説明

油吸着用マット

【課題】ポリプロピレン製不織布からなる油吸着用マットに比べ、浮力及び油吸着量が多い油吸着用マットを提供する。
【解決手段】繊維径が10〜100μm、中空率が10〜50%の中空断面を有するプロピレン系重合体の中空長繊維不織布、好ましくは目付が30〜1000g/m2、厚さが0.3〜15mmの範囲にある油や汚水等の漏洩や流出による海洋、河川、湖沼等の汚染、又は、工場内の油や汚水洩れ等を吸着回収、又は拭き取ることによって処理するのに好適な油吸着用マット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油や汚水等の漏洩や流出による海洋、河川、湖沼等の汚染、又は、工場内の油や汚水洩れ等を吸着回収、又は拭き取ることによって処理するのに好適な油吸着用マットに関する。
【背景技術】
【0002】
海面や水面に流出した油の流出事故防止対策として従来は、オイルフェンスで流出油を囲み、その中にポリプロピレン製不織布等の親油性素材よりなるマット状の油吸着材を投入して油を吸着することにより流出油を回収する方法が多用されている。ポリプロピレン製不織布の浮力を増す方法として、中空繊維よりなるネットの周縁をシール状にする方法、さらには、中空繊維よりなるネットと中空糸を使用した織布又は不織布と積層してなる方法(特開平10−296241号公報:特許文献1)が提案されている。
しかしながら、かかる方法で得られる油吸着用マットは、高粘度油やムース状になった油の吸着には適しているが、粘度が低い油の回収には適していない。また、流出油を吸収した後の不織布が黒色を帯びるため、海面上での判別が難しく回収時の効率が低いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−296241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のポリプロピレン製不織布からなる油吸着用マットに比べ、浮力及び油吸着量が多い油吸着用マットを得ることを目的とし、種々検討した結果、油吸着用マットを形成する長繊維不織布として、中空率が高い中空長繊維とすることにより、本発明の目的を達成し得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、繊維径が10〜100μm、中空率が10〜50%の中空断面を有するプロピレン系重合体の中空長繊維不織布からなる油吸着用マットを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の油吸着用マットは、油吸着性に優れており、しかも、海面や水面に流出した油を吸着した後も浮力を失うことなく、且つ、油を吸着した後も白さを保つことから、油を吸着したマットの回収作業が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明に係るノズル孔形状の模式図である。
【図2】図2は、本発明に係る長繊維不織布の繊維断面の模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施例及び比較例に用いたスパンボンド装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<プロピレン系重合体>
本発明に係る中空長繊維不織布を形成するプロピレン系重合体は、通常、メルトフローレート(MFR)(ASTM D−1238、230℃、荷重2160g)が10〜100g/10分、好ましくは10〜70g/10分の範囲にある。MFRが10g/10分未満のプロピレン系重合体は、溶融粘度が高く紡糸性に劣るので、中空率が高い細繊維を得ることは困難となる虞があり、一方、100g/10分を超えるプロピレン系重合体は、得られる長繊維不織布の引張強度等が劣る虞がある。
【0009】
本発明に係るプロピレン系重合体は、プロピレンの単独重合体及びプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2以上、好ましくは2〜8の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダム共重合体(プロピレン・α―オレフィンランダム共重合体)であり、通常、融点(Tm)が135℃以上、好ましくは135〜165℃の範囲にある。α−オレフィンの共重合量は、得られるプロピレン系重合体の融点(Tm)が上記範囲にある限り特に限定はされないが、通常、10モル%以下、好ましくは6モル%以下である。
【0010】
本発明に係るプロピレン系重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料等の添加剤或いは他の重合体を必要に応じて配合することができる。
【0011】
<中空長繊維不織布>
