沈水植物の群落形成方法及びこれに用いられる植生基盤
【課題】植生基盤の土壌が水中へ流失することにより生じる植生マットの育成機能の低下や水質汚濁を低減させることと、沈水植物の群落を閉鎖性水域の水底に再生させるコストを低減することである。
【解決手段】沈水植物12の群落を形成する対象となる湖沼等の閉鎖性水域11の水面または光量が確保できる水中に植生基盤13を設置する。植生基盤13の土壌層26の上に植生マット27を設置し、この植生マット27に移植した沈水植物12を当該植生マット27上で事前栽培する。事前栽培により沈水植物12が繁茂した植生マット27を閉鎖性水域11の水底に沈め、当該水底に沈水植物12の群落を形成する。
【解決手段】沈水植物12の群落を形成する対象となる湖沼等の閉鎖性水域11の水面または光量が確保できる水中に植生基盤13を設置する。植生基盤13の土壌層26の上に植生マット27を設置し、この植生マット27に移植した沈水植物12を当該植生マット27上で事前栽培する。事前栽培により沈水植物12が繁茂した植生マット27を閉鎖性水域11の水底に沈め、当該水底に沈水植物12の群落を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に、フサモ、イトモ、エビモ等の沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法及びこれに用いられる沈水植物を育成するための植生基盤の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フサモ、イトモ、エビモ等の沈水植物の群落には、栄養塩吸収作用や懸濁物の付着、沈降、再懸濁防止作用、ミジンコなどの動物プランクトンや付着微生物の増加等の様々な水質浄化作用があることが知られている。また、小魚や底生動物が増加する等の生態系修復機能を持つことも知られている。
【0003】
しかしながら、高度経済成長期の栄養塩の増大、過剰の除草剤の投入による水質汚染により、全国各地の閉鎖性水域で、沈水植物の群落が絶滅、消失、衰退している。
【0004】
そこで、水質改善や生物多様性の保護の観点から、このような閉鎖性水域に沈水植物の群落を再生する試みが実施されている。
【0005】
例えば特許文献1には、フロートに吊したシート部材に植生マットを収容して浮島に構成した植生基盤を用い、その植生マット上で沈水植物を栽培するとともに、その育成に合わせて植生基盤を徐々に水中に沈めていき、最終的に沈水植物が繁茂した植生基盤を水底にまで沈めて当該水底に定着させるようにした技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】2007−259790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、植生基盤を水底に定着させるまでの間、沈水植物の育成に必要な栄養を与えるために、植生マットの表面に栄養物を含んだ土壌を塗り込むようにしているので、植生基盤を水中に投入する際や長期間水中に設置している間に、植生マットから水中に土壌が流出するおそれがあった。植生マットから水中に土壌が流出すると、植生マットの育成機能が低下するとともに水質汚濁を生じることになる。また、植生マットの土壌が塗り込まれた表面が泥状となって、沈水植物の切れ藻や殖芽が引っかかりにくく流され易くなり、沈水植物の植生マットへの定着性が低下する。
【0008】
さらに、植生マットの表面に土壌を塗り込む作業は、植生マットの空隙の中に土壌を充填することにより行われるので、その充填作業に手間がかかり、製造コストが高くなるという問題点もある。
【0009】
本発明の目的は、植生基盤の土壌が水中へ流失することにより生じる植生マットの育成機能の低下や水質汚濁を低減させることにある。
【0010】
本発明の他の目的は、沈水植物の群落を閉鎖性水域の水底に再生させるコストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、前記閉鎖性水域の水面または光量を確保できる水中に植生基盤を設置し、前記植生基盤の土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記植生基盤から取り外し、取り外した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする。
【0012】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、前記植生基盤は、支持ネットにより保持された下地マット上に不織布等の吸出し防止材を配置し、該吸出し防止材の上に前記土壌層を設けた構成であることを特徴とする。
【0013】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、植生マットが取り外された前記植生基盤の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、前記閉鎖性水域とは別の水槽、圃場、水深の浅い池等の光量を確保できる事前栽培用水域の水底に土壌層を設け、前記土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記事前栽培用水域から取り出し、取り出した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする。
【0015】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、植生マットが取り出された前記事前栽培用水域の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする。
【0016】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、前記植生マットは、ポリエチレンや塩化ビニル等の合成繊維またはヤシ繊維等の天然繊維で形成され、前記土壌層にピン部材で固定されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の植生基盤は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、前記閉鎖性水域の水面または光量を確保できる水中に植生基盤を設置し、前記植生基盤の土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記植生基盤から取り外し、取り外した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0018】
