油入電気機器の寿命診断装置、油入電気機器の寿命診断方法、油入電気機器の劣化抑制装置、および油入電気機器の劣化抑制方法
【課題】油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断するための技術を提供する。
【解決手段】絶縁油に含まれる原因物質の残存濃度の初期濃度が基準値と比較される。原因物質は、油入電気機器の巻線を構成する導体との反応によって導電性化合物を生成する。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。原因物質の初期濃度と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の寿命が診断される。
【解決手段】絶縁油に含まれる原因物質の残存濃度の初期濃度が基準値と比較される。原因物質は、油入電気機器の巻線を構成する導体との反応によって導電性化合物を生成する。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。原因物質の初期濃度と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の寿命が診断される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入電気機器の寿命を診断するための装置および方法、ならびに、油入電気機器の劣化を抑制するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油入電気機器、特に油入変圧器は、コイル素線およびその外側に巻きつけられた絶縁紙を有する。絶縁紙は隣り合うコイルターン間を電気的に絶縁する。変圧器が長期(たとえば数十年)に亘り使用される間に、絶縁紙を構成するセルロース分子の平均重合度が徐々に低下する。このため絶縁紙の機械的強度が徐々に低下する。
【0003】
系統事故によって変圧器に短絡電流が流れた場合、コイルに電磁力が作用する。電磁力は短絡電流に応じて定まる。大きな短絡電流が流れた場合には、コイルに大きな電磁力が発生するためにコイル絶縁紙に引張力が作用する。劣化した絶縁紙に過大な引張力が作用した場合には、絶縁紙が破断する。コイル絶縁紙が破断することによって隣り合うコイルターン間の電気的な絶縁性能が低下する。これが変圧器の寿命を支配する典型的なメカニズムである。したがってコイル絶縁紙の機械的強度を推定することが油入電気機器の寿命診断にとって不可欠である。
【0004】
絶縁紙の機械的強度の低下によるコイルターン間の短絡を防止するための方法として、絶縁紙の重合度に基づく電気機器の寿命診断方法が提案されている。絶縁紙の重合度は絶縁紙の機械的強度と相関を有する。このため絶縁紙の重合度が電気機器の寿命診断のために用いられる(特許文献1:特許第3516962号公報(再公表特許98/056017公報))。
【0005】
特許文献1は、加熱時間および加熱年数から絶縁紙の重合度を算出するための数式を開示する。特許文献1によれば、絶縁紙の熱劣化現象は110℃を境に異なる。上記の数式は、絶縁紙の入った絶縁油を最大12年間、110℃以下の温度にて加熱する実験によって得られる。
【0006】
絶縁紙の機械的強度と絶縁紙の重合度との関係は予め求められる。絶縁紙の機械的強度が設計限界値に達したときの重合度が、絶縁紙の重合度の設計限界値となる。絶縁紙の重合度を推定することによって油入電気機器の寿命を診断することができる。
【0007】
一方、硫化銅が油入電気機器の内部で絶縁破壊を引き起こすという問題が近年報告されている。絶縁油に含まれる硫黄成分が絶縁油中の銅部品と反応して、導電性の硫化銅が絶縁紙に析出する。硫化銅は絶縁紙の絶縁性能を低下させる。絶縁紙の絶縁性能が低下することで絶縁破壊が生じる(非特許文献1:CIGRE WG A2-32, “Copper sulphide in transformer insulation”, Final Report Brochure 378, 2009)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3516962号公報(再公表特許98/056017公報)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】CIGRE WG A2-32, “Copper sulphide in transformer insulation”, Final Report Brochure 378, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の寿命診断方法では、絶縁紙に硫化銅が析出することによる絶縁性能の低下は考慮されていない。したがって従来の方法によれば、油入電気機器の寿命を正しく診断できない場合が生じ得る。油入電気機器の状態を正確に分析するためには油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することが求められる。
【0011】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある局面に係る油入電気機器の寿命診断装置は、絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、巻線を収容するタンクと、タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の寿命診断装置である。寿命診断装置は、絶縁油に含まれて、導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するように構成された測定部と、油入電気機器の稼働時間と、測定部によって測定された残存濃度の測定値とに基づいて、原因物質の初期濃度を推定するように構成された濃度推定部と、初期濃度の基準値と、濃度推定部によって推定された初期濃度の推定値とを比較するように構成された比較部とを備える。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。寿命診断装置は、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の寿命を診断するように構成された診断部をさらに備える。
【0013】
本発明の他の局面に係る油入電気機器の劣化抑制装置は、絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、巻線を収容するタンクと、タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の劣化抑制装置である。劣化抑制装置は、絶縁油に含まれて、導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するように構成された測定部と、油入電気機器の稼働時間と、測定部によって測定された残存濃度の測定値とに基づいて、原因物質の初期濃度を推定するように構成された濃度推定部と、初期濃度の基準値と、濃度推定部によって推定された初期濃度の推定値とを比較するように構成された比較部とを備える。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。劣化抑制装置は、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するように構成された情報生成部をさらに備える。
【0014】
本発明のさらに他の局面に係る油入電気機器の寿命診断方法は、絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、巻線を収容するタンクと、タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の寿命診断方法である。寿命診断方法は、絶縁油に含まれて、導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するステップと、油入電気機器の稼働時間と、残存濃度の測定値とに基づいて、原因物質の初期濃度を推定するステップと、初期濃度の基準値と、初期濃度の推定値とを比較するステップとを備える。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。寿命診断方法は、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の寿命を診断するステップをさらに備える。
【0015】
本発明のさらに他の局面に係る油入電気機器の劣化抑制方法は、絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、巻線を収容するタンクと、タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の劣化抑制方法である。劣化抑制方法は、絶縁油に含まれて、導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するステップと、油入電気機器の稼働時間と、残存濃度の測定値とに基づいて、原因物質の初期濃度を推定するステップと、初期濃度の基準値と、初期濃度の推定値とを比較するステップとを備える。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。劣化抑制方法は、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するステップをさらに備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1による油入電気機器の寿命診断装置の構成図である。
【図2】図1に示した油入電気機器の構成例を示す断面図である。
【図3】コイルを構成する複数の巻線層のうちの1つを示した平面図である。
【図4】図3に示した巻線層のIV−IV線に沿った断面を示した断面図である。
【図5】油入電気機器内部における硫化銅の生成メカニズムを説明するための模式図である。
【図6】マップに基づく油入電気機器の寿命診断を説明するための図である。
【図7】図1に示した演算部の構成を示した機能ブロック図である。
【図8】実施の形態1による油入電気機器の寿命診断方法を説明するためのフローチャートである。
【図9】ヒートラン試験により求められる、変圧器中の絶縁油の温度とコイル巻線の温度とを模式的に示した図である。
【図10】運転負荷率とコイル温度との関係を模式的に示した図である。
【図11】環境温度とコイル温度との関係を模式的に示した図である。
【図12】コイル温度とDBDS濃度の減少速度との間の関係を模式的に示した図である。
【図13】本発明の実施の形態2による油入電気機器の劣化抑制装置の構成図である。
【図14】図13に示した演算部の構成を示した機能ブロック図である。
【図15】実施の形態2による油入電気機器の劣化抑制方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1による油入電気機器の寿命診断装置の構成図である。図1を参照して、診断装置101は、配管2と、タンク3と、採油装置4と、前処理装置5と、濃度測定器6と、演算部8と、表示装置9とを備える。
【0020】
図2は、図1に示した油入電気機器の構成例を示す断面図である。図2を参照して、油入電気機器1はたとえば変圧器であり、タンク50と、鉄心51,52と、コイル53と、冷却器54と、絶縁油55とを備える。
【0021】
鉄心51,52と、コイル53とはタンク50に収納される。コイル53は、鉄心51,52に囲まれている。タンク50の内部は絶縁油55で満たされている。したがってコイル53は絶縁油55に浸されている。
【0022】
絶縁油55はポンプ56によって油入電気機器1内を循環する。図2中の矢印によって示されるように、絶縁油55は、タンク50から出て、冷却器54により冷却される。冷却された絶縁油55はタンク50に戻る。絶縁油55は、たとえば鉱油、合成油などである。
【0023】
コイル53は、一方向に積層された複数の巻線層によって構成される。図3は、コイルを構成する複数の巻線層のうちの1つを示した平面図である。図4は、図3に示した巻線層のIV−IV線に沿った断面を示した断面図である。
【0024】
図3および図4を参照して、巻線層53Pは、紙巻導体53Lによって構成される。紙巻導体53Lは、同一平面内で螺旋状に巻かれている。紙巻導体53Lは、銅を含む導体53Mと、導体53Mを被覆する絶縁紙53Nとを有する。絶縁紙53Nはセルロース分子を含む。
【0025】
