説明

油汚染土壌の浄化処理判定方法

【課題】油種やその濃度にかかわらず、油で汚染された土壌に対する浄化処理の必要性および浄化目標値の判定を正確に行うことができる新規な判定方法の提供。
【解決手段】油で汚染された土壌の油分濃度を分析する工程(ステップS10)と、複数の模擬汚染土壌を調製する工程(ステップS20)と、調製した模擬汚染土壌を用いて植物を育成する工程(ステップS30)と、生育した各植物の葉のクロロフィル濃度を測定する工程(ステップS40)と、各植物のクロロフィル濃度と各模擬汚染土壌の油分濃度との関係に基づいて汚染土壌の浄化処理の必要性および浄化目標値を判定する工程(ステップS50)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光合成機能を用いたバイオアッセイ法に係り、さらに詳しくは、植物のクロロフィル濃度に着目して油汚染土壌に対する浄化処理の必要性および浄化目標値を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年に施行された土壌汚染対策法を契機に土壌浄化事業が活発化し、法で定められた基準値に従って浄化処理が進められている。代表的な汚染物質として油やVOC(揮発性有機化合物)、重金属が挙げられるが油汚染に関して基準が設けられている物質は、現在のところベンゼンのみとなっている。そのため現時点では油汚染の有無、つまりは浄化の必要性および浄化目標の判断は、油臭や油膜といった官能的な要素によって評価されている。しかし、油臭の強度は個人の感覚によってばらつきを生じやすく、油種によって揮発性が異なるために、対象土壌が重質油を含む場合には臭いが微弱である上、油が土壌に吸着しているために油臭や油膜として検知されにくい。それゆえ、浄化処理の要・不要を判断する基準として十分な情報源であるとは言えない。
【0003】
中央環境審議会土壌農薬部会土壌汚染技術基準等専門委員会報告書「油汚染対策ガイドライン −鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え方−」では、油臭・油膜を補完する評価基準としてTPH(Total Petroleum Hydrocarbon)が紹介されている。しかし、未だ明確な基準値は設定されておらず、浄化処理の要・不要を判断するためには生物を用いたバイオアッセイ法により環境への影響のないことを確認することが最も望ましいと言える。
【0004】
バイオアッセイ法としては以下の特許文献1に示す提案がある。この特許文献1記載のバイオアッセイ法は、光合成機能を有する、または有さない植物部位の試験物質存在下におけるクロロフィル量および/または伸長度を測定することで、対象物質が植物に与える影響を短期間に評価できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3923358号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の手法は評価対象物質を植物の根毛に気体として暴露させるか、あるいは水溶性の対象物質を液体として供給し、CCDカメラで根毛の伸長度合いおよびクロロフィル量の経時的な変化を読み取るものである。そのため、評価対象が油である場合、様々な化合物からなる油はガス化できる成分が限られ、水に懸濁することが困難であるといった性質から、特許文献1に記載の手法では正確に評価することができないという課題がある。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、油種やその濃度にかかわらず、油で汚染された土壌に対する浄化処理の必要性および浄化目標値の判定を正確に行うことができる新規な判定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
機械油や作動油などで汚染された土壌は、必ずしも植物の生育に悪影響を及ぼすものでなく、その油種や濃度(含有量)によっては、寧ろ植物の生育を促進する場合がある。例えば、ある種の作動油が適度な濃度で土壌中に混入することにより、土壌中の油分解能を持つ一部の細菌が活性化し、その細菌が生成するビタミン類などの物質を取り込むことで植物の生育が促進される場合があることが知られている。
【0009】
そこで、前記の目的を達するために、第1の発明は、
