説明

油圧作業機械の駆動装置

【課題】電動機の小型化と過負荷防止を図ることができ、かつ制御性、操作性及び快適性に優れた電動油圧閉回路構成の油圧作業機械の駆動装置を提供する。
【解決手段】電動油圧閉回路構成の駆動装置に備えられるコントローラ11として、操作レバー10a,10bから出力される操作量信号と予め設定された操作量切換点CPとを比較し、操作量信号が操作量切換点CPを超えたときに、複数の電動機1a,1bによって駆動される複数の油圧ポンプ2a,2bから吐出される圧油が、複数の油圧アクチュエータ7a,7bの1つに供給されるように電磁切換弁5a〜5dの切り換え判断及び電動機1a,1bの回転数演算を行う切換判断・回転数制御部11cと、電動機1a,1bの温度が高いほど操作量切換点CPを大きくする切換点変更部11a,11bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧作業機械の駆動装置に係り、特に、電動機を用いて油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプから吐出される圧油を用いて直接に油圧アクチュエータを駆動する電動油圧閉回路構成の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベル、ホイールローダ及びフォークリフトなどの油圧駆動式の建設機械・作業機械(本明細書では、これらを総称して「油圧作業機械」という。)においては、省エネルギ化及び低騒音化を目的として、油圧ポンプの駆動源を電動化した駆動装置の開発が進められている。一方、油圧ポンプの駆動源としてエンジンを用いた油圧作業機械の駆動装置としては、油圧ポンプと油圧アクチュエータとを閉回路接続すると共に、油圧ポンプの傾転量を操作レバーの出力信号により設定して油圧ポンプの吐出量を調整し、油圧ポンプから吐出される圧油により油圧アクチュエータを直接に駆動する閉回路方式が従来知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。この閉回路方式の駆動装置は、油圧制御弁により油圧アクチュエータに供給される圧油量を調整する開回路方式の駆動装置に比べて油圧制御弁による圧損がないことから、作業機械の省エネルギ化に適している。また、油圧ポンプの駆動源として電動機を用いると、必要なときのみ電動機を駆動すれば良いので作業機械の低騒音化が可能となり、さらには、油圧ポンプの駆動源としてエンジンを用いた場合に比べて発熱量を低減できるので、オイルタンクやオイルクーラの小型化も可能になる。
【0003】
なお、電動油圧閉回路方式の駆動装置は、プレス機や射出成形機などの産業機械分野において実用化されており、省エネルギに効果を挙げている。
【0004】
しかしながら、電動油圧閉回路方式の駆動装置は、1つの油圧アクチュエータについて一組の電動機と油圧ポンプを必要とするため、多数の油圧アクチュエータが備えられ、電動機及び油圧ポンプの設定スペースも限られる油圧作業機械については、そのままでは適用することができない。
【0005】
このような問題を解決するための手段として、特許文献1,2には、複数の油圧アクチュエータと複数の油圧ポンプとを複数の電磁切換弁を介して閉回路接続し、操作レバーの操作量に応じて電磁切換弁を制御することにより回路を切り換え、少数の油圧ポンプで多数の油圧アクチュエータを駆動する構成が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、油圧ショベルに備えられたブーム用油圧アクチュエータ、スティック用油圧アクチュエータ、及びバケット用油圧アクチュエータを駆動する3組の電動機及び油圧ポンプを設け、各油圧アクチュエータの駆動回路間に作動油流量を補充し合う応援回路を設けることで電動機及び油圧ポンプを小型化する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭62−25882号公報
【特許文献2】特開昭57−54635号公報
【特許文献3】特開2004−190845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2に記載の駆動装置は、エンジンにより両傾転タイプの油圧ポンプを駆動することを前提としており、電動機により油圧ポンプを駆動する場合においては、この特許文献1に記載の回路切り換え判断をそのまま用いることはできない。即ち、エンジンの発生トルクは油圧ポンプ1台の必要トルクに比べて十分に大きいので、エンジンにより油圧ポンプを駆動する場合には、特許文献1に記載されているように、ポンプトルクを気にすることなく、要求ポンプ流量に比例するレバー操作量に応じて複数ポンプの要否を判断して電磁切換弁とポンプ流量の制御を行うことができる。
