説明

河床防護構造体

【課題】地震等発生時における河床変動に対する適応性、河床上に構築する際の施工性、各種礫体と衝突した場合における耐久性に優れた河床防護構造体を提供する。
【解決手段】継手16を両側縁に有する第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとの互いに対向するウエブ部15を間隔保持部材12を介して連結させて多重矢板壁用部材10が構成される。多重矢板壁用部材10を、河川幅方向に隣接する他の多重矢板壁用部材10との間で互いの第1の鋼矢板11aの継手16と第2の鋼矢板11bの継手16とを連結させることにより、河川幅方向に向けて第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとが交互に配置された矢板壁20が、河床5上において河川の流路方向に向けて複数列形成される。互いに隣接する矢板壁20間に間詰め材Bが敷き詰められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂防堰堤の下流側に位置する前庭部の河床の洗掘等を防止するのに好適な河床防護構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から河川においては、種々のタイプの砂防堰堤が構築されており、これによって河川中を流下する土砂量の調整や、土石流発生時に河川を流下する巨礫や流木等の捕捉が可能となり、これら各種礫体が河川下流側へ急激に流出されることを防止している。
【0003】
図22は、コンクリート重力式砂防堰堤に代表される、不透過型の砂防堰堤100の概略側面断面図である。砂防堰堤100は、河川幅方向を横断するようにして河床101上に設けられる堤体114と、堤体114の上端部の河川幅方向両側に設けられる袖部110と、袖部110間に位置し、袖部110の上端部よりもその上端部が低く構成されることによって河水や各種礫体を越流可能な越流部111とから構成される。
【0004】
このような砂防堰堤100が立設されている場合、砂防堰堤100の下流側に位置する前庭部112の河床101に対しては、越流部111を介して図22に示す矢印Sの方向に向けて越流水や各種礫体が落下してくるため、これによって前庭部112の河床101が洗掘、浸食されてしまう。このような洗掘、浸食による河床101の被害を防護するため、通常、前庭部112の河床101上には、水たたき113と呼ばれる河床防護構造体が設けられている。この水たたき113は、前庭部112の河床101上にコンクリートを打設することによって構築されており、この水たたき113が越流水等と衝突することによってその落下エネルギーを減勢し、これによって、前庭部112の河床101が直接洗掘されたり、落下してくる越流水の跳水現象によって河床101が間接的に洗掘されるのを防止できる。因みに、砂防堰堤100には通常、水たたき113とともに図22に示すような副堰堤120が設けられ、越流部111を介して流下してくる越流水や各種礫体が副堰堤120の堤体121や袖部122と衝突することによって、これら越流水等の流下速度が減勢されることになる。
【0005】
この前庭部112に設けられる他の河床防護構造体としては、複数個の高強度ブロックを前庭部112に配設して、互いに隣接する高強度ブロック間にコンクリートを打設して各高強度ブロックを一体化させたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この河床防護構造体は、高強度ブロックが強度と耐磨耗性とを兼ね備えていることから、単にコンクリートをベタ打ちして水たたき113を設けた場合と比較して、越流水や各種礫体に対する耐久性が向上している。
【0006】
また、この他の河床防護構造体としては、二枚の板部材の間に、断面がハニカム状、多角形状等の芯部材を接着等によって介装させて構成されるマットを、前庭部112に配置したものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。このようにマットの芯部材の断面が複雑な断面形状に構成されていることから、この河床防護構造体は、このマットに対して落下してくる越流水や各種礫体等の落下エネルギーを減勢する性能に優れている。
【0007】
また、前庭部112に対して鋼製筒体を複数個配置した後、各鋼製筒体内にコンクリートを充填して柱状体を形成し、各柱状体間に土砂を充填することによって構成される河床防護構造体も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開平8−189024号公報
【特許文献2】実公昭62−4570号公報
【特許文献3】特開2002−294652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、図22に示されるような河床防護構造体や、特許文献1、3に示される河床防護構造体は、何れも河床101上にコンクリートが打設されて構成されるため、流水が地下へと浸透されず、砂防堰堤100周囲の地層の保水能力が低下してしまう。また、地震等によって砂防堰堤100周囲の地盤が変動した場合等は、容易にコンクリートにクラックが発生してしまい、このクラックから河床101の洗掘、浸食が進行してしまうことから、これらの河床防護構造体は、河床変動に対する適応性に欠けるという問題点があった。
【0010】
