説明

汚泥脱水剤及び汚泥脱水方法

【課題】難脱水性の有機性汚泥をも効率的に脱水処理して低含水率の脱水ケーキを得ることを目的とする。
【解決手段】特定の構造式で表されるアミジン単位、或いは下式で表されるビニルアミン単位を繰り返し単位として有するカチオン性ポリマーAと、特定の構造式で表されるベンジル系カチオン単位を繰り返し単位として有するカチオン性ポリマーBとを含む汚泥脱水剤、及び、この汚泥脱水剤を汚泥に添加して脱水する汚泥脱水方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難脱水性の有機性汚泥をも効率的に脱水処理することができる汚泥脱水剤と、この汚泥脱水剤を用いた汚泥脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場、化学工場、下水処理場等で発生する余剰汚泥を主体とした有機性汚泥は、一般に、汚泥脱水剤を添加して脱水機で脱水処理されている。
従来、被処理汚泥に添加する汚泥脱水剤としては、ビニル系カチオンポリマー、特にジメチルアミノエチルメタアクリレート(DAM)或いはその塩化メチル4級化物(DAM・MeCl)や、ジメチルアミノエチルアクリレート(DAA)或いはその塩化メチル4級化物(DAA・MeCl)といったカチオン系高分子脱水剤が主として用いられているが、得られる脱水ケーキの更なる低含水率化を目指して、カチオン系高分子脱水剤の単独使用ではなく、無機凝集剤を添加した後両性高分子脱水剤を添加する方法も提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかし、無機凝集剤を併用する方法では、無機凝集剤による汚泥量の増加や無機凝集剤と高分子脱水剤との2種類の薬剤の添加率バランスの調整が煩雑であるなどの欠点がある。このため、高分子脱水剤のみで有機性汚泥を脱水処理することが望まれる。
【0004】
高分子脱水剤を用いる汚泥の脱水方法としては、ポリビニルアミン又はポリアミジンとビニル系カチオンポリマーとの併用添加(特許文献2,3)、ポリアミジンと架橋性ビニル系カチオンポリマーとの併用添加(特許文献4)などが提案されている。なお、特許文献2〜4には、ビニル系カチオンポリマーとして、ベンジル系のものも記載されているが、多数のビニル系カチオンポリマーの中の一種として例示があるのみで、実際に使用された例はない。従来、ビニル系カチオンポリマーとしては、通常、上述のDAA、DAM、DAA・MeClやDAM・MeClなどが用いられている。
【0005】
なお、特許文献5には、ベンジル系カチオン性単量体と非ベンジル系カチオン性単量体との共重合体よりなる汚泥脱水剤が提案され、この特許文献5には、ベンジル系カチオンポリマー(メタクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリドのホモポリマー又はコポリマー)は、無機塩を多く含む汚泥には良好な効果を示すが、それ以外の汚泥に対しては十分な効果が得られないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−158200号公報
【特許文献2】特開平4−293600号公報
【特許文献3】特開平6−218400号公報
【特許文献4】特開2004−25095号公報
【特許文献5】特公平7−71678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機性汚泥は難脱水性のものが多く、このような有機性汚泥に汚泥脱水剤を添加して脱水処理して得られる脱水ケーキの含水率は、通常80%以上と高く、これを焼却処理する際の焼却燃料の増加や最終処分量の増大など、処分費用、環境負荷の点などから、得られる脱水ケーキの含水率の更なる低減が望まれている。また、余剰汚泥は脱水剤を添加して得られる凝集フロックの強度が十分でなく、特に多重円盤脱水機やスクリュープレス脱水機、回転加圧式脱水機などの金属スリットや金属メッシュの濾過部と圧密脱水部を有する脱水機を用いた場合、濾過部からのSSの漏れによる脱水効率の低下(ケーキ収量の低下)も問題となっている。
【0008】
このような問題に対して、従来の汚泥脱水剤はいずれも十分に満足し得るものとは言えず、例えば、特許文献2,3に記載されるポリビニルアミン又はポリビニルアミンとビニル系カチオンポリマーとの組み合わせでは、得られる脱水ケーキの含水率を十分に下げることはできない。また、特許文献4に記載される架橋性ビニル系カチオンポリマーは、水への溶解性が悪いために添加時の取り扱い性が悪い;吸湿により劣化し易く、経時安定性が悪い;といった問題がある。
本発明は、上記従来の問題点を解決し、難脱水性の有機性汚泥をも効率的に脱水処理して低含水率の脱水ケーキを得ることができる汚泥脱水剤及び汚泥脱水方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリビニルアミジン又はポリビニルアミンとベンジル系ビニルカチオンポリマーとを組み合わせて用いることにより、難脱水性の有機性汚泥をも効率的に脱水処理して低含水率の脱水ケーキを得ることができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 下記一般式(1)又は(2)で表されるアミジン単位、或いは下記一般式(3)で表されるビニルアミン単位を繰り返し単位として有するカチオン性ポリマーAと、下記一般式(4)で表されるベンジル系カチオン単位を繰り返し単位として有するカチオン性ポリマーBとを含むことを特徴とする汚泥脱水剤。
【0012】
【化1】

