説明

油の酵素的エステル交換

【課題】油脂類の新規な製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、塩基による連続的又は同時処理による、キレート化剤を含む油の酵素的リパーゼエステル交換方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、1又は複数の金属キレート化剤を含む油を酵素的にエステル交換するための改良された方法に関する。本発明はまた、リパーゼエステル交換方法の適切な酵素組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
植物又は動物起源の油における金属の存在は、それらの油の安定性に対して有害な効果を有することが知られている。従って、油はしばしば、そのような金属を除去するために金属キレート化剤、例えばクエン酸又はリン酸により処理される。
【0003】
しばしば、植物又は動物油及び脂肪が、所定の適用のために正しい物理的及び化学的性質を示すためにブレンドとして使用される。 さらに、油、又は油のブレンドは、適切な性質(例えば、溶融プロフィール、経口感触、等)を得るために加工されるべきである。溶融プロフィールはしばしば、グリセロール上の脂肪酸も、化学的に又は酸素的に転位するか、又は再分配することにより調節される。この工程はしばしば、“エステル交換”として言及される。酵素的エステル交換が、リパーゼを用いて実施される。
【0004】
油への金属キレート化剤の添加の欠点は、それがリパーゼエステル交換性能に対する負の効果を有することである。
【発明の概要】
【0005】
発明の要約:
本発明の目的は、1又は複数の金属キレート化剤を含む油を酵素的にエステル交換するための改良された方法を提供することである。
本発明によれば、1又は複数の金属キレート化剤を含む油のエステル交換は、i)油と塩基とを接触させ、そしてii)前記油とリパーゼとを反応させることにより行われる。
本発明はまた、リパーゼ及び塩基を含んで成る酵素組成物にも関する。最終的に、本発明は、1又は複数のキレート化剤を含む油のエステル交換への塩基の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、塩基の添加を伴って及びそれを伴わないでのエステル交換の前及び後、クエン酸を含む大豆油ブレンドの40℃での固体脂肪含有率(SFC)を示す。
【図2】図2は、固定されたリパーゼA(バッチLA350005)について生成された油の量に対する速度定数(1/時)を示す。前処理:油が炭酸ナトリウムにより前処理される方法からのデータ。同時:油が同時に炭酸ナトリウム処理され、そしてエステル交換される方法からのデータ。参照(対照):前処理を伴わないで油のエステル交換からのデータ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
発明の特定の記載:
植物及び動物油及び脂肪における主要成分は、トリアシルグリセロール(また、トリグリセリドとも呼ばれる)である。トリグリセリドは、グリセロール主鎖にエステル化される3個の脂肪酸残基から成る。一部のグリセリドがまた、天然成分として存在することができる。それらは、グリセロール主鎖上の1又は複数の脂肪酸残基の加水分解により形成され得る。植物及び動物油及び脂肪はしばしば、それらを食品成分として適切にするためにいくらかの修飾を必要とする。
【0008】
溶融プロフィールはしばしば、所定の適用のために適切な物理的性質を脂肪に与えるために調節される必要がある。所望する溶融プロフィールは、所望する適用に依存する。正しい溶融プロフィールはしばしば、異なった原料及び修飾の組み合わせにより得られる。植物油は典型的には、40℃で約10〜30%の固体脂肪含有率(SFC)を有する。“SFC”は、所定の温度で結晶形で存在する脂肪又は油の%として定義される。食品成分として適切であるためには、40℃で1〜10%の範囲でSFCを有するように油を修飾することが一般的に所望される。製品、マーガリンに関しては、所望するSFCの約2〜4%である。しかしながら、他の食品、例えば一定のチョコレートに関しては、異なったSFCプロフィールが好ましい。
【0009】
修飾工程は、他の油とのブレンド、水素化、分別及びエステル交換を包含する。エステル交換は、グリセロール主鎖上の脂肪酸残基を転位し、その結果、トリグリセリド組成が変更される。一部グリセリドがまた、エステル交換の間、形成されるが、しかしそれは通常、所望されない。通常、一部のグリセリドの量は少ない。
【0010】
