説明

油圧作業機械の制御装置

【課題】油圧モータの回転速度のハンチングを抑制し、油圧作業機械の燃費の悪化を抑制し、吊荷の速度変化後やウインチドラム始動後により早く安定した制御をする。
【解決手段】制御装置1は、油圧モータ出口管路27に設けられ油圧モータ20出口の圧力が設定圧P1になるように制御する内部パイロット式カウンタバランス弁40と、内部パイロット式カウンタバランス弁40を制御する弁制御手段50などを備える。弁制御手段50には、モータ入口目標圧Pmi’が設定される。弁制御手段50は、モーメントリミッタ10により推定された吊荷24の負荷に基づいて吊荷24巻下げ時の油圧モータ20のモータ保持圧ΔPを算出して、設定圧P1がモータ入口目標圧Pmi’とモータ保持圧ΔPとの合計値になるように内部パイロット式カウンタバランス弁40を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧モータを備えた油圧作業機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1〜3に、油圧アクチュエータの動作を制御する制御装置が記載されている。油圧アクチュエータには、吊荷の巻上げ及び巻下げをするウインチドラムを駆動する油圧モータがある。吊荷巻下げ時に油圧モータ入口管路が負圧になりキャビテーションが発生すると、油圧モータにブレーキがかからず吊荷が急降下や落下するおそれがある。そこで、吊荷巻下げ速度を制御しキャビテーションを防止する技術がある。なお、以下では、油圧モータの「入口」や「出口」は、吊荷巻下げ時における入口や出口のこととする。
【0003】
特許文献1の図1には、外部パイロット式カウンタバランス弁(4)を油圧モータ出口管路に設けた技術が記載されている。なお、特許文献1の請求項1及び図2等には、モーメントリミッタによって吊り荷の負荷を演算し、この負荷の大きさに応じて電磁比例リリーフ弁(25)に信号を送り、油圧モータ入口管路を一定圧力に保持することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2の図6には、外部パイロット式カウンタバランス弁のパイロットラインに絞り(A7)を設けた技術が記載されている。
【0005】
また、特許文献3の請求項6及び図1等には、内部パイロット式カウンタバランス弁(17)を油圧モータ出口管路(9)に設け、負荷検出手段によって検出される油圧モータの負荷に応じた外部パイロット圧を内部パイロット式カウンタバランス弁(17)に加える技術が記載されている。この負荷検出手段として、油圧モータ出入口の差圧を検出することや、ウインチドラムの軸トルクを検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平7−2387号公報
【特許文献2】特許3928786号公報
【特許文献3】特許3536710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(課題1)
特許文献1の図1に記載の、外部パイロット式カウンタバランス弁(4)を用いた技術には、油圧モータの回転速度のハンチングが生じやすい問題がある。
この外部パイロット式カウンタバランス弁は、計測点と制御点の位置が異なる、いわゆるコロケーション(Co-location)がとれていない、制御理論上不安定な制御方式をとる弁である。具体的には、この弁は、油圧モータ入口側の圧力(モータ入口圧)を計測し、油圧モータ出口側の弁開度を調整する。このため、油圧モータ入口側の圧力の変化と油圧モータ出口側の弁開度の変化とにずれが生じやすく、特に重負荷時に慣性の影響によってこのずれが生じやすい。このずれにより弁開度や圧力のハンチングが生じやすい。さらに詳しくは、例えば時刻T0に吊荷巻下げの操作を開始したとすると、図7(a)に示すように弁開度は開閉を繰り返し、また、図7(b)に示すようにモータ入口圧も振動する。その結果、油圧モータの回転速度がハンチングするおそれがある。
【0008】
(課題2)
特許文献2の図6に記載の、外部パイロット式カウンタバランス弁のパイロットラインに絞り(A7)を設けた技術には、燃費悪化(省エネ性悪化)の問題がある。