【0013】
(上記式中、R11,R12は各々独立に水素原子又はメチル基を表し、Xは塩形成性アニオンを表す。)
【0014】
【化2】

【0015】
(上記式中、Yは塩形成性アニオンを表す。)
【0016】
【化3】

【0017】
(上記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、R3a,R3bは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rはベンジル基を表す。Aは−O−又は−NH−、Zは塩形成性アニオンを表す。)
【0018】
[2] 前記カチオン性ポリマーAと前記カチオン性ポリマーBとを重量比で30〜70:70〜30の範囲で含むことを特徴とする[1]に記載の汚泥脱水剤。
【0019】
[3] 前記カチオン性ポリマーBが、前記一般式(4)で表されるベンジル系カチオン単位のみからなるホモポリマーであるか、或いは、該ベンジル系カチオン単位と他の繰り返し単位とを有するコポリマーであって、該ベンジル系カチオン単位を全繰り返し単位中に70モル%以上含有するコポリマーであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の汚泥脱水剤。
【0020】
[4] 前記カチオン性ポリマーAが、前記一般式(1)又は(2)で表されるアミジン単位と他の繰り返し単位とを有するコポリマーであって、該アミジン単位を全繰り返し単位中に20〜90モル%含有するコポリマーであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の汚泥脱水剤。
【0021】
[5] 前記カチオン性ポリマーAが、前記一般式(3)で表されるビニルアミン単位のみからなるホモポリマーであるか、或いは、該ビニルアミン単位と他の繰り返し単位とを有するコポリマーであって、該ビニルアミン単位を全繰り返し単位中に35モル%以上含有するコポリマーであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の汚泥脱水剤。
【0022】
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載の汚泥脱水剤を汚泥に添加して脱水することを特徴とする汚泥脱水方法。
【0023】
[7] 前記汚泥脱水剤を、汚泥のSSに対して0.4〜2.0重量%の割合で添加することを特徴とする[6]に記載の汚泥脱水方法。
【0024】
[8] 前記汚泥が、VSS/SS比0.68以上の有機性汚泥であることを特徴とする[6]又は[7]に記載の汚泥脱水方法。
【0025】
[9] 多重円盤脱水機、スクリュープレス脱水機又は回転加圧脱水機で脱水することを特徴とする[6]ないし[8]のいずれかに記載の汚泥脱水方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の汚泥脱水剤を汚泥に添加して凝集させることにより、濾過、脱水性に優れかつ強度の高い凝集フロックを得ることができる。
【0027】
この凝集フロックは十分な強度を有することから取り扱い性に優れ、例えば金属スリットや金属メッシュよりなる濾過部と圧密脱水部を有する脱水機、例えば、スクリュープレス脱水機やロータリープレスフィルター脱水機を用いた場合であっても、濾過部からのSSの漏れが防止され、ケーキ収量(SS回収効率)を高めることができる。また、濾過、脱水性に優れることから、これを脱水して低含水率の脱水ケーキを得ることができる。
【0028】
本発明により得られた脱水ケーキは、従来法で得られる脱水ケーキと比べて低含水率であることから、小容量であり、これを焼却処分する場合の焼却燃料を低減することができ、また、小容量であるため、運搬費、汚泥処分費用の削減、環境負荷の低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
なお、本明細書において、「ポリマー」とは「ホモポリマー(単独重合体)」と「コポリマー(共重合体)」を含む重合体ないしは重合物の総称である。ただし、ホモポリマーは繰り返し単位が1種類であるものの他、同種の繰り返し単位、即ち、同一の一般式で表される2種以上のアミジン単位やビニルアミン単位、ベンジル系カチオン単位を含むものを包含するものとする。
また、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び/又は「メタアクリル(メタクリル)」をさし、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロ」についても同様である。
【0031】
[作用機構]
特定のカチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBとを併用する本発明の脱水効率の向上効果の作用機構の詳細は明らかではないが、カチオン性ポリマーBに含まれるベンジル4級化塩のベンジル基に由来する高い疎水性のために、本発明の汚泥脱水剤を添加して得られる凝集フロックの水親和性が低下し、含水率が下がり易い脱水性に優れた凝集フロックが形成されると共に、カチオン性ポリマーAの凝集力と相俟って、従来の非ベンジル系のビニル系カチオンポリマーとの組み合わせでは得られない高い脱水効率が得られることによるものと推定される。
【0032】
[カチオン性ポリマーA]
本発明で用いるカチオン性ポリマーAは、下記一般式(1)で表されるアミジン単位(以下「アミジン単位(1)」と称す場合がある。)又は下記一般式(2)で表されるアミジン単位(以下「アミジン単位(2)」と称す場合がある。)、或いは、下記一般式(3)で表されるビニルアミン単位(以下、「ビニルアミン単位(3)」と称す場合がある。)を繰り返し単位として有するものである。
【0033】
【化4】

