説明

油性インクジェット用印刷媒体およびその製造方法並びに油性インクジェット印刷方法およびインクセット

【課題】油性インクジェット用印刷媒体を、印刷媒体表面の塗工が剥がれにくく、印刷物の印刷濃度を高めることができ、滲みを抑制することが可能なものとする。
【解決手段】油性インクジェット用印刷媒体を、少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、溶剤に溶解可能な石油樹脂を炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液を、炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2を塗工してなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性インクジェットに適した印刷媒体およびその製造方法並びに油性インクジェット印刷方法およびインクセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式に用いられる油性インクは紙への浸透が速く、紙表面に色材が残りにくいため、装置内部や連続して印刷される紙にインク汚れが転写しにくい。また、水性インクと比較して耐水性が良好であり、インクヘッドの目詰まりが起こりにくいといった利点がある。しかし、一方で、色材が紙表面に残りにくいため、画像の濃度向上が難しく、紙裏へのインク抜けが多いため画像性が劣るという問題がある。
【0003】
油性インクジェット印刷においては、低解像度でシャープな画像を形成するためインクドットが真円形で、高い画像濃度を有する画像性の優れた印刷物が求められる。紙表面にインク吸収力の高い無機粒子を施した塗工紙を用いることによって、画像性の優れた印刷物を得ることは可能である。しかし、このような塗工紙は一般的な普通紙と比べてコストが高いといった問題がある。
【0004】
印刷用紙のコストを下げる方法として、安価な炭酸カルシウムを用いた前処理液を印刷用紙に塗工することが挙げられるが、炭酸カルシウムは一般に無機粒子の中でもインクの吸収力が低いため、高い画像濃度を得るには塗工量を多くする必要がある。しかし、塗工量が多くなると塗工した炭酸カルシウムの粉体はがれが起こりやすくなるという問題がある。少ない炭酸カルシウム塗工量で、インク溶剤をすばやく吸収させ、色材を紙表面に留めて高い画像濃度を得るためには、炭酸カルシウム以外の補助的な材料が必要である。
【0005】
炭酸カルシウム以外の材料を併用して、印刷直後のインク吸収性を改善する方法として、特許文献1には印刷媒体中にバテライト型結晶系炭酸カルシウム/PVA共重合体を含ませることによって、インクの吸収速度を速める提案がなされている。しかし、炭酸カルシウム/PVA共重合体を作製する工程は煩雑であって必ずしも実用的とはいえない。特許文献2には炭酸カルシウムを特別に加工せず、支持体の一方の面に、凝集軽質炭酸カルシウムを20〜100重量部含む塗工液を、1〜25g/m2 塗工した用紙に、アニオン性水性インクで印刷することによって、細字滲みを抑制する提案がされている。
【0006】
しかし、上記特許文献1および2は、溶媒が印刷媒体に容易に浸透し、顔料が印刷媒体の表面に留まり易く、高濃度・高画質の印刷画像が得られ易い水性インクを対象としており、インクの浸透を抑制して裏抜けおよび滲みを防止することにより、印刷濃度を向上させる必要がある油性インクの印刷媒体への適用には根本的にそぐわないものである。また、前処理液中の水分量が多いと普通紙の変形が起こり、印刷媒体の搬送性に悪影響を与え、高速印刷の障害となる。
【0007】
一方、油性インク用の印刷媒体処理液として、例えば特許文献3にはゲル化剤と植物油由来の脂肪酸エステルとを含む処理液が提案されている。この処理液は、植物油由来の脂肪酸エステルを使用した非水系インクを普通紙などの吸収性の低い印刷媒体に印刷した場合の乾燥性や定着性を改良するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−268525号公報
【特許文献2】特開2005−008992号公報
【特許文献3】特開2008−221780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献3の非水系インク用の印刷媒体処理液に含まれるゲル化剤は、非水系インク組成物を印刷媒体上に吐出したときに印刷媒体上でゲル化させ、印刷媒体に定着させる目的で添加されるが、これは高速印刷においては障害となる。加えて、ゲル化剤は非水系インク組成物中のアルキド樹脂と凝集反応することによって画像を印刷媒体上に定着させるために添加されるものであるためアルキド樹脂が必須となる。このアルキド樹脂は顔料ともインク溶媒とも親和性が高いため、印刷濃度や滲みといった画像性においては満足いくレベルのものが得られない。
【0010】