本発明の植生基盤は、前記植生基盤は、補強ネットにより保持された下地マット上に不織布等の吸い出し防止材を配置し、該吸い出し防止材の上に前記土壌層を設けた構成であることを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0019】
本発明の植生基盤は、植生マットが取り外された前記植生基盤の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0020】
本発明の植生基盤は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、前記閉鎖性水域とは別の水槽、圃場、水深の浅い池等の光量を確保できる事前栽培用水域の水底に土壌層を設け、前記土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記事前栽培用水域から取り出し、取り出した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0021】
本発明の植生基盤は、植生マットが取り出された前記事前栽培用水域の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0022】
本発明の植生基盤は、前記植生マットは、ポリエチレンや塩化ビニル等の合成繊維またはヤシ繊維等の天然繊維で形成され、前記土壌層にピン部材で固定されていることを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、植生基盤に設けられた土壌層の上に植生マットを敷設するようにしたので、植生基盤の土壌が水中へ流出することを防止することができる。これにより、土壌の水中への流失により生じる植生マットの育成機能の低下や水質汚濁を低減させることができる。また、植生基盤は土壌層が植生マットに覆われた構成であり、植生マットの表面が泥状となることがないので、沈水植物の切れ藻や殖芽を植生マットの表面に引っかかり易くして、沈水植物の植生マットへの定着性を高めることができる。さらに、植生マットを沈水植物が土壌中の栄養を吸収して繁茂して根付いた状態で水底に沈めるようにしたので、水底への移設初期における食害や育成不良を低減して、水底での沈水植物の拡大を促進することができる。
【0024】
本発明によれば、土壌層の上に植生マットを敷設する構成としたので、植生基盤の形成を容易にすることができる。また、植生基盤から取り外した植生マットのみを水底に沈めるようにしたので、植生基盤を再利用することができる。したがって、本発明により、沈水植物の群落を閉鎖性水域の水底に再生させるコストを低減することができる。
【0025】
本発明によれば、事前栽培用水域の水底に設けられた土壌層の上に敷設された植生マットで沈水植物を事前栽培し、これにより沈水植物が繁茂した植生マットを沈水植物群落の再生対象となる閉鎖性水域の水底に沈めるようにしたので、事前栽培や植生マットの水底への設置の作業を容易にして、沈水植物の群落を閉鎖性水域の水底に再生させるコストを低減することができる。この場合においても、植生マットを沈水植物が土壌中の栄養を吸収して繁茂して根付いた状態で水底に沈めるようにしたので、水底への移設初期における食害や育成不良を低減して、水底での沈水植物の拡大を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態である沈水植物の群落形成方法の概略を示す説明図である。
【図2】図1に示す植生基盤を示す説明図である。
【図3】図2に示す植生基盤の詳細を示す断面図である。
【図4】図3に示す植生基盤の変形例を示す断面図である。
【図5】(a)、(b)は、それぞれ植生基盤による沈水植物の事前栽培の様子を示す説明図である。
【図6】事前栽培により沈水植物が繁茂した植生マットを植生基盤から取り外した状態を示す説明図である。
【図7】植生マットへの錘の取り付け構造を示す斜視図である。
【図8】図7に示す錘の取り付け構造の変形例を示す斜視図である。
【図9】本発明の他の実施の形態である沈水植物の群落形成方法の概略を示す説明図である。
【図10】(a)〜(c)は、それぞれ図9に示す水槽による沈水植物の事前栽培の手順を示す説明図である。
【図11】事前栽培により沈水植物が繁茂した植生マットを水槽から取り出した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
本発明は、水質汚濁等により沈水植物が消失等した閉鎖性水域に沈水植物の群落を再生させるために、植生マットを用いて事前栽培した沈水植物を、植生マットとともに湖沼や池等の閉鎖性水域の水底に移植し、これを水底に定着、拡大させることにより、高効率、低コストで沈水植物の群落を水底に形成するものである。
【0029】
図1は、湖沼等の閉鎖性水域11の水底に沈水植物12の群落を形成する場合であって、事前栽培の方法として、当該閉鎖性水域11の水中に植生基盤13を設置し、この植生基盤13を用いて、当該閉鎖性水域11の水中で沈水植物12を育成させる場合を示している。
【0030】
図2に示すように、この方法で用いられる浮島14は、例えばフロート14aにより形成され、植生基盤13は浮島14に吊り下げ部材(ロープ等)15により吊されて光量(太陽光)が十分に確保できる所定の深さの水中に沈められている。なお、植生基盤13は、浮島14に吊り下げ部材15で吊される構造に限らず、例えば、水底に打ち込まれた杭にロープで吊される構成としてもよい。また、沈水植物12の種類によっては、植生基盤13を浮島14とともに水面に浮かべて設置するようにしてもよい。
【0031】
図3に示すように、この方法に用いられる本発明の一実施の形態である植生基盤13は、支持枠21、補強部材22、支持ネット(補強ネット)23、下地マット24、吸出し防止材25、土壌層26及び植生マット27から成っている。
【0032】
支持枠21は、鋼材、木材、FRP(fiber reinforced plastics)等によりアングル状に形成され、植生基盤13を陸上で運搬する際に、当該植生基盤13が破損しない強度を有するように構成されている。また、支持枠21は、人による運搬作業や設置作業が行い易いように、例えば、1m×2m以下の大きさに設定されている。
【0033】
支持枠21には支持ネット23が取り付けられ、この支持ネット23により植生基盤13の底部分が形成されている。支持ネット23は、例えば高密度ポリエチレン等により形成されたものなど、植生基盤13を陸上で運搬するのに必要な十分な引っ張り強度を有するものが用いられている。また、支持ネット23の目の大きさは、メッシュの間から土壌が沈下しない程度、例えば25mm以下に設定されている。