本発明の油吸着用マットを形成する中空長繊維不織布は、繊維径が10〜100μm、好ましくは20〜50μm、中空率が10〜50%、好ましくは10〜30%の中空断面を有するプロピレン系重合体の中空長繊維から形成される不織布である。繊維径が10μm未満の中空繊維からなる不織布は、成形上中空率10%の確保が困難であり、繊維径が100μmを超える中空繊維からなる不織布は、目的とする油吸着性能が低下及びまたはマットとしての強度低下の虞がある。中空率が10%未満の中空繊維からなる不織布は、使用時の浮力が改善されず、中空率が50%を超える中空繊維からなる不織布は、成形が困難の虞がある。
本発明に係る中空長繊維不織布は、好ましくは目付が30〜1000g/m2、より好ましくは100〜500g/m2、好ましくは厚さが0.3〜15mm、より好ましくは1〜10mmの範囲にある。目付及び厚さを上記範囲にすることにより、吸油性能に優れる油吸着用マットが得られる。
本発明に係る中空長繊維不織布は、通常、ニードルパンチにより中空長繊維が交絡されている。
【0012】
<中空長繊維不織布の製造方法>
本発明の中空長繊維不織布は、前記プロピレン系重合体を用いて公知のスパンボンド不織布の製造方法により製造し得る。
【0013】
<油吸着用マット>
本発明の油吸着用マットは、前記中空長繊維不織布からなる。本発明の油吸着用マットは、ロール状、シート状、リボン状などに限らず、使用形態に応じて、種々の形状を採り得る。
本発明の油吸着用マットは、単一で使用してもよいし、繊維径が10μm未満のプロピレン系重合体の中実繊維あるいは中空繊維からなるメルトブローン不織布と積層して用いてもよい。メルトブローン不織布と積層する場合は、例えば、中空長繊維不織布/メルトブローン不織布、中空長繊維不織布/メルトブローン不織布/中空長繊維不織布、メルトブローン不織布/中空長繊維不織布/メルトブローン不織布、中空長繊維不織布/メルトブローン不織布/中空長繊維不織布/メルトブローン不織布/中空長繊維不織布などの構成を採り得るが、これらに限定されることはない。メルトブローン不織布と積層する場合は、積層体におけるメルトブローン不織布の重量は、油吸着用マットの浮力を損なわないように、通常、70重量%以下、さらには、50重量%未満にしておくことが好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。
【0015】
(1)プロピレン系重合体の融点(Tm)の測定方法
プロピレン系重合体の融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)を用い、以下の方法で実施した。昇温速度;10℃/分で昇温したときの融解吸熱曲線の極値を与える温度より50℃程度高い温度まで昇温して、この温度で10分間保持した後、降温速度;10℃/分で30℃まで冷却し、再度、昇温速度;10℃/分で所定の温度まで昇温したときの融解曲線を測定し、かかる融解曲線から、ASTM D3418の方法に倣い、融解吸熱曲線の極値を与える温度を求め、かかるピーク温度の吸熱ピークを融点(Tm)とした。
【0016】
(2)繊維径[μm]
得られた中空長繊維不織布を光学顕微鏡〔Nikon社製 ECLIPSE E−400〕で観察し、画面上のフィラメントから30本を選びその繊維径を測定し、その平均値を当該不織布の繊維径とした。
【0017】
(3)繊度[d]
中空長繊維不織布の繊度は以下の式を用いて算出した。
繊度[d]=0.00225×π×ρ[g/cm3]×D2[μm]×(1−中空率[%])
ここで、ρ[g/cm3]はプロピレン系重合体の使用温度における溶融密度、Dは繊維径である。
【0018】
(4)中空率[%]
中空長繊維不織布をエポキシ樹脂に包埋して、次いでミクロトームで切断し、試料片を得る。これを電子顕微鏡〔(株)日立製作所製S−3500N形 走査型電子顕微鏡〕で観察し、得られた断面像より観察された繊維断面像のおける繊維全体の断面積と中空部断面積を求め、以下の式より算出した。
中空率[%]=(中空部の断面積/繊維全体の断面積)×100
中空率の値は繊維20本を測定した平均値とした。
【0019】
(5)浮力[N/m2
JIS L1096(6.19.1 A法 項)に準拠して、JIS Z 8703(試験場所の標準状態)に規定する温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、中空長繊維不織布から幅100mm×100mmの試験片を流れ方向(MD)と横方向(CD)でそれぞれ15枚採取する。次いで、浮力試験に使用する重りの重量を空中と1200mm×600mm×450mmの水槽のなかに高さ500mmまで純水を浸した水中にてバネ秤を使用してそれぞれ測定し、以下の式より重りの浮力を算出した。
重りの浮力=(水中での重りの重量)−(空中での重量)
次いで、重りと試験片3枚の重量を空中と水中でそれぞれ測定し、以下の式より重りと試験片の浮力を算出した。
重りと試験片の浮力=(水中での重りと試験片3枚の重量)-(空中での重りと試験片3枚の重量)
重りの浮力と重りと試験片の浮力を使用して、以下の式より単位面積あたりの試験片の浮力を算出した。
浮力[N/m2]=((重りと試験片の浮力)−(重りの浮力))÷(0.1×0.1)
