説明

汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法

【課題】汚泥脱水ケーキ貯留期間に応じて、当該汚泥脱水ケーキから発生する臭気を最適な量の消臭剤の添加によって抑制し、消臭剤の使用量を減少させてコストの低減を図る。
【解決手段】汚泥脱水ケーキを貯留槽に投入する時かその前に、汚泥脱水ケーキに消臭剤を連続的又は回分的に添加して、当該汚泥脱水ケーキから発生する臭気を抑制する臭気発生抑制方法であって、事前に求めた消臭剤添加率と消臭効果維持期間との検量関係により、当該汚泥脱水ケーキを少なくとも汚泥脱水ケーキ貯留期間が終了するまでの間消臭するのに必要な消臭剤添加率を求め、その求められた結果に基づいて消臭剤を添加する汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥脱水ケーキを汚泥脱水後から貯留槽に投入するまでの区間で、汚泥脱水ケーキに消臭剤を連続的又は回分的に添加して、当該汚泥脱水ケーキから発生する臭気を抑制する臭気発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場、し尿処理場や、食品工場、紙パルプ工場などの有機性産業排水の処理工程などにおいては、各種の有機性汚泥が発生する。例えば、下水処理汚泥は、下水を最初沈殿池で固液分離して得られた上澄水を、曝気槽などを用いて活性汚泥処理し、最終沈殿池に導いて活性汚泥を分離し、その一部は返送汚泥として曝気槽に返送され、残余は余剰汚泥となる。最初沈殿池からの初沈生汚泥と余剰汚泥は、濃縮槽に導かれた後、脱水機により脱水され、得られた有機性汚泥脱水ケーキは貯留槽に一定期間貯留された後、数日おきなど定期的にトラックやダンプカー等により最終処理場へ搬出される。
【0003】
ここで、汚泥脱水ケーキは、放置すると腐敗により悪臭物質を発生する。例えば、下水処理場で発生する悪臭物質として検出される物質は、硫化水素、メチルメルカプタンなどのイオウ化合物、アンモニア、トリメチルアミンなどの窒素化合物、吉草酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸などである。これらの中で、硫化水素とメチルメルカプタンの量が特に多い。
脱水により得られる汚泥脱水ケーキは開放系で貯留、運搬される場合が多いので、臭気対策はより重要である。すなわち、汚泥脱水ケーキを貯留槽に貯留する場合、新たな汚泥脱水ケーキが定期的に投入されるため、覆蓋、臭気の吸引などによる処理が困難であり、臭気対策が難しく、貯留時に発生する悪臭が作業環境の悪化をもたらすことがある。
【0004】
このために、汚泥脱水ケーキから発生する臭気自体を抑制する必要があり、従来から様々な臭気発生抑制方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、汚泥脱水ケーキに、25℃において水100mLに20g以上溶解する亜硝酸塩水溶液等の静菌剤を添加し、汚泥脱水ケーキを混合しなくても十分な臭気抑制効果が得られる汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法が開示されており、臭気抑制効果を落とすことなく消臭剤の使用量を低減することができるというものである。
また、特許文献2には、汚泥脱水ケーキに、亜硝酸塩及びピリチオン若しくはその誘導体を添加し、長期間にわたって臭気抑制効果が得られる汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法が開示されており、臭気抑制効果を格段に向上させることができるというものである。
【0005】
【特許文献1】特開2002−186995号公報
【特許文献2】特開2004−216252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機性産業排水等の処理コストのさらなる低減を検討したところ、特許文献1及び2では、貯留槽での貯留期間は考慮されず、また消臭剤の適正量について、十分に検討されていない状況であることがわかった。
【0007】
