説明

油脂劣化度測定装置、油脂劣化度測定装置の製造方法および油脂の劣化状態管理方法

【課題】光学系の小型化が図られた油脂劣化度測定装置を提供すること。
【解決手段】油脂劣化度測定装置1は、吸収された食用油の劣化の程度に応じて異なる呈色を生じる呈色部SAに対して光を照射する光照射手段としてのLED20と、LED20から照射され、呈色部SAで反射した反射光を受光する第1受光手段としての受光素子26と、所定の情報としての第1比較情報と第1測定情報とに基づき、呈色部SAに吸収された食用油の劣化の程度を判断する演算部を有する制御部9と、この演算部で判断された食用油の劣化の程度を表示する表示手段部としての表示部7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂劣化度測定装置、油脂劣化度判定装置の製造方法および油脂の劣化状態管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂の一種である食用油を使ったフライ調理は、簡便かつ風味豊かな調理が可能な調理方法として広く用いられている。しかしながら、油脂は加熱により劣化が進行するため、適切な指標を用いて食用油の劣化の状態を把握し、適当な時期で交換する必要がある。食用油の劣化においては、熱酸化、熱重合、熱分解、加水分解などの現象が複合的に起こっている。食用油の劣化状態を判断する化学的な指標としては、酸価、カルボニル価、アニシジン価等の様々な劣化指標がある。業務用(たとえば、総菜、給食、油揚げ等)の食用油の場合、厚生労働省の衛生規範により「酸価2.5、カルボニル価50、または発煙点170℃」といった基準で新しい食用油に交換するように指導がなされている。中でも酸価は、主に加水分解の現象を捉えている指標であり、食用油の劣化状態を判断する上で有用かつ一般的な指標である。そして実用的な面から、特に、酸価を指標として食用油の劣化状態の把握が行われている例が多く見られる。
【0003】
しかしながら、酸価を測定するには、特別な器具や薬品が必要となる。そして、簡易の酸価測定法としてph指示薬を使用した試験紙および装置が考案されている。たとえば、特許文献1、2、3、4、5に記載の方法は実際の滴定を用いた測定に比べて簡便であり、フライ調理現場での判断が可能となるため優れた方法である。しかしながら、判断に関してはやや熟練が必要であり、また個人差が生じるという問題がある。さらに、測定結果として詳細な酸価を表示できないため、正確な判断が出来ない等の問題がある。一方、呈色物の呈色状態を撮像情報として取り込み、この撮像情報に基づき、呈色状態を定量測定し、その結果を表示することができる装置が特許文献6に開示されている。かかる装置によれば、呈色状態の判断に熟練を要したり、個人差を生じることがない。また、呈色状態を定量的に把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−60351号
【特許文献2】特公平2−52823号
【特許文献3】特開昭62−63860号
【特許文献4】特開昭52−32396号
【特許文献5】特開平6−94699号
【特許文献6】特開2001−349834号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献6に開示される装置は、1枚の試験紙上に設けられる基準となる色見本と判断対象となる呈色物の呈色状態とを比較する構成であるため、色見本と呈色物とを撮像する必要がある。つまり、広範囲に亘って撮像する必要があり、光学系の構成が大型化し、勢い、装置も大型化するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、光学系の小型化が図られた油脂劣化度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、油脂と反応して、油脂の劣化の程度に応じて異なる呈色を生じる呈色体に対して光を照射する光照射手段と、光照射手段から照射され、呈色体で反射した反射光を受光する第1受光手段と、所定の情報に基づき、油脂の劣化の程度を判断する演算部と、演算部で判断された油脂の劣化の程度を表示する表示手段部とを備え、所定の情報は、所定の第1比較情報と、第1受光手段で受光される反射光の強度に基づく情報である第1測定情報とを有する油脂劣化度測定装置とするものである。
【0008】
上述の油脂劣化度測定装置は、光照射手段から照射された光のうち、呈色体で反射されていない光を受光する第2受光手段を備え、所定の情報は、所定の第2比較情報と、第1受光手段に受光された光の強度および第2受光手段に受光された光の強度に基づく情報である第2測定情報とを有することが好ましい。
【0009】
上述の油脂劣化度測定装置は、光照射手段から照射される光の光路中にハーフミラーを配置し、ハーフミラーの反射側または透過側のいずれか一方の側に、第1受光手段を配置すると共に、一方の側に対して他方の側に第2受光手段を配置し、光照射手段から照射され呈色体に入射する光の光軸が呈色体の光反射面に対して垂直に配置されていることが好ましい。
【0010】
上述の油脂劣化度測定装置は、光照射手段から照射される光の光路中に光通過孔を有する反射鏡を配置し、反射鏡を挟んで第1受光手段を配置すると共に、反射鏡の反射側に第2受光手段を配置し、光照射手段から照射され呈色体に入射する光の光軸が呈色体の光反射面に対して垂直に配置されていることが好ましい。
【0011】
上述の油脂劣化度測定装置は、光照射手段は、呈色体の光反射面に対して斜め方向に配置され、光出射手段と呈色体の光反射面との間には、光照射手段から照射された光を呈色体の光反射面の側に屈折させる屈折手段が配置されていることが好ましい。
【0012】
上述の油脂劣化度測定装置は、呈色体と第1受光手段との間には、呈色体で反射された第1受光手段に入射する光を集光する集光レンズを有し、第1受光手段の受光面は、集光レンズによる呈色体の結像位置からずれた位置に配置されていることが好ましい。
【0013】
上述の油脂劣化度測定装置は、呈色体と、第1受光手段との間には、光拡散手段または光均一化手段が配置されていることが好ましい。
【0014】
上述の油脂劣化度測定装置は、本体と、呈色体が装着される呈色体装着体とを有し、本体に対して呈色体装着体が着脱可能であることが好ましい。
【0015】
上述の油脂劣化度測定装置は、呈色体装着体は、本体に対して取り付けられる台座部と、この台座部に対して開閉可能な蓋体とを有し、蓋体の内側に、呈色体が装着される装着部が備えられることが好ましい。
【0016】
上述の油脂劣化度測定装置は、第1比較情報および第2比較情報は、テーブルデータの形式または近似式の形式であることが好ましい。
【0017】
上述の油脂劣化度測定装置は、第1比較情報および第2比較情報は、油脂劣化度測定装置の個体毎に校正されていることが好ましい。
【0018】
上述の油脂劣化度測定装置は、油脂の劣化度に対応した基準の色を示している色基準体に対する第1測定情報と、第1比較情報との比較結果に基づき、その比較結果に応じて光照射手段から照射される光の強度あるいは第1受光手段の出力信号の少なくとも一方を校正することができる校正手段を有することが好ましい。
【0019】
上述の油脂劣化度測定装置は、油脂の劣化度に対応した基準の色を示している色基準体に対する第2測定情報と、第2比較情報との比較結果に基づき、その比較結果に応じて、第2測定情報を校正することができる校正手段を有することが好ましい。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は、上述の油脂劣化度測定装置の製造方法において、第1比較情報および第2比較情報を、油脂の劣化度に対応した基準の色を示している色基準体を用いて、油脂劣化度測定装置の個体毎に校正することとする。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明は、上述の油脂劣化度測定装置または上述の製造方法により製造された油脂劣化度測定装置を用いて油脂の劣化状態を管理することとする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、油脂劣化度測定装置の光学系の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る油脂劣化度測定装置の外観を示す斜視図である。
【図2】油脂劣化度測定装置に内蔵される光学系の概略の構成を示す図である。
【図3】油脂劣化度測定装置から試験紙装着体を取り外した状態を示す図である。
【図4】油脂劣化度測定装置に取り付けられる試験紙装着の底面図である。
【図5】油脂劣化度測定装置に取り付けられる試験紙装着の蓋体が開いた状態を示す図である。
【図6】油脂劣化度測定装置の制御部に保存される第1比較情報としてのテーブルデータを示す図である。