金属イオンは、それらがその性質に負の永長を及ぼすので、油から注意して除去されるべきである。微量のFe, Cu及びMnでさえ、予備酸化力がある。油から金属を金属イオン封鎖するために、1又は複数の金属キレート化剤が添加される。金属キレート化剤、例えばクエン酸及び/又はリン酸が油に添加される。金属イオン封鎖の後、キレート化剤は、1〜100ppm, 典型的には10〜90ppm、例えば約50ppmの濃度で油に溶解されたまま存続する。食用油は、最終製品の消費者のために許容できる金属キレート化剤により処理される。好ましい態様においては、金属キレート化剤は、酸、好ましくはクエン酸及び/又はリン酸である。本発明によれば、エステル交換は、金属イオンを除去するためにキレート化剤にゆだねられた油に対してリパーゼを用いて酵素的に実施される。
【0011】
キレートに剤に油をゆだねる主要欠点は、油に残存する少量のキレート化剤さえ、リパーゼのエステル交換性能に対して負の影響を有することである。例えば、本発明者は、50ppmのクエン酸を含む大豆油に対する固定されたサーモミセス・ラヌギソサ(Thermomyces lanuginose)リパーゼのエステル交換性能がクエン酸を含まない油に対するよりも65%低かったことを観察した。
【0012】
従って、解決されるべき問題は、1又は複数のキレート化剤を含んで成る、油の酵素的リパーゼエステル交換のために改良された方法を提供することである。この改良性は、酵素組成物の高められた生産性及び/又は高められた平均空間時間収率を包含する。
【0013】
本発明者は、油への塩基の添加がリパーゼ性能に対して有意な正の影響を有することを、驚くべきことには見出した。これは、下記例1に示される。本発明の方法は、従来のリパーゼエステル交換方法として実施されるが、但し有効量の塩基が導入される。例えば、本発明のエステル交換方法は、50〜100℃、好ましくは60〜90℃、特に65〜80℃の温度で行われ得る。
【0014】
従って、第1の観点においては、本発明は、
i)前記油と塩基とを接触させ、そして
ii)前記油とリパーゼとを反応させる、
段階を含んで成る、1又は複数の金属キレート化剤を含む油をエステル交換するための方法に関する。
【0015】
本発明によれば、段階i)及びii)は、連続的に又は同時に実施され得る。連続的処理は、油が、リパーゼが添加される前、塩基により前処理されることを意味する。油の塩基及び一部、例えば10〜90%、例えば30〜70%のリパーゼをまず添加し、そして次に、一定の時間の後、リパーゼの残り、例えば90〜10%、例えば70〜30%のリパーゼを添加することがまた、本発明により企画される。
【0016】
同時処理は、油が塩基及びリパーゼにより同時に処理されることを意味する。段階1)及び2)を同時に実施する場合、それは、塩基及びリパーゼ、好ましくは同定されたリパーゼを含んで成る本発明の組成物を油に添加することにより行われ得る。同時及び連続方法が例2に示される。
【0017】
好ましい態様においては、塩基は、リパーゼの前、及び従って、エステル交換の前、油に添加される。塩基は、いずれかの手段を用いて、油に添加され得る。1つの態様においては、塩基は、高い〜低い剪断ミキサーを用いて、油中に組込まれる。しかしながら、他の混合手段もまた企画される。塩基が油中に組込まれた後、リパーゼが導入され得る。
【0018】
もう1つの好ましい態様においては、塩基がリパーゼと同時に、油に添加される。塩基及びリパーゼは、いずれかの適切な手段で、例えば上記ミキサーを用いて、油中に組込まれ得る。下記にさらに記載されるように、塩基はまた、例えばリパーゼ、好ましくは固定されたリパーゼ及び塩基の物理的混合物の形で、又は組込まれる塩を含む固定されたリパーゼとして、酵素組成物中に好都合には、組込まれ得る。
【0019】
第3の好ましい態様においては、油は別々の工程段階で塩基により処理され、そして塩基は、油及び酵素が接触される前、油から除去される。
第4の好ましい態様においては、塩基はカラムに充填される。油は、それを、カラムの内部の充填された塩基層に通すことにより、塩基と接触される。この手段においては、塩基処理は、例えば一連の保持リパーゼ中、1又は複数の充填された層反応物により操作する典型的な連続酵素的エステル交換プラントにおいて容易に実施され得る。
【0020】
いずれの理論にも制限されないが、金属キレート化剤を含む油のエステル交換の間、リパーゼ性能の損失についての理由は、酵素の活性部位近くの局部環境における金属キレート化剤、例えばクエン酸がリパーゼ、例えばサーモミセス・ラヌギノサリパーゼについての好ましくない手段での変化に影響を及ぼすからであり得ると思われる。従って、油に存在する塩基が酸、例えばクエン酸の変化を変更し、その結果、それはリパーゼに悪影響を及ぼさず、それにより、リパーゼ性能を改良する。
【0021】
食用油
いずれかの食用油が、本発明の方法に使用され得る。油は、いずれかの品質のもの、例えば粗性のものであり、精製され、漂白され、そして脱臭されるか、又はそれらの組合わせであり得る。
