説明

沸騰水型原子炉用燃料集合体の燃料チャネルに対する測定を含む方法

本発明は、沸騰水型原子炉用の燃料集合体(8)の燃料チャネル(14)に対する測定を含む方法に関する。この方法は、以下の特徴を含む:この測定は非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用により行われる、この測定は運転中に少なくともある時間沸騰水型原子炉の炉心で使用された燃料チャネル(14)に対して行われる、この測定は燃料チャネル(14)が水の中に置かれるときに行われる、この測定は、燃料チャネル(14)上の異なる場所に対して行われ、この方法を通して少なくとも当該場所における燃料チャネル(14)の水素化物含有量が決定される。この方法は、隣接している制御棒からのシャドウ腐食が燃料チャネル(14)の特性に対してどのように影響を及ぼすかを見出すために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉用燃料集合体の少なくとも1つの燃料チャネルの少なくとも1つの特性の測定を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(BWR)の炉心は非常に多くの燃料集合体を含む。この燃料集合体は鉛直方向に延在し、炉心の中で互いに対して平行に並べられている。図1は、このような燃料集合体8の例を概略的に示す。燃料集合体8はいくつかの燃料棒10を含む。
【0003】
燃料集合体8の中にある燃料棒10の束は、側面はケーシング14によって囲まれている。このケーシングは、ボックス(box)またはボックス壁(box wall)と呼ばれることもある。しかしながら、本願ではこのケーシングは燃料チャネル14と呼ばれる。燃料チャネル14は(上方向および下方向を除いて)すべての側面でこの燃料の束を囲む。通常、燃料集合体8は四辺形であり、従って燃料チャネル14は長方形または正方形の断面形状を有する。分かりやすさのために、図1では燃料チャネル14は、燃料集合体8の中に存在する燃料棒10を示すために、1つの側面で一部が取り除かれている。
【0004】
燃料棒8は、ペレットの形態にあることが多い核燃料物質を含有するクラッディングチューブ(cladding tube)からなる。図1では、このようなクラッディングチューブの一部は核燃料物質12を示すために取り除かれている。燃料棒10は通常、燃料集合体8の中で互いに対して平行に並べられている。実際の核燃料物質12は、燃料集合体8の頂部まで全面的に到達するわけではなく、必ずしも燃料集合体8の底部へと下まで全面的に到達するわけでもない。それゆえ、燃料集合体8の有効部分(active part)の長さは、燃料集合体8全体よりも短い。
【0005】
図2は4つの燃料集合体8の断面図を概略的に示す。分かりやすさのために、図2では燃料集合体8の四辺形の燃料チャネル14だけが示されている。従って各燃料チャネル14は4つの側壁を有する。これらは、図2の中の燃料集合体8のうちの1つに1、2、3および4と番号が付けられている。
【0006】
すでに上で記載したように、上記の種類の非常に多くの燃料集合体8が原子炉の炉心の中に存在する。ある一定のこれらの燃料集合体8の間に、炉が運転中であるときの少なくとも一部の間、挿入された制御棒が存在する。このような制御棒20は、図2では非常に概略的に断面で示されている。制御棒20は、中性子吸収材料を含有する4つの制御棒ブレード22、24、26、28を有する。燃料チャネル14は通常はジルコニウム系合金でできている。制御棒20は通常、別の合金、多くの場合はステンレス鋼でできている。
【0007】
原子炉の炉心に存在する非常に特定の環境では、その中にある構成要素は、様々な態様で影響を受ける。とりわけ、燃料チャネル14において水素化物が形成される傾向がある。このような水素化物の形成は、燃料集合体8の中の有効面積(核燃料が存在する場所)に対応する燃料チャネル14の高さレベルで主に起こる。さらには、燃料チャネル14上で酸化物が形成される。
【0008】
この分野で知られている特定の現象がいわゆるシャドウ腐食(shadow corrosion)である。シャドウ腐食は、この特定の環境で、特にこれらの構成要素が他の材料の構成要素、例えばステンレス鋼の構成要素から短い距離で並べられたときのジルコニウム系合金の構成要素上で発生する。シャドウ腐食は、特に燃料集合体の中に核燃料があるところ、それゆえ強い放射能がある高さレベルで発生する。シャドウ腐食は、腐食の対象であり続けた構成要素上の隠れた領域と見ることができる。このように、シャドウ腐食は隣接している制御棒20に面する燃料チャネル14の側壁1、4で発生する可能性があるということが知られている。
【0009】
シャドウ腐食は様々な問題を引き起こす可能性がある。とりわけ、シャドウ腐食は、燃料チャネル14(およびこれにより燃料集合体8)は曲がった状態になるであろうという事実につながる可能性があるようである。これは、シャドウ腐食は水素吸収の増加すなわち水和の増加につながる可能性があるという事実に起因すると考えられている。この水素吸収の増加すなわち水和の増加は、次にシャドウ腐食の対象である燃料チャネル14の側壁1、4の水素誘導による成長につながる可能性がある。この現象は例えば非特許文献1に記載されている。