【図7】図6に示すテーブルデータを用いて検体の食用油の酸価を求める油脂劣化度測定装置の動作を説明するためのフローチャートを示す。
【図8】図6に示すテーブルデータを用いて求められる、特定された2つの光強度情報(L)と、この2つの光強度情報(L)に対応する酸価とについての一次関数の例を示すグラフである。
【図9】試験紙の呈色部で反射される光の分光特性の例を示すグラフである。
【図10】図9に示すグラフの所定の波長について、酸価と呈色部における光の反射率を示すグラフである。
【図11】油脂劣化度測定装置の固体毎の第1比較情報としてのテーブルデータを作成するためのフローチャートを示す。
【図12】油脂劣化度測定装置の制御部に保存される第1比較情報としての近似式を用いて検体の食用油の酸価を求める油脂劣化度測定装置の動作を説明するためのフローチャートを示す。
【図13】油脂劣化度測定装置の固体毎の第1比較情報としての近似式を作成するためのフローチャートを示す。
【図14】図2に示す光学系の他の例の概略の構成を示す図である。
【図15】油脂劣化度測定装置に内蔵される光学系の他の例の概略の構成を示す図である。
【図16】油脂劣化度測定装置の制御部に保存される第2比較情報としてのテーブルデータを示す図である。
【図17】図16に示すテーブルデータを用いて検体の食用油の酸価を求める油脂劣化度測定装置の動作を説明するためのフローチャートを示す。
【図18】図16に示すテーブルデータを用いて求められる、特定された2つの光強度比情報(R)と、この2つの光強度比情報(R)に対応する酸価とについての一次関数の例を示すグラフである。
【図19】油脂劣化度測定装置の固体毎の第2比較情報としてのテーブルデータを作成するためのフローチャートを示す。
【図20】油脂劣化度測定装置の制御部に保存される第2比較情報としての近似式を用いて検体の食用油の酸価を求める油脂劣化度測定装置の動作を説明するためのフローチャートを示す。
【図21】油脂劣化度測定装置の固体毎の第2比較情報としての近似式を作成するためのフローチャートを示す。
【図22】油脂劣化度測定装置に内蔵される光学系の他の例の概略の構成を示す図である。
【図23】油脂劣化度測定装置に内蔵される光学系の他の例の概略の構成を示す図である。
【図24】油脂劣化度測定装置を用いて酸価を測定したときの結果を示す表である。
【図25】酸価の基準油脂分析試験法による実測値と目視による判断値との相関を示すグラフである。
【図26】酸価の基準油脂分析試験法による実測値と油脂劣化度測定装置の測定値との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施の形態)
食用油の酸価の測定は、一般に、酸価判定用試験紙(以下、単に試験紙と記載する。)を用いて行っている。この試験紙は、呈色部に検体の食用油が吸収されると、呈色部が、食用油の酸価の程度に対応した呈色を示すというものである。そして、試験紙を用いた酸価の測定は、測定者が、目視により、呈色部の呈色状態を、比較用の色調表(色見本)と見比べて、色調表の中で呈色部の呈色状態に近い色調部分を特定し、色調部分に対応した酸価を測定値とするものである。しかしながら、呈色部の呈色状態と比較用の色調表と見比べて行う上述の酸価の測定は、測定者の個人の視覚によるものであり官能的な判断とならざるを得ない。
【0025】
ところで、試験紙の呈色部は、上述のように、呈色部に吸収された食用油の酸価の程度に応じて異なる呈色を示す。したがって、試験紙の呈色部に光を照射すると、呈色部の呈色状態に応じて、呈色部で反射される光の強度が異なる。つまり、呈色部に照射され呈色部で反射された光の強度と呈色状態(酸価)とは対応している。そこで、本実施の形態に示す油脂劣化度測定装置1は、呈色部に照射され呈色部で反射された光の強度を測定し、この測定された光の強度に基づいて食用油の酸価を求め、この酸価を食用油の劣化の程度として表示することができるようにしたものである。
【0026】
(酸価について)
油脂劣化度測定装置1の具体的な構成について説明する前に、酸価について簡単に説明をする。酸価とは、油が劣化したときに発生する脂肪酸の量を示す指標の一つである。食用油は、フライ調理等の加熱中に、熱酸化および水分等により加水分解を受け、遊離脂肪酸を生じるが、この脂肪酸量を規定の方法で測定した値が酸価である。酸価の定義は「油脂1g中に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数(「油脂用語辞典(日本油化学協会編)」であり、試料となる油を有機溶剤に溶かし、これにフェノールフタレイン等を指示薬として水酸化カリウムで滴定しその終点を判定する(「油脂用語辞典(日本油化学協会編)」)。測定の代表的な方法としては、基準油脂分析試験法2.3.1−1996に記載の方法がある。
【0027】
また、酸価を簡易的に測定する方法として、試験紙(酸価判定用試験紙)を用いる方法がある。試験紙は、紙や樹脂を主体とした担体に複数の薬剤を塗布し、定着させたものである。この試験紙は、試験紙に付着・吸着させた油に対して、予め付着しているアルカリによって滴定状態が生じ、同時に指示薬により呈色させる反応が起こり、呈色状態により酸価を判定することができるものである。油脂劣化度測定装置1に使用される試験紙は、規定の呈色反応と規定の酸価が対応しているものであれば使用することができ、その反応機構については、特に限定されないが、上記の方式によるものがより望ましい。また、酸価の範囲は、一般に使用が想定される0〜5程度が望ましいが、その限りではない。
【0028】
(油脂劣化度測定装置1の全体構成について)
次に、図1から図5を参照しながら、本発明の第1の実施の形態に係る油脂劣化度測定装置1の全体構成について説明する。図1は、油脂劣化度測定装置1の外観を示す斜視図である。図2は、油脂劣化度測定装置1の内部に配置される光学系2の構成を示す図である。図3は、油脂劣化度測定装置1から試験紙装着体3を取り外した状態を示す図である。図4は、試験紙装着体3を底面側から見た斜視図である。図5は、試験紙装着体3の蓋体4が開いた状態を示す図である。なお、以下の説明において、図中矢印X1方向を左方向、X2方向を右方向、Y1方向を上方、Y2方向を下方、そして、Z1方向を前方、Z2方向を後方として説明を行う。
【0029】
図1に示すように、油脂劣化度測定装置1は、本体5と、呈色体装着体としての試験紙装着体3とを有する。油脂劣化度測定装置1は、全体として上下方向に長い直方体を呈し、手の平に把持して取り扱うことができる程度の大きさに構成されている。本体5の前面(正面)となるパネル面6には、測定された食用油の酸価等を表示する表示部7と、各種の操作ボタンが備えられる操作部8が設けられている。本体5の内部には、図2に示す光学系2が配置されるほか、油脂劣化度測定装置1の動作およびその制御を行うための制御部9(図2参照)と、油脂劣化度測定装置1を動作させるための電池(図示省略)等が配置されている。制御部9は、CPU、各種メモリ、演算部、表示部7のドライバ、電源回路等を有している。
【0030】
図1および図3に示すように、油脂劣化度測定装置1は、試験紙装着体3を本体5に対して着脱することができるように構成されている。試験紙装着体3は、本体5に対して保持される台座部10と、試験紙Sを収容する収容部11(図5参照)と、収容部11に対して開閉される蓋体4とを有している。
【0031】
本体5の上面16の左右の縁部には、前後方向に伸びる溝部12,12が設けられている。一方、台座部10の下面の左右には、図4に示すように、本体5の溝部12、12に嵌め合い可能な凸条部13,13が設けられている。溝部12,12の前端には、開口部12A,12Aが形成されている。そして、この開口部12A,12Aから台座部10の凸条部13,13を溝部12,12に挿入することができる。つまり、試験紙装着体3は、台座部10の凸条部13,13を溝部12,12に嵌め合わせることで、本体5に対して取り付けられる。また、逆に、溝部12,12と凸条部13,13との嵌め合いを解除することで、試験紙装着体3を、本体5から取り外すことができる。
【0032】
図4に示すように、台座部10の下面には爪部14が設けられている。この爪部14は、上下方向に弾性を有する支持部15により台座部10の下面に対して支持されている。一方、本体5の上面16には凹部17が設けられている。試験紙装着体3を本体5に取り付けると、爪部14と凹部17とが互いに係合し、この係合により、試験紙装着体3が本体5に対して固定される。爪部14は、支持部15により上下方向に変位することができる。したがって、試験紙装着体3の本体5への着脱に際しては、爪部14は本体5の上面16に当接し上方に変位することができる。
【0033】