【0034】
支持枠21には、支持ネット23の下方への垂れ下がりを防止するための補強部材22が設けられている。補強部材22は、鋼材、木材、FRP(fiber reinforced plastics)等によりアングル状または板状に形成され、支持ネット23の下方や植生基盤13の内部に配置されている。
【0035】
支持ネット23の上には、下地マット24が敷設されている。下地マット24は、沈水植物12の根茎が薄い土壌層26の下まで十分に発達できるようにすることで横方向の植生基盤13上で沈水植物12を拡大し易くし、また、支持ネット23に作用する土壌層26の荷重を分散させて植生基盤13の形状を平面的に安定化させ、さらに、沈水植物12の根を下地マット24に絡ませることにより、魚類等の影響に対して沈水植物12を引き抜けにくくすることを目的として設置されている。この下地マット24としては、ポリエチレンや塩化ビニル等により形成された合成繊維マットや、ヤシ繊維等により形成された天然繊維マットが用いられる。この下地マット24の厚みは、10mm〜30mm程度のものが用いられ、本実施の形態の場合には、20mmのものが用いられている。
【0036】
下地マット24の上には、土壌の植生基盤13の下方からの流出を防止するために、吸出し防止材25が敷設されている。吸出し防止材25としてはポリプロピレン製等の不織布や織布が用いられる。
【0037】
吸出し防止材25の上には、栄養塩を含んだ土壌により土壌層26が設けられている。土壌としては、粘着性に富むケト土や浚渫土を脱水処理したもの、土質改良材で処理した浚渫処理土、黒ボク土等が用いられる。土壌層26の厚みは、5mm〜20mmの範囲で、陸上運搬時の重量や水中での使用期間等を考慮して設定される。例えば、水中で長期に使用する場合には、15mm程度に設定される。
【0038】
土壌層26の上には、植生マット27が設置されている。植生マット27としては、ポリエチレンや塩化ビニル等により形成された合成繊維マットや、ヤシ繊維等により形成された天然繊維マットが用いられる。この植生マット27の厚みは、5mm〜20mm程度のものが用いられ、沈水植物12の根が土壌層26に到達し易くするために、本実施の形態の場合には、その厚みは10mm程度に設定されている。
【0039】
なお、図3に示す場合では、支持枠21としてアングル状のものが用いられているが、図4に示すように、支持枠21として板状のものを用いるようにしてもよい。
【0040】
このように構成された植生基盤13の植生マット27の上に、図5(a)に示すように、沈水植物12が移植される。植生マット27に移植する沈水植物12としては、この沈水植物12を定着させる閉鎖性水域11の埋土種子を発芽させたものや、同一の流域で自生する沈水植物等から選定される。選定された沈水植物12は、ポリエチレン等の樹脂材、鋼線材または竹等により形成されたU字形のピン部材28を用いて植生マット27の上面に固定される。
【0041】
沈水植物12が移植されると、植生基盤13は、浮島14の吊り下げ部材15の長さが調整されて、閉鎖性水域11の光量が十分に確保できる所定の深さの水中に沈められる。これにより、植生マット27に移植された沈水植物12は、十分な太陽光を受け、節等から発根して植生マット27に定着し、または、殖芽が発芽して植生マット27に定着して、植生マット27上で生育し、土壌層26にまで根を発達させ、植生基盤13上で拡大、繁茂する。また、図5(b)に示すように、拡大、繁茂に伴って浮島14の吊り下げ部材15の長さが調節され、植生基盤13は水中深くに移設される。このように、植生基盤13の植生マット27を用いて、沈水植物12が、数週間から数ヶ月程度かけて、閉鎖性水域11の水中で事前栽培される。
【0042】
事前栽培により植生マット27上に沈水植物12が繁茂した状態となると、沈水植物12が繁茂した植生マット27を植生基盤13から取り外し、取り外された植生マット27が閉鎖性水域11の水底に沈められる。このとき、植生基盤13から取り外した植生マット27を、必要に応じて切断し、分割するようにしてもよい。分割形状は、水底に設置する際の作業性や水底に設置後の沈水植物の拡大等を考慮して、例えば、30cm〜1m幅に設定される。
【0043】
図7に示すように、植生マット27の両側部には、これを速やかに水底に沈めるために、錘31が取り付けられる。図7に示す場合には、錘31として棒状の鉄筋が用いられているが、これに限らず、図8に示すように、石等を用いるようにしてもよい。また、錘31は、植生マット27の両側部に限らず、植生マット27の大きさや形状に応じて、その内部等に装着するようにしてもよい。
【0044】
このように、沈水植物12が繁茂した植生マット27を閉鎖性水域11の水底に沈め、これを定着、拡大させることにより、閉鎖性水域11の水底に沈水植物12の群落を形成することができる。
【0045】
また、植生マット27が取り外された植生基盤13の土壌層26の上に、新たな植生マット27を設置し、上記と同様に、当該植生マット27を用いて沈水植物12の事前栽培が行われる。そして、事前栽培により沈水植物12が繁茂した植生マット27が水底に沈められる。このように、1つの植生基盤13を用いて、沈水植物12の事前栽培と水底への定着が繰り返し行われることになる。
【0046】
上記のように、本発明の構成では、植生基盤13に設けた土壌層26の上に植生マット27を敷設するようにしたので、植生基盤13の土壌層26は、植生マット27により水中へ流出が防止される。これにより、土壌の水中への流失により生じる植生マット27の育成機能の低下や水質汚濁を低減することになる。また、植生基盤13は土壌層26が植生マット27に覆われた構成であり、植生マット27の表面が泥状となることがないので、沈水植物12の切れ藻や殖芽を植生マット27の表面に引っかかり易くして、沈水植物12の植生マット27への定着性が高まることになる。さらに、植生マット27を沈水植物12が繁茂して根付いた状態で水底に沈めるようにしたので、水底への移設初期における食害や育成不良を低減して、水底での沈水植物12の拡大が促進される。
【0047】
また、上記した本発明の構成では、土壌層26の上に植生マット27を敷設する構成としたので、植生マット27に土壌を充填等する作業が不要であり、植生基盤13の形成を容易にすることができる。また、植生基盤13から取り外した植生マット27のみを水底に沈めるようにしたので、植生基盤13を再利用することができる。したがって、沈水植物12の群落を閉鎖性水域11の水底に再生させるコストが低減されることになる。
