説明

油汚染土壌の浄化方法

【課題】油で汚染された土壌を油の種類に関係なく簡易な設備にて十分に浄化できる油汚染土壌の浄化方法を提供する。
【解決手段】残油を含む油で汚染された土壌を浄化する方法であって、微生物用栄養剤を土壌に注入することなく微生物によって土壌を浄化する工程と、オゾンを土壌に注入し、オゾン酸化によって土壌を浄化する工程とを有することを特徴とする油汚染土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残油を含む油で汚染された油汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染された土壌や地下水の浄化には、その場所(in situ)で浄化する方法(原位置浄化)や、汚染された土壌を掘り出して(on situ)浄化する方法などがある。特に、原位置浄化は、土壌を掘り出すことなく原位置で土壌を浄化できるので、on situによる浄化に比べてコストが安く、地上に建物が存在する場合でも施工が可能となる場合が多い。また、原位置浄化は、汚染が広範囲にわたる場合の浄化にも適している。
【0003】
土壌汚染の原因の一つに、油、特に多環芳香族炭化水素(PAH)を含む全石油系炭化水素(TPH)による汚染がある。PAHを含むTPHは、炭素数によって炭素数の少ない低カーボン(ガソリン)と、炭素数の多い高カーボン(残油)と、炭素数が低カーボンと高カーボンの間である中カーボン(軽油)とに、主に分類される。
【0004】
油汚染土壌を浄化する方法としては、オゾン酸化やバイオレメディエーションなどの方法が知られている。これらは特に原位置浄化に適した方法である。
オゾン酸化は、化学酸化分解により土壌を浄化する方法である。
一方、バイオレメディエーションは微生物により土壌を浄化する方法である。また、バイオレメディエーションは、オゾン酸化など物理化学的な処理プロセスに比べて処理に時間がかかるものの、温和な条件のもと低コストで汚染を処理できるという利点がある。
【0005】
バイオレメディエーションによる土壌の浄化方法としては、例えば以下に示す方法が提案されている。
特許文献1には、微生物用栄養組成物を含む注入水にオゾンを溶存させて汚染地下水帯に注入するか、または注入水と溶存オゾン水とを汚染地下水帯に注入して、微生物により汚染物質を分解する方法が開示されている。
特許文献2には、油汚染土壌の地下水飽和層に空気を吹き込む工程と、薬剤を注入する工程を順次または同時に行って土粒子に付着した油を剥離させ、剥離した油を飽和層上面に移動させて回収し、残溜汚染油含量が低下した土壌を化学酸化分解処理および/またはバイオレメディエーション処理する方法が開示されている。
特許文献3には、分散剤を油汚染土壌に撒布して油分を土壌より分離し、その後、バイオレメディエーションによって油の分解を図る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3458688号公報
【特許文献2】特開2007−253059号公報
【特許文献3】特開2008−73672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のように、バイオレメディエーションにより油汚染土壌を浄化する方法では、ガソリンや軽油を分解することはできても、残油を分解するのは困難であった。一方、オゾン酸化により油汚染土壌を浄化する方法では、地下水中の残油を分解することはできるものの、土壌に入り込んだPAHを含むTPHを分解することは困難であった。
【0008】
また、特許文献1に記載の方法では、オゾンの拡散が少ない注入地点における微生物の増殖活動を抑制させることで栄養組成物の消費を抑え、栄養組成物の遠距離到達を高めたり、注入地点から離れた領域における溶存酸素濃度の低下を抑制したりする目的で、溶存オゾン水を土壌に注入している。
しかし、積極的に栄養組成物を土壌に注入することにより、オゾンにより微生物の増殖活動が阻害されにくい、注入地点から離れた地点では、栄養組成物が十分に存在しているため、微生物が過剰に活性化して増殖してしまう。微生物が増殖しすぎると微生物の死骸等による汚泥が発生し、注入水などを汚染地下水帯に注入するための井戸が詰まりやすくなる。その結果、井戸を介して注入された微生物用栄養組成物やオゾン水が目的とする地点まで到達しにくくなるという問題があった。
【0009】
