説明

決明子抽出物

【課題】臨床上有効量のルブロフサリン配糖体を含有しつつ、下痢を誘発しない程度にまで特定成分の含有量が減じられた決明子抽出物を提供すること。
【解決手段】(A)エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシン、並びにそれらの配糖体及び(B)ルブロフサリン及びその配糖体が、重量比[(A)/(B)]2.00以下(好ましくは1.90以下、より好ましくは1.80以下、さらに好ましくは1.75以下)となるように制御抽出する。制御抽出は、決明子を微粉砕し、微粉砕物を熱水に浸せきすることによる。微粉砕は、爆砕処理又は発芽処理により行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、高濃度のルブロフサリン配糖体と低濃度の下痢誘発成分を含有する決明子抽出物を提供することに関する。
【従来の技術】
【0002】

決明子(ケツメイシ)はエビスグサの種子であり、焙煎して煎じ、ハブ茶として飲用され、また目の症状に効果があるとして民間薬として利用されている。決明子は日本では局方に生薬として収載されており、整腸、腹部膨満感、便秘の処置の目的で煎用される。決明子抽出物に抗酸化作用を見いだし、油脂を含む化粧品用の抗酸化剤として利用しようとする試みもある(特許文献1)。
【0003】
整腸、便通の改善の目的で使用されることからも明らかであるように、決明子抽出物には瀉下作用が認められており(非特許文献1及び2)、そのような作用を有する成分として、Anthraquinone類のchrysophanol、emodin、aloe-emodin、rhein、physcion、obtusin、obtusifolin、chryso-obtusin、aurantio-obtuinなどが挙げられている(非特許文献3)。
【0004】
近年、ケツメイシ抽出物に細胞内におけるグルタチオン合成能を促進させる成分が存在することが見いだされ、この成分がルブロフサリン配糖体であることが特定された(特許文献2)。グルタチオンは、細胞内に比較的高濃度で含有される多機能性の生体成分であり、酸化ストレスに起因する多くの疾患や加齢に伴う老化において、細胞内/組織内のグルタチオンレベルの低下が認められている。したがって、生体内グルタチオン濃度を高めることが、これらの疾患又は状態の予防のために有意義であると考えられている。しかしながら、グルタチオンそのものを経口的に投与しても、血中の半減期が数分と短いために生体内のグルタチオンレベルの増加には有効でない。
【特許文献1】特開平10−8049号公報
【特許文献2】特開2004−2231号公報
【非特許文献1】滝戸道夫、『決明子の資源及び成分とその生物活性』、現代東洋医学 Vol.17 No.2 1996-6
【非特許文献2】田中千賀子・加藤隆一、『NEW薬理学』、南江堂(1992)、p440
【非特許文献3】柴田承ニ、『薬用天然物質』、南山堂(1982)、 p457-470
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によると、一日当たり約30mgのルブロフサリン配糖体をヒトに経口投与した場合に、血中グルタチオン濃度の上昇が認められた(参考例1、図2参照)。
【0006】
また、本発明者らの検討によると、決明子のエタノール抽出物は、ルブロフサリン配糖体を多く含むものの瀉下作用も有するものであった。一方、熱水抽出物は、瀉下作用は低いがルブロフサリン配糖体含有量も低く、有効量のルブロフサリン配糖体を摂取するためには、結局多量の抽出物を摂取することとなり、官能的に好ましくないばかりか、瀉下作用を発揮する可能性が高くなることが分かった。
【0007】
決明子抽出物には種々の有効成分が含まれると考えられることから、単にルブロフサリン配糖体のみを摂取するのではなく、決明子抽出物としてルブロフサリン配糖体を摂取することには様々な意義があるといえる。しかしながら、上述したとおり、グルタチオンの血中濃度上昇のために有効な量のルブロフサリン配糖体を含む決明子抽出物の摂取には、比較的大量の瀉下作用を有する成分の摂取が伴い、下痢等の望ましくない効果が誘発されることが懸念された。
【0008】