【0022】
例えば、精製された油は、ガムを除去するために、0.05〜0.1%のリン酸により、60〜90℃の温度で10〜30分間、処理することにより調製され得る。漂白された油は、0.05〜0.1%のリン酸により脱ガム化し、続いて1%の漂白土類金属により105〜110℃で15〜30分間、漂白し、そして漂白土類金属を除去するために濾過することにより調製され得る。活性化された漂白土類金属は、硫酸又は塩酸により処理され得る。もう1つの好ましい態様においては、油ブレンドは、例えば大豆油中にブレンドされた、27%、すなわち十分に水素化された大豆油(“大豆フレーク”)である。
【0023】
好ましい態様においては、油は植物油である。植物油の例は、カノーラ油(採種)、大豆油、綿実油、ヤシ油、ヤシステアリン、ヤシオレイン、ヤシ種子油、ココヤシ油、トウモロコシ油及びヒマワリ油を包含する。
また、油のブレンドは、本発明に従って企画される。例えば、油のプレンドは、1又は複数の十分及び一部、硬化された油を含むことができる。
【0024】
1つの態様においては、ブレンドは、10:90〜50:50、好ましくは25:75〜30:70のブレンド比(重量に基づく)での十分に又は一部、硬化された大豆及び/又は綿実油:大豆油である。本発明の好ましい態様においては、油ブレンドは、ヤシステアリン及びココヤシ油の混合物であり、ここでココヤシ油は精製されているか、又は漂白されている。
1つの態様においては、エステル交換されるべき油は、エステル交換される場合、より硬化する(軟化の代わりに)、プレーンヤシオレインである。
【0025】
リパーゼ
本発明の方法に使用され、そして/又は組成物に含まれるリパーゼは、微生物、好ましくは糸状菌、酵母又は細菌から得られる。1つの態様においては、リパーゼは、さらに下記に記載されるように、固定された生成物として配合され得る。
【0026】
本発明に関しては、用語“〜から得られる”とは、特定の微生物源に関して本明細書において使用される場合、酵素及び結果的に、その酵素をコードするDNA配列が特定源により生成されることを意味する。次に、酵素を含んで成るサンプルの当業者による入手を可能にする標準の既知方法により前記特定源から得られ、そして本発明の方法に使用され得る。前記標準の方法は、前記特定源からの直接的な精製又は酵素をコードするDNA配列のクローニング、続く同じ源(相同組換え発現)又は異なった源(異種組換え発現)での組換え発現であり得る。
【0027】
リパーゼは、いずれかのグリセリド位置からの又はいずれかのグリセリド位置に、いずれかの脂肪酸基を開放するか又は結合できる非特異的リパーゼであり得る。そのようなリパーゼは、カンジダ・シリンドラカエ(Candida cylindracae)、コリネバクテリウム・アクネス(Corynebacteriumacnes)及びスタフィロコーカス・アウレウス(Staphylococcus aueus)から得られた(Macrae, J.A.O.C.S.,1983, 60:243A-246A; アメリカ特許第5,128,251号)。リパーゼはまた、特定のグリセリドに又はそれから特定の脂肪酸基を付加するか又は除去するタイプのものであり得る。
【0028】
そのようなリパーゼは、特定のグリセリドの生成又は修飾において有用である。そのようなリパーゼは、ゲオトリカム・カンジジウム(Geotrichum candidium)及びリゾパス(Rhizopus)、アスペルギラス(Aspergillus)、及びムコル(Mucor)属から得られて来た(Macrae, 1983;アメリカ特許第5,128,251号)。リパーゼはまた、1,3特異的リパーゼであり得る。そのようなリパーゼは、サーモミセス・ラヌギノサ(Thermomyces lanuginosa)、リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、アスペルギラス・ニガー(Aspergillus niger)、ムコル・ジャバニカス(Mucor javanicus)、リゾパス・デレマー(Rhizopus delemar)及びリゾパス・アルヒザス(Rhizopus arrhizus)から得られて来た(Macrae, 1983)。
【0029】
本発明の方法に使用される好ましいリパーゼは、サーモミセス属内の糸状菌種、例えばサーモミセス・ラヌギノサ種の株(好ましくは、EP特許第305,216−B1号に開示される)又はフサリウム属、例えばフサリウム・クルモリウム(Fusarium culmorum)、F. ヘレロスポラム(F. heterosporum)、F. ソラニ(F. solani)又はF. オキシムポラム(F. oxysporum)種の株から得られる。もう1つの好ましい態様においては、リパーゼは、酵母、例えばカンジダ、好ましくはカンジダ・アンタクチカ種から得られる。カンジダ・アンタクチカからのリパーゼB(CalB)が特に企画される。