また、特許文献2に示される河床防護構造体は、複数のマットを河床101上に取付けた場合、これらのマットを連結する構成が開示されていないことから、各マット間から河床101の洗掘、浸食が進行してしまうと考えられる。また、前庭部112の大きさに応じた単一のマットを前庭部112に配置する場合、砂防堰堤100、前庭部112の規模に応じてその都度異なる大きさのマットを準備する必要があり、施工性に欠けるという問題点があると考えられる。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、河床上を流れる河水の地下への浸透性、地震等発生時における河床変動に対する適応性、河床上に構築する際の施工性、各種礫体と衝突した場合における耐久性に優れた河床防護構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述した課題を解決するために、継手を両側縁に有する第1の鋼矢板と第2の鋼矢板との互いに対向するウエブ部を間隔保持部材を介して連結させた多重矢板壁用部材を、一の方向に隣接する他の多重矢板壁用部材との間で互いの第1の鋼矢板の継手と第2の鋼矢板の継手とを連結させることにより、上記一の方向に向けて第1の鋼矢板と第2の鋼矢板が交互に配置された矢板壁を、上記河床上において複数列形成し、互いに隣接する上記矢板壁間に間詰め材を敷き詰めたことを特徴とする河床防護構造体を発明した。
【0013】
即ち、本願請求項1に係る河床防護構造体は、河川に立設されてなる砂防堰堤の下流側の河床に設置される河床防護構造体において、継手を両側縁に有する第1の鋼矢板と第2の鋼矢板との互いに対向するウエブ部を間隔保持部材を介して連結させた多重矢板壁用部材を、一の方向に隣接する他の多重矢板壁用部材との間で互いの第1の鋼矢板の継手と第2の鋼矢板の継手とを連結させることにより、上記一の方向に向けて第1の鋼矢板と第2の鋼矢板が交互に配置された矢板壁が、上記河床上において複数列形成され、互いに隣接する上記矢板壁間に間詰め材が敷き詰められてなることを特徴とする。
【0014】
また、本願請求項2に係る河床防護構造体は、河川に立設されてなる砂防堰堤の下流側の河床に設置される河床防護構造体において、継手を両側縁に有する第1の鋼矢板と第2の鋼矢板の互いに対向するウエブ部を間隔保持部材を介して連結させた多重矢板壁用部材を、一の方向に隣接する他の多重矢板壁用部材との間で互いの第1の鋼矢板の継手同士又は互いの第2の鋼矢板の継手同士を連結させることにより、上記一の方向に向けて第1の鋼矢板又は第2の鋼矢板が連続して配置された矢板壁が、上記河床上において複数列形成され、互いに隣接する上記矢板壁間に間詰め材が敷き詰められてなることを特徴とする。
【0015】
また、本願請求項3に係る河床防護構造体は、請求項1又は請求項2に記載の河床防護構造体において、上記間隔保持部材は、板状部材からなることを特徴とする。
【0016】
また、本願請求項4に係る河床防護構造体は、請求項1又は請求項2に記載の河床防護構造体において、上記間隔保持部材は、棒状部材からなることを特徴とする。
【0017】
また、本願請求項5に係る河床防護構造体は、請求項1〜4の何れか1項に記載の河床防護構造体において、一の上記間隔保持部材の両端が、上記第1の鋼矢板及び上記第2の鋼矢板におけるそれぞれのウエブ部の幅方向の中央部から一端側までの位置に連結されるとともに、他の上記間隔保持部材の両端が、当該第1の鋼矢板及び当該第2の鋼矢板におけるそれぞれのウエブ部の幅方向の中央部から他端側までの位置に連結されること特徴とする。
【0018】
また、本願請求項6に係る河床防護構造体は、請求項1〜5の何れか1項に記載の河床防護構造体において、上記間隔保持部材が板状部材から構成され、上記互いに隣接する矢板壁の壁面並びに当該互いに隣接する矢板壁間に配置された上記板状部材の側面によって囲まれた空間内に水が貯水されて水溜め部が設けられることを特徴とする。
【0019】
また、本願請求項7に係る河床防護構造体は、請求項1〜5の何れか1項に記載の河床防護構造体において、他の上記矢板壁の矢板壁よりも高い矢板壁高さからなる副堰堤用矢板壁が河川下流側に構築され、上記副堰堤用矢板壁の壁面と、河川の幅方向両側に設けられる護岸壁の壁面と、上記砂防堰堤における堤体の壁面とによって囲まれた空間内に水が貯水されて水溜め部が設けられることを特徴とする。
【0020】
また、本願請求項8に係る河床防護構造体は、請求項1〜6の何れか1項記載の河床防護構造体において、上記複数列の矢板壁は、河川の下流側に向かうにつれてその高さが低くなるように構成されていることを特徴とする。
【0021】
また、本願請求項9に係る河床防護構造体を構築する方法は、請求項1〜8の何れか1項記載の上記河床防護構造体を構築する方法であって、複数列の上記矢板壁を、河川上流側から河川下流側に向けて順次立設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本願請求項1、2の構成からなる河床防護構造体は、砂防堰堤3の越流部31を介して流下してくる越流水や巨礫や中小礫等の礫体に対して、主として間詰め材Bが衝突することによって、その落下エネルギーを減勢させ、越流水等によって前庭部33の河床5が洗掘、浸食されるのを防止できる。特に、各鋼矢板11が互いの継手16を嵌合させることのみによって連結されていることから、鉛直方向の地盤の変位が発生した場合に、各鋼矢板11が鉛直方向に適宜スライドして柔軟に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を適用した河床防護構造体を実施するための形態について、図面を参照にしながら詳細に説明する。
【0024】
第1の実施の形態
【0025】
まず、本発明を適用した河床防護構造体1の第1の実施の形態について説明する。
【0026】
河床防護構造体1は、図1〜図3に示すように、河川における砂防堰堤3の下流側に位置する前庭部33の河床5上に設置される。
【0027】
この実施の形態における砂防堰堤3は、河川幅方向を横断するようにして河床5上に立設される堤体30と、堤体3の上端部の河川幅方向の両側に設けられる袖部32と、袖部32間に位置し、袖部32の上端部よりその上端部が低く構成されることによって上流側から流下してくる河水や各種礫体等を越流可能な越流部31とから構成される。また、前庭部33の河川幅方向の両岸には、越流部31を介して前庭部33へ落下してくる越流水等によって、河川幅方向両岸の地盤Gが浸食されないように、擁壁として護岸壁34が設けられる。また、砂防堰堤3から河川の下流側に向けて所定の間隔をあけて副堰堤37が設けられる。副堰堤37は、河川幅方向を横断するようにして河川5上に立設される堤体38と、堤体38上端部の河川幅方向両側に設けられる袖部39とから構成され、その鉛直高さが砂防堰堤30よりも低く構成される。