【0034】
(上記式中、R11,R12は各々独立に水素原子又はメチル基を表し、Xは塩形成性アニオンを表す。)
【0035】
【化5】

【0036】
(上記式中、Yは塩形成性アニオンを表す。)
【0037】
上記一般式(1)〜(3)において、X,Yとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、1/2SO2−、NO、CHCOO、CHSO、CSOなどが挙げられる。
【0038】
本発明で用いるアミジン単位(1)又はアミジン単位(2)を繰り返し単位として含むカチオン性ポリマーA(アミジン単位(1)とアミジン単位(2)の両方を含むものであってもよい。)は、下記一般式(5)で表されるN−ビニルカルボン酸アミド又はN−イソプロペニルカルボン酸アミドと、下記一般式(6)で表される(メタ)アクリロニトリルと、必要に応じて用いられるこれらと共重合可能なモノマー(以下「共重合性モノマー」と称す場合がある。)を共重合し、得られたコポリマーを加水分解及びアミジン化することによって得ることができる。
【0039】
【化6】

【0040】
(ただし、式中、R11は水素原子又はメチル基、R13は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0041】
CH=CR12−CN ・・・(6)
【0042】
(ただし、式中、R12は水素原子又はメチル基である。)
【0043】
上記のN−ビニルカルボン酸アミドとしては、例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルプロピオンアミド、N−ビニルブチルアミド、N−ビニルバレルアミドなどを挙げることができる。N−イソプロペニルカルボン酸アミドとしては、例えば、N−イソプロペニルホルムアミド、N−イソプロペニルアセトアミド、N−イソプロペニルプロピオンアミド、N−イソプロペニルブチルアミド、N−イソプロペニルバレルアミドなどを挙げることができる。
【0044】
必要に応じてN−ビニルカルボン酸アミド又はN−イソプロペニルカルボン酸アミドの代わりに、N−ビニルこはく酸イミド、N−ビニルグルタルイミド、N−イソプロペニルこはく酸イミド、N−イソプロペニルグルタルイミドなどのN−ビニルカルボン酸イミド又はN−イソプロペニルカルボン酸イミドを使用することができる。
【0045】
共重合性モノマーとしては、適当なモノマー反応性比を有するものであれば制限なく使用することができ、例えば、(メタ)アクリルアミド、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドンなどのノニオン性モノマー、(メタ)アクリル酸又はそのアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホン基を有するモノマー又はそのアルカリ金属塩などのアニオン性モノマー、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの3級塩若しくは4級アンモニウム塩などのカチオン性モノマーなどの1種又は2種以上を挙げることができる。
【0046】
重合方法には特に制限はなく、使用するモノマー及び生成するポリマーの溶解性などに応じて、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などを選ぶことができる。例えば、使用するモノマーも生成するポリマーも水溶性であれば、水溶液重合が可能であり、モノマーを水に溶解し、不活性ガスをバブリングし、所定温度まで昇温した後、水溶性重合開始剤を添加することによってポリマーを得ることができる。水溶液重合により得られたポリマーは、そのまま又は単離した後、加水分解及びアミジン化反応に供することができる。また、使用するモノマーの水への溶解度が小さいときは、懸濁重合、乳化重合などを用いることができる。
【0047】
乳化重合においては、水中にモノマー、乳化剤、水溶性の重合開始剤などを加え、不活性ガス雰囲気中で撹拌下に加熱することによりポリマーを得ることができる。
【0048】
重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩など、一般的な開始剤を用いることができるが、アゾ系化合物が特に好ましい。
【0049】
本発明において、上記のポリマーの水溶液を酸又はアルカリの存在下に加熱することにより、ポリマー中の酸アミド単位を加水分解してアミン単位とし、さらにアミン単位と隣接するニトリル単位の反応によりアミジン単位(1)及び/又は(2)を生成するアミジン化反応を行う。
アミジン単位(1),(2)は反応するモノマーの異性体によって決定される。なお、この異性体は通常、共存している。
【0050】
加水分解及びアミジン化反応は2段階で行うことができるが、通常は1段階で行うことが好ましい。ポリマーの構造と目的の加水分解率及びアミジン化率に応じて、反応条件を選択することが可能である。通常は上記のポリマーを5〜80重量%の水溶液又は水分散液とし、酸アミド単位に対し1〜5当量倍の酸、又は酸アミド単位に対し1〜5当量倍のアルカリを加え、40〜100℃に加熱することにより加水分解及びアミジン化反応を行うことができる。酸による加水分解及びアミジン化反応を行った場合には、得られるカチオン性ポリマーAのアミノ基はアンモニウム塩を形成する。
【0051】
なお、前記の共重合性モノマーのうち、(メタ)アクリルアミド類及び(メタ)アクリレート類に由来するポリマー中の構造単位は、加水分解によって一部は(メタ)アクリル酸単位に変化する。
【0052】