油に汚染された土壌に対する浄化処理の必要性および浄化目標値を判定する方法であって、調査対象となる汚染土壌の油分濃度を分析する油分濃度分析工程と、油分濃度が前記汚染土壌と異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を調製する模擬汚染土壌調製工程と、当該模擬汚染土壌調製工程で調製した各模擬汚染土壌と非汚染土壌とを用い、各土壌ごとに同一種の植物をほぼ同一の条件で育成する植物育成工程と、当該植物育成工程で生育した各植物の葉のクロロフィル濃度を測定するクロロフィル濃度測定工程と、当該クロロフィル濃度測定工程で測定した各植物のクロロフィル濃度と各模擬汚染土壌の油分濃度との関係に基づいて前記汚染土壌の浄化処理の必要性および浄化目標値を判定する浄化処理判定工程と、を含むことを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法である。
【0010】
すなわち、本発明方法は、油で汚染された汚染土壌の油分濃度が異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を用いて植物を生育し、各植物のクロロフィル濃度を測定・検討することで汚染土壌の浄化処理の必要性および浄化目標値を判定するものである。このような方法によれば、植物のクロロフィル濃度という客観的なデータが得られるため、油種やその濃度にかかわらず、調査対象となる油汚染土壌の浄化処理の必要性およびその浄化目標値を正確に判定することができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、
前記浄化処理判定工程は、以下の条件(A)乃至(D)を全て満たすときは、浄化処理が不要と判定し、以下の条件(A)乃至(D)のいずれか1つでも満たさないときは、浄化処理が必要であると判定することを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法。
(A)前記各植物の2種類のクロロフィルaおよびbの濃度比率がほぼ一定であること。
(B)前記模擬汚染土壌で生育した各植物のクロロフィルaまたはbあるいはその合計濃度が前記非汚染土壌で生育した植物のクロロフィルaまたはbあるいはその合計濃度よりも高いこと。
(C)各土壌の油分濃度とその土壌で生育した植物のクロロフィルaまたはbあるいはその合計濃度が正の相関を示す最小の油分濃度範囲であること。
(D)当該最小の油分濃度範囲の最小値よりも低濃度範囲があるとき、当該低濃度範囲において各土壌の油分濃度とその土壌で生育した植物のクロロフィルaまたはbあるいはその合計濃度が負の相関を示すものでないこと。
【0012】
前記浄化処理判定として、これらの条件(A)乃至(D)に示す判定基準を用いれば、より正確に調査対象となる油汚染土壌の浄化処理の必要性およびその浄化目標値を判定することができる。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記模擬汚染土壌調製工程は、植物の生育に影響を与える因子のうち油分以外は前記汚染土壌とほぼ同一の特性を有する非汚染土壌と、前記汚染土壌に含まれる油分と同一の油種とを用いて油分濃度が異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を調製することを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法である。このような調製方法によれば、汚染土壌と同様な油種を含み、かつ油分濃度のみが異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を容易に調製することができる。
【0014】
第4の発明は、第1または第2の発明において、
前記模擬汚染土壌調製工程は、植物の生育に影響を与える因子のうち油分以外は当該汚染土壌とほぼ同一の特性を有する非汚染土壌と、前記汚染土壌とを所定の割合で混合して油分濃度が異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を調製することを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法である。このような調製方法によれば、汚染土壌に含まれている油種が判明できない場合やその油種が入手困難な場合であっても、汚染土壌と同じ油種を含み、かつ油分濃度のみが異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を容易に調製することができる。
【0015】
第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、