図5に示すように、収容部11は、台座部10の上側の部分に、上方に開口する凹状部として形成されている。収容部11の底部には、窓部18が設けられている。この窓部18には、透明な樹脂板が嵌められている。本体5の上面16にも、窓部19が形成されている(図3参照)。窓部18と窓部19とは、試験紙装着体3が本体5に装着された状態で、上下方向において対向する位置に配置されている。この窓部19も窓部18と同様に、透明な樹脂板が嵌められている。また、窓部18および窓部19は、試験紙装着体3が本体5に装着された状態で、後述するLED(発光ダイオード)20(図2参照)から照射される光が入射することができる位置に配置されている。
【0034】
図1および図5に示すように、蓋体4は、試験紙装着体3の後側の縁部3Aにおいて試験紙装着体3に対して回転可能に支持され、図1に示す収容部11を閉じた状態と、図5に示すように、試験紙装着体3の上面21に対して略90度回転し収容部11を開いた状態とに開閉することができる。試験紙装着体3には、蓋体4が試験紙装着体3の上面21に対して90度回転したときに、それ以上、回転しないように、蓋体4の回転を阻止するストッパ部(図示省略)が備えられている。したがって、蓋体4を開いた状態で、油脂劣化度測定装置1のパネル面6が水平になるように油脂劣化度測定装置1を配置した場合にも、試験紙装着体3の上面21に対する蓋体4の開き角を90度に保持することができる。
【0035】
蓋体4の内側には、試験紙Sが装着される装着部22が備えられている。試験紙Sは、呈色部SAが蓋体4の裏面23と対向しない向きで装着部22に装着される。装着部22は、位置決め突起24と、左右に配置される2つの片部25,25等を有する。片部25,25は、下方(蓋体4を略90度開いた状態における下方)の部分が蓋体4に対して取り付けられている。一方、片部25,25は、蓋体4に取り付けられている部分を除いて、蓋体4の裏面23との間に間隔Dを有している。したがって、片部25,25と蓋体4との間に形成される間隔Dに、試験紙Sの摘み代SBを差し込むことで、片部25,25と蓋体4との間に試験紙Sを挟持することができる。
【0036】
試験紙Sの摘み代SBを間隔D,Dに差し込むと、片部25,25の蓋体4との取り付け部に摘み代SBの縁部SCが当接し、蓋体4の前後方向(蓋体4を閉じた状態における前後方向)について、試験紙Sの位置決めが行われる。また、摘み代SBを間隔D,Dに挟持した状態で、試験紙Sの左端部、つまり呈色部SAの先端部を、位置決め突起24の右側に形成される段部24Aに当接させることで、試験紙Sを蓋体4の左右方向について位置決めすることができる。つまり、試験紙Sは、蓋体4の装着部22に装着されることで、片部25,25の蓋体4との取り付け部および位置決め突起24によって、前後方向(蓋体4を閉じた状態における前後方向)および左右方向について所定の位置に配置される。この所定位置は、試験紙Sが装着された蓋体4を閉めたときに、試験紙Sの呈色部SAが窓部18に対向することができるように設定されている。
【0037】
上述したように、油脂劣化度測定装置1は、本体5と、呈色体装着体としての試験紙装着体3とを有し、試験紙装着体3が本体5に対して着脱可能に構成されている。このように油脂劣化度測定装置1が構成されることで、試験紙装着体3が油脂等で汚れた場合に、汚れた試験紙装着体3を、新しい試験紙装着体3に容易に交換することができる。
【0038】
また、油脂劣化度測定装置1は、本体5に対して取り付けられる台座部10と、この台座部10に対して開閉可能な蓋体4とを有し、蓋体4の内側に、試験紙Sが装着される装着部22が備えられている。このように油脂劣化度測定装置1が構成されることで、蓋体4に設けられた装着部22に試験紙Sを装着した状態で、試験紙Sの呈色部SAに食用油を付着させることができる。つまり、装着部22への試験紙Sの装着に当たっては、食用油が付着していない試験紙Sを装着することができる。これに対し、食用油が付着した試験紙Sを油脂劣化度測定装置1に装着することとすると、手指や油脂劣化度測定装置1に食用油が付着しないように注意を払う必要がある。しかしながら、装着部22に装着させた状態で、試験紙Sの呈色部SAに食用油を付着させることができるので、係る注意を払う必要がない。
【0039】
また、油脂劣化度測定装置1においては、蓋体4が収容部11に対して(試験紙装着体3の上面21に対して)90度回転したときに、それ以上に回転しないように、蓋体4の回転を阻止するストッパ部(図示省略)が備えられている。したがって、蓋体4を開いた状態で、油脂劣化度測定装置1のパネル面6が水平になるように油脂劣化度測定装置1を配置した場合にも、収容部11に対する蓋体4の開き角を90度に保持することができる。したがって、本体5の前面が略水平な状態で本体5を手のひらで把持したときに、蓋体4の装着部22も略水平な状態となる。そのため、装着部22に装着された試験紙Sに対して食用油を付着させる作業を行い易い。
【0040】
(光学系2の構成について)
次に、図2を参照しながら、光学系2の構成について説明する。光学系2は、光照射手段としてのLED20と、第1受光手段としての受光素子26と、集光レンズ27とを有する。光学系2は、窓部19の下方に配置されている。本実施の形態では、LED20は、たとえば、白色光を照射する白色LEDを使用することができる。また、受光素子26は、たとえば、フォトダイオードを使用することができる。受光素子26としては、他に、たとえば、フォトIC、CCD等を用いることもできる。
【0041】
図2は、試験紙Sを蓋体4の装着部22に装着し、蓋体4を閉じた状態を示している。蓋体4が閉じられている状態では、装着部22に装着されている試験紙Sの呈色部SAは、窓部19および窓部18の上方に配置される。LED20は、窓部19および窓部18を介して、呈色部SAに対して光を照射することができる。そして、LED20から照射され呈色部SAに入射した光は、呈色部SAで反射する。呈色部SAで反射した光の一部は、窓部18および窓部19を透過し、集光レンズ27により集光されて受光素子26に入射する。呈色部SAで反射された光が受光素子26に入射すると、受光素子26からは、受光される光の強度に応じた大きさの電流が出力される。なお、窓部18および窓部19を透過する光は、窓部18,19に嵌められる透明な樹脂板を透過するが、樹脂板は無色透明であり、窓部19,18を透過する際の光の損失は少ない。
【0042】
上述したように、呈色部SAは、呈色部SAに吸収されている検体の食用油の酸価の程度に応じた呈色状態(色調)を示す。そのため、呈色部SAの呈色状態に応じて、呈色部SAで反射する光の強度が異なる。つまり、呈色部SAの呈色状態に応じて、受光素子26から出力される電流の大きさが異なる。そして、この出力電流の大きさに関する情報が、第1測定情報として制御部9に入力される。制御部9は、第1測定情報と後述する第1比較情報とに基づいて、検体の食用油の酸価を求め、この酸価を表示部7に表示する。したがって、表示部7に表示される酸価により、検体の食用油の酸価の程度を定量的に知ることができる。
【0043】
なお、酸価とは、厳密には、前述したように、油が劣化したときに発生する脂肪酸の量を示す指標の一つである。一方、油脂劣化度測定装置1においては、脂肪酸の量を直接測定していない。したがって、表示部7に表示される値(酸価)は、厳密な意味での酸価とは異なるものである。油脂劣化度測定装置1は、呈色部SAの呈色状態に基づいて、酸価(厳密な意味での酸価)に対応した値である酸価相当値を求め、この酸価相当値を表示部7に表示するものである。
【0044】
(第1比較情報について)
第1比較情報について説明する。第1比較情報は、LED20から照射された光が呈色部SAで反射されて受光素子26に受光される光の強度と、呈色部SAの呈色状態(検体の食用油の酸価)とを対応させた情報である。上述したように、呈色部SAに吸収された食用油の酸価と、呈色部SAの呈色状態とは対応している。したがって、LED20から呈色部SAに照射される光の強度が一定であれば、呈色部SAで反射され受光素子26に受光される光の強度は、呈色部SAの呈色状態(検体の食用油の酸価)に対応している。
【0045】
そこで、LED20から照射された光が呈色部SAで反射されて受光素子26に受光される光の強度を、呈色状態(食用油の酸価)毎に予め調べておく。そして、たとえば、図6に示すように、酸価(A.V)と受光素子26に受光される光の強度に基づく情報である光強度情報(L)とを対応させたテーブルデータを、第1比較情報として制御部9のメモリ内に予め保持しておく。なお、図6に示すテーブルデータの光強度情報(L)は、受光素子26に受光される光の強度をA/D変換した値として示されている。試験紙Sの呈色部SAは、一般に、酸価の低い側から高い側に向かって呈色状態の明度が高くなるように設定されている。そのため、図6に示すテーブルデータの光強度情報(L)は、酸価が大きくなるに従って大きくなっている。
【0046】
