説明

油中含水固形物分散物

【課題】親水性粉体を製パン等の用途に適した形態の製剤として提供すること。
【解決手段】油中水型乳化物に、親水性粉体を分散、混合することにより得られる油中含水固形物分散物として提供される製剤。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、油中含水固形物分散物、およびその製造方法に関する。詳しくは、パン、麺など各種食品に対して、増粘多糖類やタンパク質などの親水性粉体を添加するのに適した製剤の形態にすべく、これらの粉体を、油中水型乳化物の水滴中に、高濃度の水膨潤状態として分散させて得られる油中含水固形物分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
増粘多糖類やタンパク質はパンや麺などの食品の改良剤として使用されているが、親水性の高分子であるがゆえに添加方法が適切でないと十分な効果を出さないことがある。このような問題に対して、増粘安定剤の平均粒子径を揃えることで分散性を改良する方法が提示されている(特許文献1)。また、油性物質でペクチンを被覆することにより、ペクチン粒子の凝集を防ぎ、効果を出す方法(特許文献2)が提案されている。さらに、キサンタンガムなどのガム類を食用油脂、乳化剤の中に分散させてなる組成物も提案されている(特許文献3)。これらの方法では、ガム類は乾燥した状態で他の原料と混合されるが、ガム類が機能を発揮するのはで膨潤した状態である。よって、上記の方法で安定的に機能を出すには、プロセス時間の制御などを的確に行う必要がある。
【0003】
一方、カラヤガム、トラガントガムおよびペクチンからなる群から選ばれた天然ガム剤、およびグリセリン脂肪酸エステルを天然ガム剤:グリセリン脂肪酸エステル=1:0.1〜1:10(wt/wt)の割合で溶解若しくは分散させた油相と、水相とをW/O比が50:50〜10:90となるように混合乳化してなることを特徴とするパン生地練り込み用の油中水型油脂組成物が提案されている(特許文献4)。この製剤においては、天然ガム剤が油中水型エマルション中で、水によって膨潤された状態になっており、製パン等の限られた時間の中でガムの機能を出す上で、より適した形態になっている。
【0004】
しかしながら、この方法において実施可能なのは、実施例でも示されているように、製剤中にガムが1〜3%程度の添加量までである。ガムが全体量の10%を超える組成を作ろうとした場合、水を添加した段階で、急激な増粘が起こるため、工業的に実施しようとすれば、非常に特殊な攪拌装置が求められることになる。
【0005】
特許文献4のプロセスにおける、組成の変化を図1において説明する。図1は三角成分図であり、図中のどの点を取り上げても、三成分の合計は100%になる。この図において特許文献4の方法は、図中(ア点)から、目標の(イ点)に向かって水を添加していく工程である。本方法は、(イ点)の組成のように、ガム含量が油に比べ圧倒的に少ない場合は可能であるが、ガム含量の多い組成、(エ点)を達成すべく、(ウ点)の組成に水を加えて行くと、その途中の地点において、プロセス的に対応不可能な増粘を引き起こす。
【0006】
特許文献4の製剤では、製剤中のガム類含量が低いため、ガム類の機能を発揮させようとすれば、該文献の実施例にあるように対粉5%程度の添加量が必要となる。このような大きな添加量となると、コスト的に受け入れがたくなることはもちろん、処方の自由度を制限することにもなり、このましくない。
【0007】
【特許文献1】特開2002−291396
【特許文献2】特開2009−60831
【特許文献3】特許3540313
【特許文献4】特開平1−63337
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、増粘多糖類などの親水性粉体を、水で膨潤した状態で油中に分散させた油中水型製剤を提供することであり、また本目的をプロセス的に無理なく達成しうる製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、油中水型乳化物に対して、該親水性粉末を混合することにより、水滴中に移行した粉末が極めて高濃度の状態で、水により膨潤することを見出した。本発明の方法においては、高含量の親水性粉末の製剤を目的とした場合でも、製造途中における処し難い増粘は起こらず、通常の製造機械での製造が可能である。さらには、この油中含水固形物分散物は、製菓製パンなどにおける、増粘多糖類などの添加形態として好適であることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、次の内容を有する。
(1)油中水型乳化物に、親水性粉体を分散、混合することにより得られる油中含水固形物分散物(請求項1)
(2)親水性粉体が多糖類、またはタンパク質である、請求項1記載の油中含水固形物分散物(請求項2)
(3)得られる油中含水固形物分散物中の親水性粉体と水の比率が1:99〜90:10である請求項1〜2の何れか一項記載の油中含水固形物分散物(請求項3)
(4)得られる油中含水固形物分散物中の、水と親水性粉体および添加される親水性物質を含めた水相と、油と乳化剤および添加される親油性物質を含めた油相において、水相:油相の比が10:90〜90:10である請求項1〜3の何れか一項記載の油中含水固形物分散物(請求項4)
【発明の効果】
【0011】
本発明により、種々の増粘多糖類、タンパク質などの親水性粉末を高濃度の状態で水に膨潤させることができ、多様な食品に対して少量の添加で効力を発揮する品質改良剤を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、油中水型乳化物に親水性粉体を分散、混合させるが、これを図2で見ると、辺A−C上の点から目的の組成となるように、頂点Bに向かって、粉体を加えていく。この方法においては、図1に示したような辺B−Cの一点から頂点Aに向かって水を加えていくときに発生したような、不都合な粘度上昇は見られない。
【0013】
本発明に用いる油中水型乳化物とは、通常、油を攪拌しておいて、そこに水を加えることで出来る乳化物である。安定な乳化物を得るためには、適した乳化剤を加えることが有効であり、本発明においては油中水型乳化に適したポリリシノレイン酸ポリグリセリンエステルや、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ソルビタンオレイン酸エステルのごとき各種の不飽和脂肪酸を脂肪酸側鎖として有するショ糖、ソルビタン、グリセリンなどのエステル類を用いることができる。また、可塑性の油脂を使う場合、結晶の制御の為に、飽和脂肪酸を側鎖とするショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどを添加することも有効である。油中水型乳化物に用いる油は、目的を達成することが出来れば、特に選択の制限はない。通常の食用油脂を用いることができる。
【0014】
本発明に用いる親水性粉体とは、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ペクチン、キサンタンガム、ガラクトマンナン、カラギーナン、キシログルカン、寒天、ジェランガム、プルラン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、グルコマンナン、加工澱粉、アラビヤガム等の多糖類、および、ゼラチン、大豆分離タンパク質、脱脂粉乳、WPC、WPI等のタンパク質から選ばれる1種、または2種以上の混合物を用いることができる。これらの粉体は、乾燥粉体のまま、油中水型乳化物に添加することもできるが、使用可能な油脂類に分散させてから添加することでも可能である。
【0015】
本発明における油中含水固形物分散物中の親水性粉体と水の比率は、1:99〜90:10の間が好適である。親水性粉体が1:99より少ない場合は、このような製剤の形態を取らずとも、水溶液または水分散液として添加することが可能な濃度である。また、90:10を超える粉体濃度では、水での膨潤程度が少なく、粉体で添加することとの実質的な差が小さくなることがある。
【0016】
水と親水性粉体および添加される親水性物質を含めた水相と、油と乳化剤および添加される親油性物質を含めた油相において、水相:油相の比は10:90〜90:10であることが好ましい。10:90より水相が少ない場合、一定量の親水性粉末を製品に添加するときに製剤の添加量が多くなりすぎる可能性がある。また、90:10より水相が多い場合、油中水型乳化物としての安定性を保つのが難しくなることがある。水相には、乳化の安定性付与、呈味性付与などの目的で、糖アルコール、塩類などの水溶性物質や、乳化剤を添加することも可能である。
【0017】
該発明の油中含水固形物分散物の製造においては、特殊な製造装置は不要てある。最初の油中水型乳化物を作るのには攪拌機付きの加温ジャケットを有する釜が好適であり、使用する油脂を攪拌し、そこに水を滴下する。粉体を添加する際、粉体供給機などを用いることもできるが、粉体を油脂等、該親水性粉体が膨潤しない液に分散させて液状で供給することも可能である。粉体を添加したのち、完全な膨潤を促進するため、また、殺菌のために加熱することも可能である。加熱は容器に充填後行うことも可能である。また、可塑性の油脂を使用した場合には、加熱後、所定の温度まで、掻き取り式熱交換器などにおいて急冷させ、容器に充填することになる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお実施例において部は重量部である。
(実施例1〜3、比較例1〜3)表1に示す配合により製造した。すなわち、乳化剤を添加した油脂を80℃まで加温し、攪拌下、80℃の水を滴下し油中水型乳化物を得る。この乳化物に対して、攪拌下、表1中の親水性粉体を加えて製剤とした。実施例においては系の粘度は、通常の撹拌機で操作可能な範囲にとどまった。
【0019】
比較例1〜3においては、実施例1〜3と全く同じ配合組成で、乳化剤を添加した油脂に親水性粉体を加え混合し、その混合物に対して80℃の水を滴下した。比較例においては、何れも補助的に手撹拌を加えるなどしない限り、均一な攪拌が出来ないくらいの高粘度になり、プロセス適性が低いと判断された。
【0020】
【表1】

