説明

油性ボールペン用インキ組成物

【課題】本発明の課題は、油性ボールペン用インキ組成物において、従来では解決できなかった問題である、書き味が良好であり、かつ、ボール座の摩耗抑制することが可能な油性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、油性ボールペン用インキ組成物において、少なくとも着色剤、有機溶剤、IOB値が0.01〜1.0である界面活性剤を含有することを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性ボールペン用インキ組成物に関し、さらに詳細としては書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗抑制することが可能な油性ボールペン用インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボールペンは他の種類の筆記具と異なり、先端にステンレス鋼などからなる金属チップと、該金属チップのボール受け座に抱持される超鋼などの金属からなる転写ボールとからなるボールペンチップをインキ収容筒に装着した構成を有するが、筆記時にボールの回転によって、ボール座に摩耗が発生し、筆跡に線飛び、カスレなどが生じたり、書き味が悪くなるという問題があった。
【0003】
こうした問題を解決するため、ボールペンチップのボールとボール座との潤滑性向上を目的として、様々な界面活性剤を用いた油性ボールペン用インキ組成物が多数提案されている。
【0004】
このような界面活性剤を用いた油性ボールペン用インキ組成物としては、フッ素系、シリコン系界面活性剤を用いたものとしては、特開平6−248217号公報「ボールペン用インキ組成物」、特開平9−151354号公報「油性ボールペン用インキ組成物」、アルキルβ−D−グルコシドを用いたものとしては、特開平5−331403号公報「油性ボールペンインキ」、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールもしくはその塩を用いたものとしては、特開2000−104003号公報「油性ボールペンインキ」等に、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】「特開平6−248217号公報」
【特許文献2】「特開平9−151354号公報」
【特許文献3】「特開平5−331403号公報」
【特許文献4】「特開2000−104003号公報」
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤田穆著「化学の領域」第11巻、第10号、719〜725頁 1957年
【非特許文献2】甲田善生 著 「有機概念図―基礎と応用―」 1984年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜4のような各種界面活性剤を用いた場合、ある程度書き味を向上しつつ、ボール座の摩耗抑制することはできるが、十分に満足できるものではなく、筆跡に線飛び、かすれ等が発生してしまう問題を抱えていた。
【0008】
本発明の目的は、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗抑制することが可能な油性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.少なくとも着色剤、有機溶剤、IOB値が0.01〜1.0である界面活性剤を含有することを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
2.前記界面活性剤が、脂肪酸エステルであることを特徴とする第1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
3.前記界面活性剤の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする第1項または第2項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
4.前記油性ボールペン用インキ組成物に、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
5.前記油性ボールペン用インキ組成物に、水を含有することを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
6.前記水の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
7.前記油性ボールペン用インキ組成物に、水溶性高分子 を含有することを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
8. 前記油性ボールペン用インキ組成物のpHが、4〜10であることを特徴とする第1項ないし第7項のいずれか1項に油性ボールペン用インキ組成物。
9.20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。」とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗抑制することが可能な油性ボールペン用インキ組成物を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴は、油性ボールペン用インキ組成物中に、IOB値が0.01〜1.0である界面活性剤を含有することである。
【0012】
従来の界面活性剤では、所望の潤滑性を向上する効果は得られず、書き味や、ボール座の摩耗抑制する効果は得られなかった。そこで、本発明者は、潤滑性について鋭意研究した結果、界面活性剤のIOB値に注目することで、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗抑制することが可能となることが解った。
【0013】
IOB値とは、Inorganic/Organic Balance(無機性/有機性比)の略であって、有機性値に対する無機性値の比率を表す値であり、有機化合物の極性の強さ等を表す指標としているものである。IOB値は、具体的には、IOB値=無機性値/有機性値として表される。ここで、「無機性値」、「有機性値」のそれぞれについては、例えば、分子中の炭素原子1個について「有機性値」が+20、Tert分岐は、1個について「有機性値」がそれぞれ−10、−20、同様に水酸基1個について「無機性値」が+100、カルボキシル基1個について「無機性値」が+150といったように、各種原子又は官能基に応じた「無機性値」、「有機性値」が設定されており、有機化合物中の全ての原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することによって、当該有機化合物のIOB値を算出することができる(非特許文献1、2参照)。
【0014】