この絞りの減衰作用により、モータ入口圧の変化に対して、外部パイロット式カウンタバランス弁の弁開度が変化しにくくなるので、上記のハンチングは抑制できる。しかし、図7(c)に示すように、この絞りの減衰作用により、吊荷の巻下げ開始(時刻T0)後、外部パイロット式カウンタバランス弁が十分開く(時刻T1)までに長い時間を要する。すると、図7(d)に示すように、油圧モータに作動油を供給する油圧ポンプに不要なブースト圧(図7(d)の斜線部)が発生し(動力損失が増大し)、この油圧ポンプの駆動原(エンジンなど)の燃料消費量が増大するおそれがある。
【0009】
(課題3)
特許文献3に記載の、油圧モータ出入口の差圧の検出結果やウインチドラムの軸トルクの検出結果に基づいて内部パイロット式カウンタバランス弁を制御する技術には、吊荷の速度変化後に安定した制御ができるまでに時間を要する問題がある。
例えば吊荷巻下げ開始時等には、吊荷に速度変化(例えば揺れ等)が生じる。すると、油圧モータ出入口の差圧が大きく変動し、この変動により油圧回路にノイズが発生する。よって、安定した差圧を検出するまでに長い時間を要する。また、この差圧に基づいて駆動されるウインチドラムについても、安定した軸トルクを検出するまでに長い時間を要する。その結果、吊荷の速度変化後、差圧や軸トルクの検出結果に基づいて制御される上記弁が安定して制御されるまでには長い時間を要する。
【0010】
(課題4)
特許文献3に記載のような、ウインチドラムの軸トルクの検出結果に基づいて内部パイロット式カウンタバランス弁を制御する技術には、次の問題がある。ウインチドラム停止時には、メカブレーキによりウインチドラムに直接ブレーキをかけているので、ウインチドラムに軸トルクが発生しない。ウインチドラム始動後、メカブレーキが解除されて初めてウインチドラムに軸トルクが発生し、その後、この軸トルクの検出結果に基づいて内部パイロット式カウンタバランス弁の制御が開始される。このため、ウインチドラムの始動後、安定した制御が可能になるまでに時間を要する。
【0011】
そこで本発明は、油圧モータの回転速度のハンチングを抑制でき、油圧作業機械の燃費の悪化を抑制でき、吊荷の速度変化後やウインチドラム始動後により早く安定した制御ができる、油圧作業機械の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の油圧作業機械の作業装置は、吊荷の負荷を推定するモーメントリミッタと、前記吊荷の巻上げ及び巻下げをするウインチドラムを駆動する油圧モータと、前記吊荷巻下げ時の前記油圧モータ出口に接続された油圧モータ出口管路と、前記油圧モータ出口管路に設けられ前記油圧モータ出口の圧力が設定圧になるように制御する内部パイロット式カウンタバランス弁と、前記内部パイロット式カウンタバランス弁を制御する弁制御手段と、を備える。前記弁制御手段には、前記吊荷巻下げ時の前記油圧モータ入口のモータ入口目標圧が設定される。前記弁制御手段は、前記モーメントリミッタにより推定された前記吊荷の負荷に基づいて前記吊荷巻下げ時の前記油圧モータのモータ保持圧を算出して、前記設定圧が前記モータ入口目標圧と前記モータ保持圧との合計値になるように前記内部パイロット式カウンタバランス弁を制御する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ウインチドラムの回転速度のハンチングを抑制でき、油圧作業機械の燃費の悪化を抑制でき、吊荷の速度変化後やウインチドラム始動後により早く安定した制御ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】制御装置全体を示す油圧回路図である。
【図2】図1に示す制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】図1に示す制御装置の吊荷の負荷とモータ保持圧との関係を示すグラフである。
【図4】図1に示す制御装置による効果等を示すグラフである。
【図5】第2実施形態の図1相当図である。
【図6】図5に示す制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】従来の油圧作業機械の制御装置の動作等を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
図1〜図4を参照して第1実施形態の油圧作業機械Cの制御装置1を説明する。
【0016】