本発明は、このような状況の下になされたものであり、その目的は、汚泥脱水ケーキ貯留期間に応じて、当該汚泥脱水ケーキから発生する臭気を最適な量の消臭剤の添加によって抑制し、消臭剤の使用量を減少させてコストの低減を図ることができる汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、消臭剤添加率と消臭効果維持期間との間に所定の関係があることを見出して、その関係(検量関係)をもとに消臭剤の添加量を決定すれば、消臭剤の適正な添加量を決定できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕 汚泥脱水ケーキを貯留槽に投入する時かその前に、汚泥脱水ケーキに消臭剤を連続的又は回分的に添加して、当該汚泥脱水ケーキから発生する臭気を抑制する臭気発生抑制方法であって、事前に求めた消臭剤添加率と消臭効果維持期間との検量関係により、当該汚泥脱水ケーキを少なくとも汚泥脱水ケーキ貯留期間が終了するまでの間消臭するのに必要な消臭剤添加率を求め、その求められた結果に基づいて消臭剤を添加する汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法、
〔2〕 前記貯留槽に、消臭剤が添加された汚泥脱水ケーキを複数日にわたって積層する上記〔1〕に記載の汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法、
〔3〕 前記消臭剤が、硝酸塩及び亜硝酸塩から選ばれるいずれか1種以上の硝酸塩系消臭剤である上記〔1〕又は〔2〕に記載の汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法、
〔4〕 前記硝酸塩系消臭剤に、さらに、静菌剤系消臭剤、酸化剤系消臭剤及び硫酸塩系消臭剤から選ばれるいずれか1種以上を含有する上記〔3〕に記載の汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法、
〔5〕 前記汚泥脱水ケーキが、有機性汚泥脱水ケーキである上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、汚泥脱水ケーキ貯留期間に応じて、当該汚泥脱水ケーキから発生する臭気を最適な量の消臭剤の添加によって抑制し、消臭剤の使用量を減少させてコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、下水処理工程の一例を説明するための工程系統図であり、図1に基づいて下水処理工程を説明する。
まず、下水が沈砂池1へ導入され、ポンプの損耗や処理施設の閉塞を防止するために、下水中の粗大物や砂分が除去される。粗大物や砂分が除去された下水は、最初沈殿池2に導入され、下水中の比較的比重の大きい物質が沈降分離して、初沈生汚泥が発生する。初沈生汚泥は、重力濃縮槽3に送られ、通常は汚泥濃度1.5重量%以上に濃縮される。必要に応じて、最初沈殿池2と重力濃縮槽3の間Aにおいて、初沈生汚泥に亜硝酸塩など消臭剤を添加することができる。
【0012】
重力濃縮槽3において濃縮された汚泥は、混合汚泥貯留槽4に送られる。
最初沈殿池2で比較的比重の大きい物質を除去した上澄水は、曝気槽5に導入され、好気性微生物を多量に含む活性汚泥と混合され、曝気される。下水中の有機物は、微生物に吸着され、生物代謝により分解される。曝気槽5からの流出水は、最終沈殿池6に導入され、混合液中の汚泥が沈殿除去され、清澄な処理水が得られる。
【0013】
処理水は、次亜塩素酸ナトリウムなどを添加して消毒したのち、河川などに放流することができ、あるいは、中水として場内で利用することもできる。
最終沈殿池6から引き抜かれた汚泥は、一部を返送汚泥として曝気槽5に返送してふたたび生物処理に用いる。余った汚泥は、余剰汚泥として余剰汚泥受槽7にいったん貯留したのち、遠心濃縮機8により濃縮され、混合汚泥貯留槽4に送られる。
【0014】
