説明

汚泥脱水機

【課題】脱水対象汚泥に対してろ過圧力を有効に作用させて脱水ケーキの含水率の低下を図ることができる汚泥脱水機を提供することを目的とする。
【解決手段】複数のスクリュー軸53、54を上下の関係位置に配置し、各スクリュー軸53、54にスクリュー羽根55、56を形成し、スクリュー羽根の周囲にスクリーン52を配置し、本体ケーシング51の汚泥投入口62からスクリーン52内へ脱水対象汚泥を供給する汚泥供給手段を備え、汚泥投入口62は、下方位置のスクリュー軸54と上方位置のスクリュー軸53との軸間距離の中間位置を境とする上方位置もしくは上方位置と下方位置からスクリーン52内へ脱水汚泥を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚泥脱水機に関し、下水汚泥や工業廃水汚泥等の有機性汚泥を脱水する技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来の汚泥脱水機としては、例えば図6〜図7に示すものがある。図6〜図7において、スクリュープレス型脱水機である多軸スクリュープレスでは、本体ケーシング1の外周部がスクリーン2をなし、本体ケーシング1を軸心方向に挿通して左右一対のスクリュー軸3、4を平行状態に配置し、各スクリュー軸3、4にスクリュー羽根5、6を形成している。
【0003】
双方のスクリュー羽根5、6は相互に反対螺旋状に形成してなり、スクリュー羽根5、6は汚泥排出側ほどピッチが狭くなる形状をなす。そして、一方のスクリュー羽根5もしくは6の螺旋の間に形成した谷部に、他方のスクリュー羽根6もしくは5が位置して双方のスクリュー羽根5、6が係合している。
【0004】
双方のスクリュー軸3、4の基端には噛合する歯車7、8を設けており、一方のスクリュー軸3に連結したモータ9の駆動により歯車7、8を介して双方のスクリュー軸3、4が相反する方向に回転する。
【0005】
本体ケーシング1のケーキ排出側には開口に対向して背圧板10を配置しており、背圧板10はシリンダー装置11によって開口に向けて出退自在であり、開口に対向して作用させる圧力を調整することにより脱水力(圧搾力)を制御する。
【0006】
この構成において、本体ケーシング1に投入した脱水対象汚泥は、スクリーン2でろ過しながらスクリュー軸3、4およびスクリュー羽根5、6の回転によって排出側へ搬送される。この際に、スクリュー羽根5、6のピッチが汚泥排出側ほど狭くなり、本体ケーシング1におけるろ室容積(スクリュー羽根5、6の1ピッチ当たり)が減少して行く。このため、汚泥はろ室容積の減少による圧密力、両スクリュー羽根5、6の噛み合わせによる剪断力、および背圧板10による背圧で脱水され、排出側の開口から本体ケーシング1の外部へ排出される。
【特許文献1】特開2007−245224号公報
【特許文献2】特開2003−230988号公報
【特許文献3】特開平6−190594号公報
【特許文献4】特開平2−255296号公報
【特許文献5】特開昭61−95799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般的なスクリュープレス型脱水機において、スクリーン内での汚泥供給側のゾーンに必要な脱水力を「ろ過圧力」と定義し、「ろ過圧力」=「基準水頭圧」+「外部圧力」と定義する。
【0008】
「基準水頭圧」とは、外部ケーシング高さ(スクリーン径)など構造的に決定されるろ過圧力であり、「外部圧力」とは汚泥投入ホッパの水位など、運転上、調整可能なろ過圧力を指す。
【0009】
上記した構成の多軸スクリュープレスでは、スクリーンにおける断面積を同条件下とする場合には、同一の処理量の能力を有する通常の単軸スクリュープレスと比較して、一つのスクリューに対するスクリーン径が小さくなる。
【0010】