特許文献2に記載の方法では、土粒子から剥離した油を油回収井戸を通じて回収するため、設備が大掛かりになりやすかった。また、特許文献2には、回収された油の処理については記載がない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、油で汚染された土壌を油の種類に関係なく簡易な設備にて十分に浄化できる油汚染土壌の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、土壌に入り込んだPAHを含むTPHが微生物によって地下水中へ溶出すること、オゾン酸化は地下水中の残油であれば分解できることに着目した。そこで、バイオレメディエーションとオゾン酸化を併用し、まず土壌に入り込んだPAHを含むTPHを微生物によって地下水中へ溶出させると共に、このうちガソリンや軽油を微生物によって分解し、さらに残りの残油をオゾン酸化によって分解することで、ガソリン、軽油、残油の種類に関係なく油を分解でき、油汚染された土壌を十分に浄化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の油汚染土壌の浄化方法は、残油を含む油で汚染された土壌を浄化する方法であって、微生物用栄養剤を土壌に注入することなく微生物によって土壌を浄化する工程と、オゾンを土壌に注入し、オゾン酸化によって土壌を浄化する工程とを有することを特徴とする。
ここで、微生物による浄化が、土壌への空気の供給によりなされることが好ましい。
また、前記オゾンが、オゾン濃度1〜200ppmのオゾンガスであり、オゾンガスを5時間〜10日間連続注入した後、1〜50日間注入を停止する操作を繰り返し行い、オゾンガスを間欠的に注入することが好ましい。
また、前記オゾンが、溶存オゾン濃度0.1〜10mg/Lのオゾン溶液であり、オゾン溶液を5時間〜10日間連続注入した後、1〜50日間注入を停止する操作を繰り返し行い、オゾン溶液を間欠的に注入することが好ましい。
さらに、前記オゾンの注入と、空気の供給を交互に行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油で汚染された土壌を油の種類に関係なく簡易な設備にて十分に浄化できる油汚染土壌の浄化方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の油汚染土壌の浄化方法を行うための浄化システムの一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例1−1−A、実施例1−2−Aのオゾン注入試験に用いた試験機を示す概略構成図である。
【図3】空気供給試験に用いた試験機を示す概略構成図である。
【図4】実施例における一般細菌数の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例におけるTPH濃度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について説明する。
本発明で浄化される土壌は、残油を含む油で汚染された土壌である。
ここで、「油」とは、環芳香族炭化水素(PAH)を含む全石油系炭化水素(TPH)を主成分とするものであり、鉱油、合成油、およびこれらの廃油などが挙げられる。
また、「残油」とは、原油を常圧蒸留してガス、ガソリン留分、灯油留分、および軽油留分を留出させた残りの油のことであり、TPHを炭素数によって低カーボンと、中カーボンと、高カーボンとに分類したときの、高カーボンに相当する。なお、低カーボンはガソリン、中カーボンは軽油のことである。
【0016】
本発明の油汚染土壌の洗浄方法(以下、単に「浄化方法」という場合がある。)は、微生物によって土壌を浄化する工程(バイオレメディエーション工程)と、オゾン酸化によって土壌を浄化する工程(オゾン酸化工程)とを有する。
【0017】
バイオレメディエーション工程は、土壌に生息する微生物の有無によって、バイオスティミュレーション(土壌にもとから生息する微生物を活用し、土壌を浄化する方法)を採用してもよいし、バイオオーグメンテーション(土壌に生息する微生物が少ないか、いない場合、大量培養した微生物を外部から投入し、土壌を浄化する方法)を採用してもよい。
【0018】
汚染物質を分解し、土壌を浄化する微生物としては、Novosphingobium(ノボスフィンゴビウム属細菌)、Pseudomonas(シュードモナス属細菌)などが挙げられる。また、土壌の浄化に使用する微生物は好気性でもよいし、嫌気性でもよい。特に微生物が好気性の場合は、土壌へ空気を供給し、微生物の活性を適度に促すバイオスパージングを採用するのが好ましい。