このような観点から、本発明は、臨床上有効量のルブロフサリン配糖体を含有しつつ、下痢を誘発しない程度にまで特定成分の含有量が減じられた決明子抽出物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの検討によれば、特殊な条件で制御抽出を行うことにより、決明子抽出物中の下痢誘発成分とルブロフサリン配糖体の含量を特定の重量比とすることができた。そして、そのようにして得られた決明子抽出物は、臨床上有効量のルブロフサリン配糖体を摂取する目的で用いた場合にも実質的な瀉下作用を有しないことを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、すなわち、下記(A)及び(B)を重量比[(A)/(B)]2.00以下(好ましくは1.7以下、より好ましくは1.6以下、さらに好ましくは1.5以下)で含有する、決明子抽出物を提供する:
(A)エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシン、並びにそれらの配糖体;
(B)ルブロフサリン及びその配糖体。
【0011】
本明細書で「決明子」というときは、特別な場合を除き、マメ科(Leguminosae)の和名エビスグサ(Cassia obtusifolia L. 又はCassiatora L.)の種子をいう。種子は、そのままでもよく、焙煎したものでもよいが、本発明には、焙煎していないそのままのものを好適に用いることができる。本発明は、決明子の代わりに、同様にルブロフサリン配糖体と下痢誘発成分を含有する植物にも適用することができる。例えば、カワラケツメイ属に属するハブソウ(Cassia occidentalis)も、決明子と同様に本発明において利用することができる。
【0012】
本発明の(A)群は、決明子抽出物中に含まれる下痢を誘発しうる成分からなる。これには、アントラキノン(Anthraquinone)類の、エモジン(emodin)、アロエエモジン(aloe-emodin)、クリソファノール(chrysophanol)、フィスシオン(physcion)、オブツシン(obtusin)、クリソオブツシン(chryso-obtusin)、オーランチオオブツシン(aurantio-obtuin)、オブツシフォリン(obtusifolin)、レイン(rhein)が含まれる(非特許文献3参照)。これらの各成分は決明子中では、通常、配糖体として存在する。本発明では、下痢誘発成分群(A)として、特にエモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシンを指標とすることができる。本明細書で、成分群(A)について「エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシン、並びにそれらの配糖体」というときは、特別な場合を除き、エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン、オーランチオオブツシン、エモジン配糖体、アロエエモジン配糖体、クリソファノール配糖体、フィスシオン配糖体及びオーランチオオブツシン配糖体のうち、存在するもののすべてからなる成分群をいう。
【0013】
本発明の(B)群は、ルブロフサリン及びルブロフサリン配糖体からなる。ルブロフサリンがすべて配糖体として存在する場合は、(B)群はルブロフサリン配糖体のみからなる。ルブルフサリンは決明子及びその抽出物中では、通常、配糖体として存在する。
【0014】
本明細書でいう「ルブロフサリン配糖体」とは、特別な場合を除き、次式で表されるルブロフサリンゲンチオビオサイト及びその類縁体をいう。ルブロフサリンの三糖配糖体及び四糖配糖体も存在するが、これらも含めて、本明細書ではルブロフサリン配糖体という。
【0015】
【化1】

【0016】
本明細書で、「重量比[(A)/(B)]」というときの(A)の重量は、特別な場合を除き、エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシンとしての総重量を指す。すなわち、配糖体でないものはそのままで、また配糖体であるものは、配糖部分を除いたエモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシンとして、それらを総じた重量を指す。また、本明細書で、「重量比[(A)/(B)]」というときの(B)の重量は、ルブロフサリンとしての重量を指す。すなわち、ルブロフサリンとして存在するものはそのままで、ルブロフサリン配糖体は配糖部分を除いたルブロフサリンとして、総じた重量を指す。(A)の重量及び(B)の重量は、当業者であれば適宜求めることができる。例えば本明細書の実施例1に示した方法に準じて、決明子抽出物を加水分解酵素(例えば、β−グルコシダーゼ)で処理することにより配糖部分を除去し、HPLCにより配糖部分を除いた目的成分を定量することにより、(A)の重量及び(B)の重量を求めることができる。重量比[(A)/(B)]は、本発明においては、2.00以下であり、好ましくは1.90以下、より好ましくは1.80以下、さらに好ましくは1.75以下である。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0017】
