説明

油入変圧器の劣化診断装置

【課題】既存設備に対して容易に設置可能であって、かつ、油入変圧器の運転を停止することなく、高い精度で安価に効率よく油入変圧器の寿命を予測することが可能な油入変圧器の劣化診断装置を提供する。
【解決手段】油入変圧器の劣化診断装置1は、試験片14が引張手段2により矢印Xで示す方向(軸方向)に引張荷重を付加された状態で網状の金属ケース3内に収納されており、引張手段2は、側面視「コ」の字状をなす絶縁部材からなる支持具4と、ガイド孔5aを有する筒状体5と、ガイド孔5aに挿設され,筒状体5によって矢印Xで示す方向へ摺動自在に保持される電極7と、電極7が立設される取付具9と、引張バネ10によって構成され、支持具4の前板4bに電極7の先端部7aを覆うように取り付けられたキャップ6の内部には、試験片14の破断に伴って電極7が移動した場合に先端部7aと当接可能に電極8が設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁紙の劣化状態に基づいて油入変圧器の劣化状態を診断する装置に係り、特に、絶縁紙の引張強度を監視することで油入変圧器の寿命を事前に予測することが可能な油入変圧器の劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器は、絶縁油で満たされたタンク内に鉄心と巻線が収納されているため、乾式変圧器に比べて絶縁性能や冷却性能に優れている。また、騒音が小さいことから、多方面で使用されている。油入変圧器の寿命は、設置された環境や運転状態等によっても異なるが、一般に、巻線に巻回された絶縁紙の劣化の程度によって定まるといわれている。従って、油入変圧器を長期間にわたって安全に使用するためには、絶縁紙の劣化度を把握することが必要である。
【0003】
ここで、油入変圧器の構造について図3を参照しながら簡単に説明する。
図3は従来の油入変圧器の構造の概略を示した縦断面図である。
図3に示すように、油入変圧器50の本体51は鉄板の溶接等により形成されるタンク52に収納されている。タンク52は、内側に油道を有する波付け加工部53が取り付けられた側板52aと、側板52aの下端に溶接される底板52bと、側板52aの上端に設置される天板52cとからなる。また、本体51は、上下に締付金具54a,54bが取り付けられた鉄心54と、この鉄心54に巻回される巻線55とからなり、締付金具54aはボルト56を介して天板52cに連結されている。そして、本体51が設置されるタンク52の内部には、絶縁油が充填されている。
【0004】
油入変圧器に使用される絶縁油や絶縁紙は、長期間の使用によって劣化し易い。このうち、絶縁油は新油への交換が容易であるが、絶縁紙を交換するには、油入変圧器の運転を停止しなければならず、多くの費用や時間を要する。特に、巻線55に巻回された絶縁紙のみの交換は不可能であるため、巻線55に巻回された絶縁紙が劣化して使用できなくなると、油入変圧器そのものが使用できなくなる。
【0005】
絶縁紙の引張強度が経年劣化等によって低下し、初期状態の60%程度になった場合、負荷側の短絡事故に伴って巻線55に生じた電磁機械力により、絶縁紙が破損し易くなる。そこで、引張強度がこの値になった時点を絶縁紙の寿命の目安と考えることができる。すなわち、絶縁紙の引張強度を監視することで、油入変圧器の劣化状態の診断が可能となる。ところが、巻線55に巻回された状態で長年使用され、寿命に達した絶縁紙について、引張強度の測定を行うことは容易でない。そのため、従来、引張強度の代わりに「平均重合度」が絶縁紙の劣化指標として用いられている。なお、「平均重合度」とは絶縁紙を構成するセルロース分子について、つながり数の平均値を示したものである。絶縁紙が劣化した場合、セルロース分子が切断されて短くなるため、平均重合度は小さくなる。そして、同時に引張強度も低下する。例えば、絶縁紙の平均重合度は、初期状態で800〜1200程度であるが、絶縁紙の引張強度が60%程度に低下した場合、その平均重合度も400〜450程度に小さくなる。
【0006】
このように絶縁紙の平均重合度を測定すれば、絶縁紙の劣化の進行具合を間接的に診断できる。しかしながら、平均重合度を測定するには、油入変圧器の運転を停止して、巻線55に巻回された絶縁紙から、一部を試料として取り出す必要がある。すなわち、絶縁紙の平均重合度を測定する方法では、油入変圧器の劣化状態の診断を安価に効率よく行うことができない。近年、このような課題を解決するため、油入変圧器の劣化診断装置に関して様々な発明がなされている。そして、それに関して既に幾つかの発明や考案が開示されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、「寿命診断装置および油入変圧器」という名称で、高い精度で油入変圧器の劣化状態を診断することが可能な「油入変圧器の寿命診断装置」に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明である寿命診断装置は、油入変圧器に絶縁物収納箱が取り付けられ、その絶縁物収納箱の内部に、絶縁紙によって被覆された導線と、変流器が絶縁油に浸された状態で設置された構造となっている。