【0048】
図9は、本発明の他の実施の形態である沈水植物の群落形成方法の概略を示す説明図である。
【0049】
図1に示す場合では、事前栽培の方法として、閉鎖性水域11の水中に設置した植生基盤13を用いて当該閉鎖性水域11の水中で沈水植物12を育成させるようにしている。これに対して、図9に示す方法では、沈水植物12の群落の形成対象となる閉鎖性水域11とは別の、光量(太陽光)を確保できる事前栽培用水域で、沈水植物12を事前栽培するようにしている。
【0050】
図9には、事前栽培用水域として、水槽41を用いた場合を示している。なお、事前栽培用水域としては、水槽41に限らず、圃場、水深の浅い池等であってもよい。
【0051】
図10(a)に示されるように、水槽41の底には、沈水植物12の群落を形成する対象となる閉鎖性水域11の水底の底泥が投入されて土壌層42が設けられている。この土壌層42の厚みは、1cm〜5cmである。
【0052】
なお、事前栽培用水域として、圃場、水深の浅い池等を利用した場合には、その底泥を土壌層42として用いることができる。また、底泥のほか、栄養に富んだ園芸用土等を土壌層として用いてもよい。
【0053】
図10(b)に示されるように、土壌層42の上には、図3の植生基盤13に用いられたのと同様の植生マット43が敷設される。植生マット43は、図示しない鉄筋や石等の錘により、土壌層42に埋没しない程度の重みで土壌層42上に押さえ付けられている。
【0054】
なお、この場合、植生マット43の厚みを、運搬や泥厚等を考慮して、5mm〜40mm程度に設定するようにしてもよい。植生マット43の厚みを40mm以上とすると、水槽41に投入する土壌層42の厚みが大きくなり作業の手間が増え、また、沈水植物12の根が土壌層42にまで到達しにくく、根付くのに時間がかかるため、望ましくない。
【0055】
植生マット43には、図5(a)に示すのと同様の構成で沈水植物12が固定されている。なお、水槽41を用いる場合には、閉鎖性水域11の水中に植生基盤13を設置する場合に比べて植生マット43が安定するので、ピン部材28を用いる方法に換えて、沈水植物12を石等の錘を用いて植生マット43に押さ付ける構成としてもよい。
【0056】
このように、水槽41の土壌層42の上に設置された植生マット43を用いて、沈水植物12が、数週間から数ヶ月程度かけて、水槽41の中で事前栽培される。
【0057】
図10(c)に示されるように、事前栽培により植生マット43上に沈水植物12が繁茂した状態となると、図11に示されるように、水槽41から沈水植物12が繁茂した植生マット43が取り出され、取り出された植生マット43は、図1に示す場合と同様に、閉鎖性水域11の水底に沈められる。
【0058】
また、植生マット43が取り出された水槽41の土壌層42の上に、新たな植生マット43が設置され、上記と同様に、水槽41に設置された植生マット43を用いて沈水植物12の事前栽培が行われる。そして、事前栽培により沈水植物12が繁茂した植生マット43が水底に沈められる。このように、1つの水槽41を用いて、沈水植物12の事前栽培と水底への定着が繰り返し行われることになる。
【0059】
このように、本発明によれば、水槽41の底に設けられた土壌層42の上に敷設された植生マット43で沈水植物12を事前栽培し、沈水植物12が繁茂した植生マット43を閉鎖性水域11の水底に沈めるようにしたので、事前栽培や植生マット43の水底への設置の作業を容易にして、沈水植物12の群落を閉鎖性水域11の水底に再生させるコストを低減することができる。この場合においても、植生マット43を沈水植物12が繁茂して根付いた状態で水底に沈めるようにしたので、水底への移設初期における食害や育成不良を低減して、水底での沈水植物12の拡大を促進することができる。
【0060】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0061】
11 閉鎖性水域
12 沈水植物
13 植生基盤
14 浮島
14a フロート
15 吊り下げ部材
21 支持枠
22 補強部材
23 支持ネット
24 下地マット
25 吸出し防止材
26 土壌層
27 植生マット
28 ピン部材
31 錘
41 水槽(事前栽培用水域)
42 土壌層
43 植生マット
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に、フサモ、イトモ、エビモ等の沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法及びこれに用いられる沈水植物を育成するための植生基盤の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フサモ、イトモ、エビモ等の沈水植物の群落には、栄養塩吸収作用や懸濁物の付着、沈降、再懸濁防止作用、ミジンコなどの動物プランクトンや付着微生物の増加等の様々な水質浄化作用があることが知られている。また、小魚や底生動物が増加する等の生態系修復機能を持つことも知られている。
【0003】
しかしながら、高度経済成長期の栄養塩の増大、過剰の除草剤の投入による水質汚染により、全国各地の閉鎖性水域で、沈水植物の群落が絶滅、消失、衰退している。
【0004】
そこで、水質改善や生物多様性の保護の観点から、このような閉鎖性水域に沈水植物の群落を再生する試みが実施されている。
【0005】
例えば特許文献1には、フロートに吊したシート部材に植生マットを収容して浮島に構成した植生基盤を用い、その植生マット上で沈水植物を栽培するとともに、その育成に合わせて植生基盤を徐々に水中に沈めていき、最終的に沈水植物が繁茂した植生基盤を水底にまで沈めて当該水底に定着させるようにした技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】2007−259790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、植生基盤を水底に定着させるまでの間、沈水植物の育成に必要な栄養を与えるために、植生マットの表面に栄養物を含んだ土壌を塗り込むようにしているので、植生基盤を水中に投入する際や長期間水中に設置している間に、植生マットから水中に土壌が流出するおそれがあった。植生マットから水中に土壌が流出すると、植生マットの育成機能が低下するとともに水質汚濁を生じることになる。また、植生マットの土壌が塗り込まれた表面が泥状となって、沈水植物の切れ藻や殖芽が引っかかりにくく流され易くなり、沈水植物の植生マットへの定着性が低下する。