前記植物としてハツカダイコンを用いることを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法である。ハツカダイコンは、種子を播いてから20〜30日程度で収穫できる極早生の植物であるため、汚染土壌中の油分濃度の影響が短期間でクロロフィル濃度に反映されるという特性を有している。従って、模擬汚染土壌で生育させる植物としてハツカダイコンを用いれば、短期間で判定結果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、油に汚染された土壌において浄化処理の必要性を判断する際に、油種やその濃度にかかわらず、より精度良く浄化処理の要・不要を決定できると共に、明確な浄化目標値を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る油汚染土壌の浄化処理判定方法の実施の一形態を示すフローチャート図である。
【図2】本発明に係る浄化処理判定の一例を示すフローチャート図である。
【図3】汚染土壌を用いた模擬汚染土壌の調製工程を示した図である。
【図4】作動油で汚染された土壌などを用いて生育したハツカダイコンのクロロフィル濃度と油分濃度との関係を示したグラフ図である。
【図5】本発明に係る浄化処理判定の他の例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の油汚染土壌の浄化処理判定方法を添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る油汚染土壌の浄化処理判定方法の実施の一形態を示すフローチャート図である。
【0019】
図1に示すように、本発明に係る浄化処理判定方法は、油で汚染された土壌の油分濃度を分析する油分濃度分析工程(ステップS10)と、複数の模擬汚染土壌を調製する模擬汚染土壌調製工程(ステップS20)と、調製した模擬汚染土壌を用いて植物を育成する植物育成工程(ステップS30)と、生育した各植物の葉のクロロフィル濃度を測定するクロロフィル濃度測定工程(ステップS40)と、各植物のクロロフィル濃度と各模擬汚染土壌の油分濃度との関係に基づいて汚染土壌の浄化処理の必要性および浄化目標値を判定する浄化処理判定工程(ステップS50)とを含んでなるものである。以下、これら各工程(ステップS10乃至50)について説明する。
【0020】
先ず、最初のステップS10における油分濃度分析工程は、調査対象となる場所や地域における、作動油などで汚染された汚染土壌の油分濃度や油種などを分析する工程である。ここで、この油分濃度の分析手法としては特に限定されるものでないが、IR法やGC−FID法、ノルマルヘキサン抽出法等の公知の分析法を用いることが望ましい。なお、この油分濃度分析工程は図5に示すように浄化処理必要と決定した場合に必要な試料の分析を行い、浄化処理の目標値として用いるのであっても良い。
【0021】
次に、ステップS20における模擬汚染土壌調製工程は、油分濃度が異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を調製する工程である。この工程における模擬汚染土壌を調製する方法としては2つの方法を用いることができる。先ず、第1の調製方法は、調査対象となる油汚染土壌と植物の生育に影響を与える因子に関して同様の特性を示す非汚染土壌を用いて、いくつかの濃度の模擬汚染土壌を調製する。調査対象となる油汚染土壌と同一敷地内に同様の物理的特性を示す非汚染土壌が存在する場合には、その非汚染土壌を用いるのがより望ましい。
【0022】
そして、この非汚染土壌に、調査対象となる汚染土壌中の油種と同一の油種を用いてその油分濃度を調製し、油分濃度のみが異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を作製する。なお、ここで植物の生育に影響を与える因子としては、例えばリンや窒素などの植物の生育に不可欠な元素の含有量や土中の細菌の数・種類などの他に、透水性や通気性を含む土壌の物理的特性が挙げられる。
【0023】
このような第1の調製方法に対し、第2の調製方法は、汚染土壌と非汚染土壌とを様々な比率で混合することで油分濃度のみが異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を調製する方法である。すなわち、調査対象となる汚染土壌に含まれる油種が明確である場合には、第1の調製方法のように同一の油種を用いて模擬汚染土壌を作製できるが、汚染土壌中に含まれる油種が明確でない場合や同一の油種を入手困難な場合、あるいは含有する油種が複数におよびその混合の割合が不明である場合には、調査対象である汚染土壌と、この汚染土壌と植物の生育に影響を与える因子に関して同様の特性を示す非汚染土壌とを混合することで油分濃度のみが異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を作製する。