本発明で用いる界面活性剤は主に潤滑剤としての効果を狙い配合するが、そのIOB値については、0.01〜1.0とすることを必須とする。これは、前記IOB値が、1.0を超えると、親油性が劣り所望の潤滑性能が得られないため、界面活性剤のIOB値が1.0以下である必要がある。前記IOB値が0.01未満だと、無極性に近いため、極性溶剤に溶解せず、さらに、親油性が強すぎて、経時安定性も悪くなるためである。また、インキ経時安定性向上の傾向を考慮すれば、IOB値は0.01〜0.7が好ましく、最も好ましくは、0.1〜0.5である。
【0015】
本発明に用いるIOB値が0.01〜1.0の界面活性剤としては、具体的には、脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アミノ酸エステル等が挙げられる。その中でも潤滑性を考慮すれば、脂肪酸エステル(R-COO-R’)を用いる方が好ましい。
【0016】
脂肪酸エステルとしては、ネオぺンタン酸エステル、イソノナン酸エステル、ジエチルヘキサン酸エステル、ジリノール酸エステル、イソステアリン酸エステル、ミスチリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ラウリル酸エステル等が挙げられる。具体的には、ネオぺンタン酸イソデシル(IOB値:0.222)、ネオぺンタン酸オクチルドデシル(IOB値:0.128)、イソノナン酸イソノニル(IOB値:0.200)、イソノナン酸イソトリデシル(IOB値:0.157)、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグチコール(IOB値:0.315)、、トリエチルヘキサノイン(IOB値:0.352)、ジリノール酸ジイソプロピル(IOB値:0.159)、イソステアリン酸エチル(IOB値:0.153)、イソステアリン酸水添ヒマシ油(IOB値:0.295)、イソステアリン酸ポリグリセリル-2(IOB値:0.809)、ミスチリン酸オクチルドデシル(IOB値:0.089)、パルミチン酸エチルヘキシル(IOB値:0.127)、ラウリル酸ヘキシル(IOB値:0.166)、ステアロイルオキシステアリン酸オクチルドデシル(IOB値:0.110等が挙げられる。これらの脂肪酸エステルは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0017】
また、脂肪酸エステルの具体例は、ネオライト100P、KAK99、KAK109、KAK NDO、KAK HL、KAK 139、KAK DIOS、KAK DADIP-R、TOG、IOP、NPDC、イソステアリン酸EX、リソカスタMIS、リソレックスPGIS21、ODM(高級アルコール(株)社製)等が挙げられる。
【0018】
また、界面活性剤の含有量はインキ組成物全量に対し0.1〜20.0質量%であると潤滑効果とインキ経時安定性のバランスの面で好ましい。その含有量の範囲は、さらに好ましくは1.0〜15.0質量%であり、最も好ましくは3.0〜10.0質量%である。この範囲を超えるとインキ経時安定性が不安定になる傾向があり、この範囲を下回ると潤滑効果が得られにくくなる傾向が強くなるため、上記範囲が好ましい。
また、脂肪酸エステルの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、潤滑効果が得られないおそれがあり、20.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になるおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1〜20.0質量%が好ましく、さらに、好ましくは、1.0〜15.0質量%であり、最も好ましくは、インキ組成物全量に対し、3.0〜10.0質量%である。
【0019】
さらに、前記脂肪酸エステル(R-COO-R’)にエチレンオキサイド基(−CH2CH2O)を有する有機アミンと併用すると、より潤滑効果が得られ易いため、好ましい。これは、脂肪酸エステル(R-COO-R’)とエチレンオキサイド基(−CH2CH2O)を併用することで、より金属に吸着し易い潤滑膜を形成するため、エチレンオキサイド基(−CH2CH2O)を有する有機アミンとして、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンを用いる方が好ましい。これ等は、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0020】
また、平均エチレンオキサイド(CH2CH2O)付加モル数については、多いほど、ボール座の摩耗をより抑制する効果があり、特に、高筆圧下(筆記荷重500gf)においても潤滑性を保つには、より好ましいが、10を超えると、インキ経時が不安定になり易いため、1〜10の範囲が好ましい。最も好ましくは、5〜8の範囲である。具体的には、平均エチレンオキサイド(CH2CH2O)付加モル数1〜10の範囲のオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンは、ナイミーンL−201、ナイミーンL−202、同L−207、同S−202、同S−204、同S−210、同T2-206、同S−210、同DT−203、同DT−208(日本油脂(株))等が挙げられ、平均エチレンオキサイド(CH2CH2O)付加モル数5〜8の範囲のオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンは、ナイミーンL−207、同T2-206、同DT−208(日本油脂(株))等が挙げられる。
【0021】
また、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンの含有量は、潤滑性を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは、経時安定性を考慮すると、1.0〜5.0質量%である。
【0022】
また、本発明のように、前記IOB値が0.01〜1.0である界面活性剤を用いる場合、前記界面活性剤に水を併用することで、より、書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗抑制することが可能である。特に、脂肪酸エステルを用いた場合は、より顕著に書き味が良好で、かつ、ボール座の摩耗抑制効果が得られるため、好ましい。
【0023】
さらに、油性ボールペン用インキ組成物に水を併用する効果としては、インキ粘度を、より低粘度化することが可能となり、書き味をより向上し、また、紙面に対しての滲み、裏抜けの抑制する効果がある。また、油性成分中に、水性成分が分散したW/O型エマルジョンインキを作製する目的で、水を含有しても良い。
【0024】
また、前述のように油性ボールペン用インキ組成物中に水を併用する場合、水溶性高分子を用いる方が、より好ましい。油性ボールペン用インキ組成物中には、ドライアップ等を抑制するのに、保湿性を高めるため、蒸発しにくい有機溶剤を用いる方が良いが、水は比較的に蒸発しやすいため、水の蒸発を抑制する保湿効果のある水溶性高分子を含有することで、水を安定して油性ボールペン用インキ組成物中に保ち易い。そのため、本発明のように、水が少なくなると、潤滑効果が得られなくなるため、水溶性高分子を含有することで、保湿することが好ましい。