【0008】
さらに、植生マットの表面に土壌を塗り込む作業は、植生マットの空隙の中に土壌を充填することにより行われるので、その充填作業に手間がかかり、製造コストが高くなるという問題点もある。
【0009】
本発明の目的は、植生基盤の土壌が水中へ流失することにより生じる植生マットの育成機能の低下や水質汚濁を低減させることにある。
【0010】
本発明の他の目的は、沈水植物の群落を閉鎖性水域の水底に再生させるコストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、前記閉鎖性水域の水面または光量を確保できる水中に植生基盤を設置し、前記植生基盤の土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記植生基盤から取り外し、取り外した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする。
【0012】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、前記植生基盤は、支持ネットにより保持された下地マット上に不織布等の吸出し防止材を配置し、該吸出し防止材の上に前記土壌層を設けた構成であることを特徴とする。
【0013】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、植生マットが取り外された前記植生基盤の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、前記閉鎖性水域とは別の水槽、圃場、水深の浅い池等の光量を確保できる事前栽培用水域の水底に土壌層を設け、前記土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記事前栽培用水域から取り出し、取り出した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする。
【0015】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、植生マットが取り出された前記事前栽培用水域の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする。
【0016】
本発明の沈水植物の群落形成方法は、前記植生マットは、ポリエチレンや塩化ビニル等の合成繊維またはヤシ繊維等の天然繊維で形成され、前記土壌層にピン部材で固定されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の植生基盤は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、前記閉鎖性水域の水面または光量を確保できる水中に植生基盤を設置し、前記植生基盤の土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記植生基盤から取り外し、取り外した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0018】
本発明の植生基盤は、前記植生基盤は、補強ネットにより保持された下地マット上に不織布等の吸い出し防止材を配置し、該吸い出し防止材の上に前記土壌層を設けた構成であることを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0019】
本発明の植生基盤は、植生マットが取り外された前記植生基盤の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0020】
本発明の植生基盤は、湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、前記閉鎖性水域とは別の水槽、圃場、水深の浅い池等の光量を確保できる事前栽培用水域の水底に土壌層を設け、前記土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記事前栽培用水域から取り出し、取り出した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0021】
本発明の植生基盤は、植生マットが取り出された前記事前栽培用水域の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【0022】
本発明の植生基盤は、前記植生マットは、ポリエチレンや塩化ビニル等の合成繊維またはヤシ繊維等の天然繊維で形成され、前記土壌層にピン部材で固定されていることを特徴とする沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、植生基盤に設けられた土壌層の上に植生マットを敷設するようにしたので、植生基盤の土壌が水中へ流出することを防止することができる。これにより、土壌の水中への流失により生じる植生マットの育成機能の低下や水質汚濁を低減させることができる。また、植生基盤は土壌層が植生マットに覆われた構成であり、植生マットの表面が泥状となることがないので、沈水植物の切れ藻や殖芽を植生マットの表面に引っかかり易くして、沈水植物の植生マットへの定着性を高めることができる。さらに、植生マットを沈水植物が土壌中の栄養を吸収して繁茂して根付いた状態で水底に沈めるようにしたので、水底への移設初期における食害や育成不良を低減して、水底での沈水植物の拡大を促進することができる。
【0024】
本発明によれば、土壌層の上に植生マットを敷設する構成としたので、植生基盤の形成を容易にすることができる。また、植生基盤から取り外した植生マットのみを水底に沈めるようにしたので、植生基盤を再利用することができる。したがって、本発明により、沈水植物の群落を閉鎖性水域の水底に再生させるコストを低減することができる。
【0025】
本発明によれば、事前栽培用水域の水底に設けられた土壌層の上に敷設された植生マットで沈水植物を事前栽培し、これにより沈水植物が繁茂した植生マットを沈水植物群落の再生対象となる閉鎖性水域の水底に沈めるようにしたので、事前栽培や植生マットの水底への設置の作業を容易にして、沈水植物の群落を閉鎖性水域の水底に再生させるコストを低減することができる。この場合においても、植生マットを沈水植物が土壌中の栄養を吸収して繁茂して根付いた状態で水底に沈めるようにしたので、水底への移設初期における食害や育成不良を低減して、水底での沈水植物の拡大を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態である沈水植物の群落形成方法の概略を示す説明図である。