重量比[(A)/(B)]を、上述のようにするためには、決明子を微粉砕し;微粉砕物を60℃以上(好ましくは、70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上)の熱水に、35〜300分間(好ましくは40〜240分間、より好ましくは150分間、さらに好ましくは45〜120分間)浸漬して抽出液を得るとよい。
【0018】
種子の微粉砕方法には、発芽処理、HHS処理(高温高圧処理)、爆砕処理(瞬間高温加圧処理)、pH処理等の種子組織を軟らかくする処理が含まれる。好ましくは、爆砕処理又は発芽処理である。
【0019】
爆砕処理は、耐圧容器中で原料を高温・高圧条件に所定の時間曝した後、急激に大気圧に解放することによって原料を粉砕する処理をいう。本発明において、決明子を爆砕処理する場合の条件は、所望の重量比が達成できる限り特に制限はないが、例えば通常の爆砕処理設備において用いられる158〜225℃(飽和蒸気圧5〜25kg/cm2G)、数秒〜数時間の条件を適用することができる。条件適用に際しては、主要成分であるルブロフサリン配糖体が比較的熱に強いことを考慮してもよい。爆砕処理に供することにより内部の水が気化して決明子の体積が爆発的に膨張するので、決明子の組織を内部から充分に破砕することができ、続く抽出工程において組織内部からの所望の成分の抽出効率を高めることができる。
【0020】
本発明において発芽処理は、決明子生種子を充分に水を含ませた状態で1〜数日間、必要に応じ加温下に置くことにより、実施することができる。発芽は目視で確認することでき、多数の種子を処理する場合は、そのうちの一部(例えば、1つ)の発芽が確認できたときを発芽処理終了の基準とすることができる。発芽処理もまた、決明子種子の組織内部からの所望の成分の抽出効率を高めることができる。
【0021】
本発明における決明子種子の微粉砕方法としては、通常の機械的な粉砕処理は、原料粒度が細かくなるため、続く抽出工程において負荷が大きく、歩留まりが悪くなり、非効率的になるという点で、好ましくない場合がある。また、粉砕処理では、通常、決明子の組織が壊れないため、爆砕処理及び発芽処理に比較すると所望の成分の抽出効率において劣る。
【0022】
決明子の微粉砕物は、抽出工程に供される。抽出溶媒としては、所望の[(A)/(B)]の重量比が達成可能である限り特に制限はないが、水系溶媒(例えば水、水及びエタノールの混合物)、エタノールが例示される。エタノール抽出では下痢誘発成分が多く抽出され、水では下痢誘発成分の抽出を比較的制御できるので、水系溶媒、特に水が好ましい。
【0023】
溶媒として、所望の[(A)/(B)]の重量比が達成可能である限り、有機溶媒を用いてもよく、有機溶媒は2種類以上組み合わせて使用してもよいが、飲食物を製造するとの観点からは、水系又はエタノール系の溶媒、特に水が好ましい。
【0024】
抽出温度は、主要成分であるルブロフサリン配糖体が熱に強いことから、比較的高温とすることができる。例えば、溶媒として水を用いる場合、60℃以上、好ましくは、70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上である。100℃以上とするには加圧装置が必要となり、仕込み量が減る点を考慮して、100℃以下としてもよい。
【0025】
抽出時間は、例えば、35〜300分間、好ましくは40〜240分間、より好ましくは45〜120分間である。本発明者らの検討によれば、90℃の熱水を用いた場合、60分間の抽出と120分間の抽出では、差違が見られなかった。この結果を考慮して、60分以下としてもよい。
【0026】