【0010】
燃料集合体8の湾曲は次にさらなる問題につながる可能性がある。例えば、この湾曲は、これにより、制御棒20と隣接している燃料集合体8との間に摩擦が発生するほどにもなる可能性がある。これは、燃料集合体8間の空間から制御棒20を引き抜くことが不可能であるという事実につながる可能性がある。さらには、燃料集合体8の湾曲は、許容される限界出力(限界出力比;CPR)に関する制約につながる可能性があり、この制約は次に、その炉が他の状態ほどには高出力で運転することができないという事実につながる。これは、原子力発電所を運転するものにとって高コストを構成する。
【0011】
注目されてきたさらなる問題は、当該燃料集合体8がその運転時間の一部のあいだ制御棒20からのシャドウ腐食の対象であり続けただけだとしても、シャドウ腐食およびそれに関連した燃料チャネル14の水素誘導による成長の増加は、その燃料チャネル14が後の運転の間に湾曲した状態になるという事実につながる可能性があるということである。
【0012】
シャドウ腐食という現象および燃料集合体8の寿命全体の間の燃料チャネル14に対するその影響は、このように非常に複雑であり完全には理解されていない。
【0013】
特許文献1および特許文献2は、原子炉の中の構成要素、例えば燃料棒に対する渦電流測定のための方法および装置を記載する。これらの文献で言及されているように、例えばこのような構成要素上に存在しうる層の厚さの測定を実施することができるということが重要であるという可能性がある。この層は、例えば酸化物層であってもよい。測定はまた、層の厚さ以外の他の特性に関して、例えば当該構成要素の中の水素化物の含有量に関して行われてもよい。測定対象のすぐ近傍に配置されている測定プローブを用いて測定を実施することが簡便である。
【0014】
特許文献3は、水中に置かれる原子炉用の燃料棒などの構成要素に対して渦電流測定を実施するのに適したシステムを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,889,401号明細書
【特許文献2】国際公開第00/34768(A1)号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/053100(A1)号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】NRC Information Notice 89−69,Supplement 1:Shadow corrosion resulting in fuel channel bowing,United States Nuclear Regulatory Commission Office of Nuclear Reactor Regulation Washington,D.C. 20555−0001、2003年、8月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、沸騰水型原子炉用の燃料集合体の燃料チャネルが運転中に隣接している制御棒からシャドウ腐食によってどのように影響を受けてきたかを調査することを可能にする方法を提供することである。さらなる目的は、燃料チャネルを破壊するという必要性なしに、調査を実施することを可能にすることである。さらなる目的は、ある時間、沸騰水型原子炉の中で使用された燃料チャネルがさらなる使用の間に湾曲した状態になるであろうというリスクを見つけ出すために、ある時間、沸騰水型原子炉の中で使用された後にその燃料チャネルの異なる部分がどのような特性を有するかを調査することである。さらなる目的は、シャドウ腐食という現象が燃料チャネルにどのように影響を及ぼすかをよりよく理解するために、燃料チャネルを調査することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的は最初に上ですでに記載した種類の方法によって成し遂げられ、そしてその方法は以下の:
当該測定は非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用によってなされる、
当該測定は、運転中に少なくともある時間沸騰水型原子炉の炉心で使用された燃料チャネルに対してなされる、
当該測定は、燃料チャネルが水の中に置かれるときに実施される、
当該測定は当該燃料チャネル上の少なくとも第1の場所に対してなされ、この第1の場所は、運転中に原子炉の中で燃料集合体の中に核燃料が存在するような、その燃料集合体の高さレベルに位置し、運転時間の少なくとも一部の間、この第1の場所は、原子炉の中の隣接している制御棒に向かう方向でその制御棒に近接して置かれており、そのため当該場所はその制御棒に起因するシャドウ腐食の対象であったことになりやすい場所である、
