説明

油圧制御装置

【課題】 第2の圧油吐出口から圧油必要部に圧油を供給する場合に、その供給応答性を向上することの可能な油圧制御装置を提供する。
【解決手段】 第1の圧油吐出口56および第2の圧油吐出口57と、第1の圧油吐出口56から吐出された圧油が供給されるプライマリレギュレータバルブ62と、プライマリレギュレータバルブ62から排出された圧油が供給される圧油必要部93,95とを有し、第2の圧油吐出口57から吐出された圧油が、圧油必要部93,95に供給されるように構成されている油圧制御装置において、第2の圧油吐出口57から吐出された圧油を、プライマリレギュレータバルブ62を介さずに圧油必要部93,95に供給するバイパス回路109,110を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の動力伝達装置の動作部材や、各種の産業機械の動作部材の動作を制御する場合に用いる油圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の動力伝達装置においては、動作部材の動作を制御することにより、動力源と車輪との間で伝達される動力が制御されるように構成されており、その動作部材の動作を制御する場合に、油圧制御装置を用いることが知られている。この油圧制御装置の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されている油圧制御装置は、複数のオイル吐出口を有するオイルポンプと、複数のオイル吐出口のうち、第1のオイル吐出口から吐出された圧油が供給され、かつ、プライマリレギュレータバルブの第1の入力ポートに接続された第1の油路と、複数のオイル吐出口のうち、第2のオイル吐出口から吐出された圧油が供給され、かつ、プライマリレギュレータバルブの第2の入力ポートに接続された第2の油路とを有している。
【0003】
また、第1の油路と第2の油路との間には逆止弁が設けられており、この逆止弁は、第2の油路から第1の油路に圧油が流れることを許容し、かつ、第1の油路から第2の油路に圧油が流れることを防止する構成を有している。前記プライマリレギュレータバルブは、軸線方向に動作するスプールを有しており、このスプールの動作により、第1の入力ポートから第3の油路に排出される圧油の流量を制御するとともに、第2の入力ポートから第4の油路に排出される圧油の流量を制御するように構成されている。
【0004】
具体的には、第1の油路における圧油の必要量が増加して、第1の油路の油圧が低下した場合は、スプールがスプリングにより付勢されて、第1の入力ポートが狭められて、第1の入力ポートから第3の油路に排出される圧油の流量が減少する。また、このスプールの動作により、第2の入力ポートが狭められて、第2の入力ポートから第4の油路に排出されるオイルの流量が減少する。そして、第2の油路の油圧が第1の油路の油圧よりも上昇した場合に逆止弁が開放されて、第2のオイル吐出口から吐出された圧油が、逆止弁を経由して第1の油路に供給される。このようにして、第1の油路に供給される圧油の流量が増加して、第1の油路における圧油の流量不足が解消される。また、第1の油路におけるオイル量不足が解消されて、第1の油路の油圧が上昇すると、スプールが逆向きに動作して第1の入力ポートが開放されて、第1の油路から第3の油路に圧油が排出されるとともに、第2の入力ポートが開放されて、第2の油路から第4の油路に排出される圧油の流量が増加する。なお、複数のオイル吐出口を有する油圧制御装置は、特許文献2および特許文献3にも記載されている。
【特許文献1】特開2004−76817号公報
【特許文献2】特開2004−324664号公報
【特許文献3】特開2003−193819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されている油圧制御装置においては、第2のオイル吐出口から第4の油路に供給されるオイルの流量は、プライマリレギュレータバルブのスプールの動作に依存しており、第1の油路の油圧が所定圧まで上昇するまでの間は、第2のオイル吐出口から吐出された圧油を第4の油路に供給することができず、第4の油路に対する圧油の供給遅れが生じる可能性があった。
【0006】
この発明は上記事情を背景としてなされたものであり、第2の圧油吐出口から圧油必要部に圧油を供給する場合に、その供給応答性を向上することの可能な油圧制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、第1の圧油吐出口および第2の圧油吐出口と、前記第1の圧油吐出口から吐出された圧油が供給されるプライマリレギュレータバルブと、前記プライマリレギュレータバルブから排出された圧油が供給される圧油必要部とを有し、前記第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、前記圧油必要部に供給されるように構成されている油圧制御装置において、前記第2の圧油吐出口から吐出された圧油を、前記プライマリレギュレータバルブを介さずに前記圧油必要部に供給するバイパス回路を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、動力源から車輪に至る動力伝達経路に流体伝動装置が設けられており、この流体伝動装置が、圧油の運動エネルギにより動力伝達をおこなうように構成され、前記流体伝動装置に圧油を供給する第1の油路が設けられており、前記圧油必要部には前記第1の油路が含まれることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1の構成に加えて、動力源から車輪に至る動力伝達経路に圧油を供給し、かつ、この動力伝達経路を潤滑する潤滑回路が設けられており、前記圧油必要部には前記潤滑回路が含まれることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1の構成に加えて、動力源から車輪に至る動力伝達経路に流体伝動装置が設けられており、流体伝動装置が、圧油の運動エネルギにより動力伝達をおこなうように構成され、前記動力伝達経路に潤滑油を供給する潤滑回路が設けられており、前記圧油必要部には、前記流体伝動装置に圧油を供給する第1の油路と、前記潤滑回路とが含まれることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの構成に加えて、前記バイパス回路に、前記第2の圧油吐出口から吐出された圧油が通過するポートを有する連通規制機構が設けられており、前記圧油必要部における圧油の必要状態を表す条件に基づいて、前記ポートの開口面積が制御されるように、前記連通規制機構が構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項5の構成に加えて、前記第1の圧油吐出口から吐出された圧油が前記プライマリレギュレータバルブを経由して排出され、この排出された圧油をセカンダリレギュレータバルブの入力側に供給する第2の油路と、この第2の油路に配置された絞り部とを有し、前記連通規制機構は、前記第2の油路の絞り部の上流と下流との差圧に基づいて、前記ポートの連通状態を切り換えるように構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7の発明は、請求項6の構成に加えて、前記第2の圧油吐出口から吐出された圧油を、前記プライマリレギュレータバルブを介して前記圧油必要部に供給する第3の油路と、前記第2の吐出口から吐出された圧油を、前記第1の吐出口から吐出された圧油と同じ経路で前記プライマリレギュレータバルブに供給する第4の油路とが、更に設けられており、前記プライマリレギュレータバルブは、この第4の油路の油圧の上昇にともない、前記第3の油路を介して前記圧油必要部に圧油を供給する通路の開口面積が拡大されるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、第1の圧油吐出口から吐出された圧油がプライマリレギュレータバルブに供給され、プライマリレギュレータバルブの排出ポートから排出された圧油が圧油必要部に供給される。