【0028】
河床防護構造体1は、前庭部33の河床5上に立設される複数列の矢板壁20と、互いに隣接する矢板壁20間に敷き詰められる間詰め材Bとから構成される。この複数列の矢板壁20は、図4、図5に示すような、前庭部33の河床3上に立設される多重矢板壁用部材10を複数連結することによって構成される。
【0029】
多重矢板壁用部材10は、図4、図5に示すように、一対の鋼矢板である第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bと、棒状部材からなる間隔保持部材12とから構成される。多重矢板壁用部材10は、継手16を両側縁に有する第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとの互いの対向するウエブ部15を間隔保持部材12を介して連結させることによって構成される。なお、ここでいう第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとは、多重矢板壁用部材10における一対の鋼矢板を、別々に区分する際の一指標として定義したものである。
【0030】
この実施の形態における鋼矢板11は、ウエブ部15と、ウエブ部15の両側縁からウエブ部15に対して傾斜して延長されてなるフランジ部18と、フランジ部18の先端に設けられた継手16とから構成され、いわゆるU字形鋼矢板によって構成されている。なお、鋼矢板11は、その幅方向の中央部において多重矢板壁用部材10の外側に突出されてなる凸部17が、鋼矢板11の長手方向に延長されて形成されている。
【0031】
この実施の形態における間隔保持部材12は、その両端にナット等の雌ねじ部材13と螺合可能な雄ねじ部12aが設けられている。間隔保持部材12を鋼矢板11のウエブ部15に連結する場合は、間隔保持部材12の端部の雄ねじ部12aに雌ねじ部材13を螺合した後、鋼矢板11のウエブ部15の所定の位置に予め設けられた挿通孔内に当該端部を挿通させ、更に他の雌ねじ部材13を当該端部の雄ねじ部12aに螺合させ、当該端部に螺合させた一対の雌ねじ部材13を螺合することによって一対の雌ねじ部材13でウエブ部15を挟持させ、間隔保持部材12がウエブ部15に連結される。
【0032】
この実施の形態における多重矢板壁用部材10では、一つの間隔保持部材12の両端が、第1の鋼矢板11a、第2の鋼矢板11bのそれぞれのウエブ部15の幅方向の中央部から一端側までの位置であって、そのウエブ部15の長手方向の中央部から一端側までの位置に取り付けられる。また多重矢板壁用部材10には、他の間隔保持部材12の両端が、第1の鋼矢板11a、第2の鋼矢板11bのそれぞれのウエブ15部の幅方向の中央部から他端側までの位置であって、そのウエブ部15の長手方向の中央部から他端側までの位置に取り付けられる。
【0033】
この鋼矢板11の幅方向の両側縁に設けられた継手16は、鋼矢板11の幅方向に対称な形状をしており、更に、第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとは、間隔保持部材12の長手方向に対称な形状をなしている。このような形状から鋼矢板11が構成されている場合、図6(a)に示すように、一の方向(ウエブ部15の幅方向)に向けて第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとが交互に配置されるように複数の多重矢板壁用部材10を隣接配置させながら、一の方向に隣接する二つの多重矢板壁用部材10の間で互いの第1の鋼矢板11aの継手と第2の鋼矢板11bの継手とを連結させることにより、一列の矢板壁20を形成可能となる。
【0034】
上述のようにして形成される矢板壁20は、その矢板壁がなす壁面の両面側に矢板壁を構成していない他の第1の鋼矢板11a及び第2の鋼矢板11bが配置されることになる。このため、これら既設の多重矢板壁用部材10において矢板壁を構成していない鋼矢板11a、11bの継手16に対して、新設の多重矢板壁用部材10における鋼矢板11a、11bの継手16を連結させることにより、一の方向に向けて第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとが交互に配置された新たな矢板壁20が形成されることになる。そして、このような手順を繰り返すことにより、図7、図8、図9(a)に示すように、複数列の矢板壁20が形成される。図9(a)に示すように、何れの矢板壁20も、一の方向(ウエブ部15の幅方向)に向けて第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとが交互に配置された状態になっている。そして、複数列の矢板壁20は、一の方向に略直交する方向(間隔保持部材12の延長方向)に向けて、間隔保持部材12を介して所定の間隔をあけて配置されている。
【0035】
なお、多重矢板壁用部材10を用いて矢板壁20を形成する場合、図6(b)に示すように、矢板壁20を構成する鋼矢板11の一部を、多重矢板壁用部材10における鋼矢板11に代えて、間隔保持部材12と連結されていない他の鋼矢板22として構成してもよい。この他の鋼矢板22は、多重矢板壁用部材10における鋼矢板11と同様の構成からなるものである。
【0036】