当該測定は当該燃料チャネル上の少なくとも第2の場所に対してもなされ、その第2の場所は、運転中は、その制御棒に起因するシャドウ腐食の対象であったことになりやすいようには位置していなかった場所である、
という特徴を含み、当該方法を通して、少なくとも上記第1および第2の場所での燃料チャネルの水素化物含有量が測定される。
【0019】
このような方法を通して上記の目的は成し遂げられるようである。破壊的でない誘導渦電流測定方法を使用することにより、この燃料集合体は、当該測定後に炉心の中で再度使用されてもよい。これは、同じ燃料チャネルに対して異なる時間点で数回測定することを可能にする。これにより、シャドウ腐食が燃料チャネルに対してその寿命全体の間でどのように影響を及ぼすかについての理解の増大が成し遂げられる可能性がある。誘導渦電流測定方法以外のいくつかの他の測定方法を使用するべきであるならば、他の方法では通常は分析のために試験試料を燃料チャネルから取り出すことが必要となるであろうし、これは、その燃料チャネルは破壊されることになるということを意味するであろう。
【0020】
当該測定は燃料チャネルが水の中に置かれているときに実施することができるため、当該測定は、燃料集合体が原子炉の中で運転中であった後に移される可能性がある水槽の中で実施することができる。さらには、望ましくない放射能が環境に到達しないように、この水槽の中で燃料集合体は保護される。
【0021】
当該測定は上で明記されたとおり少なくとも2つの異なる場所に対して行われるため、シャドウ腐食が燃料チャネルにどのように影響を及ぼしたかについての知識が成し遂げられる。特に、これにより、シャドウ腐食がその燃料チャネルの中の水素化物の吸収にどのように影響を及ぼしたかについての知識が得られる。それゆえシャドウ腐食という現象についての実質的に増大した理解が、本発明に係る方法によって得られる。
【0022】
上記の非破壊的な誘導渦電流測定方法は、好ましくは、コイルの助けを借りて少なくとも1つの交流電磁場を発生し、この少なくとも1つの交流電磁場は、当該燃料チャネルの中へと浸透して、同時に、この発生された交流電磁場に対して反作用する渦電流を発生するという種類の測定方法であり、ここで当該特性の測定は、発生された交流電磁場に対する反応を測定し、かつ当該特性の算出を実施することにより、行われる。
【0023】
好ましくは、当該測定は、燃料集合体が原子炉の炉心から移された水槽の中で実施される。次いでこの水槽から、燃料集合体は、その燃料集合体がその全期間使用されなかった場合は、原子炉が運転中であるときに再度原子炉の中で使用されるために、炉心に戻されてもよい。
【0024】
従って上記第1の場所は燃料チャネルの側壁上にあることが好ましい。当該場所がその制御棒に近接して置かれており、そのため当該場所はその制御棒に起因するシャドウ腐食の対象であったことになりやすい、と言われる場合、その場所と制御棒のブレードとの間にさらなる構成要素はまったくなく、その場所がある当該燃料チャネル上の側壁は運転中に制御棒に最も近く配置されていたということが意味される。シャドウ腐食は、当該構成要素(この場合燃料チャネルおよび制御棒のブレード)間の距離が短い場合、およびこの構成要素がシャドウ腐食が発生する可能性がある種類の異なる材料でできている場合に発生する。
【0025】
第2の場所がその制御棒に起因するシャドウ腐食の対象であったことになりやすいようには置かれていなかったと言われる場合、当該場所は、制御棒から、シャドウ腐食が発生する可能性があるような短い距離で、隣接している制御棒に面していなかったということが意味される。
【0026】
本発明に係る方法を実施する1つの態様によれば、当該第2の場所は、運転中は隣接している制御棒に面していなかった燃料チャネルの側壁上に位置する。シャドウ腐食の対象であった側壁およびシャドウ腐食の対象でなかった側壁の両方の上で測定することにより、これらの側面上での例えば水素化物含有量の間の差が決定される可能性がある。これにより、例えば燃料チャネルが原子炉中での将来の使用の間に湾曲しやすいかどうかについての情報が得られる。
【0027】
好ましくは、またこの第2の場所は、運転中、原子炉の中で燃料集合体の中に核燃料が存在するような、その燃料集合体の高さレベルに位置する。
【0028】
本発明に係る方法を実施するさらなる態様によれば、測定は、当該第2の場所が位置する場所とは別の燃料チャネルの側壁上の少なくとも第3の場所に対して行われ、またこの第3の場所も運転中に隣接している制御棒に面していなかった燃料チャネルの側壁上に位置する。
【0029】
好ましくは、測定は燃料チャネルのすべての4つの側壁に対して行われ、ここで2つの側壁は制御棒からのシャドウ腐食の対象であることになりやすかったものであり、他方、2つの他の側面はこのなり易さを有しなったものである。燃料チャネルの3つに対してまたは好ましくはすべての4つの側壁に対して測定することにより、その燃料チャネルの異なる側壁のとりわけ水素化物含有量についてのさらなる情報が得られる。これにより、その燃料チャネルが湾曲し易いかについてのさらなる情報が得られる。