【0030】
固定されたリパーゼ
固体形でのリパーゼ、例えば固定されたリパーゼが、本発明の方法に使用され得る。リパーゼを固定するための種々の手段は当業界において良く知られている。リパーゼ固定化の再考は、"Journal of American Oil Chemist's Society", Vol.67, pp. 890-910 (1990)に見出され、ここで代表的なリパーゼ固定化キャリヤーの例、例えば次のものが例示されている:無機キャリヤー、例えば珪藻土、シリカ、多孔性ガラス、等;種々の合成樹脂及び樹脂イオン交換体;及び天然の多糖キャリヤー、例えばセルロース及びイオン交換基により導入される架橋されたデキストリン。
【0031】
適切なキャリヤー物質は、ポリプロピレン、例えばACCURELTM (Accordis Membranes GmbH)及びシリカ、又はソレラの混合物を包含する。適切な固定化技法は、EP 140,542号、 アメリカ特許第4,818,695号、アメリカ特許第5,128,251号、アメリカ特許第5,508,185号及び アメリカ特許第6,156,548号(それらの引例はすべて引用により本明細書に組込まれる)に記載されている。
【0032】
好ましい固定化されたヒューミコラ・ラヌギノサリパーゼ(サーモミセス・ラヌギノサリパーゼと同じ)は、アメリカ特許第5,776,741号(引用により本明細書に組込まれる)に記載されている。もう1つの好ましいリパーゼは、アメリカ特許第5,776,741号に記載される固定化方法を用いて固定化されたカンジダ・アンタクチカリパーゼB(Cal B)例えば、Uppebergなど., 1994, Structure 2:293-308を参照のこと)である。
【0033】
最終的に、適切な市販の固定化されたリパーゼの例は、商標名LIPOZYME TL IMTM, LIPOZYME RM IMTM (Novozymes, Denmarkから入手できる)として市販されているリパーゼを包含する。
【0034】
塩基
いずれかの塩基が本発明の方法に使用され得る。好ましい態様においては、塩基は“弱塩基”である。“弱塩基”とは、本明細書においては、1Mのレベルで水に溶解される/分散される場合、8〜13のpHを与える塩基、好ましくは約11、例えば10〜12のpH、又は問題のリパーゼの最適近くのpH±1のpH範囲に対応するpHを与える塩基として定義される。
【0035】
塩基は、強塩基、例えば水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH),水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化バリウム(Ba(OH)2)であり得る。
【0036】
前記塩基は、好ましくはアミン又はカーボネートのような塩基である。弱塩基の例は、次のものから成る群から選択され得る:アンモニア(NH3)、アラニン(C3H5O2NH2)、ジメチルアミン((CH3)2NH)、エチルアミン(C2H5NH2)、グリシン()、C2H3O2NH2ヒドラジン(N2H4)、メチルアミン(CH3NH2)、トリメチルアミン((CH3)3N)及び炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)、酢酸ナトリウム(CH3COONa)。
【0037】
好ましい態様においては、塩基は炭酸ナトリウム(Na2CO3)である。好ましい態様においては、塩基は、g酵素当たり0.01〜100mモル、より特定には0.1〜60mモルの量で使用される。
1つの態様においては、塩基は、kg油当たり0.001〜100mモル、好ましくは0.01〜10mモル、特に0.1〜1mモルの量で使用される。
【0038】
酵素組成物
この観点においては、本発明は、リパーゼ及び塩基を含んで成る酵素組成物に関する。塩基は、上記“塩基”セクションに列挙され、そして/又は定義される塩基のいずれかであり得る。酵素組成物は、キレート化剤を含む油に直接的に添加され得る。本発明の酵素組成物は、リパーゼのみを含んで成る酵素組成物よりも、キレート化剤を含んで成る油のエステル交換の間、リパーゼについて、より最適な条件を提供する。
【0039】
本発明の組成物は、油加工のエステル交換への使用のために適切ないずれかの手段で配合され得る。組成物は、固定された生成物として配合され得る。好ましい態様においては、組成物は、リパーゼ及び塩基を含んで成る粒質物である。本発明の酵素組成物は、固定されたリパーゼ及び塩基の混合物、又は組込まれる塩基を有する固定されたリパーゼであり得る。