図1に戻り、タンク3は配管2によって油入電気機器1に接続される。油入電気機器1内から絶縁油55が採取される際には、油入電気機器1内の絶縁油の一部が配管2を通り、タンク3に流入する。採油装置4は、たとえばポンプであり、タンク3内の絶縁油を採取する。タンク3の絶縁油は濃度測定器6による成分分析に用いられる。前処理装置5は、タンク3内の絶縁油が濃度測定器6に送られる前に、絶縁油の前処理を行なう。
【0026】
濃度測定器6は、導電性化合物の原因物質の残存濃度を測定する。原因物質は巻線層の導体と反応することにより導電性化合物を生成する物質である。原因物質が導体と反応することによって原因物質の濃度は次第に減少する。したがって濃度測定器6により原因物質の残存濃度が測定される。
【0027】
本実施の形態では、濃度測定器6による濃度測定の対象となる原因物質は硫黄化合物であり、より具体的には、ジベンジルジスルフィド(Di-benzyl-di-sulfide;DBDS)である。濃度測定器6は、たとえばガスクロマトグラフ/質量分析器(GC/MS)であり、絶縁油から抽出されたDBDSの濃度を測定する。
【0028】
演算部8は、たとえばコンピュータにより構成されるとともに、その内部に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて演算処理を実行する。具体的には、演算部8は、濃度測定器6からDBDS残存濃度の測定値を受ける。演算部8は、DBDS残存濃度の測定値、油入電気機器1の稼働時間、および油入電気機器1の運転温度などに基づいて、油入電気機器1の寿命を診断する。具体的には演算部8は油入電気機器1の余寿命を推定するとともに、その推定値を出力する。
【0029】
表示装置9は、演算部8の診断結果、すなわち油入電気機器1の余寿命の推定値を図示しない画面に表示する。これにより診断装置101による診断結果を把握することが可能になる。
【0030】
図5は、油入電気機器内部における硫化銅の生成メカニズムを説明するための模式図である。図5を参照して、硫化銅の生成反応は2段階に分けられる。第1段階では、銅とDBDSとの化学反応によって銅−DBDS錯体が生成される。この錯体は、絶縁油中に拡散するとともに、その一部が絶縁紙に吸着する。
【0031】
第2段階では、上記錯体が熱エネルギーによって分解されることにより、絶縁紙に硫化銅が析出する。硫化銅は導電性の物質であるので、硫化銅が析出された箇所を起点に導電路が形成される。この結果、隣り合うコイルターン間が短絡して絶縁破壊が生じる。
【0032】
絶縁油中のDBDSは、コイルの導体に含まれる銅との反応によって消費される。DBDS濃度は油入電気機器の稼働年数に伴い低下する。したがって硫化銅生成による絶縁破壊のリスクを診断するためには、DBDSの初期濃度を推定することが必要となる。初期濃度とは、油入電気機器の稼働開始時の濃度である。
【0033】
本実施の形態では、演算部8は、濃度測定器6によって測定された残存濃度に基づいてDBDSの初期濃度を推定する。演算部8は、その推定値をDBDS濃度の基準値と比較する。この基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が硫化物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。演算部8は、基準値と推定値との比較結果に基づいて油入電気機器の寿命を診断する。演算部8の診断結果は上記の主要因を反映する。したがって本実施の形態によれば油入電気機器の寿命を正確に診断できる。
【0034】
具体的には、演算部8は、以下に説明されるマップを用いて油入電気機器の寿命を診断する。図6は、マップに基づく油入電気機器の寿命診断を説明するための図である。
【0035】
図6を参照して、マップ11は、所定の運転温度におけるDBDS初期濃度と油入電気機器の寿命年数との間の相関関係を定義する。グラフの横軸はDBDS初期濃度を示し、グラフの縦軸は稼働年数を表わす。
【0036】
時間Tcは、上記の運転温度において絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する稼働時間を表す。絶縁紙の機械的強度は、絶縁紙の劣化にともなって低下する。絶縁紙(セルロース分子)の平均重合度は絶縁紙の機械的強度と相関を有する。絶縁紙の平均重合度の設計限界値は、絶縁紙の機械的強度がその設計限界値に達したときの値に対応する。
【0037】
絶縁紙の平均重合度はDBDS初期濃度に依存せずに、絶縁油の温度と油入電気機器の稼働年数とにのみ依存する。したがって時間Tcは、たとえば特許文献1に開示された数式を用いて予め定めることができる。絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する稼働時間と、DBDS初期濃度との関係は、グラフ上では横軸に平行な直線(破線12)として表現される。
【0038】
一方、硫化銅の生成速度は、原因物質(DBDS)の初期濃度に依存する。曲線13は、DBDS初期濃度と、絶縁紙の絶縁破壊をもたらす量の硫化銅が生成される時間との関係を示す。DBDSの初期濃度が高いほど、絶縁紙の絶縁破壊をもたらす量の硫化銅が生成される時間は短い。すなわち、DBDSの初期濃度が高いほど、油入電気機器1の寿命時間が短い。
【0039】
Xcは、破線12と曲線13との交点14に対応するDBDSの初期濃度であり、上記の「基準値」に対応する。すなわちXcは、硫化銅の析出によって絶縁破壊が生じるまでの稼働時間が、絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する稼働時間と等しくなる場合における、DBDSの初期濃度である。
【0040】
この実施の形態では、DBDS初期濃度がXcより大きいか否かによって寿命診断方法が異なる。初期濃度がXcよりも低い値Xsである場合には、絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する時間が、絶縁紙の絶縁破壊をもたらす量の硫化銅が生成される時間よりも短い。したがって初期濃度が基準値よりも小さい場合には、絶縁紙の平均重合度の低下が油入電気機器の寿命の主要因となる。演算部8は、油入電気機器の時間Tcと稼働時間との差tsが油入電気機器の余寿命であると推定する。
【0041】
一方、初期濃度がXcよりも大きい値Xlである場合、絶縁紙の絶縁破壊をもたらす量の硫化銅が生成される時間(Ta)は、絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する時間(Tc)よりも短い。したがって初期濃度が基準値よりも大きい場合には、硫化銅の生成が油入電気機器の寿命の主要因となる。この場合には、油入電気機器の寿命は硫化銅の生成速度に依存するので、従来の寿命診断方法、すなわち絶縁紙の平均重合度に基づく寿命診断方法では機器の寿命を正しく診断できない。演算部8は、油入電気機器の余寿命は時間Taと稼働時間との差tlであると推定する。
【0042】
図6に示されるように、マップ11は、油入電気機器の寿命時間が絶縁紙の平均重合度およびDBDS初期濃度のいずれか一方に依存するように、油入電気機器の寿命時間を定義する。具体的には、寿命時間を支配するパラメータは、DBDS初期濃度と基準値(Xc)との間の大小関係に従って定められる。DBDS初期濃度が基準値より小さい場合には、絶縁紙の平均重合度が寿命時間を支配する。一方、DBDS初期濃度が基準値より大きい場合には、DBDS初期濃度が寿命時間を支配する。すなわち、絶縁紙の平均重合度が設計限界値以下になる稼働時間と、硫化銅の生成によって絶縁破壊に至る稼働時間とのいずれか短いほうが油入電気機器の寿命と定義される。
【0043】
運転温度が異なる場合には、絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する時間、および硫化銅の生成速度に依存する寿命時間が異なりうる。したがって、運転温度に対応して、図6に示したマップ11と同様のマップを準備することもできる。
【0044】
次に、図6に示したマップに従って油入電気機器の寿命を診断する演算部の構成について説明する。図7は、図1に示した演算部の構成を示した機能ブロック図である。
【0045】
図7を参照して、演算部8は、初期濃度推定部24と、マップ記憶部26と、比較部27と、診断部28とを含む。
【0046】
初期濃度推定部24は、濃度測定器6によって測定されたDBDS残存濃度に基づいてDBDS初期濃度を推定するとともに、その推定値を診断部28に出力する。マップ記憶部26は、マップ11(図6参照)を記憶する。なお、油入電気機器の運転温度(たとえば絶縁油の温度)に応じて複数のマップが予め準備される場合、マップ記憶部26は、それら複数のマップを記憶する。
【0047】
比較部27は、初期濃度推定部24からDBDS初期濃度の推定値を受けるとともに、マップ記憶部26からDBDS初期濃度の基準値Xcを受ける。比較部27は、推定値および基準値を比較するとともに、その比較結果を出力する。
【0048】
診断部28は、上述の方法に従って、油入電気機器1の寿命を診断する。具体的には、診断部28は、比較部27の比較結果、DBDS初期濃度の推定値、油入電気機器の稼働時間および運転温度、ならびにマップ記憶部26に記憶されたマップ11に基づいて、油入電気機器1の寿命を診断する。DBDS初期濃度が基準値よりも大きいことを比較部27の比較結果が示す場合、診断部28は、DBDS初期濃度に基づく寿命時間(図6中の時間Ta)から稼働時間を減算することにより、油入電気機器の余寿命を算出する。一方、DBDS初期濃度が基準値よりも小さいことを比較部27の比較結果が示す場合、診断部28は、絶縁紙の平均重合度に基づく寿命時間(図6中の時間Tc)から稼働時間を減算することにより、油入電気機器の余寿命を算出する。
【0049】
診断部28は、算出された余寿命を表示装置9に出力する。表示装置9は、その余寿命を表示する。
【0050】
図8は、実施の形態1による油入電気機器の寿命診断方法を説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、たとえば油入電気機器の点検時に実行される。
【0051】
図8を参照して、ステップS1において、濃度測定器6は、タンク3内の絶縁油を成分分析することによってDBDSの残存濃度を測定する。ステップS2において、演算部8はDBDSの残存濃度に基づいて、DBDSの初期濃度を推定する。初期濃度の推定方法については後に詳細に説明する。
【0052】
ステップS3において、演算部8は、その初期濃度と基準値Xcとを比較する。ステップS4において、DBDS初期濃度が基準値Xcより大きいか否かが判定される。初期濃度がXcより大きいと判定された場合(ステップS4においてYES)、処理はステップS5に進む。一方、初期濃度がXcより小さいと判定された場合(ステップS4においてNO)、処理はステップS6に進む。
【0053】
ステップS5において、演算部8は、硫化銅の生成速度に基づく寿命時間(図6中のTaに相当)および油入電気機器1の稼働時間から余寿命を算出する。一方、ステップS6において、演算部8は、絶縁紙の平均重合度に基づく寿命時間(図6中のTcに相当)および油入電気機器の稼働時間から余寿命を算出する。ステップS5およびS6の処理は、油入電気機器1の寿命を診断するための処理である。ステップS5またはS6の処理が終了すると、全体の処理が終了する。
【0054】
この実施の形態によれば、推定された余寿命に基づいて、変圧器の寿命診断を実行できる。たとえば変圧器の更新(取替え)などの対策を提示することができる。
【0055】
<DBDSの初期濃度の推定方法>
DBDSの初期濃度は、DBDS残存濃度に、DBDS濃度の減少量を加えることによって推定できる。絶縁油中のDBDSの減少量を推定する方法としては、各種の方法を適用できる。たとえば等価温度と硫化銅の生成量との関係から硫化銅の生成量を推定することができる(非特許文献2:加藤福太郎、網本剛、永尾栄一、細川登、外山悟、谷村純二、”高感度硫黄分析を活用した変圧器における硫化銅外部診断技術の開発”、第29回 絶縁油分科会研究発表会、pp.34-39、2009年)。
【0056】
本実施の形態では、DBDS濃度の減少量は、平均減少速度と稼働時間との積によって算出される。本実施の形態で用いられる「平均減少速度」は、コイルの等価温度におけるDBDS濃度の減少速度である。平均減少速度は、たとえば以下の工程1〜3によって予め求められる。
【0057】
(工程1)変圧器の試験データから、変圧器の運転負荷率および環境温度と、変圧器内のコイル温度との関係を把握する工程
(工程2)変圧器の運転負荷率および環境温度の情報と、工程1で得られた関係から、変圧器内のコイルの等価温度を算出する工程