さらに、第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、プライマリレギュレータバルブを介さずに、バイパス油路を経由して圧油必要部に供給される。したがって、プライマリレギュレータバルブの動作に関わりなく、第1の圧油吐出口から吐出された圧油を圧油必要部に供給することができ、圧油必要部に対する圧油の供給応答性が向上する。
【0015】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、動力源の動力が流体伝動装置を経由して車輪に伝達される。この流体伝動装置では、圧油の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。そして、第1の圧油吐出口および第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、流体伝動装置に供給される。したがって、流体伝動装置における動力伝達機能を確保できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、動力源から車輪に至る動力伝達経路に圧油が供給されて、動力伝達経路が潤滑される。そして、第1の圧油吐出口および第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、潤滑経路に供給される。したがって、動力伝達経路における潤滑機能を確保できる。
【0017】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、動力源の動力が流体伝動装置を経由して車輪に伝達される。この流体伝動装置では、圧油の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。また、動力源から車輪に至る動力伝達経路に圧油が供給されて、動力伝達経路が潤滑される。そして、第1の圧油吐出口および第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、流体伝動装置に供給される。したがって、流体伝動装置における動力伝達機能を確保できる。さらに、第1の圧油吐出口および第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、潤滑経路に供給される。したがって、動力伝達経路における潤滑機能を確保できる。
【0018】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、連通規制機構を経由して圧油必要部に供給される。また、圧油必要部における圧油の必要状態に基づいて、連通規制機構のポートの開口面積が制御される。したがって、圧油必要部における圧油の必要状態に応じて、圧油を過不足無く供給することが可能である。
【0019】
請求項6の発明によれば、請求項5の発明と同様の効果を得られる他に、プライマリレギュレータバルブから排出された圧油が、第2の油路を経由してセカンダリレギュレータバルブに供給される。そして、第2の油路における絞り部の上流と下流との差圧に基づいて、ポートの連通状態が切り換えられる。したがって、第2の圧油吐出口から圧油必要部に供給される圧油の流量を制御することができる。
【0020】
請求項7の発明によれば、請求項6の発明と同様の効果を得られる他に、第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、第4の油路を経由してプライマリレギュレータバルブに供給されるとともに、第4の油路の油圧が上昇することにともない、第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、プライマリレギュレータバルブ第3の油路を経由して圧油必要部に供給される場合に、その圧油が通過する通路の開口面積が拡大される。したがって、第2の圧油吐出口から圧油を吐出させるための負荷が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに、この発明の油圧制御装置を、車両用の動力伝達装置の動作部材の動作を制御するために用いる場合の具体例を、図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両のパワートレーン、およびその車両の制御系統を、図2に示す。図2に示す車両Veにおいては、動力源1と車輪2との間の動力伝達経路に、流体伝動装置3、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、ベルト式無段変速機6などが設けられている。動力源1としては、例えば、エンジンまたはモータ・ジェネレータの少なくとも一方を用いることができる。このエンジンは、燃料を燃焼させ、その熱エネルギを運動エネルギに変換して出力する動力装置である。エンジンとしては、内燃機関、より具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることが可能である。これに対して、モータ・ジェネレータは、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有する回転装置であり、エンジンとモータ・ジェネレータとでは動力の発生原理が異なる。この実施例では、動力源1としてエンジンが用いられている場合について説明する。
【0022】
また、流体伝動装置3およびロックアップクラッチ4は、動力源1と前後進切り換え機構5との間の動力伝達経路に設けられており、流体伝動装置3とロックアップクラッチ4とは相互に並列に配置されている。この流体伝動装置3は、流体の運動エネルギにより動力を伝達する装置であり、流体伝動装置3は、トルクコンバータまたはフルードカップリングのいずれでもよい。また、ロックアップクラッチ4は、摩擦力により動力を伝達する装置である。
【0023】
さらに、前後進切り換え機構5は、入力部材に対する出力部材の回転方向を、選択的に切り換える装置である。この前後進切り換え機構5は、差動回転可能な要素を有する遊星歯車機構(図示せず)と、遊星歯車機構の要素同士を係合・解放するクラッチ(図示せず)と、遊星歯車機構の要素の回転・停止を制御するブレーキ(図示せず)とを有している。この実施例では、クラッチやブレーキとして摩擦式の係合装置が設けられており、この係合装置の係合圧が、油圧により制御されるように構成されている。
【0024】