【0040】
リパーゼは、いずれかのリパーゼ、例えば上記“リパーゼ”のセクションに記載されるリパーゼであり得る。好ましい態様においては、リパーゼは、サーモミセス・ラヌギノサに由来するか、又はカンジダ・アンタクチカ由来のリパーゼB(CalB)であり得る。好ましい態様においては、酵素組成物は、固定されたサーモミセス・ラヌギノサリパーゼ又はカンジダ・アンタクチカリパーゼB、及び塩基、好ましくは弱塩基、特に炭酸ナトリウムを含んで成る粒質物である。
【0041】
塩基の使用
本発明は、1又は複数のキレート化剤を含んで成る油のリパーゼエステル交換方法への塩基の使用にも関する。塩基がそのようなエステル交換方法に使用される場合、その生産性は、例3に示されるように高められる。塩基及びリパーゼはそれぞれ、“塩基”及び“リパーゼ”のセクションに言及されるそれらのいずれかであり得る。
【0042】
材料及び方法:
材料:
酵素
固定されたリパーゼA
EP特許第305,216−B1号に開示され、そしてそれに開示されるようにしてアスペルギラス・オリザエにおいて組換え的に生成された、ヒューミコラ・ラヌギノサ/サーモミセス・ラヌギノサ由来の固定されたリパーゼ。固定化方法は、アメリカ特許第5,776,741号に記載されている。Na2CO3:Sigma chemical Company,分析品種(例2)。Na2CO3:無水炭酸ナトリウム、Jost ChemicalからのNF/EP Fine Granular(例3)。
【0043】

−十分に水素化された大豆油:("Soy Flakes" Bunge Foods lot 345M4-T106R3)(例1)
−大豆:"Master Chef Salad Oil" C&T Refinery, Charlotte, NC Lot L3C27 1337(例1)
【0044】
−十分に水素化された大豆油及び大豆油のブレンド(ブレンド比27:73(w/w))。液体大豆油は、Denofa, Norwayからの“raffinert soyaolje”である。この油は、クエン酸を含むことが知られているRBD油である。十分に水素化された大豆フレークは、Loders Crokland, USAからである。そのフレークのクエン酸含有率についての情報は入手できていない(例2)。
−精製された、ブレンドされたヤシステアリン及びココヤシ油(例3)
−漂白された、ブレンドされたヤシステアリン及びココヤシ油(例3)
【0045】
方法
固体脂肪含有率(SFC)の決定:
この方法は、AOCS Official Method Cd 16b-93 "Solid Fat Content (SFC) by Low-Resolution Nuclear Magnetic Resonance"に基づかれる固体脂肪含有率の決定のために決定される。
【0046】
単位の定義:固体脂肪含有率は、%として定義される。
装置:オーブン−100℃で維持される。
0℃で設定された冷却槽。
一定温度の水槽(10℃〜60℃±0.1℃)
SFC管のための穴を有する金属ブロック(アルミニウム)。
SFC管。
NMR分光計、Minispec mq-series 2001 , Bruker Optics Inc, TX, USA。
ストップウォッチ。
SFC方法は次の通りである:
【0047】
【表1】

【0048】
NMR装置の検定のための鉱油サンプルは、Bruker Optics Inc. TX, USAから供給される。
計算:結果は、百分率、例えば“23.24%SFC”として与えられるであろう。
参照:AOCS Official Method Cd 16b-93 "Solid Fat Content (SFC) by Low-Resolution Nuclear Magnetic Resonance" QMS 2003-22839。
【0049】
多重バッチアッセイ:
この方法が、多重バッチ反応におけるエステル交換のための固定されたリパーゼの性能を決定するために使用される。
原理:油ブレンドは、触媒として、固定されたリパーゼを用いて、バッチ反応においてエステル交換される。個々のバッチ反応の最後で、油は、反応器に残存する触媒からデカントされる。次に、新鮮な油が触媒に添加され、そしてもう1つのバッチ反応が実施される。酵素の平均反応速度が個々のバッチ反応から決定される。
【0050】
酵素の再使用を伴っての多数の連続的バッチ反応における酵素の平均反応速度に基づいて、酵素と接触された油体積の関数として酵素奪活速度を評価することが可能である。
固体脂肪含有率(SFC)が、エステル交換による脂肪性質の変化を定量化するために使用される。
【0051】
結果:典型的には、実験は、下記のために使用される:
