重要である化成肥料中のりん酸を効率よく作物に利用させるための技術が強く望まれていた。特許文献1には、その解決方法の一つとして、微生物を利用したりん酸の吸収の方法が記載されている。また、非特許文献1には、牛糞堆肥や鶏糞堆肥のりん酸不可給化抑制の効果が記載されている。しかし、それらの作物へのりん酸吸収促進効果は、対照に対して増分が50%以下に留まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−227320号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本土壌肥料学会誌第81巻第4号367〜371頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、化成肥料中のりん酸を飛躍的に効率良く作物に吸収させる方法及び資材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、化成肥料と汚泥発酵肥料を同時施用することによって、更には、りん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%混合し、60℃未満の温度で造粒・乾燥した組成物を提供することによって、作物へのりん酸の吸収を対照に対する増分として110〜175%と、従来技術の効果(対照に対して50%以下)より飛躍的に効率良くできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)りん酸を含有する化成肥料と、原料肥料として少なくともし尿汚泥肥料を用いる汚泥発酵肥料とを同時施用する作物のりん酸吸収促進方法。
(2)汚泥発酵肥料の量が、りん酸を含有する化成肥料のりん酸成分の5〜30倍である(1)の方法。
(3)りん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で10〜50重量%混合する作物のりん酸吸収促進資材。
(4)りん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で10〜50重量%混合し、60℃未満の温度で造粒・乾燥する作物のりん酸吸収促進資材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作物の栽培期間中に、作物にりん酸を効率良く吸収促進できる方法及び資材が提供される。また、化成肥料と汚泥発酵肥料を同時施用する本発明の方法は、化成肥料中に汚泥発酵肥料を共存させることによって、施用したりん酸を作物に飛躍的に効率良く吸収させることができ、土壌中に残留するりん酸成分の削減に寄与できるだけでなく、環境に負荷を与えない方法及び資材でもある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「汚泥発酵肥料」とは、(1)下水汚泥肥料、し尿汚泥肥料、工業汚泥肥料又は混合汚泥肥料をたい積又は撹拌し、腐熟させたもの、(2)(1)に掲げる汚泥発酵肥料に植物質若しくは動物質の原料又は焼成汚泥肥料を混合したものをたい積又は撹拌し、腐熟させたものをいう。本発明における汚泥発酵肥料の原料肥料には、特に、し尿汚泥肥料が含まれる。
【0010】
また「下水汚泥肥料」とは、(1)下水道の終末処理場から生じる汚泥を濃縮、消化、脱水又は乾燥したもの、(2)(1)に掲げる下水汚泥肥料に植物質若しくは動物質の原料を混合したもの又はこれを乾燥したもの、(3)(1)若しくは(2)に掲げる下水汚泥肥料を混合したもの又はこれを乾燥したものをいう。
【0011】
また「し尿汚泥肥料」とは、(1)し尿処理施設、集落排水処理施設若しくは浄化槽から生じた汚泥又はこれらを混合したものを濃縮、消化、脱水又は乾燥したもの、(2)し尿に凝集を促進する材料又は悪臭を防止する材料を混合し、脱水又は乾燥したもの、(3)(1)若しくは(2)に掲げるし尿汚泥肥料に植物質若しくは動物質の原料を混合したもの又はこれを乾燥したもの、(4)(1)、(2)若しくは(3)に掲げるし尿汚泥肥料を混合したもの又はこれを乾燥したものをいう。但し、本発明におけるし尿汚泥肥料は、本発明の効果を損なわない程度に動物の排泄物を含んでもよいが、発酵過程の匂い問題や、家畜の飼料に多量に用いられている抗生物質による環境ホルモン問題等の点で含まない方がよい。
【0012】
また「工業汚泥肥料」とは、(1)工場若しくは事業場の排水処理施設から生じた汚泥を濃縮、消化、脱水又は乾燥したもの、(2)(1)に掲げる工業汚泥肥料に植物質若しくは動物質の原料を混合したもの又はこれを乾燥したもの、(3)(1)若しくは(2)に掲げる工業汚泥肥料を混合したもの又はこれを乾燥したものをいう。
【0013】
また「混合汚泥肥料」とは、(1)下水汚泥肥料、し尿汚泥肥料若しくは工業汚泥肥料のいずれか二以上を混合したもの又はこれを乾燥したもの、(2)(1)に掲げる混合汚泥肥料に植物質若しくは動物質の原料を混合したもの又はこれを乾燥したもの、(3)(1)若しくは(2)に掲げる混合汚泥肥料を混合したもの又はこれを乾燥したものをいう。
【0014】
