説明

汚泥脱水濃縮方法及びその装置

【課題】
ろ過膜面にダメージを与えず、ろ過膜面の表面流速を保ち、さらに、曝気に要する空気量を調整することで、消費電力を小さくし、コストダウンが可能な汚泥の脱水濃縮方法及び装置を提供する。
【解決手段】
有機性汚泥4を、前凝集槽1にて凝集剤6添加を経て撹拌、凝集させ、その後、汚泥濃縮槽2にてろ過膜による脱水濃縮、および散気により該ろ過膜の洗浄を行う汚泥脱水濃縮方法において、該汚泥濃縮槽2中の有機性汚泥4の濃度、温度、粘度のうちの少なくとも一つの測定値を利用して、散気される空気の量を決定することを特徴とする汚泥脱水濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥脱水濃縮方法に係り、特に膜分離方法における汚泥脱水濃縮化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離方法は、省エネルギー、省スペース、省力化および製品の品質向上などの特徴を有するため、適用分野を拡大しながら普及している技術である。膜分離は逆浸透、限外濾過、精密濾過、などの方法があり、中空糸膜、平膜、管状膜などの形態をした濾過膜が使用されている。この適用分野としては、従来から海水淡水化、浄水処理、ガス分離、血液浄化などで使用されてきたが、最近では環境保全の観点から、廃水処理への適用が進められている。
【0003】
廃水処理で適用されている膜分離技術として、通常の活性汚泥法における最終沈殿池の代わりに精密濾過あるいは限外濾過を使用する、膜分離活性汚泥法が開発され普及しつつある。膜分離活性汚泥法は、活性汚泥を充填した処理槽内にモジュールを浸漬して、モジュールの透過側をポンプで吸引あるいはサイホンなどのように水位差を利用してろ過水を得る技術であり、通常の活性汚泥法の最終沈殿池の代わりに分離膜を用いることで、生物反応槽の生物量(一般にMixed Liquor and Suspended Solid濃度;以下MLSS濃度)を高く保ち(一般にMLSS濃度5、000〜15、000mg/L)設置面積を小さくすることができることや、処理水に濁質が流出することがなく清澄な処理水を得ることができること等の利点がある。
【0004】
膜分離活性汚泥法は、活性汚泥法と同様、余剰汚泥が発生する。従来、用水や廃水の水処理において行われている余剰汚泥の濃縮操作は、比重差を利用した沈降分離法によるものが多く採用されている。しかし、活性汚泥の重力による沈降性は、水温や汚泥性状の変動などに対応して大きく変動するため、その調整が難しく、さらに、膜分離活性汚泥法の汚泥は、一般活性汚泥法からの汚泥濃度よりその濃度が高いため、沈降による処理がより困難である。膜分離活性汚泥槽から引き抜いた汚泥は、2次処理のため運搬が必要であり、その体積を減らすことが必要だが、沈降分離による脱水は難しいことから、大量の汚泥の運搬を強いられている。
【0005】
近年、小規模下水処理場などにおいては、余剰汚泥の濃縮のためにMF膜やUF膜による汚泥の脱水濃縮システムが提案されている。
【0006】
このような膜分離装置を備えた汚泥の脱水濃縮システムでは、例えば特許文献1には、活性汚泥槽に浸漬した膜分離装置により、膜を吸引ろ過することで膜面に脱水汚泥ケーキ層を形成させ、このケーキ層を掻き取ることで効率よく汚泥濃縮を実施する方法について記載されている。しかし、処理槽の汚泥が脱水濃縮によって高濃度になり、ろ過膜表面に付着するケーキ層が分厚くなりやすく、ケーキ層が分厚くなると、ろ過の比抵抗が増大して差圧が上昇し、透過水量が減少する問題が生じる。このため、ろ過膜面の表面流速を大きくする必要があり、また、曝気に要する空気量を増大させる必要がある等により、ろ過膜表面にダメージを与え、なおかつ消費電力に伴うコストアップ等の問題がある。
【0007】