*バッチ数又は固定された酵素の質量当たりの油の生成される量に対する、固体脂肪含有率又は平均反応速度定数のいずれかのプロットを見ることにより、複数の固定された酵素生成物の性能の直接的な並んでの比較を行うために。
*下記モデルに従って一定の転換率での所定の生産性に対する平均生成速度を評価するために。結果の単位は、時間当たりの固定された酵素の質量当たりエステル交換される油の質量である。
【0052】
【表2】

【0053】
さらに詳細に関しては、Novozyme A/S、Denmarkから要求に応じて入手できるNovozyme s' Standard Method (346-SM-0010.01)を参照のこと。
【実施例】
【0054】
例1:キレート化剤を含む油におけるリパーゼエステル交換性能に対する塩基の影響
この実験は、クエン酸を含む油への塩基(炭酸ナトリウム)の添加の効果を調べるために実施された。
【0055】
クエン酸との油ブレンドの調製
この実験は、市販の大豆油("Master Chef Salad Oil" C&T Refinery, Charlotte, NC Lot L3C27 1337)中にブレンドされる27%の十分に水素化された大豆油("Soy Flakes" Bunge Foods lot 345M4-T106R3)を用いて実施された。
油ブレンドの調製:73gの十分に水素化された大豆油を70〜80℃に加熱し、そして27gの大豆フレークを添加する。すべての固形物が溶融するまで、混合し、そして加熱する。クエン酸(10〜30ppm)を添加し、そして約30分間、撹拌する。プラスチックボトルに充填し、そして使用まで、フリーザーに貯蔵する。
【0056】
油ブレンドのエステル交換
0.5gの炭酸ナトリウム(“炭酸ナトリウム、無水、分析試薬、粒質性”Mallincrodtカタログ番号7525)を、0.5gの固定されたリパーゼAと共に、110gの油ブレンド中に注いだ。塩基及び酵素を、重力により沈降せしめた。油ブレンドを、オービタルインキュベーターにおいて、200rpm(25mmのオービット)で約22〜23時間、振盪した。エステル交換を70℃で実施し、そして塩基の添加を伴わないで調製された油ブレンドに対して反復した。
【0057】
塩基を有し、そしてそれを有さないエステル交換された油ブレンドのSFC決定
100gの油ブレンドを、すべての酵素及び塩基がボトルに保持されるように、注意してデカントした。油のSFCを、前記SFC方法を用いて決定した。SFCを、40℃で測定した。100gの新鮮な油ブレンドを、酵素及び塩基を含むボトルに添加し、そしてエステル交換方法を反復した。合計すると、エステル交換を、22〜23時間ごとに、油を置換しながら、同じ酵素及び塩基を用いて、2週間、9度反復した。添加される及びデカントされる油のすべての質量を記録した。
【0058】
実験データは図1に示されている。個々のバッチ反応の後、油中の固定脂肪含有率を、酵素と接触された油の量に対してプロットした。油中の固体脂肪含有率は、エステル交換反応のために低められる。従って、同じ反応条件下で得られるSFCが低いほど、酵素活性は高い。塩基(炭酸ナトリウム)の存在がリパーゼのエステル交換性能を有意に改良することが図1から見出され得る。
【0059】
例2:炭酸ナトリウムによる油の前処理による固定されたリパーゼの増強された性能
固定されたリパーゼAの性能を、多重バッチ実験においてエステル交換により試験した。十分に水素化された大豆油及び大豆油のブレンド(ブレンド比27:73(w/w))を使用した。
【0060】
多重バッチ反応においては、酵素を一連のバッチ反応に再使用した。単一のバッチ反応を、実質的に一定の油:酵素比、一定の反応時間及び70℃の一定温度で実施する。エステル交換のレベルを、40℃で脂肪中の固体脂肪含有率(SFC)を測定することにより定量化する。
【0061】
バッチ反応器は、250mlの正方形状のボトルである。反応の間、ボトルをオービタルシェーカーにより連続して振盪する。オービタル直径は1インチであり、そしてシェーカーは200rpmで旋回する。
【0062】
固定されたリパーゼA(バッチLA350005)及び炭酸ナトリウム(Na2CO3)のバッチを、1)エステル交換の前、油のNa2CO3前処理、すなわち連続的処理により、及び2)エステル交換の間、油のNa2CO3処理、すなわち同時処理により試験した。固定されたリパーゼAによる対照エステル交換実験を、同じ油ブレンドを用いて(但し、油の前処理を伴わないで)、実施した。前処理及び酵素の3種の組合わせを試験した。
【0063】
前処理:
油の前処理を、次の方法に従って行った。未処理の油により充填された、密封された容器を、70℃で加熱キャビネットに一晩、置いた。
