説明

油圧制御装置、変速制御装置及び車両制御装置

【課題】 エンジン駆動のオイルポンプとモータ駆動のオイルポンプの作動を必要に応じて切り替えて油圧駆動部を制御する油圧制御装置において、そのオイルポンプの切り替え時に最適な油圧制御を実現できるようにする。
【解決手段】 本発明の油圧制御装置においては、エンジン駆動のオイルポンプ(第1オイルポンプ)からモータ駆動のオイルポンプ(第2オイルポンプ)に切り替えられる際に、その第1オイルポンプの停止前に第2オイルポンプが駆動され、その油圧が高められる。このため、両オイルポンプの合成油圧が、その切り替え直後に落ち込むことを防止でき、必要な元圧を保持することができる。このため、オイルポンプの切り替え時に最適な油圧制御を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン駆動のオイルポンプとモータ駆動のオイルポンプの作動を必要に応じて切り替え、油圧駆動部を制御する油圧制御装置、変速制御装置及び車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の向上や排気ガスの低減等を目的としたハイブリッド車両の開発が進んでいる。このハイブリッド車両は、動力源として内燃機関からなるエンジンと電磁駆動のモータジェネレータとを備え、例えば発進時のように急なトルクが必要とされる場合や、街中走行時や渋滞時のように車両が低速走行する場合には主としてモータ駆動され、車両が低負荷で走行する場合には主としてエンジン駆動される。また、大きな加速要求がある場合には、エンジン及びモータの双方が駆動され、所定の減速時には、駆動輪から入力される動力をモータジェネレータに伝達してこれを発電機として作動させ、その回生エネルギーを電気エネルギーとして車載バッテリに充電したりする。
【0003】
ところで、このようなハイブリッド車両には、例えば油圧制御により作動する無段変速機が搭載され、その制御用の油圧をエンジン駆動のオイルポンプにより供給するようにしているが、走行モードによってはエンジンが停止されるため、そのエンジン停止時にも油圧源を確保する必要がある。そこで、例えばエンジン駆動の第1オイルポンプ、モータ駆動の第2オイルポンプ、及びこれらの作動を切り替える切り替え手段を設け、エンジン駆動時には主として第1オイルポンプを作動させ、エンジン停止時には主として第2オイルポンプを作動させることにより油圧源を確保することが行われていた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−280458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなオイルポンプの切り替え時には、新たに駆動されるオイルポンプの油圧が直ちに立ち上がるわけではないため、全体として作動油の油圧が低下して最適な油圧制御が実現できない可能性がある。
【0005】
図12は、従来の油圧制御装置によるオイルポンプの制御状態を表すタイミングチャートである。同図の横軸は時間の経過を表し、縦軸は上段から第1オイルポンプの油圧,第2オイルポンプの油圧,これらの合成油圧をそれぞれ表している。また、同図において、実線は出力指示値を表し、破線は実際の出力値(「実出力値」という)を表している。
【0006】
すなわち、第1オイルポンプと第2オイルポンプは、その切り替え時点において出力指示値がステップ的に切り替えられるが、機械構造的な応答遅れや油路を流れる作動油の時間遅れなどにより、各オイルポンプによる実出力値はなだらかに変化する。その結果、その切り替え時点の直後において、合成油圧にその出力指示値(両オイルポンプの出力指示値を合わせた仮想的な出力指示値:以下「目標油圧」ともいう)よりもやや落ち込んだ部分が生じる。このため、場合によっては下流側に設置された油圧制御装置の元圧を生成することができず、無段変速機の最適な油圧制御が実現できなくなり、燃費の悪化や変速ショック等によるドライバビリティの低下を招くといった問題があった。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、エンジン駆動のオイルポンプとモータ駆動のオイルポンプの作動を必要に応じて切り替えて油圧駆動部を制御する油圧制御装置において、そのオイルポンプの切り替え時に最適な油圧制御を実現できるようにすること、さらには、その最適な油圧制御により安定した変速制御、車両制御を実現できる変速制御装置、車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では上記問題を解決するために、油圧駆動される油圧駆動部を制御する油圧制御装置であって、エンジンにより駆動される第1オイルポンプから供給された作動油、及び電動モータにより駆動される第2オイルポンプから供給された作動油の少なくとも一方を用いて前記油圧駆動部へ供給する油圧を制御する油圧制御手段と、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプを駆動して所定期間経過後に前記一方のオイルポンプの駆動を停止させるポンプ駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする油圧制御装置が提供される。
【0009】
このような油圧制御装置によれば、エンジン駆動の第1オイルポンプからモータ駆動の第2オイルポンプに切り替えられる際には、第1オイルポンプの停止前に第2オイルポンプが予め駆動され、その油圧が高められる。逆に、第2オイルポンプから第1オイルポンプに切り替えられる際には、第2オイルポンプの停止前に第1オイルポンプが予め駆動され、その油圧が高められる。
【0010】
このため、両オイルポンプの合成油圧が、その切り替え直後に落ち込むことを防止又は抑制することができ、油圧駆動部に供給すべき油圧を確保することができる。なお、仮に合成油圧がオイルポンプにより供給すべき油圧より高くなったとしても、油圧制御手段により油圧駆動部へ供給する油圧が制御されるため、何ら問題は生じない。
【0011】
また、本発明では、油圧駆動される油圧駆動部を制御する油圧制御装置であって、エンジンにより駆動される第1オイルポンプから供給された作動油、及び電動モータにより駆動される第2オイルポンプから供給された作動油の少なくとも一方を用いて前記油圧駆動部へ供給する油圧を制御する油圧制御手段と、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプによる切り替え直後の目標油圧を、切り替え後の定常時の油圧よりも高く設定するポンプ駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする油圧制御装置が提供される。
【0012】
このような油圧制御装置によれば、エンジン駆動の第1オイルポンプからモータ駆動の第2オイルポンプに切り替えられる際には、第2オイルポンプによる切り替え直後の目標油圧が、切り替え後の定常時に必要な油圧よりも高く設定される。逆に、第2オイルポンプから第1オイルポンプに切り替えられる際には、第1オイルポンプによる切り替え直後の目標油圧が、切り替え後の定常時に必要な油圧よりも高く設定される。