また、特許文献2では、引き抜いた汚泥を可溶化するために汚泥可溶化槽を別に持ち、さらに活性汚泥中に浸漬されたろ過膜を洗浄するのに使う薬液と同一の薬液を、汚泥可溶化槽に供給して、活性汚泥の一部を可溶化することにより、余剰汚泥を易分解性の有機物に変換することができる。しかし、可溶化された汚泥は活性汚泥の性状に悪影響を与える恐れがあると共に、可溶化槽で行う汚泥の加温は、経済的なコストアップに繋がり、膜分離活性汚泥槽から発生する高濃度汚泥を処理する方法としては適してない。
【0008】
また、非特許文献1には浸漬型膜分離装置を用いて合併浄化槽の汚泥を濃縮する技術が開示され、1〜2%の汚泥を平膜20枚が装填された膜分離装置でろ過することにより汚泥濃度を3%まで濃縮させ、約4ヶ月間安定に運転可能であったことが記載されている。しかし、該技術においては、膜面を洗浄するため下部から供給しているエアの量を一定で行っているため、汚泥をより濃縮させたい場合には膜面の洗浄効果が小さくなり、設定流量を取り出すのが難しくなる可能性があり、逆に、少しだけ汚泥濃縮したい場合には、過剰のエア供給となり、運転コストが大きくなってしまうという問題点があった。
【特許文献1】特許2001−121148号公報
【特許文献2】特開2005−81237号公報
【非特許文献1】塗師雅治、外3名、「浸漬型膜分離法による汚泥濃縮」、(社)日本水環境学会関西支部 第1回研究発表会予稿集、平成8年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ろ過膜面にダメージを与えず、ろ過膜面の表面流速を保ち、さらに、曝気に要する空気量を調整することで、消費電力を小さくし、コストダウンが可能な汚泥の脱水濃縮方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するための本発明は、以下の構成からなる。
(1)有機性汚泥を、前凝集槽にて凝集剤添加を経て撹拌、凝集させ、その後、汚泥濃縮槽にてろ過膜による脱水濃縮、および散気により該ろ過膜の洗浄を行う汚泥脱水濃縮方法において、該汚泥濃縮槽中の有機性汚泥の濃度、温度、粘度のうちの少なくとも一つの測定値を利用して、散気される空気の量を決定することを特徴とする汚泥脱水濃縮方法。
(2)前記汚泥濃縮槽にて脱水濃縮された前記有機性汚泥が、MLSS濃度35,000〜55,000mg/Lであることを特徴とする(1)に記載の汚泥脱水濃縮方法。
(3)前記ろ過膜が平膜であることを特徴とする(1)または(2)に記載の汚泥脱水濃縮方法。
(4)前記散気される空気の量が、エレメント1枚あたり5〜25L/minであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の汚泥濃縮脱水方法。
(5)前凝集槽と、汚泥濃縮槽とをこの順に備え、該前凝集槽に、有機性汚泥を供給する配管と、凝集剤を供給する配管と、撹拌を行う攪拌機とを備え、該汚泥濃縮槽に、該前凝集槽で処理された有機性汚泥を供給する配管と、ろ過膜と、散気装置とを備える汚泥脱水濃縮装置において、該汚泥濃縮槽に、該汚泥濃縮槽中の有機性汚泥の濃度、温度、粘度のうちの少なくとも一つを測定する装置を備えることを特徴とする汚泥脱水濃縮装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の汚泥脱水濃縮方法およびその装置によれば、汚泥のMLSS濃度、温度、粘度のうち少なくとも一つを測定することにより、曝気によって生じる膜の強度低下を予測し、膜にダメージを与えず、かつ、コスト削減が可能な曝気量の選定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に示す実施態様に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の実施例に使用した実験装置の概要図である。
【0013】