また、図6(c)に示すように、多重矢板壁用部材10は、互いに対向して配置された第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとのウエブ部15が、略同一の配向状態をなして連結されていてもよい。このような構成からなる多重矢板壁用部材10により矢板壁20を構築する場合、一の方向(ウエブ部15の幅方向)に向けて第1の鋼矢板11aが互い違いに連続して配置されるように複数の多重矢板壁用部材10を隣接配置させながら、一の方向に隣接する二つの多重矢板壁用部材10の間で互いの第1の鋼矢板11aの継手同士を連結させることにより、一列の矢板壁20が形成可能となる。
【0037】
このようにして形成される矢板壁20も、その矢板壁がなす壁面の両面側に矢板壁を構成していない他の第2の鋼矢板11bが配置されることになる。このため、これら既設の多重矢板壁用部材10において矢板壁を構成していない第2の鋼矢板11bに対して、新設の多重矢板壁用部材10における鋼矢板11bの継手を連結させることにより、一の方向に向けて第2の鋼矢板11bが連続して配置された矢板壁20が形成可能となる。そして、このような手順を繰り返すことにより、図9(b)に示すように、複数列の矢板壁20が形成される。図9(b)に示すように、何れの矢板壁20も、一の方向に向けて第1の鋼矢板11a又は第2の鋼矢板11bが連続して配置された状態となっている。
【0038】
このようにして形成される複数列の矢板壁20は、実際には、砂防堰堤3の河流側に位置する前庭部33の河床5上に配置されることになる。以下に、前庭部33の河床5上に複数列の矢板壁20を構築する手順も含めて、河床防護構造体1を前庭部33の河床5上に構築する方法について説明する。
【0039】
まず、図10(a)、図11(a)に示すように、堤体30近傍の前庭部33の河床5上に、河川幅方向に延長されるように第1列目の矢板壁20を構築する。この砂防堰堤3近傍の第1列目の矢板壁20は、多重矢板壁用部材10における第1の鋼矢板11aと、間隔保持部材12によって連結されていない他の鋼矢板22とを、互いの継手16を連結させながら、河川幅方向に向けて交互に配置させて形成される。この場合、各鋼矢板11、22は、河床5内に鋼矢板11、22の下部が押し込まれて配置される。このとき、鋼矢板11、22は、河床5表面からその上部が所定長さ突出されるように立設される。
【0040】
次に、図10(b)、図11(b)に示すように、第1列目の矢板壁20を構成する既設の多重矢板壁用部材10の第2の鋼矢板11bの継手16に対して、新設の多重矢板壁用部材10の継手16を連結させることにより、河川幅方向に向けて延長される第2列目の矢板壁20が形成される。第2列目の矢板壁20は、河川幅方向に向けて第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとが交互に配置されて形成されることになる。
【0041】
第3列目以降においては、第2列目の矢板壁20を構築した手順と同様の手順を河川の上流側から下流側に向けて順次繰り返し、これによって、図10(c)に示すように、河川幅方向に向けて第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとが交互に配置された矢板壁20が、河床5上において河川の流路方向に向けて間隔保持部材12を介して複数列形成されることになる。
【0042】
複数列の矢板壁20を構築した後は、図11(c)に示すように、互いに隣接する矢板壁20間に、間詰め材Bを敷き詰めることによって、河床防護構造体1が構築される。なお、図2に示すように、間詰め材Bは、矢板壁20間に位置する河床5の土、砂を所定量取り除いた後に形成される空間内に敷き詰めるようにしてもよいし、河床5上に直接配置して敷き詰めるようにしてもよい。
【0043】
このようにして構築される河床防護構造体1は、砂防堰堤3の越流部31を介して流下してくる越流水や巨礫や中小礫等の礫体に対して、主として間詰め材Bが衝突することによって、その落下エネルギーを減勢させ、越流水等によって前庭部33の河床5が洗掘、浸食されるのを防止できる。この場合において、多重矢板壁用部材10によって構築される複数列の壁体20は、流下してくる越流水によって間詰め材Bが下流側に流されて抜け出ないように、間詰め材Bを壁体20間に抑え留める機能を発揮している。
【0044】
特に、本発明を適用した河床防護構造体1は、各鋼矢板11が互いの継手16を嵌合させることのみによって連結されていることから、各鋼矢板11が鉛直方向にスライドできる。このため、地震等によって砂防堰堤3周囲の地盤変動が生じ、鉛直方向の地盤の変位が発生した場合に、各鋼矢板11が鉛直方向に適宜スライドして柔軟に河床の地盤変動に対応できる。
【0045】
また、砂防堰堤3から流下してくる巨礫等と各鋼矢板11が衝突した場合においては、巨礫等と衝突した鋼矢板11のみが鉛直方向に適宜スライドしながらその落下エネルギーを吸収し、他の鋼矢板11に対して衝突による衝撃が伝達されることがない。このため、巨礫との衝突による被害を一部にのみ留めることができ、また、その衝突により損壊した鋼矢板11のみを河床5から抜き出して他の鋼矢板11を再度押し込むことによって容易に補修を行うことができる。
【0046】
また、複数列の矢板壁20は、河床5内に押し込まれた状態で、互いに間隔保持部材12によって連結されて構成されるため、水平耐力に非常に優れており、越流水や各種礫体によって下流側に流されにくい。
【0047】
また、このような河床防護構造体1は、互いに略平行な複数列の矢板壁20を、単一の多重矢板壁用部材10を組み合わせて構築した後に、間詰め材Bを敷き詰めるのみによって構築されることから、その施工性に非常に優れている。特に、組み合わせる多重矢板壁用部材10の個数を増減させ、矢板壁20の長さ、列数を調節することによって、河床防護構造体1が構築される範囲を自由に調整できるため、砂防堰堤3や前庭部33の規模にとらわれることなく、河床防護構造体1の構築が可能となる。
【0048】
また、本発明を適用した河床防護構造体1は、河床5上に対して、複数列の矢板壁20が起立状態で配置されるとともに、間詰め材Bが敷き詰められるのみの構成となっているため、河水が前庭部33下部の地下へと容易に浸透でき、砂防堰堤3周囲の保水能力を維持することができる。
