説明

油水分離フィルター

【課題】従来のフィルターを用いた粗粒化分離では分離できなかった水中に微分散している乳化油分を高効率で分離し、かつ、吸着平衡後も充分な油分除去性能を有する油水分離フィルターの提供。
【解決手段】本発明に係る油水分離フィルターは、以下の性能:a:初期圧で処理した油滴径0.1μm以上の水中の油滴を90%以上除去する;及び
b:吸着平衡後でも上記aの性能を維持する;を有し、好ましくは、合成長繊維不織布間に繊維構造体が積層された油水分離フィルターであって、該繊維構造体は、繊維径1〜100nmのアルミナ繊維と繊維径0.1〜1.0μmのガラス繊維からなり、該油水分離フィルターの目付は250〜650g/mであり、接圧1.96kPa時での厚み1.00〜2.00mmであり、KES法で測定した通気度は25〜125kPa・sec/mであり、そして平均流量径は0.1〜1.0μmである前記油水分離フィルターである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油水分離フィルターに関する。より詳しくは、本発明は、処理対象液である乳化油分が微分散された油水混合液の化学的性質を変化させることなく、低ランニングコストでしかも効率良く、乳化した油分を分離することができる油水分離フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、金属部品、精密機械部品等の洗浄に使われている水系洗浄剤は洗浄能力の高さ、使いやすさの面で多くの洗浄ラインで使用されている。水系洗浄剤は界面活性剤を含んでおり、被洗浄物に付着している油分を洗浄剤と結合し水層に分散することで洗浄を行っている。
【0003】
洗浄後の液中には当然ながら油分と結合した水系洗浄剤が分散しており、油分と水が二層に分離することなく安定に存在している乳化状態のものが存在する。油分が混入した洗浄剤は洗浄能力が低下し、再使用するためには油分の除去が必要とされる。油分が混入した洗浄液中の油分離には一般的にフィルターを用いた粗粒化分離が行われているが、フィルターを用いた粗粒化分離では水層に乳化している油分は粗粒化分離できないケースが数多く存在する。
【0004】
以上は、部品洗浄における例であるが、これ以外にもコンプレッサードレン水など水中に油が混入する系においては油分が乳化しているため、フィルターを用いた粗粒化分離が困難である系が多く存在している。
例えば、以下の特許文献1には、乳化油含有排水の処理方法として、処理対象液に乳化破壊剤を添加して乳化した油分を粗粒化させる技術が開示されている。しかしながら、乳化破壊剤を添加することによって、処理対象液の乳化は破壊されるが、化学的性質が著しく変化するため、処理費用が従来の油含有排水処理よりも高くなるという問題がある。
【0005】
また、以下の特許文献2には、処理対象液の化学的性質を変化させずに、不織布フィルターを用いる油含有排水を処理する方法が開示されている。このように、不織布フィルターを用いた粗粒化分離方法は公知の技術として存在しているが、該方法では乳化した油分を分離させることは困難である。
【0006】
さらに、以下の特許文献3には、少なくとも2つの濾過ユニットが直列上に連結された濾過器であって、上流側のフィルタで通常の濾過作用(粗粒化分離)により汚れを吸着した後に、渦中側の陽電子フィルタで微細油滴を吸着させて除去する方法が開示されている。この方法では微細油滴を除去できる可能性はあるが、吸着に2段のカートリッジを必要とし、カートリッジ濾材の油滴の保持力が低いためカートリッジ濾材の油分吸着能がすぐに平衡状態に達するため、流量圧損がすぐに上昇し短期間でフィルター交換が必要となるという欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭61−20322号公報
【特許文献2】特許第3300038号公報
【特許文献3】特開2010−179262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した従来技術の問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、従来のフィルターを用いた粗粒化分離では分離できなかった水中に微分散している乳化油分を高効率で分離する油水分離フィルターであって、吸着平衡後においても充分な油分除去性能を有する油水分離フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため、乳化油分が微分散している油水混合液を処理する油水分離フィルターの構造及び材質を検討することにより、以下の解決手段により、従来技術の油水分離フィルターでは除去することができなかった水中の微細油滴を除去することができる油水分離フィルターを開発し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]以下の性能:
