説明

油回収装置の運転方法および油回収装置

【課題】回収装置の構成を簡略化するとともに、液体上に浮遊する油の量に応じて回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図った油回収装置の運転方法、油回収装置を提供する。
【解決手段】一定の長さを有する捕捉体5を鉛直方向に上下動させ、捕捉体5が下降したとき、液体の浮遊油を捕捉体に付着させ、捕捉体5が液体面の上方に上昇したとき、付着した浮遊油を捕集体(分離手段)9で離脱させて回収運転を行う油回収装置において、前記捕捉体5の上下動を所定時間停止させながら前記回収運転と回収運転の停止を交互に行うことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面部に浮遊する油を液体と分離して回収する油回収装置の運転方法、油回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下土壌中へ流出、漏洩した原油、重油、軽油等の油は、土壌中の地下水帯を介して拡散し、これらによる汚染が広がる恐れがあり、簡略化された装置で効率的に回収することが望まれている。また、加工機械での使用時に切削液と加工油が用いられるが、これらを例えば床下や地下のタンクに貯留し、加工油を分離回収する必要がある。従来これらの課題の解決手段として下記のものが知られている。
【0003】
汚染物質の除去装置で、帯状吸着体と、走行駆動部と、離脱回収部とを有している。帯状吸着体は、複数のローラ間に無端状に捲回されていて、掘削孔の下端側と地上との間に循環走行するようになっている。走行駆動部は、地上側に設置され、トップローラに軸連結されたモータと、モータの駆動源とを備えている。離脱回収部は、地上側に設置され、挟圧ローラと、回収槽とから構成されている。挟圧ローラは、トップローラの下方に設置され、トップローラとともに循環走行する吸着体を挟圧して、吸着体の吸着マットに吸着保持されている油類を絞ることにより離脱させる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、移動用車輪を備えて床の上を移動可能な台車に、無端ベルトを回転自在な状態で吊り下げ、この台車に無端ベルトを回転させる回転装置と無端ベルトに付着したオイルを無端ベルトから回収する回収装置とを設けるとともに、無端ベルトを使用しない時には無端ベルトを台車上に引き上げて収容するベルト収容装置を設ける。タンク内の液面のレベルはタンク毎に異なる場合があるので、テンションプーリが液面の下に沈むようにアジャストローラの上下位置を調整する。アジャストローラの上下位置は、レベル調整ハンドルを掛ける溝を替えることで調整する。すなわち、これらアジャストローラ、レベル調整ハンドル及び複数の溝により、ベルトが台車から垂れ下がる深さを調整する調整装置が構成されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、回転駆動自在な駆動ローラと、この駆動ローラによって駆動されるベルトを介して駆動ローラに吊下されたウエイトローラと、当該ベルトの下降側軌道においてその掻き取り部がベルトと接触する掻き取り部材とを備え、前記ベルトのウエイトローラ側を第1液体に浸した状態で駆動ローラを回転させて、第1液体表面に浮上している第2液体を前記ベルトに付着させ、さらにこのベルトに付着した第2液体を前記掻き取り部材によって掻き取る如く構成した浮上油の除去装置において、前記ベルトに付着した第2液体を毛細管現象により吸引する吸引体が前記掻き取り部材に設けられている。ベルトに付着した第2液体を毛細管現象により吸引する吸引体が掻き取り部材に設けられているので、その第2液体が低粘度の液体であっても第2液体の表面張力および毛細管現象により吸引されてベルトから分離される。油タンクの側壁に、適宜の補助取付板を介して、取付用ステイをボルト、ナット等の固定部材で固定する。この場合、取付用ステイの長孔を利用して取り付け高さの調節を行い、ウエイトローラ切削油内に没するようにする(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、一定の長さを有する捕捉体を鉛直方向に上下動させる。この捕捉体が下降したときには、液体の浮遊油を捕捉体に付着させる。そして、この捕捉体が液体面の上方に上昇したときには、付着した浮遊油を分離手段で離脱させて回収する(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平10−314714号公報