【0030】
好ましくは、測定は、燃料チャネルのすべての4つの側壁に対して、運転中、原子炉の中で燃料集合体の中に核燃料が存在するような、燃料集合体の高さレベルで行われる。水和に対する傾向は炉心の有効部分でより高いため、炉心の有効部分に対する、領域内の高さレベルで測定することが特に重要である。
【0031】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、当該測定は燃料チャネルの外側から行われる。燃料チャネルの外側から測定することはより容易であるため、および燃料チャネルは主に外側からシャドウ腐食にさらされるため、これは有利である。
【0032】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、測定は、燃料チャネルの内側から少なくとも1つの場所でも行われる。これにより例えば燃料チャネルの内側および外側での水素化物含有量の差についての情報が得られるため、このような測定は有利である。この情報により、燃料チャネルが湾曲する傾向をよりよく理解して予測することが可能になる。
【0033】
好ましくは、またこの測定は、運転中、原子炉の中で燃料集合体の中に核燃料が存在するような、燃料集合体の高さレベルで行われる。
【0034】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、当該非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用による測定はまた、燃料チャネルと実質的に同じ合金でできているが実質量の水素化物をまったく含有せず、かつ非磁性であって電気伝導性でない材料でできている第1の既知の厚さの層が設けられている少なくとも1つの標準試料に対しても、これまでに記載した測定と同じ条件の間、および同じ水槽の中で行われる。このような標準試料に対する測定からの結果は、当該燃料チャネル上に存在する可能性がある存在しうる酸化物層の測定に対する影響を考慮するために、燃料チャネルに対する測定での水素化物含有量の決定において使用される。
【0035】
燃料チャネルの中の水素化物含有量の測定は非常に敏感である。燃料チャネル上に存在する酸化物層は、水素化物含有量よりも、測定結果に対して実質的により大きい影響を及ぼす。それゆえ、測定結果に対するこの酸化物層の影響を較正することができることが重要である。これは、既知の厚さの層を有する1つ、または好ましくはいくつかの標準試料に対して測定することにより、なされてもよい。これにより、測定結果が層の厚さにどのように依存するかを確立することができ、すなわち測定結果と層の厚さとの間の関係を確立することができる。燃料チャネルに対する測定で決定されることになる水素化物含有量は、次いで標準試料に対するこの測定を通して確立された関係からのずれとして得られる。当該測定方法は測定条件に対しても非常に敏感であるため、標準試料に対する測定が実際の燃料チャネルに対する測定と同じ環境および同じ条件下で実施されるということは、重要な利点である。
【0036】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、測定は少なくとも1つの他の標準試料に対しても行われ、この少なくとも1つの他の標準試料は、燃料チャネルと実質的に同じ合金でできているが実質量の水素化物をまったく含有せず、かつ上記層が設けられていないかまたは上記第1の既知の厚さとは異なる第2の既知の厚さの上記層のうちの1つが設けられているかのいずれかである。
【0037】
好ましくは、測定は、上記種類のいずれの層も有しないこのような標準試料に対して行われ、かつ測定は上記種類の異なる厚さの層を有する少なくとも2つのさらなる標準試料に対しても行われる。複数のこのような標準試料に対して測定することにより、この較正が改善され、これは燃料チャネルの中の水素化物含有量の決定が改善されるということを意味する。
【0038】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、測定は、運転中、原子炉の中で燃料集合体の中に核燃料が存在しない燃料集合体の高さレベルに位置するほどの燃料チャネルから上または下に離れて位置する、当該燃料チャネル上の少なくとも1つの場所でも行われる。
【0039】
このような場所で、恐らくは水素化物はまったく形成されたことはない(または、わずかに少量のみの水素化物が形成されただけである)。それゆえこの測定は、測定中に決定されたものは現実の水素化物含有量であるということを確認するために、大量の水素化物がある場所に対する測定との比較として使用することができる。
【0040】
好ましくは、従って当該測定は、制御棒に面していなかった側壁のいくつか(または両方の側壁に対して)に対して行われる。