制御装置1は、図1に示すように、油圧作業機械Cが備える装置であり、吊荷24巻下げ時の油圧モータ20の動作を制御する装置である。制御装置1が備えられる油圧作業機械Cは、ロープ23を介してウインチドラム22で吊荷24の巻上げ及び巻下げをするクレーン(例えば移動式クレーン)である。制御装置1は、吊荷24の負荷を推定するモーメントリミッタ10と、ウインチドラム22を駆動する油圧モータ20と、油圧モータ20にそれぞれ接続された油圧モータ入口管路26及び油圧モータ出口管路27と、油圧モータ20の容量を制御する馬力一定制御弁30と、油圧モータ出口管路27にそれぞれ設けられた内部パイロット式カウンタバランス弁40及び非常用弁61と、内部パイロット式カウンタバランス弁40を制御する弁制御手段50とを備える。なお、上述したように、油圧モータ20の「入口」や「出口」は、吊荷24巻下げ時における入口や出口のこととする。
【0017】
モーメントリミッタ10は、油圧作業機械C(クレーン)が備えている過負荷防止装置である。モーメントリミッタ10は、ブーム11の長さ、ブーム11の角度、及びロープ23の張力等の検出結果から、クレーンに働くモーメント、及び吊荷24の負荷を算出する。モーメントリミッタ10は、上記の算出結果が許容範囲を超えると、クレーンの動作を停止させる、及び警告を発する等の動作をする。本発明では、モーメントリミッタ10の機能のうち、吊荷24の負荷を算出(推定)する機能を利用する。モーメントリミッタ10は、例えば、ロードセル(図示なし)で検出されたロープ23の張力から、吊荷24の負荷(実荷重)を演算する。
【0018】
油圧モータ20は、吊荷24の巻上げ及び巻下げをするウインチドラム22を駆動する。油圧モータ20は、可変容量型である。油圧モータ20は、斜板の傾転角が変わるとモータ容量qが変わる、斜板形アキシャルピストンモータである。油圧モータ20は、減速機21を介してウインチドラム22に接続される。油圧モータ20により駆動されたウインチドラム22が、ロープ23の巻出し及び巻込みをすることで、吊荷24の巻上げ及び巻下げがされる。
【0019】
なお、油圧モータ20入口の圧力を「モータ入口圧Pmi」とする。また、油圧モータ20出口の圧力を「モータ出口圧Pmo」とする。モータ出口圧Pmoは、後述する非常用弁61が全開の場合の内部パイロット式カウンタバランス弁40の上流(一次側)の圧力でもある(以下、特に断らない限り、非常用弁61は全開であるとして説明する)。また、油圧モータ20の出口と入口との差圧(Pmo−Pmi)、すなわち、巻下げ時の吊荷24を保持するための差圧を、「モータ保持圧ΔP」とする。
【0020】
油圧モータ入口管路26は、吊荷24巻下げ時の油圧モータ20入口に接続された管路(巻下げ側流路)である。この油圧モータ入口管路26を介して、作動油供給源(図示しない油圧ポンプ等)から吐出された作動油が油圧モータ20へ供給される。
【0021】
油圧モータ出口管路27は、吊荷24巻下げ時の油圧モータ20出口に接続された管路である。この油圧モータ出口管路27を介して、油圧モータ20出口から吐出された作動油が例えばタンク(図示なし)等へ戻る。
【0022】
馬力一定制御弁30は、油圧モータ20の馬力を一定に制御する弁、すなわちCHP弁(Constant Horse Power弁)である。馬力一定制御弁30は、油圧モータ20、油圧モータ入口管路26、及び油圧モータ出口管路27に接続される。馬力一定制御弁30は、具体的には例えば、油圧モータ入口管路26及び油圧モータ出口管路27に接続された圧力補償弁31と、圧力補償弁31に接続されたスプール弁32と、スプール弁32及び油圧モータ出口管路27に接続され油圧モータ20の傾転角度を制御する傾転角度制御装置33とを備える。
【0023】
また、馬力一定制御弁30は、次の制御特性を持つ。
(馬力一定制御範囲)馬力一定制御弁30は、油圧モータ20出入口の差圧(=モータ保持圧ΔP)を一定の馬力一定制御設定圧Pcに維持するように、モータ保持圧ΔPが高くなろうとするとモータ容量qを大きくし、モータ保持圧ΔPが小さくなろうとするとモータ容量qを小さくする。この動作により、馬力一定制御弁30は、油圧モータ20の馬力(出力)を一定に制御する。
(高馬力制御範囲)モータ容量qが最大容量qmaxになると、モータ保持圧ΔPは馬力一定制御設定圧Pcよりも高くなりうる。モータ保持圧ΔPが高くなるほど油圧モータ20の馬力は大きくなる(馬力一定制御範囲外である)。