油性インク用の印刷媒体に塗工する前処理液は印刷物の印刷濃度を高め、滲みおよび裏抜けを抑制することに加えて、高速印刷においては印刷媒体表面に塗工した無機粒子が剥がれにくいことも重要である。本発明者が鋭意検討を重ねた結果、炭酸カルシウムと特定の樹脂を用いることによって、これらの問題を解決できることが判明し本発明に至った。すなわち、本発明は印刷媒体表面の塗工が剥がれにくく、印刷物の印刷濃度を高めることができ、滲みを抑制することが可能な油性インクジェットに適した印刷媒体およびその製造方法並びに油性インクジェット印刷方法およびインクセットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の油性インクジェット用印刷媒体は、少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、前記溶剤に溶解可能な石油樹脂を前記炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液を、前記炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2を塗工してなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の油性インクジェット用印刷媒体の製造方法は、少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、前記溶剤に溶解可能な石油樹脂を前記炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液を、前記炭酸カルシウム量が2.0〜6.0g/m2となるように印刷媒体に塗工することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の油性インクジェット印刷方法は、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、油性インクを前記印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行う油性インクジェット印刷方法において、前記前処理液が少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、前記溶剤に溶解可能な石油樹脂を前記炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含み、前記前処理液が前記炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2の塗布量となるように塗布することを特徴とするものである。
【0014】
本発明のインクセットは、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、油性インクを前記印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行う油性インクジェット印刷に使用するインクセットであって、顔料および溶剤を少なくとも含んでなる油性インクと、少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、前記溶剤に溶解可能な石油樹脂を前記炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液とからなり、該前処理液が前記炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2の塗布量で使用されるように用意されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の油性インクジェット用印刷媒体は、少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、溶剤に溶解可能な石油樹脂を炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液を、炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2を塗工してなるので、印刷媒体表面の塗工が剥がれにくく、印刷媒体の表面が目止めされて、印刷された油性インク中の顔料が印刷媒体上に留まるとともに色材の印刷媒体への浸透が抑制されて印刷濃度が向上すると同時に裏抜けが低減されるとともに、滲みが抑制されて印刷物の画像性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例および比較例における印刷媒体に対しドット・細線画像を印刷した印刷用紙の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の油性インクジェット用印刷媒体は、少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、溶剤に溶解可能な石油樹脂を炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液を、炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2を塗工してなることを特徴とする。従来の前処理液には体質顔料として種々の無機粒子が使用されているが、例えばシリカ粒子では比表面積が大きくて吸油量が大きいため、油性インクで印刷したときに印刷ドットが広がらず、印刷ベタが埋まらずに濃度が低下する。また、比表面積が大きく吸油量が大きいと、前処理液の粘度が高くなり、作業性が悪くなる。一方、有機樹脂粒子では、油性インクがぬれ広がり滲みが生じる。これらの観点から用いる粒子種は、印刷ドットが適度に広がり、塗工時の作業性が良好である炭酸カルシウムである必要がある。
【0018】
炭酸カルシウムの平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置による測定平均値が0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、0.1μm以上15μm以下であることが好ましく、0.1μm以上12μm以下であることがより好ましい。平均粒子径が0.1μmより小さい場合及び平均粒子径が20μmより大きい場合の何れであっても、印刷媒体に対する目止め作用が十分でなく、印刷濃度の向上効果が十分に得られない。