【0009】
しかしながら、電動機により油圧ポンプを駆動する場合には、電動機のトルクは油圧ポンプ1台のトルクと同程度に構成するのが一般的であり、しかも高回転では電動機の発生トルクが著しく下がるため、単純にレバー操作量に応じて電動機の回転数を上昇させると、トルクが不足して電動機及び油圧ポンプが停止したり、電動機の発熱により耐久性や信頼性が低下する可能性がある。これを避けるためにトルクに十分な余裕のある電動機で構成すると、電動機が大型化するため、作業機械への搭載性が著しく低下する。また、電動機の過負荷を防止するため、微小なレバー操作域から複数の電動機及び油圧ポンプにより1つの油圧アクチュエータを駆動することで、電動機1台当たりの出力を下げるように構成すると、電磁切換弁による油圧回路の切換頻度が増えるため、切換に伴う振動や速度変動が発生して、作業機械の操作性や快適性が損なわれる可能性もある。
【0010】
一方、特許文献3に記載の駆動装置は、ブーム用油圧アクチュエータの駆動回路のみが閉回路で、スティック用油圧アクチュエータの駆動回路及びバケット用油圧アクチュエータの駆動回路は、制御弁により油圧シリンダを制御して戻り油をタンクに戻す開回路構成であり、全ての油圧アクチュエータの駆動回路が閉回路構成になっていないので、上述した電動油圧閉回路の効果が限定的になる。
【0011】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、電動機の小型化と過負荷防止を図ることができ、かつ制御性、操作性及び快適性に優れた電動油圧閉回路構成の油圧作業機械の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、複数の電動機と、これら複数の電動機のそれぞれにより個別に駆動される複数の油圧ポンプと、これら複数の油圧ポンプのそれぞれと閉回路接続された複数の油圧アクチュエータと、前記複数の油圧ポンプと前記複数の油圧アクチュエータとを接続する各閉回路に備えられた複数の電磁切換弁と、前記複数の油圧アクチュエータの駆動を個別に操作する複数の操作レバーと、これら複数の操作レバーから出力される操作量信号に応じて前記電動機の回転数と各電磁切換弁の切り換えを制御するコントローラと、前記複数の電動機の温度を検出する温度検出手段を備えると共に、前記コントローラに、前記操作レバーから出力される前記操作量信号と予め設定された操作量切換点とを比較し、前記操作量信号が前記操作量切換点を超えたときに、前記複数の電動機によって駆動される前記複数の油圧ポンプから吐出される圧油が前記複数の油圧アクチュエータの1つに供給されるように前記電磁切換弁の切り換え判断及び前記電動機の回転数演算を行う切換判断・回転数制御部と、前記温度検出手段によって検出された前記電動機の温度が高いほど前記操作量切換点を大きくする切換点変更部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
電動機が低温状態にあるときには、高回転・高トルクの高負荷状態で長い時間駆動することができ、高温状態にあるときには、高負荷状態で駆動可能な時間が短くなる。したがって、予め設定された操作量切換点を超えるレバー操作量が入力されたときに、複数の電動機・油圧ポンプにより1つの油圧アクチュエータが駆動されるように電磁切換弁の切り換えを制御すると共に、駆動する電動機の温度に応じてこの操作量切換点を変更する構成とすることで、例えば駆動する電動機が低温状態にあるときには、操作量切換点が大きくなるので、結果として、複数の電動機・油圧ポンプを使用した油圧アクチュエータの駆動状態に移行せず、1つの電動機・油圧ポンプを使用した油圧アクチュエータの駆動状態が維持されやすくなる。これにより、回路の切換頻度を減らすことができるので、回路の切り換えに伴う振動や速度変動が発生する頻度が減り、油圧作業機械の制御性、操作性、快適性が向上する。また、電動機の過負荷を保護できるので、電動機の故障を防止できて、システムの信頼性を向上することができる。さらに、予め設定された操作量切換点を超えるレバー操作量が入力されたときに、複数の電動機・油圧ポンプにより1つの油圧アクチュエータが駆動されるように電磁切換弁の切り換えを制御するので、各電動機の小型化を図ることができ、油圧作業機械への搭載性を高めることができる。