アミジン単位(1),(2)を有するカチオン性ポリマーAを構成する全繰り返し単位に占めるアミジン単位(1),(2)の割合は、20〜90モル%であることが好ましく、50〜90モル%であることがさらに好ましい。カチオン性ポリマーA中のアミジン単位(1),(2)が少な過ぎるとアミジン単位(1),(2)を含むことによる含水率減少効果が低下する。全繰り返し単位中にアミジン単位(1),(2)を90モル%よりも多く含むポリマーは製造が容易ではない。
【0053】
アミジン単位(1),(2)を有するカチオン性ポリマーAは、高分子量であることが好ましく、分子量の指標となる1N塩化ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度が1dl/g以上であることが好ましく、3dl/g以上であることがさらに好ましい。なお、この固有粘度の上限は通常10dl/g以下である。
【0054】
本発明において、ビニルアミン単位(3)を有するカチオン性ポリマーAは、前記一般式(5)で表されるN−ビニルカルボン酸アミド又はN−イソプロペニルカルボン酸アミド、及び、必要に応じて他の共重合性モノマーを重合又は共重合し、得られたポリマーを加水分解することによって得ることができる。
【0055】
N−ビニルカルボン酸アミド又はN−イソプロペニルカルボン酸アミドとしては、アミジン単位(1),(2)を有するカチオン性ポリマーAの製造に用いるものとして例示したものを使用することができ、例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルプロピオンアミド、N−ビニルブチルアミド、N−ビニルバレルアミド、N−イソプロペニルホルムアミド、N−イソプロペニルアセトアミド、N−イソプロペニルプロピオンアミド、N−イソプロペニルブチルアミド、N−イソプロペニルバレルアミドなどを使用することができる。また、必要に応じてN−ビニルカルボン酸アミド又はN−イソプロペニルカルボン酸アミドの代わりに、N−ビニルカルボン酸イミド又はN−イソプロペニルカルボン酸イミドを使用することができる。
【0056】
共重合性モノマーとしては、適当なモノマー反応性比を有するものであれば制限なく使用することができ、例えば、(メタ)アクリルアミド、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドンなどのノニオン性モノマー、(メタ)アクリル酸又はそのアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホン基を有するモノマー又はそのアルカリ金属塩などのアニオン性モノマー、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの3級塩若しくは4級アンモニウム塩などのカチオン性モノマーなどの1種又は2種以上を挙げることができる。
【0057】
本発明において、上記のモノマーを重合する方法には特に制限はなく、使用するモノマー及び生成するポリマーの溶解性などに応じて、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などを選ぶことができる。得られたポリマーの水溶液を酸又はアルカリの存在下に加熱することにより、ポリマー中の酸アミド単位を加水分解してビニルアミン単位(3)を生成させる。
【0058】
本発明においては、ポリマーの構造と目的の加水分解率に応じて、反応条件を選択することが可能である。通常は上記のポリマーを5〜80重量%の水溶液又は水分散液とし、酸アミド単位に対し1〜5当量倍の酸、又は酸アミド単位に対し1〜5当量倍のアルカリを加え、40〜100℃に加熱することにより加水分解を行うことができる。酸による加水分解を行った場合には、得られるカチオン性ポリマーAのアミノ基はアンモニウム塩を形成し、アルカリによる加水分解を行った場合には、得られるカチオン性ポリマーAのアミノ基は遊離の形態となる。
【0059】
なお、前記の共重合性モノマーのうち、(メタ)アクリルアミド類及び(メタ)アクリレート類に由来するポリマー中の構造単位は、加水分解によって一部が(メタ)アクリル酸単位に変化する。
【0060】
ビニルアミン単位(3)を有するカチオン性ポリマーAを構成する全繰り返し単位に占めるビニルアミン単位(3)の割合は、35〜100モル%であることが好ましく、60〜80モル%であることがさらに好ましい。カチオン性ポリマーA中のビニルアミン単位(3)が少な過ぎると汚泥脱水剤としての凝集性能が低下する。
【0061】
ビニルアミン単位(3)を有するカチオン性ポリマーAは、高分子量であることが好ましく、分子量の指標となる1N塩化ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度が4dl/g以上であることが好ましく、5dl/g以上であることがさらに好ましい。なお、この固有粘度の上限は通常10dl/g以下である。
【0062】
また、カチオン性ポリマーAのコロイド当量は、5.0〜6.4meq/g、特に5.5〜6.4meq/gであることが好ましい。カチオン性ポリマーAのコロイド当量がこの範囲であることにより高い凝集性が得られ、好ましい。なお、カチオン性ポリマーAのコロイド当量は「コロイド滴定法」(千手諒一著、南江堂(株)(S44年11月発行))により測定される。
【0063】
本発明において、カチオン性ポリマーAは、上記アミジン化反応又は加水分解を終了した水溶液のまま又は濃縮若しくは希釈した水溶液として、汚泥脱水剤に使用することができる。或いは、カチオン性ポリマーAの水溶液をアセトンなどの有機溶媒と混合し、カチオン性ポリマーAを沈殿させた後、分離、乾燥して粉末化し、若しくはエマルションなどとして使用することができる。
【0064】
[カチオン性ポリマーB]
本発明で用いるカチオン性ポリマーBは、下記一般式(4)で表されるベンジル系カチオン単位(4)(以下「ベンジル系カチオン単位(4)」と称す場合がある。)を繰り返し単位として含むものである。
【0065】
【化7】