このため、軸を水平方向に配置した多軸スクリュープレスでは、ろ過圧力を規定する一つの因子である基準水頭圧がスクリーンの小径化により小さくなる。よって、ろ過圧力を規定する他の因子である外部圧力を一定とした場合には、単軸スクリュープレスと比較して、ろ過圧力が低下することになり、所望の処理性能の向上を達成できないという課題があった。
【0011】
また、スクリュープレス型脱水機は、スクリーンをスクリュー羽根の外周に沿って断面円形状に形成するので、多軸スクリュープレスではスクリーンの形状がスクリュー羽根の相互間において窪み、凹部を有する形態となる。
【0012】
このため、多軸スクリュープレスにおいて複数のスクリュー軸を水平方向に並べて配列した場合に、スクリーンはスクリーン上部に凹部を有する形状となる。このスクリーンを透過してスクリーン上部の凹部へ流入するろ液(脱離液)は、両側のスクリーンの頂部を越えてオーバーフローするか、スクリーン両端から排水することになり、スクリーン上部の凹部にろ液が残留する傾向が生じる。
【0013】
このスクリーン上部に残留するろ液の水頭圧は、スクリーンを介してスクリーン外側からスクリーン内部のろ室側へ作用し、脱水機のろ室内部において作用する「ろ過圧力」をうち消す方向に働くので、スクリーン上部の凹部でのろ過効率が低下する要因となる。
【0014】
ところで、スクリーン内部のろ室において、汚泥供給部付近の上部ろ室内の汚泥は、その汚泥濃度(固形物濃度)が低く、自由水中に凝集フロックが漂っているような状態である。一方、下部ろ室内の汚泥は、脱水作用を受けて上部ろ室よりも汚泥濃度(固形物濃度)が高く、単位体積当たりに多くの凝集フロックが密集して存在する状態で、凝集フロック間にわずかな自由水が存在する状態である。
【0015】
この自由水は液体で圧縮性が小さく、高い圧力を加えてもそれ自体が変性することはない。一方、凝集フロックは汚泥に凝集剤を加えて形成した半固形状の塊であり、その内部に内包水を有している。内包水を多く保持した状態の凝集フロックは軟弱で、高い圧力を加えるとそれ自体が崩壊(フロックの解体)する特性を持つが、一旦内部に保持している内包水を排出し圧縮された凝集フロックは、その強度を高め、高い圧力にも耐えられるようになる特性を持つ。
【0016】
スクリュープレス型脱水機のスクリーン内部において、脱水工程の前半を担うろ過ゾーンでは、汚泥中の液相をなす自由水に効率良く「ろ過圧力」を加えてスクリーンを透過させて外部に排出して汚泥をろ過することが脱水効率を高めるうえで重要であり、凝集フロックそのものに機械的な圧搾力を与えることは第一儀的な目的としていない。
【0017】
一方、スクリーン内部において、脱水工程の後半を担う脱水ゾーンでは、汚泥中の凝集フロックを含む固相に対し、スクリューの回転によって生じる剪断力と圧密力を除々に高めながら内包水の排出を促進させ、機械的に圧搾してゆくことが重要である。
【0018】
このように、脱水機のスクリーン内部ではろ過ゾーンと脱水ゾーンとによって要求される力の形態とその加え方が異なる。
本発明は上記した課題を解決するもので、脱水対象汚泥に対してろ過圧力を有効に作用させるものであり、スクリーン内部のろ過ゾーンと脱水ゾーンとにおいて加える力を異なる形態で作用させることを実現するものであり、脱水ケーキの含水率の低下を図ることができる汚泥脱水機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の汚泥脱水機は、複数のスクリュー軸を上下の関係位置に配置し、各スクリュー軸の周りにスクリュー羽根を形成し、スクリュー羽根の周囲にスクリーンを配置し、汚泥投入口からスクリーン内へ脱水対象汚泥を供給する汚泥供給手段を備えた汚泥脱水機であって、汚泥投入口は、下方位置のスクリュー軸と上方位置のスクリュー軸との軸間距離の中間位置を境とする上方位置もしくは上方位置と下方位置からスクリーン内へ脱水汚泥を供給することを特徴とする。
【0020】
