説明

油圧式テンショナ

【課題】逆止弁ユニットのチェックボールの暴れを抑制することで、チェックボールの閉弁の迅速性を向上させると共に油室への圧油の流入流量を安定化させ、しかもストローク規制面の形状設定の自由度が大きい油圧式テンショナを提供する。
【解決手段】油圧式テンショナ100の逆止弁ユニット140において、リテーナ150の頂壁151は、離座状態のチェックボール148のストローク量を規制するストローク規制面152を有する。ストローク規制面152は、中心線Lを含む平面での断面形状が曲線153となる凹面である。ストローク規制面152でのチェックボールとの当接点Pにおける曲線153の曲率中心Ccは、中心線方向でストローク規制面152に対してシート面142が位置する側で、当接点Pよりも径方向内方に位置するか、もしくはほぼ中心線L上に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻掛け伝動機構が備えるチェーン等の巻掛け伝動体に張力を付与する油圧式テンショナに関し、より詳細には、該油圧式テンショナが備える逆止弁ユニットの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンに張力を付与するプランジャと、ハウジングおよびプランジャにより形成された油室への圧油の流入を許容する一方で該油室からの圧油の流出を制限する逆止弁ユニットとを備える油圧式テンショナにおいて、逆止弁ユニットが、弁油路が設けられたボールシートと、ボールシートに対する離座および着座により該弁油路を開閉するチェックボールと、離座状態のチェックボールの移動量を規制するリテーナとから構成されて、チェックボールを付勢してボールシートに着座させるための弁付勢部材、例えば弁スプリングを備えていないものは知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−89100号公報(図2、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧式テンショナの逆止弁ユニットにおいて、ボールシートに対して離座状態にあるチェックボールは、リテーナが有する油室に圧油を導く給油路に連なる弁油路の油圧と油室の油圧との圧力差に応じて生じる圧油の流動によりリテーナ内で暴れることがある。そして、チェックボールのこの暴れの度合いは、チェックボールを閉弁方向に付勢する弁スプリングが設けられない場合に、該弁スプリングの付勢力が作用していない分、一層大きくなって、チェックボールの暴れに起因するチェックボールの閉弁遅れや、弁油路から油室への圧油の流入流量のバラツキが大きくなって、チェックボールの閉弁に基づく油室の圧油によるダンパ効果の低下や、チェーンに対する張力付与の迅速性にバラツキの発生など、テンショナ性能の低下を招来する問題があった。
【0005】
一方、弁スプリングが無いことに起因するチェックボールの暴れを抑制するために、ボールシートに対して着座状態にあるチェックボールとリテーナとの間の隙間を小さくすると、チェックボールがリテーナ内での圧油の流動を妨げて、弁油路から油室への流入流量が減少し、迅速な張力付与が妨げられて、やはりテンショナの性能が低下する。そこで、油室への流入流量を増加させるために、リテーナに設けられてリテーナの内部油室と外部油室との間で圧油を流通させる通油口の数を増加させると、リテーナの剛性が低下して、リテーナの耐久性が低下する問題があった。
【0006】
また、チェックボールの移動量であるストローク量は、チェックボールを収容しているリテーナの頂壁により規制される一方で、弁スプリングを備える逆止弁ユニットにおいては、リテーナの頂壁により該弁スプリングが保持される。このため、リテーナの頂壁に前記ストローク量を規制するストローク規制面が設けられる場合には、弁スプリングを保持する必要があり、さらに弁スプリングの密着性を防止する場合、ストローク規制面の形状が制約されることがあって、ストローク規制面の設定の自由度が小さくなるという問題があった。
【0007】
本発明は、従来の課題を解決するものであり、その目的は、チェックボールを付勢する弁付勢部材を備えていない逆止弁ユニットの、チェックボールの移動量を規制するストローク規制面を有するリテーナの構造により、チェックボールの暴れを抑制することで、チェックボールの閉弁の迅速性を向上させると共に油室への圧油の流入流量を安定化させ、しかもストローク規制面の形状設定の自由度が大きい油圧式テンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、請求項1に係る発明は、チェーン等の巻掛け伝動体に張力を付与するためにハウジングに進退方向に移動可能に収容されたプランジャと、前記ハウジングおよび前記プランジャにより形成された油室への給油路からの圧油の流入を許容する一方で前記給油路への前記油室からの圧油の流出を制限する逆止弁ユニットとを備え、前記逆止弁ユニットが、前記給油路と前記油室とを連通させる弁油路が設けられたボールシートと、前記ボールシートのシート面に対する離座および着座により前記弁油路を開閉するチェックボールと、着座状態の前記チェックボールから離隔して配置されていると共に前記チェックボールとの当接により離座状態の前記チェックボールの移動量を規制するリテーナとから構成される油圧式テンショナにおいて、前記チェックボールが、前記弁油路の油圧と前記油室の油圧との油圧差のみに応じて前記シート面に対して着座および離座可能であると共に前記リテーナに当接可能であり、前記リテーナが、前記シート面の中心線に平行な中心線方向で前記チェックボールに対向する頂壁を有し、前記頂壁が、離座状態の前記チェックボールの、前記中心線方向における着座状態からの移動量であるストローク量を規制するストローク規制面を有し、前記ストローク規制面が、前記中心線を含む平面での断面形状が曲線となる凹面であり、前記ストローク規制面における前記チェックボールとの当接部位を当接点とするとき、前記当接点における前記曲線の曲率中心が、前記中心線方向で前記ストローク規制面に対して前記シート面が位置する側で、前記当接点よりも径方向内方に位置するか、もしくはほぼ前記中心線上に位置すること、または、前記当接点における前記曲線の法線が、前記中心線方向で前記ストローク規制面から前記シート面に向かうにつれて径方向内方に向かって延びているか、もしくはほぼ前記中心線上で延びていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記リテーナが、前記中心線を中心とする周方