【0014】
また本発明は、前記構成の油圧作業機械の駆動装置において、前記切換判断・回転数制御回路は、前記複数の電動機の温度を比較し、低温側の電動機を優先して使用することを特徴とする。
【0015】
上述したように、低温状態にある電動機ほど、高負荷状態で長い時間駆動することができるので、温度が低い電動機を優先的に使用することにより、複数の電動機・油圧ポンプを使用した油圧アクチュエータの駆動状態への移行頻度を減少でき、油圧作業機械の制御性、操作性、快適性を向上することができる。また、特定の電動機のみを長時間使用することがなくなるので、複数の電動機間での使用時間が均一化し、電動機の長寿命化・高信頼化も実現できる。
【0016】
また本発明は、前記構成の油圧作業機械の駆動装置において、前記複数の電動機として最大出力が異なる少なくとも2仕様以上の電動機を備え、前記切換判断・回転数制御回路は、出力が大きい油圧アクチュエータに最大出力が大きい電動機により駆動される油圧ポンプから吐出される圧油を主に供給されるように、前記電磁切換弁の切り換え判断を行うことを特徴とする。
【0017】
かかる構成によると、要求出力の大きい油圧アクチュエータについては、最大出力が大きい電動機を優先的に使用するので、当該要求出力の大きい油圧アクチュエータの駆動に際して、使用する電動機・油圧ポンプを単数から複数に切り換える頻度を減少でき、油圧作業機械の制御性、操作性、快適性を向上することができる。また、複数の電動機・油圧ポンプを用いて複数の油圧アクチュエータをそれぞれ駆動する複合駆動の時間を長くできるので、油圧作業機械の稼動効率を高めることもできる。さらに、要求出力の小さい油圧アクチュエータに主として使用される電動機については小出力のものを用いるので、トータルとして十分な出力を確保しながら油圧作業機械への搭載性を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電動油圧閉回路の駆動を制御するコントローラに、操作レバーから出力される操作量信号と予め設定された操作量切換点とを比較し、操作量信号が操作量切換点を超えたときに、複数の電動機によって駆動される複数の油圧ポンプから吐出される圧油が1つの油圧アクチュエータに供給されるように電磁切換弁の切り換え判断及び電動機の回転数演算を行う切換判断・回転数制御部と、電動機の温度が高いほど操作量切換点を高くする切換点変更部とを備えたので、電動機の温度状態に応じた適切な回路切り換えが可能になる。よって、無駄に頻繁な回路切り換えを抑制できるので、切換ショックや振動を防止して、油圧作業機械の制御性、操作性、快適性を向上できる。また、電動機の過負荷が防止されるので、システムの信頼性を向上できる。さらには、各電動機及び油圧ポンプが有している能力を無駄なく使うことができるので、電動機の小出力化ひいては小型化することができ、油圧作業機械への搭載性の向上と製造コストの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る電動油圧閉回路の回路図である。
【図2】実施形態に係る電動油圧閉回路を搭載した油圧ショベルの構成図である。
【図3】操作レバーの操作状況に対する電磁切換弁及びサーボアンプの動作例を示す表図である。
【図4】電動機のトルク−回転速度特性と油圧アクチュエータが要求する圧力−流量領域を重ね合わせたグラフ図である。
【図5】実施形態に係るコントローラの機能ブロック図である。
【図6】実施形態に係る駆動装置の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態に係る油圧作業機械の駆動装置につき、図を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態においては、油圧ショベルに搭載される駆動装置を例にとって説明するが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、ホイールローダ、ダンプトラック、ブルドーザなど、走行用及び作業用の油圧アクチュエータを備えた他の油圧作業機械の駆動装置に適用することもできる。
【0021】