【0066】
(上記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、R3a,R3bは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rはベンジル基を表す。Aは−O−又は−NH−、Zは塩形成性アニオンを表す。)
【0067】
上記一般式(4)において、Rは水素原子又はメチル基であり、Rはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などの炭素数1〜4のアルキレン基であり、プロピレン基及びブチレン基は直鎖状であってもよく、側鎖を有するものであってもよい。R3a,R3bは各々独立にメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基であり、Rはベンジル基である。また、Aは−O−又は−NH−であり、Zは塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、1/2SO2−、NO、CHCOO、CHSO、CSOなどの塩形成性アニオンである。
【0068】
一般式(4)で表される繰り返し単位を有するカチオン性ポリマーBは、下記一般式(4A)で表されるベンジル系カチオン性モノマーを用いて製造される。
【0069】
【化8】

【0070】
(上記式中、R、R、R3a、R3b、R、A及びZは一般式(4)におけると同義であり、その具体例も同様である。)
【0071】
一般式(4A)で表されるベンジル系カチオン性モノマーとしては、例えば、ジメチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジエチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジ−n−プロピルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジイソプロピルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジ−n−ブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジ−sec−ブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジイソブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリレート又はメタクリレート、ジメチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリルアミド又はメタクリルアミド、ジエチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリルアミド又はメタクリルアミド、ジ−n−プロピルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリルアミド又はメタクリルアミド、ジイソプロピルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリルアミド又はメタクリルアミド、ジ−n−ブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリルアミド又はメタクリルアミド、ジ−sec−ブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリルアミド又はメタクリルアミド、ジイソブチルアミノ(メチル、エチル、プロピル又はブチル)アクリルアミド又はメタクリルアミドなどの、ハロゲン化ベンジルによる四級化物などを挙げることができる。ハロゲン化ベンジルとしては、塩化ベンジル、臭化ベンジルなどを挙げることができる。
【0072】
カチオン性ポリマーBの製造にあたり、これらのベンジル系カチオン性モノマーは、1種を単独で用いることができ、また、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0073】
本発明で用いるカチオン性ポリマーBは、上記のベンジル系カチオン性モノマーのホモポリマーでもよいが、このベンジル系カチオン性モノマーと共重合可能な他のモノマー(以下、「共重合性モノマー」と称す場合がある。)の1種又は2種以上とのコポリマーであってもよい。
【0074】
カチオン性ポリマーBがベンジル系カチオン性モノマーと共重合性モノマーとのコポリマーである場合、使用される共重合性モノマーには特に制限はない。
【0075】
この共重合性モノマーとしてのノニオン性ビニルモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミドなどのアミド類、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類、酢酸ビニルなどのビニルエステル類、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系化合物などを挙げることができる。これらのノニオン性ビニルモノマーは、1種を単独で用いることができ、また、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0076】
本発明において、カチオン性ポリマーBが上記のコポリマーである場合、コポリマー中のベンジル系カチオン単位(4)の割合が過度に少ないと本発明の効果を十分に得ることができない。従って、カチオン性ポリマーBは、全繰り返し単位中のベンジル系カチオン単位(4)の割合が70〜100モル%で、ノニオン性ビニルモノマー由来の繰り返し単位が0〜30モル%であることが好ましく、特に、全繰り返し単位中のベンジル系カチオン単位(4)の割合は80〜100モル%、とりわけ90〜100モル%で、カチオン性ポリマーBはベンジル系カチオン性モノマー(4)のみからなるホモポリマーであることが好ましい。なお、このホモポリマーとは、2種以上のベンジル系カチオン単位(4)が含まれるものを包含するものとする。