混合汚泥貯留槽4において、初沈生汚泥と余剰汚泥とが混合されて混合生汚泥となる。必要に応じて、Bから混合汚泥貯留槽4に消臭剤を注入することができる。この混合生汚泥は、ベルトプレス脱水機9に送られて脱水され、汚泥脱水ケーキとなる。ベルトプレス脱水機9から排出される汚泥脱水ケーキは、ケーキコンベア10により貯留槽11に移送され、搬出までの間貯留することになる。そして、ケーキコンベア10において移動中の汚泥脱水ケーキに、消臭剤水溶液等がC1から散布されると共に、貯留槽11内の汚泥脱水ケーキに、消臭剤水溶液等がC2から散布される。
【0015】
このような貯留槽11は、通常、下水処理場の処理能力に応じて、数日間汚泥脱水ケーキを貯留し、その後、トラックやダンプカー等で搬出されるように設定されているが、本発明においては、貯留槽11に貯留される汚泥脱水ケーキは、一回投入された汚泥脱水ケーキをそのまま複数日間、例えば数日間、貯留するものでもよく、前日投入された汚泥脱水ケーキの上にさらに当日の汚泥脱水ケーキが投入されて、汚泥脱水ケーキが投入日の数だけ層状に形成されたものを貯留するものでもよい。
そして、貯留槽11内に一定期間貯留された汚泥脱水ケーキは、4日や5日毎など定期的にトラックやダンプカー等により最終処分場へ搬出される。
【0016】
まず、本発明に用いられる消臭剤について説明する。
本発明に用いられる消臭剤の種類は特に限定されないが、例えば、硝酸塩系消臭剤、静菌剤系消臭剤、酸化剤系消臭剤、硫酸塩系消臭剤等を用いることができる。ここで、静菌剤系消臭剤とは、細菌の発育あるいは増殖を阻止する薬剤であるが、一般に殺菌剤と称されている薬剤も、低濃度で用いることにより静菌作用を発現させ、静菌剤系消臭剤として使用することができる。
硝酸塩系消臭剤としては、硝酸塩及び亜硝酸塩等を挙げることができ、静菌剤系消臭剤としては、イソチアゾロン系化合物、チウラム系化合物、チアジアジン系化合物等の粉末状の有機系殺菌剤、亜硝酸塩、次亜塩素酸塩、第四級アンモニウム塩、エタノール、ホルムアルデヒド、ピリチオン及びその誘導体等を挙げることができ、酸化剤系消臭剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、p−スルホンジクロロアミド安息香酸、過酸化ベンゾイル、塩素化シアヌル酸等を挙げることができ、硫酸塩系消臭剤としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等を挙げることができる。
【0017】
これらの中で、消臭剤としては、亜硝酸塩を好適に用いることができ、亜硝酸塩として、例えば、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸セシウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸ニッケル、亜硝酸鉛などを挙げることができる。特に、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム及び亜硝酸カルシウムは、取り扱いと入手が容易であり、汚泥脱水ケーキの二次利用の支障とならないので、好適に使用することができる。
【0018】
また、硝酸塩系消臭剤と、静菌剤系消臭剤、酸化剤系消臭剤及び硫酸塩系消臭剤から選ばれる少なくとも1種との混合物を用いることもできる。
そして、これらの消臭剤を水等の溶媒に溶解させて水溶液等を調整し、この消臭剤水溶液等の状態で汚泥脱水ケーキに添加するのが一般的であり、消臭剤水溶液等は、消臭剤の拡散性、消臭剤添加の作業性等の観点からも好ましい。
消臭剤を溶解する溶媒としては、消臭剤を溶解ものであればよく、水、アルコール等が好ましく用いられる。
【0019】
以上、消臭剤を水溶液等の液状で用いる方法について述べてきたが、本発明においては、消臭剤を液状ではなく粉末状で用いる場合であっても同様に実施することができる。
なお、消臭剤を粉末状で用いる場合の添加方法としては、例えば、加圧空気による注入を用いることができる。これは、空気を加圧して汚泥脱水ケーキに供給する通気配管を設置し、その配管中に消臭剤をインライン供給することにより消臭剤を汚泥脱水ケーキに添加するというものである。
【0020】
次に、本発明の汚泥脱水ケーキの臭気発生を抑制する方法について説明する。