【0049】
また、従来における河床防護構造体と異なり、本発明を適用した河床防護構造体1は、コンクリートを使用していない。このため、豪雨や台風による土石流や地震等の災害が発生し、河床防護構造体1が損傷した場合における河床防護構造体1の復旧作業に際して、コンクリートの打設や杭打ちが不要となり、急速施工が可能となる。
【0050】
以下に、本発明を適用した河床防護構造体1の各構成要素の詳細について説明する。
【0051】
本発明の適用の対象となる砂防堰堤3は、堤体の上部にて越流水や各種礫体を越流させ、これら越流水等を前庭部33に落下させる方式の越流式ダムが対象となる。また、砂防堰堤3は、不透過型ダム、透過型ダムの何れに対して適用可能である。
【0052】
具体的には、上述した実施の形態で示したような、堤体がコンクリートからなるコンクリートダムや、堤体が土や岩石からなるフィルダム、堤体が鋼製枠で構成される鋼製枠砂防ダム等によって具体化される。これらによって具体化される砂防堰堤3は、適宜スリットを設けたり、アーチ状に構築されていてもよい。
【0053】
ここでいう鋼製枠砂防ダムとは、例えば特開2003−328341号公報等に記載の鋼製枠構造体によって構成される砂防ダムのことをいう。この鋼製枠構造体は、柱材や水平材等を互いに接合して形成される箱枠を、左右、前後、上下方向に連続して形成させ、これら箱枠の前後面にスクリーン材を設けたうえで、この箱枠内に中詰め材を充填して構築される。このような鋼製枠構造体によって砂防ダム(砂防堰堤)と同様の形状をなすよう構築したものを、鋼製枠砂防ダムという。
【0054】
また、多重矢板壁用部材10における鋼矢板11は、U字形鋼矢板の他に、ハット形鋼矢板、Z形鋼矢板、直線形鋼矢板から構成されていてもよい。何れの鋼矢板を用いた場合でも、上述の如き所期の効果を奏する。また、この鋼矢板11は、熱間圧延加工によって成型されたものであっても、冷間圧延加工によって成型されたものであってもよい。
【0055】
また、鋼矢板11の幅方向の両側縁に設けられる継手16は、鋼矢板11の幅方向に対称な形状でなくとも、一方の継手16と他方の継手16とが嵌合可能となるように一対の継手16が互いに点対称の形状となるように調整されていてもよい。
【0056】
また、この矢板壁20における各鋼矢板11は、互いの継手16が遊嵌された状態で連結されることが望ましい。この場合、各継手16は、遊嵌可能となるよう予めその形状が調整されることになる。
【0057】
このように調整されている場合、図12(a)に示すように、継手16を介して連結されている二つの鋼矢板11が、連結状態を維持したままで継手16を中心として方向Aに回動したり、図12(b)、(c)に示すように、鋼矢板11の幅方向である方向Bや間隔保持部材12の延長方向である方向Cに可動したりすることができる。このため、図12(d)に示すように、地震等によって砂防堰堤3周囲に地盤変動が生じ、水平方向の地盤の変位が生じた場合に、各鋼矢板11が継手16を介してある程度幅をもって動くことができ、一層柔軟に地盤変動に対応できる。因みに、鉛直方向の変位や水平方向の変位に対して柔軟に動くことができるため、越流部を介して落下してくる巨礫等との衝突による衝突エネルギーを、各鋼矢板11が鉛直方向のスライドに加え、水平方向に動くことによって吸収可能となる。
【0058】
また、河床防護構造体1において、矢板壁20間に敷き詰められる間詰め材Bは、現地で発生した石、礫又は土砂等を使用することが好ましいが、他所から搬入した栗石、又は建築、土木廃材等を用いることも可能である。特にこの間詰め材Bは、越流部31を介して流下してくる越流水によって、容易に流動されない程度の大きさ、重さから構成されることが好ましく、これによって、間詰め材Bの下方に位置する河床5が洗掘、浸食されるのを一層強力に防止できる。
【0059】
本実施の形態のように、間隔保持部材12の上端部が鋼矢板11の上端部より下方に位置するように取り付けられる場合は、間詰め材Bが、間隔保持部材12の上端部を覆うように敷き詰められていることが望ましい。これによって、越流部31等を介して礫体が落下してきた場合に、間隔保持部材12の代わりに間詰め材Bが各種礫体と衝突することになり、各種礫体との衝突による間隔保持部材12の損傷を防ぐことが可能となる。
【0060】
また、矢板壁20間の間隔は、短いほうが望ましく、これによって、矢板壁20間に敷き詰められる間詰め材Bが越流水等によって偏りにくくなり、安定して河床5の洗掘、浸食を防止できる。但し、この間隔があまりに短すぎる場合は、使用される鋼矢板11、間隔保持部材12等の材料数が多くなり、コストが高騰してしまうため望ましくない。
【0061】
また、本実施の形態においては、矢板壁20が、複数個の鋼矢板11を河川幅方向に向けて連続して連結させることによって構成されており、これにより矢板壁20は河川幅方向に延長されるようにして構成される。しかし、本発明においては、必ずしもこのような方向に延長されるように限定するものではなく、複数個の鋼矢板11を、河川幅方向に対して傾斜した方向に向けて連続して連結させ、矢板壁20を河川幅方向に対して傾斜した方向に延長されるようにしてもよい。なお、矢板壁20が河川幅方向に延長されるように構成された場合、河川の流路方向に対して略直交して矢板壁20が設けられることになるため、河流によって間詰め材Bが流されにくく、間詰め材Bが安定してその場に止まり易いという利点がある。
【0062】
また、河床防護構造体1において、前庭部33に対して、矢板壁20や間詰め材Bは、越流部31を介して越流水や各種礫体が直接落下してくることが予想される範囲、及び、落下した越流水によって跳水現象が発生し、これによって間接的に河床5の洗掘、浸食されることが予想される範囲を少なくとも含むように配置することが望ましい。
【0063】