【特許文献2】特開2004−8964号公報
【特許文献3】登録実用新案第3005712号公報
【特許文献4】特開2006−289314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記した特許文献1、2、3に記載されたものは、無端状のベルト(吸着体)を用い、複数のローラで支持し、循環走行するよう回転駆動されている。従って構造が複雑で、大型となる。また循環走行することによって騒音が大きくなりやすく、無端状のベルトの耐久性、駆動動力が大きくなる課題がある。さらに油が浮遊する液面と無端状のベルトから油を分離、離脱させる手段との距離は、状況によって様々であり、これに対応させることが困難である。すなわち無端状のベルトの長さを変えるために都度交換する必要があり、汎用性、メンテナンス性に課題がある。さらに特許文献2ではアジャストローラの上下位置を調整して、前記した距離を変更するようにし、また特許文献3では、駆動ローラ2を固定する取付用ステイの高さをボルト、ナットで変更するようにしたものであるが、段階的であり、大きく調整することができない。
【0008】
さらに特許文献1、2、3に記載されたものは、浮遊油の溜まり状態によらず、回収運転を連続的に行って液体上に浮遊する油を回収するため、前記装置全体および無端状のベルト、分離、離脱させる手段の耐久性、駆動手段の電力消費による省エネルギー性、浮遊油が減少した状態における回収効率の低下等の課題がある。
【0009】
また、特許文献4に記載されたものは、一定の長さを有する捕捉体を鉛直方向に上下動させる。この捕捉体が下降したときには、液体の浮遊油を捕捉体に付着させる。そして、この捕捉体が液体面の上方に上昇したときには、付着した浮遊油を分離手段で離脱させて回収するものである。これによって、回収装置の構成を簡略化して低騒音、耐久性の向上を図るとともに、油が浮遊する液面の位置等の様々な状況に任意に対応させることができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1、2、3に記載されたものと同様に、浮遊油の溜まり状態によらず回収運転を連続的に行って液体上に浮遊する油を回収するものである。したがって装置全体および捕捉体、分離手段の耐久性、捕捉体を鉛直方向に上下動させる駆動手段の電力消費による省エネルギー性、浮遊油が減少した状態における回収効率の低下等の課題がある。
【0011】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、回収装置の構成を簡略化するとともに、液体上に浮遊する油の量に応じて回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図った油回収装置の運転方法、油回収装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の油回収装置の運転方法は、一定の長さを有する捕捉体を鉛直方向に上下動させ、捕捉体が下降したとき、液体の浮遊油を捕捉体に付着させ、捕捉体が液体面の上方に上昇したとき、付着した浮遊油を分離手段で離脱させて回収運転を行う油回収装置において、前記捕捉体の上下動を所定期間停止させながら前記回収運転と回収運転の停止を交互に行うことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の油回収装置は、一定の長さを有する捕捉体を鉛直方向に上下動させ、捕捉体が下降したとき、液体の浮遊油を捕捉体に付着させ、捕捉体が液体面の上方に上昇したとき、付着した浮遊油を分離手段で離脱させて回収運転を行う油回収装置であって、前記捕捉体の上下動を制御する制御手段を備え、前記制御手段により回収運転と回収運転の停止を交互に行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の油回収装置の運転方法、油回収装置によれば、構成を簡略化するとともに、液体上に浮遊する油の量に応じて回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1の発明は、一定の長さを有する捕捉体を鉛直方向に上下動させ、捕捉体が下降したとき、液体の浮遊油を捕捉体に付着させ、捕捉体が液体面の上方に上昇したとき、付着した浮遊油を分離手段で離脱させて回収運転を行う油回収装置において、前記捕捉体の上下動を所定期間停止させながら前記回収運転と回収運転の停止を交互に行うことを特徴とする油回収装置の運転方法としたものである。