抽出工程により得られた抽出液は、更に酵素処理し、カラム操作してもよい。酵素処理は、熱水抽出後に生成される粘性物質(多糖類)を除去して製造効率を高めるための処理であり、使用する酵素は、市販のα-アミラ−ゼ、β−アミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼなどを用いることができ、特にα-アミラ−ゼが好ましい。カラム操作の樹脂は、合成吸着剤の芳香族系のものを好適に用いることができる。
【0027】
決明子を原材料として本発明の抽出物を調製する一例として次に示す。爆砕処理又は発芽処理した決明子に溶媒を加え、加温抽出を行い、固液分離のためろ過し、ろ液を酵素処理して、粗抽出ろ液を得る。抽出のため添加する溶媒量は原材料に対して3〜10倍量とすることができる。ろ液は、カラム処理することができる。カラム操作は、例えば工業的に汎用されているダイヤイオンHP20(三菱化学社製)などの吸着用樹脂を利用する。熱水抽出物は、ろ液を直接樹脂と接触させることができる。カラムに夾雑物を吸着させ分画する。このようにして得られた抽出液は通常の減圧濃縮、凍結乾燥などの方法により濃縮又は乾燥粉体化することができる。
【0028】
本発明はまた、本発明により得られた決明子抽出物を含有した、飲食品を提供する。このような飲食品は、本発明の決明子抽出物は瀉下作用が減じられているので、血液中のグルタチオン濃度を維持又は増加させるために有効な量のルブロフサリン配糖体を含むように設計することができる。
【0029】
本明細書において、「飲食品」とは、調味料、栄養補助食品、健康食品、食事療法用食品、総合健康食品、サプリメント及び飲料並びに経口投与の医薬品を含む。
【0030】
飲食品の具体的な形状としては、どのような形状でもかまわない。固形状、半流動状、流動状などを挙げることができる。固形状食品としては、ビスケット状、シート状、タブレットやカプセルなどの錠剤、顆粒粉末などの形態の一般食品及び健康食品があげられる。半流動状食品としては、ペースト状、ゼリー状、ゲル状などの、また、流動状食品としては、ジュース、清涼飲料、茶、ドリンク剤などの形態の一般食品及び健康食品があげられる。本発明の飲食品は、タブレット、飲料等の形態が好ましい。
【0031】
本発明の飲食品中における決明子抽出物の配合量は、特に限定されないが、ルブロフサリン配糖体の好ましい一日摂取量を参考に、当業者であれば、該飲食品の摂取形態に応じて、配合量を適宜設定することができる。通常、本発明の飲食品に対して、一日当たりの摂取量あたり、ルブロフサリン配糖体が30mg以上、45mg以上、60mg以上含有するように添加する。
【0032】
本発明の飲食品には、本発明の決明子抽出物の他に、通常の飲食品に用いられる種々の成分を含有することができる。これらの添加剤及び/又は成分の例としては、ビタミン類、糖類、賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、香料、凝固剤、pH調整剤、増粘剤、茶エキス、生薬エキス、無機塩等が挙げられる。
【0033】
なお、本発明の飲食品には、その具体的な用途(例えば、健康維持のため等)及び/又はその具体的な用い方(例えば、摂取量、摂取回数、摂取方法等)を表示することができる。
【0034】
本発明はまた、(A)エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシン、並びにそれらの配糖体を、(B)ルブロフサリン及びその配糖体に対して重量比[(A)/(B)]2.00以下(好ましくは1.90以下、より好ましくは1.80以下、さらに好ましくは1.75以下)となるように減少させたことを特徴とする、決明子抽出物を含むグルタチオン濃度を維持又は増加するための経口組成物の、瀉下作用の低減方法;並びに決明子を微粉砕し;微粉砕物を60℃以上(好ましくは、70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上)の熱水に、35〜300分間(好ましくは40〜240分間、より好ましくは150分間、さらに好ましくは45〜120分間)浸漬して抽出液を得る工程を含む、決明子抽出物を含むグルタチオン濃度を維持又は増加するための経口組成物の、瀉下作用の低減方法を提供する。
〔発明の効果〕
【0035】
本発明は細胞内におけるグルタチオン合成能を増加させる有効成分ルブロフサリン配糖体と特定した下痢誘発成分を指標とし、下痢誘発成分に対するルブロフサリン配糖体との含有重量比[(A)/(B)]が2.00以下であることを規定した組成物として有効成分を効率良く摂取でき、下痢誘発性のリスクが少ない決明子抽出物を提供する。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1〕種々の抽出条件によるルブロフサリン配糖体と下痢誘発成分の含有比の分析
