説明

油脂の製造方法

【課題】本発明は、2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)に富んだ油脂の、より効率的で工業化に適した分別製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】全トリグリセリド中に2つの飽和脂肪酸残基と1つの不飽和脂肪酸残基からなる2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)を20〜60質量%含有する油脂を、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルを10〜100質量%含有する脂肪酸低級アルキルエステル1〜50質量%の存在下で分別し、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの飽和脂肪酸残基と1つの不飽和脂肪酸残基からなるトリグリセリド(X2U型トリグリセリド)に富んだ油脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カカオ脂をはじめとするハードバターは、チョコレートを主とした製菓、製パンなどの食品および医薬品、化粧品などに広く用いられている。これらのハードバターは、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)、2位にオレオイル基を有しパルミトイル基とステアロイル基を各1基づつ有するトリグリセリド(POS)及び1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセリン(SOS)などの分子内に1つの不飽和結合を有する対称型の2飽和1不飽和型トリグリセリド類を主成分としている。これらは、チョコレート用としてはテンパー型油脂として知られているものである。又、チョコレートの硬度調整剤として優れる1,3−ジステアロイル−2−リノロイルグリセリン(SLS)などの分子内に2つの不飽和結合を有する対称型の2飽和1不飽和トリグリセリド類も知られている。
【0003】
一般的に、このようなトリグリセリドは、この成分を含む天然の油脂、例えばパーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂などの油脂またはその分画油として得ることができる。又、パーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂などの油脂の分画油としてではなくて、特定の油脂に1,3選択性リパーゼを作用させ、エステル交換反応を利用して製造する方法が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
また、1,2−ジパルミトイル−3−オレオイルグリセリン(PPO)や、1,2−ジステアロイル−3−オレオイルグリセリン(SSO)といった、非対称型の2飽和1不飽和トリグリセリド類もノーテンパー型油脂の原材料として製菓、製パン等の用途に適していることが知られている。このようなトリグリセリドについても、天然油脂の分画の他、特定の油脂に1,3選択性リパーゼを作用させ、エステル交換反応を利用して製造する方法が提案されている(特許文献4〜5)
【0005】
上記いずれの方法も最終製品を得るのに分画操作を行なっているが、品質を向上させるためには溶剤分別が必要であったり、複雑な工程管理が必要であったりと、生産効率の面で、なお満足のゆくものではなく、2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)に富んだ油脂のより効率的で、より工業化に適した製造方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−71797号公報
【特許文献2】特開昭62−155048号公報
【特許文献3】WO2005/63952号公報
【特許文献4】特開昭61−224934号公報
【特許文献5】特開平10−25491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド、又は、X2U型TG)に富んだ油脂の、より効率的で工業化に適した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)を特定量含有する油脂を、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルを含有する脂肪酸低級アルキルエステルの存在下で分別することにより、上記課題を解決できるという知見に基づきなされたものである。
すなわち、本発明第1の発明は、全トリグリセリド中に2つの飽和脂肪酸残基と1つの不飽和脂肪酸残基からなる2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)を20〜60質量%含有する油脂を、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルを10〜100質量%含有する脂肪酸低級アルキルエステル1〜50質量%の存在下で分別することを特徴とするX2U型トリグリセリドに富んだ油脂の製造方法である。
本発明第2の発明は、第1の発明における脂肪酸低級アルキルエステルが不飽和脂肪酸低級アルキルエステルを30〜100質量%含有する脂肪酸低級アルキルエステルである油脂の製造方法である。
本発明第3の発明は、第1〜第2の発明において、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂が、油脂と脂肪酸低級アルキルエステルとの混合物を、1,3選択性リパーゼによりエステル交換した後、蒸留により脂肪酸低級アルキルエステルを50質量%以下に低減させた蒸留残渣由来である、油脂の製造方法である。