このような構造によれば、油入変圧器の巻線を流れる電流に対応した電流が変流器で発生し、この電流により絶縁物収納箱内に収納された導線が発熱するという作用を有する。その結果、絶縁物収納箱内の絶縁紙の温度が油入変圧器の絶縁紙の温度と同程度になり、絶縁物収納箱内の絶縁紙の劣化状態が油入変圧器の絶縁紙の劣化状態に近づく。これにより、油入変圧器の寿命の診断精度が高まる。
【0008】
特許文献2には、信頼性の高い劣化診断を行うことが可能な「油入変圧器の劣化診断装置」に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、収容室が油入変圧器のタンク内の上部に設けられ、この収容室の内部に絶縁油に浸漬された状態で、紙巻き絶縁電線からなる診断片と、この診断片を加圧する加圧手段と、補助加熱手段が設置されたことを特徴とする。
このような構造によれば、実際の使用環境に近い状態で劣化した診断片が形成されるため、油入変圧器の劣化診断の信頼性を高めることができる。
【0009】
特許文献3に開示された考案は、変圧器の実際の使用状態に似た環境下に置かれた材料によって劣化試験を行うことができる「変圧器用材料劣化試験装置」に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示された考案は、変圧器のタンクの上部に設置された資料箱の内部に、劣化試験対象の材料を入れるとともに、変圧器のタンク内の絶縁油を循環させることを特徴とする。
このような構造の劣化試験装置においては、資料箱内の材料が、絶縁油の温度変化の影響や絶縁油の帯電・部分放電の影響により発生したガスの影響を受けるため、従来の方法による場合よりも、変圧器に実際に使用されている絶縁紙に近い材料が形成される。そして、この材料を用いることで、劣化試験の信頼性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−114268号公報
【特許文献2】特開2003−289008号公報
【特許文献3】実開平5−75652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の従来技術である特許文献1に開示された発明においては、絶縁物の劣化状態を調べるために、絶縁物を絶縁物収納箱から取り出す必要がある。従って、油入変圧器の寿命診断を安価に短時間で行うことができないという課題があった。また、絶縁物収納箱内の絶縁油の温度が変化すると、絶縁紙の劣化速度が変化するものの、絶縁紙の劣化速度と絶縁油の温度の関係が不明であるため、絶縁油の温度を変更する方法では絶縁紙の劣化速度の調節が困難である。すなわち、本文献に開示された発明においては、絶縁紙の劣化速度を容易に調節することができないという課題があった。さらに、既存設備に容易に設置できないという課題もあった。
【0012】
また、特許文献2に開示された発明においては、補助加熱手段による絶縁油の加熱方法と、実際の使用状態において絶縁油が加熱される状況が相違するため、診断片の劣化状態と、巻線を被覆している絶縁紙の劣化状態との間に大きな差異が生じる可能性がある。その結果、油入変圧器の寿命についての診断精度が思ったほど向上しない可能性もある。また、診断片の劣化状態を調べるには、油入変圧器の運転を停止して収容室から診断片を取り出す必要がある。従って、油入変圧器の寿命診断を短時間で効率よく実施することができない。
【0013】
さらに、特許文献3に開示された考案においては、劣化試験対象の材料の劣化速度を調節できないという課題があった。また、劣化試験を行うには、材料を資料箱から取り出さなければならいため、劣化試験を手軽に効率よく行うことができないという課題があった。
【0014】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであって、既存設備に対して容易に設置可能であり、かつ、油入変圧器の運転を停止することなく、安価に効率よく高い精度で油入変圧器の寿命を予測することが可能な油入変圧器の劣化診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である油入変圧器の劣化診断装置は、油入変圧器の巻線に巻回される絶縁紙と同種の紙材からなるテープ状の試験片と、一軸方向に引張荷重を付加した状態で,この試験片を保持する引張手段と、試験片が破断したことを検出して電気信号を発する破断検出手段と、を備え、試験片が取り付けられた引張手段は、油入変圧器が収納されるタンク内の上部に設置されることを特徴とするものである。