1. 材料及び方法
決明子抽出物
(ア)決明子(中国産、C.tora乾燥種子)を50℃の70%(v/v)エタノ−ル10倍量で2時間抽出後、60メッシュでろ過し、ダイヤイオン HP20(三菱化学社製)で操作した溶液を噴霧乾燥した粉体(茶褐色の粉末状)。
【0038】
(イ)決明子(中国産、C.tora乾燥種子)を90℃の熱水10倍量で1時間抽出後、60メッシュでろ過し、α-アミラ−ゼで60℃、15分酵素処理を施し、ダイヤイオンHP20(三菱化学社製)で操作した溶液を噴霧乾燥した粉体(茶褐色の粉末状)。
【0039】
(ウ)決明子(中国産、C.tora乾燥種子)を170℃、1.2秒爆砕処理し、90℃の熱水20倍量で1時間抽出後、60メッシュでろ過し、α-アミラ−ゼで60℃、15分酵素処理を施し、ダイヤイオンHP20(三菱化学社製)で操作した溶液を噴霧乾燥した粉体(茶褐色の粉末状)。
【0040】
分析試料の調製方法
0.6M酢酸バッファー(pH4.9)に酵素のβーグルコシダーゼ(ヤクルト社製)を1mg/mlで溶解し、更にあらかじめエタノールに溶かした抽出物を1mg/mlとなるように添加して、40℃、1.5時間反応させた。反応停止液として反応液と同量の0.1%TFA/ CH3CNを加え、ソニック後、0.45μmのフィルターでろ過した溶液を分析試料として調製した。これをHPLCに供し、予め標準物質を用いて作成した検量線に基づいて各成分量を求めた。
【0041】
HPLCの分析条件
カラム:Ascentis C18-3μm, 4.6mmφ x 150mm
移動相:A=0.1%TFA/H2O、 B= 0.1%TFA/100%CH3CN, 0.8ml/min
グラジエント: B40%→B80%(10min)、B80%iso10min
インジェクション:10μL、検出:A280nm(PDA:220-500nm)
2. 結果
溶出パターンを確認した結果を図1に示した。また、分析結果を表1にまとめた(表中、各成分量の単位はμg/mg)。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、(ア)エタノール抽出、(イ)熱水抽出、(ウ)爆砕処理熱水抽出の各ルブロフサリンと下痢誘発成分の含有重量比は、(ア)が(ウ)の約2倍であり、(イ)が(ウ)の約1.3倍になった。すなわち、有効成分のルブロフサリンに対して(ア)、(イ)は下痢誘発成分が約2倍、約1.3倍多く抽出されており、下痢を誘発する危険性が(ウ)より高い抽出物といえる。
【0044】
〔実施例2〕発芽決明子によるルブロフサリン配糖体と下痢誘発成分の含有比の分析
発芽決明子の抽出方法
決明子(インド産)を3日間で発芽させて、90℃の熱水で抽出し、α-アミラ-ゼで酵素処理を施し、ダイヤイオンHP20(三菱化学社製)で操作した抽出液を用いた。
【0045】
調製及び分析は実施例1と同様の方法で行った。
【0046】
結果を表2に示した。
【0047】
【表2】

【0048】
表2から、ルブロフサリンと下痢誘発成分の含有重量比は1.55であった。表1の(ウ)爆砕処理熱水抽出と同等以上の下痢誘発性を低減できる抽出方法といえる。
【0049】
〔実施例3〕決明子抽出物の下痢誘発性試験
ICR雄性マウス6週齢(日本クレア株式会社)、1群10〜11匹を用いて10ml/kgの割合で5時間の間隔をあけて抽出物を2回経口投与し、その30分後に活性炭素を経口投与し、さらに30分後に小腸内の炭末輸送率(%)[炭末の移動距離(cm)×100/小腸の全長(cm)]を測定した。
【0050】
結果を表3に示した。
【0051】
【表3】

【0052】
表3より、(ア)エタノ−ル抽出物より(イ)熱水抽出物と(ウ)爆砕処理熱水抽出物の方が明らかに下痢誘発性の低減がみられる。特に(ウ)の爆砕処理熱水抽出物は下痢誘発性も低減できルブロフサリン配糖体の抽出量が多いものである。
【0053】
〔実施例4〕決明子抽出物含有飲料の作製
実施例1の(ウ)の抽出方法に従って製造した決明子精製抽出物0.9gに189.1gの純水に溶解させレトルト殺菌(121℃、15分)し飲料を作製した。表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
淡茶褐色で香りはせず、味はかすかなコクと苦味があった。ルブロフサリン含量は、約8mg/本であった。
【0056】
