油中溶解ガス監視装置
【課題】測定済みの試料油と新たに採取した試料油とが混合することを防止すると共に、
ガス抽出室内のガス抽出空間の容積の変動を防止して、信頼性が高く、溶解ガスの抽出率の向上と、抽出率のばらつきを少なくした油中溶解ガス監視装置を得る。
【解決手段】ガス抽出部4と、ガス測定部16と、制御部23を備えた油中溶解ガス監視装置において、採油室5の絶縁油を置換する際に、エアポンプ18によってガス抽出室6を加圧するよう構成されている。また、ガス抽出室6に溶解ガスを抽出する際に、バイパス管路15によって、ガス抽出室6と採油室5とを連通して両室の圧力が同一となるよう構成されている。
ガス抽出室内のガス抽出空間の容積の変動を防止して、信頼性が高く、溶解ガスの抽出率の向上と、抽出率のばらつきを少なくした油中溶解ガス監視装置を得る。
【解決手段】ガス抽出部4と、ガス測定部16と、制御部23を備えた油中溶解ガス監視装置において、採油室5の絶縁油を置換する際に、エアポンプ18によってガス抽出室6を加圧するよう構成されている。また、ガス抽出室6に溶解ガスを抽出する際に、バイパス管路15によって、ガス抽出室6と採油室5とを連通して両室の圧力が同一となるよう構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば油入変圧器のような電気機器に使用する絶縁油に含まれる可燃性溶解ガスを測定することで、電気機器の異常診断を行い監視するための油中溶解ガス監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器などの電気機器の異常を早期に診断しそれらの正常性を評価することは、電力系統の安定化や、基幹生産設備の電源を安定的に確保するうえに重要な意味がある。
これらの電気機器の異常を監視する従来の装置として、たとえば、特開平9−170995号公報や特開平11−142382号公報、および特開2002−357516号公報が知られている。
これら従来の装置は、いずれも前記公報に示す装置を電気機器に直結し、当該機器に使用されている絶縁油を前記装置に設けた採油室に取り込み、減圧(真空)状態のガス抽出室に絶縁油を噴出させることによって溶解ガスを平衡抽出させ、さらに抽出したガスを測定部に導き、所定の検知センサーによって可燃性の溶解ガス、例えば水素(H2)、エチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)、一酸化炭素(CO)などのガスを特定しそれらの濃度を測定するような装置となっている。
また、このような装置による測定の基本的な手順は、(ア)測定系回路のクリーニング、(イ)試料油の取り込み、(ウ)溶解ガスの平衡抽出、(エ)抽出ガスの特定および濃度の測定とする手順となっており、この(ア)〜(エ)を定期的に例えば1日ごとに繰り返し、得られる測定結果を経時的な変化として捉え電気機器の異常を監視するような装置となっている。
なお、この種装置によって検出される溶解ガスは数種の可燃性ガスとして検知されるが、このうち、アセチレン(C2H2)やエチレン(C2H4)が電気機器の重故障を示す特徴ガスであることは、電気協同研究会発行、第54巻第5号(その1)油入変圧器の保守管理の第2章「油中ガス分析による保守管理基準」の第40頁に示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−170995号公報(ガス抽出部がベローズ容器式)
【特許文献2】特開平11−142382号公報(ガス抽出部がベローズ容器式)
【特許文献3】特開2002−357516号公報(ガス抽出部が2容器式)
【非特許文献1】電気協同研究会発行、第54巻第5号(その1)油入変圧器の保守管理の第2章「油中ガス分析による保守管理基準」の第40頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の油中溶解ガス監視装置には以下のような問題点があった。
この種の測定は経時的な変化として捉えるため定期的に測定を行うのが一般的であるが、測定後の溶解ガスの抽出済み試料油は、いったん電気機器の本体へ一部戻し入れし、その後に新たな試料油を取り込み、測定済みの試料油を新たな試料油と置換するようにしている。
ここで、特許文献3に示されるようなガス抽出部が2容器式の場合においては、置換操作直後における採油室は電気機器側に封入されている絶縁油のヘッド圧力のため加圧状態にあり、またガス抽出室は絶縁油から溶解ガスを平衡抽出するため減圧(真空)状態にある。したがって、採油室の試料油はこの差圧のためガス抽出室に押しやられ一部の測定済み試料油がガス抽出室に滞留する現象があった。このため測定ごとの置換後において測定済みの試料油と新たに取り入れた試料油とが混合し、溶解ガス濃度の測定値に誤差が生じる恐れがあった。
【0005】
また、ガス抽出部が2容器式の場合において、ガス抽出工程における試料油は、採油室→オイルポンプ→ガス抽出室→採油室へと循環するような回路となっているが、オイルポンプによって採油室から引き込む量と、ガス抽出室から採油室に移動する量とにアンバランスが生じ、漸次ガス抽出室に試料油が滞留していく現象が生じていた。
このため、ガス抽出空間の容積が変化することで抽出操作後の抽出ガス量が変動し、抽出率が低下するとともに抽出率のばらつきが生じていた。さらに、測定を重ねていくに従いガス抽出室内に試料油が充満し測定不可能となる恐れもあった。
なお、前記で示す抽出率は、[(抽出操作前の試料液中の溶解ガス量)−(抽出操作後の試料液中の溶解ガス量)]/(抽出操作前の試料液中の溶解ガス量)×100(%)と定義される率のことで、当値が大きいほど良好な抽出である。
【0006】
また、周知のごとく試料油の温度変化が抽出率に影響することから、採油室に取り込む試料油の温度を一定とすることが望まれ、試料油の温度が抽出設定温度(通常50〜70℃)より低い場合は、試料油をヒーターによって加熱処理する技術が前記特許文献1に開示されている。
