説明

油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具及び油浸紙コンデンサブッシング

【課題】コンデンサコアの巻き付けを終了した中心導体を垂直とした場合にも、層間のずれ落ちを簡単かつ確実に防止することができる油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具及び油浸紙コンデンサブッシングを提供する。
【解決手段】コンデンサコア2の下端部を多段状に形成し、コンデンサコア2の段部下面を受ける複数のリング状部材3と、これらのリング状部材3の間に配置された柱状部材4とからなる層間ずれ防止具を装着する。これにより、中心導体1を垂直に吊り上げても層間のずれ落ちが生じない。この層間ずれ防止具はプレスボードからなり、絶縁油を含浸させた後、そのままブッシング内部に組み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具及び油浸紙コンデンサブッシングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧電力線の絶縁支持に用いられる油浸紙コンデンサブッシングは、中心導体の周囲に電界緩和用のコンデンサコアを形成したものであり、そのコンデンサコアは特許文献1に記載されているように、絶縁層である油浸紙と、電極層である金属箔とを交互に数十層積層した構造である。
【0003】
製造時には水平に設置した中心導体の外周に油浸紙と金属箔とを交互に巻き付けて行くが、電気特性に悪影響を与えるおそれのある接着剤の使用は最小限にとどめる必要があるため、各層間は簡易的な接着が行なわれるのみで、強固に接着されている訳ではない。このため、コンデンサコアの巻き付けを終了した中心導体を垂直に引き起こして吊り上げ、ブッシングの組立を行なう工程において、油浸紙コンデンサコアの層間が重力により下方にずれる危険があった。
【0004】
なお比較的小型のブッシングでは油浸紙コンデンサコアは小型軽量であるから、垂直に引き起こして吊り上げた状態においても、コア巻き付け時の簡易的な接着と絶縁紙どうしの摩擦力とによって、層間のずれ落ちが生ずることはない。しかし500kV以上の大型ブッシングでは油浸紙コンデンサコア自体も300kgを超える重量物となるので、ずれ落ちの危険が生ずる。
【0005】
もしこのような油浸紙コンデンサコアの層間ずれが発生すると、設計通りの電界緩和能力を発揮させることができなくなる。また組立作業中に重量物が落下することにより作業の安全性が損なわれる可能性も想定される。しかし500kV以上の大型ブッシングは製作数も少ないこともあり、この問題に着目した先行技術文献は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−107895号公報(段落0014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、コンデンサコアの巻き付けを終了した中心導体を垂直とした場合にも、層間のずれ落ちを簡単かつ確実に防止することができる油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具及び油浸紙コンデンサブッシングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具は、段状に形成されたコンデンサコアの段部下面を受ける複数のリング状部材と、これらのリング状部材の間に配置された柱状部材とからなり、これらの部材を絶縁材料により構成したことを特徴とするものである。
【0009】
なお、前記絶縁材料の比誘電率が、コンデンサコアを形成する油浸紙の比誘電率の0.8〜1.3倍の範囲にあることが好ましい。また前記絶縁材料が、プレスボードに油を含浸させたものであることが好ましい。また柱状部材の上下端部に穴または溝を加工を施した構造とすることが好ましい。
【0010】
また本発明の油浸紙コンデンサブッシングは、コンデンサコアの下端部を多段状に形成し、前記の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を装着したことを特徴とするものである。なお、油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を、コンデンサコアの下端部のうち、径が小さい側の部分に装着することができる。
【0011】
さらに本発明の油浸紙コンデンサブッシングの製造方法は、中心導体の外周にコンデンサコアを形成し、その段部下面に乾燥状態のまま請求項1記載の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を装着し、その後に真空乾燥含浸法により、油浸紙コンデンサコアと油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具とに同時に油を含浸させ、油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を装着したまま碍管の内部に取付けることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、段状に形成されたコンデンサコアの複数の段部下面を、絶縁材料により構成した複数のリング状部材と、これらのリング状部材の間に配置された柱状部材とによって支えるため、コンデンサコアの巻き付けを終了した中心導体を垂直に吊り上げても、コンデンサコアの層間がずれることはない。なお、油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具の最下端部は中心導体に固定された円盤により支えられる。また油浸紙コンデンサコアは絶縁油を含浸させる前の乾燥工程において収縮するが、本発明の層間ずれ防止具は多数のパーツにより構成されているので、収縮に合せて容易に組み替えることができる。