(低馬力制御範囲)モータ容量qが最小容量qminになると、モータ保持圧ΔPは馬力一定制御設定圧Pcよりも低くなりうる。モータ保持圧ΔPが低くなるほど油圧モータ20の馬力は小さくなる(馬力一定制御範囲外である)。
【0024】
内部パイロット式カウンタバランス弁40は、油圧モータ出口管路27に設けられ、油圧モータ20出口の圧力(モータ出口圧Pmo)が設定圧P1になるように制御する弁である。内部パイロット式カウンタバランス弁40は、この弁40の上流側(一次側)の圧力、すなわちモータ出口圧Pmoを計測し、モータ出口圧Pmoを制御する。内部パイロット式カウンタバランス弁40は、モータ出口圧Pmoが設定圧P1よりも下がろうとすると弁を閉じ、モータ出口圧Pmoが設定圧P1よりも上がろうとすると弁を開く。
【0025】
また、内部パイロット式カウンタバランス弁40は、内部パイロット圧(=モータ出口圧Pmo)が入力される内部側パイロット油室41と、内部側パイロット油室41に作用する内部パイロット圧に対抗する側に設けられるとともに設定圧P1の初期値を設定するセットスプリング42と、セットスプリング42と同じ側に設けられるとともに外部パイロット圧Poが入力される外部側パイロット油室43とを備える。外部側パイロット油室43には、外部パイロット流路46を介してパイロット圧力源47が接続される。内部パイロット式カウンタバランス弁40は、外部側パイロット油室43に作用する外部パイロット圧Poが高くなると、セットスプリング42で設定された初期値よりも設定圧P1が高くなる。
【0026】
弁制御手段50は、内部パイロット式カウンタバランス弁40を制御する手段(構成)である(制御の詳細は後述)。弁制御手段50は、内部パイロット式カウンタバランス弁40の設定圧P1を変更する電磁比例減圧弁51と、電磁比例減圧弁51の制御等をするコントローラ52とを備える。
【0027】
電磁比例減圧弁51は、設定圧P1を変更する弁(設定圧変更手段)である。電磁比例減圧弁51は、外部パイロット流路46上に設けられる。電磁比例減圧弁51は、コントローラ52からの入力信号に応じて作動し、外部側パイロット油室43に作用する外部パイロット圧Poを制御し、その結果、設定圧P1を制御する。
【0028】
コントローラ52は、各種信号の入出力、演算及び算出、並びに記憶等を行う装置である。コントローラ52は、モーメントリミッタ10に接続され、モーメントリミッタ10から吊荷24の負荷等の情報が入力される。コントローラ52は、電磁比例減圧弁51に接続され、電磁比例減圧弁51に動作指令を出力する。コントローラ52には、モータ入口目標圧Pmi’が設定される。モータ入口目標圧Pmi’は、例えば特許文献1等に記載の従来の外部パイロット式カウンタバランス弁の設定圧と同程度(約1MPa等)に設定する。コントローラ52には、油圧モータ20のモータ容量qの最小容量qmin及び最大容量qmax、並びに馬力一定制御弁30の馬力一定制御設定圧Pc等、後述する演算に用いる値が記憶されている。
【0029】
非常用弁61は、油圧モータ入口管路26の破損等の非常時に吊荷24の急降下や落下を防止する弁である。非常用弁61は、油圧モータ出口管路27に設けられ、内部パイロット式カウンタバランス弁40よりも例えば上流側に設けられる。非常用弁61は、モータ入口圧Pmiを計測して、計測したモータ入口圧Pmiに応じて油圧モータ出口管路27の弁開度を開閉する。すなわち、非常用弁61は、外部パイロット式カウンタバランス弁である。しかし、非常用弁61は、上述した従来の外部パイロット式カウンタバランス弁(特許文献1等に記載)とは動作が全く異なる。
【0030】
この非常用弁61には、モータ入口目標圧Pmi’よりも低い第1モータ入口制限圧P2が設定される。非常用弁61は、計測したモータ入口圧Pmiが第1モータ入口制限圧P2よりも低くなると弁を閉じる。また、非常用弁61が計測したモータ入口圧Pmiが第1モータ入口制限圧P2以上の場合、非常用弁61は開いた状態(全開)である。例えば、内部パイロット式カウンタバランス弁40によってモータ入口圧Pmiがモータ入口目標圧Pmi’に維持されているときは、非常用弁61は開いた状態である。すなわち、非常用弁61の上流側の圧力(1次側圧力)の目標値(非常用弁61の設定圧)は、内部パイロット式カウンタバランス弁40の外部側パイロット油室43に外部パイロット圧Poが作用しないときの設定圧P1(可変の設定圧P1の最小値)よりも低い。