(工程3)コイルの等価温度における平均減少速度を算出する工程
工程1では、たとえば変圧器のヒートラン試験が実行される。ヒートラン試験は、巻線および鉄芯を冷却する特性を把握するために定められた負荷条件下での温度上昇を測定する試験である。例えば、JEC(Japanese Electrotechnical Committee)−2200に基づく短絡接続による等価負荷法に従ってヒートラン試験が実行される。この試験では、変圧器の底部および上部の油温度が測定される。コイル巻線の温度は、測定されたコイル巻線の抵抗値から算出される。
【0058】
図9は、ヒートラン試験により求められる、変圧器中の絶縁油の温度とコイル巻線の温度とを模式的に示した図である。図9を参照して、通電電流によるコイル巻線の発熱により、油温度はコイル下部で最も低く、上部で最も高くなる。
【0059】
この方法に基づいて、一定の環境温度下において、ある運転負荷率で変圧器を運転した場合の変圧器の底部と上部とにおける絶縁油の温度が測定される。図10に示されるように、絶縁油の温度の測定値から、運転負荷率をパラメータとした場合の変圧器の各部(たとえば底部および上部)のコイル温度が得られる。図10は、運転負荷率とコイル温度との関係を模式的に示している。運転負荷率は、たとえば40%、60%、80%、100%であるが、これらの値に限定されない。
【0060】
また、ある環境温度下において、一定の運転負荷率で変圧器を運転した場合の変圧器の底部と上部とにおける絶縁油の温度が測定される。図11に示されるように、絶縁油の温度の測定値から、環境温度をパラメータとした場合の変圧器の各部(たとえば底部および上部)のコイル温度が得られる。図11は、環境温度とコイル温度との関係を模式的に示している。環境温度は、たとえば5℃、20℃、35℃であるが、これらの値に限定されない。
【0061】
上記の方法によって、変圧器の運転負荷率および環境温度と、変圧器内のコイル温度との関係が把握される。
【0062】
工程2では、まず、平均環境温度が決定される。変圧器が設置されている環境での気温は一定ではない。しかしながら日間および年間の気温変動を考慮することによって、変圧器の運転期間全体における平均環境温度を求めることができる。
【0063】
次に、油入電気機器の平均運転負荷率が決定される。平均運転負荷率は、変圧器の運転期間での運転負荷率の平均値である。平均運転負荷率は、たとえば、変圧器の設置場所(たとえば変電所)に記録されたデータに基づいて算出される。
【0064】
続いてコイルの等価温度が決定される。工程1で把握された関係、すなわち変圧器の運転負荷率および環境温度と、変圧器内のコイル温度との間の関係が用いられる。この関係を用いて、平均環境温度および平均運転負荷率における、変圧器内の各部(たとえば底部および上部)のコイル温度が得られる。
【0065】
次に、変圧器内の各部における、コイル温度とDBDS濃度の減少速度との間の関係が把握される。一般に、コイル温度はコイル下部で最も低くなり、コイル上部で最も高くなる。一方、DBDSと銅との反応は温度依存性を有する。温度が高いほど、反応速度が大きくなるとともにDBDS濃度の減少速度が大きくなる。コイル下部では温度が低いため、DBDS濃度の減少速度は小さい。一方、コイル上部では温度が高いためDBDS濃度の減少速度が大きい。
【0066】
硫化銅を生成する化学反応の場合、たとえば温度が10℃高くなると、反応速度が2倍速くなる。この温度依存性に基づき、コイル温度が10℃高くなるとDBDS濃度の減少速度が2倍早くなると推定される。そして、この推定に基づいて、変圧器内の各部(たとえば底部および上部)におけるコイル温度とDBDS濃度の減少速度との関係を示すグラフが作成される。
【0067】
図12は、コイル温度とDBDS濃度の減少速度との間の関係を模式的に示した図である。図12を参照して、領域Aの面積値と領域Bの面積値とが等しくなる温度が、コイルの等価温度として求められる。
【0068】
工程3では、図12に示した関係に基づいて、等価温度におけるDBDS濃度の減少速度が得られる。演算部8(初期濃度推定部24)がこの減少速度を予め記憶することによって、演算部8は、DBDS濃度の減少量を推定可能である。
【0069】
以上のように実施の形態1によれば、DBDS初期濃度が基準値と比較される。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が硫化銅の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。したがって実施の形態1によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができる。
【0070】
さらに実施の形態1によれば、絶縁紙の平均重合度に基づいて油入電気機器の寿命を診断する方法と、DBDSの初期濃度に基づいて油入電気機器の寿命を診断する方法とが組み合わされる。DBDSの初期濃度の推定値と基準値との比較によって2つの方法のいずれか一方が選択される。実施の形態1によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができるため、油入電気機器の寿命を正確に診断することができる。
【0071】
[実施の形態2]
実施の形態2では、油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を得ることができる。
【0072】
図13は、本発明の実施の形態2による油入電気機器の劣化抑制装置の構成図である。図13および図1を参照して、劣化抑制装置102は、演算部8に代えて演算部8Aを備える点において診断装置101と異なる。劣化抑制装置102の他の部分の構成は診断装置101の対応する部分の構成と同様であるので以後の説明は繰り返さない。
【0073】
演算部8Aは、濃度測定器6によって測定されたDBDS残存濃度に基づいて、DBDS初期濃度を推定する。さらに演算部8Aは、その推定値を基準値とを比較する。「基準値」は油入電気機器の寿命の主要因が硫化銅の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値である。具体的には、図6に示されたXcが基準値に用いられる。演算部8Aは、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器1の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するとともに、その情報を出力する。表示装置9は、演算部8Aから出力された情報を図示しない画面に表示する。表示装置9に表示された情報に基づいて、油入電気機器1の劣化を抑制するための対策を実行することが可能となる。油入電気機器1の劣化を抑制するための対策は、DBDS初期濃度と基準値Xcとの大小関係に基づいて異なる。
【0074】
DBDS初期濃度がXcより小さい場合(図6に示したXs<Xcの場合)、絶縁紙の平均重合度の低下を抑制する対策が選択される。運転温度を低下させることは、絶縁紙の平均重合度の低下を抑制するための有効な対策である。温度を低減するための方法として、たとえば油入電気機器の運転負荷の低減、冷却ファンの増設による冷却能力の増強、冷却ファンの運用方法の変更などが挙げられる。油入電気機器の運転負荷を低減する方法としては、たとえば電力系統に投入された油入電気機器の運転負荷の分担を調節する方法が挙げられる。この方法によれば、たとえば劣化した機器に流れる通電電流を小さくする一方、他の健全な機器に流れる通電電流を大きくする。これにより劣化した機器の運転負荷を低減できる。
【0075】
一方、DBDS初期濃度がXcより大きい場合(図6に示したXl>Xcの場合)、硫化銅生成を抑制する方策が採用される。使用中の油から原因物質であるDBDSを含まない油への交換、使用中の油に対する処理(たとえば硫黄成分の除去)、硫化銅生成を抑制するための抑制剤の絶縁油への添加は、硫化銅生成を抑制するための有効な対策である。
【0076】
抑制剤は、たとえば1,2,3−ベンゾトリアゾール(BTA)および/またはN,N−ビス(2−エチルヘキシル)−(4または5)−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミンを適用できる(たとえば非特許文献3: T. Amimoto, E. Nagao, J. Tanimura, S. Toyama and N. Yamada, “Duration and Mechanism for Suppressive Effect of Triazole-based Passivators on Copper-sulfide Deposition on Insulating Paper”, IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, Vol. 16, No.1, pp.257-264, 2009.)。上記添加剤は、絶縁油中に添加されることによって、銅表面に吸着されるとともに錯体被膜を形成する。この膜が絶縁油中の硫黄成分と銅との化学反応を阻害することにより、硫化銅の生成が抑制される。
【0077】
また、銅−DBDS錯体を不活性化するキレート剤が絶縁油に添加されてもよい。銅−DBDS錯体が不活性化されることによって、絶縁紙への硫化銅の析出が抑制される。キレート剤は、たとえば以下の物質の中から選ばれる;エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテル、アセチルアセトン、アミノトリアゾール、アリザリン−3,1スタビノールC3−42、オキシン、モリン、キナルジン酸、アルミノン、トリエタノールアミン。好ましくは、キレート剤は、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸およびアセチルアセトンからなる群から選ばれる。
【0078】
図14は、図13に示した演算部の構成を示した機能ブロック図である。図13および図7を参照して、演算部8Aは、情報生成部29をさらに備える点において演算部8と異なる。演算部8Aの他の部分の構成は演算部8の対応する部分の構成と同様である。なお、診断部28が省略されていてもよい。
【0079】
情報生成部29は、比較部27の比較結果を受ける。比較部27は、DBDS初期濃度の推定値を基準値と比較する。
【0080】
推定値が基準値よりも小さいことを比較結果が示す場合には、情報生成部29は、絶縁紙の劣化を抑制するための情報を生成する。この情報は、たとえば、運転温度の低下が必要なことを示す情報である。表示装置9は、絶縁紙の劣化を抑制するための情報、たとえば運転温度の低下を示す情報を図示しない画面に表示する。
【0081】
一方、推定値が基準値よりも大きいことを比較結果が示す場合には、情報生成部29は、硫化銅の生成を抑制するための情報を生成する。この情報は、たとえば絶縁油の交換を示す情報である。表示装置9は、硫化銅の生成を抑制するための情報、たとえば絶縁油の交換を示す情報を図示しない画面に表示する。
【0082】
図15は、実施の形態2による油入電気機器の劣化抑制方法を説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、たとえば油入電気機器の定期点検時に実行される。
【0083】
図15および図8を参照して、油入電気機器の劣化抑制方法は、ステップS5,S6の処理に代えて、ステップS11,S12の処理を含む点において油入電気機器の寿命診断方法と異なる。図15に示したステップS1〜S4の各々の処理は、図8のフローチャートの対応するステップの処理と同様である。ステップS4においてDBDS初期濃度が基準値Xcより大きいか否かが判定される。初期濃度がXcより大きいと判定された場合(ステップS4においてYES)、処理はステップS11に進む。一方、初期濃度がXcより小さいと判定された場合(ステップS4においてNO)、処理はステップS12に進む。
【0084】
ステップS11において、演算部8Aは、硫化銅の生成の抑制に関する情報を生成する。一方、ステップS12において、演算部8Aは、絶縁紙の平均重合度に基づく寿命時間(図6中のTcに相当)および油入電気機器の稼働時間から余寿命を算出する。ステップS11またはS12の処理が終了すると、全体の処理が終了する。
【0085】
劣化抑制対策はできるだけ早い時期に実行されることが好ましい。その一方、油入電気器は電力系統に投入されているので、当該機器を直ちに停止した場合には停電が生じる。このため、劣化抑制のための対策は、機器が停止される定期点検時に実行されることが好ましい。
【0086】