上記したように、例えば二つのスクリュー軸を上下の関係位置に配置する場合にあっては、本体ケーシングのスクリーン内に形成するろ室の全高は、二つのスクリュー軸を水平方向に配列する場合に比べてほぼ倍増する。このため、従来に比して倍増する大きな基準水頭圧に起因する高いろ過圧力が下部スクリーン面に向けて脱水対象汚泥に作用する。
【0021】
しかしながら、スクリーン内の上部ろ室では、下部ろ室よりも相対的に基準水頭圧が小さくなってろ過圧力も低くなる。そのために、上部ろ室内の自由水の排出効率が悪く、上下ろ室間での脱水状態のアンバランスを生じてしまう。
【0022】
ろ過ゾーンで自由水が十分に排出されず、フロックが軟弱な状態の上部ろ室内の汚泥を脱水ゾーンで機械的に圧搾することでフロックの崩壊を招き、結果的に脱水機全体としての効率も低くなり、排出されるケーキ含水率も高くなる。
【0023】
また、ろ過により濃度が上昇した凝集フロックはスクリーン内面に堆積して行き、この堆積した汚泥をスクリュー羽根の刃先で掻き取り、スクリーン内で排出側に汚泥を搬送して行く。しかしながら、上部ろ室で掻き取った濃度の高い汚泥が重力により下部ろ室に沈降することが、さらに上下部ろ室間の脱水状態のアンバランスを助長する。
【0024】
ところで、上述したように、スクリーン内部のろ室において、汚泥供給部付近の上部ろ室内の汚泥は、その汚泥濃度(固形物濃度)が低く、自由水中に凝集フロックが漂っているような状態である。一方、下部ろ室内の汚泥は、脱水作用を受けて上部ろ室よりも汚泥濃度(固形物濃度)が高く、単位体積当たりに多くの凝集フロックが密集して存在する状態で、凝集フロック間にわずかな自由水が存在する状態である。
【0025】
通常、液体に加えた圧力は同一相間(液体−液体)で最も効率よく伝わる。このため、下方位置のスクリュー軸と上方位置のスクリュー軸との軸間距離の中間位置、つまり上部ろ室と下部ろ室の境よりも上方位置もしくは上方位置と下方位置からスクリーン内へ圧力を加えながら脱水対象汚泥を供給することによって、加えた外部圧力はスクリーン内の汚泥供給部側における上部ろ室内の自由水に効率的に作用する。すなわち、上部ろ室内では脱水対象汚泥中に含まれる固形物が少なく、自由水中に固形物が拡散した状態であるのに対し、下部ろ室内では脱水対象汚泥中に含まれる固形物が多くなり、自由水は固形物間に含まれた状態となり圧力が伝わり難い。
【0026】
上述した作用により、上部ろ室内の初期脱水効率が向上し、上下ろ室内の脱水効率のアンバランスを解消し、十分に自由水を排出した上下ろ室内の汚泥を脱水ゾーンに送ることで、脱水機全体の脱水効率も向上させることができる。
【0027】
また、下部ろ室内は凝集フロック同士が密接して自由水が少なく、外部圧力の伝播効率が低いので、下部ろ室へのみ汚泥を供給した場合は、上部ろ室内に存在する自由水を効率的にろ過出来ず、無理に外部圧力を増加させると凝集フロックが破壊し、下部スクリーンから汚泥が漏出してしまう。
【0028】
本発明の汚泥脱水機において、汚泥投入口は、スクリュー軸の軸心方向でスクリュー羽根に対向する本体ケーシングの側壁に設けられ、スクリュー軸の軸心周りに開口する形状をなすことを特徴とする。
【0029】
本発明の汚泥脱水機において、汚泥投入口は、上方位置のスクリュー軸と下方位置のスクリュー軸の軸心周りにその回転方向に沿って長く連なって開口することを特徴とする。
本発明の汚泥脱水機において、汚泥投入口は、スクリュー軸の壁面に形成され、脱水汚泥の進行方向においてスクリュー羽根の裏面側の位置に開口することを特徴とする。
【0030】
本発明の汚泥脱水機において、汚泥投入口は、前記上方位置からのみスクリーン内へ脱水汚泥を供給することを特徴とする。
本発明の汚泥脱水機において、汚泥供給手段は、汚泥投入口と汚泥供給ポンプとが凝集装置を介して接続し、汚泥供給ポンプと凝集装置の管路の途中に凝集剤投入手段が接続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