次に、油を1Lのボトル中に注ぎ、そして1%(w/w)の炭酸ナトリウムを添加した。ボトルを窒素によりフラッシュし、そして堅く密封した。油及び炭酸ナトリウムを含むボトルを、水槽上に一晩、配置した。油及び炭酸ナトリウムを、磁気撹拌棒を用いて一定に混合した。次の日、炭酸ナトリウムを沈殿するために、撹拌を止めた。多重バッチに関しては、油を、前処理化学物質がボトルに残存することを注意して、このフラスコから直接的にデカントした。
【0064】
同時:
同時処理のために、酵素及び炭酸ナトリウムを、反応ボトル中に直接的に計量した。1gの炭酸ナトリウム及び0.5gの固定化されたリパーゼAをボトルに添加した。固体前処理成分は、前実験を通してボトルに残存した。
100gの油と、0.5gのリパーゼAとを接触した。
【0065】
活性の計算:
リパーゼAのエステル交換反応についての動力学を、濃度パラメーターとして固体脂肪含有率を用いて一次可逆反応モデルにより表す。
【0066】
【数1】

【0067】
式中、
kは速度定数であり、
SFCinは、反応器に入る油の固体脂肪含有率であり、
SFCoutは、反応器を出る油の固体脂肪含有率であり、
SFCeqは、反応平衡での油の固体脂肪含有率であり、
wは、触媒−固定化されたリパーゼAの質量であり、
Mbは、反応器における油の質量であり、そして
Tbは、バッチ反応器における反応時間である。
指数モデルを、生産性の関数としての速度定数を記載するために使用することができる。
【0068】
【数2】

【0069】
式中、
Kmodelは、速度定数のモデルであり、
K0は、新鮮な酵素についての速度定数であり、
V1/2は、酵素の半減期に基づく体積−Kmodelを50%低めるために必要とされる酵素の量当たりの油の量であり、
Vは、反応器を通過した酵素の量当たりの油の量である。
【0070】
図2においては、速度定数が、個々の処理についての固定されたリパーゼAの量当たりのエステル交換された油の量に対してプロットされる。
図2から、酵素が、エステル交換の間、炭酸ナトリウムにより前処理されるか又は処理された油において有意に高い活性を維持することが見出され得る。
図2に示されるデータに、上記(2)で与えられる不活性化モデルを適合することにより、新鮮な酵素の速度定数及び半減期に基づく体積を決定する。それらの数は、下記表3に列挙される。
【0071】
【表3】

【0072】
表3のモデルパラメーター−Lipozyme TL IM, バッチLA350005。
K0は、新鮮な酵素についての速度定数であり、そしてV1/2は半減期に基づく体積である。
不活性化モデルについて決定されたパラメーターは、それが主に、炭酸ナトリウム処理により高められる、半減期に基づく体積により表される、油における酵素の安定性であることを示す。半減期に基づく体積は、炭酸ナトリウム処理により、30〜70%高められる。
【0073】
例3:油酵素組合わせのMBA(多重バッチアッセイ)により測定されるリパーゼAにより達成できる生産性
この実験においては、エステル交換生産性を、上記“材料及び方法”のセクションに記載されるMBA(多重バッチアッセイ)を用いて試験した。油ブレンドは、ヤシエステアリン及びココヤシ油の混合物であり、ここでココヤシ油は精製されているか、又は精製され、そして漂白されている。それらのブレンドを、Na2CO3により前処理し、そして固定されたリパーゼAによりエステル交換し、そして油中の酵素の生産性を、Na2CO3により前処理されていない対照に比較した。
【0074】
【表4】

【0075】
精製された油サンプルの生産性は、kg酵素当たり1,650kgの油であることが見出された。Na2CO3により前処理される場合、その生産性は、kg酵素当たり3,620kgに上昇した。
漂白された油は、kg酵素当たり210kgの生産性値を与えた。漂白された油がNa2CO3により前処理される場合、その生産性は、kg酵素当たり3,250kgの油に上昇し、そして精製された油の生産性は、kgの酵素当たり1,650〜3,620kgの油に上昇した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の金属キレート化剤を含む油をエステル交換するための方法であって、
a)前記油と塩基とを接触させ、そして
b)前記油とリパーゼとを反応させる、
段階を含んで成る方法。
【請求項2】