【図2】図1に示す植生基盤を示す説明図である。
【図3】図2に示す植生基盤の詳細を示す断面図である。
【図4】図3に示す植生基盤の変形例を示す断面図である。
【図5】(a)、(b)は、それぞれ植生基盤による沈水植物の事前栽培の様子を示す説明図である。
【図6】事前栽培により沈水植物が繁茂した植生マットを植生基盤から取り外した状態を示す説明図である。
【図7】植生マットへの錘の取り付け構造を示す斜視図である。
【図8】図7に示す錘の取り付け構造の変形例を示す斜視図である。
【図9】本発明の他の実施の形態である沈水植物の群落形成方法の概略を示す説明図である。
【図10】(a)〜(c)は、それぞれ図9に示す水槽による沈水植物の事前栽培の手順を示す説明図である。
【図11】事前栽培により沈水植物が繁茂した植生マットを水槽から取り出した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
本発明は、水質汚濁等により沈水植物が消失等した閉鎖性水域に沈水植物の群落を再生させるために、植生マットを用いて事前栽培した沈水植物を、植生マットとともに湖沼や池等の閉鎖性水域の水底に移植し、これを水底に定着、拡大させることにより、高効率、低コストで沈水植物の群落を水底に形成するものである。
【0029】
図1は、湖沼等の閉鎖性水域11の水底に沈水植物12の群落を形成する場合であって、事前栽培の方法として、当該閉鎖性水域11の水中に植生基盤13を設置し、この植生基盤13を用いて、当該閉鎖性水域11の水中で沈水植物12を育成させる場合を示している。
【0030】
図2に示すように、この方法で用いられる浮島14は、例えばフロート14aにより形成され、植生基盤13は浮島14に吊り下げ部材(ロープ等)15により吊されて光量(太陽光)が十分に確保できる所定の深さの水中に沈められている。なお、植生基盤13は、浮島14に吊り下げ部材15で吊される構造に限らず、例えば、水底に打ち込まれた杭にロープで吊される構成としてもよい。また、沈水植物12の種類によっては、植生基盤13を浮島14とともに水面に浮かべて設置するようにしてもよい。
【0031】
図3に示すように、この方法に用いられる本発明の一実施の形態である植生基盤13は、支持枠21、補強部材22、支持ネット(補強ネット)23、下地マット24、吸出し防止材25、土壌層26及び植生マット27から成っている。
【0032】
支持枠21は、鋼材、木材、FRP(fiber reinforced plastics)等によりアングル状に形成され、植生基盤13を陸上で運搬する際に、当該植生基盤13が破損しない強度を有するように構成されている。また、支持枠21は、人による運搬作業や設置作業が行い易いように、例えば、1m×2m以下の大きさに設定されている。
【0033】
支持枠21には支持ネット23が取り付けられ、この支持ネット23により植生基盤13の底部分が形成されている。支持ネット23は、例えば高密度ポリエチレン等により形成されたものなど、植生基盤13を陸上で運搬するのに必要な十分な引っ張り強度を有するものが用いられている。また、支持ネット23の目の大きさは、メッシュの間から土壌が沈下しない程度、例えば25mm以下に設定されている。
【0034】
支持枠21には、支持ネット23の下方への垂れ下がりを防止するための補強部材22が設けられている。補強部材22は、鋼材、木材、FRP(fiber reinforced plastics)等によりアングル状または板状に形成され、支持ネット23の下方や植生基盤13の内部に配置されている。
【0035】
支持ネット23の上には、下地マット24が敷設されている。下地マット24は、沈水植物12の根茎が薄い土壌層26の下まで十分に発達できるようにすることで横方向の植生基盤13上で沈水植物12を拡大し易くし、また、支持ネット23に作用する土壌層26の荷重を分散させて植生基盤13の形状を平面的に安定化させ、さらに、沈水植物12の根を下地マット24に絡ませることにより、魚類等の影響に対して沈水植物12を引き抜けにくくすることを目的として設置されている。この下地マット24としては、ポリエチレンや塩化ビニル等により形成された合成繊維マットや、ヤシ繊維等により形成された天然繊維マットが用いられる。この下地マット24の厚みは、10mm〜30mm程度のものが用いられ、本実施の形態の場合には、20mmのものが用いられている。
【0036】
下地マット24の上には、土壌の植生基盤13の下方からの流出を防止するために、吸出し防止材25が敷設されている。吸出し防止材25としてはポリプロピレン製等の不織布や織布が用いられる。
【0037】
吸出し防止材25の上には、栄養塩を含んだ土壌により土壌層26が設けられている。土壌としては、粘着性に富むケト土や浚渫土を脱水処理したもの、土質改良材で処理した浚渫処理土、黒ボク土等が用いられる。土壌層26の厚みは、5mm〜20mmの範囲で、陸上運搬時の重量や水中での使用期間等を考慮して設定される。例えば、水中で長期に使用する場合には、15mm程度に設定される。
【0038】
土壌層26の上には、植生マット27が設置されている。植生マット27としては、ポリエチレンや塩化ビニル等により形成された合成繊維マットや、ヤシ繊維等により形成された天然繊維マットが用いられる。この植生マット27の厚みは、5mm〜20mm程度のものが用いられ、沈水植物12の根が土壌層26に到達し易くするために、本実施の形態の場合には、その厚みは10mm程度に設定されている。
【0039】
なお、図3に示す場合では、支持枠21としてアングル状のものが用いられているが、図4に示すように、支持枠21として板状のものを用いるようにしてもよい。
【0040】
このように構成された植生基盤13の植生マット27の上に、図5(a)に示すように、沈水植物12が移植される。植生マット27に移植する沈水植物12としては、この沈水植物12を定着させる閉鎖性水域11の埋土種子を発芽させたものや、同一の流域で自生する沈水植物等から選定される。選定された沈水植物12は、ポリエチレン等の樹脂材、鋼線材または竹等により形成されたU字形のピン部材28を用いて植生マット27の上面に固定される。
【0041】