本発明第4の発明は、第1〜第3の発明における油脂の製造方法により製造されたX2U型トリグリセリドに富んだ油脂を含む食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)に富んだ油脂を製造するにあたり、揮発性が高く取り扱いが困難な有機溶剤を使用しなくても、エステル交換の原料に使用する脂肪酸低級アルキルエステルを使用することによって、より安全かつ効率的で工業化に適した製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)に富んだ油脂の製造方法ついて詳述する。
本発明でいう2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)は、製造目的とされるトリグリセリドによって、対称型(XUX型)であっても非対称型(XXU型またはUXX型)であっても、また、それらの混合型であっても構わない。
X2U型トリグリセリドを構成する脂肪酸残基については、食品産業上有用であるという面で、飽和脂肪酸残基Xは、炭素数が12〜26であることが好ましく、16〜22であることがより好ましい。特に、パルミトイル基、ステアロイル基、ベヘノイル基であることが好ましい。また、不飽和脂肪酸残基Uは、炭素数が16〜26であることが好ましく、16〜22であることがより好ましい。不飽和脂肪酸の不飽和度は1〜6であることが好ましく、1〜3であることがより好ましい。不飽和脂肪酸残基としては、特に、オレイル基、リノロイル基、リノレイル基であることが好ましい。
本発明の製造方法においては、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂を分別原料に使用する必要がある。分別効率及び経済性を考慮すると、全トリグリセリド中のX2U型トリグリセリドは、30〜60質量%であることがより好ましく、40〜60質量%であることが最も好ましい。
【0011】
本発明の製造方法の分別原料に使用する、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂としては、トリグリセリド含量が85質量%以上である油脂が好ましく、90質量%以上である油脂がより好ましく、94質量%以上である油脂が最も好ましい。例えば、パーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂等を分別した油脂が使用できる。特には、油脂と脂肪酸低級アルキルエステルとの混合物に、1,3選択性リパーゼを作用させてエステル交換反応を行い、次いで蒸留により脂肪酸低級アルキルエステルの一部又は全部を蒸留した蒸留残渣由来であることが、製造効率上好ましい。
なお、本発明で油脂とは、脂肪酸低級アルキルエステルとの混合物の場合、脂肪酸低級アルキルエステルを除いた部分とする。従って、上述のようなエステル交換後の蒸留残渣を使用する場合、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂は、該蒸留残渣中に残留した脂肪酸低級アルキルエステルを除いた部分が該当油脂となる。
【0012】
本発明の製造方法においては、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂は、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルを10〜100質量%含有する脂肪酸低級アルキルエステル1〜50質量%の存在下において、冷却結晶化工程を経て分別される。
すなわち、本発明の製造方法においては、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルの含量が10〜100質量%である脂肪酸低級アルキルエステル1〜50質量%を含有し、脂肪酸低級アルキルエステルを除く油脂部分の全トリグリセリド中のX2U型トリグリセリド含量が20〜60質量%である分別原料を、冷却結晶化工程を経て分別し、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂を得る。分別は、脂肪酸低級アルキルエステル1〜30質量%の存在下で行なわれるのが好ましく。4〜25質量%の存在下で行なわれることがより好ましく、7〜23質量%の存在下で行なわれることが最も好ましい。脂肪酸低級アルキルエステルが上記範囲であると、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂が効率よく得られるので好ましい。
【0013】
分別原料に使用される不飽和脂肪酸低級アルキルエステルは特に限定されるものではないが、炭素数16から22の不飽和脂肪酸(好ましくは、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)の低級アルコールエステルが好ましく、特に、不飽和脂肪酸と炭素数1〜6のアルコールとのエステルが好ましい。特に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、このなかでも食用油脂の加工ということからエタノールが好ましい
不飽和脂肪酸低級アルキルエステル以外の任意成分である飽和脂肪酸低級アルキルエステルは特に限定されるものではないが、炭素数16から22の飽和脂肪酸(好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸)の低級アルコールエステルが好ましく、特に、飽和脂肪酸と炭素数1〜6のアルコールとのエステルが好ましい。特に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、このなかでも食用油脂の加工ということからエタノールが好ましい。
