説明

油圧防振器の油量確認装置及びこれを用いた油圧防振器

【課題】 油圧防振器の作動油の不足が一見して容易に確認でき、その視認性の低下がない油量確認装置を提供する。
【解決手段】
加圧蓋8で貯留室7aを加圧するオイルリザーバ7を備えた油圧防振器に油量確認装置14を設ける。油量確認装置14は、オイルリザーバ7を内外に貫通するケース15と、ケース15を気密に貫通する作動杆16と、作動杆16を内側に引き込む圧縮ばね17とを具備する。作動杆16の外側端部には、オイルリザーバ7の外面に出没する警告表示部を備える。作動杆16の内側端部は、加圧蓋8の突出片8aに臨ませる。作動杆16は、作動油の適量状態で圧縮ばね17によりケース15内に引き込まれて保持され、警告表示部が隠れる。作動油の不足時に、加圧蓋8の突出片8aが作動杆16をケース15から押し出し、警告表示部を外部に突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震、機械振動、風その他の外力に起因する振動により構築物自体やこれに支持された設備等の揺れを阻止するために、例えば構築物の梁材や支柱材などの構造材の相互間や、構造物と配管又は機器などとの間に設けられる油圧防振器において作動油の油量を点検確認するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
支持体と防振対象と間に介設される油圧式の防振器は、内部に作動油を充填したシリンダと、シリンダ内を二つの油圧室に区画するピストンと、シリンダに出入り自在に挿入されたピストンロッドとを具備する。このような油圧防振器は、シリンダの二つの油圧室に、油容器を連通させ、この連通路上に弁装置を設け、シリンダとピストン杆の相対移動に伴い拡大、縮小する二つの油圧室から出入りする作動油の急激な流通を抑制する一方、作動油の緩慢な流通を許容することにより、構築物等に生じる振動を低減する。
従来、特許文献1に記載の油圧防振器は、ピストン杆にこれと並行にピストンのストローク位置を指示可能な目盛り付きの標示棒を設けると共に、油容器にピストン位置を指示可能な目盛り付きのスケールを設け、標示棒と油容器のスケールとを対比観察することにより、作動油の油量の適否を判定している。
また、特許文献2に記載の油圧防振器は、オイルリザーバを円筒状シリンダ周りに同心円筒状に構成し、オイルリザーバに発泡体を設けて、その弾性によって作動油の体積変動を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭55-70637号公報
【特許文献2】特開2000-145866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の油圧防振器のうち前者においては、標示棒と油容器のスケールとを対応づけて油量の適否を判定するため、ピストンがストローク端より内側に位置すると判定が容易でないし、一見して評価できず、迅速な点検確認が困難である。判定を誤ると、防振器の所期の性能を発揮できず、固着の危険等もあるし、逆に正常動作の防振器を調整あるいは交換することになる等無駄な作業を強いることにもなる。後者にあっては、外部から油量を確認することができないし、たとえリザーバに作動油を確認する表示窓を設けても、表示窓から覗き見ることができる範囲が限られること、作動油の不足の判定がし難くいこと、窓自体を透明の材質で構成しても曇る等視認性が低化し易いことなどの問題がある。
そこで、本発明は、作動油の不足が広い目視範囲で一見して容易に確認でき、また視認性の低下がない油圧防振器の油量確認装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明においては、支持体又は防振対象の一方に作動油を充填したシリンダ2を連結し、他方にシリンダ2に出入り自在に挿入されたピストンロッド3を連結し、シリンダ2内を収縮、拡大する二つの油圧室5,6に仕切るピストン4をピストンロッド3に固定し、シリンダ2の作動油の過不足を調整するように作動油を出入り可能に充填するオイルリザーバ7をシリンダに連通させ、シリンダ2の拡大又は縮小する二つの油圧室5,6を出入りする作動油の急激な流通を抑制する一方、作動油の緩慢な流通を許容する制御弁12をオイルリザーバ7とシリンダ2との間に設けた油圧防振器1に、作動油の油量不足を確認する油量確認装置14を設ける。この油量確認装置14は、作動油の適量状態と不足状態に基づく加圧蓋8の変位に対応して適量位置と不足位置との間を移動自在の作動杆16を加圧蓋8に臨ませ、この作動杆16の一端部に、作動杆の適量位置から不足位置への変位を表示させる警告表示部材16aを設ける。