しかしながら、試料油の温度は電気機器の負荷状態や季節および周囲の環境によって抽出設定温度よりしばしば高くなるケースがあり、このような状態では検出部の分離カラムに試料油の蒸気が吸着し分離能力が低下する問題があった。このため試料油の温度が抽出設定温度より高くなる場合は、試料油を自然放熱によって抽出設定温度となるまで待機して測定していた。このため、ガス抽出時間が長くなるという問題がある。
【0007】
さらに、従来装置によって検出される溶解ガスは数種の可燃性ガスとして検知されるが、このうち電気機器の内部放電および過熱に起因して発生する特徴ガス(アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4))の有無の情報が必要な場合、数種の可燃性ガスの中から選択して判定を行わなくてはならず、測定結果の分析には相応の熟練を必要としていた。
【0008】
この発明は、上記のような従来装置の問題点を解消するためになされたものであって、
測定済みの試料油と新たに採取した試料油とが混合することを防止して、信頼性の高い溶解ガス濃度の測定を可能とした油中溶解ガス監視装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、ガス抽出室内のガス抽出空間の容積の変動を防止して、溶解ガスの抽出率を向上させるとともに、抽出率のばらつきを少なくすることのできる油中溶解ガス監視装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、電気機器の重故障を示す特徴ガスを容易に検出することのできる油中溶解ガス監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る油中溶解ガス監視装置は、第1の循環路を形成する管路によって電気機器と連結され、該第1の循環路を通して前記電気機器から取り入れた絶縁油を収容する採油室と、この採油室と第2の循環路を形成する管路によって連結され、前記採油室からの絶縁油が噴出されて絶縁油中の溶解ガスを平衡抽出するガス抽出室を有するガス抽出部、
前記ガス抽出室に連結され、ガス抽出室内に抽出された前記絶縁油中の溶解ガスの成分を測定するガス測定手段と、このガス測定手段にキャリアガスを送気するエアポンプと、前記ガス抽出室内の圧力を減圧する減圧手段と、前記抽出ガスとキャリアガスとを混合攪拌する攪拌ポンプを有するガス測定部、
前記ガス抽出部とガス測定部の動作を制御する制御部、を備えた油中溶解ガス監視装置において、前記採油室に滞留した測定済の絶縁油を前記電気機器に帰還させ、該電気機器から新規な絶縁油を取り入れて採油室の絶縁油を置換する際に、前記エアポンプによって前記ガス抽出室を加圧するよう構成したものである。
【0012】
また、前記ガス抽出室と前記採油室との間にバイパス管路を配設し、採油室の絶縁油をガス抽出室に噴出循環させて溶解ガスを抽出する際に、ガス抽出室と採油室とを連通して両室の圧力が同一となるよう構成したものである。
【0013】
さらに、前記ガス測定手段は、キャリアガスとともに送気される抽出ガスの総可燃性ガスの混合濃度を測定する第1のガスセンサーと、総可燃性ガスのうち電気機器の重故障を示す特徴ガスの濃度を測定する第2のガスセンサーを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明の油中溶解ガス監視装置によれば、測定済みの試料油と新たな絶縁油とを置換する際に、測定済みの試料油と新たに採取した試料油とが混合することを防止し、信頼性の高い溶解ガス濃度の測定を可能とする油中溶解ガス監視装置を得ることができる。
【0015】
また、この発明の油中溶解ガス監視装置によれば、採油室の絶縁油をガス抽出室に噴出循環させて溶解ガスを抽出する際に、絶縁油の循環が円滑に行え、ガス抽出室内のガス抽出空間の容積の変動を防止して、溶解ガスの抽出率の向上と抽出率のばらつきを少なくすることのできる油中溶解ガス監視装置を得ることができる。
【0016】
さらにまた、電気機器の重故障を示す特徴ガスを容易に検出することのできる油中溶解ガス監視装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による油中溶解ガス監視装置の構成を示すブロック図である。
図1において、1は対象の電気機器である油入りの変圧器、2は変圧器1に封入された絶縁油、3はこの発明の油中溶解ガス監視装置を示し、以下の構成品で構成されている。
【0018】
4は試料液となる絶縁油2の溶解ガスを抽出するためのガス抽出部で、このガス抽出部は以下の符号5〜15およびバルブV1〜V5にて構成されている。
5は、バルブV1、V2、V4を含む第1の循環路によって変圧器1と連結され変圧器1から取り込んだ絶縁油2を充満するための採油室、6は、減圧(真空)状態の容器内に溶解ガスを平衡抽出するためのガス抽出室で、バルブV3、V4を含む第2の循環路によって採油室5と連結されている。なお、この実施の形態1では50cc程度の内容積としている。7は減圧(真空)状態のガス抽出室6に、採油室5の絶縁油2を噴出させるための噴射口、8はガス抽出室6の油面の有無を監視するための第1の油面センサー、9は採油室5の上限を指示し制御するための第2の油面センサー、10は採油室5の下限を監視するための第3の油面センサー、11はガス抽出室6の内部圧力を測定し制御するための圧力センサーである。
12は採油室5に封入された絶縁油2の温度を一定(この実施の形態1場合50℃)とするための加熱冷却可能な温度調節手段で、例えばペルチェ素子を組み合わせた電子方式またはヒートパイプ方式のものが用いられる。
13は採油室5に封入される絶縁油2の温度を測定するための温度センサー、14はバルブV1、V2、V4を介して採油室5に絶縁油2を取り入れ、採油室5の測定済み絶縁油2と置換したり、バルブV3、V4を介して採油室5の絶縁油2をガス抽出室の噴射口7から噴出させるためのオイルポンプであり、第1の循環路と第2の循環路に共通に配設されている。