向に間隔を置いて複数の通油口が設けられている周壁を有し、前記周壁が、着座状態の前記チェックボールとの間に前記中心線を中心とする径方向での隙間を形成する内周面を有し、前記内周面が、ベース面と、前記周方向で隣接する前記通油口同士の間にそれぞれ配置されていると共に前記ベース面よりも径方向外方に位置する複数の局所凹面とを有し、前記ベース面が、前記チェックボールとの当接により離座状態の前記チェックボールの径方向移動量を規制する径方向規制面であり、前記周方向における前記局所凹面の両側で前記ベース面に当接している前記チェックボールと前記局所凹面との間に、前記リテーナ内の圧油が前記中心線方向に流通可能な油通路が形成されることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記リテーナが、前記中心線を中心とする周方向に間隔を置いて複数の通油口が設けられている周壁を有し、前記周壁が、着座状態の前記チェックボールとの間に前記中心線を中心とする径方向での隙間を形成する内周面を有し、前記内周面が、ベース面と、前記周方向で隣接する前記通油口同士の間にそれぞれ配置されていると共に前記ベース面よりも径方向内方に位置する複数の局所凸面とを有し、前記局所凸面が、前記チェックボールとの当接により離座状態の前記チェックボールの径方向移動量を規制する径方向規制面であり、前記周方向で隣接する前記凸面同士に当接している前記チェックボールと前記ベース面との間には、前記通油口に開放すると共に前記リテーナ内の圧油が前記中心線方向に流通可能な油通路が形成されることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記リテーナが、前記ボールシートを保持する保持部と、前記ハウジングと係合することにより、前記ハウジングに対する前記リテーナの抜止めおよび前記中心線を中心とする径方向での前記リテーナの位置決めを行う係合部とを有することにより、前述した課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の油圧式テンショナは、チェーン等の巻掛け伝動体に張力を付与するためにハウジングに進退方向に移動可能に収容されたプランジャと、ハウジングおよびプランジャにより形成された油室への給油路からの圧油の流入を許容する一方で給油路への油室からの圧油の流出を制限する逆止弁ユニットとを備え、逆止弁ユニットが、給油路と油室とを連通させる弁油路が設けられたボールシートと、ボールシートのシート面に対する離座および着座により弁油路を開閉するチェックボールと、着座状態のチェックボールから離隔して配置されていると共にチェックボールとの当接により離座状態のチェックボールの移動量を規制するリテーナとから構成されることにより、チェックボールが閉弁することで、油室に閉じ込められた圧油により巻掛け伝動体からの反力によるプランジャの後退が抑制されるダンパ機能が奏されると共に、チェックボールが開弁して圧油が弁油路から油室に流入することで、巻掛け伝動体への迅速な張力付与が可能となるばかりでなく、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0013】
すなわち、請求項1に係る本発明の油圧式テンショナによれば、チェックボールが、弁油路の油圧と油室の油圧との油圧差のみに応じてシート面に対して着座および離座可能であると共にリテーナに当接可能であり、リテーナが、シート面の中心線に平行な中心線方向でチェックボールに対向する頂壁を有し、頂壁が、離座状態のチェックボールの、中心線方向における着座状態からの移動量であるストローク量を規制するストローク規制面を有し、ストローク規制面が、中心線を含む平面での断面形状が曲線となる凹面であり、ストローク規制面におけるチェックボールとの当接部位を当接点とするとき、当接点における曲線の曲率中心が、中心線方向でストローク規制面に対してシート面が位置する側で、当接点よりも径方向内方に位置するか、もしくはほぼ中心線上に位置すること、または、当接点における曲線の法線が、中心線方向でストローク規制面からシート面に向かうにつれて径方向内方に向かって延びているか、もしくはほぼ中心線上で延びていることにより、逆止弁ユニットはチェックボールを閉弁方向に付勢する弁付勢部材(例えば、弁スプリング)を備えていないために、チェックボールは、給油路に連なる弁油路と油室との油圧差のみに応動して開弁および閉弁すると共に、離座状態でストローク規制面に当接する。
このとき、ストローク規制面は、当接点での曲線の曲率中心が、ストローク規制面に対してシート面が位置する側で、当接点よりも径方向内方、もしくはほぼ中心線上に位置するように、または、当接点での曲線の法線が、ストローク規制面からシート面に向かうにつれて径方向内方に向かって、もしくはほぼ中心線上で延びているように形成された凹面であることにより、ストローク規制面に当接点で当接するチェックボールがストローク規制面から受ける反力の方向は、ストローク規制面が中心線に直交する平面またはシート面に向かって凸面であるである場合に比べて、中心線に向かう方向となるので、中心線から遠ざかる方向、すなわち径方向外方へのチェックボールの移動が抑制されて、チェックボールの暴れが抑制される。このため、チェックボールの閉弁の迅速性を向上させることができて、テンショナのダンパ性能を向上させることができ、さらに、油通路から油室への圧油の流入流量のバラツキが低減して、油室への圧油の流入流量を安定化させることができて、巻掛け伝動体に対する張力付与性能の安定性を向上させることができる。
また、リテーナには前記弁付勢部材を保持させる必要がないことから、ストローク規制面の形状および形成範囲を含む形状設定に対する前記弁付勢部材による制約がないので、チェックボールの暴れを防止しながら、ストローク規制面の前記形状設定やチェックボールのストローク量の設定の自由度が大きいストローク規制面を形成することが可能になるなど、ストローク規制面の設定の自由度を大きくすることができる。
【0014】