【0077】
また、本発明で用いるカチオン性ポリマーBは、0.1Nの硝酸ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度が4dl/g以上、特に6dl/g以上であることが好ましい。固有粘度が4dl/g未満であると、凝集力が弱く、汚泥の処理量が低下するおそれがある。なお、この固有粘度の上限は通常12dl/g以下である。
【0078】
また、本発明で用いるカチオン性ポリマーBのコロイド当量は2.8〜3.5meq/gであることが好ましい。小さ過ぎるとベンジル基の疎水性効果が得難くなるため好ましくない。カチオン性ポリマーBのコロイド当量はカチオン性ポリマーAと同様の方法により測定される。
【0079】
本発明に用いるカチオン性ポリマーBの製造方法には特に制限はなく、常法である溶液重合、懸濁重合、エマルション重合など、いずれの方法も用いることができる。水溶液重合においては、モノマーを水に溶解し、雰囲気を不活性ガスで置換し、重合温度まで昇温した後、重合開始剤として、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩などの水溶性重合開始剤を加えて重合することができる。
【0080】
[カチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBの割合]
本発明の汚泥脱水剤中のカチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBとの割合は、過度に一方が多く、過度に他方が少ないと、これらの2種類のポリマーを併用することによる本発明の効果を十分に得ることができない。
【0081】
従って、本発明の汚泥脱水剤中のカチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBの割合は、重量比で30〜70:70〜30の範囲であることが好ましく、特に40〜60:60〜40の範囲であることが好ましい。
【0082】
[汚泥脱水剤の形態]
本発明の汚泥脱水剤は、上述のカチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBとを含むものであればよく、カチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBとが別々に提供されるものであっても、これらが予め混合されて一剤化されたものであってもよい。
カチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBとが予め所定の割合で混合されて一剤化されたものであれば、汚泥への脱水剤の添加制御が簡略化され、好ましい。
【0083】
なお、本発明の汚泥脱水剤は、カチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーB以外の他の薬剤例えばスルファミン酸等の粉末酸や硫酸ナトリウム等の塩類等の1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0084】
[脱水方法]
本発明の汚泥脱水剤を汚泥に添加して脱水するには、本発明の汚泥脱水剤を汚泥に添加して20秒〜5分程度混合した後、脱水機に投入して脱水すれば良い。
この汚泥脱水剤と汚泥との混合は、移送配管内で行われるものであってもよく、遠心脱水機のように混合機構を有する脱水機であれば、脱水前の混合工程を省略することができる。
【0085】
汚泥への汚泥脱水剤の添加量としては、十分な凝集効果で高い脱水性が得られる程度であれば良く、汚泥性状や用いるポリマーの種類などによって適宜決定されるが、通常、SS0.5〜2重量%程度の汚泥に対してカチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBとの合計の添加量が20〜400mg/L、特に50〜300mg/L程度、すなわち、汚泥のSSに対して0.4〜2.0重量%、特に1.0〜1.5重量%程度となるような添加量とすることが好ましい。
【0086】
なお、カチオン性ポリマーAとカチオン性ポリマーBとは汚泥に対して同時に添加してもよく、予め混合して添加してもよく、別々に添加してもよい。
【0087】
用いる脱水機としては特に制限はなく、多重円盤脱水機、スクリュープレス脱水機、回転加圧脱水機、フィルタープレス脱水機、ベルトプレス脱水機、遠心脱水機等、様々な脱水機を適用することができるが、本発明の汚泥脱水剤を用いる汚泥脱水方法では、特にフロック強度が強く、濾水性に優れることから、多重円盤脱水機、スクリュープレス脱水機、回転加圧脱水機が好適に用いられる。
【0088】
本発明によれば、このような脱水処理により、含水率80重量%以下の低含水率の脱水ケーキを得ることができる。得られた脱水ケーキは焼却処分又は埋め立て処分などに供される。
【0089】
なお、本発明で脱水処理する汚泥には特に制限はなく、例えば下水、し尿、一般産業排水処理などで発生する有機性汚泥や食品工場、水産加工工場、食肉加工工場、畜産業等から排出される余剰汚泥、或いはこれらの汚泥を含む混合汚泥が挙げられる。
特に、本発明は、その優れた脱水効果から、食品工場、水産加工工場、食肉加工工場、畜産業等から排出される余剰汚泥のように、VSS/SS比が0.68以上、100メッシュふるいで測定される繊維状物がSS重量の10重量%以下であるような難脱水性の有機性汚泥の脱水処理に有効である。
【実施例】
【0090】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下において、「%」は「重量%」を意味する。
【0091】
以下の実施例及び比較例で用いたポリマーは次の通りである。
【0092】
【表1】