作動杆16をオイルリザーバ7に内外に貫通させ、出入り自在に支持、作動杆16を適量位置に引き込み、加圧蓋7bによる作動杆16の不足位置への押し出しを許容するばね17を作動杆16に設けた。
オイルリザーバ7を内外に貫通して固定されるケース15に作動杆16を出没自在に支持し、ばね17の一端をケース15に、他端を作動杆16に係止した。
警告表示部材38は、作動杆36の適量位置でオイルリザーバ7上に伏し、不足位置でオイルリザーバ7上に立ち上がるように作動杆36を係合させた。
警告表示部38は、シリンダ2の直径方向に対して斜めに軸支され、オイルリザーバ7の側面にほぼ平行に伏す一方、両側部の移動量が互いに異なる回転軌道により、シリンダ2の側面の交差方向に立ち上がってシリンダの側方から視認可能な表示板を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、油量が適正量から不足すると加圧蓋に連動して警告表示部材が表示動作するので、簡易な構成で誤動作無く確実に動作するし、広い範囲で視認させることができ、従って油量の状態を一見して容易に把握することができ、判定が容易で、点検確認作業が容易迅速になり、しかも視認性が低化することがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る油量確認装置を設けた油圧防振器の縦断面図である。
【図2】油量確認装置の拡大断面図である。
【図3】油量確認装置の動作説明図である。
【図4】他の実施形態に係る油量確認装置の正面図である。
【図5】さらに他の実施形態に係る油量確認装置であって、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の一形態を図面を参照して説明する。
図1において、油圧防振器1は、例えば図示しない構築物の構造材などの支持体と防振対象との間に介設される。油圧防振器1は、支持体に連結される円筒状のシリンダ2と、防振対象に連結されてシリンダ2に軸線方向へ出入り自在に挿入されるピストンロッド3と、ピストンロッド3の先端に固定され、シリンダ2内に摺動自在に気密に嵌合して第1及び第2の油圧室5,6に仕切るピストン4とを備えている。シリンダ2内の第1及び第2の油圧室5,6には作動油が充填される。
【0009】
シリンダ2の第1の油圧室5には、第1及び第2の油圧室5,6を出入りする油量の変動差を吸収すると共に、作動油の過不足を調整するために作動油を出入り可能に収容するオイルリザーバ7が油通路10を介して連通している。オイルリザーバ7は、シリンダ2周りに同心円筒状に構成され、両端部がシリンダ2の外周壁両端部に固定され閉塞している。オイルリザーバ7とシリンダ2の側壁との環状空間は加圧蓋8によって、作動油を充填した貯留室7aと、ばね9を保持するばね収容室7bとに仕切られる。加圧蓋8はリング状をなし、オイルリザーバ7及びシリンダ2に軸線方向に移動自在に気密に嵌合している。ばね9は、加圧蓋8を貯留室7a側に加圧するように圧縮状態で加圧蓋8とオイルリザーバ7の一端壁との間に係止されている。オイルリザーバ7の貯留室7aは加圧蓋8により弾力的に拡大、縮小可能である。加圧蓋8には軸線方向に貯留室7a側に張り出た突出片8aを備えている。
【0010】
ピストン4を移動方向前後に貫通する油通路11には、作動油の流通方向に対向する互いに逆向きの一対の制御弁12,12が夫々設けられている。制御弁12は、シリンダ2とピストンロッド3の相対移動に伴い拡大又は縮小する二つの油圧室5,6に出入りする作動油の急激な流通を抑制する一方、作動油の緩慢な流通を無理なく許容するものである。シリンダ2とオイルリザーバ7との間の油通路10には、ピストン移動による油圧室5,6の容積変動の相違に伴う作動油の出入り量を補填する補助弁13を備える。
【0011】
オイルリザーバ7の一端側の外周壁には、油量確認装置14が設けられている。油量確認装置14は、図2に示すように、オイルリザーバ7の外周壁7cを内外に直交方向に貫通するケース15と、ケース15の中心軸線上を移動自在に挿入される作動杆16と、作動杆16をケース15に対して下方へ付勢する圧縮ばね17とを具備する。ケース15は、下端部にオイルリザーバ7の外周壁7cに気密に螺合し固定される取付ねじ部15aを備えた筒状をなす。作動杆16はケース15の上下蓋を出入り自在に気密に貫通する。作動杆16の上端部は、オイルリザーバ7の外部に出没する警告表示部16aを構成する。作動杆16の中間部には、作動杆16をケース15内に保持する鍔16bを備える。作動杆16の下端部には、加圧蓋8の突出片8aの接触により作動杆16を押し上げる傾斜面16cを備える。圧縮ばね17は一端をケース15の上端蓋15bに、他端を作動杆16の鍔16bに圧縮状態で係止され、作動杆16をケース15内に没する位置に保持し、作動杆16の下端部から押し上げを弾力的に許容する。