a:初期圧で処理した油滴径0.1μm以上の水中の油滴を90%以上除去する;及び
b:吸着平衡後でも上記aの性能を維持する;
を有する油水分離フィルター。
【0011】
[2]アルミナ繊維とガラス繊維を含む、前記[1]に記載の油水分離フィルター。
【0012】
[3]合成長繊維不織布間に繊維構造体が積層された油水分離フィルターであって、該繊維構造体は、繊維径1〜100nmのアルミナ繊維と繊維径0.1〜1.0μmのガラス繊維からなり、該油水分離フィルターの目付は250〜650g/mであり、接圧1.96kPa時での厚み1.00〜2.00mmであり、KES法で測定した通気度は25〜125kPa・sec/mであり、そして平均流量径は0.1〜1.0μmである、前記[2]に記載の油水分離フィルター。
【発明の効果】
【0013】
本発明の油水分離フィルターによれば、処理対象液である乳化油含有液の化学的性質を変化させることなく、低ランニングコストでしかも効率良く、乳化した油分を、吸着平衡後の高圧下でも確実に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における油水分離とは、水中に存在する油又は油中に存在する水などといった互いに不溶性の液体を層分離させることを意味する。本発明では、水中に分散する直径1μm以下の油滴(以下、微細油滴と記す。)状態となっている油水を好適に分離することができる。このような微細油滴は、油分が乳化して微分散された状態であることが多く、従来のフィルターでは粗粒化処理による微細油滴の分離は困難であった。
【0015】
本発明においては、特に水中に存在する油滴を粗大化させ比重差により分離をさせるコアレッシングによるフィルターであることが好ましい。
本発明の油水分離フィルターは、濾過開始時点の初期圧で、後述する微細油滴を含有する試料溶液における、油滴径0.1μm以上の水中の油滴を90%以上除去することができる。これは、本発明の油水分離フィルターが従来の粗粒化処理ではなく、コアレッシング濾過方式であるため、微小な油滴を分離することができるものである。
【0016】
ここで、油滴の濃度は後述する全有機体炭素量測定装置で、油滴の粒径は粒度分布装置でそれぞれ測定でき、濾過前後の油滴濃度および、粒径が0.1μm以上の油滴量比率から当該油滴の除去量を算出することができる。
【0017】
本発明の油水分離フィルターは、吸着平衡状態となった後でも初期時と同じ性能、すなわち油滴径0.1μm以上の水中の油滴を90%以上除去することができる。フィルターによる濾過を継続すると、処理圧が次第に上昇するが、ある程度でそれ以上の圧上昇が起こらなくなる。この状態が吸着平衡状態であり、吸着による油分の除去の限界に達したことを示す。従来のフィルターでは吸着平衡状態に達すれば、それ以上の濾過は不可能であったが、本発明の油水分離フィルターであれば、コアレッシングによる油分の除去が可能であるために、吸着平衡状態以降でも優れた油水分離性能を示すことができる。
【0018】
本発明における油水分離フィルターには、アルミナ繊維とガラス繊維からなる繊維構造体が用いられていることが好ましい。繊維構造体としては特に限定されないが、不織布が好ましい。該繊維構造体単独でもよいが、該繊維構造体と合繊長繊維不織布からなり、当該繊維構造体は合繊長繊維不織布間に積層された構造であれば、強度と取り扱い性の点で好ましい。これらは吸着能向上の点から、熱融着樹脂などによるバインダーを使用せずに固定されていることが好ましい。
【0019】
アルミナ繊維はガラス繊維に担持されていればよく、主成分をAlとAlOOHとする微細繊維状態であることが好ましい。アルミナ繊維の繊維径は特に規定しないが1nmから100nmの範囲内が好ましい。また、ガラス繊維は繊維径が0.1μm〜1.0μmの範囲内にあることが好ましい。
【0020】