制御部9では、テーブルデータ(第1比較情報)を参照して、酸価を測定しようとする食用油(検体)が吸収された呈色部SAについて受光素子26において受光された光の強度に基づく情報である第1測定情報に基づいて、食用油の酸価を求める。そして、制御部9は、上述のようにして判断した検体の酸価を表示部7に表示する。
【0047】
(テーブルデータを用いた酸価の算出)
油脂劣化度測定装置1では、具体的には、たとえば、図7に示すフローチャートに従って酸価が求められる。
【0048】
先ず、試験紙Sが油脂劣化度測定装置1に装着された状態、すなわち、試験紙Sを蓋体4の装着部22に装着し蓋体4を閉じた状態で、操作部8に備えられる測定ボタン(図示省略)を押下する。測定ボタンの押下により、LED20が発光し、この光が呈色部SAで反射され受光素子26に受光される(ステップS10)。測定された光強度は、A/D変換され、デジタルデータとして制御部9内のメモリに保存される(ステップS20)。光強度の測定(ステップS10)は、複数回、たとえば10回繰り返され、各測定毎の光強度に関するデータが逐一メモリに保存される(ステップS20)。つまり、光強度の測定(ステップS10)および光強度に関するデータのメモリへの保存(ステップS20)が、所定の回数実行されたかが判断され(ステップS30)、所定の回数実行されるまで、ステップS10、ステップS20が繰り返される。
【0049】
そして、メモリに保存されたデータの平均値が第1測定情報として算出される(ステップS40)。なお、ここでは、光強度の測定(ステップS10)を複数回繰り返し、この測定結果のデータの平均値を第1測定情報としているが、光強度の測定は複数回に限らず1回とし、この1回の光強度に関するデータを第1測定情報としてもよい。
【0050】
次いで、この第1測定情報と第1比較情報(テーブルデータ)とが比較され、第1比較情報における光強度情報(L)の中から、第1測定情報を直近で挟む2つの光強度情報(L)と、この2つの光強度情報(L)に対応する酸価が、図6に示すテーブルデータに基づいて特定される(ステップS50)。具体的には、たとえば、算出された第1測定情報が、たとえば、140であるとする。この場合、図6のテーブルデータにおいては、第1測定情報を直近で挟む2つの光強度情報(L)は、130と150であり、2つの光強度情報(L)130,150に対応する酸価は、それぞれ1.0と2.0となる。
【0051】
続いて、特定された2つの光強度情報(L)と、この2つの光強度情報(L)に対応する酸価とについての一次関数が求められる(ステップS60)。具体的には、たとえば、上述のように、第1測定情報が140である場合、これを直近で挟む2つの光強度情報(L)は130と150であり、そして、この2つの光強度情報(L)130,150に対応する酸価が、それぞれ1.0と2.0であるので、一次関数は図8に示すグラフに表されるものとなる。つまり、制御部9において、このグラフに対応する一次関数K1が求められる。そして、この一次関数K1に基づき、算出された第1測定情報に対応する酸価が求められ、この酸価が表示部7に表示される(ステップS70)。
【0052】
第1比較情報として取得されているデータは、離散的なデータである。つまり、とびとび値の酸価(本実施の形態では、0、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0)に対する光強度情報(L)である。しかしながら、上述したようにして一次関数を求め、この一次関数を用いることで、データの無い部分(データとデータの間)についても、酸価を求めることができる。特に、本実施の形態では、測定された第1測定情報を直近で挟む2つの光強度情報(L)とこれに対応する酸価を用いて一次関数を求めている。つまり、第1比較情報の全データに対して近似する一次関数を求めることに比べて、狭い範囲のデータに対して近似する一次関数を求めることで、この一次関数によって特性される酸価と光強度情報(L)との対応を精度の高いものとすることができる。
【0053】
ところで、LED20から照射され呈色部SAで反射する光の強度は、波長によって異なる。したがって、光強度情報(L)および第1測定情報は、呈色部SAの呈色状態の変化が、呈色部SAで反射される光の強度の差としてできるだけ大きく表れる波長の光についてのものであることが好ましい。また、本実施の形態では、一次関数K1を求め、この一次関数K1に基づいて酸価を求めている。そのため、呈色状態(酸価)と呈色部SAで反射される光強度の変化とができるだけリニアな関係となる波長を選択し、この波長の光について、光強度情報(L)を設定すると共に、第1測定情報を測定することが好ましい。
【0054】
呈色部SAで反射される光の分光特性が、たとえば、図9に示されるものである場合、630nmの波長についての酸価(A.V)と呈色部SAにおける光の反射率は、図10に示すように、反射率の差が酸価の差にはっきり表れる一次関数に近似した関係となっている。したがって、呈色部SAで反射される光の分光特性が、図9に示されるものである場合には、630nmの波長について、第1比較情報を設定すると共に第1測定情報を測定することが好ましい。
【0055】
(第2の実施の形態)
(個体別の第1比較情報の作成)
ところで、上述の第1比較情報(テーブルデータ)は、油脂劣化度測定装置1の個体別に拘らず同一のデータを使用することが、製造時の工数の点からは好ましい。この場合の第1比較情報は、一台の油脂劣化度測定装置1を基準機と選定して、この基準機を用いて作成したものを用いることができる。しかしながら、油脂劣化度測定装置1を構成する部材、たとえば、LED20、集光レンズ27、受光素子26等に、個体差がある場合には、呈色部SAの呈色状態が同一であっても、受光素子26から出力される出力電流の大きさが異なる場合がある。
【0056】
そこで、油脂劣化度測定装置1の製造工程の中で、油脂劣化度測定装置1の個体毎に第1比較情報を作成し、各個体に、自身の第1比較情報を保持させる(制御部9のメモリに保存する)こととしてもよい。これにより、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。
【0057】
油脂劣化度測定装置1の固体毎の第1比較情報の作成は、油脂劣化度測定装置1に全ての部材が組み込まれ、光学系2の配置や試験紙Sの装着位置等が確定した段階で行うことが好ましい。油脂劣化度測定装置1の各個体についての第1比較情報の作成は、たとえば、図11に示すフローチャートに従って作成することができる。
【0058】
図11に示すフローチャートは、たとえば、油脂劣化度測定装置1を第1比較情報作成用のパソコンに接続し、パソコンに備えられる第1比較情報作成用のプログラムを実行することで実現することができる。つまり、このパソコンによって、所定の処理を行うことにより、油脂劣化度測定装置1についての第1比較情報が求められ、この求められた第1比較情報が、油脂劣化度測定装置1のメモリに保存されることになる。
【0059】
第1比較情報の作成に当たっては、予め、試験紙Sの呈色部SAに当たる部分に、所定の酸価に対応した色調を呈する色見本が備えられている第1比較情報作成用の試験紙(以下、マスタ試験紙と記載する。)を準備しておく。たとえば、酸価「0」、「0.5」、「1.0」、「2.0」、「3.0」、「4.0」の6つの酸価にそれぞれ対応した色調を呈する色見本を呈色部SAに備えた6つのマスタ試験紙を準備しておく。そして、図11に示すフローチャートに従って、それぞれの酸価に対応するマスタ試験紙について、油脂劣化度測定装置1の光強度情報(L)を測定し、この光強度情報(L)と酸価とを対応させたテーブルデータを第1比較情報として作成する。そして、作成された第1比較情報を、油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに記憶する。
【0060】
第1比較情報の作成に先立って、第1比較情報を求めようとする油脂劣化度測定装置1に、酸価「0」のマスタ試験紙を装着する。そして、油脂劣化度測定装置1にマスタ試験紙が装着された状態で、パソコンにより以下に説明する処理が実行される。
【0061】
パソコンの処理においては、先ず、呈色部SAに対してLED20から光を照射させ、酸価「0」に対応する色調の呈色部SAで反射され受光素子26に受光される光の光強度を測定する(ステップS110)。そして、この測定された光強度をA/D変換したデータを、パソコン等に備えられる外部メモリに保存する(ステップS120)。光強度の測定(ステップS110)は、複数回、たとえば10回繰り返し、各測定毎の光強度に関するデータを逐一外部メモリに保存する(ステップS120)。つまり、光強度の測定(ステップS110)および光強度に関するデータの外部メモリへの保存(ステップS120)が、所定の回数実行されたかが判断され(ステップS130)、所定の回数実行されるまで、ステップS110、ステップS120が繰り返される。なお、光強度の測定(ステップS110)は、複数回に限らず1回としてもよい。