実施の形態2では、実施の形態1と同様に、DBDS初期濃度が基準値と比較される。したがって実施の形態2によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができる。
【0087】
さらに実施の形態2によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができるため、油入電気機器の劣化を抑制するための適切な対策に関する情報を生成することができる。その情報に従った対策が実行されることによって油入電気機器の劣化を効果的に抑制することができる。油入電気機器の劣化が抑制されることによって、油入電気機器の寿命を長くすることが可能となる。
【0088】
上記の実施の形態1,2では、絶縁紙の劣化に関連するパラメータとして絶縁紙の平均重合度が用いられる。しかしながら上記パラメータは、絶縁紙の平均重合度に限定されるものではない。たとえば、絶縁紙の劣化に伴って生成される物質の濃度あるいは量を、絶縁紙の劣化に関連するパラメータに用いることができる。そのパラメータの設計限界値は、絶縁紙の機械的強度の設計限界値に対応する値に定められる。そのパラメータが設計限界値に達するまでの油入電気機器の稼働時間が、油入電気機器の寿命時間、すなわち図6に示した時間Tcに対応する。この場合にも、上記の実施の形態での方法と同様の方法によって、油入電気機器の寿命診断および劣化抑制の対策を実行できる。
【0089】
また、演算部は上記説明に従う構成を有するものと限定されない。たとえば複数のブロックが統合されてもよい。あるいは、図7および図13に示した複数の機能ブロックのうちの一部が演算部の外部に配置されてもよい。
【0090】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1 油入電気機器、2 配管、3,50 タンク、6 濃度測定器、8,8A 演算部、9 表示装置、11 マップ、12 破線、13 曲線、14 交点、22 稼働時間測定部、24 初期濃度推定部、26 マップ記憶部、27 比較部、28 診断部、29 情報生成部、51,52 鉄心、53 コイル、53L 紙巻導体、53M 導体、53N 絶縁紙、53P 巻線層、54 冷却器、55 絶縁油、56 ポンプ、101 診断装置、102 劣化抑制装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入電気機器の寿命を診断するための装置および方法、ならびに、油入電気機器の劣化を抑制するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油入電気機器、特に油入変圧器は、コイル素線およびその外側に巻きつけられた絶縁紙を有する。絶縁紙は隣り合うコイルターン間を電気的に絶縁する。変圧器が長期(たとえば数十年)に亘り使用される間に、絶縁紙を構成するセルロース分子の平均重合度が徐々に低下する。このため絶縁紙の機械的強度が徐々に低下する。
【0003】
系統事故によって変圧器に短絡電流が流れた場合、コイルに電磁力が作用する。電磁力は短絡電流に応じて定まる。大きな短絡電流が流れた場合には、コイルに大きな電磁力が発生するためにコイル絶縁紙に引張力が作用する。劣化した絶縁紙に過大な引張力が作用した場合には、絶縁紙が破断する。コイル絶縁紙が破断することによって隣り合うコイルターン間の電気的な絶縁性能が低下する。これが変圧器の寿命を支配する典型的なメカニズムである。したがってコイル絶縁紙の機械的強度を推定することが油入電気機器の寿命診断にとって不可欠である。
【0004】
絶縁紙の機械的強度の低下によるコイルターン間の短絡を防止するための方法として、絶縁紙の重合度に基づく電気機器の寿命診断方法が提案されている。絶縁紙の重合度は絶縁紙の機械的強度と相関を有する。このため絶縁紙の重合度が電気機器の寿命診断のために用いられる(特許文献1:特許第3516962号公報(再公表特許98/056017公報))。
【0005】
特許文献1は、加熱時間および加熱年数から絶縁紙の重合度を算出するための数式を開示する。特許文献1によれば、絶縁紙の熱劣化現象は110℃を境に異なる。上記の数式は、絶縁紙の入った絶縁油を最大12年間、110℃以下の温度にて加熱する実験によって得られる。
【0006】
絶縁紙の機械的強度と絶縁紙の重合度との関係は予め求められる。絶縁紙の機械的強度が設計限界値に達したときの重合度が、絶縁紙の重合度の設計限界値となる。絶縁紙の重合度を推定することによって油入電気機器の寿命を診断することができる。
【0007】
一方、硫化銅が油入電気機器の内部で絶縁破壊を引き起こすという問題が近年報告されている。絶縁油に含まれる硫黄成分が絶縁油中の銅部品と反応して、導電性の硫化銅が絶縁紙に析出する。硫化銅は絶縁紙の絶縁性能を低下させる。絶縁紙の絶縁性能が低下することで絶縁破壊が生じる(非特許文献1:CIGRE WG A2-32, “Copper sulphide in transformer insulation”, Final Report Brochure 378, 2009)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3516962号公報(再公表特許98/056017公報)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】CIGRE WG A2-32, “Copper sulphide in transformer insulation”, Final Report Brochure 378, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の寿命診断方法では、絶縁紙に硫化銅が析出することによる絶縁性能の低下は考慮されていない。したがって従来の方法によれば、油入電気機器の寿命を正しく診断できない場合が生じ得る。油入電気機器の状態を正確に分析するためには油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することが求められる。
【0011】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある局面に係る油入電気機器の寿命診断装置は、絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、巻線を収容するタンクと、タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の寿命診断装置である。寿命診断装置は、絶縁油に含まれて、導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するように構成された測定部と、油入電気機器の稼働時間と、測定部によって測定された残存濃度の測定値とに基づいて、原因物質の初期濃度を推定するように構成された濃度推定部と、初期濃度の基準値と、濃度推定部によって推定された初期濃度の推定値とを比較するように構成された比較部とを備える。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。寿命診断装置は、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の寿命を診断するように構成された診断部をさらに備える。
【0013】
本発明の他の局面に係る油入電気機器の劣化抑制装置は、絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、巻線を収容するタンクと、タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の劣化抑制装置である。劣化抑制装置は、絶縁油に含まれて、導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するように構成された測定部と、油入電気機器の稼働時間と、測定部によって測定された残存濃度の測定値とに基づいて、原因物質の初期濃度を推定するように構成された濃度推定部と、初期濃度の基準値と、濃度推定部によって推定された初期濃度の推定値とを比較するように構成された比較部とを備える。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。劣化抑制装置は、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するように構成された情報生成部をさらに備える。
【0014】
本発明のさらに他の局面に係る油入電気機器の寿命診断方法は、絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、巻線を収容するタンクと、タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の寿命診断方法である。寿命診断方法は、絶縁油に含まれて、導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するステップと、油入電気機器の稼働時間と、残存濃度の測定値とに基づいて、原因物質の初期濃度を推定するステップと、初期濃度の基準値と、初期濃度の推定値とを比較するステップとを備える。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。寿命診断方法は、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の寿命を診断するステップをさらに備える。
【0015】
本発明のさらに他の局面に係る油入電気機器の劣化抑制方法は、絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、巻線を収容するタンクと、タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の劣化抑制方法である。劣化抑制方法は、絶縁油に含まれて、導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するステップと、油入電気機器の稼働時間と、残存濃度の測定値とに基づいて、原因物質の初期濃度を推定するステップと、初期濃度の基準値と、初期濃度の推定値とを比較するステップとを備える。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が導電性化合物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。劣化抑制方法は、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するステップをさらに備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1による油入電気機器の寿命診断装置の構成図である。
【図2】図1に示した油入電気機器の構成例を示す断面図である。
【図3】コイルを構成する複数の巻線層のうちの1つを示した平面図である。
【図4】図3に示した巻線層のIV−IV線に沿った断面を示した断面図である。
【図5】油入電気機器内部における硫化銅の生成メカニズムを説明するための模式図である。
【図6】マップに基づく油入電気機器の寿命診断を説明するための図である。
【図7】図1に示した演算部の構成を示した機能ブロック図である。
【図8】実施の形態1による油入電気機器の寿命診断方法を説明するためのフローチャートである。
【図9】ヒートラン試験により求められる、変圧器中の絶縁油の温度とコイル巻線の温度とを模式的に示した図である。
【図10】運転負荷率とコイル温度との関係を模式的に示した図である。
【図11】環境温度とコイル温度との関係を模式的に示した図である。
【図12】コイル温度とDBDS濃度の減少速度との間の関係を模式的に示した図である。
【図13】本発明の実施の形態2による油入電気機器の劣化抑制装置の構成図である。
【図14】図13に示した演算部の構成を示した機能ブロック図である。
【図15】実施の形態2による油入電気機器の劣化抑制方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1による油入電気機器の寿命診断装置の構成図である。図1を参照して、診断装置101は、配管2と、タンク3と、採油装置4と、前処理装置5と、濃度測定器6と、演算部8と、表示装置9とを備える。
【0020】
図2は、図1に示した油入電気機器の構成例を示す断面図である。図2を参照して、油入電気機器1はたとえば変圧器であり、タンク50と、鉄心51,52と、コイル53と、冷却器54と、絶縁油55とを備える。
【0021】
鉄心51,52と、コイル53とはタンク50に収納される。コイル53は、鉄心51,52に囲まれている。タンク50の内部は絶縁油55で満たされている。したがってコイル53は絶縁油55に浸されている。