脂肪酸低級アルキルエステル中の不飽和脂肪酸低級アルキルエステルは10〜100質量%であり、20〜100質量%であることが好ましく、30〜100質量%であることがより好ましい。脂肪酸低級アルキルエステル中の不飽和脂肪酸低級アルキルエステルの含量が上記範囲にあると、分別における晶析温度を低く設定できるので、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂が効率よく得られ好ましい。
【0014】
本発明の製造方法においてX2U型トリグリセリドに富んだ油脂は、最終的には、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂を、脂肪酸低級アルキルエステル存在下において、冷却結晶化工程を経て分別したステアリン部(固体脂部)に得ることができる。
【0015】
本発明の製造方法において用いる、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂の好ましい態様としては、例えば、2位にオレオイル基を50質量%以上有する油脂を脂肪酸低級アルキルエステル(遊離脂肪酸が0.01〜10質量%含まれていても良い)とエステル交換反応を行い、次いで蒸留して得られた蒸留残渣(X2U型トリグリセリド中XOX型トリグリセリドを50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有する。O:オレイン酸)であってもよい。XOX型トリグリセリドにおける飽和脂肪酸残基としては、炭素数16から22の飽和脂肪酸残基であるのが好ましく、さらにステアロイル基、パルミトイル基、ベヘノイル基であるのが好ましい。より具体的には、トリオレオイルグリセリン、シア脂低融点部分(例えば、ヨウ素価70〜80)、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックローリノレン菜種油、ハイオレイック紅花油、パーム油、パーム分画油などの原料油脂に、脂肪酸低級アルキルエステルを加え、1,3選択性リパーゼ、例えば、リゾプス系リパーゼ、アスペルギルス系リパーゼ、ムコール系リパーゼ、パンクレアチックリパーゼ、米ヌカリパーゼなどを作用させて、エステル交換反応を行い、次いで蒸留し、未反応原料や副生するオレイン酸などの脂肪酸やその低級アルキルエステルを一部又は全部除いた蒸留残渣に得ることができる。
ここで用いる脂肪酸低級アルキルエステルとしては、炭素数16から22の飽和脂肪酸(好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸)の低級アルコールエステルが好ましく、特に、炭素数1〜6のアルコールとのエステルが好ましい。特に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、このなかでも食用油脂の加工ということからエタノールが好ましい。
2位にオレオイル基を50質量%以上有する油脂対脂肪酸低級アルキルエステルの使用比率(モル比)は、1/2以下であるのが好ましく、特に、1/2〜1/30であるのが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法において用いる、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂の好ましい態様の例としては、また、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を、2位にリノロイル基を有するトリグリセリド(XLX型トリグリセリド、L:リノール酸)をX2U型トリグリセリド中50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有する油脂であってもよい。XLX型トリグリセリドにおける飽和脂肪酸残基としては、炭素数16から22の飽和脂肪酸残基であるのが好ましく、さらにステアロイル基、パルミトイル基、ベヘノイル基であるのが好ましい。
XLX型トリグリセリドを含有する油脂は、2位にリノロイル基を50質量%以上有する油脂、具体的には、トリリノロイルグリセリン、ハイリノールヒマワリ油、ハイリノールサフラワー油などを原料油脂に、XOX型トリグリセリドと同様に、炭素数16から22の飽和脂肪酸低級アルキルエステル(遊離脂肪酸が0.01〜10質量%含まれていても良い)を加え、1,3選択性リパーゼを作用させて、エステル交換反応を行い、次いで脂肪酸低級アルキルエステルの一部又は全部を蒸留した蒸留残渣に得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法において用いる、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂の好ましい態様の例としては、また、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を、2位にリノレイル基を有するトリグリセリド(XLnX型トリグリセリド、Ln:リノレン酸)をX2U型トリグリセリド中50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有する油脂であってもよい。XLnX型トリグリセリドにおける飽和脂肪酸残基としては、炭素数16から22の飽和脂肪酸残基であるのが好ましく、さらにステアロイル基、パルミトイル基、ベヘノイル基であるのが好ましい。
XLnX型トリグリセリドを含有する油脂は、2位にリノレイル基を50質量%以上有する油脂、具体的には、トリリノレイルグリセリン、アマニ油、シソ油、エゴマ油などを原料油脂に、XOX型トリグリセリドと同様に、炭素数16から22の飽和脂肪酸低級アルキルエステル(遊離脂肪酸が0.01〜10質量%含まれていても良い)を加え、1,3選択性リパーゼを作用させて、エステル交換反応を行い、次いで脂肪酸低級アルキルエステルの一部又は全部を蒸留した蒸留残渣に得ることができる
【0018】