15は、バルブV5を介して採油室5とガス抽出室6とを連通するバイパス管路で、後述するようにガス抽出時に採油室5とガス抽出室6とを同圧にするものである。
なお、V1〜V3、V5は電磁式2方弁のバルブ、V4は電磁式3方弁のバルブであり、V5は電源切りで常時開としたバルブである。
【0019】
次に、16は溶解ガスを測定するためのガス測定部で、このガス測定部は以下の符号17〜23およびバルブV6〜V15にて構成されている。
17は 測定直前において、後述する第1のガスセンサー20含む回路のクリーニングと、抽出ガスとキャリアガスである空気とを攪拌するためのガス攪拌ポンプ、18はキャリアガスの空気を送気し、また、試料油である絶縁油の置換時にガス抽出室6に加圧された空気を送気するためのエアーポンプ、19は測定すべき新たな絶縁油2を採油室5に取り込むために抽出部4を減圧(真空)状態にするための真空ポンプである。
20は抽出したガスの濃度を測定するための第1のガスセンサーで、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)、エタン(C2H6)などの総可燃性ガスの混合濃度を測定するものである。
21は抽出したガスの濃度を選択的に吸着し分離するための分離カラム、21aは分離カラム21で分離した抽出ガスを測定する第2のガスセンサーで、特に変圧器の重故障を示すアセチレンガス(C2H2)やエチレン(C2H4)の特徴ガスに特化して測定している。
22は抽出されたガスを第2のガスセンサー21aにて測定する際、一定容積に含まれるガス量を算出するための計量管で、数cc程度の容積としている。
なお、V6〜V13は電磁式3方弁のバルブ、V14、V15は電磁式2方弁のバルブである。
【0020】
23は上述したガス抽出部4およびガス測定部16を含むこの装置全体の制御部で、図示にはないが制御手段、演算手段、入力手段、表示手段等で構成されている。
【0021】
実施の形態1の油中溶解ガス監視装置は以上の如く構成されており、次に、この油中溶解ガス監視装置の動作、測定手順を、図2のフローチャートおよび図3〜図12の動作説明図を用いて説明する。なお、各図中、図1との同一符号は同一部分を示す。
【0022】
(1) 測定開始
(2) エアーポンプ18を運転し、ガス抽出室6の内を50kPa程度に加圧する。(図3)
(3) エアーポンプ18によるガス抽出室6の加圧を継続しながらオイルポンプ14を運転し、前回測定済の採油室5内の試料油を油面センサ−9のレベルまで押し下げるとともに、バルブV1を経由して一部の測定済み試料油を変圧器1へ戻し入れする。(図4)
これによって、ガス抽出室6に滞留する測定済み絶縁油を完全に排出する。
【0023】
(4) 次に、真空ポンプ19を運転し、ガス抽出室6および採油室5を減圧(真空)状態とし、採油室5からガス抽出室6に通じるバルブを閉じ、この状態で変圧器1から新規な絶縁油を採油室5に取り込み採油室5を充満させる。(図5)
(5) 採油室5が充満したら、再びオイルポンプ14を運転し、バルブV1、V2、およびV4を介して採油室5の絶縁油と変圧器1の絶縁油とを循環させ、採油室5内の絶縁油(試料油)の置換を行う。(図6)
(6) 同時に、ガス攪拌ポンプ17およびエアーポンプ18にて測定部16の配管系の内部と、第1のガスセンサー20および分離カラム21、第2のガスセンサー21aのクリーニングを行う。(図6)
【0024】
(7) 採油室5の絶縁油(試料油)が完全に置換された後、真空ポンプ19を運転しガス抽出室6を減圧(約−90kPaの真空)状態とし、採油室5の絶縁油2をオイルポンプ14によってバルブV3、V4を経由して循環させることで、絶縁油をガス抽出室6に設けた噴射口7から噴出させ、絶縁油中の溶解ガスをガス抽出室6内に平衡抽出させる。
このときバルブV5を開とし、採油室5とガス抽出室6とをバイパス管路15で連通させる。これによって、採油室5とガス抽出室6とが同圧とされ、オイルポンプ14→ガス抽出室6→採油室5→オイルポンプ14の循環回路における絶縁油(試料油)の循環を円滑に行なわせることができる。(図7)
この結果、ガス抽出室6内に試料油が滞留することがなくなり、ガス抽出空間の容積の変動が防止され、溶解ガスの抽出率を向上させることができるとともに、抽出率のばらつきを無くすことができる
また、ガス抽出中はガス抽出室6の試料油が抽出設定温度となるように温度調節手段12を稼動しておく。(図7)
【0025】
(8) ガス抽出室6でのガス抽出工程が終了したら、バルブV14を開とし、キャリアガスの空気をガス抽出室6に導き、ガス抽出室6の圧力を大気圧にした後,オイルポンプ14→ガス抽出室6→採油室5の循環回路を形成するバルブV3、V4、およびバイパス管路のバルブV5を閉とする。そして、ガス攪拌ポンプ17にて抽出ガスとキャリアガスの空気とを攪拌し、検量管22に混合された抽出ガスを集積する。(図8)
【0026】
(9) エアーポンプ18にて検量管22の抽出ガスを分離カラム21を経由して第2のセンサー21aへ送気し、特徴ガスが存在した場合はアセチレン(C2H2)の濃度を測定する。(図9)
(10) また、ガス循環ポンプ17にてガス抽出室6の抽出ガスを第1のセンサー20へ送気し、総可燃性ガスの混合濃度を測定する。(図10)
【0027】
(11) ガス抽出室6内の測定済の抽出ガスを排気するため、真空ポンプ19を運転しガス抽出室6を再び減圧(真空)状態にする。(図11)
(12) 次にバルブV5を開とするが、このバルブV5の開放直前においては採油室5とガス抽出室6とに圧力差が存在していることから、採油室5の試料油の極少量がバイパス管路15を経由してガス抽出室6に流入する。(図12)
【0028】
(13) 以上で1サイクルの測定が終了する。なお終了時点においては、ガス抽出室6を減圧(真空)状態とし、採油室5は試料油を充満し、バルブV5のみ開の状態としている。この状態を次回の測定まで保持する。
【0029】