【0013】
このため、切り替え後に駆動される側のオイルポンプの油圧を早期に立ち上げることができ、また、両オイルポンプの切り替え直後の合成油圧が相対的に高くなる。このため、油圧駆動部に供給すべき油圧を確保することができる。
【0014】
また、本発明では、油圧駆動される油圧駆動部を有する変速機を制御する変速制御装置であって、エンジンにより駆動される第1オイルポンプから供給された作動油、及び電動モータにより駆動される第2オイルポンプから供給された作動油の少なくとも一方を用いて元圧を生成し、その元圧を用いて制御された油圧を前記油圧駆動部へ供給することにより、前記変速機の変速比及び/又はクラッチの係合を制御する変速制御手段と、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプを駆動して所定期間経過後に前記一方のオイルポンプの駆動を停止させるポンプ駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする変速制御装置が提供される。
【0015】
このような変速制御装置によれば、第1オイルポンプ又は第2オイルポンプから供給された作動油を用いて元圧が生成され、その元圧をさらに減圧するなどして制御された油圧が油圧駆動部に供給されることにより、所定の変速制御が実行される。そして、エンジンが停止されることにより第1オイルポンプから第2オイルポンプに切り替えられる際には、第1オイルポンプの停止前に第2オイルポンプが予め駆動され、その油圧が高められる。逆に、エンジンが再始動されるなどして第2オイルポンプから第1オイルポンプに切り替えられる際には、第2オイルポンプの停止前に第1オイルポンプが予め駆動され、その油圧が高められる。
【0016】
このため、両オイルポンプの合成油圧が、その切り替え直後に落ち込むことを防止又は抑制することができ、油圧駆動部に供給すべき油圧を確保することができる。その結果、変速制御手段が、オイルポンプの切り替え時にも安定した変速制御を実行することができる。
【0017】
また、本発明では、油圧駆動される油圧駆動部を有する変速機を制御する変速制御装置であって、エンジンにより駆動される第1オイルポンプから供給された作動油、及び電動モータにより駆動される第2オイルポンプから供給された作動油の少なくとも一方を用いて元圧を生成し、その元圧を用いて制御された油圧を前記油圧駆動部へ供給することにより、前記変速機の変速比及び/又はクラッチの係合を制御する変速制御手段と、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプによる切り替え直後の目標油圧を、切り替え後の定常時の油圧よりも高く設定するポンプ駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする変速制御装置が提供される。
【0018】
このような変速制御装置においても、第1オイルポンプ又は第2オイルポンプから供給された作動油を用いて元圧が生成され、その元圧をさらに減圧するなどして制御された油圧が油圧駆動部に供給されることにより、所定の変速制御が実行される。そして、エンジンが停止されることにより第1オイルポンプから第2オイルポンプに切り替えられる際には、第2オイルポンプによる切り替え直後の目標油圧が、切り替え後の定常時に必要な油圧よりも高く設定される。逆に、エンジンが再始動されるなどして第2オイルポンプから第1オイルポンプに切り替えられる際には、第1オイルポンプによる切り替え直後の目標油圧が、切り替え後の定常時に必要な油圧よりも高く設定される。
【0019】
このため、切り替え後に駆動される側のオイルポンプの油圧を早期に立ち上げることができ、また、両オイルポンプの切り替え直後の合成油圧が相対的に高くなる。このため、油圧駆動部に供給すべき油圧を確保することができる。その結果、変速制御手段が、オイルポンプの切り替え時にも安定した変速制御を実行することができる。
【0020】
さらに、本発明では、油圧駆動される油圧駆動部を有する変速機と、エンジンにより駆動されて前記油圧駆動部へ向けて作動油を供給する第1オイルポンプと、電動モータにより駆動されて前記油圧駆動部へ向けて作動油を供給する第2オイルポンプと、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプの少なくとも一方から供給された前記作動油を用いて前記油圧駆動部へ供給する油圧を制御する油圧制御手段と、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプを駆動して所定期間経過後に前記一方のオイルポンプの駆動を停止させるポンプ駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする車両制御装置が提供される。
【0021】
このような車両制御装置によれば、変速機の油圧駆動部へ向けて油圧を供給するオイルポンプが、エンジン駆動される第1オイルポンプとモータ駆動される第2オイルポンプの2種類で構成され、その走行状態により適宜切り替えられる。そして、エンジンが停止されることにより第1オイルポンプから第2オイルポンプに切り替えられる際には、第1オイルポンプの停止前に第2オイルポンプが予め駆動され、その油圧が高められる。逆に、エンジンが再始動されるなどして第2オイルポンプから第1オイルポンプに切り替えられる際には、第2オイルポンプの停止前に第1オイルポンプが予め駆動され、その油圧が高められる。
【0022】
このため、両オイルポンプの合成油圧が、その切り替え直後に落ち込むことを防止又は抑制することができ、油圧駆動部に供給すべき油圧を確保することができる。その結果、オイルポンプの切り替え時にも安定した変速制御、ひいては安定した車両制御が実現される。
【0023】
また、本発明では、油圧駆動される油圧駆動部を有する変速機と、エンジンにより駆動されて前記油圧駆動部へ向けて作動油を供給する第1オイルポンプと、電動モータにより駆動されて前記油圧駆動部へ向けて作動油を供給する第2オイルポンプと、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプの少なくとも一方から供給された前記作動油を用いて前記油圧駆動部へ供給する油圧を制御する油圧制御手段と、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプによる切り替え直後の目標油圧を、切り替え後の定常時の油圧よりも高く設定するポンプ駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする車両制御装置が提供される。
【0024】