ベルト式無段変速機6は、前後進切り換え機構5と車輪2との間の動力伝達経路に設けられている。ベルト式無段変速機6は、相互に平行に配置されたプライマリシャフト7およびセカンダリシャフト8を有している。このプライマリシャフト7にはプライマリプーリ9が設けられており、セカンダリシャフト8にはセカンダリプーリ10が設けられている。プライマリプーリ9は、プライマリシャフト7に固定された固定シーブ11と、プライマリシャフト7の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ12とを有している。そして、固定シーブ11と可動シーブ12との間に溝M1が形成されている。
【0025】
また、この可動シーブ12をプライマリシャフト7の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ12と固定シーブ11とを接近・離隔させる油圧サーボ機構13が設けられている。この油圧サーボ機構13は、油圧室13Aと、油圧室13Aの油圧に応じてプライマリシャフト7の軸線方向に動作でき、かつ、可動シーブ12に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。一方、セカンダリプーリ10は、セカンダリシャフト8に固定された固定シーブ14と、セカンダリシャフト8の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ15とを有している。そして、固定シーブ14と可動シーブ15との間にはV字形状の溝M2が形成されている。
【0026】
また、この可動シーブ15をセカンダリシャフト8の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ15と固定シーブ14とを接近・離隔させる油圧サーボ機構16が設けられている。この油圧サーボ機構16は、油圧室26と、油圧室26の油圧によりセカンダリシャフト8の軸線方向に動作でき、かつ、可動シーブ15に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。上記構成のプライマリプーリ9およびセカンダリプーリ10に、無端状のベルト17が巻き掛けられている。一方、ベルト式無段変速機6の油圧サーボ機構13,16およびロックアップクラッチ4、および前後進切り換え機構5を制御する油圧制御装置18が設けられている。さらに、動力源1、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、ベルト式無段変速機6、油圧制御装置18を制御するコントローラとしての電子制御装置52が設けられている。
【0027】
この電子制御装置52には、エンジン回転数、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、スロットルバルブの開度、シフトポジション、プライマリシャフト7の回転数、セカンダリシャフト8の回転数などの検知信号が入力される。このセカンダリシャフト8の回転数に基づいて車速が求められる。電子制御装置52には各種のデータが記憶されており、電子制御装置52に入力される信号、および記憶されているデータに基づいて、電子制御装置52からは、動力源1を制御する信号、ベルト式無段変速機6を制御する信号、前後進切り換え機構5を制御する信号、ロックアップクラッチ4を制御する信号、油圧制御装置18を制御する信号などが出力される。
【0028】
電子制御装置52に記憶されているデータとしては、変速制御マップ、ロックアップクラッチ制御マップなどが挙げられる。この変速制御マップは、車速、アクセル開度などに基づいて、ベルト式無段変速機6の変速比を設定するマップである。動力源1としエンジンが用いられている場合は、ベルト式無段変速機6の変速比の制御により、最適燃費曲線に応じた目標エンジン回転数に、実エンジン回転数を近づけることが可能である。また、これに合わせて実エンジントルクを目標エンジントルクに近づける制御が実行される。なお、ロックアップクラッチ制御マップは、車速、アクセル開度などに基づいて、ロックアップクラッチ4のトルク容量を設定するマップである。
【0029】
つぎに、図2に示す車両Veの作用を説明する。動力源1のトルクは、流体伝動装置3またはロックアップクラッチ4のいずれか一方を経由して、前後進切り換え機構5に入力される。そして、前後進切り換え機構5から出力されたトルクは、ベルト式無段変速機6のプライマリシャフト7に伝達される。プライマリシャフト7のトルクは、プライマリプーリ9、ベルト17、セカンダリプーリ10を介してセカンダリシャフト8に伝達される。そして、セカンダリシャフト8のトルクが車輪2に伝達されて駆動力が発生する。ここで、ベルト式無段変速機6の変速制御を説明する。まず、油圧室13Aの油圧に基づいて、プライマリプーリ9の可動シーブ12を軸線方向に動作させる推力が変化する。また、油圧サーボ機構16の油圧室26の油圧により、セカンダリプーリ10の可動シーブ15を軸線方向に動作させる推力が変化する。そして、可動シーブ12の軸線方向の動作に応じて溝M1の幅が変化し、可動シーブ15の軸線方向の動作に応じて溝M2の幅が変化する。
【0030】
上記のようにして、溝M1の幅が調整されると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径と、セカンダリプーリ10におけるベルト17の巻き掛け半径との比が変化する。その結果、プライマリシャフト7とセカンダリシャフト8との間の回転速度の比、すなわち変速比が変化する。具体的には、油圧室13Aの油圧が高められて溝M1の幅が狭められると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が大きくなり、ベルト式無段変速機6の変速比が小さくなるように変速する。これに対して、油圧室13Aの油圧が低下して溝M1の幅が広げられると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が小さくなり、ベルト式無段変速機6の変速比が大きくなるように変速する。
【0031】
また、この変速制御に伴い溝M2の幅が調整されると、ベルト17に作用する挟圧力が変化してベルト17の張力が変化する。その結果、プライマリシャフト7とセカンダリシャフト8との間で伝達されるトルクの容量が制御される。具体的には、油圧室26の油圧が高められて、ベルト17に作用する挟圧力が高められると、トルク容量が大きくなる。これに対して、油圧室26の油圧が低下されて、ベルト17に作用する挟圧力が弱められると、トルク容量が小さくなる。このように、ベルト17に作用する挟圧力の変化に伴い、ベルト式無段変速機6のトルク容量が変化する。ところで、図2に示す車両Veにおいては、油圧制御装置18の一部を構成する油圧回路として各種の構成を採用することができる。以下、これらの油圧回路の構成例を順次説明する。
【実施例1】
【0032】
この油圧回路の実施例1を図1に示す。図1に示す油圧回路には、オイルポンプ53が設けられている。このオイルポンプ53は、動力源1により駆動されるように構成されている。オイルポンプ53は、複数の圧油吸入口54,55および複数の圧油吐出口56,57を有しており、圧油吸入口54と圧油吐出口56とが接続され、圧油吸入口55と圧油吐出口57とが接続されている。この圧油吸入口54および圧油吐出口56により、メインオイルポンプが構成され、圧油吸入口55および圧油吐出口57により、サブポリポンプが構成されている。また、圧油吸入口54,55は、油路58およびストレーナ59Aを介してオイルパン59に接続されている。一方の圧油吐出口56には油路60が接続されており、油路60の圧油が圧油必要部61に供給されるように構成されている。この圧油必要部61としては、例えば、油圧室13A,26、および前後進切り換え機構5の摩擦係合装置の係合圧を制御する油圧室(図示せず)などが挙げられる。