以上のように本発明によれば、液体に加えた圧力は同一相間(液体−液体)で最も効率よく伝わり、上部ろ室内では脱水対象汚泥中に含まれる固形物が少なく、自由水中に固形物が拡散した状態となって圧力が伝わり易くなるので、上部ろ室と下部ろ室の境よりも上方位置もしくは上方位置と下方位置からスクリーン内へ圧力を加えながら脱水対象汚泥を供給することによって、加えた外部圧力が上部ろ室内の自由水に効率的に作用し、上部ろ室内の初期脱水効率が向上し、上下ろ室内の脱水効率のアンバランスを解消して脱水機全体の脱水効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1〜図2において、本体ケーシング51で両側を支持するスクリーン52を軸心方向に挿通して上下一対の回転軸をなすスクリュー軸53、54を概略平行状態(平行状態の場合を含む)に配置し、各スクリュー軸53、54にスクリュー羽根55、56が形成してある。
【0033】
スクリュー羽根55、56の周囲に配置したスクリーン52の内部はろ室をなし、ろ室空間の上方領域が上部ろ室521をなし、下方領域が下部ろ室522をなす。
本実施の形態では、上方位置のスクリュー軸53と下方位置のスクリュー軸54とを鉛直方向に沿った上下位置に配置し、鉛直面をなす同一平面上に全てのスクリュー軸心を配置している。しかしながら、本発明において、上方位置のスクリュー軸53と下方位置のスクリュー軸54との上下の関係位置は、本実施の形態に示す構成に限定するものではない。たとえば、上方位置のスクリュー軸53は、下方位置のスクリュー軸54の直上の位置、つまり下方位置のスクリュー軸54を通る鉛直面に必ずしも配置する必要はなく、下方位置のスクリュー軸54を通る鉛直面を境として両側の所定幅領域内に配置することも可能である。
【0034】
この所定幅領域は、図4を参照して、以下に述べる表現で定義することも可能である。なお、図4では3軸の場合を例に説明するが、2軸以上において同様である。
スクリュー軸に直角な断面において、隣接する上下スクリュー軸心を結ぶ直線Llと、下方位置のスクリュー軸心と上下スクリーンの外周交点とを結ぶ直線L2とのなす角度をXとした場合、上方位置のスクリュー軸心と下方位置のスクリュー軸心を結ぶ直線L1と、下方位置のスクリュー軸心から上方向の鉛直線L3とのなす角度をYとすると、角度Yが角度X以下となる領域である。
【0035】
このように、所定幅領域にスクリュー軸を配置することで、スクリュー軸を上下の関係位置に配置して得られる基準水頭圧増大効果と、スクリーン凹部でのろ液残留の防止効果とを同時に成し得ることができ、効率の良い脱水が可能となる。
【0036】
隣接する双方のスクリュー羽根55、56は相互に反対螺旋状に形成してなり、スクリュー羽根55、56は汚泥排出側ほどピッチが狭くなる形状をなす。スクリュー羽根55、56の螺旋状は任意に設定することが可能であり、隣接する双方のスクリュー羽根55、56を同じ螺旋状に形成して同じ方向に回転させることも可能である。
【0037】
そして、一方のスクリュー羽根55もしくは56の螺旋の間に形成した谷部に、他方のスクリュー羽根56もしくは55が位置して隣接する双方のスクリュー羽根55、56が各ピッチ間において軸心方向で重なっている。上方位置のスクリュー軸53および下方位置のスクリュー軸54には、回転手段をなすギヤ57、およびモータ58が連結している。
【0038】
本体ケーシング51のケーキ排出側には開口に対向して背圧板59を配置しており、背圧板59はシリンダー装置60によって開口に向けて出退自在であり、開口に対向して作用させる圧力を調整することにより脱水力(圧搾力)を制御する。また、モータ58とシリンダー装置60の駆動を制御する制御装置(図示省略)を設けている。
【0039】
図2(a)に示すように、スクリーン52はスクリュー羽根55、56の外周に沿って曲面形状に形成してあり、その側面においてスクリュー羽根55、56の相互間に対応する部位が窪んで凹部52aをなし、凹部52aを境にしてスクリーン52の内部の上方領域が上部ろ室521をなし、下方領域が下部ろ室522をなす。