【0062】
次いで、外部メモリに保存されたデータの平均値を光強度情報(L)として算出する(ステップS140)。そして、この光強度情報(L)および酸価「0」を、テーブルデータの1つのレコードとして油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに保存する(ステップS150)。そうして、全ての色見本のマスタ試験紙について光強度情報(L)を取得したかどうかを判断する(ステップS160)。
【0063】
全ての色見本のマスタ試験紙について光強度情報(L)が取得されていない場合には(ステップS160においてNo)、他の酸価のマスタ試験紙を装着部22に装着することを指示する通知を行う(ステップS170)。この通知は、たとえば、パソコンのモニタへの表示によって行われる。そして、他の酸価のマスタ試験紙が装着部22に装着されると、上述のステップS110からステップS150の処理を繰り返す。一方、全ての色見本のマスタ試験紙について光強度情報(L)を取得した場合には、(ステップS160においてYes)、第1比較情報の作成完了を通知(パソコンのモニタ等に表示)する(ステップS180)。このようにして、酸価「0」、「0.5」、「1.0」、「2.0」、「3.0」、「4.0」の6つの酸価にそれぞれ対応した光強度情報(L)を有する6つのレコードを有するテーブルデータを作成し、油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに保存する。
【0064】
このように、油脂劣化度測定装置1の個体毎に、個体自身によって測定された光強度情報(L)を有する第1比較情報を作成し、この第1比較情報を測定した個体自身に保持させることで、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。なお、油脂劣化度測定装置1自体に、上述のステップS110からステップS180の処理を行うことができる機能を持たせてもよい。また、ステップS110からステップS180の一部、または全部を人間が行うようにしてもよい。
【0065】
(第3の実施の形態)
(第1比較情報の他の形態)
第1比較情報は、上述のように、テーブルデータの形態として作成する他、次に説明するように近似式の形態で作成することもできる。上述したように、試験紙Sの呈色部SAは、酸価の低い側から高い側に向かって呈色状態の明度が高くなるように設定されている。そのため、呈色部SAで反射される光の波長を適切に選択することで、酸価と呈色部SAで反射される光の強度との関係を、所定の関数に近似させて扱うことができる。つまり、予め、酸価と呈色部SAで反射される光の強度との関係を示す近似式を求めておき、この近似式に基づいて、酸価を求めることもできる。
【0066】
近似式は、たとえば、Y=A+・・・+AX+Aの形で表わされる。Yは、酸価であり、Xは、第1測定情報である。A…Aは、呈色部SAで反射される光の強度と酸価との関係を近似式において成り立たせるための係数である。テーブルデータに換えて、この近似式の係数(A…A)をメモリに保存しておき、測定された第1測定情報(X)とメモリに保存されている係数(A…A)から近似式を作成し、この近似式に基づいて、酸価(Y)を求めるようにしてもよい。
【0067】
(近似式を用いた酸価の算出)
油脂劣化度測定装置1では、具体的には、たとえば、図12に示すフローチャートに従って、近似式を用いて酸価を求める。
【0068】
先ず、試験紙Sが油脂劣化度測定装置1に装着された状態、すなわち、試験紙Sを蓋体4の装着部22に装着し蓋体4を閉じた状態で、操作部8に備えられる測定ボタン(図示省略)を押下する。測定ボタンの押下により、LED20が発光し、この光が呈色部SAで反射され受光素子26に受光され、光の強度が測定される(ステップS210)。測定された光強度は、A/D変換され、デジタルデータとして制御部9内のメモリに保存される(ステップS220)。光強度の測定(ステップS210)は、たとえば10回繰り返され、各測定毎の光強度に関するデータが逐一メモリに保存される(ステップS220)。つまり、光強度の測定(ステップS210)および光強度に関するデータのメモリへの保存(ステップS220)が、所定の回数実行されたかが判断され(ステップS230)、所定の回数実行されるまで、ステップS210、ステップS220が繰り返される。
【0069】
そして、メモリに保存されたデータの平均値が第1測定情報として算出される(ステップS240)。なお、ここでは、光強度の測定(ステップS210)を複数回繰り返し、この測定結果のデータの平均値を第1測定情報としているが、光強度の測定は複数回に限らず1回とし、この1回の光強度に関するデータを第1測定情報としてもよい。
【0070】
次いで、メモリに予め保存されている近似式の係数(A…A)を用いて近似式を作成する(ステップS250)。そして、作成した近似式に第1測定情報を代入し、酸価を算出し、この酸価が表示部7に表示される(ステップS260)。
【0071】
(第4の実施の形態)
(個体別の近似式の作成)
ところで、上述の近似式(Y=A+・・・+AX+A)についての係数は、油脂劣化度測定装置1の個体別に拘らず同一のデータを使用することが、製造時の工数の点からは好ましい。この場合の近似式は、一台の油脂劣化度測定装置1を基準機と選定して、この基準機を用いて作成したものを用いることができる。しかしながら、油脂劣化度測定装置1を構成する部材、たとえば、LED20、集光レンズ27、受光素子26等に、個体差がある場合には、呈色部SAの呈色状態が同一であっても、受光素子26から出力される出力電流の大きさが異なる場合がある。
【0072】
そこで、油脂劣化度測定装置1の製造工程の中で、油脂劣化度測定装置1の個体毎に近似式を作成し、各個体に、自身の近似式の係数(A…A)を保持させる(メモリに保存する)こととしてもよい。これにより、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。
【0073】
油脂劣化度測定装置1の固体毎の近似式の作成は、油脂劣化度測定装置1に全ての部材が組み込まれ、光学系2の配置や試験紙Sの装着位置等が確定した段階で行うことが好ましい。油脂劣化度測定装置1の各個体についての近似式の作成は、たとえば、図13に示すフローチャートに従って作成することができる。
【0074】
図13に示すフローチャートは、たとえば、油脂劣化度測定装置1を第1比較情報としての近似式作成用のパソコンに接続し、パソコンに備えられる第1比較情報(近似式)作成用のプログラムを実行することで実現することができる。つまり、このパソコンによって、所定の処理を行うことにより、油脂劣化度測定装置1についての近似式が求められ、求められた近似式の係数が、油脂劣化度測定装置1のメモリに保存されることになる。
【0075】
近似式の作成に当たっては、予め、たとえば、酸価「0」、「0.5」、「1.0」、「2.0」、「3.0」、「4.0」の6つの酸価にそれぞれ対応した色調を呈する色見本を呈色部SAに備えた6つのマスタ試験紙を準備しておく。そして、図13に示すフローチャートに従って、それぞれの酸価に対応するマスタ試験紙について、油脂劣化度測定装置1の光強度情報(L)を測定し、この光強度情報(L)と酸価との関係を表す近似式を第1比較情報として作成する。そして、作成された第1比較情報(近似式)を、油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに記憶する。
【0076】
近似式の作成に先立って、近似式を求めようとする油脂劣化度測定装置1に、酸価「0」のマスタ試験紙を装着する。そして、油脂劣化度測定装置1にマスタ試験紙が装着された状態で、パソコンにより以下に説明する処理が実行される。
【0077】
パソコンの処理においては、先ず、呈色部SAに対してLED20から光を照射させ、酸価「0」に対応する色調の呈色部SAで反射され受光素子26に受光される光の光強度を測定する(ステップS310)。そして、この測定された光強度をA/D変換したデータを、パソコン等に備えられる外部メモリに保存する(ステップS320)。光強度の測定(ステップS310)は、複数回、たとえば10回繰り返し、各測定毎の光強度に関するデータを逐一外部メモリに保存する(ステップS320)。つまり、光強度の測定(ステップS310)および光強度に関するデータのメモリへの保存(ステップS320)が、所定の回数実行されたかが判断され(ステップS330)、所定の回数実行されるまで、ステップS310、ステップS320が繰り返される。なお、光強度の測定(ステップS310)は、複数回に限らず一回としてもよい。
【0078】
次いで、外部メモリに保存されたデータの平均値を光強度情報(L)として算出し、この光強度情報(L)を外部メモリに保存する(ステップS340)。そして、全ての色見本のマスタ試験紙について光強度情報(L)を取得したかどうかを判断する(ステップS350)。