【0016】
これによって、構成を簡略化するとともに、液体上に浮遊する油の量に応じて回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、回収運転時に油の回収量を計測し、油の回収量が所定量以下に減少したとき、回収運転を所定期間停止させることを特徴とする請求項1に記載の油回収装置の運転方法としたものである。
【0018】
これによって、回収運転を行いながら液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0019】
第3の発明は、第2の発明において、回収運転の停止期間中に、所定時間ごとに捕捉体を所定サイクル上下動させて油の回収量を計測し、前記計測値に基づき、回収運転の再開時期を判別することを特徴とする油回収装置の運転方法としたものである。
【0020】
これによって、回収運転の停止期間中の液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転の開始を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0021】
第4の発明は、第1の発明において、回収運転時に油の回収量を計測し、前記油の回収量が所定量以下に減少したとき、上下動サイクル間の間隔を長くして、回収運転の停止期間を調節することを特徴とする油回収装置の運転方法としたものである。
【0022】
これによって、回収運転を行いながら液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0023】
第5の発明は、第1〜第4のいずれかの発明において、油の回収量が所定量以下に減少したとき、油の回収運転を停止し、地上から地下水帯に達するように掘削した井戸内の地下水を揚水し、前記井戸内への油の移動を促進させることを特徴とする油回収装置の運転方法としたものである。
【0024】
これによって、地下水帯に存在する油の掘削した井戸内への移動を促進し、汚染区域内の油の回収をより短時間に行うことができる。
【0025】
第6の発明は、一定の長さを有する捕捉体を鉛直方向に上下動させ、捕捉体が下降したとき、液体の浮遊油を捕捉体に付着させ、捕捉体が液体面の上方に上昇したとき、付着した浮遊油を分離手段で離脱させて回収運転を行う油回収装置であって、前記捕捉体の上下動を制御する制御手段を備え、前記制御手段により回収運転と回収運転の停止を交互に行うことを特徴とする油回収装置としたものである。
【0026】
これによって、構成を簡略化するとともに、液体上に浮遊する油の量に応じて回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0027】
第7の発明は、第6の発明において、回収運転時に油の回収量を計測する回収油量計測手段を備え、前記回収油量計測手段により計測した油の回収量が所定量以下に減少したとき、制御手段により回収運転を所定期間停止させることを特徴とする油回収装置としたものである。
【0028】
これによって、回収運転を行いながら液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0029】
第8の発明は、第7の発明において、回収運転の停止期間中に、所定時間ごとに捕捉体を所定サイクル上下動させたときの油の回収量を回収油量計測手段により計測し、前記計測手段により計測した計測値に基づき、制御手段により回収運転の再開時期を判別することを特徴とする油回収装置としたものである。
【0030】
これによって、回収運転の停止期間中の液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転の開始を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0031】
第9の発明は、第6の発明において、回収運転時に油の回収量を計測する回収油量計測手段を備え、前記回収油量計測手段により計測した油の回収量が所定量以下に減少したとき、制御手段により上下動サイクル間の間隔を長くして、回収運転の停止期間を調節することを特徴とする油回収装置としたものである。
【0032】
これによって、回収運転を行いながら液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0033】