このような構造の油入変圧器の劣化診断装置においては、巻線が高温となるタンク内の上部に試験片が配置されることで、巻線に巻回された絶縁紙と同等の温度変化を受けて試験片が経年劣化するという作用を有する。また、試験片の引張強度が低下して最終的に引張荷重を下回り、試験片が破断したことが破断検出手段によって検出されるという作用を有する。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載の油入変圧器の劣化診断装置において、引張手段は、試験片の一端が固定される電極保持具と、この電極保持具によって一軸方向へ摺動自在に保持される第1の電極と、この第1の電極に取り付けられるとともに,試験片の他端が固定される取付具と、この取付具を試験片の引張方向に付勢する弾性部材と、からなり、破断検出手段は、試験片の引張方向へ取付具が移動した場合に,第1の電極と当接可能に保持具に設置される第2の電極を備え、第1の電極及び第2の電極には電気信号を流すための配線がそれぞれ接続され、電極保持具と第1の電極の間、又は電極保持具と第2の電極の間のうち少なくともいずれか一方は絶縁されていることを特徴とするものである。
このような構造の油入変圧器の劣化診断装置においては、請求項1に記載の発明の作用に加えて、試験片が破断すると、取付具が弾性部材によって付勢されて試験片の引張方向へ移動し、第1の電極が第2の電極に当接するという作用を有する。そして、第1の電極と第2の電極が接触すると、試験片が破断したことを示す電気信号が配線に流れるという作用を有する。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の油入変圧器の劣化診断装置において、破断検出手段の配線に接続され,電気信号を受けてタンクの外部へ光や音を発する警報手段を備えたことを特徴とするものである。
このような構造の油入変圧器の劣化診断装置においては、請求項2に記載の発明の作用に加えて、試験片が破断したことが警報手段によって報知されるという作用を有する。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の油入変圧器の劣化診断装置において、アース線を介して接地される網状の導電性ケースを備え、引張手段は、この導電ケースに収納された状態でタンク内に設置されることを特徴とするものである。
このような構造の油入変圧器の劣化診断装置においては、請求項1乃至請求項3に記載の発明の作用に加えて、変圧器の故障等に伴ってアーク(火花)が発生した場合に、導電性ケースが引張手段へのアークの伝搬を防ぐという作用を有する。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の油入変圧器の劣化診断装置において、引張荷重は絶縁紙の初期状態における引張強度の60%に設定されることを特徴とするものである。
油入変圧器に使用される絶縁紙では、一般に、引張強度が初期状態の60%程度に低下した時点が寿命の目安と考えられている。そして、この絶縁紙と同種の紙材を試験片に使用していることから、上記構造の油入変圧器の劣化診断装置においては、請求項1乃至請求項4に記載の発明の作用に加えて、試験片が寿命に達すると、破断するという作用を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に記載の油入変圧器の劣化診断装置によれば、巻線に巻回された絶縁紙と同種の紙材からなる試験片が実際の使用状態に即した温度条件下で経年劣化するため、試験片の劣化状態を診断することで上記絶縁紙の寿命を予測することができる。また、引張荷重の設定を変更することにより、試験片の劣化速度を調節することができる。例えば、引張荷重の値を大きく設定して試験片を速く破断させることによれば、油入変圧器が故障する前に、寿命の予測が可能となる。
【0021】
本発明の請求項2に記載の油入変圧器の劣化診断装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、試験片が破断したことを簡単な構造で検出できるという効果を奏する。また、既存の設備に対して容易に設置することが可能である。
【0022】