【0033】
また、油路60にはプライマリレギュレータバルブ62が接続されている。このプライマリレギュレータバルブ62は、図1において上下方向に動作可能なスプール63と、スプール63を図1において下向きに付勢する弾性部材64Aとを有している。弾性部材64Aとしては、圧縮コイルばねを用いることが可能である。また、プライマリレギュレータバルブ62は、入力ポート64,65およびドレーンポート67,68およびフィードバックポート69および信号圧ポート70を有している。ここで、入力ポート64が油路60に接続され、入力ポート65が、油路71を介して圧油吐出口57に接続され、フィードバックポート69が油路60に接続されている。さらに、信号圧ポート70にはソレノイドバルブ(図示せず)の信号圧が入力される。さらに、前記スプール63にはランド部72,73,74,75が形成されている。そして、信号圧ポート70に入力される信号圧がランド部72の受圧面に作用して、スプール63を図1において下向きに付勢する力が生じる。また、フィードバックポート69の油圧がランド部74の受圧面に作用して、スプール63を図1で上向きに付勢する力が生じる。
【0034】
このようにして、スプール63が動作して、入力ポート64とドレーンポート67との間の開口面積がランド部73により制御され、入力ポート65とドレーンポート68との間の開口面積がランド部72により制御される構成となっている。具体的には、図1においてスプール63が上向きに動作すると、入力ポート64,65の開口面積が拡大され、スプール63が下向きに動作すると、入力ポート64,65の開口面積が狭められるように構成されている。さらに、油路60と油路71とを接続する油路76が設けられており、油路76にはチェック弁77が設けられている。このチェック弁77は、油路71の油圧が油路60の油圧よりも高圧になると開放され、油路71の油圧が油路60の油圧よりも低圧になると閉じられる構成を備えている。そして、チェック弁77が開放されると、油路71の圧油が油路60に供給され、チェック弁77が閉じられると、油路60から油路71に圧油が流入することが防止される。
【0035】
一方、前記ドレーンポート67に接続された油路78が設けられ、ドレーンポート68に接続された油路79が設けられている。そして、この油路78,79には、セカンダリレギュレータバルブ80が接続されている。このセカンダリレギュレータバルブ80は、図1において上下方向に動作(ストローク)可能なスプール81と、スプール81を図1において下向きに付勢する弾性部材82とを有している。弾性部材82としては、圧縮コイルばねを用いることが可能である。また、セカンダリレギュレータバルブ80は、信号圧ポート83および入力ポート84,85およびドレーンポート86,87およびフィードバックポート88を有している。ここで、入力ポート84は油路79に接続され、入力ポート85は油路78に接続されている。さらに、スプール81にはランド部89,90,91,92が形成されている。そして、信号圧ポート83には信号圧が入力される。この信号圧は、リニアソレノイドバルブ(図示せず)により制御され、信号圧ポート83に入力される信号圧により、スプール81を図1において下向きに付勢する力が生じる。また、フィードバックポート88は前記油路78に接続されており、フィードバックポート88の油圧により、スプール81を図1で上向きに付勢する力が生じる。
【0036】
なお、前記油路78は、流体伝動装置3に圧油を供給する油路93に接続されている。また、前記ドレーンポート86は前記油路58に接続され、ドレーンポート87には、油路94を介して潤滑回路95が接続されている。この潤滑回路95は、潤滑油必要部、例えば、前後進切り換え機構5を構成する各ギヤ同士の噛み合い部分、プライマリプーリ9およびセカンダリプーリ10に対するベルト17の接触部分、プライマリシャフト7およびセカンダリシャフト8を支持する軸受などに潤滑油となる圧油を供給して、各要素を潤滑および冷却するためのものである。
【0037】
一方、前記油路78には絞り部、具体的には絞り部96が設けられている。絞り部96はチョークである。また、油路78における絞り部96と入力ポート85との間の部分を、前記油路79に接続する油路97が設けられており、油路97にはチェック弁98が設けられている。このチェック弁98は、油路79の油圧が油路78の油圧よりも高圧になると開放され、油路79の油圧が油路78の油圧よりも低圧になると閉じられる構成を備えている。そして、チェック弁98が開放されると、油路79の圧油が油路78に供給され、チェック弁98が閉じられると、油路78から油路79に圧油が流入することが防止される。
【0038】
また、油路71,78,79,94に接続された方向制御弁99が設けられている。この方向制御弁99は、直線状に往復移動自在なスプール100と、スプール100に動作力を与える動作力付与部材101とを有している。この実施例1では、動作力付与部材101として、弾性部材、より具体的には、金属製の圧縮コイルバネを用いる場合について説明する。スプール100にはランド部102,115が設けられており、ランド部102には動作力付与部材101の付勢力が加えられる。また、動作力付与部材が配置されている空間に接続された制御ポート103が設けられている。前記油路78であって、絞り部96と入力ポート85との間の部分が、油路104を介して制御ポート103に接続されている。この油路104には絞り部105が設けられている。また、ランド部115に油圧を作用させる制御ポート106が設けられており、油路78であって、絞り部96とドレーンポート67との間の部位78Bが、油路107を介して制御ポート106に接続されている。この油路107には絞り部108が設けられている。上記の絞り部105,108は、オリフィスまたはチョークのいずれでもよい。
【0039】
さらに、3方向に分岐した油路109が設けられており、油路109の一端が油路79に接続され、油路109の他の端部が油路71に接続されている。また、方向制御弁99には接続ポート111および出口ポート116が設けられており、接続ポート111が油路109に接続され、出口ポート116が油路110に接続されている。油路110は油路94に接続されている。そして、スプール100のランド部115により、接続ポート111が遮断・開放されるように構成されている。さらに、油路109には3箇所に絞り部112,113,114が設けられている。これらの絞り部112,113,114は、オリフィスまたはチョークのいずれでもよい。まず、接続ポート111から入力ポート65に至る経路に絞り部112,114が設けられており、接続ポート111から油路79に至る経路に、絞り部113,114が設けられている。そして、入力ポート65から油路79に至る経路に絞り部112,113が設けられている。つまり、3方向に分岐した油路109の各分岐部分に、それぞれ絞り部が1箇所ずつ設けられている。
【0040】