また、河床防護構造体1の構築時においては、複数列の矢板壁20を、河川上流側から河川下流側に向けて順次立設することが望ましい。これは、河床防護構造体1の構築時において、複数列の矢板壁20を立設する作業員が、河床5上を下流側から上流側に向けて移動しながら作業をする際に、既設の矢板壁20が移動の障害とならず、施工性が向上するためである。
【0064】
また、本発明においては、多重矢板壁用部材10の代替として、図13に示すような多重矢板壁用部材40A〜Cを適用するようにしてもよい。なお、多重矢板壁用部材10と同一の構成については、同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
【0065】
図13(a)は、多重矢板壁用部材40Aの構成を示している。多重矢板壁用部材40Aは、多重矢板壁用部材10の棒状部材からなる間隔保持部材12の代わりに、鋼製の板状部材からなる間隔保持部材41を適用している。この板状部材からなる間隔保持部材41は、その両端縁が、溶接等によって鋼矢板11の凸部17に固定されている。この板状部材からなる間隔保持部材41は、起立時において、鋼矢板11の長手方向の長さと略同一の高さ方向の長さから構成される。
【0066】
このように、間隔保持部材41を板状部材によって構成した場合、互いに隣接する矢板壁20間に、仕切りが設けられることになる。これによって、矢板壁20間に敷き詰められる間詰め材Bの動きが拘束され、間詰め材Bを壁体20間に一層強固に抑え留めることができる。
【0067】
なお、上述したように、この間隔保持部材41の上端部を鋼矢板11の上端部より下方に位置するように取付けた場合、間詰め材Bを間区保持部材41の上端部を覆うように敷き詰めれば、各種礫体との衝突による間隔保持部材41の損傷を防止可能となる。
【0068】
図13(b)は、多重矢板壁用部材40Bの構成を示している。多重矢板壁用部材40Bは、多重矢板壁用部材40Aにおける板状部材から間隔保持部材41よりも、起立時における、高さ方向の長さが短く構成された帯状部材からなる間隔保持部材42が、その高さ方向に複数個に亘って取付けられて構成される。
【0069】
このように、間隔保持部材42を帯状部材から構成した場合、間隔保持部材41として板状部材を取付けた場合と比較して、製造コスト、材料費を低減可能となる。また、間隔保持部材41を板状部材とした場合と比較して重量が軽くなり、これに伴い搬送コストを低減させ、更には作業を容易に行うことができ、施工性が向上することになる。
【0070】
図13(c)は、多重矢板壁用部材40Cの構成を示している。多重矢板壁用部材40Cは、多重矢板壁用部材10の棒状部材の個数を更に増加させたものである。これによって、多重矢板壁用部材40Cにおける第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bとが強固に連結されることになる。
【0071】
因みに、間隔保持部材は、運搬性、施工性の観点から、棒状部材で構成することが望ましい。この理由は、間隔保持部材12を外した状態の鋼矢板11を複数段に積み重ねて現地まで運搬し、現地にて間隔保持部材12を雌ねじ部材13によって鋼矢板11に対して連結することが可能となるためである。なお、コストと強度との間の釣り合いを考慮すると、棒状部材からなる間隔保持部材12は、図4に示す形態のように、鋼矢板11に対して二本のみ取付ける場合が最も望ましい。この場合、多重矢板壁用部材の重量が軽くなるとともに、搬送コストの低減し、更に施工性が向上することになる。
【0072】
次に、本発明を適用した河床防護構造体の他の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態における河床防護構造体1と同一の構成については、同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
【0073】
第2の実施の形態
【0074】
図14(a)は、第2の実施の形態としての河床防護構造体50Aの側面断面図を示している。
【0075】
この河床防護構造体50Aにおいては、複数列の矢板壁20が、河川下流側に向かうにつれてその高さが低くなるように構成されている。これに伴い、各矢板壁20間に間詰め材Bが敷き詰められて構成される間詰め材層の位置する高さが、河川下流側に向かうにつれて低くなり、間詰め材層が階段状に配置されることになる。
【0076】
この場合、矢板壁20を立設させる前に、予め河床5上に盛土をして、河床5が河川下流側に向かうにつれてその高さが低くなるように階段状に構築しておき、その後に、矢板壁20を河川上流側から下流側に向けて順次構築していくことになる。
【0077】
このような矢板壁20を構築するために用いられる多重矢板壁用部材51は、図14(b)に示すように、第1の鋼矢板11aと第2の鋼矢板11bの長手方向の高さが夫々異なっており、第1の鋼矢板11aが長手方向の上方に延長され、第2の鋼矢板11bが長手方向の下方に延長された形状に構成される。なお、最上流側に配置される多重矢板壁用部材51aは、第1の鋼矢板11aの上端部と第2の鋼矢板11bの上端部との高さが略同一高さとなるようにされ、最下流側に配置される多重矢板壁用部材51bは、第1の鋼矢板11aの下端部と第2の鋼矢板11bの下端部との高さが略同一高さとなるように形成される。
【0078】
このような構成からなる河床防護構造体50Aは、越流部31を介して流下してくる越流水等の落下エネルギーを、階段状に配置された間詰め材層の各段毎に減勢可能となっている。この河床防護構造体50Bは、砂防堰堤3の越流部31の高さが余りに高く、間詰め材Bによって越流水等の落下エネルギーを十分に減衰できない場合に有効となる。
【0079】
第3の実施の形態
【0080】
図15は、第3の実施の形態としての河床防護構造体50Bの側面断面図を示している。また、図16は、この河床防護構造体50Bの平面図を示している。
【0081】