沈水植物12が移植されると、植生基盤13は、浮島14の吊り下げ部材15の長さが調整されて、閉鎖性水域11の光量が十分に確保できる所定の深さの水中に沈められる。これにより、植生マット27に移植された沈水植物12は、十分な太陽光を受け、節等から発根して植生マット27に定着し、または、殖芽が発芽して植生マット27に定着して、植生マット27上で生育し、土壌層26にまで根を発達させ、植生基盤13上で拡大、繁茂する。また、図5(b)に示すように、拡大、繁茂に伴って浮島14の吊り下げ部材15の長さが調節され、植生基盤13は水中深くに移設される。このように、植生基盤13の植生マット27を用いて、沈水植物12が、数週間から数ヶ月程度かけて、閉鎖性水域11の水中で事前栽培される。
【0042】
事前栽培により植生マット27上に沈水植物12が繁茂した状態となると、沈水植物12が繁茂した植生マット27を植生基盤13から取り外し、取り外された植生マット27が閉鎖性水域11の水底に沈められる。このとき、植生基盤13から取り外した植生マット27を、必要に応じて切断し、分割するようにしてもよい。分割形状は、水底に設置する際の作業性や水底に設置後の沈水植物の拡大等を考慮して、例えば、30cm〜1m幅に設定される。
【0043】
図7に示すように、植生マット27の両側部には、これを速やかに水底に沈めるために、錘31が取り付けられる。図7に示す場合には、錘31として棒状の鉄筋が用いられているが、これに限らず、図8に示すように、石等を用いるようにしてもよい。また、錘31は、植生マット27の両側部に限らず、植生マット27の大きさや形状に応じて、その内部等に装着するようにしてもよい。
【0044】
このように、沈水植物12が繁茂した植生マット27を閉鎖性水域11の水底に沈め、これを定着、拡大させることにより、閉鎖性水域11の水底に沈水植物12の群落を形成することができる。
【0045】
また、植生マット27が取り外された植生基盤13の土壌層26の上に、新たな植生マット27を設置し、上記と同様に、当該植生マット27を用いて沈水植物12の事前栽培が行われる。そして、事前栽培により沈水植物12が繁茂した植生マット27が水底に沈められる。このように、1つの植生基盤13を用いて、沈水植物12の事前栽培と水底への定着が繰り返し行われることになる。
【0046】
上記のように、本発明の構成では、植生基盤13に設けた土壌層26の上に植生マット27を敷設するようにしたので、植生基盤13の土壌層26は、植生マット27により水中へ流出が防止される。これにより、土壌の水中への流失により生じる植生マット27の育成機能の低下や水質汚濁を低減することになる。また、植生基盤13は土壌層26が植生マット27に覆われた構成であり、植生マット27の表面が泥状となることがないので、沈水植物12の切れ藻や殖芽を植生マット27の表面に引っかかり易くして、沈水植物12の植生マット27への定着性が高まることになる。さらに、植生マット27を沈水植物12が繁茂して根付いた状態で水底に沈めるようにしたので、水底への移設初期における食害や育成不良を低減して、水底での沈水植物12の拡大が促進される。
【0047】
また、上記した本発明の構成では、土壌層26の上に植生マット27を敷設する構成としたので、植生マット27に土壌を充填等する作業が不要であり、植生基盤13の形成を容易にすることができる。また、植生基盤13から取り外した植生マット27のみを水底に沈めるようにしたので、植生基盤13を再利用することができる。したがって、沈水植物12の群落を閉鎖性水域11の水底に再生させるコストが低減されることになる。
【0048】
図9は、本発明の他の実施の形態である沈水植物の群落形成方法の概略を示す説明図である。
【0049】
図1に示す場合では、事前栽培の方法として、閉鎖性水域11の水中に設置した植生基盤13を用いて当該閉鎖性水域11の水中で沈水植物12を育成させるようにしている。これに対して、図9に示す方法では、沈水植物12の群落の形成対象となる閉鎖性水域11とは別の、光量(太陽光)を確保できる事前栽培用水域で、沈水植物12を事前栽培するようにしている。
【0050】
図9には、事前栽培用水域として、水槽41を用いた場合を示している。なお、事前栽培用水域としては、水槽41に限らず、圃場、水深の浅い池等であってもよい。
【0051】
図10(a)に示されるように、水槽41の底には、沈水植物12の群落を形成する対象となる閉鎖性水域11の水底の底泥が投入されて土壌層42が設けられている。この土壌層42の厚みは、1cm〜5cmである。
【0052】
なお、事前栽培用水域として、圃場、水深の浅い池等を利用した場合には、その底泥を土壌層42として用いることができる。また、底泥のほか、栄養に富んだ園芸用土等を土壌層として用いてもよい。
【0053】
図10(b)に示されるように、土壌層42の上には、図3の植生基盤13に用いられたのと同様の植生マット43が敷設される。植生マット43は、図示しない鉄筋や石等の錘により、土壌層42に埋没しない程度の重みで土壌層42上に押さえ付けられている。
【0054】
なお、この場合、植生マット43の厚みを、運搬や泥厚等を考慮して、5mm〜40mm程度に設定するようにしてもよい。植生マット43の厚みを40mm以上とすると、水槽41に投入する土壌層42の厚みが大きくなり作業の手間が増え、また、沈水植物12の根が土壌層42にまで到達しにくく、根付くのに時間がかかるため、望ましくない。
【0055】
植生マット43には、図5(a)に示すのと同様の構成で沈水植物12が固定されている。なお、水槽41を用いる場合には、閉鎖性水域11の水中に植生基盤13を設置する場合に比べて植生マット43が安定するので、ピン部材28を用いる方法に換えて、沈水植物12を石等の錘を用いて植生マット43に押さ付ける構成としてもよい。
【0056】
このように、水槽41の土壌層42の上に設置された植生マット43を用いて、沈水植物12が、数週間から数ヶ月程度かけて、水槽41の中で事前栽培される。
【0057】
図10(c)に示されるように、事前栽培により植生マット43上に沈水植物12が繁茂した状態となると、図11に示されるように、水槽41から沈水植物12が繁茂した植生マット43が取り出され、取り出された植生マット43は、図1に示す場合と同様に、閉鎖性水域11の水底に沈められる。
【0058】
また、植生マット43が取り出された水槽41の土壌層42の上に、新たな植生マット43が設置され、上記と同様に、水槽41に設置された植生マット43を用いて沈水植物12の事前栽培が行われる。そして、事前栽培により沈水植物12が繁茂した植生マット43が水底に沈められる。このように、1つの水槽41を用いて、沈水植物12の事前栽培と水底への定着が繰り返し行われることになる。
【0059】