本発明の請求項3に記載の油入変圧器の劣化診断装置によれば、請求項2に記載の発明の効果に加えて、試験片がタンク内に設置された状態で、その破断状況を知ることができるという効果を奏する。これにより、油入変圧器の運転を停止せずとも、巻線に巻回されている絶縁紙の寿命を予測することが可能となる。この場合、油入変圧器の運転停止に伴う作業や費用が発生しない。すなわち、本発明によれば、油入変圧器の劣化状態の診断を安価に短時間で行うことができる。
【0023】
本発明の請求項4に記載の油入変圧器の劣化診断装置によれば、請求項1乃至請求項3に記載の発明の効果に加えて、引張手段が故障し難いという効果を奏する。
【0024】
本発明の請求項5に記載の油入変圧器の劣化診断装置では、試験片の引張強度が初期状態の60%を下回った時点を、試験片の寿命の目安としていることから、試験片の劣化状態を高い精度で診断することができる。すなわち、本発明によれば、請求項1乃至請求項4に記載の発明の効果に加えて、油入変圧器の寿命を高い精度で診断できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は本発明の実施の形態に係る油入変圧器の劣化診断装置の実施例の側面図であり、(b)及び(c)はそれぞれ本実施例の油入変圧器の劣化診断装置を構成する引張手段の正面図及び平面図である。
【図2】(a)は本実施例の油入変圧器の劣化診断装置が設置された油入変圧器の構造の概略を示す縦断面図であり、(b)は本実施例の油入変圧器の劣化診断装置の構成を示すブロック図である。
【図3】従来の油入変圧器の構造の概略を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の油入変圧器の劣化診断装置は、油入変圧器の巻線に巻回される絶縁紙と同種の紙材をテープ状に加工して試験片とし、この試験片の引張強度を監視することにより、油入変圧器が故障する前に、その寿命を予測するものである。以下、本発明の油入変圧器の劣化診断装置の実施例について図1乃至図2を用いて具体的に説明する。
【実施例】
【0027】
図1(a)は本発明の実施の形態に係る油入変圧器の劣化診断装置1の実施例の側面図であり、図1(b)及び図1(c)はそれぞれ本実施例の油入変圧器の劣化診断装置1を構成する引張手段2の正面図及び平面図である。また、図2(a)は本実施例の油入変圧器の劣化診断装置1が設置された油入変圧器の構造の概略を示す縦断面図であり、図2(b)は本実施例の油入変圧器の劣化診断装置1の構成を示すブロック図である。なお、図1(a)ではランプ15とスピーカー16の図示を省略している。また、図1(a)では引張手段2が1個のみ図示されているが、実際には図2(b)に示すように後述する破断検出手段20が複数設置されており、これに対応して、ケース3の内部に複数の引張手段が収納されている。さらに、図3に示した構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
図1(a)乃至図1(c)に示すように、油入変圧器の劣化診断装置1は、試験片14が引張手段2により矢印Xで示す方向(軸方向)に引張荷重を付加された状態で金属ケース3内に収納された構造となっている。なお、金属ケース3は網状をなしており、絶縁油は出入自在となっている。また、引張手段2は、絶縁部材からなる支持具4と、ガイド孔5aを有する筒状体5と、ガイド孔5aに挿設され,筒状体5によって矢印Xで示す方向へ摺動自在に保持される電極7と、電極7が立設される取付具9と、引張バネ10とからなる。すなわち、支持具4と筒状体5は、電極7を試験片14の引張方向へ摺動自在に保持する電極保持具を構成している。
【0029】
支持具4は、基台4aの両端に前板4bと後板4cが立設されて側面視「コ」の字状をなしており、前板4bの内面に筒状体5が立設されている。また、筒状体5のガイド孔5aは、前板4bに設けられた貫通孔4dに連通しており、電極7の先端部7aは貫通孔4dから支持具4の外部へ突出している。さらに、前板4bには電極7の先端部7aを覆うようにキャップ6が取り付けられている。そして、キャップ6の内部には、電極7が移動した場合に先端部7aと当接可能に電極8が設置されている。
【0030】
取付具9と前板4bの間に介設される引張バネ10は、取付具9を前板4bに近づける方向(矢印Xで示す方向)に付勢しており、試験片14の両端は後板4cと取付具9にそれぞれ固定されている。また、キャップ6の内部は空気で満たされており、引張手段2を絶縁油に浸漬した状態で、絶縁油がガイド孔5aと電極7の隙間を通ってキャップ6内に流れ込まないように、ガイド孔5aには電極7との隙間を塞ぐように、Oリング11a,11bが設置されている。さらに、金属ケース3はアース線12を介して接地されており、電極7,8には配線13a,13bが接続されている。