【0041】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、当該非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用による測定は、燃料チャネルと実質的に同じ合金でできておりかつ既知の含有量の水素化物を含有する少なくとも1つの標準試料に対しても行われ、この測定の結果は、燃料チャネルに対する測定での水素化物含有量の決定の際に測定を較正するために使用される。このような較正測定を通して、測定精度はさらに改善される。このような標準試料に対する測定は、既知の厚さの層を有する上記の標準試料に対する測定に基づいて行われた較正が現実に正確であるという一種のチェックを構成する。これが当てはまらない場合は、既知の水素化物含有量を有する標準試料(または複数の標準試料)に対する測定に関してさらなる較正が行われてもよい。
【0042】
この測定は、実際の燃料チャネルに対する測定と同じ条件下、および同じ水槽中で行われることが有利である場合がある。あるいは、しかしながら前もって当該測定を実施し、実際の燃料チャネルに対する測定に関する較正時に使用するためにその結果を保存することも可能である。
【0043】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、当該非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用による測定は、当該燃料チャネルの中へと浸透する交流電磁場を発生するコイルの助けを借りて行われ、ここでこの測定は発生された交番磁界の少なくとも2つの異なる周波数で行われる。複数の周波数で測定することにより、測定結果が改善される。
【0044】
好ましくは、3つ以上の異なる周波数、例えば少なくとも8つの異なる周波数が測定の間に使用される。
【0045】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、測定は、両方とも500KHzよりも高い少なくとも2つの異なる周波数で行われる。十分に高い周波数が使用される場合にはこの交番磁界を発生するコイルと測定対象との間の誘導結合は改善される。さらには、より高い周波数は、発生される交流電磁場の浸透深さが減少することを意味する。これによりこの燃料チャネルの壁厚み(肉厚)が当該測定に影響を及ぼすことが防止されるため、これは有利である。
【0046】
好ましくは、この周波数は当該コイルの共鳴周波数未満、例えば20MHz未満である。1つの有利な可能性によれば、上記少なくとも2つの異なる周波数のうちの1つは、上記少なくとも2つの異なる周波数のうちの第2のもの高さが少なくとも2倍、好ましくは高さが少なくとも5倍である。
【0047】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、燃料チャネルの上に存在する酸化物層の厚さもこの測定を通して決定される。本発明に係る方法の重要な利点は、水素化物含有量だけでなくその燃料チャネル上の酸化物層の厚さも決定される可能性があるということである。これにより、この燃料チャネルの特性についてのさらなる情報が得られる。
【0048】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、当該測定が実施されたときに、原子炉のさらなる運転の間に使用されるために、燃料チャネルを有する燃料集合体が再度原子炉の炉心に置かれるという場合がある。この測定を通して、例えば原子炉の中でのさらなる使用の間に湾曲した状態になるその燃料チャネルのなり易さについての情報が得られる。本発明に係る方法は非破壊的であるため、当該燃料集合体は、当該測定後(それが十分に良好な特性を有する場合)原子炉の中で再度使用することができる。
【0049】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、水素化物含有量が以前の測定以降どのように変化したかを少なくとも決定するために、原子炉のこのさらなる運転後に、以前と同じ燃料チャネルに対して測定が再度行われる。異なる時間点で同じ燃料チャネルに対して数回測定することにより、その燃料チャネルの特性およびシャドウ腐食という現象が湾曲のしやすさにどのように影響を及ぼすかについてのさらに改善された情報が得られる。
【0050】
本発明に係る方法を実施するさらなる有利な態様によれば、非破壊的な誘導渦電流測定方法を用いた当該測定は、核燃料が燃料チャネルから取り出されたときに、その燃料チャネルに対して行われる。
【0051】
従って、燃料チャネルは測定の間このような高温の対象ではなく、これは、当該測定は温度に敏感であるため、より良好な測定精度を得ることができるということを意味する。しかしながら、あるいは、この燃料チャネルが核燃料で満たされているときに、当該測定を実施することは可能であることに留意されたい。このやり方は、測定が実施されることになるときに、核燃料を燃料チャネルから取り出すことが必要ではないという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】沸騰水型原子炉用燃料集合体を概略的に示す。