【0093】
[製造例1:カチオン性ポリマーA−1の製造]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管をつけた500mlフラスコに、N−ビニルホルムアミド35.5g(0.5モル)、アクリロニトリル26.5g(0.5モル)及び水310gを入れ、雰囲気を窒素で置換した。撹拌しつつ60℃に昇温し、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩の10%水溶液1.0gを添加し、60℃を保ったまま5時間重合を続けた。水中にポリマーが析出した懸濁液に濃塩酸98.1g(塩化水素として1.0モル)を加え、加熱して還流しつつ4時間反応し、ポリマーをアミジン化した。得られたポリマー溶液をアセトン中に添加し、析出したポリマーを真空乾燥した。
このカチオン性ポリマーの、1N塩化ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度は、4.0dl/gであった。また、このカチオン性ポリマーのコロイド当量は、pH=4において7.5meq/gであった。このカチオン性ポリマーを、ポリマーA−1とする。
【0094】
[製造例2:カチオン性ポリマーA−2の製造]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管をつけた500mlフラスコに、N−ビニルホルムアミド71.0g(1.0モル)及び水310gを入れ、雰囲気を窒素で置換した。撹拌しつつ60℃に昇温し、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩の10%水溶液1.0gを添加し、60℃を保ったまま5時間重合を続けた。ポリマー溶液に濃塩酸147g(塩化水素として1.5モル)を加え、加熱して還流しつつ4時間反応し、ポリマーを加水分解した。得られたポリマー溶液をアセトン中に添加し、析出したポリマーを真空乾燥した。このカチオン性ポリマーの、1N塩化ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度は、5.4dl/gであった。また、このカチオン性ポリマーのコロイド当量は、pH=4において6.2meq/gであった。このカチオン性ポリマーを、ポリマーA−2とする。
【0095】
[製造例3:カチオン性ポリマーX−1の製造]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管をつけた500mLフラスコに、ジメチルアミノエチルメタアクリレートの塩化メチル4級化物の2.0モル/L溶液を300mL入れ、雰囲気を窒素ガスで置換した。ここへ2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を5.0×10−4モル/L加え、40℃に昇温し10時間重合を行なった。得られたポリマーゲルをアセトン中で裁断し、濾過した後、真空乾燥して粉末ポリマーを得た。
このカチオン性ポリマーの、0.1Nの硝酸ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度は、6.4dl/gであった。また、このカチオン性ポリマーのコロイド当量は、pH=4において4.8meq/gであった。このカチオン性ポリマーを、ポリマーX−1とする。
【0096】
[製造例4:カチオン性ポリマーX−2の製造]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管をつけた500mLフラスコに、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級化物とアクリルアミドの割合が80:20モル%で全モノマー濃度が2.0モル/Lになるように調整したモノマー溶液を300mL入れ、雰囲気を窒素ガスで置換した。ここへ過硫酸カリウムを5.0×10−3モル/L加え、40℃に昇温し10時間重合を行なった。得られたポリマーゲルをアセトン中で裁断し、濾過した後、真空乾燥して粉末ポリマーを得た。
このカチオン性ポリマーの、0.1Nの硝酸ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度は、6.8dl/gであった。また、このカチオン性ポリマーのコロイド当量は、pH=4において4.8meq/gであった。このカチオン性ポリマーを、ポリマーX−2とする。
【0097】
[製造例5:カチオン性ポリマーB−1の製造]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管をつけた500mLフラスコに、ジメチルアミノエチルメタアクリレートのベンジルクロライド4級化物の2.0モル/L溶液を300mL入れ、雰囲気を窒素ガスで置換した。ここへ2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を5.0×10−4モル/L加え、40℃に昇温し10時間重合を行なった。得られたポリマーゲルをアセトン中で裁断し、濾過した後、真空乾燥して粉末ポリマーを得た。
このカチオン性ポリマーの、0.1Nの硝酸ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度は、6.6dl/gであった。また、このカチオン性ポリマーのコロイド当量は、pH=4において3.6meq/gであった。このカチオン性ポリマーを、ポリマーB−1とする。
【0098】
[製造例6:カチオン性ポリマーB−2の製造]
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管をつけた500mLフラスコに、ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物とアクリルアミドの割合が80:20モル%で全モノマー濃度が2.0モル/Lになるように調整したモノマー溶液を300mL入れ、雰囲気を窒素ガスで置換した。ここへ過硫酸カリウムを5.0×10−4モル/L加え、40℃に昇温し10時間重合を行なった。得られたポリマーゲルをアセトン中で裁断し、濾過した後、真空乾燥して粉末ポリマーを得た。
このカチオン性ポリマーの、0.1Nの硝酸ナトリウム水溶液を溶媒として30℃で測定した固有粘度は、6.2dl/gであった。また、このカチオン性ポリマーのコロイド当量は、pH=4において4.0meq/gであった。このカチオン性ポリマーを、ポリマーB−2とする。
【0099】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
主として大豆を原料とした食品加工工場の余剰汚泥(SS:1.15%,VSS/SS:0.726,pH:6.3,導電率:600mS/m)を用いて凝集脱水試験を実施した。
汚泥200mLを300mL容のビーカーに採取し、脱水剤を添加し、180rpmで30秒反応させて凝集させた。脱水剤として用いたポリマーの種類及び添加量は表2に示す通りである。次いで、ブフナーロートに直径50mmの筒をセットし、ここに凝集させた汚泥を流し入れ、20秒後の濾過量を測定した。
また、以下の方法で凝集フロック強度の評価と脱水ケーキの含水率及びケーキ収量の測定を行い、これらの結果を表2に示した。
【0100】
<フロック強度>
濾過後のブフナーロート上の凝集物を手に取り、徐々に絞ってその時の強度をフロック強度として以下の基準で判定した。
強度5:1回絞り込んで容易に水が抜け固形物となり、さらに力を加えても指の間から
凝集物が抜けない。
強度4:上記強度5と下記強度3の中間の強度。
強度3:緩やかに4〜5回絞ることで固形物となるが、指の間から凝集物が漏れる。
強度2:上記強度3と下記強度1の中間の強度。
強度1:緩やかに絞っても容易にフロックが指の間から抜け、固形状まで絞ることが出
来ない。
強度5から強度1の範囲で多重円盤脱水機、スクリュープレス脱水機、回転加圧脱水機での脱水工程後半の圧密圧搾工程でのフロック耐性を相対的に評価することができ、この強度は4又は5であることが好ましい。
【0101】
<含水率・ケーキ収量>
濾過後のブフナーロート上の凝集物を、直径30mm、高さ17.5mmのカラムに詰め、0.1MPaで60秒圧搾して脱水ケーキを得た。この脱水ケーキの含水率を測定すると共に、単位ケーキ面積あたりの固形物量(mg/cm)を測定した。
ケーキ収量はケーキの圧密性の良さを示し、数値が大きいほど脱水剤の効果が優れる。
【0102】
【表2】