【0040】
ところで、スクリュー羽根55、56を回転させてろ室内部の脱水対象汚泥を搬送する際、上部ろ室内の汚泥と下部ろ室内の汚泥は、軸心方向のみならず双方のスクリュー羽根55、56の回転方向にも搬送されてゆく。隣接する双方のスクリュー羽根55、56は相互に反対螺旋状に形成しているため、双方のろ室内の汚泥はスクリュー羽根55、56が重なり合う部分で互いに衝突し、高い圧密力を受ける。
【0041】
そのため、スクリュー軸53、54に直角な断面において、隣接する双方のスクリュー羽根55、56を双方の軸心間へ送り込む側のろ室内圧が上昇して高圧側領域Hiとなり、反対に、隣接する双方のスクリュー羽根55、56を双方の軸心間から送り出す側のろ室内圧が相対的に低下して低圧側領域Loとなる。
【0042】
以下に、ろ室内部での圧力分布について説明する。図2(a)に示すように、スクリュー軸53、54に直角な断面において、上下のスクリュー軸心を結ぶ直線L4を基準とし、ろ室内の任意の位置(直線L5で示す)をスクリュー55、56の回転方向の角度(θ)とした場合に、ろ室内圧は図5に示すようになり、角度θが45°付近の領域で最もろ室内圧が低く、270°≦θ≦360°の領域でろ室内圧が最も高くなる。
【0043】
よって、本実施の形態では、上下のスクリュー軸心を結ぶ直線L4より一側を低圧側領域Loとし、他側を高圧側領域Hiとして説明する。
図2(b)に示すように、本体ケーシング51の側壁61は、双方のスクリュー軸53、54の軸心方向でスクリュー羽根55、56に対向しており、側壁61に設けた汚泥投入口62がスクリーン52の内部のろ室の低圧側領域Loに連通しており、上述した角度θが45°付近である領域を含んでいる。
【0044】
汚泥投入口62は、上方位置のスクリュー軸53と下方位置のスクリュー軸54との軸間距離の中間位置を境とする上方位置と下方位置で、双方のスクリュー軸53、54の軸心の周りに開口する形状をなし、スクリーン52の内部の上部ろ室および下部ろ室に対応しており、スクリュー羽根55、56が1回転する間において、常に開口の何れかの領域が汚泥供給可能な所定圧力下にある。また、3軸以上の構成においては、汚泥投入口62を最下方位置のスクリュー軸と最上方位置のスクリュー軸との中間位置を境とする上方位置と下方位置に形成しても良い。
【0045】
スクリュー羽根55、56の前面に在る脱水対象汚泥にはスクリュー羽根55、56の回転に伴って押圧力(圧搾力)が作用し、スクリュー羽根55、56の前面に濃縮した汚泥が堆積し、この堆積する汚泥はスクリュー羽根55、56に近いほどに圧密層となって圧力が高まる。このため、汚泥投入口62の全領域がスクリュー羽根55、56の前面の圧密層で塞がれると汚泥の供給が阻害される。スクリュー羽根55、56の裏面側は低圧であるので、スクリュー羽根55、56が通過した後に汚泥の供給が可能となる。
【0046】
一方、スクリュー羽根55、56の前面から離れるほどに押圧力(圧搾力)は弱まって圧力が低くなるので、スクリュー羽根55、56の前面から所定距離だけ離れた位置で所定圧力下となる位置に、常に汚泥投入口62の開口の何れかの領域が存在することで安定した汚泥供給が可能となる。
【0047】
このため、汚泥投入口62は双方のスクリュー軸53、54の軸心の周りに、その回転方向に沿って長く開口する形状が好ましく、開口の始端側にスクリュー羽根55、56が位置する状態で、少なくとも開口の終端側の領域が汚泥供給可能な所定圧力下となる形状が望ましい。スクリュー羽根55、56の進行によって開口の終端側の領域が汚泥の圧密層に塞がれても、スクリュー羽根55、56の裏面側は低圧となるので、常に汚泥投入口62の開口の何れかの領域が所定圧力下となる。
【0048】