【0031】
(制御装置1の動作)
次に、制御装置1の動作を説明する。制御装置1の制御目標は、モータ入口圧Pmiをモータ入口目標圧Pmi’とすること、すなわち、モータ入口圧Pmiの最低圧を補償して油圧モータ入口管路26のキャビテーションを防止することである。しかし、内部パイロット式カウンタバランス弁40は、モータ入口圧Pmiを測定しない。そこで、制御装置1では、モーメントリミッタ10の情報を用いてモータ出口圧Pmoを制御することで、モータ入口圧Pmiを制御する。具体的には、弁制御手段50は、モーメントリミッタ10により推定された吊荷24の負荷に基づいて(図2のステップS1)、吊荷24巻下げ時の油圧モータ20のモータ保持圧ΔPを算出して(図2のステップS10)、設定圧P1がモータ入口目標圧Pmi’とモータ保持圧ΔPとの合計値になるように内部パイロット式カウンタバランス弁40を制御する(ステップS21及びS22)。以下、弁制御手段50のコントローラ52の動作をさらに詳細に説明する。なお、上述した制御装置1の各構成要素については図1を、各ステップについては図2を参照して説明する。
【0032】
ステップS1では、モーメントリミッタ10により推定された吊荷24の負荷Fの情報(ML情報)がコントローラ52に取り込まれる。
【0033】
ステップS10(ステップS11、S12、S15〜S18)では、コントローラ52によりモータ保持圧ΔPが算出される。モータ保持圧ΔPは、馬力一定制御弁30の制御特性に基づいて算出される。図3に、馬力一定制御弁30の制御特性に基づく、吊荷24の負荷Fとモータ保持圧ΔPとの関係を示す。図3に示すように、コントローラ52に取り込まれた吊荷24の負荷Fから、馬力一定制御弁30の状態が、高馬力制御範囲、馬力一定制御範囲、又は低馬力制御範囲のうちどの状態であるかが決まる。馬力一定制御弁30がどの状態であるによってモータ保持圧ΔPの算出方法が異なる。以下、詳細に説明する。
【0034】
ステップS11(図2参照)では、吊荷24の負荷Fに基づいて、馬力一定制御弁30が馬力一定制御範囲内か否かが判定される。馬力一定制御範囲内の場合(図3の負荷FがFa≦F≦Fbの場合)、ステップS12へ進む。馬力一定制御範囲外の場合(図3の負荷Fが、F<Fa、又は、Fb<Fの場合)、ステップS15へ進む。
【0035】
(ステップS12)馬力一定制御弁30が馬力一定制御範囲内の場合(Fa≦F≦Fbの場合)、モータ保持圧ΔPは、馬力一定制御弁30の馬力一定制御設定圧Pcである。次に、ステップS21へ進む。
【0036】
(ステップS15〜S18)馬力一定制御弁30が馬力一定制御範囲外の場合、モータ保持圧ΔPを算出するために、油圧モータ20のモータ容量qを求める。
(ステップS16)馬力一定制御弁30が低馬力制御範囲の場合(F<Faの場合)、モータ容量qは最小容量qminである。
(ステップS17)馬力一定制御弁30が高馬力制御範囲の場合(Fb<Fの場合)、モータ容量qは最大容量qmaxである。
ステップS16又はS17の次に、ステップS18へ進む。
【0037】
ステップS18では、モータ容量qを用いてモータ保持圧ΔPが算出される。油圧モータ20の(ウインチドラム22の)トルクに関する式は次の(1)式で表される。
Fr=ΔPηqN/(2π) (1)
ここで、Fはモーメントリミッタ10により推定された吊荷24の負荷である。rはウインチドラム22の半径である。ηは油圧モータ20の全効率である。Nは減速機21の減速比である。(1)式より、モータ保持圧ΔPが算出される。次に、ステップS21へ進む。
【0038】
ステップS21では、内部パイロット式カウンタバランス弁40の設定圧P1の目標値がコントローラ52により算出される。(2)式に示すように、設定圧P1の目標値(=モータ出口圧Pmoの目標値)は、コントローラ52に設定されているモータ入口目標圧Pmi’と、ステップS12又はS18で算出したモータ保持圧ΔPとの合計値である。
P1の目標値=Pmoの目標値=Pmi’+ΔP (2)
設定圧P1の制御は、外部側パイロット油室43に作用する外部パイロット圧Poを制御することで行われる。内部パイロット式カウンタバランス弁40では次の(3)式の条件が満たされる。