請求項2に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、リテーナが、中心線を中心とする周方向に間隔を置いて複数の通油口が設けられている周壁を有し、周壁が、着座状態のチェックボールとの間に中心線を中心とする径方向での隙間を形成する内周面を有し、内周面が、ベース面と、周方向で隣接する通油口同士の間にそれぞれ配置されていると共にベース面よりも径方向外方に位置する複数の局所凹面とを有し、ベース面が、チェックボールとの当接により離座状態のチェックボールの径方向移動量を規制する径方向規制面であり、周方向における局所凹面の両側でベース面に当接しているチェックボールと局所凹面との間に、リテーナ内の圧油が中心線方向に流通可能な油通路が形成されることにより、油通路を流れる圧油の油圧により、チェックボールが径方向内方に向かう力を受けるので、チェックボールの径方向外方への移動が抑制されるため、チェックボールの暴れが抑制され、しかも、径方向内方に向かう前記力により、チェックボールを内周面に押し付ける押付力が低減して、内周面との間での摩擦力を低減できるため、チェックボールの移動が円滑化されて、弁油路と油室との間で流動する圧油の流量が少量である場合も含めて、チェックボールの閉弁および開弁の迅速性を向上させることができる。
また、油通路が形成されることにより、リテーナ内での圧油の流動がチェックボールにより妨げられることが抑制されるので、リテーナの剛性の低下を防止して、リテーナの耐久性を向上させながら、弁油路から油室への圧油の所要の流入流量の確保が容易になり、さらには該流入流量の増加も可能になる。しかも、油通路は局所凹面により形成されるので、油通路を流れる圧油の流量の増加が容易になる。
【0015】
請求項3に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、リテーナが、中心線を中心とする周方向に間隔を置いて複数の通油口が設けられている周壁を有し、周壁が、着座状態のチェックボールとの間に中心線を中心とする径方向での隙間を形成する内周面を有し、内周面が、ベース面と、周方向で隣接する通油口同士の間にそれぞれ配置されていると共にベース面よりも径方向内方に位置する複数の局所凸面とを有し、局所凸面が、チェックボールとの当接により離座状態のチェックボールの径方向移動量を規制する径方向規制面であり、周方向で隣接する凸面同士に当接しているチェックボールとベース面との間には、通油口に開放すると共にリテーナ内の圧油が中心線方向に流通可能な油通路が形成されることにより、チェックボールの径方向外方への移動量が、ベース面よりも径方向内方に突出している各局所凸面との当接により規制されるので、内周面がベース面のみである場合に比べて、チェックボールの移動が中心線により近い位置に制限されることで、チェックボールの暴れが抑制される。
また、油通路を流れる圧油の油圧により、チェックボールが径方向内方向きの力を受けることから、チェックボールの径方向外方への移動が抑制されるので、チェックボールの暴れが抑制され、また、チェックボールを内周面に押し付け押付力が低減して、内周面との間での摩擦力を低減できるので、チェックボールの移動が円滑化されて、弁油路と油室との間で流動する圧油の流量が少量である場合も含めて、チェックボールの閉弁および開弁の迅速性を向上させることができる。
そして、油通路が形成され、しかも該油通路が通油口に開放していることにより、チェックボールが通油口を局所的に塞ぐことが防止されるなど、リテーナ内での圧油の流動がチェックボールにより妨げられることが抑制されるので、リテーナの剛性の低下を防止して、リテーナの耐久性を向上させながら、弁油路から油室への圧油の所要の流入流量の確保が容易になる。
【0016】
請求項4に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、リテーナが、ハウジングと係合することにより、ハウジングに対するリテーナの抜止めおよび中心線を中心とする径方向でのリテーナの位置決めを行う係合部とを有することにより、ハウジングに係合する爪は、ハウジングからのリテーナの抜止め機能およびハウジングに対する径方向でのリテーナの位置決め機能を有するので、ハウジングに対するリテーナの組付および取外しが容易化されて、ハウジングに対する逆止弁ユニットの着脱の容易性を向上させることができる。
さらに、リテーナが、ボールシートを保持する保持部を有することにより、ボールシートが保持部によりリテーナに一体に保持されるので、逆止弁ユニットを1つのモジュールとしてハウジングに対して着脱することができるため、ハウジングに対する逆止弁ユニットの着脱の容易性を一層向上させることができる。しかも、逆止弁ユニットがハウジングに組み付けられる前に、リテーナとボールシートとの位置関係を設定することができるので、シート面とストローク規制面との位置関係が高精度に設定された状態で逆止弁ユニットをハウジングに組み付けることが可能になり、ストローク規制面に基づくチェックボールの暴れ抑制機能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例である油圧式テンショナを備えるタイミングチェーン伝動機構の模式図。
【図2】図1の油圧式テンショナの断面図、および図4のII−II線断面図に相当する要部拡大図。
【図3】図1の油圧式テンショナの逆止弁ユニットの斜視図。
【図4】(a)は、図3のIVーIV線断面図および要部拡大図、(b)は、(a)のb−b線での拡大断面図。
【図5】本発明の実施例の変形例である油圧式テンショナの、図4(a)に対応する図であり、図6のV−V線断面図。
【図6】図5のVI−VI線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の油圧式テンショナは、チェーン等の巻掛け伝動体に張力を付与するためにハウジングに進退方向に移動可能に収容されたプランジャと、ハウジングおよびプランジャにより形成された油室への給油路からの圧油の流入を許容する一方で給油路への油室からの圧油の流出を制限する逆止弁ユニットとを備え、逆止弁ユニットが、給油路と油室とを連通させる弁油路が設けられたボールシートと、ボールシートのシート面に対する離座および着座により弁油路を開閉するチェックボールと、着座状態のチェックボールから離隔して配置されていると共にチェックボールとの当接により離座状態のチェックボールの移動量を規制するリテーナとから構成され、チェックボールが、弁油路の油圧と油室の油圧との油圧差のみに応じてシート面に対して着座および離座可能であると共にリテーナに当接可能であり、リテーナが、シート面の中心線に平行な中心線方向でチェックボールに対向する頂壁を有し、頂壁が、離座状態のチェックボールの、中心線方向における着座状態からの移動量であるストローク量を規制するストローク規制面を有し、ストローク規制面が、中心線を含む平面での断面形状が曲線となる凹面であり、ストローク規制面におけるチェックボールとの当接部位を当接点とするとき、当接点における曲線の曲率中心が、中心線方向でストローク規制面に対してシート面が位置する側で、当接点よりも径方向内方に位置するか、もしくはほぼ中心線上に位置すること、または、当接点における曲線の法線が、中心線方向でストローク規制面からシート面に向かうにつれて径方向内方に向かって延びているか、もしくはほぼ中心線上で延びていることにより、チェックボールを付勢する弁付勢部材を備えていない逆止弁ユニットの、チェックボールの移動量を規制するストローク規制面を有するリテーナの構造により、チェックボールの暴れを抑制することで、チェックボールの閉弁の迅速性を向上させると共に油室への圧油の流入流量を安定化させ、しかもストローク規制面の形状設定の自由度を大きくすることができるものであれば、その具体的な態様はいかなるものであっても構わない。