本発明の汚泥脱水濃縮装置は、前凝集槽1と、汚泥濃縮槽2をこの順に備え、前凝集槽1に、有機性汚泥4を供給する配管5と、凝集剤6を供給する図示しない配管と、撹拌を行う攪拌機7とを備え、汚泥濃縮槽2に、前凝集槽1で処理された有機性汚泥を供給する図示しない配管と、図示しないろ過膜を設置したMBRモジュール3と、散気装置10とを備える汚泥脱水濃縮装置であって、汚泥濃縮槽2に、汚泥濃縮槽2中の有機性汚泥4の濃度、温度、粘度のうちの少なくとも一つを測定する装置を備えることを特徴とする汚泥脱水濃縮装置である。
【0014】
なお、本発明の汚泥脱水濃縮方法は、例えば前記汚泥脱水濃縮装置を用いて、有機性汚泥4を処理することにより実施される。
【0015】
実施に供する処理対象の有機性汚泥4とは、MLSS濃度が1,000〜20,000mg/Lであり、粘度が10〜1000mPa・sの有機性汚泥であれば、特に限定されているものではなく、一例として、下水汚泥、し尿汚泥、工業汚泥などの汚泥が使用できるが、その中でも濃縮率が高く得られる既設膜分離活性汚泥曝気槽の下水汚泥がもっとも効果的である。
【0016】
実施に供する有機性汚泥4の性状は、MLSS濃度1,000〜20,000mg/Lの有機性汚泥が適用範囲であるが、中でも凝集剤の凝集効果が高まるMLSS濃度5,000〜18,000mg/L、さらには7,000〜15,000mg/Lの有機性汚泥4がより好適である。MLSSの測定方法は、例えばJIS K0102 14.1に記載の方法を用いる事ができる。
【0017】
ここで、MLSS濃度とはMixed Liquor and Suspended Solid濃度のことであり、生物反応槽中の生物量を表す指標である。
【0018】
実施に供する有機性汚泥4の粘度は10〜1000mPa・sが適用範囲であるが、その中でも凝集剤の凝集効果が高まる粘度50〜800mPa・s、さらに250〜500mPa・sの有機性汚泥4がより好適である。汚泥の粘度を測定する方法には、例えば、JIS Z8803に記載の粘度計を使って測定することができるが、汚泥のような非ニュートン流体では、共軸二重円筒式回転粘度計を用いる事ができる。
【0019】
実施に供する有機性汚泥4の温度は、有機性汚泥4が凍結する可能性が高い4℃以下、有機性汚泥4の腐敗速度が濃縮処理速度より速くなる可能性が高い35℃以上では濃縮処理が困難となるため、5〜35℃の間で使用されるのが好ましい。
【0020】
実施に供する有機性汚泥4のろ紙ろ過性は、1〜50mL/100mL汚泥・5分の有機性汚泥4が好ましいが、ろ過膜の詰まりへの影響により、ろ紙ろ過性10〜30mL/100mL汚泥・5分の有機性汚泥4がより好適に使用できる。ろ紙ろ過性は、例えば、直径185mmのろ紙を4つ折りし、100mLの汚泥をろ過させてから5分後のろ過量を測定することで行うことができる。
【0021】
実施に供する有機性汚泥4のpHは、pH4〜10の有機性汚泥4が好ましいが、酸およびアルカリ性汚泥を長時間ろ過することにより、ろ過膜の劣化が起きる恐れがあるとともに、有機性汚泥4中の微生物が死滅してしまう恐れがあるため、pH6〜8の有機性汚泥4がより好適に使用できる。
【0022】
図1に示す実験装置において、前凝集槽1が形成されており、有機性汚泥4を配管5から供給し、凝集剤6を添加し、攪拌機7により撹拌を行う。前凝集槽1とは、有機性汚泥4を入れ、凝集剤6を添加し、撹拌を行う槽である。前凝集槽1での有機性汚泥4の滞留時間は、凝集剤6による凝集時間により適宜設定することができるが、凝集剤6と混合が可能な5〜60分にて使用することが好ましく、凝集効果を高め、有機性汚泥4の処理速度をなるべく高める観点から、10〜30分がより好適である。
【0023】
前凝集槽1にて、攪拌機7で行う撹拌は、有機性汚泥4と凝集剤6とを均一に混合できるようにすることが重要である。撹拌速度は10〜300rpmで使用することにより、凝集剤投入後素早く均一に混合ができるため好ましいが、さらに、前凝集槽1内で形成したフロックが壊れにくい撹拌速度である80〜120rpmがもっとも好適である。