第10の発明は、第6〜第9のいずれかの発明において、地上から地下水帯に達するように掘削した通路内の地下水を揚水する揚水手段を備え、回収油量計測手段により計測した油の回収量が所定量以下のとき、油の回収運転を停止し、前記通路内の地下水を揚水手段により揚水し、前記地下水帯から通路内への油の移動を促進させることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の油回収装置。
【0034】
これによって、地下水帯に存在する油の掘削した通路内への移動を促進し、汚染区域内の油の回収をより短時間に行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の一実施例について図1〜図8を参照しながら説明する。図1は油回収装置の一部側断面図、図2は捕捉手段と分離手段部の斜視図、図3は捕捉手段と分離手段部の他の構成を示す斜視図、図4、5、6は捕捉手段の他の構成図である。図7は油回収運転と油回収量の基本的な関係を示すグラフ、図8は他の油回収装置の一部側断面図である。
【0036】
図1、図2において、筺体1の内部に固定板2を有し、固定板2上には巻取部3aを有する回転体3を設け、回転体3はギアードモータ(駆動手段)4によって正逆に回転駆動されるものである。回転体3に対向して、回転体3の回転数または回転角度を検出する近接センサ、磁気センサ、光センサ等を用いた検出手段3bを設け、前記検出手段3bとギアードモータ(駆動手段)4、回収油量計測手段20を接続した制御手段4aを設けている。制御手段4aにより回転体3の正逆の回転駆動制御を行う。巻取部3aに捕捉体である屈曲性を有するワイヤー5の一端が連設され、他端部には錘6が装着されている。前記回転体3、ギアードモータ(駆動手段)4で上下動手段を構成しているものである。なお前記駆動手段であるギアードモータ4は、ステッピングモータであってもよい。
【0037】
筒状体7の内側に通路8を構成し、この通路8に捕捉体であるワイヤー5が挿入されている。またワイヤー5を挟持し、ワイヤー5に付着した油を離脱させる分離手段である捕集体9を固定板2に固定している。捕集体9の通過孔9aがワイヤー5の全周にある程度圧接して接触するようにゴム等の弾性を有する材料で構成されている。また捕集体9の通過孔9aにワイヤー5を挿入しやすいようにするため、切れ目9bを形成させてある。捕集体9の下方には、捕集体9で離脱させた落下する油を受けて案内筒11に導く固定板2に固定したガイド10を設けている。案内筒11から回収容器12に油を回収する。
【0038】
筺体1の下部の地下土壌13、地下水帯14を掘削してこの掘削穴に筒状体15を挿入し、通路16を構成させている。なお地下水帯14に位置する筒状体15の下部は地下水、浮遊油が十分入り込み、また通過できるように多数の孔、スリット(図示なし)が形成されている。筒状体7の内側に通路8と筒状体15の内側の通路16は同軸状になるように設置されているものである。
【0039】
また、図3は前記捕捉体であるワイヤー5を複数本で構成した例を示し、図4は多数の球体17をワイヤー5に通して捕捉体を構成したものである。図5はワイヤー5に植毛等の手段により線状付着体18を付加させたもので、図6は一定の巾を有するシート19で捕捉体を構成したものである。なお、前記回収油量計測手段20は、回収容器12質量を常時計測し、回収した油量の累積質量変化を計測する秤量装置を用いるが、回収した油量の容積を計測する手段または回収容器12内の油面のレベルを計測する手段であってもよい。
【0040】
次に本実施例における油の回収運転の基本的な動作を説明する。駆動手段であるギアードモータ4を駆動し回転体3を回転させて、回転体3の巻取部3aに巻き取られている捕捉体であるワイヤー5を、通路8、通路16に錘6を下端として地下水帯14に到達するよう鉛直方向に吊り下げる。この際ワイヤー5は、油分離手段である捕集体9通過孔9aを基準として通路8、通路16のほぼ中央部に位置させている。通路8、通路16の内径は例えば約50ミリメートルでよい。
【0041】
錘6が地下水帯14の下部に到達した位置を制御手段4aで記憶し、設置条件として設定する。次に回転体3を回転させて巻取部3aにワイヤー5を巻取り、上方に移動させる。このときワイヤー5が地下水帯14の液面に浮遊している油に順次接触して、ワイヤー5の表面に浮遊油が付着する。
【0042】
さらに浮遊油が付着したワイヤー5の下端が油を離脱させる油分離手段である捕集体9を通過したとき回転体3の回転方向を逆にしてワイヤー5を下方に移動させ、錘6が地下水帯14の下部に到達した位置で再び回転体3の回転方向を逆にしてワイヤー5を上方に移動させ、一定の長さを有する捕捉体であるワイヤー5を一定の周期で鉛直方向に上下動させるものである。