まず、油圧ショベルの構成について説明すると、図2に示すように、本例の油圧ショベルは、下部走行体31と、下部走行体31に旋回可能に搭載された上部旋回体32と、上部旋回体32上に設置されたキャブ(運転室)33と、一端が上部旋回体に回動可能に連結されたブーム34と、一端がブーム34の先端部に回動可能に連結されたアーム35と、一端がアーム35の先端部に回動可能に連結されたバケット36と、ブーム34に対してアーム35を回動させるアームシリンダ7aと、上部旋回体32に対してブーム34を回動させるブームシリンダ7bとから主に構成されている。上部旋回体32には、以下に説明する駆動装置20と、コントローラ11と、バッテリ13とが搭載されている。ブーム34を下げる際は、ブーム34の自重によりブームシリンダ7bが駆動されるので、このエネルギにより駆動装置20の油圧ポンプ及び電動機が回転駆動され、回生電力が発生する。回生した電力は、バッテリ13に蓄電される。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る油圧作業機械の駆動装置20は、油圧ショベルのアームシリンダ7a及びブームシリンダ7bを駆動するもので、アームシリンダ7a及びブームシリンダ7bと第1及び第2の閉回路21,22を介してそれぞれ接続された第1油圧ポンプ2aと、アームシリンダ7a及びブームシリンダ7bと第3及び第4の閉回路23,24を介してそれぞれ接続された第2油圧ポンプ2bと、第1油圧ポンプ2aを駆動する第1電動機1aと、第2油圧ポンプ2bを駆動する第2電動機1bとを備えている。さらに、本実施形態に係る油圧作業機械の駆動装置20には、第1乃至第4の閉回路21〜24に適宜作動油を補充する低圧ポンプ8が備えられている。
【0023】
第1及び第2の油圧ポンプ2a,2bはいずれも両回転型の油圧ポンプである。また、第1電動機1aは第1油圧ポンプ2aに直結され、第2電動機1bは第2油圧ポンプ2bに直結されている。これら第1及び第2の電動機1a,1bは、それぞれ第1及び第2の油圧ポンプ2a,2bを正回転又は逆回転させることにより、オイルタンク9内の作動油を吸入・吐出して、アームシリンダ7a及びブームシリンダ7bを往復運動させる。本明細書では、第1電動機1aと第1油圧ポンプ2aの組み合わせを第1サーボポンプSP1、第2電動機1bと第2油圧ポンプ2bの組み合わせを第2サーボポンプSP2と呼ぶことがある。
【0024】
第1電動機1aには第1インバータ12aが付設され、第2電動機1bには第2インバータ12bが付設されていて、これら第1及び第2の電動機1a,1bは、第1及び第2のインバータ12a,12bを介して、コントローラ11から出力される駆動信号により駆動が制御される。駆動信号は、操作レバー10a,10bから出力される操作量信号と図示しない各種のセンサ類から出力されるセンサ信号とから、コントローラ11で算出される。
【0025】
電磁切換弁5a〜5dは、第1及び第2のサーボポンプSP1,SP2から吐出される作動油によって駆動される油圧アクチュエータを、アームシリンダ7a、ブームシリンダ7b又はその双方に切り換えるものである。電磁切換弁5a〜5dの切換状態とこれよって駆動される油圧アクチュエータとの関係は、図3に示してある。
【0026】
この図から明らかなように、第1電磁切換弁(V1A)5aのみをON状態に切り換えた場合には、第1サーボポンプSP1とアームシリンダ7aとが接続され、アーム35が単独で駆動される。第4電磁切換弁(V2B)5dのみをON状態に切り換えた場合には、第2サーボポンプSP2とブームシリンダ7bとが接続され、ブーム34が単独で駆動される。第1電磁切換弁(V1A)5aと第4電磁切換弁(V2B)5dとを同時にON状態に切り換えた場合には、第1サーボポンプSP1とアームシリンダ7aとが接続されると共に、第2サーボポンプSP2とブームシリンダ7bとが接続され、ブーム34とアーム35とがそれぞれ独立して複合的に駆動される。第1電磁切換弁(V1A)5aと第3電磁切換弁(V2A)5cをON状態に切り換えた場合には、第1サーボポンプSP1及び第2サーボポンプSP2とアームシリンダ7aとが接続され、アーム35が最高出力で駆動される。第2電磁切換弁(V1B)5bと第4電磁切換弁(V2B)5dをON状態に切り換えた場合には、第1サーボポンプSP1及び第2サーボポンプSP2とブームシリンダ7bとが接続され、ブーム34が最高出力で駆動される。さらに、第1乃至第4の電磁切換弁(V1A,V1B,V2A,V2B)5a〜5dを全てON状態に切り換えた場合には、第1サーボポンプSP1及び第2サーボポンプSP2とアームシリンダ7a及びブームシリンダ7bとが接続され、ブーム34及びアーム35を同時に駆動することによる高速動作が可能になる。
【0027】