【0019】
例えば、油圧式テンショナにより張力が付与される巻掛け伝動体は、エンジンが備えるタイミングチェーン以外のチェーンであってもよく、またチェーン以外に、ベルトであってもよい。
油圧式テンショナは、エンジンが備える巻掛け伝動機構以外に、エンジン以外の機械が備える任意の巻掛け伝動機構に使用され得る。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例を、図1〜図6を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明の実施例である油圧式テンショナ100は、機械としてのエンジン(図示されず)のタイミングチェーン伝動機構1に備えられる。そして、該エンジンは、例えば自動車用エンジンである。
【0021】
巻掛け伝動機構としてのタイミングチェーン伝動機構1は、テンショナ100のほかに、駆動軸であるクランク軸2により回転駆動される駆動側の回転部材であるスプロケット4と、被動軸である1対のカム軸3にそれぞれ固定されている1対の被動側の回転部材であるスプロケット5と、それらスプロケット4,5に巻き掛けられている帯状の巻掛け伝動体としての無端のチェーンであるタイミングチェーン6(以下、「チェーン6」という。)とを備える。
【0022】
テンショナ100は、チェーン6の弛み側6a寄りの位置で、テンショナ100のハウジング110において、機械本体としてのエンジン本体に取り付けられている。
ハウジング110に進退方向で前進および後退可能に支持されると共にハウジング110から突出しているプランジャ120は、前進方向に移動して、エンジン本体に揺動可能に支持されている可動レバー7を押圧し、該可動レバー7を介して弛み側6aを付勢することにより、チェーン6に張力を付与する。
チェーン6の張り側6b寄りの位置には、該張り側6bにおいて走行するチェーン6を案内する固定ガイド8が、エンジン本体に取り付けられている。
【0023】
図2を参照すると、テンショナ100は、エンジン本体から供給された圧油が流通する給油路111が設けられたハウジング110と、走行中のチェーン6(図1参照)に張力を付与するためにハウジング110に設けられた収容穴112から前進する円柱状のプランジャ120と、収容穴112内においてハウジング110およびプランジャ120により形成される油室131内に配置されてプランジャ120を前進方向に付勢するプランジャ付勢用ばね130と、給油路111から油室131への圧油の流入を許容する一方で給油路111への油室131から圧油の流出を制限する逆止弁ユニット140とを備えている。
ここで、プランジャ付勢用ばね130および油室131の圧油は、ハウジング110に進退方向に摺動することで移動可能に支持されるプランジャ120を前進方向に付勢するプランジャ付勢手段を構成する。
【0024】
テンショナ100の外部から給油路111を通じて油室131に導かれる圧油は、前記エンジンに備えられる圧油源としてのオイルポンプから供給される。
前記オイルポンプは、エンジンの運転および停止に対応して作動および停止を行い、その作動時に給油路111を通じて油室131に圧油を供給する。
【0025】
油室131内に配置されてハウジング110に着脱可能に組み付けられる逆止弁ユニット140は、給油路111に連なると共に圧油が流通する弁油路143が設けられた円環状のボールシート141と、ボールシート141が有するシート面142に対して離座および着座することにより弁油路143を開閉する球状のチェックボール148と、ボールシート141およびチェックボール148を囲んで配置されると共にチェックボール148との当接により離座状態のチェックボール148の移動量を規制するリテーナ150とから構成される。
【0026】
ボールシート141に着座したチェックボール148が当接しているシート面142は、中心線Lを回転軸線とする回転面としてのテーパ面から構成されている。また、中心線Lは、弁油路143の中心線でもある。
なお、「ほぼ」との表現は、「ほぼ」との修飾語がない場合を含むと共に、「ほぼ」との修飾語がない場合とは厳密には一致しないものの、「ほぼ」との修飾語がない場合と比べて作用効果に関して有意の差異がない範囲を意味する。
【0027】
リテーナ150に収容されているチェックボール148は、弁油路143の油圧と油室131の油圧との油圧差のみに応じてシート面142に対して着座および離座可能であると共にリテーナ150に当接可能である。しがたって、チェックボール148の開弁力および閉弁力は、弁油路143の油圧と油室131の油圧との油圧差により形成され、チェックボール148は、弁油路143と油室131との間での圧油の流動に応じて開弁および閉弁する。
そして、油室131の油圧が弁油路143の油圧よりも大きくなるとき、油室131から弁油路143に向かう圧油の流れが発生して、チェックボール148は、シート面142に着座して閉弁することにより、弁油路143を閉じて、油室131から弁油路143への圧油の流出を制限、この実施例では、圧油の該流出を阻止する。
このように、逆止弁ユニット140は、チェックボール148を閉弁方向に付勢する弁付勢部材(例えば、弁スプリング)を備えていない。
【0028】
併せて図3,図4を参照すると、逆止弁ユニット140において、着座状態のチェックボール148から離隔して配置されているリテーナ150は、中心線方向でチェックボール148に対向する頂壁151と、頂壁151の外周部151aに連なると共に周方向でチェックボール148を囲む周壁154と、周壁154よりも大径であると共に周壁154に連なる内周部156aを有するフランジ156とを有する。
なお、中心線方向とは中心線Lに平行な方向であり、径方向および周方向は、それぞれ中心線Lを中心とする径方向および周方向であり、径方向内方および径方向外方は、それぞれ径方向で中心線Lに向かう方向および径方向で中心線Lから遠ざかる方向である。