まず、汚泥脱水ケーキ貯留期間を決定する。この汚泥脱水ケーキ貯留期間は、貯留槽11に投入された汚泥脱水ケーキが、貯留槽11から搬出されるまでの期間又は貯留槽11から搬出され運搬が終了するまでの期間である。この汚泥脱水ケーキ貯留期間は、汚泥脱水ケーキからの臭気発生を抑制するための期間であり、汚泥脱水ケーキが貯留槽11から搬出されるまでの期間とするか、その後のトラックやダンプカー等により、最終処分地までの運搬が終了するまでの期間とするかは、トラックやダンプカー等の有蓋無蓋、消臭設備の有無、トラックやダンプカー等が通過するコースの人口などの要素等を考慮して決定することができる。
【0021】
本発明においては、汚泥脱水ケーキ貯留期間に応じて、消臭効果が維持される最適な量の消臭剤を汚泥脱水ケーキに添加するものであるが、添加される消臭剤の最適な量は、例えば、以下のような方法により決定される。
所定量の汚泥脱水ケーキサンプルを複数用意し、それぞれ異なる量の消臭剤を添加して汚泥脱水ケーキサンプルから発生する臭気が所定値以上になるまでの期間である消臭効果維持期間を測定し、消臭剤添加率と消臭効果維持期間との関係から事前に検量関係を求め、この検量関係から、添加される消臭剤の最適な量を求める方法である。以下この方法について説明する。
【0022】
まず、所定量の汚泥脱水ケーキサンプルを複数用意する。次に、その複数の汚泥脱水ケーキサンプルにそれぞれ異なる量の消臭剤を添加して汚泥脱水ケーキサンプルから発生する臭気が所定値以上になるまでの期間である消臭効果維持期間を測定する。
用意する汚泥脱水ケーキサンプルの数は、特に限定されるものではないが、2個以上であればよく、好ましくは3個以上である。
【0023】
汚泥脱水ケーキサンプルの形状及び大きさは、特に限定されるものではなく、円板状、立法体等の形状とすることができ、例えば、円板状の場合は、直径10〜500mm、好ましくは30〜300mm、さらに好ましくは50〜200mmであり、厚さ1〜50mm、好ましくは2〜30mmである。また、汚泥脱水ケーキサンプルの量も特に限定されるものではなく、1〜500g、好ましくは5〜300g、さらに好ましくは10〜100gである。
【0024】
消臭剤の添加率は、特に限定されないが、汚泥脱水ケーキサンプルの量に対し、例えば、0.3、0.5、1.0、2.0質量%等の添加率の異なる消臭剤を汚泥脱水ケーキサンプルに添加する。
消臭剤の添加方法は特に限定されないが、消臭剤を水等の溶媒に溶解させて水溶液等を調整し、この消臭剤水溶液等を汚泥脱水ケーキに散布、噴霧、滴下等するのが好ましく、これらの場合、消臭剤が拡散により汚泥脱水ケーキ全体に行き渡るので、特に汚泥脱水ケーキを混合しなくてもよい。
【0025】
そして、消臭剤添加後、臭気が所定値以下になったことを確認し、その後、再び臭気が所定値以上になるまでの期間である消臭効果持続期間をそれぞれの汚泥脱水ケーキサンプルについて測定する。
測定する臭気は、特に限定されるものではないが、一般に、汚泥脱水ケーキから検出される物質としては、硫化水素及びメチルメルカプタンが多い。臭気として、硫化水素及びメチルメルカプタンを選択した場合、硫化水素の分析にはガステック社製ガス検知管4LT、4LL、4L、4M又は4Hを用いることができ、メチルメルカプタンの分析にはガステック社製ガス検知管71及び71Hを用いることができる。この中で硫化水素とメチルメルカプタンを最も低濃度まで検知できるのは、それぞれ4LT、71であり、また検出限界下限は、それぞれ0.05ppm、0.1ppm(容量比)である。
【0026】
また、臭気の所定値も特に限定はないが、例えば、硫化水素とメチルメルカプタンのそれぞれの検出限界である0.05ppm、0.1ppm(容量比)を所定値とすることができる。
この測定により、消臭剤添加率と消臭効果維持期間との関係が求まり、検量関係を求めることができる。
【0027】
この検量関係は、紙面上に記載された検量線に限らず、上記消臭剤添加率と消臭効果維持期間との関係から関数を導きだし、消臭剤添加率及び消臭効果維持期間のいずれか一方の値から他方の値を求める手段等の消臭剤添加率と消臭効果維持期間との関係が一義的に求まる手段が含まれる。