土壌へ空気を供給する場合は、ブロワなどを用いて供給するのが好ましい。
【0019】
バイオレメディエーション工程では、土壌に入り込んだPAHを含むTPHが微生物によって地下水中へ溶出する。加えて、地下水中へ溶出したPAHを含むTPHのうち、ガソリンや軽油が微生物によって分解される。なお、ガソリンや軽油は、土壌に入り込んだ状態で微生物によって分解される場合もある。また、その分解物が微生物によって地下水中へ溶出されることもある。
本発明においては、後述するオゾン酸化工程で分解された残油は、その分解物が微生物の栄養源となる。従って、バイオレメディエーション工程では、微生物用栄養剤を土壌に注入する必要がなく、微生物が過剰に活性化して増殖するのを抑制できる。
【0020】
オゾン酸化工程では、オゾンを土壌に注入する。すると、バイオレメディエーション工程によって地下水中へ溶出したPAHを含むTPHのうち、残りの残油がオゾンによって酸化、分解される。
【0021】
オゾンは、オゾンを含むオゾンガスまたは、オゾンが溶存したオゾン溶液の状態で土壌に注入される。
オゾンがオゾンガスの状態で土壌に注入される場合、オゾンガス中のオゾン濃度は、1〜200ppmが好ましく、100〜150ppmがより好ましい。オゾンガス中のオゾン濃度が1ppm未満であると、残油が十分に分解されにくくなる。一方、オゾン濃度が200ppmを超えると、土壌に生息する微生物がオゾンにより死滅する恐れがある。
【0022】
オゾン酸化工程では、土壌にオゾンガスを5時間〜10日間連続注入した後、1〜50日間注入を停止する操作を繰り返し行い、オゾンガスを間欠的に注入するのが好ましい。オゾンガスを間欠的に注入することで、オゾンガスの注入により土壌に生息する微生物の活性が低下しても、オゾンガスが注入されない間に微生物の活性を復活させることができる。
【0023】
一方、オゾンがオゾン溶液の状態で土壌に注入される場合、オゾン溶液中の溶存オゾン濃度は、0.1〜10mg/Lが好ましく、3〜5mg/Lがより好ましい。オゾン溶液中の溶存オゾン濃度が0.1mg/L未満であると、残油が十分に分解されにくくなる。一方、溶存オゾン濃度が10mg/Lを超えると、土壌に生息する微生物がオゾンにより死滅する恐れがある。
溶存オゾン濃度は、オゾンガス濃度やオゾン溶液温度などによって調整できる。例えば、オゾンガスの濃度を高くしたり、オゾン溶液温度を低くしたりすれば、溶存オゾン濃度は高くなる傾向にある。
【0024】
オゾン酸化工程では、土壌にオゾン溶液を5時間〜10日間連続注入した後、1〜50日間注入を停止する操作を繰り返し行い、オゾン溶液を間欠的に注入するのが好ましい。オゾン溶液を間欠的に注入することで、オゾン溶液の注入により土壌に生息する微生物の活性が低下しても、オゾン溶液が注入されない間に微生物の活性を復活させることができる。
【0025】
バイオレメディエーション工程とオゾン酸化工程は、同時に行ってもよいし、交互に行ってもよいが、各工程においてPAHを含むTPHの分解をより効果的に行うためには、各工程を交互に行うのが好ましい。
各工程を交互に行うには、オゾンの注入を停止している間だけ、土壌に空気を供給すればよい。すなわち、オゾンの注入と空気の供給を交互に行うことで、空気を供給している間は微生物が活性化され、土壌に入り込んだPAHを含むTPHが微生物によって地下水中へ溶出すると共に、このうちガソリンや軽油の分解が促進される。一方、オゾンを注入している間は、地下水中へ溶出したPAHを含むTPHのうち、残りの残油がオゾン酸化によって分解される。また、オゾンを土壌に注入することで微生物の活性が低下しても、オゾンの注入を停止している間に空気を供給することで、微生物の活性を効果的に復活させることができる。
なお、バイオレメディエーション工程とオゾン酸化工程を同時に行うには、例えばオゾンを注入している最中にも空気を供給すればよい。
【0026】
本発明の浄化方法は、原位置浄化や、on situによる浄化のどちらにも適用できる。特に原位置浄化に適用すれば、汚染が広範囲にわたる土壌を低コストで浄化することができる。
ここで、本発明の浄化方法の一例について、図1を参照しながら具体的に説明する。
【0027】
図1は、本発明の浄化方法を行うための浄化システムの一例を示す概略構成図である。なお、図1は、オゾンがオゾン溶液の状態で土壌に注入される場合の一例である。また、図1に示す浄化システムは、原位置浄化により油汚染土壌を浄化するシステムである。