【0029】
頂壁151は、離座状態のチェックボール148の、中心線方向における着座状態からの移動量であるストローク量を規制するストローク規制面152を有する。
ストローク規制面152は、周方向での任意の位置で、中心線Lを含む平面での断面形状が曲線153となる凹面である。
そして、離座状態のチェックボール148は、リテーナ150内において弁油路143の油圧と油室131の油圧との油圧差に応じて流動する圧油に応じて移動して、ストローク規制面152における当接部位である当接点P(図2参照)で当接すると共に周壁154の内周面155に当接して、その移動が規制される。
なお、図2には、ストローク規制面152に当接しているチェックボール148が二点鎖線で示されている。
【0030】
中心線Lからのストローク規制面152の形成幅Rは、ストローク規制面152において当接点Pとなり得るすべての部位が含まれるように設定され、閉弁時のシート面142におけるチェックボール148との円形状または円環状の接触部(図示されず)の半径である接触径以上、本実施例では該接触径よりも大きく設定される。このように、形成幅Rがシート面142での前記接触径以上に設定されることで、大きさが異なるために径方向外方への移動量が異なる複数の種類のチェックボール148に対しても、リテーナ150を共通の部品として使用することができるので、リテーナ150の汎用性が高められて、逆止弁ユニット140のコストを削減することができる。
【0031】
当接点Pにおける曲線153の曲率中心Ccは、中心線方向でストローク規制面152に対してシート面142が位置する側で、当接点Pよりも径方向内方、すなわち径方向で中心線L寄りに位置するか、もしくはほぼ中心線L上に位置する。
したがって、曲率中心Ccと当接点Pとの前述の相関関係によれば、すべての当接点Pに関して、中心線方向でストローク規制面152に対してシート面142が位置する側で、曲率中心Ccがほぼ中心線L上に位置していてもよいし、当接点Pに応じて、一部の当接点Pに関しては、曲率中心Ccが、中心線方向でストローク規制面152に対してシート面142が位置する側で、ほぼ中心線L上に位置し、残りの当接点Pに関しては、曲率中心Ccが、中心線方向でストローク規制面152に対してシート面142が位置する側で、当接点Pよりも径方向内方に位置していてもよい。
【0032】
また、曲率中心Ccと当接点Pとの前述の相関は、曲線153における当接点Pでの法線(図示されず)と当接点Pとの相関では、該法線が、当接点Pの位置に応じて、中心線方向でストローク規制面152からシート面142に向かうにつれて径方向内方に向かって延びているか、もしくはほぼ中心線L上で延びていると言い換えることできる。
ここで、「ほぼ中心線L上」とは、曲率中心Ccまたは前記法線が、中心線上に位置すること、および、中心線Lからの距離がチェックボール148の半径rの10%以下の範囲に位置することを意味する。
【0033】
そして、本実施例において、ストローク規制面152は、その曲率中心Ccがほぼ中心線L上に、図示の例では中心線L上に位置する球面の一部であり、したがって曲線153は、曲率中心Ccを中心とする円弧である。
ストローク規制面152の曲率半径は、チェックボール148の半径rよりも大きい。そして、曲率中心Ccと着座状態のチェックボール148の中心Cbとの距離dは、
r≦d≦1.5r
を含む範囲であって、
0≦d≦2r
の範囲に設定可能である。
図2には、距離dがr≦d≦1.5rの範囲に設定されたときの一例が示されている。
【0034】
周壁154からフランジ156に亘って、周方向に等しい間隔を置いて複数の、ここでは3つの通油口161が設けられる。
径方向および中心線方向に開放しているスリットにより構成される各通油口161は、リテーナ150の内部に形成される内油室131bとリテーナ150の外部に形成される外油室131aとの間で、圧油の流通を可能とする。内油室131bおよび外油室131aは、いずれも油室131の一部である。
【0035】
図2,図4を参照すると、周壁154は、着座状態のチェックボール148との間に中心線Lを中心とする径方向での隙間を形成する内周面155を有する。この内周面155は、ベース面155aと、周方向で隣接する通油口161同士の間にそれぞれ配置されていると共にベース面155aよりも径方向外方に位置する複数の局所凹面155bとを有する。
ベース面155aは、チェックボール148との当接により、離座状態のチェックボール148の径方向移動量を規制する径方向規制面であり、本実施例では、中心線Lを中心軸線とする円柱面の一部により構成される。
【0036】
1以上の、本実施例では1つの局所凹面155bは、周方向で隣接する通油口161同士の間に、両通油口161から周方向で等しい間隔の位置に配置されている。
周方向における局所凹面155bの両側でベース面155aに当接しているチェックボール148(図4に、二点鎖線で示される。)と局所凹面155bおよびベース面155aの一部との間に、リテーナ150内(すなわち、内油室131b内)の圧油が中心線方向に流通可能な油通路162が形成される。したがって、油通路162は、局所凹面155b、ベース面155aおよびチェックボール148により形成される。
【0037】
フランジ156は、内周部156aと、外周部156bと、径方向で内周部156aおよび外周部156bの間の中間部とを有し、外周部156bにおいてボールシート141を囲んだ状態で該ボールシート141を保持している。
外周部156bには、径方向外方に突出している切起こし片により構成される複数の、ここでは3つのリテーナ側係合部としての係合爪157と、径方向内方に突出している切起こし片により構成されてボールシート141を内周側で保持する複数の保持部としての保持爪158とを有する。
また、中間部156cは、プランジャ付勢用ばね130が当接するばね受け部を構成する。
【0038】
周方向に等しい間隔を置いて配置されている3つの係合爪157は、ハウジング110の底部付近に設けられた環状で、径方向内方に突出するハウジング側係合部としての円環状の段部117に係合することにより、ハウジング110からのリテーナ150の抜止めおよび径方向でのリテーナ150の位置決めが行われる。
ボールシート141の外周部141aに中心線方向で当接可能な3つの保持爪158は、周方向で隣接する係合爪157同士の間で、周方向に等しい間隔を置いて配置されている。各保持爪158は、周方向で隣接する係合爪157同士の間で、両係合爪157から周方向で等しい間隔を置いて配置されている。