そして、上記検量関係により、貯留される折々の汚泥脱水ケーキに対して、少なくとも汚泥ケーキ貯留期間が終了するまでの間消臭効果が維持される消臭剤添加率を求め、この求められた結果に基づいて消臭剤を汚泥脱水ケーキに添加する。
【0028】
この汚泥脱水ケーキに添加する消臭剤の量(消臭剤使用量)は、消臭剤添加率に汚泥脱水ケーキの量を掛けることにより求められ、汚泥脱水ケーキの量は、例えば、1時間当たりの汚泥脱水ケーキ生成速度に脱水機運転時間を掛けることにより求められる。
また、消臭剤の種類、添加方法については、上記した消臭剤の種類、添加方法を適宜採用することができる。
【0029】
汚泥脱水ケーキに消臭剤を添加する時期は、特に限定されず、例えば、汚泥脱水ケーキが貯留槽11に投入される前や投入されると同時に消臭剤を添加し、汚泥脱水ケーキが投入されている期間中、消臭剤を添加し続けたり、汚泥脱水ケーキが投入されている期間中、随時に消臭剤を添加したり、汚泥脱水ケーキが投入された後、消臭剤を添加したりすることができる。
さらに、貯留槽11に投入される前のケーキコンベア10における移動中の汚泥脱水ケーキに消臭剤を添加することもできる。
【0030】
図2は、4日間にわたって汚泥脱水ケーキを貯留槽11に貯留し、5日目に搬出する場合の貯留槽11中に積層された汚泥脱水ケーキの状態を示す概念図である。
すなわち、図2は、貯留槽11に汚泥脱水ケーキを4日間にわたり投入し、汚泥脱水ケーキ貯留期間として、貯留槽11から搬出されるまでの期間とした場合の汚泥脱水ケーキの積層状態を示すものであり、汚泥脱水ケーキの層が4層形成されている。図2中、最下層の第1日のケーキは、4日前に投入された汚泥脱水ケーキであり、消臭効果維持期間4日の量に相当する消臭剤が添加されており、その上の第2日のケーキは、3日前に投入された汚泥脱水ケーキであり、消臭効果維持期間3日の量に相当する消臭剤が添加されており、第3日のケーキは、2日前に投入された汚泥脱水ケーキであり、消臭効果維持期間2日の量に相当する消臭剤が添加されており、第4日のケーキは、1日前に投入された汚泥脱水ケーキであり、消臭効果維持期間1日の量に相当する消臭剤が添加されている。そして、当日すべての汚泥脱水ケーキが搬出され、トラックやダンプカー等で運搬されることになる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
<検量関係の作成>
(1) 消臭剤として亜硝酸ナトリウムを用いた場合
下水処理場の混合生汚泥(pH5.1、懸濁物質濃度2.2重量%)250mLに、脱水剤[栗田工業(株)、クリフィックスCP604、カチオンポリマー]30mgを添加して凝集したのち、直径60cmのカラムを用いて2分間重力ろ過し、カラムを取りはずして、さらに圧力0.05MPaで2分間圧搾脱水し、直径約80mm、厚さ5mmの有機性汚泥脱水ケーキサンプル4個を得た。得られた汚泥脱水ケーキサンプルの質量はそれぞれ25gであり、含水率はそれぞれ78質量%であった。
【0032】
また、消臭剤として亜硝酸ナトリウムを用いて、25質量%亜硝酸ナトリウム水溶液の消臭剤水溶液を作製し、第1の汚泥脱水ケーキサンプルの片面に、消臭剤水溶液0.3g(汚泥脱水ケーキサンプルに対する亜硝酸ナトリウムの添加率は0.3質量%)を散布した後、汚泥脱水ケーキサンプルを2つ折りしてテトラバックに入れ、入れ口をヒートシールし、空気600mLを封入して、30℃の恒温器に保管し、20時間後にガステック社製ガス検知管4LTにより硫化水素のガス分析及びガステック社製ガス検知管71によりメチルメルカプタンのガス分析を行ったところ、硫化水素とメチルメルカプタンは検出されなかった。その後、4時間おきに硫化水素とメチルメルカプタンの検出をおこなったところ、24時間後までは、硫化水素とメチルメルカプタンは検出されなかったが、28時間後では、硫化水素が20ppm(容量比)、メチルメルカプタンが5ppm(容量比)検出された。そこで、消臭剤(亜硝酸ナトリウム)の添加率が0.3質量%の場合、消臭効果維持期間を1日(24時間)とした。
【0033】