【図2】4つの燃料集合体および1つの挿入された制御棒を有する沸騰水型原子炉の中の炉心の一部の断面を概略的に示す。
【図3】本発明に係る方法についてのフローチャートを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図3を参照して、本発明に係る方法の1つの例がこれより説明される。
【0054】
分析されることになる燃料集合体8が、運転中に沸騰水型原子炉の炉心の中で使用される。運転サイクルの後(例えば1年後)、燃料集合体8(1つまたは複数)は水槽へと移動される。この水槽の中に標準試料が置かれる。例えば、燃料チャネル14と実質的に同じ合金でできているが、水素化物を含有しない(または少なくとも実質的な量の水素化物を含有しない)4つの標準試料が使用される。これらの標準試料のうちで、1つは加えられた層を有しないが、3つの他の標準試料は既知の厚さ(これらはこの3つの試料について異なる)の加えられた層を有する。この層は、非磁性であって電気伝導性でない材料、例えばMylar(登録商標)でできている。
【0055】
例えば2つのさらなる標準試料は、加えられた層をまったく有しないが、既知量(これはこの2つの試料について異なる)の水素化物含有量を有する。
【0056】
既知の水素化物含有量およびまた既知の厚さの層を有する上記の種類の標準試料を使用することも可能である。
【0057】
測定設備がこの水槽の中へと下げられる(可能であれば標準試料と同時に)。次いで測定がこの標準試料に対して実施される。後述するように、標準試料に対する測定および燃料チャネル14に対する測定の両方を実施することができる。
【0058】
当該測定は、測定プローブを測定対象(標準試料または燃料チャネル14)のすぐ近傍へと移動させることにより、実施される。この測定プローブは少なくとも1つのコイルを具えることが適切であり、このコイルの助けを借りて交流電磁場が発生される。この交流電磁場は測定対象の中へと浸透する。これにより渦電流が測定対象の中で生成され、この渦電流は上記発生された交流電磁場に対して反作用する。
【0059】
使用される測定システムは、当該測定プローブの助けを借りて、発生された交流電磁場上でこの渦電流によって引き起こされる反応を測定するように構成されている。この反応は、このコイルのインピーダンスがこの渦電流由来の反作用する場によってどのように変化するかを測定することにより、測定することができる。従って、このインピーダンスの実部および虚部は、当該交番磁界の1以上の周波数について分析されてもよい。従ってこのシステムは、測定対象の測定されることになる当該特性の算出を実施するように構成されていることが適切である。実際の測定手順は、例えば上記の引用された文献、米国特許第5,889,401号明細書および国際公開第00/34768(A1)号パンフレットに記載されているやり方で実施されてもよい。実際の算出モデルは、例えばこれらの文献に記載されているものと類似の反復的なプロセスを含んでもよい。しかしながら、本発明はこれらの文献に記載されている算出プロセスに限定されない。当該測定の間、例えば、上記の国際公開第2007/053100(A1)号パンフレットに記載されているものと類似のシステムを使用することができる。
【0060】
測定が実施される各場所で、測定は複数の周波数で、例えば8つの異なる周波数で行われる。好ましくは、すべての周波数は500KHzよりよりも高い。
【0061】
燃料チャネル14に対する測定での水素化物含有量の決定で、特に燃料チャネル14上に存在する酸化物層の測定に対する影響を考慮することができるように、標準試料に対する測定が使用される。これは、好ましくは既知の厚さ(この厚さは異なる標準試料に対しては異なる)の層を有するいくつかの標準試料に対して測定することによりなされてもよい。印加された交番磁界の異なる周波数での測定において、標準試料に対する測定を通して、例えば周波数の関数としての測定されたインピーダンスの実部および虚部がどのように層の厚さに依存するかの特定の関係が得られる。燃料チャネルに対する測定で決定されることになる水素化物含有量は、次に、標準試料に対する測定に基づいて決定された関係からの系統的なずれとして得られる。
【0062】
好ましくは、それは既知の水素化物含有量を有する標準試料に対しても測定される。
【0063】
標準試料に対する測定が実施された後に(あるいは、このような測定の前に)、燃料チャネル14に対して測定が実施される。従ってシャドウ腐食にさらされてきた燃料チャネル14の両方の側面の上の側壁1、4の外側に対して測定されることが好ましい。さらには、シャドウ腐食にさらされてこなかった燃料チャネル14の側壁2、3の両方に対しても外側から測定されることが好ましい。
【0064】
