説明

油性インキ組成物

【課題】 光輝性顔料及び非水溶性有機溶剤を含有してなる油性インキ組成物において、非水溶性有機溶剤中における光輝性顔料の再分散性を向上させることができる油性インキ組成物を提供する。
【解決手段】鱗片状ガラスの表面に金属、又はガラスより屈折率の高い金属酸化物が被覆されている光輝性顔料と樹脂と、非水溶性有機溶剤とを含有し、光輝性顔料の表面は、チタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている油性インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばグラビアインキ、フレキソインキ等の印刷用インキに用いられる油性インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の油性インキ組成物としては、以下に示すものが知られている。例えば特許文献1では、フレーク状のガラスの表面に金属又は金属酸化物が被覆されてなる光輝性顔料と、ビヒクル樹脂と、溶剤とを含有してなる油性インキ組成物が開示されている。この油性インキ組成物によれば、光輝性顔料の発する反射光がキラキラと輝くことで、美麗な印刷外見が形成されるようになる。
【特許文献1】特開2002−69355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常、グラビアインキやフレキソインキに用いられる油性インキ組成物は粘度が低いことから、光輝性顔料のような固形粒子成分が沈降しやすい。特に、沈降した光輝性顔料が経時的に固化した場合は、こうした光輝性顔料を簡易な攪拌で溶剤中に再分散させることは困難なものとなっている。このため、油性インキ組成物を長期に亘って保存する場合や、運搬する間に光輝性顔料が沈降し固化してしまうと、当該光輝性顔料が溶剤と完全に分離してしまい、油性インキ組成物において光輝性顔料の機能が十分に発揮されない可能性が高かった。
【0004】
また、実際の印刷時においては、インキパン内において光輝性顔料が経時的に沈降し、この沈降した光輝性顔料が固化してしまうと、簡易な攪拌で光輝性顔料を溶剤中に再分散させることは困難である。その結果、沈降して固化した固形粒子成分(光輝性顔料等)を除去すべく印刷ラインを停止する必要があり、グラビア印刷やフレキソ印刷の特徴である印刷スピードの迅速化が損なわれるといった問題を招いていた。
【0005】
そこで、本発明者らは鋭意研究の結果、沈降した場合でも溶剤中に容易に再分散させることができる光輝性顔料を開発し、本発明を完成するに至った。本発明の目的とするところは、光輝性顔料及び非水溶性有機溶剤を含有してなる油性インキ組成物において、非水溶性有機溶剤中における光輝性顔料の再分散性を向上させることができる油性インキ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の油性インキ組成物は、鱗片状ガラスの表面に金属、又はガラスより屈折率の高い金属酸化物が被覆されてなる光輝性顔料と、樹脂と、非水溶性有機溶剤とを含有してなり、前記光輝性顔料の表面は、チタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されていることを要旨とする。
【0007】
これによれば、光輝性顔料の表面に疎水基が導入されて疎水化処理が施されることから、樹脂を含む非水溶性有機溶剤と光輝性顔料との相溶性が向上する。このため、非水溶性有機溶剤中における光輝性顔料の分散性の向上が図られる。従って、経時的に沈降又は固化した光輝性顔料を非水溶性有機溶剤中に再分散させることが容易となる。
【0008】
請求項2に記載の発明の油性インキ組成物は、請求項1に記載の発明において、前記表面処理剤の含有量は、前記光輝性顔料に対して質量分率で、0.05〜0.5質量%であることを要旨とする。
【0009】
これによれば、非水溶性有機溶剤と光輝性顔料との相溶性を向上させることができる適度の量の表面処理剤を、光輝性顔料の表面に吸着させることが可能となる。
請求項3に記載の発明の油性インキ組成物は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記表面処理剤は、疎水基としてアミノ基、ホスファイト(Phosphite)基、パイロホスフェート(Pyrophosphate)基、カルボキシル基、ヘキシル基、又はデシル基を有していることを要旨とする。
【0010】
これによれば、疎水基の作用効果が十分に発揮され、非水溶性有機溶剤と光輝性顔料との相溶性のさらなる向上が図られる。
請求項4に記載の発明の油性インキ組成物は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、粘度が0.05〜0.5Pa・sであることを要旨とする。
【0011】
これによれば、光輝性顔料等の固形粒子成分が沈降しやすい低粘度(0.05〜0.5Pa・s)の油性インキ組成物において、非水溶性有機溶剤中における光輝性顔料の再分散性の向上が図られる。これにより、当該低粘度の油性インキ組成物において、光輝性顔料の沈降又は固化に起因して生じる種々の問題(インキの光輝性の低下等)が回避される。