【0024】
前凝集槽1に添加する凝集剤6は、無機・有機両方の凝集剤が使用可能である。無機凝集剤の種類は特に限定されず、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸バンド、ポリシリカ鉄、ポリ塩化アルミニウム(PAC)などを添加することが可能だが、腐食性、pHの低下、鉄やアルミニウムの蓄積に注意し添加しなければならない。無機凝集剤では、フロック形成が早く、フロックが壊れにくい高分子凝集剤であるPACの添加がもっとも効果的である。また、さらに凝集効果を高めるために、凝集補助添加剤を添加することもできる。凝集補助添加剤としてはベントナイト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、活性シリカなどが使用可能であり、凝集フロックの沈降性が悪化した場合などに使用すると効果的である。
【0025】
有機凝集剤の種類は特に限定されず、陰イオン系、陽イオン系、陰・陽イオン混合系、非イオン系の高分子凝集剤などが使用可能であるが、有機性汚泥4が陰イオン化されている場合には陽イオン系高分子凝集剤がもっとも好適である。陽イオン系高分子凝集剤はポリアミド系、ポリエステル系、ポリエチルアミン系、ポリアクリルアミド系などが使用できるが、pHの影響が少なく、荷電が強いポリアクリルアミド系の凝集剤がもっとも効果的である。
【0026】
凝集剤6の最適添加量は凝集剤の種類によって異なるが、例えば無機凝集剤は前凝集槽1中での凝集剤の濃度が10〜100mg/Lになるように添加すると凝集効果が高くなるが、さらにジャーテスト等により最適化することが望ましい。また、有機凝集剤は前凝集槽1中の凝集剤の濃度が10〜300mg/L濃度になるように添加すると凝集効果が高くなるが、さらにジャーテスト等により最適化することが望ましい。
【0027】
MBRモジュール3は、前凝集槽1で処理された有機性汚泥4をろ過できるろ過膜が設置され、該ろ過膜の外部に透過水管8を通じてろ過水を排出できるノズルを有したものであれば、平膜、中空糸膜、管状膜など、いずれのろ過膜を用いたタイプでも使用できることができ、本発明の効果が得られる。特に、平膜タイプを使用した場合に、循環流による膜面の洗浄を効率的に行うことができ、安定運転を継続できることから、特に大きな効果を得ることができ、好ましい。
【0028】
平膜の膜厚は10μm〜1mmであることが好ましく、また、構造が非対称膜や複合膜である場合には、ろ過機能層が、織物、編物、不織布などの基材で支持されていることが好ましい。
【0029】
平膜タイプの膜エレメントは、特に限定されず、種々の構造を選択して使用することができる。
【0030】
膜エレメントは、活性汚泥をろ過できるろ過膜が設置され、膜エレメント外部にろ過水を排出できるノズルを有したものであれば、本発明の効果が得られる。
【0031】
膜エレメントの構造は、特に限定されず、種々の構造を選択して使用することができる。一例としては、ろ過水取り出し口を有した板状の支持板の両面側若しくは片面側に、流路材、シート状のろ過膜を順に設置した構造が挙げられる。
【0032】
膜エレメントは、その間に形成される気液混合流を流すための流路がほぼ均一になるように、設置されるのが望ましい。また、気液混合流がスムーズに上昇するように、各膜エレメントが水平方向に配列されるのが良い。この水平方向とは、水平を基準に±20°の範囲を指す。流路の幅は、散気装置10から排出されるエアの量によって適宜設定することができるが、一例として、膜エレメント1枚当たり5〜25L/分のエアを散気装置10から排出する場合、4〜20mmの幅とするのが望ましい。
【0033】