【0025】
水溶性高分子の具体例は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド等が挙げられる。これ等は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0026】
また、水の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜20.0質量%が好ましい。この範囲より少ないと、所望の潤滑効果が得られないおそれがあり、この範囲を越えると、インキ経時が不安定性になるおそれがあるためである。よりインキ経時を良好にすることを考慮すれば、1.5〜8.0質量%が好ましく、最も好ましくは、4.0〜7.0質量%である。尚、水の添加方法は特に限定されないが、水以外の成分を適宜混合したインキ中に水をそのままの状態で添加しても、着色剤や樹脂などの油性ボールペン用インキ組成物に用いる成分に予め水分を吸湿や吸水させておいても良い。
【0027】
また、従来より、水性インキ組成物では、水溶液中で測定可能な物性として、pH値で、酸性、アルカリ性の度合いを示す数値を用いているが、油性インキ組成物では、水を含有することを考慮していないため、pH値を用いることはなかった。本発明で、油性ボールペン用インキ組成物に水を併用する場合は、インキ経時安定性を保つには、新たにpH値に着目する方が好ましい。尚、pH値が3.9以下を強酸性領域、pH値が10.1以上を強アルカリ領域、pH4.0〜10.0を強酸性領域と強アルカリ領域の中間領域(弱酸性、中性、弱アルカリ性)とする。
【0028】
本発明で用いる油性ボールペン用インキ組成物での、pH値は、4.0〜10.0が好ましい。pH値が3.9以下だと、IOB値が0.01〜1.0である界面活性剤の水や有機溶剤への溶解安定性を保てなくなるためで、pH値が10.1以上だと、着色剤の良好な色調や、溶解または分散安定性が得られなくなってしまうためである。さらに、より経時安定性を考慮すれば、pH値が5.0〜9.0が好ましい。
【0029】
尚、本発明におけるpH値は、油性ボールペン用インキ組成物の測定方法においては、油性インキを容器に採取し、イオン交換水を加えて、攪拌しながら加温し、加温後放冷し、蒸発した水分量を補充後、濾紙を用いて濾過する。その濾過したろ液の上層を用いて、pH測定は東亜ディーケーケー社製IM−40S型pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。
【0030】
本発明の油性インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sが好ましい。この範囲を下まわる場合には、インキ粘度が低過ぎて、ボールとボール座の間の金属接触を抑制する効果が低くなる傾向があり、この範囲を超えると、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重くなる傾向があるためである。より好ましくは、50〜3000mPa・sであり、最も好ましくは、100〜1500mPa・sである。
【0031】
本発明に用いる着色剤については、染料、顔料があるが、染料については、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等が採用可能である。
【0032】
染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1621、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB−B、BASE OF BASIC DYES RO6G−B、BASE OF BASIC DYES VPB−B、BASE OF BASIC DYES VB−B、BASEOF BASIC DYES MVB−3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH−スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C−RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C−RH、アイゼンスピロンレッド C−GH、アイゼンスピロンレッド C−BH、アイゼンスピロンイエロー C−GNH、アイゼンスピロンイエロー C−2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH−スペシヤル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー510、S.B.N.イエロー530、S.R.C−BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0033】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。これらの染料および顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0〜50.0質量%が好ましい。
【0034】
本発明に用いる有機溶剤は極性溶剤を用いる方が好ましい。本発明に用いるIOB値が0.01〜1.0の界面活性剤は極性を有しており、該界面活性剤を溶解安定させるために好適であるからである。具体的には、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等のグリコール類、ベンジルアルコール等のアルコール類などが挙げられ、これらを1種または2種以上用いることができる。これらの有機溶剤の含有量は、着色剤の溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、5.0〜50.0質量%が好ましい。
【0035】
また、その他の添加剤として、着色剤の経時安定性や潤滑性をさらに向上させるために、有機酸や界面活性剤として、オレイン酸、ステアリン酸、リシノール酸、ラウリル酸、リン酸エステル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド等を、顔料分散剤として、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂等を、粘度調整剤として、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル等の樹脂や有機酸アマイド、架橋型アクリル酸重合体などの擬塑性付与剤を、また、染料安定剤、可塑剤、キレート剤等を適宜用いても良い。