このような車両制御装置においても、変速機の油圧駆動部へ向けて油圧を供給するオイルポンプが、エンジン駆動される第1オイルポンプとモータ駆動される第2オイルポンプの2種類で構成され、その走行状態により適宜切り替えられる。そして、エンジンが停止されることにより第1オイルポンプから第2オイルポンプに切り替えられる際には、第2オイルポンプによる切り替え直後の目標油圧が、切り替え後の定常時に必要な油圧よりも高く設定される。逆に、エンジンが再始動されるなどして第2オイルポンプから第1オイルポンプに切り替えられる際には、第1オイルポンプによる切り替え直後の目標油圧が、切り替え後の定常時に必要な油圧よりも高く設定される。
【0025】
このため、切り替え後に駆動される側のオイルポンプの油圧を早期に立ち上げることができ、また、両オイルポンプの切り替え直後の合成油圧が相対的に高くなる。このため、オイルポンプの切り替え時にも油圧駆動部に供給すべき油圧を確保することができ、安定した変速制御、ひいては安定した車両制御が実現される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の油圧制御装置によれば、オイルポンプの切り替え直後の合成油圧を高くすることにより、切り替え後に駆動されるオイルポンプにより供給すべき油圧を確保することができるため、オイルポンプの切り替え時に最適な油圧制御を実現することができる。
【0027】
本発明の変速制御装置によれば、オイルポンプの切り替え直後の合成油圧を高くすることにより、切り替え後に駆動されるオイルポンプにより供給すべき油圧を確保することができるため、オイルポンプの切り替え時に安定した変速制御を実現することができる。
【0028】
また、本発明の車両制御装置によれば、オイルポンプの切り替え直後の合成油圧を高くすることにより、切り替え後に駆動されるオイルポンプにより供給すべき油圧を確保することができるため、オイルポンプの切り替え時に安定した車両制御を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
本実施の形態は、本発明の変速制御装置を、内燃機関からなるエンジンと電磁駆動のモータジェネレータにより駆動されるハイブリッド車両(以下、単に「車両」という)に適用したものである。図1は、第1の実施の形態に係る車両制御装置の構成を表すシステム構成図である。
【0030】
この車両制御装置は、車両の前輪1を駆動するエンジン2と、後輪3を駆動するモータジェネレータ4とを備える。エンジン2は、所定の運転状態において一時的に停止制御が可能となっている。一方、モータジェネレータ4は、車両の駆動時にはモータとして機能し、車両の制動時にはジェネレータとして機能し得る。
【0031】
エンジン2の一方の出力軸には、機械式のオイルポンプ5、トルクコンバータ6、前後進クラッチ7、無段変速機8、及びリダクションギヤ9が順次接続され、リダクションギヤ9の出力がディファレンシャル10を介して左右の前輪1に伝達される。
【0032】
トルクコンバータ6は、エンジン2の動力を車軸に滑らかに伝えるためのものであり、エンジン2の出力軸に連結されたポンプインペラ、そのトルクコンバータ6の出力軸に連結されたタービンライナ、これらの間に挟まれて内部のオイルの流れを変えるステータ、及び所定条件によりポンプインペラとタービンライナとを締結するロックアップクラッチ等を備えている。
【0033】
前後進クラッチ7は、プラネタリギヤからなり、トルクコンバータ6の出力軸に連結されたサンギヤ、無段変速機8の入力軸に連結されたキャリア、ブレーキに連結されたリングギヤを備えている。
【0034】
無段変速機8は、その入力軸に連結されたプライマリプーリ11、出力軸に連結されたセカンダリプーリ12、及び両プーリの間に掛け渡されたベルト13を備え、入力軸から伝達されたトルクを出力軸へ伝達する。この無段変速機8の変速制御は、油圧回路14による油圧制御によりなされる。この油圧回路14は、エンジン2により駆動される上記オイルポンプ5(「第1オイルポンプ」に該当する)又は電動モータ15により駆動されるオイルポンプ16(「第2オイルポンプ」に該当する)によりオイルタンクから汲み上げられた作動油を用いて油圧制御を行う。そして、プライマリプーリ11の溝幅を油圧制御により変化させる一方、セカンダリプーリ12のベルト13への挟圧力を油圧制御により保持し、各プーリにおけるベルト13の掛径をそれぞれ変化させることにより、入力軸と出力軸との回転数の比である変速比を連続的に変化させる。なお、本実施の形態においては、プライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12が「油圧駆動部」に該当する。
【0035】
リダクションギヤ9は、車軸の回転方向をエンジン2の出力軸の回転方向に一致させるものである。すなわち、無段変速機8において、その入力軸と出力軸との間で回転方向が反転するが、リダクションギヤ9は、その反転された出力軸の回転方向をさらに反転させて入力軸の回転方向に合わせる。
【0036】
ディファレンシャル10は、リダクションギヤ9の出力を左右の前輪1にそれぞれつながるアクセルシャフトに伝達するとともに、車両がカーブを走行するときの左右の前輪1の回転差を吸収し、車両のスムーズな走行を実現させる。
【0037】
また、エンジン2の他方の出力軸には、所定の回転ベルトを介して発電用のモータジェネレータ21と、車両用交流発電機であるオルタネータ22が並列に接続されている。モータジェネレータ21は、エンジン2の動力により発電し、モータジェネレータ4に電源を供給したり、後述する各バッテリを充電したりする。このオルタネータ22にて発生した電力は、図示しない車両のエアコンや照明機器等の各種補機に供給され、さらに余剰電力が発生した場合には、補機用の補機バッテリ23に供給されて充電される。
【0038】
さらに、必要に応じてモータジェネレータ4に電力を供給するためのHVバッテリ24が設けられている。モータジェネレータ4、モータジェネレータ21、オルタネータ22及びHVバッテリ24の中央には、DC−DCコンバータ25及び各種インバータ26を含むインバータユニット27が設けられている。そして、各ジェネレータで発生した電力や各バッテリから供給された電力は、このインバータユニット27を介して所定電圧に変圧されるなどして各制御対象に供給され、また、各ジェネレータで発生した電力を用いて各バッテリを充電できるようになっている。
【0039】
各制御対象は、それぞれ電子制御装置(Electronic Control Unit:以下「ECU」という)により制御される。すなわち、車両制御ECU31によりエンジン制御及び変速制御を含む車両制御が行われる。この車両制御ECU31には、エンジン制御を実行するエンジン制御部32と変速制御を実行する変速制御部33が設けられている。また、バッテリECU34によりHVバッテリ24の充放電制御が行われる。さらに、ハイブリッド制御ECU(以下「HVECU」という)35により、後述する複数の走行モードが切り替えられ、エンジン駆動(前輪駆動)、モータ駆動(後輪駆動)、4輪駆動、制動・回生等のための各種演算処理が行われ、各ECUに動作指令が出力される。