本発明の製造方法において用いる、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂のさらに別の好ましい態様としては、1位及び2位または2位及び3位に飽和脂肪酸残基を、3位または1位に不飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリド(XXU型及び/又はUXX型トリグリセリド)をX2U型トリグリセリド中50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有する油脂であってもよい。XXU型及び/又はUXX型トリグリセリドにおける飽和脂肪酸残基としては、炭素数16から22の飽和脂肪酸残基であるのが好ましく、さらにステアロイル基、パルミトイル基、ベヘノイル基であるのが好ましい。XXU型及び/又はUXX型トリグリセリドにおける不飽和脂肪酸残基としては、炭素数16から22の不飽和脂肪酸残基であるのが好ましく、さらにオレイル基、リノロイル基、リノレイル基であるのが好ましい。
XXU型及び/又はUXX型トリグリセリドを含有する油脂は、より具体的には、炭素数16以上の脂肪酸が80質量%以上である動植物油脂の極度硬化油に、オレイン酸低級アルキルエステル、リノール酸低級アルキルエステル及びリノレン酸低級アルキルエステルの中から選択される1種又は2種以上の脂肪酸低級アルキルエステル(遊離脂肪酸が0.01〜10質量%含まれていても良い)を加え、XUX型トリグリセリドの調製と同様に、1,3選択性リパーゼを作用させて、エステル交換反応を行い、次いで脂肪酸低級アルキルエステルの一部又は全部を蒸留した蒸留残渣に得ることができる
【0019】
1,3選択性リパーゼとしては、リゾプス属のリゾプス デレマー(Rhizopus delemar)及びリゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)が好ましい。
これらのリパーゼとしては、ロビン社の商品:ピカンターゼR8000や、天野エンザイム社の商品:リパーゼF−AP15等が挙げられるが、最も適したリパーゼとしては Rhizopus oryzae由来、天野エンザイム社の商品:リパーゼDF(Amano)15−K(リパーゼDともいう)が挙げられる。このものは粉末リパーゼである。なお、このリパーゼDF(Amano)15−Kについては従来はRhizopus delemar由来の表記であった。
ここで、使用するリパーゼとしては、リパーゼの培地成分等を含有したリパーゼ含有水溶液を乾燥して得られたものでもよい。粉末リパーゼとしては、球状で、水分含量が10質量%以下であるものを用いるのが好ましい。特に、リパーゼ粉末の90質量%以上が粒径1〜100μmであるのが好ましい。又、粉末リパーゼはpHが6〜7.5に調整されてなるリパーゼ含有水溶液を噴霧乾燥して製造されるものが好ましい。
上記リパーゼを大豆粉末を用いて造粒し、粉末化した造粒粉末リパーゼ(粉末リパーゼともいう)を用いるのも好ましい。
また、市販の固定化リパーゼも好適に使用できる。例えば、ノボザイムズ社製の商品名Lipozyme RM IM、Lipozyme TL IM等が挙げられる。
【0020】
エステル交換反応においては、油脂と脂肪酸低級アルキルエステル(遊離脂肪酸が0.01〜10質量%含まれていても良い)とを含有する原料に、上記リパーゼを添加して、常法でエステル交換反応を行うことができる。この場合、原料100質量部当り、リパーゼを0.01〜10質量部(好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部)添加し、35〜100℃の温度(好ましくは35〜80℃、より好ましくは40〜60℃)で、0.1〜50時間(好ましくは0.5〜30時間、より好ましくは1〜20時間)エステル交換反応を行うのが好ましい。反応はバッチ式で行うのが好ましい。反応温度は反応基質である油脂が溶解する温度で酵素活性を有する温度であれば何度でもかまわない。最適な反応時間は、酵素添加量、反応温度などにより変化するので、適宜調整すれば良い。
エステル交換反応後、蒸留して、未反応原料や副生する脂肪酸や、脂肪酸低級アルキルエステルを50質量%以下になるまで除いて、本発明で分別原料に用いるX2U型トリグリセリドを全トリグリセリド中に20〜60質量%、好ましくは30〜60質量%含有する油脂を得る。
【0021】
本発明では、エステル交換反応を行なう際に脂肪酸低級アルキルエステルをエステル交換の原料中に50質量%を超える量で使用し、蒸留を調整することにより、X2U型トリグリセリドを全トリグリセリド中に20〜60質量%含有する油脂を含む蒸留残渣に脂肪酸低級アルキルエステルを残存させることにより、また更には別途に脂肪酸低級アルキルエステルを添加する等により、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルの含量が10〜100質量%である脂肪酸低級アルキルエステルが1〜50質量%(好ましくは1〜30質量%、より好ましくは4〜25質量%、最も好ましくは7〜23質量%)となる様に調整するか、または、蒸留により未反応原料(脂肪酸低級アルキルエステルを含む)や副生する脂肪酸やその低級アルキルエステルをできるだけ除き、ここに新たに不飽和脂肪酸低級アルキルエステルの含量が10〜100質量%である脂肪酸低級アルキルエステルを、X2U型トリグリセリドを全トリグリセリド中に20〜60質量%含有する油脂に、1〜50質量%(好ましくは1〜30質量%、より好ましくは4〜25質量%、最も好ましくは7〜23質量%)となるように添加してもよい。