合繊長繊維不織布はスパンボンド法により製造される不織布が好ましく、材質は特に限定しないが、ポリエステルやポリアミドは機械的強度や耐油性の点から優れた性能を有しているため好ましい。
【0021】
本発明における油水分離フィルターは、好ましくは、下記の物性を有している。
目付は250〜650g/mが好ましく、より好ましい範囲は300〜350g/mである。250g/m未満では充分な分離性能が発揮されず、650g/mを超えると流量圧損の上昇度合いが高いため好ましくない。
厚み(接圧1.96kPa時)は1.00〜2.00mmが好ましい。
通気度は25〜125kPa・sec/mが好ましく、より好ましい範囲は30〜50kPa・sec/mである。
平均流量径は0.1μm〜1.0μmが好ましく、0.1〜0.2μmのものがより好ましい。平均流量径は、後述する細孔径分布測定器によって測定できる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例における処理物の評価は下記のようにして行った。
【0023】
(1)目付
100mm×100mmの試料を原反幅方向に12点、長さ方向に4点採取し重量を測定しg/mに換算し、その平均値を求める。
【0024】
(2)厚み
厚み測定方法:100mm×100mmの試料を原反幅方向に12点、長さ方向に4点採取し、試料の四隅及び中央部の厚みを測定し、その平均値を求める。
【0025】
(3)通気度
通気度測定方法:KES-F8試験機によって、200mm×200mmの試料を原反幅方向に5点、長さ方向に4点採取し通気度を測定し、その平均値を求める。
【0026】
(4)平均繊維径
不織布の表面を電子顕微鏡で拡大し、観察結果から得られた写真から不織布の繊維径を10点実測しその平均値で示す。
【0027】
(5)平均流量径
PMI社製パームポロメーター(細孔径分布測定器)を用いて測定した。測定試料はGalwick試薬に浸漬し脱気を行った。
測定方法:38mmの試料を原反幅方向に3点採取し、バブルポイント法により細孔径を測定し、その平均値を求める。
【0028】
(6)油水分離性能評価(初期時)
(i)市販のフィルターホルダー(ADVANTEC社製 フィルターホルダーKS45 有効濾過面積:12.5cm)に油水分離フィルターをセットする。
(ii)市販軽油15mlを上水3000mlに超音波分散し油分濃度500ppmの試験液3000mlとした試料溶液を、定量ポンプを用いて45ml/分の流速で(i)に通水する。
(iii)10分間通水後の処理液を全有機体炭素量測定装置(島津製作所 TOC−5000)で測定し、フィルター処理液中の油分濃度を定量測定する。また、該処理液を光散乱式粒度分布測定装置(PSSNICOMP Accusizer780/SIS)により水中の油滴個数を定量測定する。尚、濾過前の試料溶液における水中の油滴分布を定量測定した結果、滴径0.1μm未満の油滴が全油滴中の20%、滴径0.1〜1.0μmの油滴が70%、滴径1.0μm以上の油滴が10%であった。
(iv)以下の方法で分離効率、及び油滴径0.1μm以上の油滴の除去率を算出した。
分離効率(%)=(分離後の油分濃度/分離前の油分濃度)×100
0.1μm以上の油滴の除去率(%)={分離後の0.1〜1.0μmの油滴数(個/ml)/(分離前の0.1〜1.0μmの油滴数(個/ml)}×100
【0029】
(7)圧力損失
上記(6)の条件で10分間通液したときの圧力損失を評価し、これを初期圧とした。
【0030】
(8)油水分離性能評価(吸着平衡時)
上記(6)の濾過試験を継続し、圧力損失の上昇がほぼ収まった時点を吸着平衡時とする。具体的には、圧力損失の上昇度が0.1kPa/分以下となったときを吸着平衡時と判断する。引続き濾過試験を継続し、吸着平衡時点から60分後の処理液を採取し、油分濃度測定、油滴分布測定および圧力損失測定を行ない、分離効率、0.1μm以上の油滴の除去率を測定する。
【0031】
(8)総合評価
上記(6)〜(8)の試験におけるフィルター性能を下記のように総合判断した。
◎:非常に優れている。
○:優れている。
×:不適である。
【0032】
[実施例1]
アルミナ繊維とガラス繊維からなる繊維構造体をポリエステルのスパンボンドに積層させたフィルター材であり、目付315g/m、厚み1.0mm、通気度41.6kPa・sec/m、ガラス部の平均繊維径が0.3μm、アルミナ繊維部の平均繊維径が2nm、平均流量径が0.1μmの物性を有するフィルター材を得た。