【0103】
表2より明らかなように、実施例1〜3では、比較例1〜3に比べて、フロック強度が高く、ケーキ含水率が約1%低い。また、ケーキ収量は20%多く、すべての項目で良好な効果を示している。
【0104】
[実施例4,5、比較例4〜7]
被処理汚泥として、乳製品工場の余剰汚泥(SS:0.95%,VSS/SS:0.916,pH:6.8,導電率:190mS/m)を用い、脱水剤として表3に示すポリマーを表3に示す割合及び添加量で用いたこと以外は実施例1〜3と同様にして凝集脱水試験を行い、結果を表3に示した。
【0105】
【表3】

【0106】
表3より明らかなように、実施例4,5では、比較例4,5に対して濾過性に優れ、フロック強度も高い。また、ケーキ含水率は0.8〜1.2%低く、ケーキ収量も20%程度多い。
比較例6,7に示すように、DAM・BzCLホモポリマーとDAM・MeCLの重合物との単独使用で比較すると、DAM・MeCLホモポリマーの方が優れるが、実施例4と比較例7、比較例4と比較例6の対比から明らかなように、ポリアミジンと組み合せることで、DAM・BzCLは特異的に優れた効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で表されるアミジン単位、或いは下記一般式(3)で表されるビニルアミン単位を繰り返し単位として有するカチオン性ポリマーAと、下記一般式(4)で表されるベンジル系カチオン単位を繰り返し単位として有するカチオン性ポリマーBとを含むことを特徴とする汚泥脱水剤。
【化1】

(上記式中、R11,R12は各々独立に水素原子又はメチル基を表し、Xは塩形成性アニオンを表す。)
【化2】

(上記式中、Yは塩形成性アニオンを表す。)
【化3】

(上記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、R3a,R3bは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rはベンジル基を表す。Aは−O−又は−NH−、Zは塩形成性アニオンを表す。)
【請求項2】
前記カチオン性ポリマーAと前記カチオン性ポリマーBとを重量比で30〜70:70〜30の範囲で含むことを特徴とする請求項1に記載の汚泥脱水剤。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマーBが、前記一般式(4)で表されるベンジル系カチオン単位のみからなるホモポリマーであるか、或いは、該ベンジル系カチオン単位と他の繰り返し単位とを有するコポリマーであって、該ベンジル系カチオン単位を全繰り返し単位中に70モル%以上含有するコポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の汚泥脱水剤。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーAが、前記一般式(1)又は(2)で表されるアミジン単位と他の繰り返し単位とを有するコポリマーであって、該アミジン単位を全繰り返し単位中に20〜90モル%含有するコポリマーであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の汚泥脱水剤。
【請求項5】
前記カチオン性ポリマーAが、前記一般式(3)で表されるビニルアミン単位のみからなるホモポリマーであるか、或いは、該ビニルアミン単位と他の繰り返し単位とを有するコポリマーであって、該ビニルアミン単位を全繰り返し単位中に35モル%以上含有するコポリマーであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の汚泥脱水剤。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の汚泥脱水剤を汚泥に添加して脱水することを特徴とする汚泥脱水方法。
【請求項7】
前記汚泥脱水剤を、汚泥のSSに対して0.4〜2.0重量%の割合で添加することを特徴とする請求項6に記載の汚泥脱水方法。
【請求項8】
前記汚泥が、VSS/SS比0.68以上の有機性汚泥であることを特徴とする請求項6又は7に記載の汚泥脱水方法。
【請求項9】
多重円盤脱水機、スクリュープレス脱水機又は回転加圧脱水機で脱水することを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載の汚泥脱水方法。

【公開番号】特開2012−96199(P2012−96199A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248154(P2010−248154)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】