前処理液中の炭酸カルシウムの濃度は特に限定されないが、塗工方法に合わせた粘度になるよう調製される。
【0019】
石油樹脂は印刷媒体表面の炭酸カルシウムを剥がれにくくするために最適であり、石油樹脂量は炭酸カルシウム量に対して、50質量%〜250質量%であり、好ましくは100質量%〜200質量%が望ましい。50質量%より少ない場合、紙から炭酸カルシウムが剥がれやすくなる。一方で、250質量%よりも多い場合、印刷濃度や滲みといった画像性が低下する。
【0020】
石油樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、脂環族石油樹脂、芳香族石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合石油樹脂を好ましく使用することができる。脂肪族系石油樹脂としては、例えば、Piccopale(登録商標、Hercules社製)、エスコレッツ(登録商標、エッソ化学株式会社製)、Wing Tack(登録商標、Goodyear社製)、ハイレッツ(登録商標、三井化学株式会社製)、クイントン(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、マルカレッツ(登録商標、丸善石油化学株式会社製)、コーポレックス(登録商標、東邦石油樹脂株式会社製)などが挙げられる。脂環族石油樹脂としては、例えば、アルコンP、アルコンM(登録商標、荒川化学株式会社製)等が挙げられる。芳香族石油樹脂としては、例えば、ペトロジン(登録商標、三井化学株式会社製)、ハイレジン(登録商標、東邦石油樹脂株式会社製)などが挙げられる。脂肪族/芳香族共重合石油樹脂としては、ペトロタック(登録商標、東ソー株式会社製)などが挙げられる。
【0021】
溶剤としては、上記石油樹脂を溶解することができる溶剤であれば特に限定されるものではなく、後述する油性インクに用いられる溶剤を用いることができる。
前処理液には、その性状に悪影響を与えない限り、上記溶剤、炭酸カルシウム、石油樹脂以外に、例えば、分散剤、界面活性剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0022】
本発明の油性インクジェット用印刷媒体に塗工される前処理液は、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め溶剤の一部と顔料の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0023】
本発明の油性インクジェット用印刷媒体は、石油樹脂を炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液を、炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2を塗工してなるものであり、好ましくは3.5〜5.0g/m2の範囲であることが望ましい。塗工量が2.0g/m2よりも少ないと、色材を紙表面に留めることができず、高い印刷濃度が得られにくくなる。一方、塗工量が6.0g/m2よりも多いと、樹脂量も増加するため、印刷ドットが滲み、画像性が低下しやすい。
【0024】
本発明において、印刷媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシートなどが使用できる。とりわけ、本発明によれば、普通紙に印刷する場合でも、顔料が印刷用紙に浸透せずに印刷用紙の表面に留まるので、印刷濃度が向上し、結果として裏抜けが低減されるとともに、滲みが抑制される。加えて、高速印刷においては印刷媒体表面に塗工した無機粒子が剥がれにくいという大きなメリットを得ることができる。
【0025】
印刷媒体に前処理液を塗工する方法としては、一般の塗工機、具体的にはブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター、チャンブレックスコーター、刷毛、ローラー、バーコーター等を使用して印刷媒体の表面を均一にコーティングすることによって行ってもよく、または、インクジェット印刷及びグラビア印刷などの印刷手段によってベタ画像を印刷することで行ってもよい。また、例えば、インクジェットプリンタを使用し、印刷媒体上へ前処理液を吐出した後これに重ねて非水系インクを連続的に吐出させることにより印刷を行ってもよい。コーター、ローラー、刷毛等、印刷媒体に接触して前処理液を塗工する場合、圧力や塗工速度を調整することで塗工量を調整することができる。インクジェットプリンタ等、支持体に非接触で前処理液を塗工する場合、ドロップ数や解像度を調整することで塗工量を調整することができる。
【0026】
なお、本発明の油性インクジェット印刷方法では、前処理液を印刷媒体に塗布した後、塗布された処理液が浸透および蒸発乾燥した後に油性インクを吐出させることが好ましい。そのため、前処理液中の水分量が多い場合には、油性インク印刷前に乾燥工程を付与してもよい。乾燥工程は、前処理液の塗布後に印刷媒体に熱風を当てる、熱したロールの下に印刷媒体を搬送させるなど、既存の方法を用いることができる。
【0027】
本発明の油性インクジェット印刷方法は、上記前処理液と油性インクとを少なくとも含むインクセットとすることにより簡便に実施することが可能である。ここでインクセットとは、前処理液カートリッジとインクカートリッジが複数一体になっているインクカートリッジ自体はもちろんのこと、単独の前処理液カートリッジとインクカートリッジを複数組み合わせて使用する場合も含み、さらに、前処理液カートリッジとインクカートリッジと記録ヘッドを一体としたものも含まれる。
【0028】