上記(1)〜(13)を自動制御として定期的に繰り返すことで、測定値を演算処理し目的とする可燃性溶解ガスの諸データを得る。
なお、上記のフローの説明においてそれぞれの回路を確保するためのバルブの開閉動作については一部説明を省略している。
【0030】
以上のように、この発明の実施の形態1の油中溶解ガス監視装置によれば、測定済みの絶縁油(試料油)と電気機器からの新規な絶縁油とを採油室で置換する場合に、エアポンプによりガス排出室を加圧状態とするよう構成しているので、測定済みの絶縁油がガス抽出室に滞留することなく完全に排出することができる。したがって、測定済みの試料油と新たに採取した試料油とが混合することを防止し、信頼性の高い溶解ガス濃度の測定を可能とする油中溶解ガス監視装置を得ることができる。
【0031】
また、採油室の絶縁油をガス抽出室に噴出循環させて溶解ガスを平衡抽出する際に、バイパス管路によってガス抽出室と採油室とが同圧となるよう構成しているので、絶縁油の循環が円滑に行え、ガス抽出室内のガス抽出空間の容積の変動を防止して、溶解ガスの抽出率を向上させることができるとともに、抽出率のばらつきを少なくすることができる。
【0032】
また、総可燃性ガスを検知する第1のガスセンサーと、電気機器の重故障を示す特徴ガスのみを検知する第2のガスセンサーの2種類のガス測定手段を備えているので、電気機器の重故障を示す特徴ガスを容易に検出することができる。
【0033】
さらに、ガス抽出中にガス抽出室の試料油が抽出設定温度となるよう、採油室の絶縁油の温度を調節する加熱冷却可能な温度調節手段を設けているので、周囲温度に関係なく試料油の温度を一定にすることができ、特に電気機器の負荷状態や周囲の環境によって試料油の温度が抽出設定温度より高くなる場合であっても、待機することなく、ガス抽出時間を短縮することができる。
【0034】
実施の形態2.
図13は、この発明の実施の形態2の油中溶解ガス監視装置の構成を示すブロック図である。なお、図中、図1との同一符号は同一または相当部分を示すもので、詳細説明は省略する。
図13において、実施の形態1と異なるところは、オイルポンプ14→ガス抽出室6→採油室5→オイルポンプ14にて第2の循環路を形成する閉回路に、オイルポンプ14の吐き出し量を制御する流量制御手段24、例えば電磁式の可変流量制御弁を設けたことである。
すなわち、実施の形態1においては、ガス抽出工程において、オイルポンプ14によって採油室5からガス抽出室に引き込む試料油の量と、ガス抽出室6から採油室5に移動する量とにアンバランスが生じるのを防止するために、ガス抽出室6と採油室5とを連通するバイパス管路を設けたが、実施の形態2においては、バイパス管路に加えて、オイルポンプ14の吐き出し量を制御する流量制御手段24を追加したものである。
【0035】
この実施の形態2の構成によれば、前記実施の形態1の効果に加えて、絶縁油粘度の差による絶縁油の噴出量の変動が防止でき、より一層ガス抽出空間の容積の変動を防止できる効果がある。
なお、オイルポンプ14を可変容量型ポンプとしても同様な効果を奏する。
【0036】
上述の実施の形態1および実施の形態2においては、対象の電気機器を絶縁油が封入された油入変圧器としたが、この発明はこれに限らず、リアクトルやコンデンサーなどの静止機器の監視はもちろん、絶縁油精製装置の絶縁油の連続監視にも適用可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明の油中溶解ガス監視装置は、絶縁油が封入された油入変圧器の他、リアクトルやコンデンサーなどの静止機器の監視、絶縁油精製装置の絶縁油の連続監視等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施の形態1による油中溶解ガス監視装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1による油中溶解ガス監視装置の測定フロー図である。
【図3】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図8】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図9】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図10】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図11】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図12】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図13】この発明の実施の形態2による油中溶解ガス監視装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0039】
1 電気機器(変圧器)
2 絶縁油
3 油中溶解ガス監視装置
4 ガス抽出部
5 採油室
6 ガス抽出室
12 温度調節手段
14 オイルポンプ
15 バイパス管路
16 ガス測定部
17 攪拌ポンプ
18 エアーポンプ
19 真空ポンプ
20 第1のガスセンサー
21a 第2のガスセンサー
23 制御部
24 流量制御手段
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば油入変圧器のような電気機器に使用する絶縁油に含まれる可燃性溶解ガスを測定することで、電気機器の異常診断を行い監視するための油中溶解ガス監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器などの電気機器の異常を早期に診断しそれらの正常性を評価することは、電力系統の安定化や、基幹生産設備の電源を安定的に確保するうえに重要な意味がある。
これらの電気機器の異常を監視する従来の装置として、たとえば、特開平9−170995号公報や特開平11−142382号公報、および特開2002−357516号公報が知られている。
