説明

油加熱米菓様食品の油風味劣化抑制方法

【課題】米粒を米の粘着性又は結合剤の結着力で結合させたペレットを、油加熱により乾燥を行う米菓様食品の保存方法において、保存性の高い特殊な油を用いずに、保存劣化の初期段階で発生する異臭を抑制する。
【解決手段】米粒を米の粘着性又は結合剤の結着力で結合させたペレットを、油加熱により乾燥させる米菓様食品の保存方法において、真空凍結乾燥を行ったネギと該米菓様食品を通気性の少ない包材で同封する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粒を米の粘着性又は結合剤の結着力で結合させたペレットを、油加熱により乾燥させる米菓様食品の保存方法において、保存性の高い特殊な油を用いなくとも、油の風味劣化を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から食品を保存する方法として、冷凍、冷蔵、乾燥、塩蔵、砂糖漬などの技術が用いられている。これらの食品保存技術の主たる目的は細菌の増殖を抑制して食品の腐敗を起さないことであり、食品素材の特性により適宜、保存技術が選択されてきたが、常温で長期間食品を保存する方法の代表例としては乾燥が挙げられる。乾燥技術としては、自然乾燥、熱風乾燥、焼成乾燥、さらに油揚げ加熱乾燥などの種々の方法が知られているが、油揚げ加熱に関しては、120℃以上の高温で加熱することで食品の水分を数%レベルまで減少させ、すぐれた保存性を発揮する反面、食品が吸収した油に伴う風味劣化が保存中に起こるという欠点がある。
【0003】
油揚げ食品の保存劣化に伴い発生する現象としては、初期段階として異臭の発生により食品の風味劣化が起り、次に、油の分解、酸化現象の進行により、有害物質が発生して食品としては適していない状態へとなる。特に油の分解、酸化に関しては、有害物質の発生により人体の健康を損なう可能性があることから、その進行度を示す値である酸価、過酸化物価について食品衛生法により基準が設けられている。この為、油の分解、酸化を抑制する方法として、油に酸化防止剤を添加する方法、油に水素添加を行う方法、保存性の高い部分のみを使用する方法など多様な手法が研究され、種々の油が開発されてきた。これらの油は具体的には、通常物理精製を行ったパーム油に水素添加を行い、脂肪酸組成中のリノール酸を減少させて融点を42〜45℃程度まで引き上げ、酸化安定性を向上させたものや、パーム油を分別したパームオレインと呼ばれる液体油に水素添加してパーム油より酸化安定性を向上させたもの、また、パーム油にエステル交換処理を行い、融点を高めた油などである(非特許文献1、非特許文献2)。これらの特殊な油は酸価、過酸化物価の増加を抑制するだけでなく、油揚げ食品の保存劣化の初期段階で発生する異臭に関しても抑制効果がある。
【0004】
しかしながら、油に酸化防止剤を添加する方法では、フライ油は高温で保持されるために酸化防止剤が分解され、定量的に油揚げ食品に含有されることが難しい、及び、酸化防止剤の添加量が多すぎると逆に油の酸化促進に働くなどの問題がある(非特許文献3)。
また、油に水素添加を行った場合は、人体に悪影響を与えると言われているトランス脂肪酸を産生する問題がある。さらに、保存性の高い部分のみを使用する方法では、コスト的に高価なものとなりフライ油としては適していない、などの欠点があった。
【0005】
このような欠点を解決する方法として、例えば、食品素材側に酸化防止剤を練り込む方法が広く用いられている。この方法は、粉等の原料を混合、圧延を経てシートから麺状に成形、油揚げ加熱を行う製造工程を持つ油揚げ麺において、粉の混合段階で親油性酸化防止剤を含有させる事で実施可能である。この場合、食品素材側に酸化防止剤が含有されているので、油加熱に使用するフライ油は特殊な処理を施したものを使用する必要がない。また、食品素材側に含有されていることからフライ油への溶出は少なく、酸化防止剤が多すぎることによるフライ油の酸化促進もない。したがって、油加熱前の食品素材に親油性酸化防止剤を含有させることが可能な場合は、非常に有効である。
【0006】
一方、米粒を米の粘着性又は結合剤の結着力で結合させたペレットに対して油加熱により乾燥を行う米菓様食品の場合、油加熱前の食品素材に酸化防止剤を含有させることは、次の点から困難である。
(1) 親油性酸化防止剤を混合すると、米粒同士の結着性を阻害する。
(2) 親油性酸化防止剤を造形剤及び乳化剤により親水性粉末としたものが知られてい
るが、造形剤の量が多く、配合面で充分な添加量を含有させることが出来ない。
(3) 親水性酸化防止剤は、油と混ざり合わず、油の風味劣化に関しては効果を発揮しない。
【0007】
【非特許文献1】フライ食品の理論と実際:幸書房 1976年2月20日初版
【非特許文献2】パーム油・パーム核油の利用:幸書房 1990年7月31日初版
【非特許文献3】日本油化学会誌 第32巻 第9号 475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、米粒を米の粘着性又は結合剤の結着力で結合させたペレットを、油加熱により乾燥を行う米菓様食品の保存方法において、保存性の高い特殊な油を用いなくとも、保存劣化の初期段階で発生する異臭の抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、米粒を米の粘着性又は結合剤の結着力で結合させたペレットを、油加熱により乾燥させる米菓様食品の保存方法において、真空凍結乾燥を行ったネギと該米菓様食品を通気性の少ない包材で同封することで保存劣化の初期段階で発生する異臭を抑制出来ることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。すなわち、油自体に特殊な加工を加えることなく、且つ食品添加物である酸化防止剤を油加熱前のペレットに含浸させることなく、食品素材であるネギの真空凍結乾燥品を油加熱米菓様食品と同封するという簡易な方法で油の初期段階の異臭発生を抑制することに成功したのである。
【0010】