つぎに、図1に示す油圧回路の作用を説明する。オイルポンプ53が駆動された場合は、オイルパン59のオイルが、油路58を経由して圧油吸入口54にオイルが吸入されて、圧油吐出口56から油路60に圧油が吐出されるとともに、オイルパン59のオイルが、油路58を経由して圧油吸入口55に吸入され、圧油吐出口57から油路71に圧油が吐出される。まず、圧油吐出口56から油路60に吐出された圧油の流れについて説明すると、油路60に供給された圧油は圧油必要部61に供給される。一方、弾性部材64Aにより、スプール63を図1で下向きに押圧する力が発生するとともに、信号圧ポート70に入力される信号圧により、スプール63を図1で下向きに押圧する力が発生する。一方、フィードバックポート69の油圧により、スプール63を図1で上向きに押圧する力が発生する。ここで、油路60における圧油の必要量に対して、油路60に供給される圧油量が不足している場合は、プライマリレギュレータバルブ62のフィードバックポート69に入力される油圧が低下し、スプール63が図1で下向きに動作する。その結果、入力ポート64の開度、より具体的には、入力ポート64とドレーンポート67との連通面積が狭められ、油路60から油路78に排出される圧油の流量が減少する。
【0041】
このようにして、油路60における圧油不足が抑制される。これに対して、油路60における圧油の必要量が満足されて、フィードバックポート69の油圧が上昇すると、スプール63が図1において上向きに動作し、入力ポート64の開度が大きくなり、油路60から油路78に排出される圧油の流量が増加する。このようにして、油路60の圧油量が過剰となることが抑制される。以上のように、プライマリレギュレータバルブ62は、油路60の油圧、すなわちライン圧を制御する圧力制御弁として機能する。なお、プライマリレギュレータバルブ62における油圧制御機能は、信号圧ポート70に入力される信号圧を制御することにより調整される。具体的には、信号圧ポート70に入力される信号圧が高圧になることにともない、プライマリレギュレータバルブ62の開弁圧が高まることとなる。
【0042】
一方、圧油吐出口57から油路71に圧油が吐出されており、油路71の油圧が油路60の油圧よりも高圧である場合は、チェック弁77が開放される。すると、圧油吐出口57から吐出された圧油が、油路76を経由して油路60に供給される。これに対して、油路71の油圧が油路60の油圧よりも低圧になった場合は、チェック弁77が閉じられる。このため、圧油吐出口57から吐出された圧油は、油路60には供給されなくなる。また、油路60の圧油が油路71に流れ込むことを防止できる。このようにして、圧油吐出口57から吐出された圧油を油路60に供給することにより、油路60における圧油不足を抑制できる。
【0043】
前述したように、プライマリレギュレータバルブ62のスプール63が図1で下向きに動作し、かつ、入力ポート65が閉じられている場合は、油路71の圧油は油路79には排出されない。これに対して、プライマリレギュレータバルブ62のスプール63が図1で上向きに動作し、かつ、入力ポート65が開放された場合は、油路71の圧油が油路79に排出される。ここで、入力ポート65の開口面積の拡大にともない、油路71から油路79に排出される圧油の流量が増加し、油路71の油圧が低下する特性を有する。つまり、オイルポンプ53を駆動するために必要な駆動トルクが低下し、エンジンの燃費が向上する。
【0044】
ところで、前記油路60から油路78に排出された圧油は、油路93に供給され、油路78であって、絞り部96と入力ポート85との間の部位78Aの油圧が、油路79の油圧よりも低圧である場合は、チェック弁98が開放され、油路79の圧油が油路78に供給される。これに対して、部位78Aの油圧が、油路79の油圧よりも高圧である場合は、チェック弁98が閉じられ、油路79から油路78には圧油が供給されなくなるとともに、油路78の圧油が油路79に流れ込むことを防止できる。このようにして、油路78から油路93に供給される圧油の流量が不足することを抑制できる。
【0045】
さらに、油路93における必要圧油量に対して、油路93に供給される圧油の流量が不足している場合は、フィードバックポート88に入力される油圧が低圧となる。このため、セカンダリレギュレータバルブ80においては、弾性部材82からスプール81に与えられる力によって、図1で下向きに押圧され、入力ポート84,85が閉じられる。その結果、油路78の圧油が油路58,94には排出されないとともに、油路79の圧油は油路58には排出されない。したがって、油路78における圧油不足が抑制される。これに対して、油路93における必要圧油量に対して、油路93に供給される圧油の流量が十分となり、フィードバックポート88に入力される油圧が高圧になった場合は、セカンダリレギュレータバルブ80においては、スプール81が図1で上向きに押圧され、入力ポート84,85が開放される。
【0046】
すると、油路78の圧油が油路58,94に排出されるとともに、油路79の圧油が油路58に排出される。そして、油路58に排出された圧油は、圧油吸入口54,55に吸入されるとともに、油路94に排出された圧油は、潤滑回路95に供給される。なお、セカンダリレギュレータバルブ80の開弁圧は、信号圧ポート83の信号圧を制御することにより、調整可能である。具体的には、信号圧ポート83の信号圧を高めることにともない、セカンダリレギュレータバルブ80の開弁圧が上昇する。このようにして、油路78における圧油の過不足が抑制され、かつ、油路78の油圧が制御される。つまり、セカンダリレギュレータバルブ80は、油路78の油圧を制御する圧力制御弁として機能する。
【0047】
ところで、この実施例1においては、油路71が、油路109および油路97を介して油路78に接続されている。このため、プライマリレギュレータバルブ62の入力ポート64,65が閉じられている場合でも、油路71の圧油を、油路109,97を経由させて油路78に供給することが可能である。したがって、油路93に対する圧油の供給応答性が低下することを抑制できる。
【0048】
ここで、油路71の油圧と、オイルポンプ53を駆動する動力源1の回転数との関係の一例を、図3の線図により説明する。この図3では動力源1の回転数としてエンジン回転数が示されている。実施例1の特性が実線で示されており、まず、エンジン回転数が低い場合は、入力ポート65が閉じられており、油路71の油圧が上昇するとともに、エンジン回転数がNe2となり、油路71の油圧の方が油路60の油圧よりも高圧になると、チェック弁77が開放されて、圧油吐出口57から吐出された圧油は油路60に供給される。このためエンジン回転数がNe2以上である場合は、油路71の油圧がほぼ一定となる。さらにエンジン回転数が上昇して、Ne3になると、油路60の油圧の方が油路71の油圧よりも高圧となり、チェック弁77が閉じられるとともに、スプール63の動作により入力ポート65が開放されて、圧油吐出口から吐出された圧油が、入力ポート65を経由して油路79に排出される。このため、油路71の油圧が低下し始め、その後は、ほぼ一定の油圧となる。
【0049】
つぎに、比較例1の特性を説明する。比較例1とは、圧油吐出口57から吐出された圧油を、プライマリレギュレータバルブ62を経由することなく、油路78に供給する油路が設けられていない構成である。この比較例1の場合は、一点鎖線で示すように、エンジン回転数の上昇にともない、油圧が上昇する。ここで、実施例1の油圧上昇勾配は、比較例1の油圧上昇勾配よりも緩やかである。その理由は、実施例1では、入力ポート65が閉じられている場合でも、圧油吐出口57から吐出された圧油が、油路78に供給されるからである。比較例1において、エンジン回転数の上昇にともない、油圧がライン圧よりも高くなった後は、実施例1と同様の油圧変化特性となる。さらに、比較例2について説明する。この比較例2とは、油路60の圧油を直接油路78に供給する構成に対応している。この比較例2では、エンジン回転数がNe3以下の場合は、実線で示す実施例1と同じ特性で油圧が変化する。