【0024】
より詳細には、図3に示すように複数の容器を用意し、各容器に異なる分量の汚染土壌を採取した後、それぞれに非汚染土壌を加えて一定量に調製・混合して模擬汚染土壌を作製する。このときのサンプル数は任意に設定可能であるが、低濃度域のサンプル数を多く設定することでより高精度の結果を得ることができる。図3の例では、7つの容器を用意し、汚染土壌の割合をそれぞれ0%、2%、6%、10%、20%、60%、100%として非汚染土壌と混合・攪拌して7種類の模擬汚染土壌を作製している。
【0025】
次に、ステップS30における植物育成工程は、この模擬汚染土壌調製工程で調製した各模擬汚染土壌と非汚染土壌とを用いて植物を播種・育成する工程である。すなわち、ステップS20の工程で作製した各濃度の模擬汚染土壌および非汚染土壌に植物の種子を複数個播種し、双葉が十分成長するまで生育させる。このとき土壌の重量、植物種および種子数は任意に設定可能であるが、植物種に関しては栽培が容易で生育の早い種が望ましく、油に対して高い感受性を示す種がより望ましい。
【0026】
具体的には、種子を播いてから20〜30日程度で収穫できる極早生の植物であって、油分濃度の影響が短期間でクロロフィル濃度に反映されるハツカダイコンを用いることが望ましい。播種・育成する植物としてハツカダイコンを用いれば、短期間で判定結果を得ることが可能となる。また、この工程においては、播種してから十分生育するまで、土壌が乾燥しない程度の水を適宜、全ての条件に同量ずつ与える。生育期間中は植物育成用のインキュベーターや恒温水槽等を用いて温度や日照条件などの生育環境を一定に整えるのが望ましい。
【0027】
次に、ステップ40におけるクロロフィル濃度測定工程は、植物育成工程で各油分濃度の模擬汚染土壌で十分に成長したハツカダイコンの葉をそれぞれ2枚採取し、そのうちの一枚を用いて葉の乾燥重量(mg/kg−d)を求めると共に、もう一枚を用いてクロロフィル濃度(μg/g−d)を求める。乾燥重量は採取した葉の湿重量(mg/kg−w)を測定した後に乾熱器内で一晩乾燥させて葉の含水量を求め、得られた含水率(%)を用いてクロロフィル濃度測定用の葉の湿重量から水分の重量を除くことで得られる。
【0028】
クロロフィル濃度は、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを用いてクロロフィルを抽出した後に分光光度計で646.8nmと663.8nmにおける吸光度を読み取り、以下に示す計算式(1)、(2)を用いてクロロフィルa(Chla)、クロロフィルb(Chlb)それぞれの濃度(μg/ml)を算出する。あるいは、画像解析装置を用いてクロロフィルの自家蛍光を定量する手法であっても良い。得られた値を葉の乾燥重量で除して葉の乾燥重量あたりのクロロフィル量(μg/g−d)として評価する。
Chla(μg/ml)=12.00×A663.8−3.11×A646.8…(1)
Chlb(μg/ml)=20.78×A646.8−4.88×A663.8…(2)
あるいは以下の計算式(3)のようにクロロフィルaとクロロフィルbの総量として評価しても良い。
Chla+b(μg/ml)=17.67×A646.8−7.12×A663.8…(3)
高等植物は主にクロロフィルaおよびbを含むが、カロテンやキサントフィルなどの他の光合成色素について検討しても良い。
【0029】
最後のステップS50における浄化処理判定工程は、クロロフィル濃度測定工程で得られた各植物のクロロフィル濃度と各模擬汚染土壌の油分濃度との関係に基づいて汚染土壌の浄化処理の必要性および浄化目標値を判定する。図2は、この浄化処理の必要性および浄化目標値の判定方法の流れを示したものである。
【0030】
先ず、油分濃度をx、クロロフィル濃度をyとしたときの、両者の関係をy=f(x)と表す。また、y=f(x)の微分方程式をy′=f′(x)と表す。最初の判断ステップS51において、最初の条件(A)である以下の計算式(4)を満たすか否か、すなわち各植物の2種類のクロロフィルaおよびbの濃度比率がほぼ一定(所定の範囲内)であるか否かを判断する。
/y=k…(4)
ここで、yはクロロフィルaの濃度、yはクロロフィルbの濃度、kは定数である。
この結果、計算式(4)を満たさないと判断したとき(NO)は、ステップS56に移行するが、計算式(4)を満たすと判断したとき(YES)は、次の判断ステップS52に移行する。
【0031】
次の判断ステップS52では、第2の条件(B)である以下の計算式(5)を満たすか否か、すなわち、各植物のクロロフィル濃度が前記非汚染土壌で生育した植物のクロロフィル濃度よりも高いか否かを判断する。