さらには、異なる側壁に対して燃料チャネル14の内側から測定が行われてもよい。この測定は、運転中に燃料集合体8の中で核燃料が存在する高さレベルにある側壁の高さレベルで実施されることが好ましい。しかしながらこの核燃料は、できるなら測定が実施される前に燃料集合体8から取り出されてもよい。特に、測定が側壁の内側から実施される場合には、内側から測定することがより容易であるようにするために、この核燃料は燃料集合体8から取り出される必要がある。
【0065】
さらには、測定は、上または下に離れて運転中に燃料集合体8の中で核燃料が存在しない高さレベルで、燃料チャネル14の側壁上実施することができることが適切である。この測定は異なる側壁に対して実施することができるが、シャドウ腐食の対象ではない側壁2、3に対して実施されることが好ましい。
【0066】
この測定を通して、水素化物含有量および酸化物の厚さの両方が異なる測定場所で決定される。これらの測定を通して、シャドウ腐食が燃料チャネル14の湾曲にどのように影響を及ぼしうるかを理解するために重要な情報が得られる。この測定結果を通して、当該燃料チャネル14が原子炉の中の炉心でのさらなる使用の間に湾曲した状態になるであろうという可能性について予測されてもよい。
【0067】
燃料集合体は、燃料集合体が運転中に使用されるときに沸騰していない水が流れるチャネルを具えてもよいことに留意されたい。例えば、チャネルが一緒に十字形の配置を形成するように設計されるチャネルを有する一種の燃料集合体がある。実際の燃料チャネルに対して測定を実施することを除いて、当然、測定はこのような水チャネルの壁に対しても実施されてもよい。
【0068】
すでに上で記載したように、当該燃料チャネルに対する測定は、測定プローブが燃料チャネルのすぐ近傍へと移動されるようにして、行われることが好ましい。従って、測定が実施されるとき、測定プローブは燃料チャネルに対して接することが好ましい。しかしながら、測定プローブが燃料チャネル(または他の測定対象)から短い距離で置かれたときに測定を実施することも可能である。例えば、測定プローブが燃料チャネルから50μmおよび75μmの距離で置かれているときにも、測定を実施することができる。例えば、当該測定が実施されるときに既知の厚さ(例えばそれぞれ50μmおよび75μmの厚さ)の箔が測定プローブと測定対象との間に置かれている場合に、これは実施されてもよい。従って、測定プローブは、これらの場合、測定プローブと測定対象との間に存在する箔に接して保持される。
【0069】
上でも言及したように、当該測定は温度に敏感である。それゆえ、測定手順の間、温度はモニターされるべきである。これは、例えば上記の国際公開第2007/053100(A1)号パンフレットに記載されるやり方でなされてもよい。
【0070】
燃料集合体8がその全期間使用された場合、燃料集合体8は使用済み核燃料用の場所へと移動される。しかしながら燃料集合体8がその全期間使用されなかった場合(例えば、それが原子炉の中で1運転サイクルのあいだ使用されたにすぎない場合)、燃料集合体8は沸騰水型原子炉の中の炉心に再度置かれる。当該燃料集合体8は、これによりさらなる運転のあいだ使用することができる。
【0071】
さらなる運転サイクルの後、上に記載された手順が次いで再度実施されてもよい。従ってこの非破壊的な測定方法を通して、運転中の燃料集合体8の使用の異なる段階での、燃料チャネル14の特性についての非常に詳細な情報が得られうる。
【0072】
本発明は上記の例に限定されず、添付の特許請求の範囲の範囲内で変更されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉用燃料集合体の少なくとも1つの燃料チャネルの少なくとも1つの特性の測定を含む方法であって、前記方法は以下の:
前記測定は非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用によってなされる、
前記測定は、運転中に少なくともある時間沸騰水型原子炉の炉心で使用された燃料チャネルに対してなされる、
前記測定は、前記燃料チャネルが水の中に置かれるときに実施される、
前記測定は前記燃料チャネル上の少なくとも第1の場所に対してなされ、前記第1の場所は、運転中に前記原子炉の中で前記燃料集合体の中に核燃料が存在するような、前記燃料集合体の高さレベルに位置し、運転時間の少なくとも一部の間、前記第1の場所は、前記原子炉の中の隣接している制御棒に向かう方向で前記制御棒に近接して置かれており、そのため当該場所は前記制御棒に起因するシャドウ腐食の対象であったことになりやすい場所である、
前記測定は前記燃料チャネル上の少なくとも第2の場所に対してもなされ、前記第2の場所は、運転中は、前記制御棒に起因するシャドウ腐食の対象であったことになりやすいようには位置していなかった場所である、
という特徴を含み、前記方法を通して、少なくとも前記第1および第2の場所での前記燃料チャネルの水素化物含有量が測定される、方法。
【請求項2】