A1・Po+Fs=A2(Pmi’+ΔP) (3)
ここで、A1は外部側パイロット油室43の受圧面積である。Poは外部側パイロット油室43に作用させる外部パイロット圧である。Fsはセットスプリング42のばね力である。A2は内部側パイロット油室41の受圧面積である。(3)式より、外部パイロット圧Poの目標値が算出される。
【0039】
ステップS22では、ステップS21で算出された外部パイロット圧Poの目標値に応じて、電磁比例減圧弁51の電流指令値がコントローラ52により算出される。算出された電流指令値の指令は、コントローラ52から電磁比例減圧弁51に出力される。その結果、内部パイロット式カウンタバランス弁40の設定圧P1が目標値に設定され、モータ出口圧Pmoが目標値に制御される。その結果、モータ入口圧Pmiがモータ入口目標圧Pmi’となるように制御される。
【0040】
(効果)
次に、図1に示す制御装置1の効果を説明する。制御装置1は、吊荷24の負荷を推定するモーメントリミッタ10と、吊荷24の巻上げ及び巻下げをするウインチドラム22を駆動する油圧モータ20と、吊荷24巻下げ時の油圧モータ20出口に接続された油圧モータ出口管路27と、油圧モータ出口管路27に設けられ油圧モータ20出口の圧力が設定圧P1になるように制御する内部パイロット式カウンタバランス弁40と、内部パイロット式カウンタバランス弁40を制御する弁制御手段50と、を備える。弁制御手段50には、吊荷24巻下げ時の油圧モータ20入口のモータ入口目標圧Pmi’が設定される。弁制御手段50は、モーメントリミッタ10により推定された吊荷24の負荷に基づいて吊荷24巻下げ時の油圧モータ20のモータ保持圧ΔPを算出して、設定圧P1がモータ入口目標圧Pmi’とモータ保持圧ΔPとの合計値になるように内部パイロット式カウンタバランス弁40を制御する。
この構成により、油圧モータ20入口の圧力(モータ入口圧Pmi)は、モータ入口目標圧Pmi’が確保される。よって、油圧モータ入口管路26のキャビテーションを抑制でき、その結果、吊荷24巻下げ時の吊荷24の急降下や落下を防止できる。
【0041】
(効果1−1)
また、制御装置1は、油圧モータ出口管路27に設けられ、油圧モータ20出口の圧力(モータ出口圧Pmo)を制御する内部パイロット式カウンタバランス弁40を備える。
内部パイロット式カウンタバランス弁40では、制御点および計測点がいずれも油圧モータ出口管路27である。すなわち、内部パイロット式カウンタバランス弁40は、いわばコロケーションがとれた安定した制御方式を用いている。よって、制御装置1では、内部パイロット式カウンタバランス弁40による弁開度やモータ入口圧Pmiのハンチングを抑制できる(ハンチングの詳細は、上記課題1、図7(a)及び(b)参照)。その結果、ウインチドラム22の回転速度のハンチングを抑制できる。
【0042】
また、制御装置1では、内部パイロット式カウンタバランス弁40による上記のハンチングを抑制できるので、このハンチングを抑制するための絞り(上記課題2参照)を内部パイロット式カウンタバランス弁40のパイロットラインに設ける必要がない。よって、この絞りによる、油圧モータ20の作動油供給源(油圧ポンプ等)の無駄なブースト圧の発生(図7(d)の斜線部参照)を抑制できる。その結果、制御装置1を備えた油圧作業機械Cの燃費(省エネ性)の悪化を抑制できる。
【0043】
さらに詳しくは、制御装置1には次の効果がある。上述したように制御装置1では、ハンチングを抑制でき、かつ、パイロットラインに絞りを設けない。よって、例えば時刻T0に吊荷24巻下げの操作をした場合、図4(a)に示すように内部パイロット式カウンタバランス弁40の弁開度は直ちに目標の弁開度A3に開くので、図4(b)に示すようにモータ入口圧Pmiは直ちにモータ入口目標圧Pmi’となり、その結果、図4(c)に示すように制御装置1を備えた油圧作業機械Cの燃料消費量を抑制できる。
【0044】
(効果1−2)
また、図1に示す弁制御手段50は、モーメントリミッタ10により推定された吊荷24の負荷に基づいて吊荷24巻下げ時の油圧モータ20のモータ保持圧ΔPを算出する(図2のステップS10)。また、このモータ保持圧ΔPを用いて、内部パイロット式カウンタバランス弁40が制御される。