これら従来の装置は、いずれも前記公報に示す装置を電気機器に直結し、当該機器に使用されている絶縁油を前記装置に設けた採油室に取り込み、減圧(真空)状態のガス抽出室に絶縁油を噴出させることによって溶解ガスを平衡抽出させ、さらに抽出したガスを測定部に導き、所定の検知センサーによって可燃性の溶解ガス、例えば水素(H2)、エチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)、一酸化炭素(CO)などのガスを特定しそれらの濃度を測定するような装置となっている。
また、このような装置による測定の基本的な手順は、(ア)測定系回路のクリーニング、(イ)試料油の取り込み、(ウ)溶解ガスの平衡抽出、(エ)抽出ガスの特定および濃度の測定とする手順となっており、この(ア)〜(エ)を定期的に例えば1日ごとに繰り返し、得られる測定結果を経時的な変化として捉え電気機器の異常を監視するような装置となっている。
なお、この種装置によって検出される溶解ガスは数種の可燃性ガスとして検知されるが、このうち、アセチレン(C2H2)やエチレン(C2H4)が電気機器の重故障を示す特徴ガスであることは、電気協同研究会発行、第54巻第5号(その1)油入変圧器の保守管理の第2章「油中ガス分析による保守管理基準」の第40頁に示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−170995号公報(ガス抽出部がベローズ容器式)
【特許文献2】特開平11−142382号公報(ガス抽出部がベローズ容器式)
【特許文献3】特開2002−357516号公報(ガス抽出部が2容器式)
【非特許文献1】電気協同研究会発行、第54巻第5号(その1)油入変圧器の保守管理の第2章「油中ガス分析による保守管理基準」の第40頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の油中溶解ガス監視装置には以下のような問題点があった。
この種の測定は経時的な変化として捉えるため定期的に測定を行うのが一般的であるが、測定後の溶解ガスの抽出済み試料油は、いったん電気機器の本体へ一部戻し入れし、その後に新たな試料油を取り込み、測定済みの試料油を新たな試料油と置換するようにしている。
ここで、特許文献3に示されるようなガス抽出部が2容器式の場合においては、置換操作直後における採油室は電気機器側に封入されている絶縁油のヘッド圧力のため加圧状態にあり、またガス抽出室は絶縁油から溶解ガスを平衡抽出するため減圧(真空)状態にある。したがって、採油室の試料油はこの差圧のためガス抽出室に押しやられ一部の測定済み試料油がガス抽出室に滞留する現象があった。このため測定ごとの置換後において測定済みの試料油と新たに取り入れた試料油とが混合し、溶解ガス濃度の測定値に誤差が生じる恐れがあった。
【0005】
また、ガス抽出部が2容器式の場合において、ガス抽出工程における試料油は、採油室→オイルポンプ→ガス抽出室→採油室へと循環するような回路となっているが、オイルポンプによって採油室から引き込む量と、ガス抽出室から採油室に移動する量とにアンバランスが生じ、漸次ガス抽出室に試料油が滞留していく現象が生じていた。
このため、ガス抽出空間の容積が変化することで抽出操作後の抽出ガス量が変動し、抽出率が低下するとともに抽出率のばらつきが生じていた。さらに、測定を重ねていくに従いガス抽出室内に試料油が充満し測定不可能となる恐れもあった。
なお、前記で示す抽出率は、[(抽出操作前の試料液中の溶解ガス量)−(抽出操作後の試料液中の溶解ガス量)]/(抽出操作前の試料液中の溶解ガス量)×100(%)と定義される率のことで、当値が大きいほど良好な抽出である。
【0006】
また、周知のごとく試料油の温度変化が抽出率に影響することから、採油室に取り込む試料油の温度を一定とすることが望まれ、試料油の温度が抽出設定温度(通常50〜70℃)より低い場合は、試料油をヒーターによって加熱処理する技術が前記特許文献1に開示されている。
しかしながら、試料油の温度は電気機器の負荷状態や季節および周囲の環境によって抽出設定温度よりしばしば高くなるケースがあり、このような状態では検出部の分離カラムに試料油の蒸気が吸着し分離能力が低下する問題があった。このため試料油の温度が抽出設定温度より高くなる場合は、試料油を自然放熱によって抽出設定温度となるまで待機して測定していた。このため、ガス抽出時間が長くなるという問題がある。
【0007】
さらに、従来装置によって検出される溶解ガスは数種の可燃性ガスとして検知されるが、このうち電気機器の内部放電および過熱に起因して発生する特徴ガス(アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4))の有無の情報が必要な場合、数種の可燃性ガスの中から選択して判定を行わなくてはならず、測定結果の分析には相応の熟練を必要としていた。
【0008】
この発明は、上記のような従来装置の問題点を解消するためになされたものであって、
測定済みの試料油と新たに採取した試料油とが混合することを防止して、信頼性の高い溶解ガス濃度の測定を可能とした油中溶解ガス監視装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、ガス抽出室内のガス抽出空間の容積の変動を防止して、溶解ガスの抽出率を向上させるとともに、抽出率のばらつきを少なくすることのできる油中溶解ガス監視装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、電気機器の重故障を示す特徴ガスを容易に検出することのできる油中溶解ガス監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る油中溶解ガス監視装置は、第1の循環路を形成する管路によって電気機器と連結され、該第1の循環路を通して前記電気機器から取り入れた絶縁油を収容する採油室と、この採油室と第2の循環路を形成する管路によって連結され、前記採油室からの絶縁油が噴出されて絶縁油中の溶解ガスを平衡抽出するガス抽出室を有するガス抽出部、