【0012】
請求項5に記載の発明の油性インキ組成物は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、グラビアインキ又はフレキソインキに用いられることを要旨とする。
これによれば、十分な光輝性が発揮され得るグラビアインキ又はフレキソインキが得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の油性インキ組成物によれば、光輝性顔料及び非水溶性有機溶剤を含有してなる油性インキ組成物において、非水溶性有機溶剤中における光輝性顔料の再分散性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の油性インキ組成物を具体化した一実施形態を説明する。
本実施形態の油性インキ組成物は、光輝性顔料と樹脂と非水溶性有機溶剤とを含有してなるものである。この油性インキ組成物は、グラビアインキ、フレキソインキ、オフセットインキ等の印刷用インキの他、ボールペン、サインペン等の筆記具用インキとして用いられる。これらの中でも、本実施形態の油性インキ組成物は、主にグラビアインキやフレキソインキに用いられる。
【0015】
光輝性顔料は、油性インキ組成物に光輝性を付与するために用いられる。この光輝性顔料は、鱗片状ガラスの表面に金属、又はガラスより屈折率の高い金属酸化物が被覆されてなるものである。鱗片状ガラスの平均粒径(長手方向の寸法)は1〜500μmであり、平均厚みは0.1〜10μmである。本実施形態の鱗片状ガラスの化学組成としては、特に限定されるものではなく、Eガラス組成、Cガラス組成、Aガラス組成等の数種類が挙げられる。鱗片状ガラスの屈折率は、その化学組成に関わらず1.4〜1.7の範囲内にある。
【0016】
鱗片状ガラスの表面に被覆される金属としては、銀、チタン、ニッケル、金、白金、パラジウム、コバルト、銅、又はこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、コスト面及び品質面の双方において優れていることから、銀、チタン、ニッケル又はこれらの合金が好ましい。鱗片状ガラスの表面に金属を被覆する場合、その被覆膜の厚みは0.04〜0.2μmが好ましく、0.05〜0.15μmがより好ましい。この被覆膜の厚みが0.04μm未満の場合は、十分な光輝性が得られない可能性が高い。一方、被覆膜の厚みが0.2μmを超える場合には、金属の使用量の割りには光輝性が向上しなくなり、経済的でない。
【0017】
一方、鱗片状ガラスの表面に被覆される金属酸化物としては、油性インキ組成物の光輝性を高めるべく、ガラスより屈折率が高いものが使用される。この種の金属酸化物としては、屈折率が2.0〜3.0のものが好ましく、その具体例としては、アナターゼ型二酸化チタン(屈折率:約2.5)、ルチル型二酸化チタン(屈折率:約2.7)、酸化鉄(屈折率:約2.4〜2.7)、二酸化ジルコニウム(屈折率:約2.1)等が挙げられる。これらの中でも、化学的耐久性やコスト面に特に優れていることから、アナターゼ型二酸化チタン及びルチル型二酸化チタンのいずれかが好ましく、ルチル型二酸化チタンが最も好ましい。
【0018】
金属酸化物の被覆膜は、金属酸化物の種類や要求される光輝性の程度、或いは干渉色等によって適宜調整されるが、その厚みは0.01〜1μmが好ましく、0.03〜0.8μmがより好ましい。金属酸化物の被覆膜の厚みが0.01μm未満の場合には、十分な光輝性が得られない可能性が高い。一方、金属酸化物の被覆膜の厚みが1μmを超える場合には、金属酸化物の使用量の割りには光輝性が向上しなくなり、経済的でない。
【0019】
本実施形態の光輝性顔料の表面は、チタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている。これらの表面処理剤は、1分子中に、親水性の加水分解性基(親水基)及び疎水性の有機官能基(疎水基)の双方をそれぞれ1基以上有している。なお、これらの表面処理剤の加水分解性基としては、加水分解性を有する基であれば特に限定されるものではなく、例えば、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0020】
チタネート系カップリング剤としては、疎水性の有機官能基(疎水基)としてカルボキシル基、ホスフェート(Phosphate)基、パイロホスフェート(Pyrophosphate)基、ホスファイト(Phosphite)基、スルホニル基、アミノ基等を有しているものが用いられる。この種のチタネート系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラ(2、2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタイノルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等が挙げられる。なお、本実施形態のチタネート系カップリング剤では、光輝性顔料の表面を疎水性とすることができるのであれば、1分子中における親水基及び疎水基の割合は特に制限されるものではない。