この河床防護構造体50Bにおいては、河床防護構造体50Aと同様に、複数列の矢板壁20が、河川下流側に向かうにつれてその高さが低くなるように構成されている。また、この河床防護構造体50Bにおいては、間隔保持部材41が図13(a)に示すような板状部材から構成される。この河床防護構造体50Bにおいては、図16に示すように、互いに隣接する矢板壁20の壁面、並びに当該互いに隣接する矢板壁20間に配置された板状部材からなる間隔保持部材41の側面によって囲まれた空間内に、河水等の水が貯水されることによって水溜め部W1が設けられる。
【0082】
この河床防護構造体50Bにおいては、間詰め材Bのみならず、水溜め部W1もが、越流部31を介して流下してくる越流水等と衝突することになり、間詰め材Bと水溜め部W1とによって越流水等の落下エネルギーを減勢することになる。このため、間詰め材Bのみを設けた場合と比較して、前庭部33の河床5の洗掘、浸食をより確実に防止することが可能となる。
【0083】
なお、このように矢板壁20間に河水等を蓄水する場合、矢板壁20における各鋼矢板11の連結部は、継手16間の嵌合強度を高めたり、止水材を介装させたりすることによって、連結部における止水性を向上させることが望ましい。
【0084】
また、このような水溜め部W1は、複数列の矢板壁20が、河川下流側に向かうにつれてその高さが低くなるように構成されている場合のみならず、図2に示すように、複数列の矢板壁20の高さが略同一に構成されている場合に適用してもよいのは勿論である。
【0085】
また、この河床防護構造体50Bにおいては、互いに隣接する矢板壁20間に対して少なくも二つの板状部材からなる間隔保持部材41が配置されていればよく、これによって、各面によって囲まれた空間内に貯水可能となる。
【0086】
第4の実施の形態
【0087】
図17は、第4の実施の形態としての河床防護構造体50Cの側面断面図を示している。また、図18は、この河床防護構造体50Cの平面図を示している。
【0088】
この河床防護構造体50Cにおいては、河川下流側に位置する矢板壁20cの矢板壁高さを他の矢板壁20dの矢板壁高さより高く構成しており、これによってこの矢板壁20cを副堰堤35として機能させている。以下、この矢板壁20cを、副堰堤用矢板壁20cという。
【0089】
この副堰堤用矢板壁20cは、他の矢板壁20dと異なり、前庭部33における護岸壁34よりも、その両端が河川幅方向両岸側に突出するように構成されている。そして、河床防護構造体50Cにおいては、この副堰堤用矢板壁20cの上流側の壁面と、河川の幅方向両側に設けられる護岸壁34の壁面と、砂防堰堤3における堤体30の下流側の壁面とによって囲まれる空間内に、河水等の水が貯水されることによって水溜め部W2が設けられる。
【0090】
このようにして構成される河床防護構造体50Cは、河床防護構造体50Bにおける水溜め部W1と比較して、より深い水深を有し、且つ、広い範囲に亘って水溜め部W2を設けることが可能となり、これに伴い、より広い範囲に亘る河床5の洗掘、浸食を防止することができる。
【0091】
なお、この実施の形態においては、河川最下流側に位置する二列の矢板壁20c間に土、砂等を盛土したうえで、この矢板壁20c間に間詰め材Bを敷き詰めて、これを副堰堤35としている。そして、この二列の矢板壁20c並びに盛土された土等によって、貯水された水による水平方向の水圧に対する水平耐力を向上させている。
【0092】
第5の実施の形態
【0093】
図19は、第5の実施の形態としての河床防護構造体50Dの側面断面図を示している。また、図20は、この河床防護構造体50Dの一部切欠平面図を示している。
【0094】
この河床防護構造体50Dにおいては、第1の実施の形態における砂防堰堤3の代替として、砂防堰堤を鋼矢板で構築した矢板堰堤60としている。
【0095】
矢板堰堤60は、第1の実施の形態における砂防堰堤3と同様に、河川幅方向を横断するようにして河床5上に立設される堤体65と、堤体65の上端部の河川幅方向の両側に設けられる袖部62と、袖部62間に位置し、袖部62の上端部よりその上端部が低く構成されることによって上流側から流下してくる河水等を越流可能な越流部61とから構成される。
【0096】
この矢板堰堤60の下流側の外壁64は、図21に示すように、鋼矢板66を千鳥状配置に組み上げて構成される。矢板堰堤60の上流側の外壁64も同様に、鋼矢板66を千鳥状配置に組み上げて構成されており、この上流側、下流側の外壁64間には、コンクリートが打設されるか、土、砂、土砂や巨礫等が敷き詰められることによって充填体68が設けられる。更にこれら充填体68の上部には、矢板堰堤60の上部を保護する天板63が取付けられる。この天板63は、コンクリートの打設、又は鋼板等を取付けることによって具体化される。
【0097】
また、越流部61を構成する側壁面は、鋼板67で構成される。この鋼板67は、上流側から下流側に向かうにつれて、越流部61における一対の鋼板67の間隔が狭くなるようにして構成される。
【0098】
この第5の実施の形態における河床防護構造体50Dにおいては、図21に示すように、矢板堰堤61における下流側の外壁64の一部の鋼矢板66が、前庭部33に配置される矢板壁20の一部の鋼矢板11と連結されて構成される。このように、多重矢板壁用部材10を用いることにより、前庭部33における矢板壁20のみならず、砂防堰堤についても構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】河床防護構造体を配置した砂防堰堤の正面図である。
【図2】河床防護構造体を配置した砂防堰堤の側面断面図である。
【図3】河床防護構造体を配置した砂防堰堤の概略平面図である。
【図4】多重矢板壁用部材の斜視図である。
【図5】(a)は、多重矢板壁用部材の側面図であり、(b)はその平面図である。
【図6】複数の多重矢板壁用部材を連結することによって構築された矢板壁の例を示す平面図である。
【図7】多重矢板壁用部材を連結して構築される二列の矢板壁を示す斜視図である。