【0013】
請求項2のように、絶縁材料の比誘電率がコンデンサコアを形成する油浸紙の比誘電率の0.8〜1.3倍の範囲にあるようにしておけば、コンデンサコアにより制御される電界に大きな乱れが生ずることはない。
【0014】
請求項3のように、絶縁材料としてプレスボードに油を含浸させたものを用いれば、油浸紙と同程度の絶縁強度を有するうえに、コンデンサコアにより制御される電界中で電気的に悪影響を及ぼすことがない。
【0015】
請求項4のように、柱状部材の上下端部に穴または溝を加工を施した構造としておけば、油の含浸後においてもこれらの穴または溝に通した綿テープ等をほどいて組み替える作業を容易に行なうことができる。
【0016】
また本発明の油浸紙コンデンサブッシングは、コンデンサコアの下端部を多段状に形成し、前記の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を装着したものであるから、コンデンサコアの段部下面を確実に支えることができ、層間ずれを防止することができる。
【0017】
請求項6のように、層間ずれ防止具をコンデンサコアの下端部のうち、径が小さい側の部分のみに装着した構造とすれば、装着や組み換えの作業性が向上する。なお、径の大きい部分は長さが短く、軽量であるから層間ずれが生ずる可能性は小さい。
【0018】
さらに本発明の油浸紙コンデンサブッシングの製造方法によれば、油含浸タンクの内部で層間ずれ防止具の装着作業を行なう必要がなく、組立作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】コンデンサコアを示す模式的な断面図である。
【図2】層間ずれ防止具が装着されたコンデンサコアを示す模式的な断面図である。
【図3】層間ずれ防止具のみを示す斜視図である。
【図4】テープで縛った状態を示す水平断面図である。
【図5】ブッシングの下部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は中心導体1の周囲にコンデンサコア2を巻きつけた状態を示す模式的な断面図である。前述したようにコンデンサコア2は油浸紙と金属箔(アルミニウム箔)とを交互に積層して数十層のコンデンサを形成し、電界を緩和するためのものである。その下端はなだらかなテーパ状とするのが一般的であるが、本発明ではコンデンサコア2の下端を図1に示すように多段状に形成してある。コンデンサコア2の巻き付けは、従来と同様に中心導体1を水平に設置した状態で行なわれる。この段階ではコンデンサコア2は乾燥状態にある。
【0021】
次に、図2に示すようにコンデンサコア2の下端部に本発明の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を装着する。これは図3以下に示すように複数のリング状部材3と、これらのリング状部材3の間に配置された柱状部材4とからなるもので、これらの部材は何れも絶縁材料により構成されている。リング状部材3はコンデンサコア2の段状に形成された下端部、すなわち段部下面に密着される部材であり、コンデンサコア2の下端部の外径に合せてサイズの異なる複数枚が用いられる。なお、リング状部材3はコンデンサコア2の下端部の全ての段部下面に装着する必要はなく、比較的径が小さい側の部分のみに装着すればよい。径の大きい部分は軽量でずれ落ちのおそれがないためであり、このように装着部位を限定することにより作業性を向上させることができるとともに、コストダウンを図ることができる。
【0022】
柱状部材4は隣接する上下のリング状部材3、3間に配置され、荷重を支える部材である。この実施形態では4本の柱状部材4が90°間隔で配置されているが、3本あるいは5本以上であっても差し支えない。柱状部材4の上下端部には穴5が形成されており、図5に示すように紐またはテープ6をこれらの穴5に通して全体をコンデンサコア2の外周に固定できるようになっている。なお穴5の代わりに端部に溝を加工してもよい。このように多数のパーツを組み立てる構成を採用することにより、組み換えを容易に行なうことができ、例えば真空加熱乾燥によるコンデンサコア2の収縮に対応して容易に組み換えることができる。
【0023】
これらのリング状部材3及び柱状部材4は、そのままブッシングの内部に組み込まれるものであるから、ブッシングの電気的特性に悪影響を及ぼさない材質であることが必要であり、水分を含有しない絶縁体であることはもちろん、金属異物の混入や、ケバ立ち、ほつれ、割れ、ひびなどの電界集中を招く部分のない材質であることが求められる。とりわけ金属異物が混入すると閃絡する危険性が高まるので、メーカーでの出荷時にX線検査を施す等の予防措置を講ずる。また、圧縮率が小さく、圧縮強度、曲げ強度、剪断強度が高いことが求められる。圧縮強度については、上下移動時の慣性力2Gを考慮したうえで5倍の尤度をみて、コンデンサコアによる圧力の10倍以上の圧縮強度を持つ素材を採用している。さらに少なくとも30年の使用寿命を持つことが求められる。
【0024】
この実施形態では上記の各特性を満足する材料として、高純度のパルプを加圧積層したプレスボード(JIS_C2305で規定された2種(PB2))を用いている。このプレスボードは変圧器にも使用されている絶縁物であり、絶縁油中で永年にわたり使用しても変化しない実績のある材料である。しかも強度が大きく荷重を支持することができるうえ、現場において必要なサイズに切断することができる。なお、水分による絶縁油への影響を防止するため、油を含浸させる前に真空加熱乾燥を行い、水分を除去しておくことが好ましい。