上述したように、本実施の形態では、本体ケーシング51の側壁61に汚泥投入口62を設けることで、汚泥投入口62の構成が簡略なものとなり、スクリュー軸53、54を中空状に形成して脱水対象汚泥を供給する経路を形成する構成よりも、その製作が容易となり、スクリュー軸53、54の強度を確保し易くなる。
【0049】
しかしながら、本発明において、汚泥投入口62の形態は、本実施の形態に示す構成に限定するものではない。例えば、少なくとも上方位置のスクリュー軸53に中空部を形成し、かつ中空部に連通する汚泥投入口をスクリュー軸53の壁面に形成することも可能である。この場合に、汚泥投入口は脱水対象汚泥の進行方向においてスクリュー羽根55の裏面側の位置に開口することで、汚泥投入口はスクリュー羽根55が1回転する間において常に汚泥供給可能な所定圧力下にある。
【0050】
汚泥投入口62には汚泥供給手段をなす汚泥供給ポンプ63が凝集装置(密閉式)64を介して接続しており、汚泥供給ポンプ63と凝集装置64の間の管路の途中に凝集剤投入手段65が接続している。汚泥供給ポンプ63は本体ケーシング51のスクリーン52の内部へ脱水対象汚泥をポンプ圧送するものである。汚泥供給ポンプは汚泥投入口62を通して、上方位置のスクリュー軸53と下方位置のスクリュー軸54との軸間距離の中間位置を境とする上方位置と下方位置からスクリーン52の内部へ脱水対象汚泥を供給する。
【0051】
本実施の形態では、汚泥投入口62が上方位置のスクリュー軸53と下方位置のスクリュー軸54の双方の軸心の周りに開口する形状をなしているが、汚泥投入口62は上方位置のスクリュー軸53の軸心の周りにのみ開口する形状とすることも可能であり、この場合には上方位置のスクリュー軸53と下方位置のスクリュー軸54との軸間距離の中間位置を境とする上方位置からのみスクリーン52の内部へ脱水対象汚泥を供給する。
【0052】
汚泥供給ポンプ63によるポンプ圧送とは、圧力の働きにより脱水対象汚泥を送り出すものであり、機械的に加える圧力によって管路等の概略密閉構造の経路を通して脱水対象汚泥をスクリーン52の内部のろ室に供給するものであれば、汚泥供給ポンプ63の形態は限定されず、各種のポンプ装置を適用可能である。
【0053】
上記した構成における作用を以下に説明する。シリンダー装置60により背圧板59を所定位置に配置し、ギヤ57およびモータ58の駆動により双方のスクリュー軸53、54が相反する方向に同期回転する。
【0054】
汚泥供給ポンプ63により汚泥投入口62を通して本体ケーシング51のスクリーン52の内部にポンプ圧送した脱水対象汚泥は、スクリーン52でろ過しながらスクリュー軸53、54およびスクリュー羽根55、56の回転によって排出側へ搬送される。
【0055】
本実施の形態では、二つのスクリュー軸53、54およびスクリュー羽根55、56を上下位置に配置しており、本体ケーシング51のスクリーン52の内部に形成するろ室の全高は、二つのスクリュー軸53、54を水平方向に配列する場合に比べてほぼ倍増する。このため、従来に比して倍増する大きな基準水頭圧に起因する高いろ過圧力がスクリーン52の下部スクリーン面に向けて脱水対象汚泥に作用するので、従来と同等の外部圧力、つまり汚泥供給圧力の下で脱水効率が向上する。
【0056】
二つのスクリュー軸53、54を水平方向に配列する場合と同等のろ過圧力で本発明の汚泥脱水機を運転する場合には、従来よりも低い外部圧力で運転することができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0057】
また、スクリーン52に生じる凹部52aの部位が本体ケーシング51の両側に位置するので、スクリーン52を透過したろ液は凹部52aの部位に残留することなく円滑にスクリーン表面から離脱するので、スクリーン52の内部のろ室におけるろ過圧力を低減する外部因子は存在せず、ろ過圧力を有効に作用させて効率の良い脱水が可能となる。
【0058】