この浄化システム1は、対象汚染領域Aを貫き岩盤Rに達する井戸10と、井戸10を介して対象汚染領域Aに空気を供給する供給手段20と、井戸10を介して対象汚染領域Aにオゾン溶液を注入する注入手段30とを具備して概略構成されている。供給手段20と注入手段30は、地表面G上に設置されている。
【0028】
井戸10としては、対象汚染領域Aに埋まっている部分がスクリーン加工されたスクリーン井戸などが挙げられる。
井戸10は、対象汚染領域Aの広がりや油分濃度に応じて、1本または複数本掘削される。また、対象汚染領域Aにおける地下水の流れFを考慮し、対象汚染領域Aに対して流れFの上流側に設けられるのが好ましい。
【0029】
供給手段20は、空気を井戸10に送り込むブロワ21と、ブロワ21と井戸10とを連結する供給管22とを備えている。
ブロワ21としては、バイオスパージングに用いられる公知のブロワを使用できる。
【0030】
注入手段30は、オゾン溶液を製造するオゾン溶液製造装置31と、オゾン溶液製造装置31と井戸10とを連結する注入管32とを備えている。
オゾン溶液製造装置31には、水道などから原水を供給する配管40が接続されている。オゾン溶液製造装置31に原水が供給されると、オゾン発生器(図示略)から発生したオゾンガスが所望の濃度になるように原水に溶解され、オゾン溶液が製造される。このような装置としては、公知のオゾン水製造装置を使用できる。
【0031】
このような浄化システム1を用いた油汚染土壌の浄化方法では、まず、ブロワ21を駆動させて供給管22から井戸10へ空気を供給する。供給期間は1〜50日間が好ましい。
空気は井戸10を介して対象汚染領域Aの油汚染土壌に供給される(スパージング)。すると、土壌に生息する好気性の微生物が活性化され、土壌に入り込んだPAHを含むTPHが活性化された微生物によって地下水中へ溶出される。また、地下水中へ溶出したPAHを含むTPHのうち、ガソリンや軽油が微生物によって分解される(バイオレメディエーション工程)。
【0032】
ついで、ブロワ21を止めて空気の供給を停止する。その後、オゾン溶液製造装置31より製造されたオゾン溶液を、注入管32から井戸10へ注入する。注入期間は5時間〜10日間が好ましい。
オゾン溶液は井戸10を介して対象汚染領域Aの油汚染土壌に注入される。すると、バイオレメディエーション工程によって地下水中へ溶出したPAHを含むTPHのうち、残りの残油がオゾンによって酸化、分解される(オゾン酸化工程)。
【0033】
ついで、オゾン溶液の注入を停止し、再度ブロワ21を駆動させて井戸10へ空気を供給し、バイオレメディエーション工程を行う。
本発明では、バイオレメディエーション工程とオゾン酸化工程を交互に繰り返し行うことで、種類に関係なく油を分解して土壌中の油分濃度を低減できる。よって、本発明の浄化方法は、油汚染土壌を十分に浄化できる。
【0034】
各工程の繰り返し回数は、土壌の油分濃度や汚染状態に応じて適宜決定される。例えば、土壌の油分濃度をモニタリングできる検出機構(図示略)を設置し、油分濃度が目標以下になるまで各工程を繰り返し行う。通常は、土壌中のTPHの濃度が100mg/kg以下程度になるまで、各工程を繰り返し行う。土壌中のTPHの濃度が100mg/kg以下程度になれば、ガソリン、軽油、残油の全てを十分に分解できたといえる。
【0035】
なお、図1に示す浄水システム1では、土壌への空気の供給とオゾン溶液の注入を同じ井戸10で行っているが、本発明はこれに限定されず、空気の供給とオゾン溶液の注入を別々の井戸に分けて行ってもよい。
【0036】
また、オゾンがオゾンガスの状態で土壌に注入される場合は、例えばオゾンガス発生装置にて発生したオゾンガスを、オゾンガス注入用ブロワなどを用いて土壌に注入すればよい。オゾンを土壌に注入する方法以外は、オゾン溶液を用いる場合と同様である。
【0037】
以上説明したように、本発明の浄化方法によれば、土壌の油汚染の主原因となるPAHを含むTPHを微生物によって地下水へ溶出させると共に、これらのうち、ガソリンと軽油を微生物によって分解し、残油をオゾン酸化によって分解する。従って、種類に関係なく油を分解でき、油汚染土壌を十分に浄化できる。
また、オゾン酸化によって分解された残油は、その分解物が微生物の栄養源となる。従って、バイオレメディエーション工程では、微生物用栄養剤を土壌に注入する必要がなく、微生物が過剰に活性化して増殖するのを抑制できる。