前記第2の場所は、運転中に前記隣接している制御棒に面していなかった前記燃料チャネルの側壁上に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定は、前記第2の場所が位置する場所とは異なる前記燃料チャネルの別の側壁上の少なくとも第3の場所に対して行われ、また前記第3の場所は運転中に前記隣接している制御棒に面していなかった前記燃料チャネルの側壁上に位置する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定は前記燃料チャネルの外側から行われる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
測定は少なくとも1つの場所で前記燃料チャネルの内側からも行われる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用による測定はまた、前記燃料チャネルと実質的に同じ合金でできているが実質量の水素化物をまったく含有せず、かつ非磁性であって電気伝導性でない材料でできている第1の既知の厚さの層が設けられている少なくとも1つの標準試料に対しても、これまでに記載した測定と同じ条件の間、および同じ水槽の中で行われ、ここでこのような標準試料に対する測定からの結果は、前記燃料チャネル上に存在する可能性がある存在しうる酸化物層の測定に対する影響を考慮するために、前記燃料チャネルに対する測定での前記水素化物含有量の決定において使用される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
測定は少なくとも1つの他の標準試料に対しても行われ、前記少なくとも1つの他の標準試料は、前記燃料チャネルと実質的に同じ合金でできているが実質量の水素化物をまったく含有せず、かつ前記層が設けられていないかまたは前記第1の既知の厚さとは異なる第2の既知の厚さの前記層のうちの1つが設けられているかのいずれかである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
測定は、運転中、前記原子炉の中で前記燃料集合体の中に前記核燃料が存在しない前記燃料集合体の高さレベルに位置するほどの前記燃料チャネルから上または下に離れて位置する、前記燃料チャネル上の少なくとも1つの場所でも行われる、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用による測定は、前記燃料チャネルと実質的に同じ合金でできておりかつ既知の含有量の水素化物を含有する少なくとも1つの標準試料に対しても行われ、この測定の結果は、前記燃料チャネルに対する測定での前記水素化物含有量の決定の際に前記測定を較正するために使用される、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記非破壊的な誘導渦電流測定方法の使用による前記測定は、当該燃料チャネルの中へと浸透する交流電磁場を発生するコイルの助けを借りて行われ、前記測定は発生された交番磁界の少なくとも2つの異なる周波数で行われる、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
測定は、両方とも500kHzよりも高い少なくとも2つの異なる周波数で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記測定を通して、前記燃料チャネル上に存在する酸化物層の厚さも決定される、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記測定が実施されたときに、前記原子炉のさらなる運転の間に使用されるために、前記燃料チャネルを有する前記燃料集合体が前記原子炉の炉心に再度置かれる、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水素化物含有量が以前の測定以降どのように変化したかを少なくとも決定するために、前記原子炉のこのさらなる運転後に、以前と同じ燃料チャネルに対して測定は再度行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記非破壊的な誘導渦電流測定方法を用いた前記測定は、前記核燃料が前記燃料チャネルから取り出されたときに、前記燃料チャネルに対して行われる、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−524010(P2011−524010A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512417(P2011−512417)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050686
【国際公開番号】WO2009/151384
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(504446548)ウェスティングハウス エレクトリック スウェーデン アーベー (26)
【Fターム(参考)】