【0022】
絶縁油55はポンプ56によって油入電気機器1内を循環する。図2中の矢印によって示されるように、絶縁油55は、タンク50から出て、冷却器54により冷却される。冷却された絶縁油55はタンク50に戻る。絶縁油55は、たとえば鉱油、合成油などである。
【0023】
コイル53は、一方向に積層された複数の巻線層によって構成される。図3は、コイルを構成する複数の巻線層のうちの1つを示した平面図である。図4は、図3に示した巻線層のIV−IV線に沿った断面を示した断面図である。
【0024】
図3および図4を参照して、巻線層53Pは、紙巻導体53Lによって構成される。紙巻導体53Lは、同一平面内で螺旋状に巻かれている。紙巻導体53Lは、銅を含む導体53Mと、導体53Mを被覆する絶縁紙53Nとを有する。絶縁紙53Nはセルロース分子を含む。
【0025】
図1に戻り、タンク3は配管2によって油入電気機器1に接続される。油入電気機器1内から絶縁油55が採取される際には、油入電気機器1内の絶縁油の一部が配管2を通り、タンク3に流入する。採油装置4は、たとえばポンプであり、タンク3内の絶縁油を採取する。タンク3の絶縁油は濃度測定器6による成分分析に用いられる。前処理装置5は、タンク3内の絶縁油が濃度測定器6に送られる前に、絶縁油の前処理を行なう。
【0026】
濃度測定器6は、導電性化合物の原因物質の残存濃度を測定する。原因物質は巻線層の導体と反応することにより導電性化合物を生成する物質である。原因物質が導体と反応することによって原因物質の濃度は次第に減少する。したがって濃度測定器6により原因物質の残存濃度が測定される。
【0027】
本実施の形態では、濃度測定器6による濃度測定の対象となる原因物質は硫黄化合物であり、より具体的には、ジベンジルジスルフィド(Di-benzyl-di-sulfide;DBDS)である。濃度測定器6は、たとえばガスクロマトグラフ/質量分析器(GC/MS)であり、絶縁油から抽出されたDBDSの濃度を測定する。
【0028】
演算部8は、たとえばコンピュータにより構成されるとともに、その内部に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて演算処理を実行する。具体的には、演算部8は、濃度測定器6からDBDS残存濃度の測定値を受ける。演算部8は、DBDS残存濃度の測定値、油入電気機器1の稼働時間、および油入電気機器1の運転温度などに基づいて、油入電気機器1の寿命を診断する。具体的には演算部8は油入電気機器1の余寿命を推定するとともに、その推定値を出力する。
【0029】
表示装置9は、演算部8の診断結果、すなわち油入電気機器1の余寿命の推定値を図示しない画面に表示する。これにより診断装置101による診断結果を把握することが可能になる。
【0030】
図5は、油入電気機器内部における硫化銅の生成メカニズムを説明するための模式図である。図5を参照して、硫化銅の生成反応は2段階に分けられる。第1段階では、銅とDBDSとの化学反応によって銅−DBDS錯体が生成される。この錯体は、絶縁油中に拡散するとともに、その一部が絶縁紙に吸着する。
【0031】
第2段階では、上記錯体が熱エネルギーによって分解されることにより、絶縁紙に硫化銅が析出する。硫化銅は導電性の物質であるので、硫化銅が析出された箇所を起点に導電路が形成される。この結果、隣り合うコイルターン間が短絡して絶縁破壊が生じる。
【0032】
絶縁油中のDBDSは、コイルの導体に含まれる銅との反応によって消費される。DBDS濃度は油入電気機器の稼働年数に伴い低下する。したがって硫化銅生成による絶縁破壊のリスクを診断するためには、DBDSの初期濃度を推定することが必要となる。初期濃度とは、油入電気機器の稼働開始時の濃度である。
【0033】
本実施の形態では、演算部8は、濃度測定器6によって測定された残存濃度に基づいてDBDSの初期濃度を推定する。演算部8は、その推定値をDBDS濃度の基準値と比較する。この基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が硫化物の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。演算部8は、基準値と推定値との比較結果に基づいて油入電気機器の寿命を診断する。演算部8の診断結果は上記の主要因を反映する。したがって本実施の形態によれば油入電気機器の寿命を正確に診断できる。
【0034】
具体的には、演算部8は、以下に説明されるマップを用いて油入電気機器の寿命を診断する。図6は、マップに基づく油入電気機器の寿命診断を説明するための図である。
【0035】
図6を参照して、マップ11は、所定の運転温度におけるDBDS初期濃度と油入電気機器の寿命年数との間の相関関係を定義する。グラフの横軸はDBDS初期濃度を示し、グラフの縦軸は稼働年数を表わす。
【0036】
時間Tcは、上記の運転温度において絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する稼働時間を表す。絶縁紙の機械的強度は、絶縁紙の劣化にともなって低下する。絶縁紙(セルロース分子)の平均重合度は絶縁紙の機械的強度と相関を有する。絶縁紙の平均重合度の設計限界値は、絶縁紙の機械的強度がその設計限界値に達したときの値に対応する。
【0037】
絶縁紙の平均重合度はDBDS初期濃度に依存せずに、絶縁油の温度と油入電気機器の稼働年数とにのみ依存する。したがって時間Tcは、たとえば特許文献1に開示された数式を用いて予め定めることができる。絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する稼働時間と、DBDS初期濃度との関係は、グラフ上では横軸に平行な直線(破線12)として表現される。
【0038】
一方、硫化銅の生成速度は、原因物質(DBDS)の初期濃度に依存する。曲線13は、DBDS初期濃度と、絶縁紙の絶縁破壊をもたらす量の硫化銅が生成される時間との関係を示す。DBDSの初期濃度が高いほど、絶縁紙の絶縁破壊をもたらす量の硫化銅が生成される時間は短い。すなわち、DBDSの初期濃度が高いほど、油入電気機器1の寿命時間が短い。
【0039】
Xcは、破線12と曲線13との交点14に対応するDBDSの初期濃度であり、上記の「基準値」に対応する。すなわちXcは、硫化銅の析出によって絶縁破壊が生じるまでの稼働時間が、絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する稼働時間と等しくなる場合における、DBDSの初期濃度である。
【0040】
この実施の形態では、DBDS初期濃度がXcより大きいか否かによって寿命診断方法が異なる。初期濃度がXcよりも低い値Xsである場合には、絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する時間が、絶縁紙の絶縁破壊をもたらす量の硫化銅が生成される時間よりも短い。したがって初期濃度が基準値よりも小さい場合には、絶縁紙の平均重合度の低下が油入電気機器の寿命の主要因となる。演算部8は、油入電気機器の時間Tcと稼働時間との差tsが油入電気機器の余寿命であると推定する。
【0041】
一方、初期濃度がXcよりも大きい値Xlである場合、絶縁紙の絶縁破壊をもたらす量の硫化銅が生成される時間(Ta)は、絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する時間(Tc)よりも短い。したがって初期濃度が基準値よりも大きい場合には、硫化銅の生成が油入電気機器の寿命の主要因となる。この場合には、油入電気機器の寿命は硫化銅の生成速度に依存するので、従来の寿命診断方法、すなわち絶縁紙の平均重合度に基づく寿命診断方法では機器の寿命を正しく診断できない。演算部8は、油入電気機器の余寿命は時間Taと稼働時間との差tlであると推定する。
【0042】
図6に示されるように、マップ11は、油入電気機器の寿命時間が絶縁紙の平均重合度およびDBDS初期濃度のいずれか一方に依存するように、油入電気機器の寿命時間を定義する。具体的には、寿命時間を支配するパラメータは、DBDS初期濃度と基準値(Xc)との間の大小関係に従って定められる。DBDS初期濃度が基準値より小さい場合には、絶縁紙の平均重合度が寿命時間を支配する。一方、DBDS初期濃度が基準値より大きい場合には、DBDS初期濃度が寿命時間を支配する。すなわち、絶縁紙の平均重合度が設計限界値以下になる稼働時間と、硫化銅の生成によって絶縁破壊に至る稼働時間とのいずれか短いほうが油入電気機器の寿命と定義される。
【0043】
運転温度が異なる場合には、絶縁紙の平均重合度が設計限界値に達する時間、および硫化銅の生成速度に依存する寿命時間が異なりうる。したがって、運転温度に対応して、図6に示したマップ11と同様のマップを準備することもできる。
【0044】
次に、図6に示したマップに従って油入電気機器の寿命を診断する演算部の構成について説明する。図7は、図1に示した演算部の構成を示した機能ブロック図である。
【0045】
図7を参照して、演算部8は、初期濃度推定部24と、マップ記憶部26と、比較部27と、診断部28とを含む。
【0046】
初期濃度推定部24は、濃度測定器6によって測定されたDBDS残存濃度に基づいてDBDS初期濃度を推定するとともに、その推定値を診断部28に出力する。マップ記憶部26は、マップ11(図6参照)を記憶する。なお、油入電気機器の運転温度(たとえば絶縁油の温度)に応じて複数のマップが予め準備される場合、マップ記憶部26は、それら複数のマップを記憶する。
【0047】
比較部27は、初期濃度推定部24からDBDS初期濃度の推定値を受けるとともに、マップ記憶部26からDBDS初期濃度の基準値Xcを受ける。比較部27は、推定値および基準値を比較するとともに、その比較結果を出力する。
【0048】
診断部28は、上述の方法に従って、油入電気機器1の寿命を診断する。具体的には、診断部28は、比較部27の比較結果、DBDS初期濃度の推定値、油入電気機器の稼働時間および運転温度、ならびにマップ記憶部26に記憶されたマップ11に基づいて、油入電気機器1の寿命を診断する。DBDS初期濃度が基準値よりも大きいことを比較部27の比較結果が示す場合、診断部28は、DBDS初期濃度に基づく寿命時間(図6中の時間Ta)から稼働時間を減算することにより、油入電気機器の余寿命を算出する。一方、DBDS初期濃度が基準値よりも小さいことを比較部27の比較結果が示す場合、診断部28は、絶縁紙の平均重合度に基づく寿命時間(図6中の時間Tc)から稼働時間を減算することにより、油入電気機器の余寿命を算出する。
【0049】
診断部28は、算出された余寿命を表示装置9に出力する。表示装置9は、その余寿命を表示する。
【0050】
図8は、実施の形態1による油入電気機器の寿命診断方法を説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、たとえば油入電気機器の点検時に実行される。
【0051】
図8を参照して、ステップS1において、濃度測定器6は、タンク3内の絶縁油を成分分析することによってDBDSの残存濃度を測定する。ステップS2において、演算部8はDBDSの残存濃度に基づいて、DBDSの初期濃度を推定する。初期濃度の推定方法については後に詳細に説明する。
【0052】
ステップS3において、演算部8は、その初期濃度と基準値Xcとを比較する。ステップS4において、DBDS初期濃度が基準値Xcより大きいか否かが判定される。初期濃度がXcより大きいと判定された場合(ステップS4においてYES)、処理はステップS5に進む。一方、初期濃度がXcより小さいと判定された場合(ステップS4においてNO)、処理はステップS6に進む。
【0053】
ステップS5において、演算部8は、硫化銅の生成速度に基づく寿命時間(図6中のTaに相当)および油入電気機器1の稼働時間から余寿命を算出する。一方、ステップS6において、演算部8は、絶縁紙の平均重合度に基づく寿命時間(図6中のTcに相当)および油入電気機器の稼働時間から余寿命を算出する。ステップS5およびS6の処理は、油入電気機器1の寿命を診断するための処理である。ステップS5またはS6の処理が終了すると、全体の処理が終了する。
【0054】
この実施の形態によれば、推定された余寿命に基づいて、変圧器の寿命診断を実行できる。たとえば変圧器の更新(取替え)などの対策を提示することができる。
【0055】
<DBDSの初期濃度の推定方法>