【0031】
前述したように、本実施例では、絶縁紙の寿命の目安を、その引張強度が初期状態の60%に低下した時点として、引張バネ10の引張荷重を設定している。すなわち、実際に油入変圧器の巻線に巻回される絶縁紙と同種の紙材について、サンプル数を100として初期状態における引張強度を測定した後、その平均値の60%を求め、これを引張バネ10の引張荷重としている。従って、試験片14の引張強度が低下して最終的に引張バネ10の引張荷重を下回った場合、試験片14は引張バネ10に引っ張られて破断する。このとき、電極7は試験片14の引張方向へ移動し、電極7の先端部7aが電極8に当接する。
【0032】
図2(a)に示すように、試験片14が取り付けられた引張手段2は金属ケース3に収納された状態で、タンク52内の上部であって、かつ、絶縁上支障のない箇所に設置されている。また、電極7,8に接続され,タンク50の外部へ延設される配線13a,13bには、図2(b)に示すように、制御部17を介してランプ15とスピーカー16が接続されており、制御部17にはランプ15やスピーカー16を駆動する電力を供給するための電源(図示せず)が接続されている。
すなわち、電極7,8及び配線13a,13bは、試験片14が破断したことを検出して電気信号(後述の破断信号18)を発する破断検出手段20を構成している。なお、筒状体5によって摺動自在に保持される電極7は、試験片14が破断した際に、取付具9の移動方向を規定するガイドとしての機能を有することから、引張手段2の構成要素にもなっている。しかし、電極7は必ずしもこのような構成でなくとも良く、例えば、筒状体5によって保持されて取付具9の移動方向を規定するガイド部材を電極7とは別個に設けることもできる。
【0033】
本実施例の油入変圧器の劣化診断装置1では、図2(b)に示すようにケース3に10個の引張手段2が収納されており、試験片14が破断した場合、破断検出手段20から制御部17へ破断信号18が送られる。また、制御部17は、10個のうちの半数以上の破断検出手段20から破断信号18を受け取った場合にのみ、ランプ15とスピーカー16にそれぞれ指令信号19a,19bを送る。そして、ランプ15とスピーカー16は指令信号19a,19bに従って、それぞれ光や音を発する構造となっている。
【0034】
このような構造の油入変圧器の劣化診断装置1においては、巻線55が高温となるタンク52内の上部に試験片14が配置されることから、試験片14が巻線55に対して実際に巻回されている絶縁紙と同等の温度変化を受けて経年劣化するという作用を有する。また、試験片14が破断したことが破断検出手段20によって検出されると、ランプ15とスピーカー16からなる警報手段が光や音を発するという作用を有する。さらに、変圧器等の故障でアーク(火花)が発生した場合に、金属ケース3によって引張手段2へのアークの伝搬が阻止されるという作用を有する。加えて、キャップ6は、劣化した絶縁油によって電極7,8の接触部分の導通状態が悪化しないように、当該接触部分への絶縁油の流入を防ぐという作用を有する。なお、本実施例ではキャップ6の内部が空気で満たされているが、このような構造に限定されるものではなく、例えば、空気以外の気体や劣化していない絶縁油でキャップ6の内部が満たされていても良い。
【0035】
以上説明したように、本実施例の油入変圧器の劣化診断装置1によれば、試験片14が巻線55に巻回されている絶縁紙と同種の紙材からなり、しかも、実際の使用状態に即した温度条件下で経年劣化するため、試験片14の劣化状態を診断することで絶縁紙の寿命を予測することが可能である。また、所定のバネ定数を有する引張バネ10を選択して、試験片14に作用する引張荷重の大きさを変更することにより、試験片14の劣化速度を容易に調節することができる。例えば、引張荷重をやや大きな値に設定すると、試験片が速く破断するため、油入変圧器が故障する前に、寿命の予測が可能となる。
【0036】
また、本実施例の油入変圧器の劣化診断装置1は構造が簡単であるため、既存の設備に容易に設置することが可能である。さらに、金属ケース3のシールド効果により、引張手段2が故障し難いため、長期間にわたって安全に使用することができる。加えて、試験片14の寿命を引張強度が初期状態の60%を下回った時点と設定していることから、試験片14の劣化状態を高い精度で診断することができる。これにより、油入変圧器の寿命の診断精度が向上する。そして、試験片14をタンク52から取り出さなくとも、その破断状況を知ることができる。すなわち、油入変圧器が運転中であっても、巻線55に巻回されている絶縁紙の寿命を予測することが可能である。この場合、油入変圧器の運転停止に伴う作業や費用は発生しない。従って、油入変圧器の劣化状態の診断を安価に短時間で効率よく行うことが可能である。