第1乃至第4の閉回路21〜24に備えられたチェック弁3a〜3hは、回路内の圧力が下がると低圧ポンプ8からの油を吸い込み、回路内に発生するキャビテーションを防止する。リリーフ弁4a〜4hは、回路内の圧力が設定値以上になったとき、回路内の作動油をオイルタンク9に逃がし、ポンプや配管の破損を防止する。パイロットチェック弁6a〜6dは、片ロッドシリンダであるアームシリンダ7a及びブームシリンダ7bの往復動に伴う流量差の収支を合わせ、回路内の油を低圧ラインに排出・吸入する役割を持つ。
【0028】
図3は、回路切換時の電磁切換弁とサーボポンプの動作例を示す表である。停止状態では、図1に示した第1乃至第4の電磁切換弁(V1A,V1B,V2A,V2B)5a〜5dと、第1及び第2のサーボポンプSP1,SP2とはいずれもOFF状態に切り換えられている。この状態では、各電磁切換弁5a〜5dにより油の移動が阻止されるので、アームシリンダ7a及びブームシリンダ7bの自重による落下が防止される。アーム35のみを単独で動作する場合は、第1電磁切換弁(V1A)5aと第1サーボポンプSP1とをON状態に切り換え、ブーム34のみを単独で動作する場合は、第4電磁切換弁(V2A)5dと第2サーボポンプSP2とをON状態に切り換える。また、表には記載していないが、第3電磁切換弁(V2A)5cと第2サーボポンプSP2をON状態に切り換えた場合にも、アーム35を単独で動作させることができる。操作レバー10a,10bのレバー操作量が増え、ブーム34を最高出力で動作したい場合は、第2及び第4の電磁切換弁(V1B,V2B)5b,5dと第1及び第2のサーボポンプSP1,SP2とをON状態に切り換える。これにより、第1及び第2のサーボポンプSP1,SP2の両方がブームシリンダ7bに接続され、これら2つのサーボポンプSP1,SP2によりブームシリンダ7bを駆動することができる。さらに、油圧ショベルのフロント部分を高速に駆動する場合には、第1乃至第4の電磁切換弁5a〜5d及び第1及び第2のサーボポンプを全てON状態に切り換える。これにより、アームシリンダ7a及びブームシリンダ7bと第1及び第2のサーボポンプSP1,SP2と相互に接続されるので、アームシリンダ7aとブームシリンダ7bの同時駆動が可能になり、油圧ショベルのフロント部分を高速で駆動することができる。
【0029】
このような構成とすることで、小型の各サーボポンプSP1,SP2を用いて、必要なシリンダ出力を発生させることが可能になる。よって、油圧ショベルのように電動機1a,1bの搭載スペースが限られる油圧作業機械への適用が容易になる。
【0030】
次に、図4を用いて、電動機の連続使用領域及び反復使用領域について説明する。図4に示すように、一般に電動機の発生トルクは、高回転では減少する特性を示し、軸受などの耐久限界から最高回転数Nmaxが決まっている。図4に太い実線で示すAの領域は連続使用領域と呼ばれ、トルク及び回転数がこの領域内になるときには、連続して使用することができる。破線で示すBの領域は、反復使用領域と呼ばれ、短時間であれば使用できるが、Aの領域から離れるほど使用できる時間は短くなる。これは、Bの領域では熱的に平衡せず、電動機の温度が運転時間と共に上昇してしまうからである。この電動機で油圧ポンプを駆動すると、回転数に比例したポンプ流量、トルクに比例した圧力の油圧動力を得られるので、回転数の軸を流量に、トルクの軸を圧力に置き換えれば、この電動機の特性図はそのまま油圧ポンプの圧力−流量特性図に置き換えてみることができる。
【0031】
図4において、細い実線は、油圧ショベルに搭載する油圧アクチュエータ(例えば、ブームシリンダ7b)に求められる圧力−流量領域の例である。最高圧力Pa−maxは、油圧ショベルや油圧シリンダの最高圧力により規定され、最大流量Qa−maxは、アクチュエータの最大動作速度によって決まる。図4の例では、サーボポンプの最大流量Qp−maxよりもアクチュエータが要求する最大流量Qa−maxの方が大きくなる領域(ア)では、複数のサーボポンプで油圧アクチュエータを駆動する必要がある。また、Nmax以下の低回転域においても、Aで示す連続使用領域よりアクチュエータが要求する領域の方が広くなっているため、時間制限のある反復使用領域(イ)を使って駆動する必要がある。逆にいえば、Bの領域をできるだけ使用することで、サーボポンプの駆動数を増やすことなく、1つのサーボポンプのみで駆動できる領域が増えるので、無駄な回路切換を抑えて振動や速度変動を抑えると共に、複合動作の時間を長くすることができる。
【0032】