インクセットに用いられる油性インクは、溶剤及び顔料から主として構成されるが、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。溶剤は、インクの溶媒すなわちビヒクルとして機能するものであれば特に限定されず、揮発性溶剤及び難揮発性溶剤の何れであってもよい。しかしながら、環境上の観点から、溶剤は、難揮発性溶剤を主体として含有することが好ましい。難揮発性溶剤の沸点は、200℃以上が好ましく、より好ましくは240℃以上である。溶剤の溶解度パラメータ(SP値)は、6.5(cal/cm31/2以上、10.0(cal/cm31/2以下のものを使用することが好ましく、7.0(cal/cm31/2以上、9.0(cal/cm31/2以下のものを使用することがより好ましい。
【0029】
溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れの有機溶剤も使用できる。これらは、単独で使用してもよく、または、単一の相を形成する限り、2種以上組み合わせて使用できる。とりわけ、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤を組み合わせて使用することが好ましく、20〜80質量%の非極性溶剤と80〜20質量%の極性溶剤とから溶剤を構成することが好ましく、30〜45質量%の非極性溶剤と55〜70質量%の極性溶剤とから溶剤を構成することがより好ましい。
【0030】
非極性有機溶剤としては、ナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の石油系炭化水素溶剤を使用でき、具体的には、ドデカンなどの脂肪族飽和炭化水素類、エクソンモービル社製「アイソパー、エクソール」(いずれも商品名)、新日本石油社製「AFソルベント、ノルマルパラフィンH」(いずれも商品名)、サン石油社製「サンセン、サンパー」(いずれも商品名)等が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
極性有機溶剤としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤などが挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
エステル系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が5以上、好ましくは9以上、より好ましくは12乃至32の高級脂肪酸エステル類が挙げられ、例えば、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸イソノニル、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソステアリル、イソパルミチン酸イソオクチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2−オクチルドデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2エチルヘキサン酸グリセリルなどが挙げられる。
【0032】
アルコール系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が12以上の脂肪族高級アルコール類が挙げられ、具体的には、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコールが挙げられる。
脂肪酸系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が4以上、好ましくは9乃至22の脂肪酸類が挙げられ、イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などが挙げられる、
エーテル系溶剤としては、ジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのグリコールエーテル類の他、グリコールエーテル類のアセタートなどが挙げられる。
【0033】
顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化クロム、ピリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料などが好適に使用できる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料は、油性インキ全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0034】
油性インク中における顔料の分散を良好にするために、油性インクに顔料分散剤を添加することが好ましい。顔料分散剤としては、顔料を溶剤中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が好適に使用され、そのうち、高分子分散剤を使用するのが好ましい。
【0035】
顔料分散剤の具体例としては、日本ルーブリゾール社製「ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、22000、24000、28000」(いずれも商品名)、Efka CHEMICALS社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46,47,48,49,4010,4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名)、花王社製「デモールP、EP、ポイズ520、521、530、ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)」(いずれも商品名)、楠本化成社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)、第一工業製薬社製「ディスコール202、206、OA−202、OA−600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0036】