【0021】
シラン系カップリング剤としては、疎水性の有機官能基(疎水基)としてビニル基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、エポキシ基等を有しているものが用いられる。この種のシラン系カップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。なお、本実施形態のシラン系カップリング剤では、光輝性顔料の表面を疎水性とすることができるのであれば、1分子中における親水基及び疎水基の割合は特に制限されるものではない。
【0022】
アルミネート系カップリング剤の具体例としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテート、イソプロポキシアルミニウムアルキルアセトアセテートモノ(ジオクチルホスフェート)、ジイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレート、アルミニウム−2−エチルヘキサノエートオキサイドトリマー、アルミニウムステアレートオキサイドトリマー、アルキルアセトアセテートアルミニウムオキサイドトリマー等が挙げられる。なお、本実施形態のアルミネート系カップリング剤では、光輝性顔料の表面を疎水性とすることができるのであれば、1分子中における親水基及び疎水基の割合は特に制限されるものではない。
【0023】
ジルコニウム系カップリング剤の具体例としては、例えば、ジルコニウムトリブトキシステアレート、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。なお、本実施形態のジルコニウム系カップリング剤では、光輝性顔料の表面を疎水性とすることができるのであれば、1分子中における親水基及び疎水基の割合は特に制限されるものではない。
【0024】
また、アルコキシシランとしては、疎水性の有機官能基(疎水基)としてヘキシル基、デシル基、メチル基、フェニル基等を有しているものが用いられる。この種のアルコキシシランの具体例としては、例えば、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。なお、本実施形態のアルコキシシランでは、光輝性顔料の表面を疎水性とすることができるのであれば、1分子中における親水基及び疎水基の割合は特に制限されるものではない。
【0025】
これらの表面処理剤の中でも、本実施形態では、非水溶性有機溶剤中における光輝性顔料の分散性を特に向上させることができるという観点から、疎水基としてアミノ基、ホスファイト基、パイロホスフェート基、カルボキシル基、ヘキシル基、又はデシル基を有しているものが好ましい。この種の表面処理剤としては、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラ(2、2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等のチタネート系カップリング剤、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、デシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン等のアルコキシシランが挙げられる。
【0026】
表面処理剤の配合量は、前記光輝性顔料に対して質量分率で、0.05〜0.5質量%、好ましくは0.1〜0.4質量%である。表面処理剤の含有量が0.05質量%未満の場合には、非水溶性有機溶剤への光輝性顔料の分散性を十分に向上させることができない。一方、表面処理剤の含有量が0.5質量%を超える場合には、非水溶性有機溶剤への光輝性顔料の再分散性に関してそれ以上の効果が得られない可能性が高く、経済的でない。
【0027】
また、油性インキ組成物中における、光輝性顔料(表面処理剤により表面処理された光輝性顔料)の含有量は、0.1〜40質量%、好ましくは1〜30質量%である。光輝性顔料の含有量が0.1質量%未満の場合には、油性インキ組成物の光輝性が十分に得られない可能性が高い。一方、光輝性顔料の含有量が40質量%を超える場合には、非水溶性有機溶剤への光輝性顔料の再分散が困難となる可能性が高い。また、油性インキ組成物の光輝性に関してもそれ以上の効果が得られない可能性が高く、経済的でない。
【0028】
樹脂は、当該油性インキ組成物を印刷用インキとして使用するに際して光輝性顔料を被印刷物に固着させるとともに均一に分散させるために含有される。この種の樹脂としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、セラック、ギルソナイト等の天然樹脂類、硬化ロジン、ライムロジン、ロジンエステル、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等の天然樹脂誘導体類、フェノール樹脂、ケトン樹脂、メラミン樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール、スチレン・マレイン酸樹脂、塩素化ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、石油樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ニトロセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、環化ゴム、塩化ゴム等の合成樹脂類が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