また「焼成汚泥肥料」とは、下水汚泥肥料、し尿汚泥肥料、工業汚泥肥料又は混合汚泥肥料を焼成したものをいう。
【0015】
通常、汚泥発酵肥料は各原料を混合し、底部から通気できる発酵枡に投入し、1週間毎に切替しながら40日〜60日間堆積発酵して得られる。
【0016】
本発明の作物へのりん酸吸収促進法では、りん酸を含有する化成肥料とそのりん酸成分量に対して重量比で5倍〜30倍、好ましくは10倍〜20倍の前記方法で得られた汚泥発酵肥料を同時施用することによって、化成肥料中のりん酸を飛躍的に効率良く作物に吸収させることができる。化成肥料と同時に施用する汚泥発酵肥料の量は、りん酸成分量に対して5倍未満では、りん酸吸収促進効果が低く、30倍を超える量では、りん酸吸収の促進効果が飽和状態となる。
【0017】
さらに、本発明のりん酸吸収促進資材では、りん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%混合し、60℃未満の温度で造粒・乾燥することによって、本資材中のりん酸を飛躍的に効率良く作物に吸収させることができる。りん酸を含有する化成肥料への汚泥発酵肥料の添加量は、乾物で10重量%未満では、りん酸吸収促進効果が低く、乾物で50重量%を超える量では、資材中の肥料各成分量が過度に低くなり、化成肥料としての肥料効果を維持できなくなる。
【0018】
本発明の資材の形状については、粉状、球状、ペレット状、タブレット状と特に限定されないが、機械施用の点からは、球状、ペレット状、タブレット状が望ましく、製品に係る温度条件と乾燥効率等の生産性からは押出式・無加温乾燥方式のペレット状が最も好ましい。
【0019】
本発明の化学肥料の肥料成分としては、例えば以下の肥料原料が挙げられる。
窒素源としては、尿素、硫安、塩安、硝安、腐植酸アンモニア、IB窒素(イソブチルアルデヒド縮合尿素肥料)、CDU窒素(アセトアルデヒド縮合尿素)、ホルム窒素(ホルムアルデヒド加工尿素肥料)、オキザミド、石灰窒素、グアニル尿素、グリコール尿素、メチロール尿素重合肥料等を始めとする肥料取締法に基づく窒素肥料が挙げられる。
【0020】
りん酸源としては、過りん酸石灰、重過りん酸石灰、りん酸苦土、りん酸一アンモニウム、りん酸二アンモニウム、重焼りん、苦土重焼りん、腐植酸りん肥、熔成りん肥、焼成りん肥を始めとする肥料取締法に基づくりん酸肥料が挙げられる。
【0021】
加里源としては、硫酸加里、塩化加里、硝酸加里、腐植酸加里を始めとする肥料取締法に基づく加里質肥料が挙げられる。
【0022】
その他、石灰質肥料、けい酸質肥料、苦土肥料、マンガン質肥料、ほう素質肥料、微量要素複合肥料等を自由に選択して使用することができる。
【0023】
さらに、ピートモス、腐植酸質資材、ベントナイト、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、微粉炭焼却灰、石こう等を添加してもよい。
【0024】
これらの肥料成分の使用割合は、本発明で使用する汚泥発酵肥料の範囲内であれば、目的とする成分含量により適宜変動させて使用可能である。
【0025】
次に本発明のりん酸吸収促進資材の製造方法について説明する。窒素原料、りん酸原料、加里原料及び汚泥発酵肥料、水、さらには必要に応じて他の肥料原料や添加剤等を入れて混合後、押出造粒機に投入して造粒し、押出造粒時の発熱を室温まで冷却しながら乾燥し、製品水分を20%以下にする。
【0026】
他の造粒方法としては、例えば、パン造粒機又はドラム型造粒機等の転動造粒、圧ぺん造粒等が挙げられるが、得られた造粒物を60℃未満で効率良く乾燥するには押出造粒による生産が最も適している。
【0027】
造粒に際し必要に応じて結合促進材を用いてもよい。結合促進材としては、例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース)、リグニンスルホン酸、ポリリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、アタバルジャイト、デンプン、アラビアゴム、糖密等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下実施例及び比較例によって本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0029】
1−1.汚泥発酵肥料の製造(実施例1の製造)
し尿汚泥54重量部、食品工業汚泥17重量部、コーヒー粕8重量部、焼成汚泥6重量部、ゼオライト5重量部、リサイクル品10重量部を混合し、1週間毎に切替しながら45日間堆積発酵し、汚泥発酵肥料を得た。
【0030】
1−2.汚泥発酵肥料の製造(実施例2の製造)
し尿汚泥41重量部、コーヒー粕24重量部、食品工業汚泥17重量部、下水汚泥7重量部、工業汚泥1重量部、米糠5重量部、過燐酸石灰3重量部、硫黄粉末2重量部を混合し、1週間毎に切替しながら60日間堆積発酵し、汚泥発酵肥料を得た。
【0031】
1−3.作物栽培によるりん酸吸収促進試験(1)