ここで新たに添加する脂肪酸低級アルキルエステルは特に限定されるものではないが、炭素数16から22の脂肪酸の低級アルコールエステルが好ましく、特に、不飽和飽和脂肪酸と炭素数1〜6のアルコールとのエステルが好ましい。特に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、このなかでも食用油脂の加工ということからエタノールが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法においては、遊離脂肪酸が分別原料中に0.01〜5質量%存在していても良い。遊離脂肪酸は0.01〜3質量%であることが更に好ましく、0.01〜1質量%であることが最も好ましい。遊離脂肪酸が上記範囲であると、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂が効率よく得られるので好ましい。
本発明の製造方法においては、また、脂肪酸低級アルキルエステルと遊離脂肪酸とは、質量ベースで、脂肪酸低級アルキルエステル/遊離脂肪酸≧10であることが好ましく、脂肪酸低級アルキルエステル/遊離脂肪酸≧20であることがより好ましい。脂肪酸低級アルキルエステル/遊離脂肪酸が上記範囲であると、X2U型トリグリセリド含量に富んだ油脂が効率よく得られるので好ましい。
【0023】
本発明では、このようにして調製した、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルの含量が10〜100質量%である脂肪酸低級アルキルエステル1〜50質量%を含有し、脂肪酸低級アルキルエステルを除く油脂部分の全トリグリセリド中のX2U型トリグリセリド含量が20〜60質量%である分別原料を、全体が均一に溶ける温度(例えば、50℃以上、好ましくは50〜70℃)に加熱して溶解させ、溶解後直ちに又は所定の時間(例えば、0.5〜2時間)その温度に保持した後、室温以下(例えば、25℃以下、好ましくは、15〜25℃、更に好ましくは15〜22℃、最も好ましくは15〜19℃)に冷却して、X2U型トリグリセリドに富んだ固形分を晶析させ、これを固液分離することにより、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂を製造するのが好ましい。また、X2U型トリグリセリドに富んだ固形部を晶析するために室温以下に冷却する前に、所定の温度(例えば26〜35℃、好ましくは26〜28℃)に所定の時間(例えば0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間)保持することが好ましい。
尚、X2O型トリグリセリドの場合は上記条件で、X2L型トリグリセリドまたはX2Ln型トリグリセリドについては、冷却温度を20℃以下、好ましくは、5〜15℃とするのがよい。
上記加熱溶解から冷却工程においては、攪拌及び/又は静置して行うことができる。
【0024】
上記の方法によると、特に、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂の晶析時間を短縮でき、晶析して得られた固形分の安定性および収率が向上するとともに、非常にろ過性の良い結晶が得られるのでX2U型トリグリセリドの含量が向上するとの利点が得られる。また、脂肪酸低級アルキルエステルを含有させて攪拌して冷却する方法では、流動性がある晶析物が得られ、結晶もろ過性が良好である。そのため、固液分離が良好になり、X2U型トリグリセリドの含有量も向上させることができる利点が得られる。
【0025】
本発明では、また、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルの含量が10〜100質量%である脂肪酸低級アルキルエステル1〜50質量%を含有し、脂肪酸低級アルキルエステルを除く油脂部分の全トリグリセリド中のX2U型トリグリセリド含量が20〜60質量%である分別原料を、加熱溶解させ、冷却して、X2U型トリグリセリドに富んだ固形分を晶析させるが、X2U型トリグリセリドがほとんど結晶化していない温度(例えば、26〜35℃、好ましくは26〜28℃)でトリ飽和脂肪酸トリグリセリド(XXX型トリグリセリド、または、XXX型TG)やジ飽和脂肪酸ジグリセリド(XX型ジグリセリド、または、XX型DG)を結晶化させて、分別除去し、更に室温以下(例えば、25℃以下、好ましくは、15〜25℃、更に好ましくは15〜22℃、最も好ましくは15〜19℃)に冷却、もしくは再度加熱(例えば、50℃以上、好ましくは50〜70℃)した後に室温以下(例えば25℃以下、好ましくは、15〜25℃、更に好ましくは15〜22℃、最も好ましくは15〜19℃)に冷却して、X2U型トリグリセリドに富んだ固形分を晶析させ、これを固液分離することにより、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂を製造するのが好ましい。この場合、XXX型トリグリセリドやXX型ジグリセリドを分別除去した後に、X2U型トリグリセリドに富んだ固形部を晶析するために室温以下に冷却する前に、所定の温度(例えば26〜35℃、好ましくは26〜28℃)に所定の時間(例えば0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間)保持することが好ましい。脂肪酸低級アルキルエステルを含有させて実施するこの方法により、X2U型トリグリセリドの含有量が高く、晶析して得られた固形分の安定性が向上するだけでなく、チョコレートの結晶性に悪影響のあるXXX型トリグリセリドやXX型ジグリセリドを減少させることができる利点が得られる。
尚、X2O型トリグリセリドの場合は上記条件で、X2L型トリグリセリドまたはX2Ln型トリグリセリドについては、最終分別段階の冷却温度を20℃以下、好ましくは、5〜15℃とするのがよい。
【0026】