なお、十分に出力がある電動機を使用すれば、Aの連続使用領域のみを使用することも可能であるが、電動機が大型化して搭載性が低下し、電動機の搭載スペースに制限のある油圧ショベルでは実現困難となってしまうため、図4のような特性で選定するのが現実的である。したがって、駆動回路20のコントローラ11は、上記の考察を踏まえて、第1乃至第4の電磁切換弁5a〜5dの切換判断と第1及び第2の電動機1a,1bの回転数制御を合理的に行える構成とする必要がある。
【0033】
以下、実施形態に係るコントローラ11の構成を、図5に基づいて説明する。
【0034】
図5に示すように、実施形態にコントローラ11は、第1サーボポンプSP1の操作量切換点CPの変更回路11aと、第2サーボポンプSP2の操作量切換点CPの変更回路11bと、電磁切換弁の切換判断と電動機の回転数制御を行う切換判断・電動機回転数制御回路11cを備えている。まず、本例のコントローラは、操作レバー10a,10bの操作量が要求流量に比例することから、操作レバー10a,10bの操作量が小さいときには、1つのサーボポンプSP1又はSP2で油圧アクチュエータ7a,7bを駆動し、操作レバー10a,10bの操作量がコントローラ11に予め設定された操作量切換点CPを超えた場合には、2つのサーボポンプSP1及びSP2で油圧アクチュエータ7a,7bを駆動することを基本としている。
【0035】
また、図5に示すように、操作量切換点CPの変更回路11a,11bは、電動機1a,1bの温度に応じ、温度が低い場合は操作量切換点CPを高く設定し、温度が高い場合は操作量切換点CPを低く設定する。これにより、電動機1a,1bの温度が低い場合は、大きなレバー操作量まで1つのサーボポンプSP1又はSP2で各油圧アクチュエータ7a,7bを駆動することができ、逆に、電動機1a,1bの温度が高い場合は、レバー操作量が小さい段階で2つのサーボポンプSP1,SP2での各油圧アクチュエータ7a,7bの駆動に移行して、サーボポンプ1台当たりの出力を下げることができる。
【0036】
なお、電動機の温度は、熱電対などの温度センサを用いて直接計測して得たデータを用いるほか、電動機の電流、負荷圧力及び回転数などから計算により推定されるデータを用いることもできる。また、電動機の周辺部材やインバータの温度で代用することも可能である。本明細書において、電動機の温度とは、これら各温度の総称をいう。
【0037】
次に、図6を用いて、アームシリンダ7aを駆動操作する場合における駆動装置各部の切換動作タイミングを、切換例1〜3に分けて説明する。
【0038】
〈切換例1〉
アームレバー10aの操作量信号が入力されると同時に、第1電磁切換弁(V1A)5aがONとなり、サーボポンプSP1の流量をレバー操作量に応じて増やしてゆく。レバー操作量が操作量切換点CP(図6では、説明を容易にするため、CP1=CP2としてある)を超えると、第3電磁切換弁(V2A)5cもONとなり、サーボポンプSP2の流量を増やしてゆく。2つのサーボポンプSP1,SP2の流量が合流される結果、レバー操作量に応じたアーム速度を得ることができる。
【0039】
〈切換例2〉
電動機の温度が低い場合は、操作量切換点CPが高くなるため、1つのサーボポンプで駆動できる。この例では、サーボポンプSP1よりサーボポンプSP2の温度が低いため、操作量切換点CP1より操作量切換点CP2の方が高くなっており、温度が低い側のサーボポンプSP2を優先的に使用することで、1つのサーボポンプでの駆動が実現されている。
【0040】
〈切換例3〉
逆に、電動機の温度が高い場合には、操作量切換点CPが高くなるので、微小なレバー操作量から電磁切換弁V2AがONになり、2つのサーボアンプSP1,SP2での駆動となる。
【0041】
以上説明したように、本発明によれば、電動油圧閉回路の駆動を制御するコントローラ11に、電動機1a,1bの温度が高いほど操作量切換点CPを高く設定する切換点変更部11a,11bと、操作レバー10a,10bの操作量に応じて電磁切換弁5a〜5dの切り換え判断及び電動機1a,1bの回転数演算を行う切換判断・回転数制御部11cとを備えたので、電動機1a,1bの温度状態に応じた適切な回路切り換えが可能になり、頻繁な回路切り換えを抑制できて、油圧作業機械の制御性、操作性、快適性を向上できる。また、電動機1a,1bの過負荷が防止されるので、システムの信頼性を向上できる。さらには、各電動機1a,1b及び油圧ポンプ2a,2bが有している能力を無駄なく使うことができるので、電動機1a,1bを小出力化ひいては小型化することができ、油圧作業機械への搭載性の向上と製造コストの低減を実現することができる。