次に、先にも述べたが、改めて説明すると、スクリーン52の内部のろ室において、汚泥投入口62に近い汚泥供給部付近の上部ろ室内の汚泥は、その汚泥濃度(固形物濃度)が低く、図3(a)に示すように、自由水Wの中で凝集フロックFが漂っているような状態である。一方、下部ろ室内の汚泥は、脱水作用を受けて上部ろ室よりも汚泥濃度(固形物濃度)が高く、単位体積当たりに多くの凝集フロックが密集して存在する状態で、図3(b)に示すように、凝集フロックFの間にわずかな自由水Wが存在する状態である。
【0059】
この自由水Wは液体で圧縮性が小さく、高い圧力を加えてもそれ自体が変性することはない。一方、凝集フロックFは汚泥に凝集剤を加えて形成した半固形状の塊であり、その内部に内包水W1を有している。内包水W1を多く保持した状態の凝集フロックFは軟弱で、高い圧力を加えるとそれ自体が崩壊(フロックの解体)する特性を持つが、一旦内部に保持している内包水W1を排出し圧縮した凝集フロックFは、その強度を高め、高い圧力にも耐えられるようになる特性を持つ。
【0060】
このため、スクリュープレス型脱水機のスクリーン内部において、脱水工程の前半を担うろ過ゾーンでは、汚泥中の液相をなす自由水に効率良く「ろ過圧力」を加えてスクリーンを透過させて外部に排出して汚泥をろ過することが脱水効率を高めるうえで重要である。
【0061】
また、二つのスクリュー軸53、54を上下の関係位置に配置することで、下部ろ室での基準水頭圧は従来に比べてほぼ倍増するが、スクリーン52の上部ろ室では、下部ろ室よりも相対的に基準水頭圧が小さくなってろ過圧力も低くなる。そのために、上部ろ室内の自由水の排出効率が悪く、上下ろ室間での脱水状態のアンバランスを生じてしまう。ろ過ゾーンで自由水が十分に排出されず、フロックが軟弱な状態の上部ろ室内の汚泥を、脱水ゾーンで機械的に圧搾することでフロックの崩壊を招き、結果的に、脱水機全体としての効率も低くなり、排出されるケーキ含水率も高くなる。
【0062】
また、ろ過により濃度が上昇した凝集フロックはスクリーン52の内面に堆積して行き、この堆積した汚泥をスクリュー羽根55、56の刃先で掻き取り、上部ろ室で掻き取った濃度の高い汚泥が重力により下部ろ室に沈降することで、さらに上下部ろ室間の脱水状態のアンバランスを助長する。
【0063】
上述の知見により、本実施の形態では、汚泥供給ポンプ63により汚泥投入口62を通して、上方位置のスクリュー軸53と下方位置のスクリュー軸54との軸間距離の中間位置を境とする上方位置と下方位置からスクリーン52の内部へ脱水対象汚泥をポンプ圧送するが、上方位置からのみ供給してもよい。
【0064】
このように、上部ろ室と下部ろ室へ圧力を加えながら脱水対象汚泥を供給することによって、加えた外部圧力はスクリーン52の内部の汚泥供給部側における上部ろ室内の自由水に効率的に作用する。
【0065】
すなわち、通常、液体に加えた圧力は同一相間(液体−液体)で最も効率よく伝わるので、脱水対象汚泥中に含まれる固形物が少なく自由水中に固形物が拡散した状態である上部ろ室内では、自由水に効率良く圧力が作用するのに対し、下部ろ室内では脱水対象汚泥中に含まれる固形物が多くなり、自由水は固形物間に含まれた状態となり圧力が伝わり難い。上述した作用により、上部ろ室内の初期脱水効率が向上し、上下ろ室内の脱水効率のアンバランスを解消し、十分に自由水を排出した上下ろ室内の汚泥を脱水ゾーンに送ることで、脱水機全体の脱水効率も向上させることができる。
【0066】
ここで、汚泥供給ポンプによるポンプ圧送によって加える外部圧力は、汚泥供給ポンプの吐出圧力から実揚程と配管圧損を除いた圧力である。この汚泥供給ポンプによる外部圧力に起因するろ過圧力が脱水対象汚泥に作用する。このポンプ圧送によって加える外部圧力はポンプの回転数やバルブ等により調整が出来るので、脱水対象汚泥の性状に合わせて最適値にろ過圧力の設定を変更することが容易となる。
【0067】