【0043】
前記したサイクルによって、ワイヤー5に付着した浮遊油は、分離手段である捕集体9の通過孔9a部分でワイヤー5から分離し落下する。これを傾斜したガイド10で受けて案内筒11に流動させ、回収容器12に油を回収する。このように一定の長さを有する捕捉体であるワイヤー5を鉛直方向に上下動させ、ワイヤー5が下降したとき、液体の浮遊油をワイヤー5に付着させ、ワイヤー5が地下水である液体面の上方に上昇したとき、付着した浮上油を分離手段である捕集体9で離脱させて回収するものである。
【0044】
従来技術においては、油を付着させる無端状のベルトを複数のローラで支持し、循環走行するよう回転駆動されている。したがって構造が複雑で大型となり、コスト高となる。また循環走行することによって騒音が大きく、ベルトの耐久性、必要な駆動動力が大きくなる等の点でも課題がある。これに対して、本発明の実施例においては、捕捉体であるワイヤー5を鉛直方向に上下動させるので、回収装置の構成を簡略化させるとともに、低騒音化、耐久性の向上を図ることができる。
【0045】
また、捕捉体であるワイヤー5を回転体3に巻装し、前記回転体3の駆動手段であるギアードモータ4を正逆回転に制御することによって、前記ワイヤー5を簡単な手段で精度よく上下動させさせることができ、さらに回転体3の回転速度を変えることでワイヤー5の上下動の周期を調節することもできる。なお捕捉体であるワイヤー5の上下動は、1分間に例えば5〜10回させるものである。
【0046】
さらに、油の浮遊する液面と油を分離、離脱させる分離手段との距離は、状況によって様々であり、これに対応させるため従来は、ベルトの交換、または機構的な手段による上下距離の調節を行っていたが、都度メンテナンスが必要で、上下距離の調節巾も大きく取れない。これに対して本実施形態によれば、回転体の駆動手段の正逆の回転方向への回転数または回転角度を制御することによって、捕捉体であるワイヤー5の上下動させる移動距離を簡単に設定することができ、地上から地下水帯14部までの距離差、すなわち油の浮遊する液面と油を分離、離脱させる分離手段である捕集体9との距離の差の状況に簡単に対応せるこができる。
【0047】
また、地上から地下水帯に達するように掘削して通路を形成し、前記通路内で捕捉体であるワイヤー5を鉛直方向に上下動させ、地下水の浮遊油を回収することによって、回収装置を簡略化させるとともに、低騒音化、耐久性の向上を図ることができる。特に、騒音を著しく低下させ、さらに回転体3の大きな駆動動力を必要とせず、耐久性にも優れていることで、昼夜運転しても騒音公害を引き起こさず、また省エネルギー化を図ることができる。
【0048】
また、従来液中に無端ベルトを常時挿入し、かつ無端ベルトの下端部に回転ローラを設ける必要があり、これによって前記ローラの挿入、他への接触防止のために通路のサイズを大きくする必要がある。したがって地中の掘削に大きな動力、設備および手間を要する課題がある。これに対して本実施例によれば、捕捉体であるワイヤー5の下端部には回転ローラを設ける必要がない。これによって通路16の径を小さくでき地中の掘削に大きな動力、設備を必要とせず作業を簡単に行うことができる。
【0049】
また、図1、2に示した前記捕捉体を、図3に示したワイヤー5を複数本で構成したもの、図4に示した多数の球体17をワイヤー5に通して構成したもの、図5に示したワイヤー5に植毛等の手段により線状付着体18を付加させたもので構成してもよく、この場合には通路8、通路16の径を大きくすることなく、浮遊油をより多く付着させて回収効率を向上させることがでる。
【0050】
図6に示した前記捕捉体は、一定の巾を有するシート19で捕捉体を構成したもので、特に地下水帯14まで細長上の穴、比較的大きな井戸を掘削可能な場合に用いることによって、浮遊油をより多く付着させて回収効率を向上させることがでる。前記したシート19は、屈曲性を有する板、繊維で編組したもの等で構成すればよい。
【0051】
従来技術においては、無端状のベルトを複数のローラで支持し、循環走行するよう回転駆動されているため、ローラに接触しない側のベルトの片面に油を付着させる必要がある。これに対して本発明の実施例においては、捕捉体である一定の巾を有するシート19の両面に浮遊油を付着させ、付着した浮遊油を分離手段である捕集体9で離脱させて回収するものであり、従来技術に比べ回収効率を著しく向上させることがでる。またワイヤー5、シート19の捕捉体は、屈曲性を有し下端部に錘を設けたことによって、常に鉛直方向を維持して安定した上下動をさせることができる。