【0038】
さらに、本発明は、上述したような簡易な設備にて油汚染土壌を浄化できる。
なお、土壌中に注入されたオゾンは、いずれ酸素に変化する。従って、浄化後の土壌や対象汚染領域A以外の領域において、微生物の活動や土壌環境がオゾンによって影響を及ぼされることは少ない。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[油汚染土壌中の微生物量およびTPH濃度の測定]
残油を含む油により汚染された土壌を掘り出し、掘り出した土壌の状態を均一にするために混合機にて混合し、これを原土とした。
(1)微生物量の測定
原土から3gのサンプルを採取し、一般細菌数の測定方法(上水試験法、605頁、社団法人日本水道協会)に準じて以下のようにして原土中の一般細菌数を測定した。
まず、採取したサンプルを滅菌済みの遠沈管に入れ、全量が30mLになるように滅菌蒸留水を加えた。ついで、攪拌遠心機(ボルテックス)にて10分間攪拌し、希釈液とした。得られた希釈液を標準寒天培地上に塗布し、これを37℃で24時間培養した後の発生集落数(コロニー数)[CFU/g]を測定した。結果を表1、および図4に示す。
なお、上述した一般細菌数の測定方法は、土壌を滅菌水に懸濁した希釈液を対象として、寒天培地上でコロニーと呼ばれる細菌の塊を形成させ、その数を計測する方法である。
【0041】
(2)TPH濃度の測定
原土から50gのサンプルを採取し、水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ法(GC−FID法)に準じて、原土中のTPH濃度を測定し、これを原土1kgあたりの量に換算した。結果を表1、および図5に示す。
なお、TPHは、炭素数によってガソリン(炭素数8〜12)、軽油(炭素数13〜28)、残油(炭素数29〜44)に分類されるので、これらの濃度について求め、その合計を「TPH濃度」とした。
【0042】
【表1】

【0043】
表1および図4、5から明らかなように、原土を培養した後の一般細菌数を測定した結果、1.4×10[CFU/g]であった。また、原土中のTPH濃度は13300mg/kgであり、その内訳は、ガソリン濃度が5300mg/kg、軽油が5600mg/kg、残油が2400mg/kgであった。原土は高濃度の油を含有していたことから、この油を栄養源とする微生物が一般細菌の中に含まれていると推測できる。
【0044】
[オゾン注入試験]
<実施例1−1−A>
原土から200gのサンプルを採取し、図2に示す試験機を用いてオゾン注入試験を行った。
図2に示す試験機50は、サンプルを充填するカラム51と、オゾン溶液を貯蔵するオゾン溶液タンク52と、オゾン溶液タンク52からカラム51にオゾン溶液を供給する供給ポンプ53と、カラム51とオゾン溶液タンク52を連結する供給管54と、カラム51からあふれたオゾン溶液を排出するオーバーフロー管55とを具備している。
カラム51としては容積350mLのカラムを用い、カラム内部を支持層51aにより上側と下側に仕切り、カラムの上側に採取したサンプルSを充填し、下側に供給管54を接続した。支持層51aとしては、土壌を支持でき、かつオゾン溶液を透過できるものであれば特に制限されないが、本試験ではメッシュ網(目開き:2mm)を用いた。
オゾン溶液タンク52には、オゾン溶液(溶存オゾン濃度3.5mg/L)を貯蔵した。
【0045】
試験機50を用い、以下のようにしてオゾン注入試験を行った。
オゾン溶液タンク52からオゾン溶液を、通水量130mL/分の条件で24時間カラム51に供給した。供給されたオゾン溶液は支持層51aを透過してサンプルSに浸透した。カラム51からあふれた(すなわち、サンプルSから染み出した)オゾン溶液をオーバーフロー管55から排出した。
【0046】
オゾン注入試験後のサンプルの水分を手動で絞った後、所定量を採取し、微生物量およびTPH濃度を測定した。これらの測定方法は、先に説明した(1)微生物量の測定、および(2)TPH濃度の測定と同様である。結果を表2、および図4、5に示す。
【0047】
<実施例1−2−A>
オゾン溶液の供給時間を48時間に変更した以外は、実施例1−1−Aと同様にしてオゾン注入試験を行い、試験後のサンプルについて微生物量およびTPH濃度を測定した。結果を表2、および図4、5に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
<実施例2−1−A>