【0040】
上述した各ECUは、それぞれマイクロコンピュータからなる演算部を中心に構成された独立した電子制御ユニットである。各ECUは、各種演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)、各種の制御演算プログラムやデータを格納したROM(Read Only Memory)、演算過程の数値やフラグが所定領域に格納されるRAM(Random Access Memory)、演算処理の結果などが格納される不揮発性の記憶装置であるEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D(Analog/Digital)コンバータ、各種デジタル信号が入出力される入出力インタフェース、演算過程で使用される計時用のタイマ、及びこれら各機器がそれぞれ接続されるバスラインなどを備えている。また、各ECUには、通信ラインを介して互いに通信処理を行うための通信制御部が内蔵されている。
【0041】
車両制御ECU31のエンジン制御部32には、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ、吸入空気量を検出するエアフローメータ、スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ、冷却水温を検出する水温センサ、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ、車両駆動軸の回転から車速を検出する車速センサ、イグニッションスイッチなどのセンサ・スイッチ類が接続されるとともに、エンジン2の気筒毎に設けられたインジェクタ、点火用の高電圧を発生するイグナイタ、燃料タンクから燃料を汲み上げてインジェクタに供給する燃料ポンプ、エンジン2の吸気管に設けられたスロットルバルブを開閉するためのスロットル駆動モータ、といったエンジン制御のための各種アクチュエータが接続されている。エンジン制御部32は、ROMに格納された制御プログラムにしたがって、車両を駆動させるために必要な駆動トルクを発生させる所定のエンジン制御処理を行う。
【0042】
また、車両制御ECU31の変速制御部33には、無段変速機8の入力軸の回転数を検出する入力軸回転数センサ、無段変速機8の出力軸の回転数を検出する出力軸回転数センサ、車両駆動軸の回転から車速を検出する車速センサ、作動油の温度を検出する油温センサ、セカンダリプーリ内の油圧(ベルト挟圧)を検出するベルト挟圧センサ、といったセンサ類が接続されるとともに、無段変速機8の変速を制御する変速ソレノイド、無段変速機8のベルトの滑りを抑制するためにそのベルトの挟圧力を制御するベルト挟圧ソレノイド、変速制御に用いられる油圧の元圧となるライン圧を制御するライン圧制御ソレノイド、トルクコンバータ6の入・出力軸を締結する後述するロックアップクラッチの締結力を操作するためのロックアップ圧ソレノイド、といった変速制御のための各種アクチュエータが接続されている。変速制御部33は、ROMに格納された制御プログラムにしたがって所定の変速制御処理を行う。
【0043】
バッテリECU34には、HVバッテリ24の充電電圧を検出する電圧センサ等のセンサ類が接続されている。このバッテリECU34は、センサの検出信号に基づいて現在のHVバッテリ24の充電量をHVECU35に出力したり、HVECU35からの指令に基づき、HVバッテリ24に対して、インバータユニット27に供給すべき電圧の供給指令を出力したりする。
【0044】
HVECU35は、上述した通信ラインを介して他のECUと通信可能に接続され、他のECUから必要な情報を取得するとともに、他のECUに対して走行制御のための制御指令を出力し、また、必要に応じてモータジェネレータ4を駆動制御する。また、HVECU35は、所定の信号線を介してインバータユニット27にも接続されており、各種インバータ26等を制御し、HVバッテリ24からモータジェネレータ4へ供給される駆動電流、あるいは、モータジェネレータ4からHVバッテリ24へ回生される回生電流を調整する。HVECU35は、車両の走行制御について予め定めたモード切替条件に基づいて後述する複数のモードの切り替えを行い、各モードに対応して車両制御ECU31へ動作指令を出力し、またモータジェネレータ4を制御する。
【0045】
次に、上述した無段変速機の構成及び油圧制御動作について詳細に説明する。図2は、無段変速機を制御する油圧制御系の構成を表すブロック図である。また、図3は、無段変速機及びその油圧制御部の概略構成を表す説明図である。
【0046】
図2に示すように、エンジン駆動時においては、エンジン2に駆動されるオイルポンプ5によってオイルタンク17に溜められた作動油が汲み上げられ、油圧回路14に供給される。一方、エンジン停止時においては、車両制御ECU31が電動モータ15を駆動制御する。そして、この電動モータ15により駆動されるオイルポンプ16によってオイルタンク17の作動油が汲み上げられ、油圧回路14に供給される。油圧回路14は、オイルポンプ5及び16の少なくとも一方により供給された作動油を用いて油圧制御の元圧となるライン圧を生成し、無段変速機8の油圧制御を実行する。なお、両オイルポンプ5,16の切り替え制御の詳細については後述する。
【0047】
図3に示すように、無段変速機8は、上記プライマリプーリ11、セカンダリプーリ12及びVベルト13からなる変速機構と、この変速機構の動作を油圧制御する油圧回路14とから構成される。油圧回路14は、車両制御ECU31から出力された制御指令に基づいた油圧制御を行う。
【0048】
プライマリプーリ11は、無段変速機8の入力軸41と一体に形成された固定輪42と、固定輪42に対向配置された可動輪43とを有する。これら固定輪42と可動輪43との間には、Vベルト13を挟むテーパ状の溝部が形成されている。また、可動輪43のVベルト13とは反対側には、可動輪43との間で容積可変のプライマリ油室44を形成するケース45が、入力軸41に一体に形成されている。入力軸41の内部には、油圧回路14の制御によりプライマリ油室44の作動油を給排するための油路46が形成されている。そして、このプライマリ油室44の油量を調整することにより、可動輪43を固定輪42に近接又は離間する方向に動作させ、Vベルト13の掛径を変化させる。
【0049】
セカンダリプーリ12は、無段変速機8の出力軸51と一体に形成された固定輪52と、固定輪52に対向配置された可動輪53とを有する。これら固定輪52と可動輪53との間には、Vベルト13を挟むテーパ状の溝部が形成されている。また、可動輪53のVベルト13とは反対側には、可動輪53との間で容積可変のセカンダリ油室54を形成するチャンバ壁55が、出力軸51に一体に形成されている。出力軸51の内部には、油圧回路14の制御によりセカンダリ油室54の作動油を給排するための油路56が形成されている。そして、セカンダリ油室54の油量を調整することにより、可動輪53を固定輪52に近接又は離間する方向に動作させ、Vベルト13への挟圧力を保持する。