1つの実施形態では、油加熱米菓様食品に対して、真空凍結乾燥を行ったネギを0.5重量%以上同封する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において使用される用語は特に言及しない限り当該分野で通常使用される意味で用いられることが理解されるべきである。
【0012】
本発明でいう油加熱米菓様食品は、一例として次のように製造される。
【0013】
米粒とは玄米、精白米両方を意味する。この米粒を水、又は食塩水、又は醤油、又はガラエキスなどの調味料を希釈した水溶液などに浸漬して膨潤させる。浸漬の時間、温度は任意に決められるが、精白米に対しては膨潤率が1.3倍以上となるように浸漬するのが好ましい。浸漬後の米粒はザルで水切り後、そのまま又はでん粉などの結合剤と混合後、任意の厚みでシート状に敷き詰められるか、又は容器に詰められて蒸される。蒸された米粒は別の容器に移されるか、又はそのまま乾燥される。米粒はこれらの工程を経ることで、蒸し工程での米粒の膨化力と乾燥時の熱収縮力、さらに米粒から溶出するでん粉の粘着力、又は結合剤の結合力により結着してペレットとなる。仮に、浸漬後の米粒に親油性酸化防止剤を混合した場合、蒸し工程での米粒の膨化力、及び乾燥時の熱収縮力、及び米粒から溶出するでん粉の粘着力、及び結合剤の結合力、これらが阻害されるために米粒同士が結着したペレットを得ることは出来ない。このペレットの水分値は、最終的に得られる油加熱米菓様食品の食感、硬さにより適宜調整出来るが、約5重量%〜約20重量%の水分値とするのが好ましい。水分値が約5重量%以下であると、油加熱した後でも食感が硬くなり過ぎる。約20重量%以上であると、水分が完全に除去出来ず保存性が悪くなる。
【0014】
こうして得られたペレットは、約160℃〜約230℃で油加熱されて乾燥される。油加熱される時間は、ペレットの大きさと水分値から適宜決められるが、油加熱後に得られる米菓様食品の水分値が5重量%以下となることが好ましく、4重量%以下となることが更に好ましく、3重量%以下になることが最も好ましい。また、油加熱されて乾燥された米菓様食品は、通常、約15重量%〜約30重量%の油を吸収して含有する。
【0015】
油加熱に使用する油は、大豆油、ナタネ油、綿実油、パーム核油、パーム油、オリーブ油、米油、牛脂、ラードなどを単品又は混合して用いる。これらには、酸化安定性を悪化させない程度の親油性酸化防止剤が添加されることがある。
【0016】
本発明でいうネギは、葉ネギ類、根深ネギ類、小ネギ類を含む。
【0017】
油加熱米菓様食品と同封されるネギは真空凍結乾燥されている。真空凍結乾燥方法は当業者においては公知の技術である。真空凍結乾燥技術は、一般に、被対象物を−20℃以下程度で凍結させ、真空乾燥する技術である。真空乾燥を行ったネギの形状は、タンザク状、ぶつ切り状、微塵切り状、粉末状のいずれでも良く、また水分値は5重量%以下となることが好ましく、4重量%以下となることが更に好ましく、3重量%以下になることが最も好ましい。
【0018】
真空凍結乾燥されたネギの油加熱米菓様食品に対しての同封量は、好ましくは0.5重量%以上であり、最も好ましくは1.0重量%以上である。同封量が0.5重量%以下の場合には保存劣化の初期段階で発生する異臭の抑制が充分に出来ない場合が有り得る。同封量が0.5重量%以上あれば保存劣化の初期段階で発生する異臭の抑制は充分に可能である。
【0019】
油加熱米菓様食品と真空凍結乾燥したネギを包装する包材は、通気性、遮光性がないものが最も適している。使用される包材の通気性の目安としては、好ましくは、酸素透過度:2.0cc以下/m・24hr(20℃、dry)、水蒸気透過度:2.0g以下/m・24hr(40℃、90%)、より好ましくは、酸素透過度:1.5cc以下/m・24hr(20℃、dry)、水蒸気透過度:1.5g以下/m・24hr(40℃、90%)、さらに好ましくは酸素透過度:1.0cc以下/m・24hr(20℃、dry)、水蒸気透過度:1.0g以下/m・24hr(40℃、90%)、最も好ましくは、酸素透過度:0.5cc以下/m・24hr(20℃、dry)、水蒸気透過度:0.5g以下/m・24hr(40℃、90%)である。また、アルミ箔又はアルミ蒸着素材を用いることで遮光することが望ましい。
【0020】
以下に、本発明について、具体的に実施例、及び比較例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0021】
(油加熱米菓様食品の作製)
本発明の油加熱米菓様食品を次の要領で作製した。まず、秋田小町精白米1kgを1.5kgの水に15℃で10時間浸漬して、膨潤率1.4倍の吸水米を得た。この吸水米を2.0g計り取り、15mm×15mmの正方形の容器に入れて、容器ごと95℃30分間の蒸し加熱を行った。蒸し器から取り出した容器の上から、吸水米を軽く押さえた後、60℃の乾燥室で4時間の乾燥を行い、容器から取り外してペレットを得た。ペレットの水分値は8重量%であった。
【0022】
こうして得たペレットをパーム油で180℃1分間の油加熱を行い、水分値2.0重量%まで乾燥させて、油加熱米菓様食品を得た。得られた油加熱米菓様食品は、サクサクとした食感で充分に乾燥されており、また、油の劣化臭もなく、良好な風味であった。
【0023】
(真空凍結乾燥ネギの作製)
本発明の真空凍結乾燥ネギは次の要領で作製した。まず、市販されている青ネギを水洗い後500ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に3分間浸漬して殺菌を行った。次に5mm幅に切った後、脱水を行い、トレーに入れて−40℃で凍結した。凍結した冷凍ネギを、真空凍結乾燥器(DRZ350WB:東洋製作所製)を用いて、水分値2.0重量%まで乾燥させた。こうして得た真空凍結乾燥ネギは使用までアルミ箔包材に入れて保管した。
【0024】
(熱風乾燥ネギの作製)