【0050】
ところで、比較例2においては、油路60の圧油を直接油路78に供給する構成であるため、エンジン回転数がNe3以上になった場合でも、破線で示すように、油路60の油圧が油路71の油圧よりも低く、チェック弁77が開放されたままであり、かつ、入力ポート65も閉じられている。したがって、油路71の油圧は低下しない。さらにエンジン回転数がNe4まで上昇して、油路60の油圧が油路71の油圧よりも高圧になると、チェック弁77が閉じられ、かつ、入力ポート65が開放される。すると、圧油吐出口57から吐出された圧油が、入力ポート65を経由して油路79に排出される。このようにして、油路71の油圧が低下を開始する。このように、開放されているチェック弁77が閉じられ、かつ、油路71の油圧が低下するエンジン回転数は、実施例1の方が比較例2よりも低くなる。したがって、オイルポンプ53の駆動に必要なエネルギを低下させることができ、エンジンの燃費の低下を抑制することができる。なお、図3の特性線図の説明において、各エンジン回転数同士の関係は、
Ne1<Ne2<Ne3<Ne4
である。
【0051】
また、この実施例1においては、油路71から油路78に至る経路に絞り部112,13が設けられているため、油路71から油路78に供給される圧油量の増加を制限することができる。さらに、実施例1においては、油路97にチェック弁98が設けられているため、油路78,93の圧油が、油路71,109へ流入することを防止できる。
【0052】
つぎに、方向制御弁99の作用について説明する。方向制御弁99においては、動作力付与部材101によりスプール100を図1で右方向に押圧する力が発生する。つまり、接続ポート111の開口面積を狭めようとする力が発生する。また、油路104の圧油が制御ポート103に供給され、制御ポート103の油圧に応じて、スプール100を図1で右方向に押圧する力が生じる。つまり、接続ポート111の開口面積を狭めようとする力が発生する。さらに、油路107の圧油が制御ポート106に供給され、制御ポート106の油圧に応じて、スプール100を図1で左方向に押圧する力が生じる。つまり、接続ポート111の開口面積を拡大しようとする力が発生する。
【0053】
ところで、油路78には絞り部96が設けられており、油路78における圧油の流れ方向で、部位78Bの方が部位78Aよりも上流に位置している。このため、部位78Bの圧油が部位78Aに流れ込む場合、絞り部96による管路抵抗により、部位78Bの油圧P1の方が、部位78Aの油圧Psec よりも高圧となる。そして、スプール100に与えられる相互に逆向きの力同士の関係により、スプール100が軸線方向に動作する。
【0054】
油路93に供給される圧油の流量が十分になり、部位78Aの油圧が上昇すると、スプール100が図1で右方向に動作し、接続ポート111の開口面積が拡大されて、油路71の圧油が、油路109,110を経由して潤滑回路95に流れ込む。このように、油路71の圧油が潤滑回路95に供給を開始される時点では、フィードバックポート88の油圧が低圧であるため、セカンダリレギュレータバルブ80の入力ポート84,85が共に閉じられている。このため、油路78の圧油は油路94には排出されない。また、油路79の圧油は油路58には排出されない。そして、油路78の部位78Aの油圧が更に上昇して、フィードバックポート88に入力される油圧が一層上昇すると、スプール81が図1で上向きに動作して、入力ポート84,85が共に開放される。すると、油路78の圧油が油路94を経由して潤滑回路95に供給され、潤滑回路に供給される圧油量が増加する。また、油路79の圧油が油路58に排出される。
【0055】
さらに、油路78のオイル量が増加すると部位78Aの油圧が上昇して、部位78Aの油圧の方が部位78Bの油圧よりも高圧になると、方向制御弁99のスプール100が、図1で右方向に動作して接続ポート111が閉じられる。このため、油路71から入力ポート84を経由して油路58に吐出されるオイル量が増加する。これは、油路78の油圧が上昇しており、油路94を経由して潤滑回路95に供給されるオイル量が増加している場合は、油路71のオイルを潤滑回路95に供給する必要性がないからである。
【0056】
ここで、潤滑回路95に対する圧油の供給特性の一例を、図4の特性線図により説明する。まず、実施例1の特性は実線で示すように、エンジン回転数がNe1未満である場合は、圧油の漏れなどの影響により、潤滑回路95まで潤滑油は供給されない。そして、エンジン回転数がNe1以上に上昇すると、接続ポート111が開放されて、圧油が潤滑回路に供給され始め、その供給量が増加する。さらにエンジン回転数が上昇すると、圧油の供給量がほぼ一定の供給量Q2となる。また、エンジン回転数がNe3未満では、ポート85が閉じられているが、エンジン回転数がNe3以上になると、ポート85が開放されるため、油路94を経由して潤滑回路95に供給される圧油量が更に増加する。そして、エンジン回転数がNe4以上に上昇すると、ほぼ一定の供給量Q3に維持される。
【0057】
つぎに、比較例1における圧油の供給特性を説明する。比較例1の意味は前述と同じである。なお、セカンダリレギュレータバルブのスプールが動作不良となる場合も、この比較例1と同じ特性となる。この比較例1の場合は、エンジン回転数Ne2未満では、セカンダリレギュレータバルブ80の入力ポート85が閉じられており、圧油は供給されない。エンジン回転数がNe2以上になると、セカンダリレギュレータバルブ80の入力ポート85が開放されて、油路78から潤滑回路95に対する圧油の供給が開始される。そして、ほぼ一定の供給量Q1に維持される。ここで、供給量Q1は供給量Q2よりも少ない。その理由は、比較例1では、油路78の圧油が油路93にも供給されるからである。また、エンジン回転数がNe3未満では、チェック弁98が開放されており、油路71の圧油が油路78に供給されているが、エンジン回転数がNe3以上になると、チェック弁98が閉じられ、かつ、セカンダリレギュレータバルブ80の入力ポート85が開放されるため、油路78の圧油が入力ポート85を経由して潤滑回路95に供給されて、圧油の供給量が増加し、エンジン回転数がNe5以上では、供給量Q3になる。
【0058】
つぎに、比較例2における圧油の供給特性を説明する。比較例2の意味は前述と同じである。この比較例2の場合は、エンジン回転数Ne3未満では、実線で示す実施例1と同じ圧油の供給特性になる。また、比較例2においては、エンジン回転数Ne3以上になると、一点鎖線で示すように、油路60の油圧が油路71の油圧よりも高圧となり、油路71の圧油が油路60には供給されなくなるため、エンジン回転数Ne3以上になると、油路60のオイルが、セカンダリレギュレータバルブ80を経由することなく、油路110を経由して油路94に供給されるため、油路78に供給されるオイル量が少なくなり、チェック弁98が閉じてエンジン回転数が高くなる。このため、エンジン回転数Ne3からエンジン回転数Ne6の範囲では、オイルの供給量Q2に維持されている。その後、エンジン回転数Ne6以上になると、油路60の油圧が油路71の油圧よりも高圧になり、油路71の圧油が油路60には供給されなくなる。