【0050】
すなわち、油圧回路14の制御により、プライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12におけるVベルト13の掛径をそれぞれ変化させることにより、入力軸と出力軸との間の変速比が連続的に変化する。その際、セカンダリプーリ12の挟圧力により、Vベルト13が各プーリに対して滑ることを防止又は抑制している。
【0051】
油圧回路14は、オイルポンプ5及び16の少なくとも一方によりオイルタンクから汲み上げられて供給された作動油を用いてライン圧を生成するライン圧制御部60と、ライン圧を用いてプライマリプーリ11のプライマリ油室44の油量を制御するプライマリ油量制御部70、ライン圧を減圧してセカンダリプーリ12へ供給するセカンダリ圧を生成するセカンダリ圧制御部80とを備えている。
【0052】
ライン圧制御部60は、ライン圧を生成するために動作するライン圧制御バルブ61と、これを動作制御する油圧制御ソレノイド62を備える。油圧制御ソレノイド62は、ライン圧が変速制御部33の指令に基づいて供給される電流値に応じた大きさになるようにライン圧制御バルブ61を駆動する。
【0053】
プライマリ油量制御部70は、ライン圧制御部60にて生成されたライン圧を用いてプライマリプーリ11のプライマリ油室44に流入出する作動油の流量を制御する。プライマリ油量制御部70は、その作動油の流量を増加させるように動作するアップ変速バルブ71及びこれを動作制御するアップ変速ソレノイド72と、その作動油の流量を減少させるように動作するダウン変速バルブ73及びこれを動作制御するダウン変速ソレノイド74と、プライマリ油室44内の圧力(「プライマリ圧」という)の低下を検知して、ライン圧を用いてその油室に追加の作動油を供給するチェックバルブ75とを備える。
【0054】
アップ変速ソレノイド72及びダウン変速ソレノイド74は、それぞれ変速制御部33の指令に基づいて通電がオン・オフされるデューティ制御により動作する。アップ変速ソレノイド72は、そのデューティ比に応じた開口面積が得られるようにアップ変速バルブ71を駆動し、ライン圧の作動油のプライマリ油室44への給入量を調整する。一方、ダウン変速ソレノイド74は、変速制御部33の指令に基づいて供給される電流のデューティ比に応じた開口面積が得られるようにダウン変速バルブ73を駆動し、プライマリ油室44内からの作動油に排出量を調整する。
【0055】
チェックバルブ75は、ライン圧が供給される油路とダウン変速バルブ73との間に配置されている。このチェックバルブ75は、逆止弁となっており、ライン圧の作動油を減圧してダウン変速バルブ73に入力することはできるが、ダウン変速バルブ73から流れてきた作動油が、ライン圧が供給される油路へ逆流するのは阻止する。すなわち、チェックバルブ75は、ライン圧とプライマリ圧との差圧を感知し、プライマリ圧が低下してその差圧が所定値以上に大きくなると機械的に開弁し、ライン圧の作動油を減圧してダウン変速バルブ73に入力する。この作動油は、ダウン変速ソレノイド74の動作によってチェックバルブ75とプライマリプーリ11とを連通する油路が開放されることにより、プライマリプーリ11へ供給される。すなわち、ダウン変速ソレノイド74は、ダウン変速バルブ73の弁体の位置を駆動制御することにより、プライマリ圧を減圧したり増圧したりすることができる。
【0056】
セカンダリ圧制御部80は、ライン圧制御部60にて生成されたライン圧を減圧するセカンダリ圧制御バルブ81を備える。このセカンダリ圧制御バルブ81は、油圧制御ソレノイド62により動作制御される。油圧制御ソレノイド62は、セカンダリ圧が変速制御部33の指令に基づいて供給される電流値に応じた大きさになるように、セカンダリ圧制御バルブ81を駆動する。すなわち、油圧回路14においては、ライン圧を生成するライン圧制御バルブ61とセカンダリ圧を生成するセカンダリ圧制御バルブ81とが共通の油圧制御ソレノイド62にて制御されるため、ライン圧はこのセカンダリ圧に比例した大きさとなる。
【0057】
次に、エンジン制御及び変速制御の概要について説明する。
車両制御ECU31のエンジン制御部32は、まず、ドライバの加減速要求を表すアクセル開度や、車両の実際の走行状態を表す車速及び負荷等に基づいて演算した車軸トルクと、所定の走行制御を実現するために他のECUから入力された要求車軸トルクとに基づいて、目標とする駆動トルクを算出する。
【0058】
そして、エンジン制御部32は、この駆動トルクに対して車速センサが検出した車速、つまり車軸回転数とを積算し、この駆動トルクをエンジンから取り出すために必要なパワーを算出する。そして、このパワーを実現するためのエンジントルクとエンジン回転数とを、燃費が最も良くなる条件に基づいて決定する。この条件は、エンジントルクとエンジン回転数との関係を燃費率に関連付けて示した図示しない制御マップを参照し、その最適燃費線に沿った動作点を選択することにより行われる。エンジン制御部32は、このとき算出されたエンジントルクを目標エンジントルクとし、現在のエンジントルクをこの目標エンジントルクに近づけるフィードバック制御により、各アクチュエータを制御する。
【0059】
一方、車両制御ECU31の変速制御部33は、上記目標エンジントルクに対応したエンジン回転数に基づき、無段変速機8の入力軸の目標回転数である目標入力軸回転数を算出し、この目標入力軸回転数を出力軸回転数にて除算して目標変速比を算出する。そして、この目標変速比と現在の変速比である実変速比との偏差を用いたフィードバック制御を行い、変速制御のために各油圧アクチュエータに出力すべき制御指示値を演算する。油圧回路14では、この制御指示値に基づいて各油圧アクチュエータが駆動されて各バルブを動作制御し、目標変速比が得られるようにプライマリ油室44へ給排する作動油の油量及びセカンダリ油室54へ給排するセカンダリ圧を調整する。
【0060】
次に、本実施の形態の車両制御装置における車両の走行制御の方法について説明する。
この車両制御装置においては4つの走行制御モードが設定され、HVECU35が、車両の走行状態及びHVバッテリ24等の充電状態に基づき、以下に述べる4WDモード,エンジンモード,EVモード及び回生モードの中から適切な走行制御モードを選択する。
【0061】
4WDモードは、エンジン2及びモータジェネレータ4の双方を駆動する走行モードであり、前後進クラッチ7が係合状態となり、前輪1及び後輪3の双方が駆動される。この4WDモードは、車両の加速時や、エンジンモードやEVモードにおいてその駆動輪が空転したとき等に選択される。
【0062】
エンジンモードは、モータジェネレータ4を停止してエンジン2のみを駆動する走行モードであり、前後進クラッチ7が係合状態となり、前輪1のみが駆動される。このエンジンモードは、エンジン2の始動時や、車両が特にエンジン効率のよい運転領域にあるときに選択される。
【0063】