原土から200gのサンプルを採取し、これを900mLの水と混合して土壌スラリーを調製した。
得られた土壌スラリー中に、オゾンガス(オゾン濃度130ppm)をオゾンガス注入用ブロワ(株式会社テクノ高槻製、「CD−8S」、吐出量:9.5L/分)を用い、通ガス量3.2L/分の条件で、土壌スラリーを攪拌しながら24時間注入した。
オゾンガス注入後の土壌スラリーをろ過し、水分を手動で絞った後、所定量を採取し、微生物量およびTPH濃度を測定した。これらの測定方法は、先に説明した(1)微生物量の測定、および(2)TPH濃度の測定と同様である。結果を表3、および図4、5に示す。
【0050】
<実施例2−2−A>
オゾンガスの供給時間を48時間に変更した以外は、実施例2−1−Aと同様にしてオゾン注入試験を行い、試験後の土壌スラリーについて微生物量およびTPH濃度を測定した。結果を表3、および図4、5に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表2、3および図5から明らかなように、原土にオゾンを注入した実施例1−1−A、1−2−A、2−1−A、2−2−Aでは、TPHが十分に分解され、原土中のTPH濃度が大幅に減少した。中でも、ガソリンおよび残油の濃度が大幅に減少していた。残油は、オゾンを注入することで分解されたものと考えられる。
特に、土壌スラリーにオゾンガスを注入した実施例2−1−A、2−2−Aは、より効果的にTPH濃度を減少できた。中でも、オゾンの注入時間が48時間であった実施例2−2−Aは、TPH濃度の減少が顕著であった。これは、土壌をスラリー状にすることで、オゾンガスとの接触がより効率的に行われたためと考えられる。
なお、表2、3および図4から明らかなように、オゾン溶液を注入した実施例1−1−A、1−2−Aでは、一般細菌数が約2〜4倍増加した。一方、スラリーにオゾンガスを注入した実施例2−1−A、2−2−Aでは一般細菌数が約1/6程度に減少した。これはオゾンガスによって微生物の活性が低下したことによるものと考えられる。
【0053】
[空気供給試験]
<実施例1−1−B>
実施例1−1−Aで行ったオゾン注入試験後のサンプルを乾燥させたものを100g採取し、図3に示す試験機を用いて空気供給試験を行った。
図3に示す試験機60は、サンプルを充填するカラム61と、カラム61にエアを供給するブロワ62と、地下水を貯蔵する地下水タンク63と、地下水タンク63からカラム61に地下水を供給する供給ポンプ64と、地下水を地下水タンク63とカラム61との間で循環させる循環ライン65とを具備している。
カラム61としては容積350mLのカラムを用い、カラム内部を支持層61aにより上側と下側に仕切り、カラムの上側に採取したサンプルS’を充填した。また、循環ラインをカラムの上側と下側に接続した。支持層61aとしては、土壌を支持でき、かつ地下水を透過できるものであれば特に制限されないが、本試験ではメッシュ網(目開き:2mm)を用いた。
ブロワ62としては、エア供給用ブロワ(大晃機械工業株式会社、「SLL−20」、吐出量:20L/分)を用いた。
地下水タンク63には、各試験で使用した土壌を掘り出した地区の地下水を貯蔵した。
【0054】
試験機60を用い、以下のようにして空気供給試験を行った。
サンプルS’に、空気をブロワ62から空気供給量2.0〜4.0mg/Lの条件で30日間供給した。
空気の供給と同時に、地下水タンク63から地下水を、通水量130mL/分の条件でカラム61に供給した。供給された地下水は、支持層61aを透過してサンプルS’に浸透し、サンプルS’から染み出した。染み出た地下水を循環ライン65によって地下水タンク63に返送し、地下水タンク63とカラム61との間で地下水を循環させた。カラムに地下水を供給することで、カラムに充填されたサンプルS’の状態を、土壌を掘り出した現場に近い状態に再現した。
【0055】
空気供給試験開始から10日目および20日目に、空気および地下水の供給を一旦停止し、カラム61内の地下水を抜き出した。そして、乾燥後の質量が5gになるようにサンプルを採取し、水分を手動で絞った後、微生物量を測定した。この測定方法は、先に説明した(1)微生物量の測定と同様である。結果を表4、および図4に示す。
【0056】
空気供給試験後(供給開始から30日目)のサンプルの水分を手動で絞った後、所定量を採取し、微生物量およびTPH濃度を測定した。これらの測定方法は、先に説明した(1)微生物量の測定、および(2)TPH濃度の測定と同様である。結果を表4、および図4、5に示す。