【0059】
ところで、エンジン回転数がNe4に近づくまでの間は、チェック弁98が開放されており、油路71の圧油は油路79を経由して油路78に供給されている。そして、エンジン回転数がNe4に近づくと、チェック弁98が閉じられ、かつ、セカンダリレギュレータバルブ80が開弁されるため、油路60,71の圧油が、セカンダリレギュレータバルブ80を経由して潤滑回路95に供給されるようになり、供給量が増加する。そして、エンジン回転数がNe5以上では供給量Q3に維持される。
【0060】
この図4の特性線図において、各供給量同士の関係は、
Q1<Q2<Q3
であり、各エンジン回転数同士の関係は、
Ne1<Ne2<Ne3<Ne6<Ne4<Ne5
である。なお、図3に示されたエンジン回転数と、図4に示されたエンジン回転数とは一致していない。
【0061】
このように、実施例1によれば、エンジン回転数が低いNe1の段階から、潤滑回路95に圧油を供給することが可能であり、潤滑機能を確保できる。また、油路78よりも上流の油路109にある圧油を、方向制御弁99を経由させて潤滑回路95に供給するため、潤滑油の供給量を多くすることができる。また、油路71の圧油を潤滑回路95に供給する構成であるため、油路71の油圧の低下が促進され、早期の段階、つまり、よりエンジン回転数が低い段階で、チェック弁77を閉じることが可能である。したがって、オイルポンプ53の駆動に必要なエネルギの増加を抑制でき、エンジンの燃費の低下を抑制できる。
【0062】
これに対して、比較例1においては、エンジン回転数がNe2まで上昇して、セカンダリレギュレータバルブ80の入力ポート85が開放されるまでは、潤滑回路95に圧油を供給することができないことが分かる。また、比較例2においては、油路60から直接潤滑回路95に圧油を供給する構成であるため、エンジン回転数がNe4に近づくまでは入力ポート65が開放されないため、オイルポンプ53の駆動に必要なエネルギが増加するエンジン回転数領域が高くなることが分かる。
【0063】
ところで、実施例1においては、動作力付与部材101を構成する圧縮コイルばねとして、形状記憶部材、具体的には、形状記憶合金、形状記憶樹脂などを用いることも可能である。形状記憶部材は、変態温度以上と以下とでは、弾性係数の値が異なり、バネとしての出力特性、すなわちバネ定数も異なる。ここで、ばね定数とは与えられる圧縮荷重を、圧縮荷重に対する変位量で除した値である。つまり、圧油の低温時におけるばね定数と、圧油の高温時におけるばね定数とが異なる。具体的には、低温時におけるばね定数の方が、高温時におけるばね定数よりも大きくなるような形状記憶特性を、動作力付与部材101が有している。
【0064】
このような形状記憶特性を備えた動作力付与部材101を用いると、低温時には、高温時に比べて接続ポート111の開口面積が拡大しにくくなり、油路71から潤滑回路95に供給される圧油の流量の増加が抑制される。したがって、油路79から油路58に排出される圧油量が増加する。つまり、油路79から油路58に戻される圧油量を増加させることにより、ストレーナ59Aを経由してオイルポンプ53に吸入される圧油量を減少させることができる。したがって、負圧によるキャビテーションの発生を防止することができる。
【0065】
また、この実施例1においては、圧油吐出口57から吐出された圧油を、油路60、油路78、油路58、潤滑回路95の4系統に供給先を切り換えることができ、これらの圧油の供給先の切換により、オイルポンプ53の負荷を変更することができる。ここで、図1に示された油圧制御装置18の動作モードを総合的に説明する。ここで、動作モードは、圧油吐出口57から吐出される圧油の供給先、および油路71の油圧と他の油路の油圧との対応関係を切り換える選択肢、もしくは制御パターンを意味する。この実施例1では、エンジン回転数、油路の油圧、油路における2つの部位の圧力差、流量などの条件により、第1のモードないし第4のモードが切り換わる。まず、第1のモードでは、チェック弁77,98が開放され、かつ、方向制御弁99が開放され、セカンダリレギュレータバルブ80が閉じられる。この第1のモードでは、圧油吐出口57から吐出される圧油が、油路60,78、潤滑回路95に供給され、油路58には供給されない。
【0066】
また、第2のモードでは、チェック弁77が閉じられ、かつ、方向制御弁99が開放され、かつ、セカンダリレギュレータバルブ80が開放され、チェック弁98が開放される。この第2のモードでは、圧油吐出口57から吐出される圧油が、油路58,78および潤滑回路95に供給され、油路60には供給されない。さらに、第3のモードでは、チェック弁77が閉じられ、かつ、方向制御弁99が開放され、かつ、セカンダリレギュレータバルブ80が開放され、チェック弁98が閉じられる。この第3のモードでは、圧油吐出口57から吐出される圧油が、油路58および潤滑回路95に供給され、油路60,78には供給されない。さらに、第4のモードでは、チェック弁77が閉じられ、かつ、方向制御弁99が閉じられ、かつ、セカンダリレギュレータバルブ80が開放され、チェック弁98が閉じられる。この第4のモードでは、圧油吐出口57から吐出される圧油が、油路58に供給され、油路60,78および潤滑回路95には供給されない。なお、第2のモードとなるエンジン回転数は、第1のモードとなるエンジン回転数よりも高く、第3のモードとなるエンジン回転数は、第2のモードとなるエンジン回転数よりも高く、第4のモードとなるエンジン回転数は、第3のモードとなるエンジン回転数よりも高い。また、第1のモードである場合、油路71の油圧は、油路60の油圧(ライン圧)に対応する値となり、第2のモードである場合、油路71の油圧は、油路78の部位78Aの油圧に対応する値となり、第3のモードである場合、油路71の油圧は、潤滑回路95の油圧に対応する値となり、第4のモードである場合、油路71の油圧は油路58の油圧に対応する値となる。
【0067】
ここで、図1および図2で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、圧油吐出口56が、この発明の第1の圧油吐出口に相当し、圧油吐出口57が、この発明の第2の圧油吐出口に相当し、プライマリレギュレータバルブ62が、この発明のプライマリレギュレータバルブに相当し、油路93および潤滑回路95が、この発明の圧油必要部に相当し、油路109,110が、この発明におけるバイパス回路に相当し、動力源1が、この発明の動力源に相当し、車輪2が、この発明の車輪に相当し、流体伝動装置3が、この発明における流体伝動装置に相当し、潤滑回路95が、この発明の潤滑回路に相当し、接続ポート111および出口ポート116が、この発明におけるポートに相当し、方向制御弁99が、この発明の連通規制機構に相当し、入力ポート65が、この発明の通路に相当する。
【0068】
また、セカンダリレギュレータバルブ80が、この発明のセカンダリレギュレータバルブに相当し、油路78が、この発明におけるセカンダリ油路に相当し、絞り部96が、この発明における絞り部に相当する。また、この発明の動力伝達経路には、流体伝動装置3およびロックアップクラッチ4および前後進切り換え機構5およびベルト式無段変速機6などが含まれる。さらに、油路93が、この発明の第1の油路に相当し、油路78が、この発明における第2の油路に相当し、油路79,109が、この発明の第3の油路に相当し、油路60,76が、この発明の第4の油路に相当する。さらに、圧油の温度、部位78Aおよび部位78Bにおける圧油の流量、部位78Aと部位78Bとの圧力差などが、この発明における「圧油の必要状態を表す条件」に相当する。