油性インキ組成物中における樹脂の含有量は、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。樹脂の含有量が5質量%未満の場合には、被印刷物に対する光輝性顔料の固着性が低下する可能性が高い。一方、樹脂の含有量が50質量%を超えると、油性インキ組成物の粘度が過剰なものとなり、その流動性が低下する可能性が高い。
【0030】
非水溶性有機溶剤は、光輝性顔料の分散溶媒として使用される。この種の非水溶性有機溶剤としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、シクロヘキサン、キシレン等の芳香族炭化水素類、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が挙げられる。これらの非水溶性有機溶剤は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
油性インキ組成物中における非水溶性有機溶剤の含有量は、30〜80質量%、好ましくは40〜75質量%である。非水溶性有機溶剤の含有量が30質量%未満の場合には、光輝性顔料の分散性が低下するとともに、油性インキ組成物の流動性が低下する可能性が高い。一方、非水溶性有機溶剤の含有量が80質量%を超えると、当該油性インキ組成物を印刷用インキとして使用する場合において、被印刷物に付着した油性インキ組成物の乾燥が困難となる可能性が高い。
【0032】
本実施形態の油性インキ組成物の粘度は、0.05〜0.5Pa・s、好ましくは0.1〜0.45Pa・sである。油性インキ組成物の粘度が0.05Pa・s未満の場合には、油性インキ組成物の流動性が過剰なものとなり、特に印刷時において被印刷物への付着が困難となる可能性が高い。一方、油性インキ組成物の粘度が0.5Pa・sを超える場合には、油性インキ組成物の流動性が低下する可能性が高い。
【0033】
本実施形態の油性インキ組成物には、その他の成分として、着色剤、油、可塑剤等が含有される。
着色剤は、油性インキ組成物に色彩を付与するために含有される。着色剤としては、顔料及び染料が挙げられる。顔料としては、着色顔料や体質顔料が知られている。この種の着色顔料としては、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料や、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、イソインドリン系顔料、アントラキノン系顔料、キナクドリン系顔料、レーキ顔料等の有機顔料が挙げられる。体質顔料としては、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、アルミナホワイト、タルク、珪酸カルシウム、珪藻土等が挙げられる。また、染料としては、一般的に印刷用の油性インキとして用いられる塩基性染料、酸性染料、分散染料、蛍光染料等の他、アゾ系、トリアリールメタン系、アントラキノン系、アジン系等の油溶染料等が挙げられる。これらの着色剤は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
油は、油性インキ組成物に流動性を付与するために含有される。この種の油としては、アマニ油、シナキリ油、エノ油、大豆油、米糠油、菜種油、ヒマシ油、オリーブ油、パーム油等の植物油、マシン油、スピンドル油等の鉱油、アマニ油やシナキリ油の重合油等の加工油が挙げられる。これらの油は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
可塑剤は、インキの皮膜に柔軟性を付与するために含有される。この種の可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステルの他、アジピン酸、セバチン酸、クエン酸、アゼライン酸等のエステル化合物、トルエンスルホンアミド、ジオクチルアジペート、塩化パラフィン等が挙げられる。これらの可塑剤は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
また、本実施形態の油性インキ組成物中に、この発明の効果を阻害しない範囲内で、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、架橋剤、硬化剤、防かび剤、消泡剤、滑剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0037】