EVモードは、エンジン2を停止してモータジェネレータ4のみを駆動する走行モードであり、前後進クラッチ7が開放状態となり、後輪3のみが駆動される。このEVモードは、車両が比較的低負荷での発進時、あるいは低速走行時や緩やかな坂道を下っているときなど、車両がエンジン効率の悪い運転領域にあるときに選択される。
【0064】
回生モードは、モータジェネレータ4を回生させてHVバッテリ24を充電する走行モードであり、エンジン2が停止されるとともに前後進クラッチ7が開放され、後輪3のみが駆動される。この回生モードは、HVバッテリ24の充電量が低いときなどに選択される。
【0065】
次に、本実施の形態の変速制御におけるオイルポンプの切り替え処理について詳細に説明する。図4は、変速制御におけるオイルポンプの制御状態を表すタイミングチャートである。同図の横軸は時間の経過を表し、縦軸は上段からオイルポンプ5(第1オイルポンプ)の油圧,オイルポンプ16(第2オイルポンプ)の油圧,これらの合成油圧をそれぞれ表している。また、同図において、実線は出力指示値を表し、破線は実出力値を表している。
【0066】
本実施の形態においては、上述した変速制御において油圧回路14によりライン圧を生成するために、各オイルポンプの切り替え時に油圧回路14へ供給されるべき油圧を確保するための処理が行われる。
【0067】
例えば、エンジン2が駆動される4WDモード及びエンジンモードにおいては、オイルポンプ5が駆動されて変速制御のための油圧制御が行われるが、エンジン2が停止されるEVモードにおいては、オイルポンプ16が駆動されて油圧制御が行われる。このため、両オイルポンプの切り替え時において油圧回路14への供給油圧が不足するのを防止するために、両オイルポンプが同時に駆動されるオーバラップ期間が設けられている。
【0068】
すなわち、4WDモード又はエンジンモードからEVモードへの移行条件が成立すると、車両制御ECU31が、例えば時間t1に電動モータ15の駆動指令を出力し、オイルポンプ5を停止する前にオイルポンプ16の駆動を開始する。このとき、オイルポンプ16への出力指示値はオイルポンプ5の油圧(APa)に等しく設定され、オイルポンプ16の油圧は徐々に上昇していく。
【0069】
そして、オイルポンプ16への駆動指令から所定のディレイ時間Δt(「所定期間」に該当する)を経過した時間t2に、エンジン2の停止指令を出力する。これにより、燃料カット及び点火カットが実行されてエンジン2が停止されるとともに、オイルポンプ5の駆動も停止されてその油圧が徐々に低下していく。
【0070】
このように、オイルポンプ5からオイルポンプ16への切り替えの際に、予めオイルポンプ16を駆動してその油圧をある程度上昇させてからオイルポンプ5の駆動を停止することで、切り替え直後の合成油圧の落ち込みを防止している。この制御は、時間t2にオイルポンプの切り替えが行われるようにHVECU35から制御指示があった場合に、予め第2オイルポンプを駆動させ、その後所定期間Δtが経過した後に第1オイルポンプを停止させるように制御してもよいし、時間t1にオイルポンプの切り替えを行うように制御指示があった場合に、とりあえず第2オイルポンプを駆動させ、その後所定期間Δtが経過した後に第1オイルポンプを停止させるように制御してもよい。なお、図示のように、切り替え直後において合成油圧による実出力値が出力指示値(目標油圧)を超えているが、このとき生成された油圧は油圧回路14により調圧されるため、何ら問題はない。
【0071】
次に、本実施の形態の車両制御処理の流れについて簡単に説明する。なお、当該車両制御処理は、走行モードの変更に伴うオイルポンプの切り替え処理に特徴があるため、この切り替え処理を中心に説明する。ここでは、エンジン駆動によりオイルポンプ5が駆動されている状態から車両の走行モードが変更され、モータ駆動によりオイルポンプ16が駆動されるように切り替えられるときを例に説明する。図5は、車両制御ECUが実行する処理の流れを表すフローチャートである。以下、この処理の流れをステップ番号(以下「S」で表記する)を用いて説明する。
【0072】
車両制御ECU31は、上述のように、4WDモード又はエンジンモードからEVモードへの移行条件が成立して走行モードの切り替え指令が出力されたか否かを判断する(S1)。このとき、切り替え指令が出力されていないと判断すると(S1:NO)、そのまま処理を終了する。
【0073】
一方、S1において、切り替え指令が出力されたと判断すると(S1:YES)、まず、電動モータ15を駆動してオイルポンプ16を作動させ、これによる油圧の供給を開始する(S2)。そして、切り替え時の油圧の落ち込みが生じないものとして予め設定したディレイ時間の経過を待つ(S3)。
【0074】
そして、そのディレイ時間が経過すると(S3:YES)、エンジン2を停止してオイルポンプ5の駆動を停止するとともに、モータジェネレータ4を駆動する(S4)。これにより、変速制御のためのオイルポンプが切り替えられる。
【0075】
なお、本実施の形態において、車両制御ECU31が、油圧制御手段、変速制御手段及びポンプ駆動制御手段に該当する。
以上に説明したように、本実施の形態においては、エンジン駆動のオイルポンプ5からモータ駆動のオイルポンプ16に切り替えられる際に、そのオイルポンプ5の停止前にオイルポンプ16が駆動され、その油圧が高められる。このため、両オイルポンプの合成油圧が、その切り替え直後に落ち込むことを防止でき、必要な元圧を保持することができる。このため、オイルポンプの切り替え時に最適な油圧制御を実現することができる。その結果、オイルポンプの切り替え時においても安定した変速制御、ひいては車両制御を実現することができる。
【0076】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態は、オイルポンプの切り替え時の処理部分が異なる以外は、上記第1の実施の形態と同様である。このため、第1の実施の形態と同様の部分についてはその説明を省略する。図6は、第2の実施の形態の変速制御におけるオイルポンプの制御状態を表すタイミングチャートであり、図4に対応するものである。
【0077】
同図に示されるように、オイルポンプ5からオイルポンプ16への切り替え時において油圧回路14への供給油圧が不足するのを防止するために、オイルポンプ16による切り替え直後の目標油圧を、切り替え後の定常時の油圧よりも高く設定している。
【0078】
すなわち、4WDモード又はエンジンモードからEVモードへの移行条件が成立すると、車両制御ECU31が、例えば時間t21にエンジン2の停止指令を出力するとともに、電動モータ15の駆動指令を出力する。このため、オイルポンプ5の駆動が停止され、オイルポンプ16が駆動される。このとき、オイルポンプ16の切り替え直後のディレイ時間Δt2(「所定期間」に該当する)は、出力指示値が切り替え後の定常時の出力指示値(APa)よりもΔPだけ高く設定されるため、オイルポンプ16の油圧の立ち上がりが早くなる。このオイルポンプ16の出力指示値は、ディレイ時間Δt2が経過した時間t22に定常時の出力指示値(APa)に設定変更される。このような制御により、切り替え後の合成油圧に落ち込みはなく、十分な油圧を確保することができる。