ろ過膜の分離機能部分を形成する材質としては、特に限定されているものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、セルロースアセテート、ポリアクリロニトリル、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルフルオライト、その他の材質を適宜選択して使用することができる。連続で散気するような環境下で使用するろ過膜の場合には、耐久性の高いポリオレフィン系やフッ素系の材質が特に好ましい。
【0034】
本発明の汚泥脱水濃縮方法において、有機性汚泥は膜表層部において固液分離され、分離された水がろ過水(処理水)として膜内へと透過する。本発明の汚泥濃縮脱水装置では、ろ過膜として、膜表面における表面粗さが0.1μm以下、さらには0.01〜0.07μmと、膜表面粗さが小さい平滑表面の分離膜を用いることが好ましい。さらに、ろ過膜は、その膜表面における平均孔径が0.2μm以下、さらには、0.01〜0.1μmであることが好ましい。
【0035】
散気装置10は、水平方向であって、膜エレメントの膜面と交差する方向に延びる複数本の散気管から構成され、膜エレメントの膜面と交差する方向に、散気管の長手方向軸が配置されていることが好ましい。特に、筺体で囲まれたMBRモジュール3内の膜エレメントの膜間空間内に、下方から気泡を上昇させて、膜面に気泡を作用させるためには、その膜間空間の鉛直下方向に散気孔が満遍なく存在するように散気装置を配置することが好ましく、これにより、膜エレメントの膜面に均一に気泡を作用させ、ろ過膜表面を効率よく洗浄することができ、高い膜ろ過流速を得ることができる。
【0036】
前凝集槽1で凝集剤6と混合した有機性汚泥4は、汚泥濃縮槽2に流入され、散気装置10により生じる旋回流により、汚泥濃縮槽2内で混合される。汚泥濃縮槽2中での混合汚泥の滞留時間および膜分離透過フラックスは特に限定されず、混合汚泥のMLSS濃度が35,000から55,000mg/Lになるよう設定すればいい。一例として、MLSS濃度15,000mg/Lの有機性汚泥4を、汚泥濃縮槽2での滞留時間を30時間に設定し、透過フラックス0.2m/dで膜分離を行ったところ、MBRモジュール3により混合汚泥は濃縮され、MLSS濃度35,000mg/Lの混合汚泥が得られる。この際、汚泥濃縮槽2で濃縮された混合汚泥のMLSS濃度は、SS計11により測定される。さらに、汚泥濃縮槽2で濃縮された混合汚泥の温度は、温度計12により測定される。さらに、汚泥濃縮槽2で濃縮された混合汚泥の粘度は、サンプルを採集し、粘度計を用いて測定することができる。
【0037】
膜面に濃縮付着した物質を効率よく離脱させるためには、エアを膜面間に供給させると共に、MBRモジュールの周囲および膜面間に旋回流を形成させ、剥離効果を高める必要がある。旋回流の流速を上げるためには、エアの量を大きくしなければならないが、汚泥を濃縮させると、汚泥のMLSS濃度や粘度が高くなるため、抵抗が大きくなり、同じエア量でも旋回流速が小さくなってしまう。このため、膜面を洗浄できる旋回流速を確保するため、汚泥性状に応じてエア量を調節する必要がある。
【0038】
通常、旋回流速として30cm/秒以上あれば、十分な洗浄効果を有しており、例えば、MLSS濃度35,000mg/L以下、粘度300mPa・s以下であれば、エア量を5L/min・エレメント以下でも十分旋回流を形成させることができるが、MLSS濃度50,000〜55,000mg/L、粘度450〜500mPa・s程度ではエア量25L/min・エレメント程度に増加させないと効率よく旋回流を形成させ、膜面洗浄効果を上げることができない。
【0039】
ここで、表1は、本発明の汚泥脱水濃縮方法の一例として、本発明に係るろ過膜が平膜であり、MBRモジュール3として平膜エレメントを使用した場合における、汚泥濃縮槽中の有機性汚泥の濃度、温度、粘度のうちの少なくとも一つの測定値を利用して、散気装置10からのエア供給量を決定するために用いる換算表である。
【0040】
SS計11により測定されたMLSS濃度から、表1のエア供給表に基づき、エア供給量を決定する。その後、ブロア9から散気装置10までにある流量計14とバルブ15を用いて、決定したエア供給量を供給する。