上記顔料分散剤のうち、ポリエステル鎖からなる側鎖を複数備える櫛形構造のポリアミド系分散剤が好ましく使用される。ポリエステル鎖からなる側鎖を複数備える櫛形構造のポリアミド系分散剤とは、ポリエチレンイミンのような主鎖に多数の窒素原子を備え、該窒素原子を介してアミド結合した側鎖を複数備える化合物であって、該側鎖がポリエステル鎖であるものをいい、例えば、特開平5−177123号公報に開示されているような、ポリエチレンイミンなどのポリアルキレンイミンからなる主鎖一分子当り3〜80個のポリ(カルボニル―C3〜C6―アルキレンオキシ)鎖がアミド架橋によって側鎖として結合している構造の分散剤が挙げられる。なお、かかる櫛形構造のポリアミド系分散剤としては、上記日本ルーブリゾール社製ソルスパース11200、ソルスパース28000(何れも商品名)が該当する。
顔料分散剤の含有量は、上記顔料を十分に上記有機溶剤中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。
【0037】
油性インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記有機溶剤、顔料、顔料分散剤以外に、例えば、染料、界面活性剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
油性インクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め溶剤の一部と顔料の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0038】
(油性インクジェット用黒インクの作製)
表1に示す各成分をプレミックスし、その後、直径(φ)0.5mmのジルコニアビーズを入れ、ロッキングミル((株)セイワ技研製)にて60分間分散し、得られた分散液をメンブレンフィルター(開口径3μm)でろ過し、黒インクとしてインク1を調製した。
【0039】
【表1】

【0040】
(前処理液の作製)
前処理液は、表2の処方で作製した。表2に示す各成分を各割合でプレミックスし、その後、超音波分散機にて1分間分散し、得られた分散液を前処理液とした。
【0041】
(実施例および比較例)
普通紙(理想用紙薄口(商品名;理想科学工業株式会社製))の片面全面に表2に記載の前処理液を、乾燥させた後の塗工層中の炭酸カルシウム粒子量が表3および表4に示す塗工量となるように、バーコーターで塗布し、70℃恒温機で1日溶媒を乾燥させた。作製した油性黒インクを、インクジェットプリンタ ORPHIS HC5500(商品名;理想科学工業株式会社製)使用の吐出ヘッドに導入し、上記前処理液を塗工した印刷用紙の処理表面上に油性インクを吐出させ、ベタ画像およびドット・細線画像を印刷した。ベタ画像の印刷は、解像度300×300dpi、インク量30pL/dotにて行った。得られた画像を、下記基準で評価した。評価結果を、表3および表4に示す(なお、粉体はがれについては油性インクの印刷前に評価をしているため、表2に示した)。
【0042】
(評価)
(印刷濃度)
ベタ画像印刷物を一晩放置後、光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用いて、ベタ部の表面のOD値(印刷濃度)を測定した。
○:1.20≦OD値
△:1.10≦OD値<1.20
×:OD値<1.10
【0043】
(滲み)
ドット・細線画像印刷物を一晩放置後、目視にてドットおよび細線の滲みを評価した。
○:ドット・細線の輪郭がくっきりしている。
△:ドット・細線の輪郭がやや崩れている。
×:ドット・細線の輪郭部分が明らかに崩れている。
【0044】
(粉体はがれ)
普通紙(理想用紙薄口)の片面全面に表2に記載の前処理液をバーコーターで塗布し、70℃恒温機で1日溶媒を乾燥させた後に、指で触って粉体はがれの評価を行った。
○:指で強く擦っても剥がれない。
△:指で軽く擦ると剥がれる。
×:指で軽くふれるだけで剥がれる。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
本発明の前処理液(表2に示す前処理液1,2,9および10)を塗工したものはいずれも粉体はがれが生じなかった。また、表3に示すように、この前処理液を塗工した印刷用紙に印刷したものは、高い印刷濃度が得られるとともにドット滲み・細線滲みも生じなかった。石油樹脂を含んでいても炭酸カルシウム量に対して20質量%と少ない前処理液3や、石油樹脂を含んでいない前処理液6では粉体はがれが生じた。このことから塗工した炭酸カルシウムのはがれを石油樹脂が効果的に抑制していることがわかる。前処理液3を塗工した印刷用紙に印刷した比較例4は炭酸カルシウム量が少ないために、色材を用紙表面に留める力が弱くなったために印刷濃度が低かった。一方で、石油樹脂が炭酸カルシウム量に対して300質量%と多い前処理液4は粉体はがれは起こらなかったものの、この前処理液4を用いた比較例5では石油樹脂に対する炭酸カルシウム量の相対的な割合が低くなるために、同じ塗工量でも色材を用紙表面に留める力が弱くなったために印刷濃度が低く、樹脂量が多いためにドット滲み・細線滲みが顕著となった。
【0049】