【0079】
次に、本実施の形態の車両制御処理の流れについて簡単に説明する。図7は、車両制御ECUが実行する処理の流れを表すフローチャートであり、図5に対応するものである。以下、この処理の流れをステップ番号(以下「S」で表記する)を用いて説明する。
【0080】
車両制御ECU31は、上述のように、4WDモード又はエンジンモードからEVモードへの移行条件が成立して走行モードの切り替え指令が出力されたか否かを判断する(S21)。このとき、切り替え指令が出力されていないと判断すると(S21:NO)、そのまま処理を終了する。
【0081】
一方、S21において、切り替え指令が出力されたと判断すると(S21:YES)、オイルポンプ16の出力指示値(目標油圧)を定常時の出力指示値(APa)よりも所定量高く設定する(S22)。そして、エンジン2を停止してオイルポンプ5の駆動を停止するとともに、電動モータ15を駆動してオイルポンプ16の駆動を開始する(S23)。そして、切り替え時の油圧の落ち込みが生じないものとして予め設定したディレイ時間の経過を待つ(S24)。
【0082】
そして、そのディレイ時間が経過すると(S24:YES)、オイルポンプ16の出力指示値を定常時の出力指示値に設定変更する(S25)。これにより、変速制御のためのオイルポンプが切り替えられる。
【0083】
なお、本実施の形態において、車両制御ECU31が、油圧制御手段、変速制御手段及びポンプ駆動制御手段に該当する。
以上に説明したように、本実施の形態においては、エンジン駆動のオイルポンプ5からモータ駆動のオイルポンプ16に切り替えられる際に、そのオイルポンプ16による切り替え直後の目標油圧が、切り替え後に必要な油圧よりも高く設定される。このため、両オイルポンプの合成油圧が、その切り替え直後に落ち込むことを防止でき、必要な元圧を保持することができる。このため、オイルポンプの切り替え時に最適な油圧制御を実現することができる。その結果、オイルポンプの切り替え時においても安定した変速制御、ひいては車両制御を実現することができる。
【0084】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はその特定の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の精神の範囲内での変化変形が可能であることはいうまでもない。
【0085】
例えば、各オイルポンプにより供給される作動油の粘性が油温によって変化することに着目し、各オイルポンプの制御量を補正するようにしてもよい。つまり、油温が低くなって粘性が高まると油圧が高まり難い傾向があるため、制御量を大きくするような補正が考えられる。
【0086】
図8及び図9は、第1の実施の形態に対する変形例を表すタイミングチャートであり、図4に対応するものである。これらの図において、実線は高温時の出力指示値を表し、一点鎖線は低温時の出力指示値を表し、破線は実出力値を表している。
【0087】
すなわち、図8に示すように、予めオイルポンプ16を作動させてからオイルポンプ5を停止させるまでのディレイ時間を、作動油の油温が低いほど長くなるように設定することにより、必要な油圧を確保するようにしてもよい。
【0088】
あるいは、図9に示すように、ディレイ時間の目標油圧を作動油の油温が低いほど高くなるように設定することにより、必要な油圧を確保するようにしてもよい。
図10及び図11は、第2の実施の形態に対する変形例を表すタイミングチャートであり、図6に対応するものである。これらの図において、実線は高温時の出力指示値を表し、一点鎖線は低温時の出力指示値を表し、破線は実出力値を表している。
【0089】
すなわち、図10に示すように、切り替え直後の目標油圧の保持期間を、作動油の油温が低いほど長くなるように設定することにより、必要な油圧を確保するようにしてもよい。
【0090】
あるいは、図11に示すように、切り替え直後の目標油圧を作動油の油温が低いほど高くなるように設定することにより、必要な油圧を確保するようにしてもよい。
なお、上記各実施の形態及び変形例では、本発明の油圧制御装置を無段変速機の変速制御に適用した例を示したが、多段式の自動変速機の変速制御に適用することも可能である。また、エンジンの停止・再始動により油圧源が切り替えられる制御対象であれば、例えば油圧制御によるクラッチやブレーキなど、種々の制御対象に適用することもできる。
【0091】
また、上記各実施の形態及び変形例では、ハイブリッド車両において走行モードが切り替えられる場合に本発明を適用した例を示したが、本発明は、例えば信号待ちや渋滞等において車両を自動的に停止・再始動させるアイドルストップ制御を行う場合などにも適用することができる。
【0092】
上記各実施の形態及び変形例では、本発明の変速制御装置を、4WDモード又はエンジンモードからEVモードへ移行する場合、つまり、機械式オイルポンプから電動オイルポンプに切り替える場合に適用する例を説明したが、逆に、EVモードからエンジンモードに移行する場合など、電動オイルポンプから機械式オイルポンプに切り替える場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第1の実施の形態に係る車両制御装置の構成を表すシステム構成図である。
【図2】無段変速機を制御する油圧制御系の構成を表すブロック図である。
【図3】無段変速機及びその油圧制御部の概略構成を表す説明図である。
【図4】変速制御におけるオイルポンプの制御状態を表すタイミングチャートである。
【図5】車両制御ECUが実行する処理の流れを表すフローチャートである。
【図6】第2の実施の形態の変速制御におけるオイルポンプの制御状態を表すタイミングチャートである。
【図7】車両制御ECUが実行する処理の流れを表すフローチャートである。
【図8】第1の実施の形態に対する変形例を表すタイミングチャートである。
【図9】第1の実施の形態に対する変形例を表すタイミングチャートである。
【図10】第2の実施の形態に対する変形例を表すタイミングチャートである。
【図11】第2の実施の形態に対する変形例を表すタイミングチャートである。
【図12】従来の油圧制御装置によるオイルポンプの制御状態を表すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0094】
2 エンジン
4 モータジェネレータ
5,16 オイルポンプ
8 無段変速機
11 プライマリプーリ
12 セカンダリプーリ
13 ベルト
14 油圧回路
15 電動モータ
17 オイルタンク
21 モータジェネレータ
31 車両制御ECU
32 エンジン制御部
33 変速制御部
60 ライン圧制御部
70 プライマリ油量制御部
80 セカンダリ圧制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧駆動される油圧駆動部を制御する油圧制御装置であって、