【0012】
油圧防振器1は、地震等の振動により構築物が揺動して支持体及び防振対象の挙動と共に、ピストンロッド3がシリンダ2内に押し込まれ、あるいはそれから引き出されるようにピストン4が変位しようとするが、油圧室5(6)から連通路10を通じて油圧が一気に変化しても、何れか一方の制御弁12が閉じて、作動油の流通を抑制し、振動を阻止する。一方、継続的な振動や外気温の影響などに伴う作動油の体積変動による緩慢な流れを制御弁12及び補助弁13が無理なく許容する。
【0013】
オイルリザーバ7においては、ばね9により常時貯留室7aを加圧蓋8が加圧している。ピストン4の移動により油圧室5,6間の容積変動に差異が生じたり、継続的な振動や外気温の影響などにより作動油自体の体積の増減が生じるが、内圧変化に応じて加圧蓋8が変位して貯留室7aの容積を増減させる。
【0014】
加圧蓋8は、ピストン4がロッド3側のストローク端に位置する図1の状態となると、オイルリザーバ7の貯留室7aの容積が最小になり、加圧蓋8の突出片8aが作動杆16の下端に最も接近する。もし、作動油が適量状態であれば、図3(A)に示すように、突出片8aが作動杆16に接触せず、作動杆16の警告表示部16aはケース15内に没したままのため、作動油の適量状態を目視で確認できる。作動油が不足状態であれば、ピストン4がロッド3側のストローク端に移動するまでに、同図(B)に示すように、突出片8aが作動杆16の当接面16cに接触しこれに沿って作動杆16を押し上げ、作動杆16の警告表示部16aをケース15の外部に出現させるので、作動油の不足状態を目視で確認できる。
【0015】
他の実施形態を図4に示す。なお、同図以下において先の実施形態と同一の構成部分には同一の符号を付して説明を省略する。
オイルリザーバ7の貯留室7a側の端蓋7dには、油量確認装置24が設けられる。油量確認装置24は、オイルリザーバ7の端蓋7dを軸線方向に移動可能に気密に貫通する作動杆26と、この作動杆26を貯留室7a側へ付勢するばね27とを具備する。作動杆26の一端部には目視可能な幅広の警告表示部26aを備え、他端に鍔部26bを備える。作動杆26には加圧蓋8が臨む。ばね27は、作動杆26周りに鍔26bと端蓋7dとの間に係止され、作動杆26を内側に引き込むように保持し、この状態で警告表示部26aが端蓋7d内に没しており、加圧蓋8が作動杆26を押し出すと、警告表示部26aが端蓋7dから突出する。
【0016】
先の実施形態とほぼ同様にして加圧蓋8が貯留室7aの容積を最小とする位置にあるとき、加圧蓋8が作動杆26に最接近する。もし、作動油が適量であれば加圧蓋8が作動杆26に接触せず、警告表示部26aが端蓋7d内に没しているため、これを外部から視認することができず、作動油の適量状態を確認できる。作動油が不足していれば、加圧蓋8が作動杆26を押し出して、警告表示部26aを端蓋7dの外部に突出させるので、これを外部から視認することができ、作動油の不足状態を確認できる。
【0017】
さらに他の実施形態を図5及び図6に示す。オイルリザーバ7の貯留室7a側の端蓋7dには油量確認装置34を備える。この油量確認装置34は、オイルリザーバ7の端蓋7dを軸線方向に移動可能に気密に貫通する作動杆36と、この作動杆36を貯留室7a側へ引き込むばね37と、作動杆36と係合して警告表示する警告表示部材38とを具備する。作動杆36の一端部には端蓋7dから出没可能な係合部36aを備え、他端には鍔部36bを備える。鍔部36bの後方には加圧蓋8が臨む。ばね37は、作動杆36周りに鍔36bと端蓋7dとの間に係止される。作動杆36はばね37により内側に引き込まれ、係合部36aが端蓋7d内に埋没しているが、加圧蓋8がばね37のばね力に抗して作動杆36を押し出すと、係合部36aが端蓋7dから突出する。警告表示部材38は作動杆36に連動してオイルリザーバ7上に起立、転倒可能にシリンダ2の端蓋2aに回動可能に枢着されている。警告表示部材38は、基端がオイルリザーバ7のの端面に軸支された支持片39と、この支持片39の直交方向に伸びた表示板40とを具備する。支持片39は、基端がオイルリザーバ7の端面の作動杆36の近傍位置にオイルリザーバ7の直径方向から45°傾いた回転軸39aで端面に対して垂直に起伏回転可能に支持され、中間部で伸長方向に対してオイルリザーバ7の側面に近い側方へ約45°屈曲している。