本実施形態の油性インキ組成物は、上記樹脂等を含有する非水溶性有機溶剤に光輝性顔料を混合又は分散させることにより調製される。なお、その際に用いられる混合機、分散機としては、ペイントコンディショナー、ディゾルバー、ハイスピードミキサー、ホモミキサー、ニーダー、ロールミル、サンドミル等が挙げられる。
【0038】
次に、本実施形態の油性インキ組成物を、例えばグラビアインキに用いた場合の作用について説明する。
通常、油性インキ組成物を用いたグラビアインキは粘度が低く、光輝性顔料等の固形粒子成分が沈降しやすい。このように沈降した光輝性顔料、特に、沈降及び固化した光輝性顔料を簡易な攪拌で溶剤中に再度分散させることは困難なものとなっている。そこで、本実施形態の油性インキ組成物では、種々のカップリング剤及びアルコキシシランといった表面処理剤により表面処理された光輝性顔料を用いている。すなわち、表面処理剤により疎水化処理が施されている光輝性顔料を用いている。このため、樹脂を含む溶剤と光輝性顔料との相溶性の向上が図られ、溶剤中における光輝性顔料の分散性が向上する。よって、本実施形態の油性インキ組成物によれば、沈降又は固化した光輝性顔料を、短時間の攪拌により溶剤中に容易に再分散させることが可能となる。特に、印刷スタート時等に版胴の回転を伴う場合、当該版胴の回転による油性インキ組成物の攪拌に応じて光輝性顔料が溶剤中に容易に再分散されるようになる。
【0039】
そして、上記油性インキ組成物は、アート紙、コート紙等の印刷用紙、ラミネート紙、樹脂フィルム、金属等の被印刷物の表面に印刷される。その場合、本実施形態の油性インキ組成物によれば、光輝性顔料が溶剤中に均一に分散された状態で被印刷物に付着されるようになる。その結果、本実施形態の油性インキ組成物を用いたグラビア印刷によれば、ムラがなく安定した光輝性を有する印刷物を得ることができる。
【0040】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 本実施形態の光輝性顔料の表面は、チタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている。すなわち、光輝性顔料の表面に疎水基が導入されることで、光輝性顔料の表面に疎水化処理が施されている。これにより、油性インキ組成物中の溶剤と光輝性顔料との相溶性の向上が図られ、当該溶剤中における光輝性顔料の再分散性を向上させることができる。従って、本実施形態の油性インキ組成物によれば、沈降又は固化した光輝性顔料を、短時間の攪拌により溶剤中に容易に再分散させることができる。
【0041】
(2) 表面処理剤の含有量は、光輝性顔料に対して質量分率で、0.05〜0.5質量%であることが好ましい。この場合、樹脂を含む溶剤と光輝性顔料との相溶性を増大させることができる適度の量の表面処理剤を、光輝性顔料の表面に吸着させることができる。
【0042】
(3) 表面処理剤としては、疎水基としてアミノ基、ホスファイト基、パイロホスフェート基、カルボキシル基、ヘキシル基、又はデシル基を有しているものが好ましい。この場合、樹脂を含む溶剤と光輝性顔料との相溶性をさらに向上させることができる。ひいては、溶剤中における光輝性顔料の再分散性をより一層向上させることができる。
【0043】
(4) 本実施形態の油性インキ組成物を例えばグラビアインキに用いた場合、光輝性顔料が溶剤中に均一に分散された状態で被印刷物に油性インキ組成物を付着させることが可能となる。このため、当該油性インキ組成物を用いたグラビア印刷によれば、ムラがなく安定した光輝性を有する美麗な印刷外観を備えた印刷物を得ることができる。また、本実施形態の油性インキ組成物を例えばフレキソインキに用いた場合も、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0044】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜16、比較例1及び2)
<光輝性顔料への表面処理剤の吸着>
ここでは、表1に示す光輝性顔料への表面処理剤の吸着、すなわち光輝性顔料の表面の疎水化処理を行った。表1に示す光輝性顔料のうち、マイクログラス(登録商標)メタシャイン(登録商標)MEG020PS(日本板硝子(株)製)は鱗片状ガラスの表面に銀が被覆されてなるものであり、マイクログラス(登録商標)メタシャイン(登録商標)MC1020RS(日本板硝子(株)製)は鱗片状ガラスの表面に二酸化チタンが被覆されてなるものである。なお、本実施例においては、「疎水化処理が施された光輝性顔料」を疎水化光輝性顔料と称す。
(実施例1〜8)
実施例1〜4では、湿式処理により、光輝性顔料への表面処理剤の吸着を行った。すなわち、純水495gと表1に示す表面処理剤5gとを撹拌機を用いて30分間撹拌混合することにより得られた混合液に光輝性顔料50gを添加した。そして、ここで得られたスラリーを撹拌機で30分間撹拌混合した後、このスラリーを濾過し、濾物を120℃で12時間乾燥することにより、疎水化光輝性顔料を得た。また、実施例5〜8では、純水の代わりにイソプロピルアルコールを使用して同様の処理を行い、疎水化光輝性顔料を得た。
(実施例9〜16)