段階a)及びb)が連続的に又は同時に実施される請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記油が複数の油のブレンドである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記油が、食用油、好ましくは植物油である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記植物油が、ヤシステアリン、ヤシオレイン、ヤシ種子油、トウモロコシ油、カノーラ油(採種)、綿実油、ヤシ油、ココヤシ油又はヒマワリ油、又はそれらのブレンドから成る群から選択される請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記油が、粗性であり、精製され、漂白され、脱臭されるか、又はそれらのいずれかの組合わせである請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記金属キレート化剤が、酸、好ましくはクエン酸又はリン酸、又はそれらの組合わせである請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記金属キレート化剤が、1〜100ppm、好ましくは10〜90ppm、特に約50ppmの濃度で前記油に存在する請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が水酸化ナトリウム(NaOH)である請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記塩基が、弱塩基、好ましくは炭酸ナトリウム(Na2CO3)である請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記リパーゼが、1,3−特異的リパーゼである請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記リパーゼが、好ましくはサーモミセス(Thermomyces)属、好ましくはT.ラヌギノサス(T. lanuginosus)種の菌類リパーゼ、又はカンジダ・アンタクチカ(Candida antactica)種の酵母由来のリパーゼBである請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記リパーゼが固定されている請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記リパーゼが、製品LIPOZYMETM TLIMである請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記塩基が、油1kg当たり0.001〜100mモル、好ましくは0.01〜10mモル、特に0.1〜1mモルの量で使用される請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記エステル交換の間の温度が、50〜100℃、好ましくは60〜90℃、特に65〜80℃である請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
リパーゼ及び塩基を含んで成る酵素組成物。
【請求項18】
前記塩基が、弱塩基、好ましくは炭酸ナトリウムである請求項17記載の酵素組成物。
【請求項19】
前記塩基が水酸化ナトリウムである請求項17又は18記載の酵素組成物。
【請求項20】
前記リパーゼが、好ましくはサーモミセス属、好ましくはT.ラヌギノサス種の菌類リパーゼ、又はカンジダ・アンタクチカ種の酵母由来のリパーゼBである請求項17〜19のいずれか1項記載の酵素組成物。
【請求項21】
前記リパーゼが固定されている請求項17〜20のいずれか1項記載の酵素組成物。
【請求項22】
前記リパーゼが、塩基が組込まれている製品LIPOZYMETM TLIMである請求項17〜21のいずれか1項記載の酵素組成物。
【請求項23】
前記塩基が、1Mのレベルで水に溶解される/分散される場合、8〜13のpHを付与する請求項17〜22のいずれか1項記載の酵素組成物。
【請求項24】
前記組成物が、固定されたリパーゼ及び塩の混合物、又は固定されたリパーゼ及び組み込まれる塩基の混合物である請求項17〜23のいずれか1項記載の酵素組成物。
【請求項25】
1又は複数のキレート化剤を含んで成る油のリパーゼによるエステル交換方法への塩基の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−51971(P2013−51971A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−264233(P2012−264233)
【出願日】平成24年12月3日(2012.12.3)
【分割の表示】特願2008−530225(P2008−530225)の分割
【原出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(500132074)ノボザイムス ノース アメリカ,インコーポレイティド (16)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】