固液分離を行う圧搾濾過は、例えば、パーム油等の分別濾過等で使用する圧搾ろ過機などを用い、晶析した結晶の固液分離は、室温以下の温度(好ましくは20〜27℃)で行なうのがよい。本発明におけるX2U型トリグリセリドに富んだ油脂は、最終的には、冷却結晶化工程を経て分別したステアリン部(固体脂部)に得ることができる。最終的に得られる固体脂部は、脂肪酸低級アルキルエステルを分別原料に含まれる含量の50〜60%程度含み(分別原料中に20質量%であれば、10〜12質量%)、脂肪酸低級アルキルエステルを除いた油脂部分として、トリグリセリド含量が好ましくは85質量%であり(より好ましくは90質量%、最も好ましくは94質量%)、全トリグリセリド中のX2U型トリグリセリド含有量が65質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、最も好ましくは80質量%以上のものである。
また、この後に行う任意工程である精製工程は、常法(例えば、水蒸気蒸留など)により行うことができ、最終製品にする前に脂肪酸低級アルキルエステルを除去することができる。このようにして、トリグリセリド含量が好ましくは85質量%であり(より好ましくは90質量%、最も好ましくは94質量%)、全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドの含有量が65質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、最も好ましくは80質量%以上の油脂を得ることができる。
また、必要に応じて、脱酸、脱色、脱臭等の通常行う油脂の精製を行ってもよい。
【0027】
本発明の製造方法により得られるX2U型トリグリセリドに富んだ油脂は、特にカカオ脂の代用脂(ハードバター)として好適に用いることができる。チョコレート製品は、例えば、上記のハードバターを含む油脂成分および糖成分とを含む。上記ハードバターは油脂成分中に10質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上含まれていることが好ましい。糖成分としては通常チョコレートに使用されるものであれば何でもかまわない。例えば、ショ糖、果糖、あるいはこれらの混合物をあげることができる。ソルビトールなどの糖アルコールを用いても良い。また、通常のチョコレート製品に含まれる任意の成分についても含ませることができる。これらの例としては、乳化剤(通常レシチン)、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳などがあげられる。
また、本発明の製造方法により得られるX2U型トリグリセリドに富んだ油脂は、例えば、大豆油、菜種油、ヒマワリ油、コーン油、綿実油、サフラワー油、ピーナッツ油、パーム油、カカオ脂、シア脂、ヤシ油、パーム核油、牛脂、豚脂、乳脂等、及び、これらに、分別、水素添加、エステル交換等の処理をした加工油の中から選ばれた1種類以上の油脂と混合し、マーガリン、ショートニング、フィリング、O/Wクリーム等の加工油脂製品の原材料油脂として好適に使用できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例において本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに何等限定されるものではない。
分析法:
トリグリセリドの分析は、JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)に準じたガスクロマトグラフィー法によって行なった。
トリグリセリドの対称性は、J.High Resolut.Chromatogr.,18,105−107(1995)の方法に準拠した銀イオンカラム−HPLC法により測定した。
脂肪酸低級アルキルエステルの分析は、ガスクロマトグラフィー法で行なった。
粉末リパーゼ組成物Aの調製:
天野エンザイム社の商品:リパーゼDF(Amano)15−K(リパーゼDともいう)の酵素溶液(150000U/ml)に、予めオートクレーブ滅菌(121℃、15分)を行い、室温程度に冷やした脱臭全脂大豆粉末(脂肪含有量が23質量%、商品名:アルファプラスHS−600、日清コスモフーズ(株)社製)10%水溶液を攪拌しながら3倍量加え、0.5N NaOH溶液でpH7.8に調整後、噴霧乾燥(東京理科器械(株)社、SD−1000型)を行い、粉末リパーゼ組成物Aを得た。
【0029】
(分別に供する蒸留残渣1の調製)
ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)14000gに、ステアリン酸エチル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)21000gを混合し、粉末リパーゼ組成物Aを0.3質量%添加し、40℃で20時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物1を34379g得た。得られた反応物1(34300g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて反応物から脂肪酸エチルを除去し、トリグリセリド含量が93.2質量%、脂肪酸エチル含量が2.9質量%である蒸留残渣1を13721g得た。得られた蒸留残渣1を使用して〔実施例1〕〜〔実施例4〕、〔比較例1〕及び〔参考例1〕の分別を行った。なお、薄膜蒸留時の留出物を留出物1とした。結果は表1、2に纏めた。
【0030】
〔実施例1〕
845gの蒸留残渣1に、155gのオレイン酸エチル(商品名:エチルオレートSP、(株)井上香料製造所製)を混合し、脂肪酸エチル含量が18.0質量%(うち不飽和脂肪酸エチル90質量%)、遊離脂肪酸0.2質量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて2.5時間、次いで18℃にて4時間冷却後、圧搾ろ過(圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(464g)及び液状部(515g)を得た。
【0031】
〔実施例2〕