f(0) ≦f(t)…(5)
ここで、tは浄化目標油分濃度値である。
この結果、計算式(5)を満たさないと判断したとき(NO)は、ステップS56に移行するが、計算式(5)を満たすと判断したとき(YES)は、次の判断ステップS53に移行する。なお、式(5)に示すように各植物のクロロフィル濃度が前記非汚染土壌で生育した植物のクロロフィル濃度と同じ場合もこの第2の条件を満たすと判断する。
【0032】
次の判断ステップS53では、第3の条件(C)である以下の計算式(6)を満たすか否か、すなわち、各土壌の油分濃度とクロロフィル濃度が正の相関を示す油分濃度範囲であるか否かを判断する。
f′(t) ≧0…(6)
この結果、計算式(6)を満たさないと判断したとき(NO)は、ステップS56に移行するが、計算式(6)を満たすと判断したとき(YES)は、次の判断ステップS54に移行する。
【0033】
次の判断ステップS54では、第4の条件(D)である、0≦x≦tの範囲にf(x)<0となるf(x)が存在しないか否か、すなわち、最小の油分濃度範囲の最小値よりも低濃度範囲があるとき、その低濃度範囲において各土壌の油分濃度とクロロフィル濃度が負の相関を示すものでないか否かを判断する。ここで、tは浄化目標油分濃度値の最小値である。
この結果、負の相関を示すものであると判断したとき(NO)は、ステップS56に移行するが、負の相関を示すものでないと判断したとき(YES)は、次の判断ステップS55に移行する。
【0034】
ステップS55では、その油分濃度範囲の土壌の浄化処理は不要と判断し、ステップS56ではその油分濃度範囲の土壌の浄化処理は不要と判断して処理を終了する。すなわち前記の条件(A)乃至(D)を全て満たすときは、浄化処理が不要と判定し、条件(A)乃至(D)のいずれか1つでも満たさないときは、浄化処理が必要であると判定する処理の流れとなる。
【0035】
図4は、作動油で汚染された土壌におけるハツカダイコンのクロロフィル濃度と油分濃度との関係を示した測定結果の一例であり、この図4の例を用いて前述した浄化処理判定フローを説明する。すなわち、図4はクロロフィル濃度と油分濃度との関係を、クロロフィル濃度測定工程で得られた値を基に、横軸に油分濃度(mg/kg−d)、縦軸にクロロフィル濃度(μg/g−d)としてグラフに表したものである。
【0036】
図4においては、油分濃度全域に亘ってクロロフィルaの濃度がクロロフィルbの濃度よりも高く、かつ両者ともに同様の変化を示していることがわかる。また、クロロフィルaおよびbの比率の変化は、光合成経路の光化学系Iおよび光化学系IIの量比の変化を意味し、植物の光合成機能に化学的な障害を与えていることを意味するが、図4においてはそのような変化は見られない。つまり、2種類のクロロフィルaおよびbの濃度比率がほぼ一定(所定の範囲内)である。従って、この例では、先ず最初の条件(A)である計算式(4)を満たしているから、図2のフローの最初のステップS51から次のステップS52に移行する。
【0037】
次に、非汚染土壌で得られたクロロフィルaおよびbの濃度と模擬汚染土壌で得られたクロロフィルaおよびbの濃度とを比較すると、いずれの濃度領域においても第2の条件(B)である計算式(5)を満たしているから、図2のフローのステップS52から次のステップS53に移行する。
【0038】
次に、図4において各土壌の油分濃度とクロロフィル濃度が正の相関を示す油分濃度範囲があるか否かを検討するとおよそ0〜37000mg/kg−dとおよそ45000〜70000mg/kg−dの2箇所があることがわかる。この油分濃度範囲が第3の条件(C)である計算式(6)を満たしているから、図2のフローのステップS53から次のステップS54に移行する。
【0039】
次に、図4において以上の4つの条件(A)乃至(D)を満たすのは図4の網掛け部で示した0〜13000mg/kg−d程度の油分濃度範囲内であり、この油分濃度範囲内であれば、植物の生育に影響のないだけでなく、むしろ植物の生育を促進できる油分濃度であることを具体的なデータを用いて示すことができ、浄化の目標値として設定するのに好ましい値であることを明らかにすることができる。
【0040】
そして、この油分濃度範囲内において、浄化処理を進めるか否かは、油臭・油膜の有無によって判断すれば良い。また、この範囲では微生物が活性化していることが予想されるのでバイオスティミュレーションによる処理を適用するのに最適な油分濃度範囲であると考えることもできる。
【0041】