実施例9〜16では、乾式処理により、光輝性顔料への表面処理剤の吸着を行った。すなわち、キシレン5gと表1に示す表面処理剤0.5gとをビーカー内で撹拌することにより得られた希釈溶液と、光輝性顔料50gとを万能撹拌機を用いて30分間撹拌混合した。次に、ここで得られた混合液を80℃で6時間乾燥することにより、疎水化光輝性顔料を得た。
(比較例1及び2)
比較例1及び2では、表面処理剤が吸着されていない光輝性顔料を用いた。
<油性インキ組成物の調製>
メジウム(東洋インキ製造(株)製 溶剤型グラビアインキ「ファインスター」)62.5質量部、各例の光輝性顔料12.5質量部、及びソルベント(東洋インキ製造(株)製 溶剤型グラビアインキ用希釈溶剤「NF102溶剤」)25質量部をペイントコンディショナーで混合して分散させ、油性インキ組成物を調製した。そして、下記に示す評価及び測定を行った。その結果を表1に示す。
(1)非水溶性有機溶剤中における光輝性顔料の再分散性の評価
各例の油性インキ組成物を調製後、直ちに40g計量してこれを50cc容量のガラス瓶にそれぞれ充填し、24時間静置させた。その後、光輝性顔料が沈降したガラス瓶を振とう機(ヤマト科学株式会社 SA−31)に設置し、320回/分の条件で振動させてガラス瓶の底に沈降した光輝性顔料が溶剤中に再分散するまでの時間、すなわちガラス瓶の底に沈降した光輝性顔料がすべてなくなるまでの時間をそれぞれ測定した。なお、ここでは、光輝性顔料が溶剤中に分散するまでの時間が短いほど、光輝性顔料の再分散性が優れていることを意味する。
(2)油性インキ組成物の粘度の測定
各例の油性インキ組成物に関し、B型粘度計(ロータ回転速度:6rpm、測定温度:20℃)を用いて各々粘度を測定した。
【0045】
【表1】

表1に示すように、光輝性顔料の表面に疎水化処理が施されている実施例1〜16では、疎水化処理が施されていない比較例1及び2に比べて、光輝性顔料が溶剤中に再分散するまでの時間の短縮化が図られている。すなわち、光輝性顔料の表面に疎水化処理を施すことにより、溶剤中における光輝性顔料の再分散性の向上が図られている。特に、疎水基としてアミノ基、ホスファイト基、カルボキシル基、ヘキシル基、又はデシル基を有する表面処理剤を用いた実施例1〜12においては、光輝性顔料が溶剤中に再分散するまでの時間の短縮化、すなわち溶剤中における光輝性顔料の再分散性の向上が顕著なものとなった。また、実施例1〜12の中でも特に実施例5〜8における再分散性の向上が顕著であるのは、炭素鎖の長い疎水基を光輝性顔料の表面に導入することで溶剤と光輝性顔料との相溶性が著しく向上した結果、溶剤中における光輝性顔料の再分散性のさらなる向上が図られたものと推測される。
【0046】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(1) 請求項1〜4のいずれか一項に記載の油性インキ組成物よりなることを特徴とする印刷用インキ。これによれば、十分な光輝性が発揮され得る印刷用インキを得ることができる。
【0047】
(2) 請求項1〜5のいずれか一項に記載の油性インキ組成物を用いたことを特徴とする印刷物。これによれば、ムラがなく安定した光輝性を有する印刷物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状ガラスの表面に金属、又はガラスより屈折率の高い金属酸化物が被覆されてなる光輝性顔料と、樹脂と、非水溶性有機溶剤とを含有してなり、前記光輝性顔料の表面は、チタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、及びアルコキシシランよりなる群から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されていることを特徴とする油性インキ組成物。
【請求項2】
前記表面処理剤の含有量は、前記光輝性顔料に対して質量分率で、0.05〜0.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の油性インキ組成物。
【請求項3】
前記表面処理剤は、疎水基としてアミノ基、ホスファイト(Phosphite)基、パイロホスフェート(Pyrophosphate)基、カルボキシル基、ヘキシル基、又はデシル基を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油性インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の油性インキ組成物において、粘度が0.05〜0.5Pa・sであることを特徴とする油性インキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の油性インキ組成物において、グラビアインキ又はフレキソインキに用いられることを特徴とする油性インキ組成物。

【公開番号】特開2006−328278(P2006−328278A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156162(P2005−156162)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】