エンジンにより駆動される第1オイルポンプから供給された作動油、及び電動モータにより駆動される第2オイルポンプから供給された作動油の少なくとも一方を用いて前記油圧駆動部へ供給する油圧を制御する油圧制御手段と、
前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプを駆動して所定期間経過後に前記一方のオイルポンプの駆動を停止させるポンプ駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする油圧制御装置。
【請求項2】
前記ポンプ駆動制御手段は、前記所定期間を、前記作動油の油温が低いほど長くなるように設定することを特徴とする請求項1記載の油圧制御装置。
【請求項3】
前記ポンプ駆動制御手段は、前記所定期間の目標油圧を、前記作動油の油温が低いほど高くなるように設定することを特徴とする請求項1記載の油圧制御装置。
【請求項4】
油圧駆動される油圧駆動部を制御する油圧制御装置であって、
エンジンにより駆動される第1オイルポンプから供給された作動油、及び電動モータにより駆動される第2オイルポンプから供給された作動油の少なくとも一方を用いて前記油圧駆動部へ供給する油圧を制御する油圧制御手段と、
前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプによる切り替え直後の目標油圧を、切り替え後の定常時の油圧よりも高く設定するポンプ駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする油圧制御装置。
【請求項5】
前記ポンプ駆動制御手段は、前記切り替え直後の目標油圧の保持期間を、前記作動油の油温が低いほど長くなるように設定することを特徴とする請求項4記載の油圧制御装置。
【請求項6】
前記ポンプ駆動制御手段は、前記目標油圧を、前記作動油の油温が低くなるほど高くなるように設定することを特徴とする請求項5記載の油圧制御装置。
【請求項7】
油圧駆動される油圧駆動部を有する変速機を制御する変速制御装置であって、
エンジンにより駆動される第1オイルポンプから供給された作動油、及び電動モータにより駆動される第2オイルポンプから供給された作動油の少なくとも一方を用いて元圧を生成し、その元圧を用いて制御された油圧を前記油圧駆動部へ供給することにより、前記変速機の変速比及び/又はクラッチの係合を制御する変速制御手段と、
前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプを駆動して所定期間経過後に前記一方のオイルポンプの駆動を停止させるポンプ駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする変速制御装置。
【請求項8】
油圧駆動される油圧駆動部を有する変速機を制御する変速制御装置であって、
エンジンにより駆動される第1オイルポンプから供給された作動油、及び電動モータにより駆動される第2オイルポンプから供給された作動油の少なくとも一方を用いて元圧を生成し、その元圧を用いて制御された油圧を前記油圧駆動部へ供給することにより、前記変速機の変速比及び/又はクラッチの係合を制御する変速制御手段と、
前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプによる切り替え直後の目標油圧を、切り替え後の定常時の油圧よりも高く設定するポンプ駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする変速制御装置。
【請求項9】
油圧駆動される油圧駆動部を有する変速機と、
エンジンにより駆動されて前記油圧駆動部へ向けて作動油を供給する第1オイルポンプと、
電動モータにより駆動されて前記油圧駆動部へ向けて作動油を供給する第2オイルポンプと、
前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプの少なくとも一方から供給された前記作動油を用いて前記油圧駆動部へ供給する油圧を制御する油圧制御手段と、
前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプを駆動して所定期間経過後に前記一方のオイルポンプの駆動を停止させるポンプ駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項10】
駆動源として前記エンジンとモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両に適用され、
前記ポンプ駆動制御手段は、少なくとも前記エンジンを駆動源とする走行モードから、前記エンジンを停止して前記モータジェネレータを駆動源とする走行モードに切り替わる際に、前記第2オイルポンプを予め駆動し、前記所定期間経過後に前記エンジンを停止させることにより前記第1オイルポンプの駆動を停止させることを特徴とする請求項9記載の車両制御装置。
【請求項11】
油圧駆動される油圧駆動部を有する変速機と、
エンジンにより駆動されて前記油圧駆動部へ向けて作動油を供給する第1オイルポンプと、
電動モータにより駆動されて前記油圧駆動部へ向けて作動油を供給する第2オイルポンプと、
前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプの少なくとも一方から供給された前記作動油を用いて前記油圧駆動部へ供給する油圧を制御する油圧制御手段と、
前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプを駆動制御し、一方のオイルポンプから他方のオイルポンプへ駆動を切り替える際には、前記他方のオイルポンプによる切り替え直後の目標油圧を、切り替え後の定常時の油圧よりも高く設定するポンプ駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項12】
駆動源として前記エンジンとモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両に適用され、
前記ポンプ駆動制御手段は、少なくとも前記エンジンを駆動源とする走行モードから、前記エンジンを停止して前記モータジェネレータを駆動源とする走行モードに切り替わる際に、前記エンジンを停止させることにより前記第1オイルポンプの作動を停止させるとともに、前記電動モータを駆動して前記目標油圧に基づいて前記第2オイルポンプを作動させることを特徴とする請求項11記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−2933(P2007−2933A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184497(P2005−184497)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】