反対に、この値の範囲を上回る場合、すなわち図2のフローチャートにおいて一つでもNOに該当する場合には、油臭・油膜が検知されなくとも浄化処理を実施あるいは継続する必要があると判断することができる。そして、例えば汚染土壌に対しては、その油分濃度がこれらの条件を満たす範囲内になるように非汚染土壌と混ぜ合わせる(濃度希釈)などすることによって浄化処理を行うことができる。このように、本発明方法によれば油に汚染された土壌において浄化処理の必要性を判断する際に、油種やその濃度にかかわらず、より精度良く浄化処理の要・不要を決定できると共に、明確な浄化目標値を設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
S10…油分濃度分析工程
S20…模擬汚染土壌調製工程
S30…植物育成工程
S40…クロロフィル濃度測定工程
S50…浄化処理判定工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油に汚染された土壌に対する浄化処理の必要性および浄化目標値を判定する方法であって、
調査対象となる汚染土壌の油分濃度を分析する油分濃度分析工程と、
油分濃度が前記汚染土壌と異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を調製する模擬汚染土壌調製工程と、
当該模擬汚染土壌調製工程で調製した各模擬汚染土壌と非汚染土壌とを用い、各土壌ごとに同一種の植物をほぼ同一の条件で育成する植物育成工程と、
当該植物育成工程で生育した各植物の葉のクロロフィル濃度を測定するクロロフィル濃度測定工程と、
当該クロロフィル濃度測定工程で測定した各植物のクロロフィル濃度と各模擬汚染土壌の油分濃度との関係に基づいて前記汚染土壌の浄化処理の必要性および浄化目標値を判定する浄化処理判定工程と、を含むことを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の油汚染土壌の浄化処理判定方法において、
前記浄化処理判定工程は、以下の条件(A)乃至(D)を全て満たすときは、浄化処理が不要と判定し、以下の条件(A)乃至(D)のいずれか1つでも満たさないときは、浄化処理が必要であると判定することを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法。
(A)前記各植物の2種類のクロロフィルaおよびbの濃度比率がほぼ一定であること。
(B)前記模擬汚染土壌で生育した各植物のクロロフィルaまたはbの濃度あるいはその合計濃度が、前記非汚染土壌で生育した植物のクロロフィルaまたはbの濃度あるいはその合計濃度よりも高いこと。
(C)各土壌の油分濃度とその土壌で生育した植物のクロロフィルaまたはbの濃度あるいはその合計濃度が正の相関を示す最小の油分濃度範囲であること。
(D)当該最小の油分濃度範囲の最小値よりも低濃度範囲があるとき、当該低濃度範囲において各土壌の油分濃度とその土壌で生育した植物のクロロフィルaまたはbの濃度あるいはその合計クロロフィル濃度が負の相関を示すものでないこと。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油汚染土壌の浄化処理判定方法において、
前記模擬汚染土壌調製工程は、
植物の生育に影響を与える因子のうち油分以外は前記汚染土壌とほぼ同一の特性を有する非汚染土壌と、前記汚染土壌に含まれる油分と同一の油種とを用いて油分濃度が異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を調製することを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の油汚染土壌の浄化処理判定方法において、
前記模擬汚染土壌調製工程は、
植物の生育に影響を与える因子のうち油分以外は当該汚染土壌とほぼ同一の特性を有する非汚染土壌と、前記汚染土壌とを所定の割合で混合して油分濃度が異なる複数の油分濃度の模擬汚染土壌を調製することを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の油汚染土壌の浄化処理判定方法において、
前記植物としてハツカダイコンを用いることを特徴とする油汚染土壌の浄化処理判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88384(P2013−88384A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231581(P2011−231581)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】