【0079】
全ての色見本のマスタ試験紙について光強度情報(L)を取得していない場合には(ステップS350においてNo)、他の酸価のマスタ試験紙を装着部22に装着することを指示する通知を、たとえば、パソコンのモニタへの表示により行う(ステップS360)。そして、他の酸価のマスタ試験紙が装着部22に装着されると、上述のステップS310からステップS340の処理を繰り返す。一方、全ての色見本のマスタ試験紙について光強度情報(L)を取得した場合には、(ステップS350においてYes)、外部メモリに保存されている各色見本のマスタ試験紙についての光強度情報(L)に基づいて近似式を求める(ステップS370)。
【0080】
ここでは、6つのマスタ試験紙についてそれぞれ光強度情報(L)が取得されているため、6つの光強度情報(L)から近似式が求められる。つまり、最高で5次関数の近似式が求まることになる。なお、光強度を測定する光の波長は、近似式が不定とならない6つの光強度情報(L)を測定することができるものが選択されているものとする。続いて、求めた近似式の係数を、油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに保存する(ステップS380)。
【0081】
このように、油脂劣化度測定装置1の個体毎に、個体自身によって測定された近似式を作成し、この近似式の係数を測定した個体自身に保持させることで、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。なお、油脂劣化度測定装置1自体に、上述のステップS310からステップS380の処理を行うことができる機能を持たせてもよい。また、ステップS310からステップS380の一部、または全部を人間が行うようにしてもよい。

【0082】
(第5の実施の形態)
(油脂劣化度測定装置1の校正)
ところで、油脂劣化度測定装置1は、例えば、長年の使用により、LED20、受光素子26等が劣化する。そのため、油脂劣化度測定装置1の測定精度が、経年変化することがある。たとえば、呈色部SAの呈色状態が同一の場合であっても、油脂劣化度測定装置1が新品の時に測定した酸価と、長年使用した時に測定した酸価と異なることがある。
【0083】
そこで、受光素子26に受光される光の強度が、呈色部SAの呈色状態に応じた所定の強度となるように、LED20の発光強度、あるいは受光素子26から出力される信号のゲインを校正する校正手段を備えることとしてもよい。具体的には、色基準体としてのマスタ試験紙について測定を行い、マスタ試験紙に対応する酸価が表示部7に表示されるように、LED20の発光強度、あるいは受光素子26の出力ゲインの少なくとも一方を調整することができる調整ボリュームを備え、この調整ボリュームの設定に応じて、LED20の発光強度、あるいは受光素子26の出力ゲインを校正するように制御部9を構成する。LED20の発光強度、あるいは受光素子26の出力ゲインを校正することで、LED20、受光素子26等が劣化した場合であっても、酸価の測定精度を正常な状態にすることができる。
【0084】
上述したように、油脂劣化度測定装置1は、吸収された食用油の劣化の程度に応じて異なる呈色を生じる呈色部SAに対して光を照射する光照射手段としてのLED20と、LED20から照射され、呈色部SAで反射した反射光を受光する第1受光手段としての受光素子26と、所定の情報としての第1比較情報と第1測定情報とに基づき、呈色部SAに吸収された食用油の劣化の程度を判断する演算部を有する制御部9と、この演算部で判断された食用油の劣化の程度を表示する表示手段部としての表示部7を備えている。油脂劣化度測定装置1をこのように構成することで、試験紙Sに呈色部SAの呈色と比較する色見本を設ける必要がなく、そのため光学系2の小型化を図ることができる。
【0085】
また、油脂劣化度測定装置1は、第1比較情報が、テーブルデータの形態または近似式の形態で保持されている。第1比較情報をテーブルデータの形態または近似式の形態で保持することで、呈色部SAの呈色状態に応じた酸価を容易に求めることができる。
【0086】
また、油脂劣化度測定装置1は、第1比較情報が、油脂劣化度測定装置1の個体毎に校正されている。このため、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。
【0087】
また、油脂劣化度測定装置1は、油脂の劣化度に対応した基準の色を示している色基準体としてのマスタ試験紙Sに対する第1測定情報と第1比較情報とを比較し、その比較結果に応じてLED20から照射される光の強度あるいは受光素子26の出力信号を校正する校正手段として、調整ボリュームおよび制御部9を有している。このため、油脂劣化度測定装置1を構成するLED20、受光素子26等の各部が劣化した場合であっても、酸価の測定精度を正常な状態にすることができる。
【0088】
(第6の実施の形態)
(光学系31の他の形態)
上述した第1から5の実施の形態においては、図2に示す光学系2に換えて、図14に示す光学系28を用いてもよい。光学系28を用いることによっても、上述した第1から5の実施の形態を実施することができる。なお、図14に示す光学系28において、光学系2と同様の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0089】
光学系28は、LED20から照射された光を三角プリズム29を介して呈色部SAに導き、また、呈色部SAで反射された光を三角プリズム29を介して受光素子26に反射させる構成となっている。光学系28では、窓部19に嵌められる透明な樹脂板に換えて三角プリズム29が配置されている。三角プリズム29は、底面部29Aが窓部18に対向するように配置され、一方の直角面29BがLED20から照射される光の入射面となっている。また、他方の直角面29Cが呈色部SAで反射される光が受光素子26に向けて三角プリズム29から出射する出射面となっている。また、三角プリズム29とLED20との間には、集光レンズ30が配置されている。
【0090】
上記のように構成される光学系28においては、LED20から照射された光が、屈折手段としての三角プリズム29で呈色部SA側に屈折させられる。このため、LED20から照射された光を呈色部SAに垂直に近づけて入射させることができる。したがって、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0091】
(第7の実施の形態)
(光学系2の他の形態)
光学系2は、図15に示す光学系31の構成としてもよい。図15に示す光学系31において、光学系2と同様の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0092】
光学系31には、反射鏡32および第2受光手段としての受光素子33が備えられている。反射鏡32は、LED20から照射され呈色部SAに入射する光の光路外であって、LED20から照射された光が直接入射する位置に配置されている。また、受光素子33は、反射鏡32で反射されたLED20から照射された光を受光することができる位置に配置されている。つまり、光学系31は、LED20から照射された光の一部が反射鏡32により、受光素子33に導かれる構成となっている。なお、受光素子33は、受光素子26と同様にフォトダイオード等を使用することができる。
【0093】
光学系31をこのように構成することで、呈色部SAで反射される光の強度に基づく情報を、受光素子26と受光素子33とに受光される光の強度の比である第2測定情報として取得することができる。呈色部SAは、呈色部SAに吸収されている検体の食用油の酸価の程度に応じた呈色状態(色調)を示す。したがって、呈色部SAの呈色状態に応じて、呈色部SAで反射する光の強度が異なるため、第2測定情報(受光素子26と受光素子33とに受光される光の強度の比)が、呈色部SAの呈色状態に応じて異なることになる。そこで、光学系31を用いる場合には、制御部9において、第2測定情報と後述する第2比較情報とに基づいて、検体の食用油の酸価を求め、この酸価を表示部7に表示することができる。
【0094】
(第2比較情報について)
上述した第1比較情報は、上述したように、LED20から照射された光が呈色部SAで反射されて受光素子26に受光される光の強度と、呈色部SAの呈色状態とを対応させた情報である。これに対し、第2比較情報は、受光素子26と受光素子33とに受光される光の強度の比を、呈色部SAの呈色状態(検体の食用油の酸価)に対応させた情報である。
【0095】