支持片39は、突出した作動杆36の係合部36aに押されて回転軸39aを中心にオイルリザーバ7の端面から起立回転する。表示板40は支持片39の自由端からオイルリザーバ7の側面側に直角に伸びている。警告表示部材38は、作動杆36がオイルリザーバ7内に埋没した状態で表示板40がオイルリザーバ7の側面に沿ってほぼ平行に伏し、表示板40の板面をシリンダ2の側方から確認し難い初期位置にあるが、作動杆36が突出して支持片39を押し、支持片39が回転軸39aを中心に起立回転すると、表示板40の板面がシリンダ2の側方から確認し易い位置に変位することとなる。
【0018】
先の実施形態とほぼ同様にして加圧蓋8が貯留室7aの容積を最小とする位置にあるとき、加圧蓋8が作動杆36に最接近する。もし、作動油が適量であれば加圧蓋8が作動杆36に接触せず、作動杆36が端蓋7d内に引き込まれているため、警告表示部材38の表示板40がオイルリザーバ7の側面に伏した状態のままその板面を視認し難く、作動油の適量状態を確認できる。作動油が不足していれば、加圧蓋8が作動杆36を押し出して、警告表示部材38が起立回転し、表示板40の板面をシリンダの側方から確認できるので、作動油の不足状態を判定できる。
【符号の説明】
【0019】
1 油圧防振器
2 シリンダ
3 ピストンロッド
4 ピストン
5 油圧室
6 油圧室
7 オイルリザーバ
7a 貯留室
7c 外周壁
7d 端蓋
8 加圧蓋
8a 突出片
9 ばね
12 制御弁
13 補助弁
14 油量確認装置
15 ケース
16 作動杆
16a 警告表示部
17 圧縮ばね
24 油量確認装置
26 作動杆
26a 警告表示部
27 圧縮ばね
34 油量確認装置
36 作動杆
37 圧縮ばね
38 警告表示部材
39 支持片
40 表示面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体又は防振対象の一方に連結され、内部に作動油を充填したシリンダと、
前記シリンダ内を二つの油圧室に仕切るピストンと、
支持体又は防振対象の他方に連結され、前記ピストンに結合して、前記シリンダの一端から出入り自在に挿入されたピストンロッドと、
前記油圧室の作動油の過不足を調整するためにシリンダに連通して、作動油を出入り可能に収容する貯留室を拡大、収縮させる移動可能な加圧蓋を備えるオイルリザーバと、
前記シリンダとピストンロッドの相対移動に伴い前記二つの油圧室を出入りする作動油の急激な流通を抑制して振動を阻止する一方、作動油の緩慢な流通を許容してシリンダとピストンロッドの緩慢な相対変位を可能にするために、作動油の流通路上に設けられた制御弁とを具備する油圧防振器における作動油の不足状態を外部に警告表示するものであって、
前記加圧蓋に臨み、前記作動油の適量状態と不足状態に基づく前記加圧蓋の変位に対応して適量位置と不足位置との間を移動可能な作動部と、
この作動部の不足位置への変位を外部に目視可能な警告表示部とを具備することを特徴とする油圧防振器の油量確認装置。
【請求項2】
前記作動部は、オイルリザーバを内外に貫通し、ばねにより内方の適量位置に引かれる一方、前記加圧蓋により不足位置へ押されて、前記警告表示部を外部に押し出すことを特徴とする請求項1に記載の油圧防振器の油量確認装置。
【請求項3】
前記作動部は、オイルリザーバを内外に貫通して固定されるケースに出没自在に支持され、
前記ばねの一端がケースに、他端が前記作動部に係止されることを特徴とする請求項2に記載の油圧防振器の油量確認装置。
【請求項4】
前記警告表示部は、前記作動部の適量位置でオイルリザーバ上に伏し、不足位置でオイルリザーバ上に立ち上がるように作動部に枢着されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油圧防振器の油量確認装置。
【請求項5】
前記警告表示部は、前記シリンダの直径方向に対して斜めに軸支され、オイルリザーバの側面にほぼ平行に伏す一方、両側部の移動量が互いに異なる回転軌道により、シリンダの側面の交差方向に立ち上がってシリンダの側方から視認可能な表示板を備えることを特徴とする請求項4に記載の油圧防振器の油量確認装置。
【請求項6】
前記オイルリザーバに請求項1ないし5のいずれかに記載の油量確認装置を具備することを特徴とする油圧防振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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