【0052】
また、前記したように従来技術においては、油を付着させる無端状のベルトを複数のローラで支持し、循環走行するよう回転駆動されている。したがって構造が複雑で大型となり、コスト高となる。また循環走行することによって騒音が大きく、ベルトの耐久性、必要な駆動動力の点でも課題がある。これに対して、本発明の実施例においては、捕捉体であるシート19を鉛直方向に上下動させ、分離手段である捕集体9で浮遊油を離脱させて回収するものであり、回収装置を簡略化させ、低騒音化、耐久性の向上を図ることができる。
【0053】
なお、屈曲性を有する捕捉体であるワイヤー5、シート19の下端部が地下水帯、通路(井戸)、容器等の区画領域の底部に接触した後も、さらにワイヤー5、シート19を一定距離下降させてから上昇させるようにしてもよく、これによってワイヤー5、シート19の油の付着する長さを増加させてより効率的な回収を図ることができる。
【0054】
また、本実施例おいては、駆動手段であるギアードモータ4、回転体3、回転体3の巻取部3aから捕捉体の上下動手段としたが、捕捉体を複数の回転体(図示なし)で挟持し、前記少なくとも一つの回転体の駆動手段を正逆回転に制御して前記捕捉体を上下動させるとともに、回転体の駆動手段の正逆の回転数または回転角度を制御して捕捉体を上下動させる移動距離を設定する構成やその他の手段であってもよい。また、付着した油の分離手段として、捕集体9の通過孔9aからなる構成としたが、ポンプ等による吸引手段、高速気流による油の離脱手段等を用いてもよく、本実施形態に限定されるものではない。
【0055】
本実施例の基本的な構成および動作は、前記した通りであるが、次に前記回収油量計測手段20を用いて回収した油量を計測し、この計測値に基づいた油回収装置の運転方法を説明する。図7は、地下水帯14まで通路16を掘削して液体上の浮遊油を回収する例における油回収運転と油回収量の基本的な関係を示すグラフで、横軸は時間経過、縦軸は回収油量計測手段20を用いて回収した累積油量の変化を示す。
【0056】
一定の長さを有する捕捉体であるワイヤー5を一定の周期で鉛直方向に上下動させて液体上の浮遊油を回収する初期の回収運転期間Aにおける状態を説明する。地下水帯14まで掘削した通路16内の液体上に存在する浮遊油の初期における量が多いことから、回収運転開始時においては、単位時間当たりの油の回収量も多いが、時間経過とともに通路16内の液体上に存在する浮遊油の量の減少にともない、油の回収量も減少していく傾向となる。そして、回収運転を所定時間継続すると、単位時間当たりの油の回収量がごく微量となり、この状態において回収運転を継続したとしても回収効果を発揮できない。
【0057】
そこで、回収油量計測手段20により計測した油の回収量が所定量以下に減少したとき、制御手段によりギアードモータ(駆動手段)4の駆動を停止し、図7の回収運転停止期間Aで示すように回収運転を所定時間停止させる。回収運転停止期間Aに、地下水帯における地下水の移動によって掘削した通路16内の液体上に存在する浮遊油の量が次第に増加する。
【0058】
所定期間回収運転を停止させた後、制御手段によりギアードモータ4の駆動を開始し、図7の回収運転期間Bで示すように回収運転を再開し所定時間継続させる。回収運転期間Bにおいても、前記回収運転期間Aにおける油の回収量の変化と同様の傾向となる。
【0059】
回収運転期間Bにおいても回収油量計測手段20により計測した油の回収量が所定量以下に減少したとき、制御手段によりギアードモータ4の駆動を停止し、図7の回収運転停止期間Bで示すように回収運転を所定時間停止させる。
【0060】
以降、回収運転と回収運転の停止を交互に行い、油汚染域における油の回収を継続する。油汚染域における油の回収は、所定の回収運転停止期間を設けても油の回収量が所定量以下に減少したこと確認して終了する。
【0061】
前記回収運転と回収運転の停止の繰り返し回数、回収運転および回収運転停止の期間は、油汚染域における回収すべき油の量、地下水帯における掘削した通路16内への地下水の移動速度、重油等の油の浸透速度等によって異なるが最適条件に設定すればよい。
【0062】
なお、回収運転時における油の回収量は、液体上に存在する浮遊油の量が比較的多いとき、例えば最大で1分間当たり0.1リットルの回収能力を有するものである。また連続回収運転時の平均的な油の回収量は、例えば1時間当たり7ミリリットル程度となる。