そこで、LED20から照射され呈色部SAで反射され受光素子26に入射する光の強度と、LED20から照射され反射鏡32で反射され受光素子33に入射する光の強度との比を、呈色状態(食用油の酸価)毎に予め調べておく。そして、たとえば、図16に示すように、酸価(A.V)と受光素子26と受光素子33とに受光される光の強度の比である光強度比情報(R)とを対応させたテーブルデータを、第2比較情報として制御部9のメモリ内に予め保持しておく。なお、図16に示すテーブルデータの光強度比情報(R)は、受光素子26に受光される光の強度Aと、受光素子33に受光される光の強度Bとの比(A/B)をA/D変換した値として示されている。試験紙Sの呈色部SAは、一般に、酸価の低い側から高い側に向かって呈色状態の明度が高くなるように設定されている。そのため、図16に示すテーブルデータの光強度比情報(R)は、酸価が大きくなるに従って大きくなっている。
【0096】
制御部9では、テーブルデータ(第2比較情報)を参照して、酸価を測定しようとする食用油(検体)が吸収された呈色部SAについて受光素子26および受光素子33に受光された光の強度に基づく情報である第2測定情報に基づいて、検体の食用油の酸価を求める。そして、制御部9は、上述のようにして判断した検体の酸価を表示部7に表示する。
【0097】
(テーブルデータを用いた酸価の算出)
制御部9では、たとえば、図17に示すフローチャートに従って酸価を求める。
【0098】
先ず、試験紙Sが油脂劣化度測定装置1に装着された状態、すなわち、試験紙Sを蓋体4の装着部22に装着し蓋体4を閉じた状態で、操作部8に備えられる測定ボタン(図示省略)を押下する。測定ボタンの押下により、LED20が発光し、この光が、呈色部SAで反射され受光素子26に受光されたときの光の強度A(以下、受光強度Aと記載する。)、および反射鏡32で反射され受光素子33に受光されたときの光の強度B(以下、受光強度Bと記載する。)が測定される(ステップS410)。
【0099】
そして、受光強度Aおよび受光強度Bに基づいて、受光素子26および受光素子33に受光された光の強度の比であるA/B(以下、光強度比A/Bと記載する。)が算出される(ステップS420)。次いで、この算出された光強度比A/Bは、A/D変換され、デジタルデータとしてメモリに保存される(ステップS430)。
【0100】
光強度の測定(ステップS410)および測定された光の強度(受光素子26,33の光の強度)の比の算出(ステップS420)は、複数回、たとえば10回繰り返され、各測定毎に算出される光強度比A/Bに関するデータが逐一メモリに保存される(ステップS430)。つまり、光強度の測定(ステップS410)と、光強度比A/Bの算出(ステップS420)と、光強度比A/Bに関するデータのメモリへの保存(ステップS430)が所定の回数実行されたかが判断され(ステップS440)、所定の回数実行されるまで、ステップS410、ステップS420、ステップS430が繰り返される。
【0101】
そして、メモリに保存されたデータの平均値が第2測定情報として算出される(ステップS450)。なお、ここでは、光強度の測定(ステップS410)を複数回繰り返し、複数の光強度比A/Bを算出し(ステップS420)、算出された複数の光強度比A/Bのデータの平均値を第2測定情報としているが、光強度の測定は複数回に限らず1回とし、この1回の光強度に基づく光強度比A/Bのデータを第2測定情報としてもよい。
【0102】
次いで、この第2測定情報と第2比較情報(テーブルデータ)とが比較され、第2比較情報における第2測定情報の中から、第2測定情報を直近で挟む2つの光強度比情報(R)と、この2つの光強度比情報(R)に対応する酸価を、図16に示すテーブルデータに基づいて特定される(ステップS460)。具体的には、たとえば、算出された第2測定情報が、たとえば、15であるとする。この場合、図16のテーブルデータにおいては、第2測定情報を直近で挟む2つの光強度比情報(R)は、14と16であり、2つの光強度比情報(R)14,16に対応する酸価は、それぞれ1.0と2.0となる。
【0103】
続いて、特定された2つの光強度比情報(R)と、この2つの光強度比情報(R)に対応する酸価とについての一次関数が求められる(ステップS470)。具体的には、たとえば、上述のように、第2測定情報が15であり、これを直近で挟む2つの光強度比情報(R)が14と16であり、そして、この2つの光強度比情報(R)14,16に対応する酸価が、それぞれ1.0と2.0であるので、一次関数は、図18に示すグラフに表されるものとなる。つまり、制御部9において、このグラフに対応する一次関数K2が求められる。そして、この一次関数K2に基づき、算出された第2測定情報に対応する酸価が求められ、この酸価が表示部7に表示される(ステップS480)。
【0104】
第2比較情報として取得されているデータは、離散的なデータである。つまり、とびとび値の酸価(本実施の形態では、0、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0)に対する光強度比情報(R)である。しかしながら、上述したようにして一次関数を求め、この一次関数を用いることで、データの無い部分(データとデータの間)についても、酸価を求めることができる。特に、本実施の形態では、測定された第2測定情報を直近で挟む2つの光強度比情報(R)とこれに対応する酸価を用いて一次関数を求めている。つまり、第2比較情報の全データに対して近似する一次関数を求めることに比べて、狭い範囲のデータに対して近似する一次関数を求めることで、この一次関数によって特性される酸価と光強度比情報(R)との対応を精度の高いものとすることができる。
【0105】
また、第2測定情報は、上述したように、受光素子26と受光素子33とに受光される光の強度の比である。この光の強度の比(光強度比A/B)は、呈色部SAの呈色状態が同一であれば、LED20の発光強度や受光素子26の受光感度等が変化しても変化しない。したがって、たとえば、油脂劣化度測定装置1が置かれる環境温度が変化し、LED20の発光強度や受光素子26の受光感度の変化等が変化した場合であっても、これらの変化に拘わらず、第2測定情報は一定に保たれる。このため、第2比較情報と第2測定情報とに基づいて酸価を求めることで、LED20の発光強度や受光素子26の受光感度の変化等に拘わらず酸価を正確に求めることができる。
【0106】
(第8の実施の形態)
(個体別の第2比較情報の作成)
ところで、上述の第2比較情報(テーブルデータ)は、油脂劣化度測定装置1の個体別に拘らず同一のデータを使用することが、製造時の工数の点からは好ましい。この場合の第2比較情報は、一台の油脂劣化度測定装置1を基準機と選定して、この基準機を用いて作成したものを用いることができる。しかしながら、油脂劣化度測定装置1を構成する部材、たとえば、LED20、集光レンズ27、受光素子26、受光素子33等に、個体差がある場合には、呈色部SAの呈色状態が同一であっても、受光素子26あるいは受光素子33から出力される出力電流の大きさが異なる場合がある。
【0107】
そこで、油脂劣化度測定装置1の製造工程の中で、油脂劣化度測定装置1の個体毎に第2比較情報を作成し、各個体に、自身の第2比較情報を保持させる(メモリに保存する)こととしてもよい。これにより、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。
【0108】
油脂劣化度測定装置1の固体毎の第2比較情報の作成は、油脂劣化度測定装置1に全ての部材が組み込まれ、光学系31の配置や試験紙Sの装着位置等が確定した段階で行うことが好ましい。油脂劣化度測定装置1の各個体についての第2比較情報の作成は、たとえば、図19に示すフローチャートに従って作成することができる。
【0109】
図19に示すフローチャートは、たとえば、油脂劣化度測定装置1を第2比較情報作成用のパソコンに接続し、パソコンに備えられる第2比較情報作成用のプログラムを実行することで実現することができる。つまり、このパソコンによって、所定の処理を行うことにより、油脂劣化度測定装置1についての第2比較情報が求められ、この求められた第2比較情報が、油脂劣化度測定装置1のメモリに保存されることになる。
【0110】
第2比較情報の作成に当たっては、予め、たとえば、酸価「0」、「0.5」、「1.0」、「2.0」、「3.0」、「4.0」の6つの酸価にそれぞれ対応した色調を呈する色見本を呈色部SAに備えた6つのマスタ試験紙を準備しておく。そして、図19に示すフローチャートに従って、それぞれの酸価に対応するマスタ試験紙について、油脂劣化度測定装置1の光強度比情報(R)を取得し、この光強度比情報(R)と酸価とを対応させたテーブルデータを第2比較情報として作成する。そして、作成された第2比較情報を、油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに記憶する。
【0111】