【0037】
本発明の油入変圧器の劣化診断装置は、本実施例に示したものに限定されない。例えば、金属ケース3に代えて、導電性を有する金属以外の材質からなるケースを使用しても良い。さらに、引張バネ10は図1(a)や図1(c)に示したようなコイル状でなくとも良い。そして、試験片14に対して一軸方向に引張荷重を付加できる弾性部材であれば、必ずしもバネでなくとも良い。また、電極保持具と電極7の間、又は電極保持具と電極8の間のうち少なくともいずれか一方が絶縁されていれば良いため、支持具4を絶縁性部材とする代わりに、筒状体5やキャップ6を絶縁性部材とすることもできる。あるいは、支持具4を絶縁性部材とし、キャップ6や取付具9を導電性部材とするとともに、電極7,8に代えて配線13a,13bを取付具9やキャップ6に接続した構造としても良い。さらに、金属ケース3の設置は、タンク52の上部であって、絶縁上支障の無い箇所であれば、図2(a)に示した箇所に限らず、変更可能である。また、金属ケース3に収納される引張手段2は10個に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の請求項1乃至請求項5に記載された発明は、油入変圧器の巻線に巻回された絶縁紙に限らず、絶縁油に浸漬された状態で使用される絶縁紙の劣化状態を診断する場合に適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…油入変圧器の劣化診断装置 2…引張手段 3…金属ケース 4…支持具 4a…基台 4b…前板 4c…後板 4d…貫通孔 5…筒状体 5a…ガイド孔 6…キャップ 7,8…電極 7a…先端部 9…取付具 10…引張バネ 11a,11b…Oリング 12…アース線 13a,13b…配線 14…試験片 15…ランプ 16…スピーカー 17…制御部 18…破断信号 19a,19b…指令信号 20…破断検出手段 50…油入変圧器 51…本体 52…タンク 52a…側板 52b…底板 52c…天板 53…波付け加工部 54…鉄心 54a,54b…締付金具 55…巻線 56…ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入変圧器の巻線に巻回される絶縁紙と同種の紙材からなるテープ状の試験片と、
一軸方向に引張荷重を付加した状態で,この試験片を保持する引張手段と、
前記試験片が破断したことを検出して電気信号を発する破断検出手段と、
を備え、
前記試験片が取り付けられた前記引張手段は、油入変圧器が収納されるタンク内の上部に設置されることを特徴とする油入変圧器の劣化診断装置。
【請求項2】
前記引張手段は、
前記試験片の一端が固定される電極保持具と、
この電極保持具によって前記一軸方向へ摺動自在に保持される第1の電極と、
この第1の電極に取り付けられるとともに,前記試験片の他端が固定される取付具と、
この取付具を前記試験片の引張方向に付勢する弾性部材と、
からなり、
前記破断検出手段は、
前記試験片の引張方向へ前記取付具が移動した場合に,前記第1の電極と当接可能に前記保持具に設置される第2の電極を備え、
前記第1の電極及び前記第2の電極には前記電気信号を流すための配線がそれぞれ接続され、
前記電極保持具と前記第1の電極の間、又は前記電極保持具と前記第2の電極の間のうち少なくともいずれか一方は絶縁されていることを特徴とする請求項1記載の油入変圧器の劣化診断装置。
【請求項3】
前記破断検出手段の前記配線に接続され,前記電気信号を受けて前記タンクの外部へ光や音を発する警報手段を備えたことを特徴とする請求項2記載の油入変圧器の劣化診断装置。
【請求項4】
アース線を介して接地される網状の導電性ケースを備え、
前記引張手段は、この導電ケースに収納された状態で前記タンク内に設置されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の油入変圧器の劣化診断装置。
【請求項5】
前記引張荷重は前記絶縁紙の初期状態における引張強度の60%に設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の油入変圧器の劣化診断装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−160670(P2012−160670A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21172(P2011−21172)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)