DBDSの初期濃度は、DBDS残存濃度に、DBDS濃度の減少量を加えることによって推定できる。絶縁油中のDBDSの減少量を推定する方法としては、各種の方法を適用できる。たとえば等価温度と硫化銅の生成量との関係から硫化銅の生成量を推定することができる(非特許文献2:加藤福太郎、網本剛、永尾栄一、細川登、外山悟、谷村純二、”高感度硫黄分析を活用した変圧器における硫化銅外部診断技術の開発”、第29回 絶縁油分科会研究発表会、pp.34-39、2009年)。
【0056】
本実施の形態では、DBDS濃度の減少量は、平均減少速度と稼働時間との積によって算出される。本実施の形態で用いられる「平均減少速度」は、コイルの等価温度におけるDBDS濃度の減少速度である。平均減少速度は、たとえば以下の工程1〜3によって予め求められる。
【0057】
(工程1)変圧器の試験データから、変圧器の運転負荷率および環境温度と、変圧器内のコイル温度との関係を把握する工程
(工程2)変圧器の運転負荷率および環境温度の情報と、工程1で得られた関係から、変圧器内のコイルの等価温度を算出する工程
(工程3)コイルの等価温度における平均減少速度を算出する工程
工程1では、たとえば変圧器のヒートラン試験が実行される。ヒートラン試験は、巻線および鉄芯を冷却する特性を把握するために定められた負荷条件下での温度上昇を測定する試験である。例えば、JEC(Japanese Electrotechnical Committee)−2200に基づく短絡接続による等価負荷法に従ってヒートラン試験が実行される。この試験では、変圧器の底部および上部の油温度が測定される。コイル巻線の温度は、測定されたコイル巻線の抵抗値から算出される。
【0058】
図9は、ヒートラン試験により求められる、変圧器中の絶縁油の温度とコイル巻線の温度とを模式的に示した図である。図9を参照して、通電電流によるコイル巻線の発熱により、油温度はコイル下部で最も低く、上部で最も高くなる。
【0059】
この方法に基づいて、一定の環境温度下において、ある運転負荷率で変圧器を運転した場合の変圧器の底部と上部とにおける絶縁油の温度が測定される。図10に示されるように、絶縁油の温度の測定値から、運転負荷率をパラメータとした場合の変圧器の各部(たとえば底部および上部)のコイル温度が得られる。図10は、運転負荷率とコイル温度との関係を模式的に示している。運転負荷率は、たとえば40%、60%、80%、100%であるが、これらの値に限定されない。
【0060】
また、ある環境温度下において、一定の運転負荷率で変圧器を運転した場合の変圧器の底部と上部とにおける絶縁油の温度が測定される。図11に示されるように、絶縁油の温度の測定値から、環境温度をパラメータとした場合の変圧器の各部(たとえば底部および上部)のコイル温度が得られる。図11は、環境温度とコイル温度との関係を模式的に示している。環境温度は、たとえば5℃、20℃、35℃であるが、これらの値に限定されない。
【0061】
上記の方法によって、変圧器の運転負荷率および環境温度と、変圧器内のコイル温度との関係が把握される。
【0062】
工程2では、まず、平均環境温度が決定される。変圧器が設置されている環境での気温は一定ではない。しかしながら日間および年間の気温変動を考慮することによって、変圧器の運転期間全体における平均環境温度を求めることができる。
【0063】
次に、油入電気機器の平均運転負荷率が決定される。平均運転負荷率は、変圧器の運転期間での運転負荷率の平均値である。平均運転負荷率は、たとえば、変圧器の設置場所(たとえば変電所)に記録されたデータに基づいて算出される。
【0064】
続いてコイルの等価温度が決定される。工程1で把握された関係、すなわち変圧器の運転負荷率および環境温度と、変圧器内のコイル温度との間の関係が用いられる。この関係を用いて、平均環境温度および平均運転負荷率における、変圧器内の各部(たとえば底部および上部)のコイル温度が得られる。
【0065】
次に、変圧器内の各部における、コイル温度とDBDS濃度の減少速度との間の関係が把握される。一般に、コイル温度はコイル下部で最も低くなり、コイル上部で最も高くなる。一方、DBDSと銅との反応は温度依存性を有する。温度が高いほど、反応速度が大きくなるとともにDBDS濃度の減少速度が大きくなる。コイル下部では温度が低いため、DBDS濃度の減少速度は小さい。一方、コイル上部では温度が高いためDBDS濃度の減少速度が大きい。
【0066】
硫化銅を生成する化学反応の場合、たとえば温度が10℃高くなると、反応速度が2倍速くなる。この温度依存性に基づき、コイル温度が10℃高くなるとDBDS濃度の減少速度が2倍早くなると推定される。そして、この推定に基づいて、変圧器内の各部(たとえば底部および上部)におけるコイル温度とDBDS濃度の減少速度との関係を示すグラフが作成される。
【0067】
図12は、コイル温度とDBDS濃度の減少速度との間の関係を模式的に示した図である。図12を参照して、領域Aの面積値と領域Bの面積値とが等しくなる温度が、コイルの等価温度として求められる。
【0068】
工程3では、図12に示した関係に基づいて、等価温度におけるDBDS濃度の減少速度が得られる。演算部8(初期濃度推定部24)がこの減少速度を予め記憶することによって、演算部8は、DBDS濃度の減少量を推定可能である。
【0069】
以上のように実施の形態1によれば、DBDS初期濃度が基準値と比較される。基準値は、油入電気機器の寿命の主要因が硫化銅の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められる。したがって実施の形態1によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができる。
【0070】
さらに実施の形態1によれば、絶縁紙の平均重合度に基づいて油入電気機器の寿命を診断する方法と、DBDSの初期濃度に基づいて油入電気機器の寿命を診断する方法とが組み合わされる。DBDSの初期濃度の推定値と基準値との比較によって2つの方法のいずれか一方が選択される。実施の形態1によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができるため、油入電気機器の寿命を正確に診断することができる。
【0071】
[実施の形態2]
実施の形態2では、油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を得ることができる。
【0072】
図13は、本発明の実施の形態2による油入電気機器の劣化抑制装置の構成図である。図13および図1を参照して、劣化抑制装置102は、演算部8に代えて演算部8Aを備える点において診断装置101と異なる。劣化抑制装置102の他の部分の構成は診断装置101の対応する部分の構成と同様であるので以後の説明は繰り返さない。
【0073】
演算部8Aは、濃度測定器6によって測定されたDBDS残存濃度に基づいて、DBDS初期濃度を推定する。さらに演算部8Aは、その推定値を基準値とを比較する。「基準値」は油入電気機器の寿命の主要因が硫化銅の生成および絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値である。具体的には、図6に示されたXcが基準値に用いられる。演算部8Aは、推定値と基準値との比較結果に基づいて、油入電気機器1の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するとともに、その情報を出力する。表示装置9は、演算部8Aから出力された情報を図示しない画面に表示する。表示装置9に表示された情報に基づいて、油入電気機器1の劣化を抑制するための対策を実行することが可能となる。油入電気機器1の劣化を抑制するための対策は、DBDS初期濃度と基準値Xcとの大小関係に基づいて異なる。
【0074】
DBDS初期濃度がXcより小さい場合(図6に示したXs<Xcの場合)、絶縁紙の平均重合度の低下を抑制する対策が選択される。運転温度を低下させることは、絶縁紙の平均重合度の低下を抑制するための有効な対策である。温度を低減するための方法として、たとえば油入電気機器の運転負荷の低減、冷却ファンの増設による冷却能力の増強、冷却ファンの運用方法の変更などが挙げられる。油入電気機器の運転負荷を低減する方法としては、たとえば電力系統に投入された油入電気機器の運転負荷の分担を調節する方法が挙げられる。この方法によれば、たとえば劣化した機器に流れる通電電流を小さくする一方、他の健全な機器に流れる通電電流を大きくする。これにより劣化した機器の運転負荷を低減できる。
【0075】
一方、DBDS初期濃度がXcより大きい場合(図6に示したXl>Xcの場合)、硫化銅生成を抑制する方策が採用される。使用中の油から原因物質であるDBDSを含まない油への交換、使用中の油に対する処理(たとえば硫黄成分の除去)、硫化銅生成を抑制するための抑制剤の絶縁油への添加は、硫化銅生成を抑制するための有効な対策である。
【0076】
抑制剤は、たとえば1,2,3−ベンゾトリアゾール(BTA)および/またはN,N−ビス(2−エチルヘキシル)−(4または5)−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミンを適用できる(たとえば非特許文献3: T. Amimoto, E. Nagao, J. Tanimura, S. Toyama and N. Yamada, “Duration and Mechanism for Suppressive Effect of Triazole-based Passivators on Copper-sulfide Deposition on Insulating Paper”, IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, Vol. 16, No.1, pp.257-264, 2009.)。上記添加剤は、絶縁油中に添加されることによって、銅表面に吸着されるとともに錯体被膜を形成する。この膜が絶縁油中の硫黄成分と銅との化学反応を阻害することにより、硫化銅の生成が抑制される。
【0077】
また、銅−DBDS錯体を不活性化するキレート剤が絶縁油に添加されてもよい。銅−DBDS錯体が不活性化されることによって、絶縁紙への硫化銅の析出が抑制される。キレート剤は、たとえば以下の物質の中から選ばれる;エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテル、アセチルアセトン、アミノトリアゾール、アリザリン−3,1スタビノールC3−42、オキシン、モリン、キナルジン酸、アルミノン、トリエタノールアミン。好ましくは、キレート剤は、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸およびアセチルアセトンからなる群から選ばれる。
【0078】
図14は、図13に示した演算部の構成を示した機能ブロック図である。図13および図7を参照して、演算部8Aは、情報生成部29をさらに備える点において演算部8と異なる。演算部8Aの他の部分の構成は演算部8の対応する部分の構成と同様である。なお、診断部28が省略されていてもよい。
【0079】
情報生成部29は、比較部27の比較結果を受ける。比較部27は、DBDS初期濃度の推定値を基準値と比較する。
【0080】
推定値が基準値よりも小さいことを比較結果が示す場合には、情報生成部29は、絶縁紙の劣化を抑制するための情報を生成する。この情報は、たとえば、運転温度の低下が必要なことを示す情報である。表示装置9は、絶縁紙の劣化を抑制するための情報、たとえば運転温度の低下を示す情報を図示しない画面に表示する。
【0081】
一方、推定値が基準値よりも大きいことを比較結果が示す場合には、情報生成部29は、硫化銅の生成を抑制するための情報を生成する。この情報は、たとえば絶縁油の交換を示す情報である。表示装置9は、硫化銅の生成を抑制するための情報、たとえば絶縁油の交換を示す情報を図示しない画面に表示する。
【0082】
図15は、実施の形態2による油入電気機器の劣化抑制方法を説明するためのフローチャートである。このフローチャートの処理は、たとえば油入電気機器の定期点検時に実行される。
【0083】
図15および図8を参照して、油入電気機器の劣化抑制方法は、ステップS5,S6の処理に代えて、ステップS11,S12の処理を含む点において油入電気機器の寿命診断方法と異なる。図15に示したステップS1〜S4の各々の処理は、図8のフローチャートの対応するステップの処理と同様である。ステップS4においてDBDS初期濃度が基準値Xcより大きいか否かが判定される。初期濃度がXcより大きいと判定された場合(ステップS4においてYES)、処理はステップS11に進む。一方、初期濃度がXcより小さいと判定された場合(ステップS4においてNO)、処理はステップS12に進む。