また、浮力は試験片5枚分を測定した平均値とした。
【0020】
(6)吸油後の浮き性
JIS L1096(6.19.1 A法 項)に準拠して、JIS Z 8703(試験場所の標準状態)に規定する温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、中空長繊維不織布から幅100mm×100mmの試験片を流れ方向(MD)と横方向(CD)で試験片を採取する。次いで、1200mm×600mm×450mmの水槽のなかに高さ300mmまで水を浸し、更に500mmまでA重油(比重:0.86)を浸した液中にて、試験片を5分間浸した後の試験片の状態から吸油後の浮き性を評価した。
○:試験片が液の表面付近(高さ500mm)まで浮かんでいた。
△:試験片が高さ400mm付近まで沈んでいた。
×:試験片が高さ300mm付近まで沈んでいた。
【0021】
(7)吸油量[倍]
JIS L1096(6.19.1 A法 項)に準拠して、JIS Z 8703(試験場所の標準状態)に規定する温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、中空長繊維不織布から幅100mm×100mmの試験片を流れ方向(MD)と横方向(CD)で試験片を採取する。この試験片重量W0を量り、B重油に5分間浸漬する。次いで、3分間大気中に保持して付着した重油を滴下させ除去したのち、試験片重量W1を量り、次式より吸水率を算出した。これを試験回数3回繰り返し、その平均値を吸油量とした。
吸油量[倍]=(W1−W0)/W0
【0022】
(8)回収容易性
JIS L1096(6.19.1 A法 項)に準拠して、JIS Z 8703(試験場所の標準状態)に規定する温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、中空長繊維不織布から幅100mm×100mmの試験片を流れ方向(MD)と横方向(CD)で試験片を採取する。次いで、1200mm×600mm×450mmの水槽のなかに高さ500mmまでA重油(比重:0.86)を浸した液中にて、試験片を5分間浸した後の試験片の外観から回収容易性を評価した。
○:試験片が白色であり油と区別が容易。
△:試験片が灰色であり油と区別がやや困難。
×:試験片が黒色であり油と区別が困難。
【0023】
(9)厚み
JIS 1096に準拠し、水処理用濾過材となる中空長繊維不織布の異なる5か所について厚さ測定器を用いて、10秒間、1.25kPaの下で厚さを測りその平均値を求めた。
【0024】
[実施例1]
プロピレン系重合体として荷重2160g、230℃のMFRが9g/10分のプロピレン単独重合体を用い、押出機により成形温度225℃で溶融し、ノズルピッチが縦方向4.5mm、横方向4.0mm、図1に示すような孔形状を有し、図2の繊維断面となる紡糸口金を配置した図3に示すような不織布製造装置(スパンボンド成形機、捕集面上の機械の流れ方向に垂直な方向の長さ:320mm)を用いて、冷却流体に25℃のエアーを用い、スパンボンド法によりポリオレフィンの単孔吐出量を0.6g/分で紡糸し、捕集ベルト上に堆積させ、次いで、これをニードルパンチで機械的交絡処理(針深度10mm、打込み回数150回/min)し、目付量が400g/m2の長繊維不織布を得た。
得られたフィラメントおよび中空長繊維不織布の評価結果を表1に示す。
【0025】
[比較例1]
通常の丸孔形状(Φ1.3mm)を有する紡糸口金を配置した以外は実施例1と同様に行い、目付量400g/m2の長繊維不織布を得た。
得られたフィラメントおよび長繊維不織布の評価結果を表1に示す。
【0026】
[比較例2]
成形温度を245℃にする以外は実施例1と同様に行い、目付量が400g/m2の長繊維不織布を得た。
得られたフィラメントおよび中空長繊維不織布の評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【符号の説明】
【0028】
1;第1の押出機、1’;第2の押出機、2;紡糸口金、3;連続フィラメント、4;冷却風、5;エジェクター、6;捕捉装置、7;吸引装置、8;ウエブ、9;エンボス装置、10;巻取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が10〜100μm、中空率が10〜50%の中空断面を有するプロピレン系重合体の中空長繊維不織布からなる油吸着用マット。
【請求項2】
中空長繊維不織布が、目付が30〜1000g/m2、厚さが0.3〜15mmの範囲にある請求項1記載の油吸着用マット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−179222(P2010−179222A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23823(P2009−23823)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】