【0057】
<実施例1−2−B>
実施例1−2−Aで行ったオゾン注入試験後のサンプルを乾燥させたものを100g採取して用いた以外は、実施例1−1−Bと同様にして空気供給試験を行い、微生物量およびTPH濃度を測定した。結果を表4、および図4、5に示す。
【0058】
<実施例2−1−B>
実施例2−1−Aで行ったオゾン注入試験後の土壌スラリーを乾燥させたものを100g採取して用いた以外は、実施例1−1−Bと同様にして空気供給試験を行い、微生物量およびTPH濃度を測定した。結果を表4、および図4、5に示す。
【0059】
<実施例2−2−B>
実施例2−2−Aで行ったオゾン注入試験後の土壌スラリーを乾燥させたものを100g採取して用いた以外は、実施例1−1−Bと同様にして空気供給試験を行い、微生物量を測定した。結果を表4、および図4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4および図4から明らかなように、原土中の一般細菌数はオゾン注入試験後に空気を供給することで増加した。これは、空気の供給によって微生物が活性化されると共に、オゾン注入試験により分解されたTPHを栄養源とすることで、一般細菌数が増加したものと考えられる。特に、空気の供給を20日間以上行うことで、一般細菌数が回復するだけでなく大幅に増加しており、TPHを栄養源とする微生物が増加したものと考えられる。
この微生物の増加に伴い、実施例1−1−B、1−2−B、2−1−Bでは、オゾン注入試験後と比べてガソリンおよび軽油の濃度が大幅に減少した。これは、微生物が増加すると共に活性化されたため、ガソリンおよび軽油の分解が促進されたものと考えられる。なお、残油に関しては、オゾン注入試験後と比べても変化が少なかった。これらの結果より、微生物では残油を分解しにくいことが示された。
【符号の説明】
【0062】
1:浄化システム、10:井戸、20:供給手段、21:ブロワ、22:供給管、30:注入手段、31:オゾン溶液製造装置、32:注入管、40:配管、50:試験機、51:カラム、51a:支持層、52:オゾン溶液タンク、53:供給ポンプ、54:供給管、55:オーバーフロー管、60:試験機、61:カラム、61a:支持層、62:ブロワ、63:地下水タンク、64:供給ポンプ、65:循環ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残油を含む油で汚染された土壌を浄化する方法であって、
微生物用栄養剤を土壌に注入することなく微生物によって土壌を浄化する工程と、
オゾンを土壌に注入し、オゾン酸化によって土壌を浄化する工程とを有することを特徴とする油汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
微生物による浄化が、土壌への空気の供給によりなされることを特徴とする請求項1に記載の油汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記オゾンが、オゾン濃度1〜200ppmのオゾンガスであり、オゾンガスを5時間〜10日間連続注入した後、1〜50日間注入を停止する操作を繰り返し行い、オゾンガスを間欠的に注入することを特徴とする請求項1または2に記載の油汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
前記オゾンが、溶存オゾン濃度0.1〜10mg/Lのオゾン溶液であり、オゾン溶液を5時間〜10日間連続注入した後、1〜50日間注入を停止する操作を繰り返し行い、オゾン溶液を間欠的に注入することを特徴とする請求項1または2に記載の油汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
前記オゾンの注入と、空気の供給を交互に行うことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の油汚染土壌の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−245395(P2011−245395A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119426(P2010−119426)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000231198)日本国土開発株式会社 (51)
【Fターム(参考)】