【0084】
ステップS11において、演算部8Aは、硫化銅の生成の抑制に関する情報を生成する。一方、ステップS12において、演算部8Aは、絶縁紙の平均重合度に基づく寿命時間(図6中のTcに相当)および油入電気機器の稼働時間から余寿命を算出する。ステップS11またはS12の処理が終了すると、全体の処理が終了する。
【0085】
劣化抑制対策はできるだけ早い時期に実行されることが好ましい。その一方、油入電気器は電力系統に投入されているので、当該機器を直ちに停止した場合には停電が生じる。このため、劣化抑制のための対策は、機器が停止される定期点検時に実行されることが好ましい。
【0086】
実施の形態2では、実施の形態1と同様に、DBDS初期濃度が基準値と比較される。したがって実施の形態2によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができる。
【0087】
さらに実施の形態2によれば、油入電気機器の寿命の主要因を適切に判断することができるため、油入電気機器の劣化を抑制するための適切な対策に関する情報を生成することができる。その情報に従った対策が実行されることによって油入電気機器の劣化を効果的に抑制することができる。油入電気機器の劣化が抑制されることによって、油入電気機器の寿命を長くすることが可能となる。
【0088】
上記の実施の形態1,2では、絶縁紙の劣化に関連するパラメータとして絶縁紙の平均重合度が用いられる。しかしながら上記パラメータは、絶縁紙の平均重合度に限定されるものではない。たとえば、絶縁紙の劣化に伴って生成される物質の濃度あるいは量を、絶縁紙の劣化に関連するパラメータに用いることができる。そのパラメータの設計限界値は、絶縁紙の機械的強度の設計限界値に対応する値に定められる。そのパラメータが設計限界値に達するまでの油入電気機器の稼働時間が、油入電気機器の寿命時間、すなわち図6に示した時間Tcに対応する。この場合にも、上記の実施の形態での方法と同様の方法によって、油入電気機器の寿命診断および劣化抑制の対策を実行できる。
【0089】
また、演算部は上記説明に従う構成を有するものと限定されない。たとえば複数のブロックが統合されてもよい。あるいは、図7および図13に示した複数の機能ブロックのうちの一部が演算部の外部に配置されてもよい。
【0090】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1 油入電気機器、2 配管、3,50 タンク、6 濃度測定器、8,8A 演算部、9 表示装置、11 マップ、12 破線、13 曲線、14 交点、22 稼働時間測定部、24 初期濃度推定部、26 マップ記憶部、27 比較部、28 診断部、29 情報生成部、51,52 鉄心、53 コイル、53L 紙巻導体、53M 導体、53N 絶縁紙、53P 巻線層、54 冷却器、55 絶縁油、56 ポンプ、101 診断装置、102 劣化抑制装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、前記巻線を収容するタンクと、前記タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の寿命診断装置であって、
前記絶縁油に含まれて、前記導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するように構成された測定部と、
前記油入電気機器の稼働時間と、前記測定部によって測定された前記残存濃度の測定値とに基づいて、前記原因物質の初期濃度を推定するように構成された濃度推定部と、
前記初期濃度の基準値と、前記濃度推定部によって推定された前記初期濃度の推定値とを比較するように構成された比較部とを備え、
前記基準値は、前記油入電気機器の寿命の主要因が前記導電性化合物の生成および前記絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められ、
前記推定値と前記基準値との比較結果に基づいて、前記油入電気機器の寿命を診断するように構成された診断部をさらに備える、油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項2】
前記油入電気機器の寿命時間を、前記絶縁紙の劣化に関するパラメータおよび前記初期濃度によって定義するマップを予め記憶するように構成された記憶部をさらに備え、
前記寿命時間は、前記初期濃度と前記基準値との間の大小関係に基づいて、前記パラメータおよび前記初期濃度のいずれか一方に依存するように定義され、
前記診断部は、前記比較結果と前記マップとに基づいて、前記油入電気機器の前記寿命を診断する、請求項1に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項3】
前記初期濃度が前記基準値よりも小さい場合には、前記寿命時間は、前記パラメータに依存するように定義され、
前記初期濃度が前記基準値よりも大きい場合には、前記寿命時間は、前記初期濃度に依存するように定義され、
前記診断部は、前記推定値が前記基準値より小さいことを前記比較結果が示す場合には、前記パラメータに基づく前記寿命時間と前記稼働時間との差分を生成する一方、前記推定値が前記基準値より大きいことを前記比較結果が示す場合には、前記初期濃度に基づく前記寿命時間と、前記稼働時間との差分を生成する、請求項2に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項4】
前記初期濃度が前記基準値よりも大きい場合における前記寿命時間と前記初期濃度との間の関係は、前記導電性化合物によって前記巻線の絶縁破壊が生じるまでの前記稼働時間と前記初期濃度との間の関係に対応する、請求項3に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項5】
前記パラメータは、前記絶縁紙の平均重合度である、請求項2に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項6】
前記初期濃度が前記基準値よりも小さい場合における前記寿命時間は、前記絶縁紙の前記平均重合度が、予め定められた限界値に達するまでの前記稼働時間に対応する、請求項5に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項7】
前記導体は、銅を含み、
前記導電性化合物は、硫化銅である、請求項1から6のいずれか1項に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項8】
前記原因物質は、硫黄化合物である、請求項7に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項9】
前記硫黄化合物は、ジベンジルジスルフィドである、請求項8に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項10】
絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、前記巻線を収容するタンクと、前記タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の劣化抑制装置であって、
前記絶縁油に含まれて、前記導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するように構成された測定部と、
前記油入電気機器の稼働時間と、前記測定部によって測定された前記残存濃度の測定値とに基づいて、前記原因物質の初期濃度を推定するように構成された濃度推定部と、
前記初期濃度の基準値と、前記濃度推定部によって推定された前記初期濃度の推定値とを比較するように構成された比較部とを備え、
前記基準値は、前記油入電気機器の寿命の主要因が前記導電性化合物の生成および前記絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められ、
前記推定値と前記基準値との比較結果に基づいて、前記油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するように構成された情報生成部をさらに備える、油入電気機器の劣化抑制装置。
【請求項11】
前記情報生成部は、前記推定値が前記基準値よりも大きい場合に、前記導電性化合物の生成を抑制するための情報を生成する一方で、前記推定値が前記基準値よりも小さい場合に、前記絶縁紙の劣化を抑制するための情報を生成する、請求項10に記載の油入電気機器の劣化抑制装置。
【請求項12】
絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、前記巻線を収容するタンクと、前記タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の寿命診断方法であって、
前記絶縁油に含まれて、前記導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するステップと、
前記油入電気機器の稼働時間と、前記残存濃度の測定値とに基づいて、前記原因物質の初期濃度を推定するステップと、
前記初期濃度の基準値と、前記初期濃度の推定値とを比較するステップとを備え、
前記基準値は、前記油入電気機器の寿命の主要因が前記導電性化合物の生成および前記絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められ、
前記推定値と前記基準値との比較結果に基づいて、前記油入電気機器の寿命を診断するステップをさらに備える、油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項13】
前記油入電気機器の寿命時間を、前記絶縁紙の劣化に関するパラメータおよび前記初期濃度によって定義するマップを予め準備するステップをさらに備え、
前記寿命時間は、前記初期濃度と前記基準値との間の大小関係に基づいて、前記パラメータおよび前記初期濃度のいずれか一方に依存するように定義され、
前記診断するステップは、前記比較結果と前記マップとに基づいて、前記油入電気機器の前記寿命を診断する、請求項12に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項14】
前記初期濃度が前記基準値よりも小さい場合には、前記寿命時間は、前記パラメータに依存するように定義され、
前記初期濃度が前記基準値よりも大きい場合には、前記寿命時間は、前記初期濃度に依存するように定義され、
前記診断するステップは、
前記推定値が前記基準値より小さいことを前記比較結果が示す場合には、前記パラメータに基づく前記寿命時間と前記稼働時間との差分を生成するステップと、
前記推定値が前記基準値より大きいことを前記比較結果が示す場合には、前記初期濃度に基づく前記寿命時間と、前記稼働時間との差分を生成するステップとを含む、請求項13に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項15】
前記初期濃度が前記基準値よりも大きい場合における前記寿命時間と前記初期濃度との間の関係は、前記導電性化合物によって前記巻線の絶縁破壊が生じるまでの前記稼働時間と前記初期濃度との間の関係に対応する、請求項14に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項16】
前記パラメータは、前記絶縁紙の平均重合度である、請求項13に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項17】
前記初期濃度が前記基準値よりも小さい場合における前記寿命時間は、前記絶縁紙の前記平均重合度が、予め定められた限界値に達するまでの前記稼働時間に対応する、請求項16に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項18】
前記導体は、銅を含み、
前記導電性化合物は、硫化銅である、請求項12から17のいずれか1項に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項19】
前記原因物質は、硫黄化合物である、請求項18に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項20】
前記硫黄化合物は、ジベンジルジスルフィドである、請求項19に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項21】
絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、前記巻線を収容するタンクと、前記タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の劣化抑制方法であって、
前記絶縁油に含まれて、前記導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するステップと、
前記油入電気機器の稼働時間と、前記残存濃度の測定値とに基づいて、前記原因物質の初期濃度を推定するステップと、
前記初期濃度の基準値と、前記初期濃度の推定値とを比較するステップとを備え、
前記基準値は、前記油入電気機器の寿命の主要因が前記導電性化合物の生成および前記絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められ、
前記推定値と前記基準値との比較結果に基づいて、前記油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するステップをさらに備える、油入電気機器の劣化抑制方法。
【請求項22】
前記生成するステップは、
前記推定値が前記基準値よりも大きい場合に、前記導電性化合物の生成を抑制するための情報を生成するステップと、
前記推定値が前記基準値よりも小さい場合に、前記絶縁紙の劣化を抑制するための情報を生成するステップとを含む、請求項21に記載の油入電気機器の劣化抑制方法。
【請求項1】
絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、前記巻線を収容するタンクと、前記タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の寿命診断装置であって、
前記絶縁油に含まれて、前記導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するように構成された測定部と、
前記油入電気機器の稼働時間と、前記測定部によって測定された前記残存濃度の測定値とに基づいて、前記原因物質の初期濃度を推定するように構成された濃度推定部と、
前記初期濃度の基準値と、前記濃度推定部によって推定された前記初期濃度の推定値とを比較するように構成された比較部とを備え、
前記基準値は、前記油入電気機器の寿命の主要因が前記導電性化合物の生成および前記絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められ、
前記推定値と前記基準値との比較結果に基づいて、前記油入電気機器の寿命を診断するように構成された診断部をさらに備える、油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項2】
前記油入電気機器の寿命時間を、前記絶縁紙の劣化に関するパラメータおよび前記初期濃度によって定義するマップを予め記憶するように構成された記憶部をさらに備え、
前記寿命時間は、前記初期濃度と前記基準値との間の大小関係に基づいて、前記パラメータおよび前記初期濃度のいずれか一方に依存するように定義され、
前記診断部は、前記比較結果と前記マップとに基づいて、前記油入電気機器の前記寿命を診断する、請求項1に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項3】
前記初期濃度が前記基準値よりも小さい場合には、前記寿命時間は、前記パラメータに依存するように定義され、
前記初期濃度が前記基準値よりも大きい場合には、前記寿命時間は、前記初期濃度に依存するように定義され、
前記診断部は、前記推定値が前記基準値より小さいことを前記比較結果が示す場合には、前記パラメータに基づく前記寿命時間と前記稼働時間との差分を生成する一方、前記推定値が前記基準値より大きいことを前記比較結果が示す場合には、前記初期濃度に基づく前記寿命時間と、前記稼働時間との差分を生成する、請求項2に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項4】
前記初期濃度が前記基準値よりも大きい場合における前記寿命時間と前記初期濃度との間の関係は、前記導電性化合物によって前記巻線の絶縁破壊が生じるまでの前記稼働時間と前記初期濃度との間の関係に対応する、請求項3に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項5】
前記パラメータは、前記絶縁紙の平均重合度である、請求項2に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項6】
前記初期濃度が前記基準値よりも小さい場合における前記寿命時間は、前記絶縁紙の前記平均重合度が、予め定められた限界値に達するまでの前記稼働時間に対応する、請求項5に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項7】
前記導体は、銅を含み、
前記導電性化合物は、硫化銅である、請求項1から6のいずれか1項に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項8】
前記原因物質は、硫黄化合物である、請求項7に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項9】
前記硫黄化合物は、ジベンジルジスルフィドである、請求項8に記載の油入電気機器の寿命診断装置。
【請求項10】
絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、前記巻線を収容するタンクと、前記タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の劣化抑制装置であって、
前記絶縁油に含まれて、前記導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するように構成された測定部と、
前記油入電気機器の稼働時間と、前記測定部によって測定された前記残存濃度の測定値とに基づいて、前記原因物質の初期濃度を推定するように構成された濃度推定部と、
前記初期濃度の基準値と、前記濃度推定部によって推定された前記初期濃度の推定値とを比較するように構成された比較部とを備え、
前記基準値は、前記油入電気機器の寿命の主要因が前記導電性化合物の生成および前記絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められ、
前記推定値と前記基準値との比較結果に基づいて、前記油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するように構成された情報生成部をさらに備える、油入電気機器の劣化抑制装置。
【請求項11】
前記情報生成部は、前記推定値が前記基準値よりも大きい場合に、前記導電性化合物の生成を抑制するための情報を生成する一方で、前記推定値が前記基準値よりも小さい場合に、前記絶縁紙の劣化を抑制するための情報を生成する、請求項10に記載の油入電気機器の劣化抑制装置。
【請求項12】
絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、前記巻線を収容するタンクと、前記タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の寿命診断方法であって、
前記絶縁油に含まれて、前記導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するステップと、
前記油入電気機器の稼働時間と、前記残存濃度の測定値とに基づいて、前記原因物質の初期濃度を推定するステップと、
前記初期濃度の基準値と、前記初期濃度の推定値とを比較するステップとを備え、
前記基準値は、前記油入電気機器の寿命の主要因が前記導電性化合物の生成および前記絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められ、
前記推定値と前記基準値との比較結果に基づいて、前記油入電気機器の寿命を診断するステップをさらに備える、油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項13】
前記油入電気機器の寿命時間を、前記絶縁紙の劣化に関するパラメータおよび前記初期濃度によって定義するマップを予め準備するステップをさらに備え、
前記寿命時間は、前記初期濃度と前記基準値との間の大小関係に基づいて、前記パラメータおよび前記初期濃度のいずれか一方に依存するように定義され、
前記診断するステップは、前記比較結果と前記マップとに基づいて、前記油入電気機器の前記寿命を診断する、請求項12に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項14】
前記初期濃度が前記基準値よりも小さい場合には、前記寿命時間は、前記パラメータに依存するように定義され、
前記初期濃度が前記基準値よりも大きい場合には、前記寿命時間は、前記初期濃度に依存するように定義され、
前記診断するステップは、
前記推定値が前記基準値より小さいことを前記比較結果が示す場合には、前記パラメータに基づく前記寿命時間と前記稼働時間との差分を生成するステップと、
前記推定値が前記基準値より大きいことを前記比較結果が示す場合には、前記初期濃度に基づく前記寿命時間と、前記稼働時間との差分を生成するステップとを含む、請求項13に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項15】
前記初期濃度が前記基準値よりも大きい場合における前記寿命時間と前記初期濃度との間の関係は、前記導電性化合物によって前記巻線の絶縁破壊が生じるまでの前記稼働時間と前記初期濃度との間の関係に対応する、請求項14に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項16】
前記パラメータは、前記絶縁紙の平均重合度である、請求項13に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項17】
前記初期濃度が前記基準値よりも小さい場合における前記寿命時間は、前記絶縁紙の前記平均重合度が、予め定められた限界値に達するまでの前記稼働時間に対応する、請求項16に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項18】
前記導体は、銅を含み、
前記導電性化合物は、硫化銅である、請求項12から17のいずれか1項に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項19】
前記原因物質は、硫黄化合物である、請求項18に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項20】
前記硫黄化合物は、ジベンジルジスルフィドである、請求項19に記載の油入電気機器の寿命診断方法。
【請求項21】
絶縁紙で被覆された導体を含む巻線と、前記巻線を収容するタンクと、前記タンクに満たされた絶縁油とを含む油入電気機器の劣化抑制方法であって、
前記絶縁油に含まれて、前記導体との反応により導電性化合物を生成する原因物質の残存濃度を測定するステップと、
前記油入電気機器の稼働時間と、前記残存濃度の測定値とに基づいて、前記原因物質の初期濃度を推定するステップと、
前記初期濃度の基準値と、前記初期濃度の推定値とを比較するステップとを備え、
前記基準値は、前記油入電気機器の寿命の主要因が前記導電性化合物の生成および前記絶縁紙の劣化のいずれであるかを判別するための値として定められ、
前記推定値と前記基準値との比較結果に基づいて、前記油入電気機器の劣化を抑制するための対策に関する情報を生成するステップをさらに備える、油入電気機器の劣化抑制方法。
【請求項22】
前記生成するステップは、
前記推定値が前記基準値よりも大きい場合に、前記導電性化合物の生成を抑制するための情報を生成するステップと、
前記推定値が前記基準値よりも小さい場合に、前記絶縁紙の劣化を抑制するための情報を生成するステップとを含む、請求項21に記載の油入電気機器の劣化抑制方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−171413(P2011−171413A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32081(P2010−32081)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
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