また、ポンプ圧送とすることで、従来のような投入ホッパを用いる場合のホッパの高さが不要となり、そのために機高を大幅に低く押さえることが出来、製作コストが低減し、スペース制限を受けずに機器の設置を行える。
【0068】
さらに、同期回転するスクリュー羽根55、56のピッチが汚泥排出側ほど狭くなり、本体ケーシング51におけるろ室容積(スクリュー羽根55、56の1ピッチ当たり)が減少して行くことで、脱水対象汚泥は、本体ケーシング51の内部を移動する間に、双方のスクリュー羽根55、56のピッチ減少に起因するろ室容積の減少による圧密力を受け、さらに両スクリュー羽根55、56の噛み合わせによる剪断力、および背圧板59による背圧で脱水され、排出側の開口から本体ケーシング51の外部へ排出される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態における汚泥脱水機を示す模式図
【図2】同実施の形態におけるスクリュー軸およびスクリュー羽根の回転方向を示す模式図
【図3】脱水対象汚泥の性状を示す模式図
【図4】スクリュー軸の上下の関係位置を示す説明図
【図5】ろ室内部の圧力分布を示す図表
【図6】従来の汚泥脱水機を示す模式図
【図7】従来の汚泥脱水機におけるスクリュー軸およびスクリュー羽根の回転方向を示す模式図
【符号の説明】
【0070】
Hi 高圧側領域
Lo 低圧側領域
51 本体ケーシング
52 スクリーン
52a 凹部
53、54 スクリュー軸
55、56 スクリュー羽根
57 ギヤ
58 モータ
59 背圧板
60 シリンダー装置
61 側壁
62 汚泥投入口
63 汚泥供給ポンプ
64 凝集装置
65 凝集剤投入手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスクリュー軸を上下の関係位置に配置し、各スクリュー軸の周りにスクリュー羽根を形成し、スクリュー羽根の周囲にスクリーンを配置し、汚泥投入口からスクリーン内へ脱水対象汚泥を供給する汚泥供給手段を備えた汚泥脱水機であって、
汚泥投入口は、下方位置のスクリュー軸と上方位置のスクリュー軸との軸間距離の中間位置を境とする上方位置もしくは上方位置と下方位置からスクリーン内へ脱水汚泥を供給することを特徴とする汚泥脱水機。
【請求項2】
汚泥投入口は、スクリュー軸の軸心方向でスクリュー羽根に対向する本体ケーシングの側壁に設けられ、スクリュー軸の軸心周りに開口する形状をなすことを特徴とする請求項1記載の汚泥脱水機。
【請求項3】
汚泥投入口は、上方位置のスクリュー軸と下方位置のスクリュー軸の軸心周りにその回転方向に沿って長く連なって開口することを特徴とする請求項2記載の汚泥脱水機。
【請求項4】
汚泥投入口は、スクリュー軸の壁面に形成され、脱水汚泥の進行方向においてスクリュー羽根の裏面側の位置に開口することを特徴とする請求項1記載の汚泥脱水機。
【請求項5】
汚泥投入口は、前記上方位置からのみスクリーン内へ脱水汚泥を供給することを特徴とする請求項2または4記載の汚泥脱水機。
【請求項6】
汚泥供給手段は、汚泥投入口と汚泥供給ポンプとが凝集装置を介して接続し、汚泥供給ポンプと凝集装置の管路の途中に凝集剤投入手段が接続していることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の汚泥脱水機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−27935(P2013−27935A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232455(P2012−232455)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2007−319079(P2007−319079)の分割
【原出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】