【0039】
ボールシート141は、保持爪158によりリテーナ150から抜け止めされた状態で、リテーナ150に対して、中心線方向で中間部156cと保持爪158との間で保持され、かつ外周部156bにより径方向で位置決めされている。
このように、ボールシート141はリテーナ150と一体化されることにより、ボールシート141、チェックボール148およびリテーナ150を備える逆止弁ユニット140は、1つのモジュールを構成する。
【0040】
図1,図2を参照して、テンショナ100の動作を説明する。
弁油路143の油圧が油室131の油圧よりも相対的に大きくなると、チェックボール148がシート面142から離座する離座状態となり、チェックボール148が開弁する。そして、給油路111の圧油が弁油路143を介して油室131に流入して、プランジャ付勢用ばね130および油室131の圧油により付勢されたプランジャ120が前進し、該プランジャ120は、可動レバー4を介してチェーン66に張力を付与する。
このように、テンショナ100においては、チェーン66の張力減少時に、チェックボール148が開弁し、プランジャ120が前進することで、チェーン66に張力が付与される。
【0041】
一方、チェーン6の張力変動に起因して、チェーン6の張力が増加し、可動レバーを介してプランジャ120の先端に作用するチェーン6からの反力が増加するとき、該反力により後退方向(図2参照)に押されたプランジャ120がプランジャ付勢用ばね130の付勢力および油室131の圧油の圧力に抗して後退すると、油室131の油圧が上昇する。そして、弁油路143の油圧よりも大きくなった油室131の油圧により、チェックボール148は、シート面142に着座する着座状態になって、閉弁する。
このように、テンショナ100においては、チェーン6の張力増加時に、チェックボール148が閉弁し、油室131内に貯留されている圧油によるダンパ機能が発揮されることで、チェーン6の過度の張力低下が防止される。
【0042】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
油圧式テンショナ100は、ハウジング110に進退方向に移動可能に収容されたプランジャ120と、油室131への給油路111からの圧油の流入を許容する一方で給油路111への油室131からの圧油の流出を制限する逆止弁ユニット140とを備え、逆止弁ユニット140が、弁油路143が設けられたボールシート141と、シート面142に対する離座および着座により弁油路143を開閉するチェックボール148と、チェックボール148との当接により離座状態のチェックボール148の移動量を規制するリテーナ150とから構成される。
この構成により、チェックボール148が閉弁することで、油室131に閉じ込められた圧油によりチェーン6からの反力によるプランジャ120の後退が抑制されるダンパ機能が奏されると共に、チェックボール148が開弁して圧油が弁油路143から油室131に流入することで、チェーン6への迅速な張力付与が可能となる。
【0043】
逆止弁ユニット140において、チェックボール148が、弁油路143の油圧と油室131の油圧との油圧差のみに応じてシート面142に対して着座および離座可能であると共にリテーナ150に当接可能であり、リテーナ150が、シート面142の中心線Lに平行な中心線方向でチェックボール148に対向する頂壁151を有し、頂壁151が、離座状態のチェックボール148の、中心線方向における着座状態からの移動量であるストローク量を規制するストローク規制面152を有し、ストローク規制面152が、中心線Lを含む平面での断面形状が曲線153となる凹面であり、ストローク規制面152でのチェックボールとの当接点Pにおける曲線153の曲率中心Ccが、中心線方向でストローク規制面152に対してシート面142が位置する側で、当接点Pよりも径方向内方に、もしくはほぼ中心線L上に位置するか、または、当接点Pにおける曲線153の法線が、中心線方向でストローク規制面152からシート面142に向かうにつれて径方向内方に向かって、もしくはほぼ中心線L上で延びている。
【0044】
この構成により、逆止弁ユニット140はチェックボール148を閉弁方向に付勢する弁付勢部材(例えば、弁スプリング)を備えていないために、チェックボール148は、給油路111に連なる弁油路143と油室131との油圧差のみに応動して開弁および閉弁すると共に、離座状態でストローク規制面152に当接する。
このとき、ストローク規制面152は、当接点Pでの曲線153の曲率中心Ccが、ストローク規制面152に対してシート面142が位置する側で、当接点Pよりも径方向内方、もしくはほぼ中心線L上に位置するように、または、当接点Pでの曲線153の法線が、ストローク規制面152からシート面142に向かうにつれて径方向内方に向かって、もしくはほぼ中心線L上で延びているように形成された凹面であることにより、ストローク規制面152に当接するチェックボール148がストローク規制面152から受ける反力の方向は、ストローク規制面152が中心線Lに直交する平面またはシート面142に向かって凸面であるである場合に比べて、中心線Lに向かう方向となるので、中心線Lから遠ざかる方向、すなわち径方向外方へのチェックボール148の移動が抑制されて、チェックボール148の暴れが抑制される。このため、チェックボール148の閉弁の迅速性を向上させることができて、テンショナ100のダンパ性能を向上させることができ、さらに、油通路162,163から油室131への圧油の流入流量のバラツキが低減して、油室131への圧油の流入流量を安定化させることができて、チェーン6に対する張力付与性能の安定性を向上させることができる。
また、リテーナ150には前記弁付勢部材を保持させる必要がないことから、ストローク規制面152の形状および形成範囲を含む形状設定に対する前記弁付勢部材による制約がないので、チェックボール148の暴れを防止しながら、ストローク規制面152の前記形状設定やチェックボール148のストローク量の設定の自由度が大きいストローク規制面152を形成することが可能になるなど、ストローク規制面152の設定の自由度を大きくすることができる。
【0045】