石油樹脂を用いた場合、シリカ粒子を用いた前処理液7や、有機樹脂微粒子を用いた前処理液8でも粉体はがれは生じず、また炭酸カルシウムを用いた場合、ロジンエステルを用いた前処理液11や、ロジン変性フェノール樹脂を用いた前処理液12でも粉体はがれは生じなかったが、これらの前処理液を塗工した印刷用紙に印刷した比較例8,9,11および12はいずれも印刷濃度が低く、比較例9,11および12ではドット滲み・細線滲みが顕著であった。当然のことながら、石油樹脂を含んでいるが炭酸カルシウムを含んでいない前処理液5を塗工した印刷用紙に印刷した比較例1ではドット滲み・細線滲みが顕著であり、印刷濃度も満足のいくレベルにはなかった。逆に、炭酸カルシウムを含んでいるが石油樹脂を含んでいない前処理液6を塗工した印刷用紙に印刷した比較例2ではドット滲み・細線滲みは抑制されたが、印刷濃度は満足のいくレベルにはなかった。
【0050】
以上のことから、石油樹脂と炭酸カルシウムとを所定割合で組合せることによって、印刷媒体の表面が目止めされて、印刷された油性インク中の顔料が印刷媒体上に留まるとともに色材の印刷媒体への浸透が抑制されて印刷濃度が向上すると同時に裏抜けが低減されるとともに、滲みが抑制されて印刷物の画像性を向上することができると考えられる。
【0051】
一方、本発明の前処理液で処理した印刷用紙に印刷したものであっても、比較例6および7は塗工量が十分でなく、色材を用紙表面に留めすことができないために印刷濃度が低下し、逆に、比較例10は塗工量が多すぎて樹脂量が増加するためにドット滲み・細線滲みが生じ、印刷濃度も低下した。比較例13はゲル化剤を含む従来の前処理液13を塗工したものであるが、この場合には印刷濃度が低く、ドット滲み・細線滲みも顕著であった。ドット滲み・細線滲みは印刷物の画像性に極めて大きな影響を与えるものである。ここで、ドット滲み・細線滲みを評価した際の実施例4、比較例1(滲み評価は×)および比較例3(滲み評価は△)の印刷物の写真を図1に示す。図1から明らかなように、比較例3の滲み評価(△)は従来の前処理液13を用いた比較例13の滲み評価(×)よりも上であるが、それでも印刷ドットは許容範囲を大きく超えていることがわかる。
【0052】
以上の実施例から明らかなように、本発明の油性インクジェット用印刷媒体は、石油樹脂を炭酸カルシウム量に対して所定量含む前処理液を、炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2を塗工してなるので、印刷媒体表面の塗工が剥がれにくく、印刷媒体の表面が目止めされて、印刷された油性インク中の顔料が印刷媒体上に留まるとともに該色材の印刷媒体への浸透が抑制され、印刷濃度が向上すると同時に裏抜けが抑制されるとともに、滲みが抑制されて画像性を向上することができる。
なお、本実施例では油性インクとしてカーボンブラックの場合を示したが、作用機序からずれば、他のインクについても同様の効果が得られるものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、前記溶剤に溶解可能な石油樹脂を前記炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液を、前記炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2を塗工してなることを特徴とする油性インクジェット用印刷媒体。
【請求項2】
少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、前記溶剤に溶解可能な石油樹脂を前記炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液を、前記炭酸カルシウム量が2.0〜6.0g/m2となるように印刷媒体に塗工することを特徴とする油性インクジェット用印刷媒体の製造方法。
【請求項3】
前処理液を印刷媒体へ塗布した後、油性インクを前記印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行う油性インクジェット印刷方法において、前記前処理液が少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、前記溶剤に溶解可能な石油樹脂を前記炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含み、前記前処理液が前記炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2の塗布量となるように塗布することを特徴とする油性インクジェット印刷方法。
【請求項4】
前処理液を印刷媒体へ塗布した後、油性インクを前記印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行う油性インクジェット印刷に使用するインクセットであって、顔料および溶剤を少なくとも含んでなる油性インクと、少なくとも溶剤と、炭酸カルシウムと、前記溶剤に溶解可能な石油樹脂を前記炭酸カルシウム量に対して50〜250質量%含む前処理液とからなり、該前処理液が前記炭酸カルシウム量として2.0〜6.0g/m2の塗布量で使用されるように用意されていることを特徴とするインクセット。

【図1】
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【公開番号】特開2013−923(P2013−923A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131807(P2011−131807)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】