450gの赤玉土を詰めたa/10000のノイバウエルポットに化成肥料(窒素8%−りん酸8%−加里8%)20kgりん酸/10a相当量を施用した比較例1区、同量の化成肥料(窒素8%−りん酸8%−加里8%)に実施例1の汚泥発酵肥料400kg/10a相当量を同時施用した実施例3区、同量の化成肥料(窒素8%−りん酸8%−加里8%)に実施例2の汚泥発酵肥料400kg/10a相当量を同時施用した実施例4区、実施例1の汚泥発酵肥料400kg/10a相当量を施用した区、実施例2の汚泥発酵肥料400kg/10a相当量を施用した区及び無肥料区にコマツナを3作栽培し、コマツナが吸収したりん酸量を測定した。
3作合計の結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示した結果の通り、実施例3区から実施例1区を差し引いたりん酸吸収量、及び実施例4区から実施例2区を差し引いたりん酸吸収量を、比較例1区から無肥料区を差し引いたりん酸吸収量で割った値と、比較例1区から無肥料区を差し引いたりん酸吸収量をその量で割った値とを比較した場合、りん酸を含有する化成肥料と汚泥発酵肥料とを同時施用した本発明の施用方法では、りん酸を含有する化成肥料単独施用と比べて増分が150〜175%と、従来技術による効果(対照に対する増分が50%以下)よりも飛躍的に高いりん酸の吸収促進効果が認められた。
【0034】
2−1.りん酸吸収促進資材の製造(実施例5の製造)
硫安295重量部、りん酸二アンモニウム70重量部、過燐酸石灰84重量部、塩化加里113重量部、実施例1で得た汚泥発酵肥料439重量部、水30重量部を良く混合後、押出式造粒機で造粒し、得られた造粒物を室温まで乾燥冷却した。
【0035】
2−2.比較例2の製造
硫安333重量部、りん酸二アンモニウム24重量部、過燐酸石灰207重量部、塩化加里113重量部、実施例1で得た汚泥発酵肥料439重量部、水35重量部を良く混合後、押出式造粒機で造粒し、得られた造粒物を105℃の棚段式の乾燥機で4時間乾燥後、室温まで冷却した。
【0036】
2−3.比較例3の製造
硫安423重量部、熔成りん肥240重量部、過燐酸石灰118重量部、塩化加里113重量部、フライアッシュ121重量部をパン造粒機に入れて充分混合し、水を適宜供給しながら造粒した。得られた造粒物を105℃の棚段式の乾燥機に4時間入れた後、室温まで冷却した。
【0037】
2−4.作物栽培によるりん酸吸収促進試験(2)
2.5kgの黒ボク土を詰めたa/5000のワグネルポットに実施例5のりん酸吸収促進資材(窒素8%−りん酸6%−加里6%)15kgりん酸/10a相当量を施用した区、同量の比較例2の資材(窒素8%−りん酸6%−加里6%)を施用した区、同量の比較例3の化成肥料(窒素8%−りん酸6%−加里6%)を施用した区及び無肥料区にコマツナを3作栽培し、コマツナが吸収したりん酸量を測定した。
3作合計の結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示した結果の通り、汚泥発酵肥料を添加していないりん酸を含有する化成肥料を施用した比較例3区から無肥料区を差し引いたりん酸吸収量を、その量で割った値と、りん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で33重量%混合し、105℃で乾燥した資材を施用した比較例2区から無肥料区を差し引いたりん酸吸収量を、比較例3区から無肥料区を差し引いたりん酸吸収量で割った値とを比較すると、増分が16%となる。一方、りん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で33重量%混合し、60℃未満の温度で造粒・乾燥した本発明のりん酸吸収促進剤を施用した実施例5区から無肥料区を差し引いたりん酸吸収量を、比較例3区から無肥料区を差し引いたりん酸吸収量で割った値とを比較すると、増分として110%と従来技術の効果(対照に対する増分が50%以下)よりも飛躍的に高いりん酸の吸収促進効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
りん酸を含有する化成肥料と、原料肥料として少なくともし尿汚泥肥料を用いる汚泥発酵肥料とを同時施用する作物のりん酸吸収促進方法。
【請求項2】
汚泥発酵肥料の量が、りん酸を含有する化成肥料のりん酸成分の5〜30倍である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
りん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で10〜50重量%混合する作物のりん酸吸収促進資材。
【請求項4】
りん酸を含有する化成肥料中に汚泥発酵肥料を乾物で10〜50重量%混合し、60℃未満の温度で造粒・乾燥する作物のりん酸吸収促進資材の製造方法。

【公開番号】特開2012−71994(P2012−71994A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215832(P2010−215832)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(591148613)エムシー・ファーティコム株式会社 (3)
【Fターム(参考)】