リテーナ150が、中心線Lを中心とする周方向に間隔を置いて複数の通油口161が設けられている周壁154を有し、周壁154が、着座状態のチェックボール148との間に中心線Lを中心とする径方向での隙間を形成する内周面155を有し、内周面155が、ベース面155aと、周方向で隣接する前記通油口161同士の間にそれぞれ配置されていると共にベース面155aよりも径方向外方に位置する複数の局所凹面155bとを有し、ベース面155aが、チェックボール148との当接により離座状態のチェックボール148の径方向移動量を規制する径方向規制面であり、周方向における局所凹面155bの両側でベース面155aに当接しているチェックボール148と局所凹面155bとの間に、リテーナ150内の圧油が中心線方向に流通可能な油通路162が形成される。
【0046】
この構成によれば、油通路162を流れる圧油の油圧により、チェックボール148が径方向内方に向かう力を受けるので、チェックボール148の径方向外方への移動が抑制されるため、チェックボール148の暴れが抑制され、しかも、径方向内方に向かう前記力により、チェックボール148を内周面155に押し付ける押付力が低減して、内周面155との間での摩擦力を低減できるため、チェックボール148の移動が円滑化されて、弁油路143と油室131との間で流動する圧油の流量が少量である場合も含めて、チェックボール148の閉弁および開弁の迅速性を向上させることができる。
また、油通路162が形成されることにより、リテーナ150内での圧油の流動がチェックボール148により妨げられることが抑制されるので、リテーナ150の剛性の低下を防止して、リテーナ150の耐久性を向上させながら、弁油路143から油室131への圧油の所要の流入流量の確保が容易になり、さらには該流入流量の増加も可能になる。しかも、油通路162は局所凹面155bにより形成されるので、油通路162を流れる圧油の流量の増加が容易になる。
【0047】
リテーナ150が、ハウジング110の段部117と係合することにより、ハウジング110に対するリテーナ150の抜止めおよび径方向でのリテーナ150の位置決めを行う係合爪157とを有することにより、ハウジング110に係合する係合爪157は、ハウジング110からのリテーナ150の抜止め機能およびハウジング110に対する径方向でのリテーナ150の位置決め機能を有するので、ハウジング110に対するリテーナ150の組付および取外しが容易化されて、ハウジング110に対する逆止弁ユニット140の着脱の容易性を向上させることができる。
【0048】
リテーナ150が、ボールシート141を保持する保持爪158を有することにより、ボールシート141が保持爪158によりリテーナ150に一体に保持されるので、逆止弁ユニット140を1つのモジュールとしてハウジング110に対して着脱することができるため、ハウジング110に対する逆止弁ユニット140の着脱の容易性を一層向上させることができる。しかも、逆止弁ユニット140がハウジング110に組み付けられる前に、リテーナ150とボールシート141との位置関係を設定することができるので、シート面142とストローク規制面152との位置関係が高精度に設定された状態で逆止弁ユニット140をハウジング110に組み付けることが可能になり、ストローク規制面152によるチェックボール148の暴れ抑制機能を向上させることができる。
【0049】
次に、図5,図6を参照して、前述した実施例の構成の一部が変更された変形例を説明する。本発明の別の実施例である該変形例は、前述した実施例と部分的に共通する構造を有することから、同一の部分または対応する部分についての説明は省略または簡略にし、異なる点を中心に説明する。なお、前記実施例の部材等と同一の部材等または対応する部材等については、必要に応じて同一の符号が使用されている。
【0050】
中心線Lからのストローク規制面152Aの形成幅Rは、すべての当接点Pが含まれるように設定される一方で、後述するように、局所凸面155cにより径方向外方への移動量が小さくなるので、シート面142での前記接触部の前記接触径よりも小さく設定される。
周壁154の内周面155は、中心線Lを中心軸線とする円柱面の一部により構成されるベース面155aと、周方向で隣接する通油口161同士の間に間隔を置いてそれぞれ配置されていると共にベース面155aよりも径方向内方に位置する複数の局所凸面155cとを有する。局所凸面155cは、チェックボール148との当接により離座状態のチェックボール148の径方向移動量を規制する径方向規制面であり、ここでは中心線Lに平行な平面から構成される。
【0051】
周方向で隣接する局所凸面155c同士に当接しているチェックボール148(一例が、図6に二点鎖線で示される。)とベース面155aおよび局所凸面155cの一部との間には、リテーナ150内の圧油が中心線方向に流通可能な油通路163が形成される。各油通路163は、局所凸面155c同士にチェックボール148が当接している状態で、通油口161に開放している。
【0052】
この変形例によれば、実施例と同様の作用および効果が奏されるほか、次の作用および効果が奏される。
リテーナ150において、周壁154の内周面155が、ベース面155aと、周方向で隣接する通油口161同士の間にそれぞれ配置されていると共にベース面155aよりも径方向内方に位置する複数の局所凸面155cとを有し、局所凸面155cが、チェックボール148との当接により離座状態のチェックボール148の径方向移動量を規制する径方向規制面であり、周方向で隣接する局所凸面155c同士に当接しているチェックボール148とベース面155aおよび局所凸面155cの一部との間には、通油口161に開放すると共にリテーナ150内の圧油が中心線方向に流通可能な油通路163が形成される。
【0053】
この構成により、チェックボール148の径方向外方への移動量が、ベース面155aよりも径方向内方に突出している各局所凸面155cとの当接により規制されるので、内周面155がベース面155aのみである場合に比べて、チェックボール148の移動が中心線Lにより近い位置に制限されて、チェックボール148の暴れが抑制される。
また、油通路163を流れる圧油の油圧により、チェックボール148が径方向内方向きの力を受けることから、チェックボール148の径方向外方への移動が抑制されるので、チェックボール148の暴れが抑制され、また、チェックボール148を内周面155に押し付け押付力が低減して、内周面155との間での摩擦力を低減できるので、チェックボール148の移動が円滑化されて、弁油路143と油室131との間で流動する圧油の流量が少量である場合も含めて、チェックボール148の閉弁および開弁の迅速性を向上させることができる。