以下、第2〜第4の汚泥脱水ケーキサンプルの片面に、消臭剤水溶液0.5g(汚泥脱水ケーキサンプルに対する亜硝酸ナトリウムの添加率は0.5質量%)、1.0g(汚泥脱水ケーキサンプルに対する亜硝酸ナトリウムの添加率は1.0質量%)、2.0g(汚泥脱水ケーキサンプルに対する亜硝酸ナトリウムの添加率は2.0質量%)をそれぞれ散布したほかは上記第1の汚泥脱水ケーキサンプルと同様にして、消臭効果維持期間を予測し、その予測期間の8時間前から、4時間おきに硫化水素とメチルメルカプタンの検出をおこなった。
その結果、消臭剤(亜硝酸ナトリウム)の添加率と消臭効果維持期間の関係は表1に示すような結果が得られた。
【0034】
【表1】

【0035】
(2) 消臭剤(亜硝酸ナトリウム)と静菌剤系消臭剤(ナトリウムピリチオン)とを用いた場合
消臭剤として亜硝酸ナトリウムを用いて、38質量%亜硝酸ナトリウム水溶液を作製し、静菌剤系消臭剤としてナトリウムピリチオンを用いて、40質量%ナトリウムピリチオン水溶液を作製した。
そして、38質量%亜硝酸ナトリウム水溶液と40質量%ナトリウムピリチオン水溶液とを質量混合比90:10で混合し、混合消臭剤水溶液を作製し、この混合消臭剤水溶液を用いたほかは、上記(1)の場合と同様にして、混合消臭剤の添加率と消臭効果維持期間の関係を求めたところ、表2に示すような結果が得られた。
【0036】
【表2】

【0037】
実施例1
下水処理場の混合生汚泥(pH5.1、懸濁物質濃度2.2重量%)2400kgを図1に示すような下水処理工程により、有機性汚泥脱水ケーキを貯留槽11に投入した。この汚泥脱水ケーキの汚泥脱水ケーキ貯留期間は、貯留槽11から搬出されるまでの期間である4日間とした。
そして、第1日(汚泥脱水ケーキ貯留期間は4日間)として、貯留槽11に投入された汚泥脱水ケーキに、上記検量関係の作成の(1)に用いた消臭剤水溶液(25質量%亜硝酸ナトリウム水溶液)と同じ消臭剤水溶液を用いて、当該検量関係により求められた最適な量である48.0kg/日の量の消臭剤を有する消臭剤水溶液を図1に示すC2から散布した。
【0038】
その後、上記と同様の工程を3日(3回)繰り返し、汚泥脱水ケーキ貯留期間をそれぞれ、3日(第2日)、2日(第3日)、1日(第4日)とし、図2に示すような汚泥脱水ケーキが積層された状態で貯留した。貯留された泥脱水ケーキの総量は9600kgであり、4日間散布した消臭剤使用量の総量は91.2kgであった。表3に、消臭剤添加率、消臭剤添加量、消臭剤使用量、汚泥脱水ケーキ貯留期間等を示す。
【0039】
【表3】

【0040】
なお、消臭剤使用量(kg/日)は、以下に示す式から求められる。
消臭剤使用量(kg/日)=消臭剤添加量(kg/時)×脱水機運転時間(8時間/日)
消臭剤添加量(kg/時)=消臭剤添加率(質量%)×汚泥脱水ケーキ生成速度(300kg/時)
そして、汚泥脱水ケーキを貯留槽11から搬出し、ダンプカーで運搬する前に、ダンプカー上部の汚泥脱水ケーキの硫化水素とメチルメルカプタンを測定したところ、硫化水素とメチルメルカプタンは検出されなかった。
【0041】
比較例1〜3
比較例1を表4に、比較例2を表5に、比較例3を表6にそれぞれ示す。これらの比較例では、消臭剤水溶液を均等量で散布したほかは、実施例1と同様にし、汚泥脱水ケーキを貯留槽11から搬出し、ダンプカー上部の汚泥脱水ケーキの硫化水素とメチルメルカプタンを測定した。
その結果、比較例1では、硫化水素が150ppm、メチルメルカプタンが30ppm検出され、4日間散布した消臭剤使用量の総量は91.2kgで、実施例1と同じ添加量であるにもかかわらず、汚泥脱水ケーキ貯留期間中消臭効果を維持することができなかった。
【0042】
また、比較例2では、硫化水素が30ppm、メチルメルカプタンが5ppm検出され、4日間散布した消臭剤使用量の総量は96.0kgで、実施例1より多い添加量であるにもかかわらず、汚泥脱水ケーキ貯留期間中消臭効果を維持することができなかった。
さらに、比較例3では、硫化水素及びメチルメルカプタンは検出されず、汚泥脱水ケーキ貯留期間中消臭効果を維持することができたが、4日間散布した消臭剤使用量の総量は192.0kgで、消臭剤の使用量が実施例の約2.1倍となった。
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