〔実施例5〕決明子抽出物含有食品の作製
実施例1の(ウ)の抽出方法に従って製造した決明子精製抽出物90gを混合し、打錠機でタブレットを作製する。表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
〔実施例6〕決明子抽出物含有食品の作製
穀物茶、ウーロン茶、緑茶、紅茶等の茶葉を単独で又は混合して最終製品全量の5〜20%使用し、抽出液を得る。抽出液に、実施例2に従って製造した決明子精製抽出物(終濃度約0.4%)と、アスコルビン酸(終濃度約0.4%)、炭酸水素ナトリウム(終濃度約0.25%)を添加してpH約6.0〜7.0に調製し、純水を加えて茶飲料とする。
【0059】
〔参考例1〕決明子摂取がヒト血漿中グルタチオン濃度に与える影響
平均的な便通習慣を有する健常人5名に、決明子エタノール抽出物を配合した飲料(決明子抽出物含量:0.3g/190mL)を1缶/day(ルブロフサリンとして、35.6mg/day)×3日間、次いで3缶/day(ルブロフサリンとして、106.7mg/day)×3日間摂取させ、4名の結果を得た。
【0060】
4名についての血漿中グルタチオン(GSH)濃度の測定結果を図2に示した。問診の結果、便通がゆるくなったと答えた人がほとんどであった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によって、抗疲労の予防又は治療の目的として、副作用の下痢誘発を少なくし安心して摂取できる決明子抽出物を飲料や食品、特に健康食品の提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】決明子抽出物の組成を示すHPLC分析チャートである。
【図2】決明子摂取によるヒト血漿中グルタチオン(GSH)濃度の上昇を表すグラフである。左のグラフには4名の平均値を、右のグラフには各々の値の変化を表した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)を、重量比[(A)/(B)]2.00以下で含有する、決明子抽出物:
(A)エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシン、並びにそれらの配糖体;
(B)ルブロフサリン及びその配糖体。
【請求項2】
決明子を微粉砕し;微粉砕物を60℃以上の熱水に、35〜300分間浸漬して抽出液を得る工程を含む抽出方法により得られる、決明子抽出物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抽出物を含有した、飲食品。
【請求項4】
血液中のグルタチオン濃度を維持又は増加させるために有効な量のルブロフサリン配糖体を含む、請求項3に記載の飲食品。
【請求項5】
下記(A)及び(B)が、重量比[(A)/(B)]2.00以下となるように制御抽出する工程を含む、製造方法:
(A)エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシン、並びにそれらの配糖体;
(B)ルブロフサリン及びその配糖体。
【請求項6】
制御抽出工程が、決明子を微粉砕し;微粉砕物を60℃以上の熱水に、35〜300分間浸せきして抽出液を得る工程である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
下記(A)を、下記(B)に対して重量比[(A)/(B)]2.00以下となるように減少させたことを特徴とする、決明子抽出物を含む生体内でのグルタチオン濃度を維持又は増加するための経口組成物の、瀉下作用の低減方法:
(A)エモジン、アロエエモジン、クリソファノール、フィスシオン及びオーランチオオブツシン、並びにそれらの配糖体;
(B)ルブロフサリン及びその配糖体。
【請求項8】
決明子を微粉砕し;微粉砕物を60℃以上の熱水に、35〜300分間浸漬して抽出液を得る工程を含む、決明子抽出物を含むグルタチオン濃度を維持又は増加するための経口組成物の、瀉下作用の低減方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−7473(P2008−7473A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181005(P2006−181005)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】