前記ガス抽出室に連結され、ガス抽出室内に抽出された前記絶縁油中の溶解ガスの成分を測定するガス測定手段と、このガス測定手段にキャリアガスを送気するエアポンプと、前記ガス抽出室内の圧力を減圧する減圧手段と、前記抽出ガスとキャリアガスとを混合攪拌する攪拌ポンプを有するガス測定部、
前記ガス抽出部とガス測定部の動作を制御する制御部、を備えた油中溶解ガス監視装置において、前記採油室に滞留した測定済の絶縁油を前記電気機器に帰還させ、該電気機器から新規な絶縁油を取り入れて採油室の絶縁油を置換する際に、前記エアポンプによって前記ガス抽出室を加圧するよう構成したものである。
【0012】
また、前記ガス抽出室と前記採油室との間にバイパス管路を配設し、採油室の絶縁油をガス抽出室に噴出循環させて溶解ガスを抽出する際に、ガス抽出室と採油室とを連通して両室の圧力が同一となるよう構成したものである。
【0013】
さらに、前記ガス測定手段は、キャリアガスとともに送気される抽出ガスの総可燃性ガスの混合濃度を測定する第1のガスセンサーと、総可燃性ガスのうち電気機器の重故障を示す特徴ガスの濃度を測定する第2のガスセンサーを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明の油中溶解ガス監視装置によれば、測定済みの試料油と新たな絶縁油とを置換する際に、測定済みの試料油と新たに採取した試料油とが混合することを防止し、信頼性の高い溶解ガス濃度の測定を可能とする油中溶解ガス監視装置を得ることができる。
【0015】
また、この発明の油中溶解ガス監視装置によれば、採油室の絶縁油をガス抽出室に噴出循環させて溶解ガスを抽出する際に、絶縁油の循環が円滑に行え、ガス抽出室内のガス抽出空間の容積の変動を防止して、溶解ガスの抽出率の向上と抽出率のばらつきを少なくすることのできる油中溶解ガス監視装置を得ることができる。
【0016】
さらにまた、電気機器の重故障を示す特徴ガスを容易に検出することのできる油中溶解ガス監視装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による油中溶解ガス監視装置の構成を示すブロック図である。
図1において、1は対象の電気機器である油入りの変圧器、2は変圧器1に封入された絶縁油、3はこの発明の油中溶解ガス監視装置を示し、以下の構成品で構成されている。
【0018】
4は試料液となる絶縁油2の溶解ガスを抽出するためのガス抽出部で、このガス抽出部は以下の符号5〜15およびバルブV1〜V5にて構成されている。
5は、バルブV1、V2、V4を含む第1の循環路によって変圧器1と連結され変圧器1から取り込んだ絶縁油2を充満するための採油室、6は、減圧(真空)状態の容器内に溶解ガスを平衡抽出するためのガス抽出室で、バルブV3、V4を含む第2の循環路によって採油室5と連結されている。なお、この実施の形態1では50cc程度の内容積としている。7は減圧(真空)状態のガス抽出室6に、採油室5の絶縁油2を噴出させるための噴射口、8はガス抽出室6の油面の有無を監視するための第1の油面センサー、9は採油室5の上限を指示し制御するための第2の油面センサー、10は採油室5の下限を監視するための第3の油面センサー、11はガス抽出室6の内部圧力を測定し制御するための圧力センサーである。
12は採油室5に封入された絶縁油2の温度を一定(この実施の形態1場合50℃)とするための加熱冷却可能な温度調節手段で、例えばペルチェ素子を組み合わせた電子方式またはヒートパイプ方式のものが用いられる。
13は採油室5に封入される絶縁油2の温度を測定するための温度センサー、14はバルブV1、V2、V4を介して採油室5に絶縁油2を取り入れ、採油室5の測定済み絶縁油2と置換したり、バルブV3、V4を介して採油室5の絶縁油2をガス抽出室の噴射口7から噴出させるためのオイルポンプであり、第1の循環路と第2の循環路に共通に配設されている。
15は、バルブV5を介して採油室5とガス抽出室6とを連通するバイパス管路で、後述するようにガス抽出時に採油室5とガス抽出室6とを同圧にするものである。
なお、V1〜V3、V5は電磁式2方弁のバルブ、V4は電磁式3方弁のバルブであり、V5は電源切りで常時開としたバルブである。
【0019】
次に、16は溶解ガスを測定するためのガス測定部で、このガス測定部は以下の符号17〜23およびバルブV6〜V15にて構成されている。
17は 測定直前において、後述する第1のガスセンサー20含む回路のクリーニングと、抽出ガスとキャリアガスである空気とを攪拌するためのガス攪拌ポンプ、18はキャリアガスの空気を送気し、また、試料油である絶縁油の置換時にガス抽出室6に加圧された空気を送気するためのエアーポンプ、19は測定すべき新たな絶縁油2を採油室5に取り込むために抽出部4を減圧(真空)状態にするための真空ポンプである。
20は抽出したガスの濃度を測定するための第1のガスセンサーで、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)アセチレン(C2H2)、エチレン(C2H4)、エタン(C2H6)などの総可燃性ガスの混合濃度を測定するものである。
21は抽出したガスの濃度を選択的に吸着し分離するための分離カラム、21aは分離カラム21で分離した抽出ガスを測定する第2のガスセンサーで、特に変圧器の重故障を示すアセチレンガス(C2H2)やエチレン(C2H4)の特徴ガスに特化して測定している。
22は抽出されたガスを第2のガスセンサー21aにて測定する際、一定容積に含まれるガス量を算出するための計量管で、数cc程度の容積としている。
なお、V6〜V13は電磁式3方弁のバルブ、V14、V15は電磁式2方弁のバルブである。
【0020】