これらの結果から、実施例1では、消臭剤の添加量を最適化することにより、消臭剤の使用量を比較例3の約48質量%とすることができ、約52%の消臭剤を削減することができた。
これにより、消臭剤の使用量を減少させてコストの低減を図ることができた。
【0047】
実施例2
上記検量関係の作成の(2)に用いた混合消臭剤水溶液(38質量%亜硝酸ナトリウム水溶液と40質量%ナトリウムピリチオン水溶液とを質量混合比90:10で混合した水溶液)と同じ混合消臭剤水溶液を用いたほかは、実施例1と同様にして、当該検量関係により求められた最適な量の消臭剤を有する混合消臭剤水溶液を図1に示すC2から散布した。貯留された泥脱水ケーキの総量は9600kgであり、4日間散布した混合消臭剤使用量の総量は180.0kgであった。表7に、消臭剤添加率、消臭剤添加量、消臭剤使用量、汚泥脱水ケーキ貯留期間等を示す。
【0048】
【表7】

【0049】
そして、実施例1と同様にダンプカー上部の汚泥脱水ケーキの硫化水素とメチルメルカプタンを測定したところ、硫化水素とメチルメルカプタンは検出されなかった。
その結果、消臭剤の添加量を最適化することにより、消臭剤を均等量で添加した場合に比べ消臭剤の使用量を約47質量%とすることができ、約53%の消臭剤を削減することができた。
これにより、消臭剤の使用量を減少させてコストの低減を図ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、貯留槽中の汚泥脱水ケーキによる臭気の発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】下水処理工程の一例を説明するための工程系統図である。
【図2】貯留槽中に積層された汚泥脱水ケーキの状態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0052】
1 沈砂池
2 最初沈殿池
3 重力濃縮槽
4 混合汚泥貯留槽
5 曝気槽
6 最終沈殿池
7 余剰汚泥受槽
8 遠心濃縮機
9 ベルトプレス脱水機
10 ケーキコンベア
11 貯留槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥脱水ケーキを貯留槽に投入する時かその前に、汚泥脱水ケーキに消臭剤を連続的又は回分的に添加して、当該汚泥脱水ケーキから発生する臭気を抑制する臭気発生抑制方法であって、事前に求めた消臭剤添加率と消臭効果維持期間との検量関係により、当該汚泥脱水ケーキを少なくとも汚泥脱水ケーキ貯留期間が終了するまでの間消臭するのに必要な消臭剤添加率を求め、その求められた結果に基づいて消臭剤を添加する汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法。
【請求項2】
前記貯留槽に、消臭剤が添加された汚泥脱水ケーキを複数日にわたって積層する請求項1に記載の汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法。
【請求項3】
前記消臭剤が、硝酸塩及び亜硝酸塩から選ばれるいずれか1種以上の硝酸塩系消臭剤である請求項1又は2に記載の汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法。
【請求項4】
前記硝酸塩系消臭剤に、さらに、静菌剤系消臭剤、酸化剤系消臭剤及び硫酸塩系消臭剤から選ばれるいずれか1種以上を含有する請求項3に記載の汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法。
【請求項5】
前記汚泥脱水ケーキが、有機性汚泥脱水ケーキである請求項1〜4のいずれか1項に記載の汚泥脱水ケーキの臭気発生抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−110666(P2010−110666A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283287(P2008−283287)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】