845gの蒸留残渣1に、155gの薄膜蒸留による留出物1を混合し、脂肪酸エチル含量が17.7質量%(うち不飽和脂肪酸エチル28質量%)、遊離脂肪酸0.5重量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて2.5時間、次いで18℃にて4時間冷却後、圧搾ろ過(圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い固体脂部(453g)及び液状部(527g)を得た。
【0032】
〔実施例3〕
845gの蒸留残渣1に、48gの薄膜蒸留による留出物1と107gのステアリン酸エチル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)とを混合し、脂肪酸エチル含量が17.8質量%(うち不飽和脂肪酸エチル11質量%)、遊離脂肪酸0.3重量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて2.5時間、次いで18℃にて4時間冷却後、圧搾ろ過(圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(431g)及び液状部(547g)を得た。
【0033】
〔実施例4〕
958gの蒸留残渣1に、42gのオレイン酸エチル(商品名:エチルオレートSP、(株)井上香料製造所製)を混合し、脂肪酸エチル含量が7.0質量%(うち不飽和脂肪酸エチルが71質量%)、遊離脂肪酸0.1重量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて2.5時間、次いで18℃にて4時間冷却後、圧搾ろ過(圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(494g)及び液状部(482g)を得た。
【0034】
〔比較例1〕
845gの蒸留残渣1に、155gのステアリン酸エチル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)を混合し、脂肪酸エチル含量が18.0質量%(うち不飽和脂肪酸エチルが3.5質量%)、遊離脂肪酸0.2重量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて2.5時間、次いで18℃にて4時間冷却したところ、増粘が著しく、圧搾ろ過できなかった。
【0035】
〔参考例1〕
845gの蒸留残渣1に、155gのステアリン酸エチル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)を混合し、脂肪酸エチル含量が18.0質量%(うち不飽和脂肪酸エチルが3.5質量%)、遊離脂肪酸0.2重量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて2.5時間、次いで20℃にて4時間冷却後、圧搾ろ過(圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(401g)及び液状部(577g)を得た。
【0036】
(分別に供する蒸留残渣2の調製)
ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)6000gに、薄膜蒸留により回収した留出物を極度水素添加したステアリン酸エチル9000gを混合し、粉末リパーゼ組成物Aを0.3質量%添加し、40℃で20時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物2を14700g得た。得られた反応物2(14500g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて反応物から脂肪酸エチルを除去し、トリグリセリド含量が91.8質量%、脂肪酸エチル含量が3.4質量%である蒸留残渣2を5723g得た。得られた蒸留残渣2を使用して〔実施例5〕及び〔実施例6〕の分別を行った。なお、薄膜蒸留による留出物を留出物2とした。結果は表2に纏めた。
【0037】
〔実施例5〕
845gの蒸留残渣2に、155gの薄膜蒸留による留出物2を混合し、脂肪酸エチル含量が17.2質量%(うち不飽和脂肪酸エチルが27質量%)、遊離脂肪酸0.7重量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて2.5時間、次いで18℃にて4時間冷却後、圧搾ろ過(圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(443g)及び液状部(537g)を得た。
【0038】
〔実施例6〕
845gの蒸留残渣2に、130gの薄膜蒸留による留出物2と25gのオレイン酸エチル(商品名:エチルオレートSP、(株)井上香料製造所製)と混合し、脂肪酸エチル含量が17.6質量%(うち不飽和脂肪酸エチルが37質量%)、遊離脂肪酸0.6重量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて2.5時間、次いで18℃にて4時間冷却後、圧搾ろ過(圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(451g)及び液状部(525g)を得た。
【0039】
(分別に供する蒸留残渣3の調製)
ハイリノールサフラワー油(商品名:サフラワー油、日清オイリオグループ(株)製)1600gに、ステアリン酸エチル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)2400gを混合し、粉末リパーゼ組成物Aを0.3質量%添加し、40℃で20時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物3を3929g得た。得られた反応物3(3900g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて反応物から脂肪酸エチルを除去し、トリグリセリド含量が79.3質量%、脂肪酸エチル含量が16.9質量%である蒸留残渣3を1801g得た。得られた蒸留残渣3を使用して〔実施例7〕の分別を行った。結果は表3に纏めた。