23は上述したガス抽出部4およびガス測定部16を含むこの装置全体の制御部で、図示にはないが制御手段、演算手段、入力手段、表示手段等で構成されている。
【0021】
実施の形態1の油中溶解ガス監視装置は以上の如く構成されており、次に、この油中溶解ガス監視装置の動作、測定手順を、図2のフローチャートおよび図3〜図12の動作説明図を用いて説明する。なお、各図中、図1との同一符号は同一部分を示す。
【0022】
(1) 測定開始
(2) エアーポンプ18を運転し、ガス抽出室6の内を50kPa程度に加圧する。(図3)
(3) エアーポンプ18によるガス抽出室6の加圧を継続しながらオイルポンプ14を運転し、前回測定済の採油室5内の試料油を油面センサ−9のレベルまで押し下げるとともに、バルブV1を経由して一部の測定済み試料油を変圧器1へ戻し入れする。(図4)
これによって、ガス抽出室6に滞留する測定済み絶縁油を完全に排出する。
【0023】
(4) 次に、真空ポンプ19を運転し、ガス抽出室6および採油室5を減圧(真空)状態とし、採油室5からガス抽出室6に通じるバルブを閉じ、この状態で変圧器1から新規な絶縁油を採油室5に取り込み採油室5を充満させる。(図5)
(5) 採油室5が充満したら、再びオイルポンプ14を運転し、バルブV1、V2、およびV4を介して採油室5の絶縁油と変圧器1の絶縁油とを循環させ、採油室5内の絶縁油(試料油)の置換を行う。(図6)
(6) 同時に、ガス攪拌ポンプ17およびエアーポンプ18にて測定部16の配管系の内部と、第1のガスセンサー20および分離カラム21、第2のガスセンサー21aのクリーニングを行う。(図6)
【0024】
(7) 採油室5の絶縁油(試料油)が完全に置換された後、真空ポンプ19を運転しガス抽出室6を減圧(約−90kPaの真空)状態とし、採油室5の絶縁油2をオイルポンプ14によってバルブV3、V4を経由して循環させることで、絶縁油をガス抽出室6に設けた噴射口7から噴出させ、絶縁油中の溶解ガスをガス抽出室6内に平衡抽出させる。
このときバルブV5を開とし、採油室5とガス抽出室6とをバイパス管路15で連通させる。これによって、採油室5とガス抽出室6とが同圧とされ、オイルポンプ14→ガス抽出室6→採油室5→オイルポンプ14の循環回路における絶縁油(試料油)の循環を円滑に行なわせることができる。(図7)
この結果、ガス抽出室6内に試料油が滞留することがなくなり、ガス抽出空間の容積の変動が防止され、溶解ガスの抽出率を向上させることができるとともに、抽出率のばらつきを無くすことができる
また、ガス抽出中はガス抽出室6の試料油が抽出設定温度となるように温度調節手段12を稼動しておく。(図7)
【0025】
(8) ガス抽出室6でのガス抽出工程が終了したら、バルブV14を開とし、キャリアガスの空気をガス抽出室6に導き、ガス抽出室6の圧力を大気圧にした後,オイルポンプ14→ガス抽出室6→採油室5の循環回路を形成するバルブV3、V4、およびバイパス管路のバルブV5を閉とする。そして、ガス攪拌ポンプ17にて抽出ガスとキャリアガスの空気とを攪拌し、検量管22に混合された抽出ガスを集積する。(図8)
【0026】
(9) エアーポンプ18にて検量管22の抽出ガスを分離カラム21を経由して第2のセンサー21aへ送気し、特徴ガスが存在した場合はアセチレン(C2H2)の濃度を測定する。(図9)
(10) また、ガス循環ポンプ17にてガス抽出室6の抽出ガスを第1のセンサー20へ送気し、総可燃性ガスの混合濃度を測定する。(図10)
【0027】
(11) ガス抽出室6内の測定済の抽出ガスを排気するため、真空ポンプ19を運転しガス抽出室6を再び減圧(真空)状態にする。(図11)
(12) 次にバルブV5を開とするが、このバルブV5の開放直前においては採油室5とガス抽出室6とに圧力差が存在していることから、採油室5の試料油の極少量がバイパス管路15を経由してガス抽出室6に流入する。(図12)
【0028】
(13) 以上で1サイクルの測定が終了する。なお終了時点においては、ガス抽出室6を減圧(真空)状態とし、採油室5は試料油を充満し、バルブV5のみ開の状態としている。この状態を次回の測定まで保持する。
【0029】
上記(1)〜(13)を自動制御として定期的に繰り返すことで、測定値を演算処理し目的とする可燃性溶解ガスの諸データを得る。
なお、上記のフローの説明においてそれぞれの回路を確保するためのバルブの開閉動作については一部説明を省略している。
【0030】
以上のように、この発明の実施の形態1の油中溶解ガス監視装置によれば、測定済みの絶縁油(試料油)と電気機器からの新規な絶縁油とを採油室で置換する場合に、エアポンプによりガス排出室を加圧状態とするよう構成しているので、測定済みの絶縁油がガス抽出室に滞留することなく完全に排出することができる。したがって、測定済みの試料油と新たに採取した試料油とが混合することを防止し、信頼性の高い溶解ガス濃度の測定を可能とする油中溶解ガス監視装置を得ることができる。
【0031】
また、採油室の絶縁油をガス抽出室に噴出循環させて溶解ガスを平衡抽出する際に、バイパス管路によってガス抽出室と採油室とが同圧となるよう構成しているので、絶縁油の循環が円滑に行え、ガス抽出室内のガス抽出空間の容積の変動を防止して、溶解ガスの抽出率を向上させることができるとともに、抽出率のばらつきを少なくすることができる。
【0032】
また、総可燃性ガスを検知する第1のガスセンサーと、電気機器の重故障を示す特徴ガスのみを検知する第2のガスセンサーの2種類のガス測定手段を備えているので、電気機器の重故障を示す特徴ガスを容易に検出することができる。
【0033】
さらに、ガス抽出中にガス抽出室の試料油が抽出設定温度となるよう、採油室の絶縁油の温度を調節する加熱冷却可能な温度調節手段を設けているので、周囲温度に関係なく試料油の温度を一定にすることができ、特に電気機器の負荷状態や周囲の環境によって試料油の温度が抽出設定温度より高くなる場合であっても、待機することなく、ガス抽出時間を短縮することができる。
【0034】
実施の形態2.