【0025】
リング状部材3及び柱状部材4に用いられる絶縁材料の比誘電率は、コンデンサコア2を形成する油浸紙の比誘電率の0.8〜1.3倍の範囲にあることが好ましい。このように比誘電率の近い材料を用いることにより、コンデンサコア2に制御される電界に大きな乱れを生ずることがない。絶縁油を含浸させたプレスボードは油浸紙と同程度の絶縁強度を有する。
【0026】
上記したリング状部材3と柱状部材4は、中心導体1を水平状態としたままコンデンサコア2の下端部に乾燥状態で装着される。図2に示すように、層間ずれ防止具の最下端部は中心導体1にネジ込み固定されるリング状冶具7に密着させ、荷重を受けられるようにしておく。なお、柱状部材4を連結するための紐またはテープ6の材質も絶縁性で電界集中を招くおそれのないものとする必要があり、この実施形態では純綿のテープを使用している。
【0027】
次にその全体をクレーン等によって吊り上げ、真空加熱乾燥装置に移送する。このように垂直に吊り上げてもコンデンサコア2の段部下面はリング状冶具7によって支持されているため、ずれ落ちることはない。真空加熱乾燥によりコンデンサコア2及び層間ずれ防止具中の水分が十分に抜き取られたのち、コンデンサコア2及び層間ずれ防止具に絶縁油が含浸される。
【0028】
絶縁油の含浸終了後、リング状冶具7を中心導体1から取り外し、リング状部材3の枚数を増減したうえで最下部金具9を取付けてリング状部材3がずれないように調整する。このとき、リング状冶具7を厚さ方向に裂いて厚さを調整することができる。図5に示すように最下部金具9には止まりねじ10が切ってあり、中心導体1の下端部をねじ止めする。この状態で、コンデンサコア2を備えた中心導体1と碍管8との組みつけが行なわれる。この作業時にも中心導体1が垂直に吊り上げられるが、ずれ落ちのおそれはない。その後、ブッシング内部に絶縁油が注入される。
【0029】
なお、コンデンサコア2の全体が油中に浸漬された状態では浮力が生ずるため、仮に層間ずれ防止具がなくてもその後はコンデンサコア2がずれ落ちることはないが、油中で層間ずれ防止具を取り外す工数を省略するため、層間ずれ防止具を装着したままで完成品となる。
【0030】
以上に説明したように、本発明によればコンデンサコア2の巻き付けを終了した中心導体1を垂直として移動させたり、組み付けたりする場合にも、コンデンサコア2の層間のずれ落ちを簡単かつ確実に防止することができるので、設計通りの電界緩和能力を発揮させることができ、また組立作業中に重量物が落下する危険もなくすることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 中心導体
2 コンデンサコア
3 リング状部材
4 柱状部材
5 穴
6 紐またはテープ
7 リング状冶具
8 碍管
9 最下部金具
10 止まりねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
段状に形成されたコンデンサコアの段部下面を受ける複数のリング状部材と、これらのリング状部材の間に配置された柱状部材とからなり、これらの部材を絶縁材料により構成したことを特徴とする油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具。
【請求項2】
前記絶縁材料の比誘電率が、コンデンサコアを形成する油浸紙の比誘電率の0.8〜1.3倍の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具。
【請求項3】
前記絶縁材料が、プレスボードに油を含浸させたものであることを特徴とする請求項2記載の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具。
【請求項4】
柱状部材の上下端部に穴または溝を加工を施したことを特徴とする請求項1記載の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具。
【請求項5】
コンデンサコアの下端部を多段状に形成し、請求項1に記載の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を装着したことを特徴とする油浸紙コンデンサブッシング。
【請求項6】
油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を、コンデンサコアの下端部のうち、径が小さい側の部分に装着したことを特徴とする請求項5に記載の油浸紙コンデンサブッシング。
【請求項7】
中心導体の外周にコンデンサコアを形成し、その段部下面に乾燥状態のまま請求項1記載の油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を装着し、その後に真空乾燥含浸法により、油浸紙コンデンサコアと油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具とに同時に油を含浸させ、油浸紙コンデンサコア用層間ずれ防止具を装着したまま碍管の内部に取付けることを特徴とする油浸紙コンデンサブッシングの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−204032(P2012−204032A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65299(P2011−65299)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】