よって、(上記課題3のように)モータ保持圧ΔPを直接検出する場合や、ウインチドラム22の軸トルクを検出する場合に比べ、本発明のモータ保持圧ΔPの算出は、吊荷24の速度変化(例えば吊荷の揺れ等、負荷の変動)や油圧回路のノイズの影響を受けにくい。例えば、吊荷24の速度変化が生じた後、この速度変化がおさまると、モーメントリミッタ10により推定される吊荷24の負荷の変動はただちにおさまる。よって、吊荷24の速度変化後により早く安定したモータ保持圧ΔPを算出でき、その結果、より早く安定した油圧モータ20の制御ができる。
【0045】
(効果1−3)
また、弁制御手段50は、モーメントリミッタ10により推定された吊荷24の負荷に基づいて吊荷24巻下げ時の油圧モータ20のモータ保持圧ΔPを算出する。
よって、ウインチドラム22の停止時もモータ保持圧ΔPを算出できる。したがって、ウインチドラム22の始動後、(上記課題4の場合に比べ)より早く安定した油圧モータ20の制御ができる。
【0046】
(効果2)
制御装置1は、油圧モータ20の馬力を一定に制御する馬力一定制御弁30を備える。油圧モータ20は、可変容量型である。また、弁制御手段50により算出されるモータ保持圧ΔPは、馬力一定制御弁30の馬力一定制御特性に基づいて算出される。ここで、馬力一定制御特性を用いずにモータ保持圧ΔPを算出するには、油圧モータ20のモータ容量qを計測する必要があり、モータ容量qの計測には例えば傾転角センサを用いる必要がある。一方、本発明では馬力一定制御特性を用いてモータ保持圧ΔPを算出するので、モーメントリミッタ10により推定された吊荷24の負荷Fに応じてモータ保持圧ΔPが決まる(図3参照)。よって、制御装置1では、傾転角センサを用いなくてもモータ保持圧ΔPを算出できる。その結果、コストを削減できる。
【0047】
(効果3)
制御装置1は、油圧モータ出口管路27に設けられた非常用弁61を備える。非常用弁61には、モータ入口目標圧Pmi’よりも低い第1モータ入口制限圧P2が設定される。非常用弁61は、吊荷24巻下げ時の油圧モータ20入口の圧力(モータ入口圧Pmi)を計測して、この計測したモータ入口圧Pmiが第1モータ入口制限圧P2よりも低くなると弁を閉じる。よって、例えば油圧モータ入口管路26が破裂する等の非常の場合に、モータ入口圧Pmiが第1モータ入口制限圧P2より低くなると、油圧モータ20が減速や停止する。その結果、吊荷24の急降下や落下を抑制でき、吊荷24巻下げ時の安全性を向上させることができる。
【0048】
(第2実施形態)
図5及び図6を参照して第2実施形態の制御装置101を説明する。図1に示す制御装置1は非常用弁61を備えた。図5に示す制御装置101は、非常用弁61を備えず、圧力センサ171を備える。なお、制御装置101は非常用弁61を備えていても良い。以下、上記相違点をさらに説明する。以下、制御装置101の各構成要素については図5を、各ステップについては図6を参照して説明する。
【0049】
圧力センサ171は、モータ入口圧Pmiを計測する(ステップS131)。計測されたモータ入口圧Pmiは、コントローラ52に出力される。
【0050】
弁制御手段50のコントローラ52には、モータ入口目標圧Pmi’よりも低い第2モータ入口制限圧P3が設定される。弁制御手段50は、圧力センサ171で計測されたモータ入口圧Pmiが第2モータ入口制限圧P3よりも低くなると(ステップS132でNO)、内部パイロット式カウンタバランス弁40を全閉させる。このときコントローラ52は、内部パイロット式カウンタバランス弁40が全閉となるように電磁比例減圧弁51に出力する電流指令値を最大とする(ステップS133)。なお、圧力センサ171で計測されたモータ入口圧Pmiが第2モータ入口制限圧P3以上の場合は、内部パイロット式カウンタバランス弁40は第1実施形態と同様に動作する。
【0051】
(効果4)
制御装置101は、吊荷24巻下げ時の油圧モータ20入口の圧力(モータ入口圧Pmi)を計測する圧力センサ171を備える。弁制御手段50には、モータ入口目標圧Pmi’よりも低い第2モータ入口制限圧P3が設定される。弁制御手段50は、圧力センサ171で計測されたモータ入口圧Pmiが第2モータ入口制限圧P3よりも低くなると、内部パイロット式カウンタバランス弁40を全閉させる。よって、上記(効果3)と同様に、例えば油圧モータ入口管路26が破裂する等の非常の場合に、モータ入口圧Pmiが第2モータ入口制限圧P3よりも低くなると、油圧モータ20が減速や停止する。その結果、吊荷24の急降下や落下を抑制でき、吊荷24巻下げ時の安全性を向上させることができる。