【実施例2】
【0069】
つぎに、油圧回路の実施例2を図5に基づいて説明する。この実施例2において、実施例1と同じ構成部分については、実施例1と同じ符号を付してある。また、図5においては、図1に示された絞り部96および油路107は設けられていない。この実施例2においては、方向制御弁99の出口ポート116および制御ポート106に油路117が接続され、油路117が油路94に接続されている。また、油路109が、接続ポート111および制御ポート103に接続されている。この実施例2においても、実施例1と同様の構成部分については、実施例1と同様の作用効果を得られる。また、この実施例2においては、セカンダリレギュレータバルブ80の入力ポート85が閉じられており、油路94の油圧が低圧である場合は、動作力付与部材101の押圧力により、スプール100が図5で右方向に動作して、接続ポート111が開放される。このため、油路71の圧油が、油路109、および方向制御弁99を経由して油路117に排出され、油路117の圧油が、油路94を経由して潤滑回路95に供給される。
【0070】
一方、セカンダリレギュレータバルブ80の入力ポート85が開放されて、油路78の圧油が油路94に排出されて、油路94の油圧が上昇すると、制御ポート106の油圧が上昇する。すると、方向制御弁99のスプール100が図5で左側に動作して、接続ポート111の開口面積が狭められる。その結果、油路109から方向制御弁99を経由して潤滑回路95に供給される圧油量が減少する。なお、実施例2においても、動作力付与部材101としては、圧縮コイルばねを用いたり、形状記憶要素により構成された圧縮コイルばねを用いることも可能である。なお、この実施例2においては、油路109,117が、この発明のバイパス回路に相当する。また、この実施例2においても、実施例1で説明した第1のモードないし第4のモードが切り換えられる。この実施例2のその他の構成と、この発明の構成との対応関係は、実施例1の構成と、この発明の構成との対応関係と同じである。
【0071】
また、図2に示された車両においては、動力伝達経路に変速機としてベルト式無段変速機6が用いられているが、トロイダル式無段変速機を用いた車両にも、この実施例を適用可能である。また、変速機として、有段変速機を用いた車両にも、この実施例を適用可能である。さらにまた、無段変速機から車輪に至る経路に、前後進切り換え機構が配置された車両にも、この実施例を適用可能である。なお、動力源の動力が伝達される車輪は、前輪または後輪のいずれでもよいし、前輪および後輪に分配されるように構成された四輪駆動車にも、この実施例を適用可能である。また、方向制御弁のスプールの動作を、ソレノイドなどのアクチュエータにより制御するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】この発明の油圧制御装置の実施例1を示す模式図である。
【図2】この発明を適用できる車両のパワートレーンおよびその制御系統の一例を示す図である。
【図3】この発明の実施例1および比較例における油圧特性を示す特性線図である。
【図4】この発明の実施例1および比較例における圧油の供給特性を示す特性線図である。
【図5】この発明の油圧制御装置の実施例2を示す模式図である。
【符号の説明】
【0073】
1…動力源、 2…車輪、 3…流体伝動装置、 18…油圧制御装置、 56,57…圧油吐出口、 62…プライマリレギュレータバルブ、 65…入力ポート、 80…セカンダリレギュレータバルブ、 78,93,109,110,117…油路、 95…潤滑回路、 96…絞り部、 99…方向制御弁、 111…接続ポート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の圧油吐出口および第2の圧油吐出口と、前記第1の圧油吐出口から吐出された圧油が供給されるプライマリレギュレータバルブと、前記プライマリレギュレータバルブから排出された圧油が供給される圧油必要部とを有し、前記第2の圧油吐出口から吐出された圧油が、前記圧油必要部に供給されるように構成されている油圧制御装置において、
前記第2の圧油吐出口から吐出された圧油を、前記プライマリレギュレータバルブを介さずに前記圧油必要部に供給するバイパス回路を設けたことを特徴とする油圧制御装置。
【請求項2】
動力源から車輪に至る動力伝達経路に流体伝動装置が設けられており、この流体伝動装置が、圧油の運動エネルギにより動力伝達をおこなうように構成され、前記流体伝動装置に圧油を供給する第1の油路が設けられており、前記圧油必要部には前記第1の油路が含まれることを特徴とする請求項1に記載の油圧制御装置。
【請求項3】
動力源から車輪に至る動力伝達経路に圧油を供給し、かつ、この動力伝達経路を潤滑する潤滑回路が設けられており、前記圧油必要部には前記潤滑回路が含まれることを特徴とする請求項1に記載の油圧制御装置。
【請求項4】
動力源から車輪に至る動力伝達経路に流体伝動装置が設けられており、流体伝動装置が、圧油の運動エネルギにより動力伝達をおこなうように構成され、
前記動力伝達経路に潤滑油を供給する潤滑回路が設けられており、
前記圧油必要部には、前記流体伝動装置に圧油を供給する第1の油路と、前記潤滑回路とが含まれることを特徴とする請求項1に記載の油圧制御装置。
【請求項5】
前記バイパス回路に、前記第2の圧油吐出口から吐出された圧油が通過するポートを有する連通規制機構が設けられており、前記圧油必要部における圧油の必要状態を表す条件に基づいて、前記ポートの開口面積が制御されるように、前記連通規制機構が構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の油圧制御装置。
【請求項6】
前記第1の圧油吐出口から吐出された圧油が前記プライマリレギュレータバルブを経由して排出され、この排出された圧油をセカンダリレギュレータバルブの入力側に供給する第2の油路と、この第2の油路に配置された絞り部とを有し、前記連通規制機構は、前記第2の油路の絞り部の上流と下流との差圧に基づいて、前記ポートの連通状態を切り換えるように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の油圧制御装置。
【請求項7】
前記第2の圧油吐出口から吐出された圧油を、前記プライマリレギュレータバルブを介して前記圧油必要部に供給する第3の油路と、前記第2の吐出口から吐出された圧油を、前記第1の吐出口から吐出された圧油と同じ経路で前記プライマリレギュレータバルブに供給する第4の油路とが、更に設けられており、前記プライマリレギュレータバルブは、この第4の油路の油圧の上昇にともない、前記第3の油路を介して前記圧油必要部に圧油を供給する通路の開口面積が拡大されるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−85485(P2007−85485A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276446(P2005−276446)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】