【0041】
温度計12により測定された温度から、表1のエア供給表に基づき、エア供給量を決定する。その後、ブロア9から散気装置10までにある流量計14とバルブ15を用いて、決定したエア供給量を供給する。
【0042】
汚泥濃縮槽2から採集した混合汚泥のサンプルを、粘度計を用いて測定し、測定した粘度から、表1のエア供給表に基づき、エア供給量を決定する。その後、ブロア9から散気装置10までにある流量計14とバルブ15を用いて、決定したエア供給量を供給する。
【0043】
このように膜エレメントが配列されたMBRモジュール3の下方に散気装置10が設置され、一体となった浸漬型膜分離装置は、汚泥濃縮槽2内に浸漬設置され、運転を行う。汚泥濃縮槽2内の混合汚泥は、ポンプの吸引あるいは水頭差によりMBRモジュール3に設置されたろ過膜を通過する。この際、混合汚泥中に含まれる微生物粒子、無機物粒子などの懸濁物質が阻止される。そして、ろ過膜を通過した水は、膜エレメント内のろ過水流路および透過水管8を通じて取り出される。一方、ろ過と平行してブロア9から供給されたエアが散気装置10から汚泥濃縮槽2内に放出され、このエアが膜エレメントの膜面間を上昇し、膜面に濃縮付着した物質を離脱させる。MBRモジュール3を通過したエアは、汚泥濃縮槽2上部の大気中へ消えるが、MBRモジュール3内部を上昇した混合汚泥はMBRモジュール3の外側を下降して、再びMBRモジュール3下部の開口部からMBRモジュール3内に入る旋回流を形成する。汚泥濃縮槽2で脱水濃縮した混合汚泥は汚泥排出管13を用いて引き抜きを行う。
上述した通り、散気装置10から供給されるエア量は、測定機器から得られた汚泥濃縮槽2中の混合汚泥の濃度、温度、粘度のうちの少なくとも一つの測定値を用いて、表1に基づき決定し、汚泥濃縮槽2に供給するエア量に換算した後、ブロア9から散気装置10までにある流量計14とバルブ15を用いて、決定したエア供給量を供給する。この方法により、膜にダメージを与えずに膜面を効率良く洗浄することができる。
【0044】
【表1】

【実施例】
【0045】
(実施例1)
図1に示す汚泥脱水濃縮装置を用いて、別に設置してある膜分離活性汚泥槽内の活性汚泥を約6ヶ月にわたって処理した。実験条件を表2に示し、その結果を図2、3および4に示す。
【0046】
流路材の代わりとなる凸凹を両面に形成した、高さ1500mm×幅500mm×厚み6mmのABS製支持板の表裏面に、それぞれろ過膜(平膜)を設置して、膜エレメント(分離膜面積は1.4m)を作製した。ここで、ろ過膜としては、ポリフッ化ビニリデン製の表面平均孔径0.08μm、表面粗さ0.062μmの平膜を用いた。
【0047】
次に、内寸(略寸)が高さ1500mm×515mm×奥行417mmで上下が開放した筺体を製作した。筺体の下には枠体が連接されて、枠体内の空間の所定位置に、散気装置10が固設されていて、エレメント下端から散気装置10までの上下方向の距離は280mmであった。また、散気装置10として、2mmの穴が10個設けられている直径25mmの粗大気泡散気管を2本用い、所定位置に設置するために、散気管へ空気を送給する空気供給管を枠体に固定した。なお、散気管同士の水平間隔は290mmとした。
【0048】
以上のようにして、20枚の膜エレメントが筺体内に装填され、枠体と散気管とが設置された、MBRモジュール3を製作した。また、表2にまとめて示す条件にて、図1に示す汚泥脱水濃縮装置によって、汚泥の濃縮脱水処理を行った。
【0049】
MBRモジュール3による膜ろ過は吸引ポンプで透過水側を吸引することにより行った。また、ろ過膜の膜表面への汚泥付着防止のため、タイマーを内蔵し、予め記録されたプログラムに従い、定期的に吸引ポンプの運転/停止を切り替えた。膜ろ過は、8分運転と2分休止とを繰り返す間欠運転で行い、膜ろ過流速は平均0.2m/dと固定した運転を行った。