このように、本発明によれば、水槽41の底に設けられた土壌層42の上に敷設された植生マット43で沈水植物12を事前栽培し、沈水植物12が繁茂した植生マット43を閉鎖性水域11の水底に沈めるようにしたので、事前栽培や植生マット43の水底への設置の作業を容易にして、沈水植物12の群落を閉鎖性水域11の水底に再生させるコストを低減することができる。この場合においても、植生マット43を沈水植物12が繁茂して根付いた状態で水底に沈めるようにしたので、水底への移設初期における食害や育成不良を低減して、水底での沈水植物12の拡大を促進することができる。
【0060】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0061】
11 閉鎖性水域
12 沈水植物
13 植生基盤
14 浮島
14a フロート
15 吊り下げ部材
21 支持枠
22 補強部材
23 支持ネット
24 下地マット
25 吸出し防止材
26 土壌層
27 植生マット
28 ピン部材
31 錘
41 水槽(事前栽培用水域)
42 土壌層
43 植生マット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、
前記閉鎖性水域の水面または光量を確保できる水中に植生基盤を設置し、
前記植生基盤の土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、
事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記植生基盤から取り外し、
取り外した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の沈水植物の群落形成方法において、前記植生基盤は、支持ネットにより保持された下地マット上に不織布等の吸出し防止材を配置し、該吸出し防止材の上に前記土壌層を設けた構成であることを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の沈水植物の群落形成方法において、植生マットが取り外された前記植生基盤の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項4】
湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、
前記閉鎖性水域とは別の水槽、圃場、水深の浅い池等の光量を確保できる事前栽培用水域の水底に土壌層を設け、
前記土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、
事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記事前栽培用水域から取り出し、
取り出した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項5】
請求項4記載の沈水植物の群落形成方法において、植生マットが取り出された前記事前栽培用水域の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の沈水植物の群落形成方法において、前記植生マットは、ポリエチレンや塩化ビニル等の合成繊維またはヤシ繊維等の天然繊維で形成され、前記土壌層にピン部材で固定されていることを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする沈水植物の植生基盤。
【請求項1】
湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、
前記閉鎖性水域の水面または光量を確保できる水中に植生基盤を設置し、
前記植生基盤の土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、
事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記植生基盤から取り外し、
取り外した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の沈水植物の群落形成方法において、前記植生基盤は、支持ネットにより保持された下地マット上に不織布等の吸出し防止材を配置し、該吸出し防止材の上に前記土壌層を設けた構成であることを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の沈水植物の群落形成方法において、植生マットが取り外された前記植生基盤の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項4】
湖沼等の閉鎖性水域の水底に沈水植物の群落を形成する沈水植物の群落形成方法であって、
前記閉鎖性水域とは別の水槽、圃場、水深の浅い池等の光量を確保できる事前栽培用水域の水底に土壌層を設け、
前記土壌層の上に敷設した植生マットで沈水植物を事前栽培し、
事前栽培により沈水植物が繁茂した前記植生マットを前記事前栽培用水域から取り出し、
取り出した前記植生マットを前記閉鎖性水域の水底に沈めて該水底に前記沈水植物を定着させることを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項5】
請求項4記載の沈水植物の群落形成方法において、植生マットが取り出された前記事前栽培用水域の土壌層の上に新たな植生マットを敷設し、該植生マットを用いて沈水植物の事前栽培と前記閉鎖性水域の水底への定着を繰り返し行うことを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の沈水植物の群落形成方法において、前記植生マットは、ポリエチレンや塩化ビニル等の合成繊維またはヤシ繊維等の天然繊維で形成され、前記土壌層にピン部材で固定されていることを特徴とする沈水植物の群落形成方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の沈水植物の群落形成方法に用いられることを特徴とする沈水植物の植生基盤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−205969(P2011−205969A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76961(P2010−76961)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】
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