以下の比較例で用いた熱風乾燥ネギは次の要領で作製した。まず、市販されているネギを水洗い後500ppmの次亜塩素酸ナトリウム液に3分間浸漬して殺菌を行った。次に5mm幅に切った後、脱水を行い、60℃で10時間乾燥させた。こうして得た熱風乾燥ネギは使用までアルミ箔包材に入れて保管した。
【0025】
(実施例に使用した包材)
以下の実施例、比較例に用いる包材は次の構成とした。
アルミ蒸着包材:OPP20/DL/CPPVM25(日本セロンパック製)。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに0.1%重量の真空凍結乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0027】
(実施例2)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに0.5%重量の真空凍結乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0028】
(実施例3)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに1.0%重量の真空凍結乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0029】
(実施例4)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに2.0%重量の真空凍結乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0030】
(実施例5)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに3.0%重量の真空凍結乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0031】
(実施例6)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに4.0%重量の真空凍結乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0032】
(実施例7)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに5.0%重量の真空凍結乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0033】
(比較例1)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに真空凍結乾燥ネギを入れることなく、上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0034】
(比較例2)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに0.1%重量の熱風乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0035】
(比較例3)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに0.5%重量の熱風乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0036】
(比較例4)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに1.0%重量の熱風乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0037】
(比較例5)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに2.0%重量の熱風乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0038】
(比較例6)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに3.0%重量の熱風乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0039】
(比較例7)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに4.0%重量の熱風乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0040】
(比較例8)
油加熱米菓様食品を25g計り取り、これに5.0%重量の熱風乾燥ネギを上記アルミ蒸着包材に同封して、60℃で24時間、48時間、120時間の保管を行った。
【0041】
(評価例)
表1に実施例1〜7、比較例1〜8の評価例を示す。評価結果を次の記号で記した。
○:油の風味劣化を感じない。
△:油の風味劣化は少し感じるが、異臭とは感じない。
×:油の風味劣化を少し感じ、異臭も少し感じる。
××:油の風味劣化を感じ、異臭も感じる。
評価は官能パネル4名で行った。

(表1)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粒を米の粘着性又は結合剤の結着力で結合させたペレットを、油加熱により乾燥させる米菓様食品の保存方法において、真空凍結乾燥を行ったネギと該米菓様食品を通気性の少ない包材で同封することを特徴とした油加熱米菓様食品の油風味劣化抑制方法。
【請求項2】
油加熱米菓様食品に対して、真空凍結乾燥を行ったネギを0.5重量%以上同封する請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2009−44993(P2009−44993A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213399(P2007−213399)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】