これらは、単独または2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0036】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、着色剤として、2種の染料、有機溶剤として、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、IOB値が0.01〜1.0の界面活性剤として、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグチコール(高級アルコール(株)社製、IOB値:0.315)、さらなる潤滑剤として、オキシエチレンアルキルアミン(ナイミーンL207:日本油脂(株)社製)、安定剤として、オレイン酸、樹脂として、ポリビニルピロリドン(PVP K−90:アイエスピー・ジャパン(株)社製)、ケトン樹脂(ハイラック110H:日立化成(株)社製)を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させ、室温冷却後、水を所定量秤量してディスパー攪拌機を用いて油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。尚、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製粘度計AR-G2(ステンレス製40mm2°ローター)を用いて20℃の環境下で剪断速度500sec−1にて実施例1のインキ粘度値、pH値を測定したところ、インキ粘度=250mPa・s、
pH=7.2であった。
【0037】
実施例1
着色剤(染料、スピロンブラック−GMH−S) 15.0質量%
着色剤(染料、バリーファ−スト バイオレット1701) 15.0質量%
有機溶剤(ベンジルアルコール) 10.5質量%
有機溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル) 30.0質量%
水 5.0質量%
界面活性剤(ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグチコール) 10.0質量%
オレイン酸 1.0質量%
潤滑剤(オキシエチレンアルキルアミン) 1.0質量%
樹脂(ポリビニルピロリドン) 0.5質量%
樹脂(ケトン樹脂) 12.0質量%
【0038】
実施例2〜11
表1、2に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜11の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表1、2に測定、評価結果を示す。
【表1】

【表2】

【0039】
比較例1〜5
表3に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、配合し、比較例1〜5の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表2に測定、評価結果を示す。
【表3】

【0040】
試験及び評価
実施例1〜11及び比較例1〜5で作製した油性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.7mmのボールを回転自在に抱持したボールペンチップ(ステンレス綱線)を装着したボールペン用レフィルに充填し、筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【0041】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0042】
耐摩耗試験(ボール座の摩耗):荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が2μm未満であり、筆記可能なもの ・・・◎
ボール座の摩耗が2μm以上、5μm未満であり、筆記可能なもの ・・・○
ボール座の摩耗が5μm以上、12μm未満であり、筆記不良になってしまうもの ・・・△
ボール座の摩耗が12μm以上であり、筆記不能になってしまうもの ・・・×
【0043】
インキ経時安定性試験:室温3ヶ月放置後に、レフィルのインキ収容筒内のインキ状態を顕微鏡観察した。
析出物が存在しないもの、または析出物が存在したが、実用上問題ないもの・・・○
析出物が発生し、実用性に乏しいもの ・・・×
【0044】
実施例1〜11では、書き味、ボール座の摩耗試験(ボール座の摩耗)、及びインキ経時安定性試験ともに良好な性能が得られた。
【0045】
比較例1、2、4では、界面活性剤を含有していないため、書き味が重く、耐摩耗試験において、ボール座の摩耗がひどく、筆記不良または筆記不能になった。
【0046】
比較例3では、IOB値が1.0を越える界面活性剤を用いたため所望の潤滑剤効果が得られず、書き味が重く、耐摩耗試験において、ボール座の摩耗がひどく、筆記不良または筆記不能になった。
【0047】
比較例5では、IOB値が0である界面活性剤を配合したが、インキ中に溶解安定しなかった。
【0048】
また、インキの垂れ下がりを防止するため、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は油性ボールペン用インキ組成物に利用でき、さらに、該油性ボールペン用インキ組成物を充填したキャップ式、ノック式等のボールペンとして広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色剤、有機溶剤、IOB値が0.01〜1.0である界面活性剤を含有することを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記界面活性剤が、脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項5】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、水 を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項6】
前記水の含有量が、0.1〜20.0質量%であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項7】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、水溶性高分子を含有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項8】
前記油性ボールペン用インキ組成物のpHが、4〜10であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項9】
20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が、10〜5000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。

【公開番号】特開2012−219213(P2012−219213A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88099(P2011−88099)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】