【0063】
前記したように、特許文献1、2、3、4に記載されたものは、浮遊油の溜まり状態によらず回収運転を連続的に行って液体上に浮遊する油を回収するものである。したがって装置全体および捕捉体、分離手段の耐久性、捕捉体の駆動手段の電力消費による省エネルギー性、浮遊油が減少した状態における回収効率の低下等の課題があった。
【0064】
これに対して、本発明の油回収装置の運転方法および油回収装置は、一定の長さを有するワイヤー5を鉛直方向に上下動させ、ワイヤー5が下降したとき、液体の浮遊油を捕捉体に付着させ、ワイヤー5が液体面の上方に上昇したとき、付着した浮遊油を捕集体(分離手段)9で離脱させて回収する回収運転を行う。さらにワイヤー5の上下動を制御する制御手段4aを備え、前記制御手段4aにより、ワイヤー5を上下動させる回収運転と、ワイヤー5を上下動させない回収運転の停止を交互に行うものである。
【0065】
したがって、油回収装置の構成を簡略化するとともに、液体上に浮遊する油の量に応じて回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。さらに回収運転の停止期間を設けることによって、ワイヤー5および捕集体(分離手段)9の磨耗劣化等に対する耐久性を向上させることができる。
【0066】
また、回収運転時に油の回収量を計測する回収油量計測手段20を備え、前記回収油量計測手段20により計測した油の回収量が所定量以下に減少したとき、制御手段4aにより回収運転を所定期間停止させることによって、回収運転を行いながら液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0067】
また、回収運転時に油の回収量を計測する回収油量計測手段20を備え、前記回収油量計測手段20により計測した油の回収量が所定量以下に減少したとき、制御手段4aにより上下動サイクル間の間隔を長くして、回収運転の停止期間を調節することもできる。
【0068】
これによって、回収運転を行いながら液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0069】
また、回収運転の停止期間中に、所定時間ごとにワイヤー5を所定サイクル上下動させ、そのときの油の回収量を回収油量計測手段20で計測し、前記回収油量計測手段20により計測した計測値に基づき、制御手段4aにより回収運転の再開時期を判別することもできる。
【0070】
これによって、回収運転の停止期間中の液体上に浮遊する油の量を容易に把握し、回収運転の開始を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【0071】
さらに、地上から地下水帯に達するように掘削した通路16内の地下水を揚水する揚水手段(図示なし)を備え、回収油量計測手段20により計測した油の回収量が所定量以下のとき、油の回収運転を停止し、前記通路16内の地下水を揚水手段により揚水し、前記地下水帯から通路16内への油の移動を促進させることもできる。
【0072】
これによって、地下水帯に存在する油の掘削した通路16内への移動を促進し、汚染区域内の油の回収をより短時間に行うことができる。
【0073】
次に、本発明の他の油回収装置を、図8を参照しながら説明する。図8は油回収装置の一部側断面図である。図1〜7と同一番号は同一箇所を示し、説明を省略する。異なるところは、例えば工作機械での切削加工時に用いられる切削油と潤滑油を容器21に貯留して区画し、水溶性である切削油上に分離浮遊する潤滑油を回収するものである。
【0074】
特に切削油と潤滑油を貯留する容器21内の液面の変動時、また容器21を床下や地下に設ける等の設置状況においても、潤滑油が浮遊する液面の位置等の様々な状況に任意に対応させることができ、また回収装置の構成を簡略化して低騒音、耐久性の向上を図ることができる。さらに前記した油回収装置の運転方法を実施することができ、同様の効果が得られるものである。
【0075】
以上のように、本発明の油回収装置の運転方法、油回収装置によれば、構成を簡略化するとともに、液体上に浮遊する油の量に応じて回収運転を効果的に行って回収効率の向上および省エネルギー化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
液体上に分離して浮遊する付着性物質を回収する分野への用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施例の油回収装置の一部側断面図