【0052】
(変形例)
上記実施形態は様々に変形できる。例えば、図1に示す馬力一定制御弁30は設けなくても良い。
【0053】
また例えば、上記第1実施形態では、馬力一定制御弁30の馬力一定制御特性を用いてモータ保持圧ΔPを算出したが(図3参照)、馬力一定制御特性を用いずにモータ保持圧ΔPを求めても良い。この場合、以下のようにモータ保持圧ΔPを算出する。
油圧モータ20が可変容量型の場合は、例えば傾転角センサを用いてモータ容量qを検出する。そして、検出したモータ容量qを上記(1)式に代入してモータ保持圧ΔPを算出する。
油圧モータ20が固定容量型の場合は、固定のモータ容量qを上記(1)式に代入してモータ保持圧ΔPを算出する。
【0054】
また例えば、上記実施形態では、電磁比例減圧弁51を用いて、外部側パイロット油室43に作用する外部パイロット圧を制御して、内部パイロット式カウンタバランス弁40の設定圧P1を変更した。しかし、これ以外の構成により設定圧P1を変更しても良い。例えば、内部パイロット式カウンタバランス弁40に作用させるパイロット荷重を変化させたり、セットスプリング42のバネ力を変化させる等により、設定圧P1を変更しても良い。
【符号の説明】
【0055】
1、101 制御装置
10 モーメントリミッタ
20 油圧モータ
22 ウインチドラム
24 吊荷
26 油圧モータ入口管路
27 油圧モータ出口管路
30 馬力一定制御弁
40 内部パイロット式カウンタバランス弁
50 弁制御手段
61 非常用弁
171 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷の負荷を推定するモーメントリミッタと、
前記吊荷の巻上げ及び巻下げをするウインチドラムを駆動する油圧モータと、
前記吊荷巻下げ時の前記油圧モータ出口に接続された油圧モータ出口管路と、
前記油圧モータ出口管路に設けられ、前記油圧モータ出口の圧力が設定圧になるように制御する内部パイロット式カウンタバランス弁と、
前記内部パイロット式カウンタバランス弁を制御する弁制御手段と、を備え、
前記弁制御手段には、前記吊荷巻下げ時の前記油圧モータ入口のモータ入口目標圧が設定され、
前記弁制御手段は、前記モーメントリミッタにより推定された前記吊荷の負荷に基づいて前記吊荷巻下げ時の前記油圧モータのモータ保持圧を算出して、前記設定圧が前記モータ入口目標圧と前記モータ保持圧との合計値になるように前記内部パイロット式カウンタバランス弁を制御する、油圧作業機械の制御装置。
【請求項2】
前記油圧モータの馬力を一定に制御する馬力一定制御弁をさらに備え、
前記油圧モータは、可変容量型であり、
前記弁制御手段により算出される前記モータ保持圧は、前記馬力一定制御弁の制御特性に基づいて算出される、請求項1に記載の油圧作業機械の制御装置。
【請求項3】
前記油圧モータ出口管路に設けられた非常用弁をさらに備え、
前記非常用弁には、前記モータ入口目標圧よりも低い第1モータ入口制限圧が設定され、
前記非常用弁は、前記吊荷巻下げ時の前記油圧モータ入口の圧力を計測して、当該計測した圧力が前記第1モータ入口制限圧よりも低くなると弁を閉じる、請求項1または2に記載の油圧作業機械の制御装置。
【請求項4】
前記吊荷巻下げ時の前記油圧モータ入口の圧力を計測する圧力センサをさらに備え、
前記弁制御手段には、前記モータ入口目標圧よりも低い第2モータ入口制限圧が設定され、
前記弁制御手段は、前記圧力センサで計測された圧力が前記第2モータ入口制限圧よりも低くなると、前記内部パイロット式カウンタバランス弁を全閉させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の油圧作業機械の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−60279(P2013−60279A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200321(P2011−200321)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】