そして、油通路163が形成され、しかも油通路163が通油口161に開放していることにより、チェックボール148が通油口161を局所的に塞ぐことが防止されるなど、リテーナ150内での圧油の流動がチェックボール148により妨げられることが抑制されるので、リテーナ150の剛性の低下を防止して、リテーナ150の耐久性を向上させながら、弁油路143から油室131への圧油の所要の流入流量の確保が容易になる。
【0054】
以下、前述した実施例および変形例の一部の構成を変更した例について、変更した構成に関して説明する。
曲線153は、ほぼ中心線L上に曲率中心Ccが位置するクロソイド曲線であってもよい。また、曲線153は、種類、半径または曲率中心Ccが異なる複数の曲線から構成される複合曲線、すなわちストローク規制面152,152Aが複数の種類の曲面から構成されてもよく、さらに該複合曲線には、曲線としての直線、すなわちストローク規制面152,152Aには平面が含まれていてもよい。
そして、これらの前記実施例および前記変形例とは異なる曲線となる凹面であるストローク規制面152,152Aによっても、前記実施例と同様の効果が奏される。
【0055】
チェックボール148の閉弁時に、油室131から弁油路143への圧油の流出が制限される場合として、油室131内の圧油によるテンショナ100のダンパ機能が確保される条件の下で、過大張力の発生を防止する観点からプランジャ120の後退を許容する若干の圧油の流出が許容されてもよい。
複数の局所凹面155bまたは複数の局所凸面155cが、周方向で隣接する通油口161同士の間に、周方向に等しい間隔、または異なる間隔を置いて設けられてもよい。通油口は、複数の孔などの開口から構成される開口群により構成されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
100・・・油圧式テンショナ
110・・・ハウジング
131・・・油室
140・・・逆止弁ユニット
141・・・ボールシート
142・・・シート面
143・・・弁油路
148・・・チェックボール
150・・・リテーナ
151・・・頂壁
152,152A・・・ストローク規制面
153・・・曲線
154・・・周壁
155・・・内周面
157・・・係合爪
161・・・通油口
162,163・・・油通路
L ・・・中心線
Cc ・・・曲率中心
Cb ・・・チェックボールの中心
P ・・・当接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン等の巻掛け伝動体に張力を付与するためにハウジングに進退方向に移動可能に収容されたプランジャと、前記ハウジングおよび前記プランジャにより形成された油室への給油路からの圧油の流入を許容する一方で前記給油路への前記油室からの圧油の流出を制限する逆止弁ユニットとを備え、前記逆止弁ユニットが、前記給油路と前記油室とを連通させる弁油路が設けられたボールシートと、前記ボールシートのシート面に対する離座および着座により前記弁油路を開閉するチェックボールと、着座状態の前記チェックボールから離隔して配置されていると共に前記チェックボールとの当接により離座状態の前記チェックボールの移動量を規制するリテーナとから構成される油圧式テンショナにおいて、
前記チェックボールが、前記弁油路の油圧と前記油室の油圧との油圧差のみに応じて前記シート面に対して着座および離座可能であると共に前記リテーナに当接可能であり、
前記リテーナが、前記シート面の中心線に平行な中心線方向で前記チェックボールに対向する頂壁を有し、
前記頂壁が、離座状態の前記チェックボールの、前記中心線方向における着座状態からの移動量であるストローク量を規制するストローク規制面を有し、
前記ストローク規制面が、前記中心線を含む平面での断面形状が曲線となる凹面であり、
前記ストローク規制面における前記チェックボールとの当接部位を当接点とするとき、前記当接点における前記曲線の曲率中心が、前記中心線方向で前記ストローク規制面に対して前記シート面が位置する側で、前記当接点よりも径方向内方に位置するか、もしくはほぼ前記中心線上に位置すること、または、前記当接点における前記曲線の法線が、前記中心線方向で前記ストローク規制面から前記シート面に向かうにつれて径方向内方に向かって延びているか、もしくはほぼ前記中心線上で延びていること、を特徴とする油圧式テンショナ。
【請求項2】
前記リテーナが、前記中心線を中心とする周方向に間隔を置いて複数の通油口が設けられている周壁を有し、
前記周壁が、着座状態の前記チェックボールとの間に前記中心線を中心とする径方向での隙間を形成する内周面を有し、
前記内周面が、ベース面と、前記周方向で隣接する前記通油口同士の間にそれぞれ配置されていると共に前記ベース面よりも径方向外方に位置する複数の局所凹面とを有し、
前記ベース面が、前記チェックボールとの当接により離座状態の前記チェックボールの径方向移動量を規制する径方向規制面であり、
前記周方向における前記局所凹面の両側で前記ベース面に当接している前記チェックボールと前記局所凹面との間に、前記リテーナ内の圧油が前記中心線方向に流通可能な油通路が形成されることを特徴とする請求項1に記載の油圧式テンショナ。
【請求項3】
前記リテーナが、前記中心線を中心とする周方向に間隔を置いて複数の通油口が設けられている周壁を有し、
前記周壁が、着座状態の前記チェックボールとの間に前記中心線を中心とする径方向での隙間を形成する内周面を有し、
前記内周面が、ベース面と、前記周方向で隣接する前記通油口同士の間にそれぞれ配置されていると共に前記ベース面よりも径方向内方に位置する複数の局所凸面とを有し、
前記局所凸面が、前記チェックボールとの当接により離座状態の前記チェックボールの径方向移動量を規制する径方向規制面であり、
前記周方向で隣接する前記凸面同士に当接している前記チェックボールと前記ベース面との間には、前記通油口に開放すると共に前記リテーナ内の圧油が前記中心線方向に流通可能な油通路が形成されることを特徴とする請求項1に記載の油圧式テンショナ。
【請求項4】
前記リテーナが、前記ボールシートを保持する保持部と、前記ハウジングと係合することにより、前記ハウジングに対する前記リテーナの抜止めおよび前記中心線を中心とする径方向での前記リテーナの位置決めを行う係合部とを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の油圧式テンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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