【0040】
〔実施例7〕
985gの蒸留残渣3に、15gのオレイン酸エチル(商品名:エチルオレートSP、(株)井上香料製造所製)を混合し、脂肪酸エチル含量が18.1質量%(うち不飽和脂肪酸エチルが34質量%)、遊離脂肪酸0.3質量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて3時間冷却し、圧搾ろ過(第1圧搾ろ過:圧搾圧力7kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(29g)及び液状部(941g)を得た。得られた液状部(600g)を攪拌を行いながら、ゆっくりと10℃まで冷却し、圧搾ろ過(第2圧搾ろ過:圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(284g)及び液状部(304g)を得た。
【0041】
(分別に供する蒸留残渣4の調製)
菜種極度硬化油(商品名:菜種極度硬化油、横関油脂(株)製)1600gに、オレイン酸エチル(商品名:エチルオレートSP、(株)井上香料製造所製)2400gを混合し、粉末リパーゼ組成物Aを0.3質量%添加し、40℃で20時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物4を3921g得た。得られた反応物4(3900g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて反応物から脂肪酸エチルを除去し、トリグリセリド含量が72.0質量%、脂肪酸エチル含量が24.3質量%である蒸留残渣4を1983g得た。得られた蒸留残渣4を使用して〔実施例8〕の分別を行った。結果は表3に纏めた。
【0042】
〔実施例8〕
1000gの蒸留残渣4を分別原料とした。蒸留残渣4は、脂肪酸エチル含量が24.3質量%(うち不飽和脂肪酸エチルが66質量%)、遊離脂肪酸0.3質量%である分別原料を得た。50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、28℃にて3時間冷却し、圧搾ろ過(第1圧搾ろ過:圧搾圧力7kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固形部(297g)及び液状部(685g)を得た。得られた液状部(600g)を攪拌を行いながら、ゆっくりと20℃まで冷却し、圧搾ろ過(第2圧搾ろ過:圧搾圧力30kgf/cm2、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体脂部(283g)及び液状部(301g)を得た。
【0043】
【表1】

*;トリグリセリド中におけるX2U型トリグリセリドの含量
**、***;分別原料中における含量
****;固体脂部/分別原料×100
【0044】
【表2】

*;トリグリセリド中におけるX2U型トリグリセリドの含量
**、***;分別原料中における含量
****;固体脂部/分別原料×100
【0045】
【表3】

*;トリグリセリド中におけるX2U型トリグリセリドの含量
**、***;分別原料中における含量
****;固体脂部/分別中間原料×100
【0046】
(チョコレートの製造)
実施例6で得られた固体脂部を、油脂の通常の精製方法に従って脱色、脱臭の精製を行い、ハードバターを得た。このハードバターを用いて、ハードバター7.5部、砂糖43.45部、カカオマス(油分55%)40.0部、カカオバター1.0部、パーム油中融点画分7.5部、レシチン0.5部、香料0.05部からなる配合で、常法に従い、ロール掛け、コンチング、テンパリング、型入れを行い、チョコレートを試作した。試作したチョコレートは型離れも良く、風味・口溶けに優れたものであった。
【0047】
(ショートニングの製造)
実施例8で得られた固体脂部と実施例6で得られた固体脂部を、油脂の通常の精製方法に従って脱色、脱臭の精製を行い、6:4で混合した混合油脂を得た。この混合油脂50部、菜種油47部及びパーム極度硬化油3部とを混合し、急冷練り合わせしたところ、ちょう度に優れたショートニングが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全トリグリセリド中に2つの飽和脂肪酸残基と1つの不飽和脂肪酸残基からなる2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド)を20〜60質量%含有する油脂を、不飽和脂肪酸低級アルキルエステルを10〜100質量%含有する脂肪酸低級アルキルエステル1〜50質量%の存在下で分別することを特徴とするX2U型トリグリセリドに富んだ油脂の製造方法。
【請求項2】
脂肪酸低級アルキルエステルが不飽和脂肪酸低級アルキルエステルを30〜100質量%含有する脂肪酸低級アルキルエステルであることを特徴とする請求項1記載の油脂の製造方法。
【請求項3】
全トリグリセリド中にX2U型トリグリセリドを20〜60質量%含有する油脂が、油脂と脂肪酸低級アルキルエステルとの混合物を、1,3選択性リパーゼによりエステル交換した後、蒸留により脂肪酸低級アルキルエステルを50質量%以下に低減させた蒸留残渣由来であることを特徴とする請求項1〜2何れか1項に記載の油脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法により製造されたX2U型トリグリセリドに富んだ油脂を含む食品。

【公開番号】特開2010−209153(P2010−209153A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53997(P2009−53997)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】