図13は、この発明の実施の形態2の油中溶解ガス監視装置の構成を示すブロック図である。なお、図中、図1との同一符号は同一または相当部分を示すもので、詳細説明は省略する。
図13において、実施の形態1と異なるところは、オイルポンプ14→ガス抽出室6→採油室5→オイルポンプ14にて第2の循環路を形成する閉回路に、オイルポンプ14の吐き出し量を制御する流量制御手段24、例えば電磁式の可変流量制御弁を設けたことである。
すなわち、実施の形態1においては、ガス抽出工程において、オイルポンプ14によって採油室5からガス抽出室に引き込む試料油の量と、ガス抽出室6から採油室5に移動する量とにアンバランスが生じるのを防止するために、ガス抽出室6と採油室5とを連通するバイパス管路を設けたが、実施の形態2においては、バイパス管路に加えて、オイルポンプ14の吐き出し量を制御する流量制御手段24を追加したものである。
【0035】
この実施の形態2の構成によれば、前記実施の形態1の効果に加えて、絶縁油粘度の差による絶縁油の噴出量の変動が防止でき、より一層ガス抽出空間の容積の変動を防止できる効果がある。
なお、オイルポンプ14を可変容量型ポンプとしても同様な効果を奏する。
【0036】
上述の実施の形態1および実施の形態2においては、対象の電気機器を絶縁油が封入された油入変圧器としたが、この発明はこれに限らず、リアクトルやコンデンサーなどの静止機器の監視はもちろん、絶縁油精製装置の絶縁油の連続監視にも適用可能なものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明の油中溶解ガス監視装置は、絶縁油が封入された油入変圧器の他、リアクトルやコンデンサーなどの静止機器の監視、絶縁油精製装置の絶縁油の連続監視等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施の形態1による油中溶解ガス監視装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1による油中溶解ガス監視装置の測定フロー図である。
【図3】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図8】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図9】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図10】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図11】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図12】この発明の実施の形態1の動作、測定手順を説明するための説明図である。
【図13】この発明の実施の形態2による油中溶解ガス監視装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0039】
1 電気機器(変圧器)
2 絶縁油
3 油中溶解ガス監視装置
4 ガス抽出部
5 採油室
6 ガス抽出室
12 温度調節手段
14 オイルポンプ
15 バイパス管路
16 ガス測定部
17 攪拌ポンプ
18 エアーポンプ
19 真空ポンプ
20 第1のガスセンサー
21a 第2のガスセンサー
23 制御部
24 流量制御手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の循環路を形成する管路によって電気機器と連結され、該第1の循環路を通して前記電気機器から取り入れた絶縁油を収容する採油室と、この採油室と第2の循環路を形成する管路によって連結され、前記採油室からの絶縁油が噴出されて絶縁油中の溶解ガスを平衡抽出するガス抽出室を有するガス抽出部、
前記ガス抽出室に連結され、ガス抽出室内に抽出された前記絶縁油中の溶解ガスの成分を測定するガス測定手段と、このガス測定手段にキャリアガスを送気するエアポンプと、前記ガス抽出室内の圧力を減圧する減圧手段と、前記抽出ガスとキャリアガスとを混合攪拌する攪拌ポンプを有するガス測定部、
前記ガス抽出部とガス測定部の動作を制御する制御部、を備えた油中溶解ガス監視装置において、前記採油室に滞留した測定済の絶縁油を前記電気機器に帰還させ、該電気機器から新規な絶縁油を取り入れて採油室の絶縁油を置換する際に、前記エアポンプによって前記ガス抽出室を加圧するよう構成したことを特徴とする油中溶解ガス監視装置。
【請求項2】
前記ガス抽出室と前記採油室との間にバイパス管路を配設し、採油室の絶縁油をガス抽出室に噴出循環させて溶解ガスを抽出する際に、ガス抽出室と採油室とを連通して両室の圧力が同一となるよう構成したことを特徴とする請求項1に記載の油中溶解ガス監視装置。
【請求項3】
前記ガス測定手段は、キャリアガスとともに送気される抽出ガスの総可燃性ガスの混合濃度を測定する第1のガスセンサーと、総可燃性ガスのうち電気機器の重故障を示す特徴ガスの濃度を測定する第2のガスセンサーを備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の油中溶解ガス監視装置。
【請求項4】
前記採油室の絶縁油の温度を調節する加熱冷却可能な温度調節手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の油中溶解ガス監視装置。
【請求項5】
前記第2の循環路に配設され、前記採油室からの絶縁油を前記ガス抽出室に噴出循環させるオイルポンプと、このオイルポンプの吐出量を制御する流量制御手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の油中溶解ガス監視装置。
【請求項1】
第1の循環路を形成する管路によって電気機器と連結され、該第1の循環路を通して前記電気機器から取り入れた絶縁油を収容する採油室と、この採油室と第2の循環路を形成する管路によって連結され、前記採油室からの絶縁油が噴出されて絶縁油中の溶解ガスを平衡抽出するガス抽出室を有するガス抽出部、
前記ガス抽出室に連結され、ガス抽出室内に抽出された前記絶縁油中の溶解ガスの成分を測定するガス測定手段と、このガス測定手段にキャリアガスを送気するエアポンプと、前記ガス抽出室内の圧力を減圧する減圧手段と、前記抽出ガスとキャリアガスとを混合攪拌する攪拌ポンプを有するガス測定部、
前記ガス抽出部とガス測定部の動作を制御する制御部、を備えた油中溶解ガス監視装置において、前記採油室に滞留した測定済の絶縁油を前記電気機器に帰還させ、該電気機器から新規な絶縁油を取り入れて採油室の絶縁油を置換する際に、前記エアポンプによって前記ガス抽出室を加圧するよう構成したことを特徴とする油中溶解ガス監視装置。
【請求項2】
前記ガス抽出室と前記採油室との間にバイパス管路を配設し、採油室の絶縁油をガス抽出室に噴出循環させて溶解ガスを抽出する際に、ガス抽出室と採油室とを連通して両室の圧力が同一となるよう構成したことを特徴とする請求項1に記載の油中溶解ガス監視装置。
【請求項3】
前記ガス測定手段は、キャリアガスとともに送気される抽出ガスの総可燃性ガスの混合濃度を測定する第1のガスセンサーと、総可燃性ガスのうち電気機器の重故障を示す特徴ガスの濃度を測定する第2のガスセンサーを備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の油中溶解ガス監視装置。
【請求項4】
前記採油室の絶縁油の温度を調節する加熱冷却可能な温度調節手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の油中溶解ガス監視装置。
【請求項5】
前記第2の循環路に配設され、前記採油室からの絶縁油を前記ガス抽出室に噴出循環させるオイルポンプと、このオイルポンプの吐出量を制御する流量制御手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の油中溶解ガス監視装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−29913(P2006−29913A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207312(P2004−207312)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(599041606)三菱電機プラントエンジニアリング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(599041606)三菱電機プラントエンジニアリング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】
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