【図2】本発明の一実施例の油回収装置の捕捉手段と分離手段部の斜視図
【図3】捕捉手段と分離手段部の他の構成を示す斜視図
【図4】捕捉手段の他の構成図
【図5】捕捉手段の他の構成図
【図6】捕捉手段の他の構成図
【図7】油回収運転と油回収量の基本的な関係を示すグラフ
【図8】本発明の他の油回収装置の一部側断面図
【符号の説明】
【0078】
1 筺体
2 固定板
3 回転体
3a 巻取部
3b 検出手段
4 ギアードモータ(駆動手段)
4a 制御手段
5 ワイヤー(捕捉体)
6 錘
7 筒状体
8 通路
9 捕集体(分離手段)
9a 通過孔
10 ガイド
11 案内筒
12 回収容器
13 地下土壌
14 地下水帯
15 筒状体
16 通路
17 球体
18 線状付着体(捕捉体)
19 シート(捕捉体)
20 回収油量計測手段
21 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の長さを有する捕捉体を鉛直方向に上下動させ、捕捉体が下降したとき、液体の浮遊油を捕捉体に付着させ、捕捉体が液体面の上方に上昇したとき、付着した浮遊油を分離手段で離脱させて回収運転を行う油回収装置において、前記捕捉体の上下動を所定期間停止させながら前記回収運転と回収運転の停止を交互に行うことを特徴とする油回収装置の運転方法。
【請求項2】
回収運転時に油の回収量を計測し、油の回収量が所定量以下に減少したとき、回収運転を所定期間停止させることを特徴とする請求項1に記載の油回収装置の運転方法。
【請求項3】
回収運転の停止期間中に、所定時間ごとに捕捉体を所定サイクル上下動させて油の回収量を計測し、前記計測値に基づき、回収運転の再開時期を判別することを特徴とする請求項2に記載の油回収装置の運転方法。
【請求項4】
回収運転時に油の回収量を計測し、前記油の回収量が所定量以下に減少したとき、上下動サイクル間の間隔を長くして、回収運転の停止期間を調節することを特徴とする請求項1に記載の油回収装置の運転方法。
【請求項5】
油の回収量が所定量以下に減少したとき、油の回収運転を停止し、地上から地下水帯に達するように掘削した井戸内の地下水を揚水し、前記井戸内への油の移動を促進させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の油回収装置の運転方法。
【請求項6】
一定の長さを有する捕捉体を鉛直方向に上下動させ、捕捉体が下降したとき、液体の浮遊油を捕捉体に付着させ、捕捉体が液体面の上方に上昇したとき、付着した浮遊油を分離手段で離脱させて回収運転を行う油回収装置であって、前記捕捉体の上下動を制御する制御手段を備え、前記制御手段により回収運転と回収運転の停止を交互に行うことを特徴とする油回収装置。
【請求項7】
回収運転時に油の回収量を計測する回収油量計測手段を備え、前記計測手段により計測した油の回収量が所定量以下に減少したとき、制御手段により回収運転を所定期間停止させることを特徴とする請求項6に記載の油回収装置。
【請求項8】
回収運転の停止期間中に、所定時間ごとに捕捉体を所定サイクル上下動させたときの油の回収量を回収油量計測手段により計測し、前記計測手段により計測した計測値に基づき、制御手段により回収運転の再開時期を判別することを特徴とする請求項7に記載の油回収装置。
【請求項9】
回収運転時に油の回収量を計測する回収油量計測手段を備え、前記計測手段により計測した油の回収量が所定量以下に減少したとき、制御手段により上下動サイクル間の間隔を長くして、回収運転の停止期間を調節することを特徴とする請求項6に記載の油回収装置。
【請求項10】
地上から地下水帯に達するように掘削した通路内の地下水を揚水する揚水手段を備え、回収油量計測手段により計測した油の回収量が所定量以下のとき、油の回収運転を停止し、前記通路内の地下水を揚水手段により揚水し、前記地下水帯から通路内への油の移動を促進させることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の油回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−136829(P2009−136829A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318154(P2007−318154)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】