【図8】多重矢板壁用部材を連結して構築される二列の矢板壁を示す平面図である。
【図9】多重矢板壁用部材を連結して構成される複数列の矢板壁を示す平面図である。
【図10】河床防護構造体を構築する方法について説明するための図である。
【図11】河床防護構造体を構築する方法について説明するための図である。
【図12】矢板壁における各鋼矢板を互いの継手を遊嵌された状態で連結した場合の作用効果について説明するための図である。
【図13】多重矢板壁用部材の他の実施の形態について説明するための図である。
【図14】河床防護構造体の第2の実施の形態を示す側面断面図である。
【図15】河床防護構造体の第3の実施の形態を示す側面断面図である。
【図16】河床防護構造体の第3の実施の形態を示す平面図である。
【図17】河床防護構造体の第4の実施の形態を示す側面断面図である。
【図18】河床防護構造体の第4の実施の形態を示す平面図である。
【図19】河床防護構造体の第5の実施の形態を示す側面断面図である。
【図20】河床防護構造体の第5の実施の形態を示す一部切欠平面図である。
【図21】矢板堰堤の下流側の外壁における鋼矢板の配置状態を示す概略正面図である。
【図22】従来技術を説明するための図である。
【符号の説明】
【0100】
1 河床防護構造体
3 砂防堰堤
5 河床
10 多重矢板壁用部材
11 鋼矢板
12 間隔保持部材
13 雌ねじ部材
15 ウエブ部
16 継手
17 凸部
18 フランジ部
20 矢板壁
22 鋼矢板
30、38 堤体
31 越流部
32、39 袖部
33 前庭部
34 護岸壁
37 副堰堤
40A、40B、40C 多重矢板壁用部材
41 間隔保持部材(板状部材)
42 間隔保持部材(帯状部材)
50A、50B、50C、50D 河床防護構造体
51、52 多重矢板壁用部材
60 矢板堰堤
61 越流部
62 袖部
63 天板
64 外壁
65 堤体
66 鋼矢板
67 鋼板
B 間詰め材
100 砂防堰堤
101 河床
110 袖部
111 越流部
112 前庭部
113 水叩き
120 副堰堤
121 堤体
122 袖部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川に立設されてなる砂防堰堤の下流側の河床に設置される河床防護構造体において、
継手を両側縁に有する第1の鋼矢板と第2の鋼矢板との互いに対向するウエブ部を間隔保持部材を介して連結させた多重矢板壁用部材を、一の方向に隣接する他の多重矢板壁用部材との間で互いの第1の鋼矢板の継手と第2の鋼矢板の継手とを連結させることにより、上記一の方向に向けて第1の鋼矢板と第2の鋼矢板が交互に配置された矢板壁が、上記河床上において複数列形成され、
互いに隣接する上記矢板壁間に間詰め材が敷き詰められてなること
を特徴とする河床防護構造体。
【請求項2】
河川に立設されてなる砂防堰堤の下流側の河床に設置される河床防護構造体において、
継手を両側縁に有する第1の鋼矢板と第2の鋼矢板の互いに対向するウエブ部を間隔保持部材を介して連結させた多重矢板壁用部材を、一の方向に隣接する他の多重矢板壁用部材との間で互いの第1の鋼矢板の継手同士又は互いの第2の鋼矢板の継手同士を連結させることにより、上記一の方向に向けて第1の鋼矢板又は第2の鋼矢板が連続して配置された矢板壁が、上記河床上において複数列形成され、
互いに隣接する上記矢板壁間に間詰め材が敷き詰められてなること
を特徴とする河床防護構造体。
【請求項3】
上記間隔保持部材は、板状部材からなること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の河床防護構造体。
【請求項4】
上記間隔保持部材は、棒状部材からなること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の河床防護構造体。
【請求項5】
一の上記間隔保持部材の両端が、上記第1の鋼矢板及び上記第2の鋼矢板におけるそれぞれのウエブ部の幅方向の中央部から一端側までの位置に連結されるとともに、他の上記間隔保持部材の両端が、当該第1の鋼矢板及び当該第2の鋼矢板におけるそれぞれのウエブ部の幅方向の中央部から他端側までの位置に連結されること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の河床防護構造体。
【請求項6】
上記間隔保持部材が板状部材から構成され、
上記互いに隣接する矢板壁の壁面並びに当該互いに隣接する矢板壁間に配置された上記板状部材の側面によって囲まれた空間内に水が貯水されて水溜め部が設けられること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の河床防護構造体。
【請求項7】
他の上記矢板壁の矢板壁高さよりも高い矢板壁高さからなる副堰堤用矢板壁が河川下流側に構築され、
上記副堰堤用矢板壁の壁面と、河川の幅方向両側に設けられる護岸壁の壁面と、上記砂防堰堤における堤体の壁面とによって囲まれた空間内に水が貯水されて水溜め部が設けられること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の河床防護構造体。
【請求項8】
上記複数列の矢板壁は、河川の下流側に向かうにつれてその高さが低くなるように構成されていること
を特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載の河床防護構造体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項記載の上記河床防護構造体を構築する方法であって、
複数列の上記矢板壁を、河川上流側から河川下流側に向けて順次立設すること
を特徴とする河床防護構造体の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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