フィルター材の評価結果を以下の表1に示す。初期の分離効率は98%、0.1μm以上の油滴の除去率は98%、初期圧は10.0kPaであり、通液後液は透明であった。180分経過時点で吸着平衡となり、吸着平衡後での分離効率は98%、0.1μm以上の油滴の除去率は95%、吸着平衡後の圧力損失は150kPaであり、通液後液の液色は透明であった。
【0033】
[実施例2]
アルミナ繊維とガラス繊維からなる繊維構造体をポリエステルのスパンボンドに積層させた不織布であり、目付610g/m、厚み1.6mm、通気度31.3kPa・sec/m、ガラス部の平均繊維径が0.5μm、アルミナ繊維部の平均繊維径が2nm、平均流量径が0.2μmの物性を有するフィルター材を得た。
初期の分離効率は96%、0.1μm以上の油滴の除去率は90%であり、通液後液は透明であった。60分経過時点で吸着平衡となり、吸着平衡後での分離効率は80%、0.1μm以上の油滴の除去率は70%、吸着平衡後の圧力損失は180kPaであり、通液後液の液色には白濁が確認された。
【0034】
[比較例1]
ガラス繊維からなる不織布であり、目付90g/m、厚み0.6mm、通気度8.3kPa・sec/m、平均繊維径が0.8μm、平均流量径が0.8μmの物性を有するものを3枚積層させたフィルター材を得た。
分離効率は90%であり、通液後液の水中の油滴径分布を測定した結果、0.1μm以上の油滴は60%除去されており、通液後液の液色は白濁が確認された。5分経過時点で吸着平衡となったが、吸着平衡後は濾過性能を有さなかった。
【0035】
[比較例2]
比較例1で得られたガラス繊維からなる不織布を10枚積層させることによって、目付900g/m、厚み6.0mm、通気度25.0kPa・sec/m、平均繊維径が0.8μm、平均流量径が0.2μmの物性を有するフィルター材を得た。
分離効率は90%であり、通液後液の水中の油滴径分布を測定した結果、0.1μm以上の油滴は70%除去されており、通液後液の液色は白濁が確認された。8分経過時点で吸着平衡となったが、吸着平衡後は濾過性能を有さなかった。
【0036】
[比較例3]
ポリテトラフルオロエーテルからなる膜であり、目付45g/m、厚み0.09mm、通気度125kPa・sec/m、平均繊維径が0.2μm、平均流量径が0.2μmの物性を有するフィルター材を得た。
分離効率は92%であり、通液後液の水中の油滴径分布を測定した結果、0.1μm以上の油滴は80%除去されており、通液後液の液色は白濁が確認された。2分経過時点で吸着平衡となったが、吸着平衡後は濾過性能を有さなかった。
【0037】
[比較例4]
ポリエステルからなるメルトブロー法で製造された不織布であり、目付40g/m、厚み0.5mm、通気度5.0kPa・sec/m、平均繊維径が1.0μm、平均流量径が1.0μmの物性を有するものを4枚積層させたフィルター材を得た。
分離効率は80%であり、通液後液の水中の油滴径分布を測定した結果、0.1μm以上の油滴は60%除去されており、通液後液の液色は白濁が確認された。2分経過時点で吸着平衡となったが、吸着平衡後は濾過性能を有さなかった。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアルミナ繊維不織布を用いた油水分離フィルターによれば、処理対象液である乳化油含有液の化学的性質を変化させることなく、低ランニングコストでしかも効率良く、乳化した油分を高圧下でも確実に除去する効果を有する。したがって、本発明に係る油水分離フォルターは、油水分離に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の性能:
a:初期圧で処理した油滴径0.1μm以上の水中の油滴を90%以上除去する;及び
b:吸着平衡後でも上記aの性能を維持する;
を有する油水分離フィルター。
【請求項2】
アルミナ繊維とガラス繊維を含む、請求項1に記載の油水分離フィルター。
【請求項3】
合成長繊維不織布間に繊維構造体が積層された油水分離フィルターであって、該繊維構造体は、繊維径1〜100nmのアルミナ繊維と繊維径0.1〜1.0μmのガラス繊維からなり、該油水分離フィルターの目付は250〜650g/mであり、接圧1.96kPa時での厚み1.00〜2.00mmであり、KES法で測定した通気度は25〜125kPa・sec/mであり、そして平均流量径は0.1〜1.0μmである、請求項2に記載の油水分離フィルター。