【0021】
(実施例4〜6)表2に示す配合により製造した。すなわち、乳化剤を添加した油脂を80℃まで加温し、攪拌下、80℃の水を滴下し油中水型乳化物を得る。この乳化物に対して、攪拌下、表2中の親水性粉体を加えて製剤とした。実施例においては系の粘度は、通常の撹拌機で操作可能な範囲にとどまった。
【0022】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】特許文献4の方法に従って、油とガム類・乳化剤の混合物に水を入れていくときの成分の移り変わりを示した図
【図2】本発明において、油中水型乳化物に対して親水性粉体を入れたときの組成の変化を示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油中水型乳化物に、親水性粉体を分散、混合することにより得られる油中含水固形物分散物
【請求項2】
親水性粉体が多糖類、またはタンパク質である、請求項1記載の油中含水固形物分散物
【請求項3】
得られる油中含水固形物分散物中の親水性粉体と水の比率が1:99〜90:10である請求項1〜2の何れか一項記載の油中含水固形物分散物
【請求項4】
得られる油中含水固形物分散物中の、水と親水性粉体および添加される親水性物質を含めた水相と、油と乳化剤および添加される親油性物質を含めた油相において、水相:油相の比が10:90〜90:10である請求項1〜3の何れか一項記載の油中含水固形物分散物

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−39115(P2013−39115A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185293(P2011−185293)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(591025462)旭東化学産業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】