【0050】
さらに、汚泥濃縮槽2中の混合汚泥の濃度、温度および粘度の測定結果を基に、表1からエア供給量を設定した。各条件下で30日間行い、それぞれの設定条件とエア供給量との関係から、ろ過膜に与えるダメージを測定した。膜ダメージを表す指標として、30日間運転を行った後のろ過膜の引っ張り強度を測定した。下水濃縮汚泥のMLSS濃度、温度および粘度それぞれの条件下で行ったエア供給量が膜に与えるダメージの結果を図2、3および4に示す。図2,3および4に示すよう、エア供給量の増加により膜の強度が低下するものの、これらの条件では80N/25mm以上の強度を有していた。
【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の汚泥脱水濃縮方法およびその装置は、下水等の汚水(廃水)を、膜分離活性汚泥法により処理し、水を清浄化する廃水処理を行う場合に適用することができ、特に曝気によって生じる膜の強度低下を予測することで、膜にダメージを与えず、かつ、コスト削減が可能な汚泥濃縮を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を実施する実験装置の概要図を示す。
【図2】様々なMLSS濃度におけるエア供給量と膜強度との関係を示す。条件は温度20℃、粘度400 mPa・sである。
【図3】様々な温度におけるエア供給量と膜強度との関係を示す。条件はMLSS 45,000 mg/L、粘度400 mPa・sである。
【図4】様々な粘度におけるエア供給量と膜強度との関係を示す。条件は温度20℃、MLSS 45,000 mg/Lである。
【符号の説明】
【0054】
1 前凝集槽
2 汚泥濃縮槽
3 MBRモジュール
4 有機性汚泥
5 配管
6 凝集剤
7 攪拌機
8 透過水管
9 ブロア
10 散気装置
11 SS計
12 温度計
13 汚泥排出管
14 流量計
15 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性汚泥を、前凝集槽にて凝集剤添加を経て撹拌、凝集させ、その後、汚泥濃縮槽にてろ過膜による脱水濃縮、および散気により該ろ過膜の洗浄を行う汚泥脱水濃縮方法において、該汚泥濃縮槽中の有機性汚泥の濃度、温度、粘度のうちの少なくとも一つの測定値を利用して、散気される空気の量を決定することを特徴とする汚泥脱水濃縮方法。
【請求項2】
前記汚泥濃縮槽にて脱水濃縮された前記有機性汚泥が、MLSS濃度35,000〜55,000mg/Lであることを特徴とする請求項1に記載の汚泥脱水濃縮方法。
【請求項3】
前記ろ過膜が平膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の汚泥脱水濃縮方法。
【請求項4】
前記散気される空気の量が、エレメント1枚あたり5〜25L/minであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の汚泥濃縮脱水方法。
【請求項5】
前凝集槽と、汚泥濃縮槽とをこの順に備え、該前凝集槽に、有機性汚泥を供給する配管と、凝集剤を供給する配管と、撹拌を行う攪拌機とを備え、該汚泥濃縮槽に、該前凝集槽で処理された有機性汚泥を供給する配管と、ろ過膜と、散気装置とを備える汚泥脱水濃縮装置において、該汚泥濃縮槽に、該汚泥濃縮槽中の有機性汚泥の濃度、温度、粘度のうちの少なくとも一つを測定する装置を備えることを特徴とする汚泥脱水濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−46561(P2010−46561A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210343(P2008−210343)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】