【0042】
なお、前記実施形態においては、2つのサーボポンプSP1,SP2と2つの油圧アクチュエータ7a,7bとを備えたが、サーボポンプの数と油圧アクチュエータの数は同数である必要はなく、本発明は、それぞれ複数のサーボポンプと油圧アクチュエータとを備えた駆動回路に適用することができる。
【0043】
また、前記実施形態においては、第1電動機1a及び第2電動機1bとして同一出力のものを用いた場合を例にとって説明したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、第1電動機1a及び第2電動機1bとして最大出力が異なる2仕様の電動機を備え、切換判断・回転数制御回路11cは、出力が大きい油圧アクチュエータに最大出力が大きい電動機により駆動される油圧ポンプから吐出される圧油を主に供給されるように、電磁切換弁5a〜5dの切り換え判断を行うこともできる。
【0044】
かかる構成によると、要求出力の大きい油圧アクチュエータについては、最大出力が大きい電動機を優先的に使用するので、当該要求出力の大きい油圧アクチュエータの駆動に際して、使用する電動機・油圧ポンプを単数から複数に切り換える頻度を減少でき、油圧作業機械の制御性、操作性、快適性を向上することができる。また、複数の電動機・油圧ポンプを用いて複数の油圧アクチュエータをそれぞれ駆動する複合駆動の時間を長くできるので、油圧作業機械の稼動効率を高めることもできる。さらに、要求出力の小さい油圧アクチュエータに主として使用される電動機については小出力のものを用いるので、トータルとして十分な出力を確保しながら油圧作業機械への搭載性を高めることができる。
【符号の説明】
【0045】
1…電動機、2…両回転油圧ポンプ、3a〜3h…チェック弁、4a〜4h…リリーフ弁、5a〜5d…電磁切換弁、6a〜6d…パイロットチェック弁、7a…アームシリンダ、7b…ブームシリンダ、8…低圧ポンプ、9…オイルタンク、10a,10b…操作レバー、11…コントローラ、12a,12b…インバータ、13…バッテリ、20…駆動回路、21〜24…閉回路、31…下部走行体、32…上部旋回体、33…キャビン、34…ブーム、35…アーム、36…バケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電動機と、これら複数の電動機のそれぞれにより個別に駆動される複数の油圧ポンプと、これら複数の油圧ポンプのそれぞれと閉回路接続された複数の油圧アクチュエータと、前記複数の油圧ポンプと前記複数の油圧アクチュエータとを接続する各閉回路に備えられた複数の電磁切換弁と、前記複数の油圧アクチュエータの駆動を個別に操作する複数の操作レバーと、これら複数の操作レバーから出力される操作量信号に応じて前記電動機の回転数と各電磁切換弁の切り換えを制御するコントローラと、前記複数の電動機の温度を検出する温度検出手段を備えると共に、
前記コントローラに、
前記操作レバーから出力される前記操作量信号と予め設定された操作量切換点とを比較し、前記操作量信号が前記操作量切換点を超えたときに、前記複数の電動機によって駆動される前記複数の油圧ポンプから吐出される圧油が前記複数の油圧アクチュエータの1つに供給されるように前記電磁切換弁の切り換え判断及び前記電動機の回転数演算を行う切換判断・回転数制御部と、
前記温度検出手段によって検出された前記電動機の温度が高いほど前記操作量切換点を高く設定する切換点変更部とを備えた
ことを特徴とする油圧作業機械の駆動装置。
【請求項2】
前記切換判断・回転数制御回路は、前記複数の電動機の温度を比較し、低温側の電動機を優先して使用することを特徴とする請求項1に記載の油圧作業機械の駆動装置。
【請求項3】
前記複数の電動機として最大出力が異なる少なくとも2仕様以上の電動機を備え、前記切換判断・回転数制御回路は、出力が大きい油圧アクチュエータに最大出力が大きい電動機により駆動される油圧ポンプから吐出される圧油を主に供給されるように、前記電磁切換弁の切り換え判断を行うことを特徴とする請求項1に記載の油圧作業機械の駆動装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−68011(P2013−68011A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207678(P2011−207678)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】