第2比較情報の作成に先立って、第2比較情報を求めようとする油脂劣化度測定装置1に、酸価「0」のマスタ試験紙を装着する。そして、油脂劣化度測定装置1にマスタ試験紙が装着された状態で、パソコンにより以下に説明する処理が実行される。
【0112】
パソコンの処理においては、先ず、LED20を発光させ、この光が、酸価「0」に対応する色調の呈色部SAで反射され受光素子26に受光されたときの受光強度A、および反射鏡32で反射され受光素子33に受光されたときの受光強度Bを測定する(ステップS510)。そして、受光強度Aおよび受光強度Bの比(光強度比A/B)を算出する(ステップS520)。そして、この算出された光強度比A/BをA/D変換したデータを、パソコン等に備えられる外部メモリに保存する(ステップS530)。
【0113】
光強度の測定(ステップS510)および測定された光の強度(受光素子26,33の光の強度)の比の算出(ステップS520)は、複数回、たとえば10回繰り返し、各測定毎に算出される光強度比A/Bに関するデータを逐一外部メモリに保存する(ステップS530)。つまり、光強度の測定(ステップS510)と、光強度比A/Bの算出(ステップS520)と、光強度比A/Bに関するデータの外部メモリへの保存(ステップS530)が、所定の回数実行されたかが判断され(ステップS540)、所定の回数実行されるまで、ステップS510、ステップS520、ステップS530が繰り返される。なお、光強度の測定(ステップS510)、光強度比A/Bの算出(ステップS520)、および光強度比A/Bに関するデータの外部メモリへの保存(ステップS530)は、複数回に限らず1回としてもよい。
【0114】
次いで、外部メモリに保存されたデータの平均値を光強度比情報(R)として算出する(ステップS550)。そして、この光強度比情報(R)および酸価「0」を、テーブルデータの1つのレコードとして油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに保存する(ステップS560)。そうして、全ての色見本のマスタ試験紙について光強度比情報(R)を取得したかどうかを判断する(ステップS570)。
【0115】
全ての色見本のマスタ試験紙について光強度比情報(R)が取得されていない場合には(ステップS570においてNo)、他の酸価のマスタ試験紙を装着部22に装着することを指示する通知を、たとえば、パソコンのモニタへの表示により行う(ステップS580)。そして、他の酸価の試験紙Sが装着部22に装着されると、上述したステップS510からステップS580の処理を繰り返す。一方、全ての色見本のマスタ試験紙について光強度比情報(R)を取得した場合には、(ステップS570においてYes)、第2比較情報の作成完了を通知(パソコンのモニタ等に表示)する(ステップS590)。このようにして、酸価「0」、「0.5」、「1.0」、「2.0」、「3.0」、「4.0」の6つの酸価にそれぞれ対応した光強度比情報(R)を有する6つのレコードを有するテーブルデータを作成し、油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに保存する。
【0116】
このように、油脂劣化度測定装置1の個体毎に、個体自身によって測定された光強度比情報(R)を有する第2比較情報を作成し、この第2比較情報を測定した個体自身に保持させることで、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。なお、油脂劣化度測定装置1自体に、上述のステップS510からステップS590の処理を行うことができる機能を持たせてもよい。また、ステップS510からステップS590の一部、または全部を人間が行うようにしてもよい。
【0117】
(第9の実施の形態)
(第2比較情報の他の形態)
第2比較情報は、上述のように、テーブルデータの形態として作成する他、次に説明するように近似式の形態で作成することもできる。上述したように、試験紙Sの呈色部SAは、酸価の低い側から高い側に向かって呈色状態の明度が高くなるように設定されている。そのため、呈色部SAで反射される光の波長を適切に選択することで、酸価と第2測定情報(受光強度Aと受光強度Bの比)と関係を、所定の関数に近似させて扱うことができる。つまり、予め、酸価と第2測定情報との関係を示す近似式を求めておき、この近似式に基づいて、酸価を求めることもできる。
【0118】
近似式は、たとえば、Y=A+・・・+AX+Aの形で表わされる。Yは、酸価であり、Xは、第2測定情報である。A…Aは、第2測定情報と酸価との関係を近似式において成り立たせるための係数である。テーブルデータに換えて、この近似式の係数(A…A)をメモリに保存しておき、測定された第2測定情報(X)とメモリに保存されている係数(A…A)から近似式を作成し、この近似式に基づいて、酸価(Y)を求めるようにしてもよい。
【0119】
(近似式を用いた酸価の算出)
油脂劣化度測定装置1では、具体的には、たとえば、図20に示すフローチャートに従って、近似式を用いて酸価を求める。
【0120】
先ず、試験紙Sが油脂劣化度測定装置1に装着された状態、すなわち、試験紙Sを蓋体4の装着部22に装着し蓋体4を閉じた状態で、操作部8に備えられる測定ボタン(図示省略)を押下する。操作ボタンの押下により、LED20が発光し、この光が呈色部SAで反射され受光素子26に受光されたときの光の強度(受光強度A)、および反射鏡32で反射され受光素子33に受光されたときの光の強度(受光強度B)が測定される(ステップS610)。そして、受光強度Aおよび受光強度Bに基づいて、受光素子26および受光素子33に受光された光の強度の比(光強度比A/B)が算出される(ステップS620)。
【0121】
次いで、この算出された光強度比A/Bは、A/D変換され、デジタルデータとしてメモリに保存される(ステップS630)。光強度の測定(ステップS610)および測定された光の強度(受光素子26,33の光の強度)の比の算出(ステップS620)は、複数回、たとえば10回繰り返され、各測定毎に算出される光強度比A/Bに関するデータが逐一メモリに保存される(ステップS630)。つまり、光強度の測定(ステップS610)と、光強度比A/Bの算出(ステップS620)と、光強度比A/Bに関するデータのメモリへの保存(ステップS630)が所定の回数実行されたかが判断され(ステップS640)、所定の回数実行されるまで、ステップS460、ステップS620、ステップS630が繰り返される。
【0122】
そして、メモリに保存されたデータの平均値が第2測定情報として算出される(ステップS650)。なお、ここでは、光強度の測定(ステップS610)を複数回繰り返し、複数の光強度比A/Bを算出し(ステップS620)、算出された複数の光強度比A/Bのデータの平均値を第2測定情報としているが、光強度の測定は複数回に限らず1回とし、この1回の光強度に基づく光強度比A/Bのデータを第2測定情報としてもよい。
【0123】
次いで、メモリに予め保存されている近似式の係数(A…A)を用いて近似式が作成される(ステップS660)。そして、作成した近似式に第2測定情報を代入し、酸価を算出し、この酸価が表示部7に表示される(ステップS670)。
【0124】
(第10の実施の形態)
(個体別の近似式の作成)
ところで、上述の近似式(Y=A+・・・+AX+A)についての係数は、油脂劣化度測定装置1の個体別に拘らず同一のデータを使用することが、製造時の工数の点からは好ましい。この場合の近似式は、一台の油脂劣化度測定装置1を基準機と選定して、この基準機を用いて作成したものを用いることができる。しかしながら、油脂劣化度測定装置1を構成する部材、たとえば、LED20、集光レンズ27、受光素子26、受光素子33等に、個体差がある場合には、呈色部SAの呈色状態が同一であっても、受光素子26あるいは受光素子33から出力される出力電流の大きさが異なる場合がある。
【0125】
そこで、油脂劣化度測定装置1の製造工程の中で、油脂劣化度測定装置1の個体毎に近似式を作成し、各個体に、自身の近似式の係数(A…A)を保持させる(メモリに保存する)こととしてもよい。これにより、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。
【0126】
油脂劣化度測定装置1の固体毎の近似式の作成は、油脂劣化度測定装置1に全ての部材が組み込まれ、光学系31の配置や試験紙Sの装着位置等が確定した段階で行うことが好ましい。油脂劣化度測定装置1の各個体についての近似式の作成は、たとえば、図21に示すフローチャートに従って作成することができる。
【0127】
図21に示すフローチャートは、たとえば、油脂劣化度測定装置1を第2比較情報としての近似式作成用のパソコンに接続し、パソコンに備えられる第2比較情報(近似式)作成用のプログラムを実行することで実現することができる。つまり、このパソコンによって、所定の処理を行うことにより、油脂劣化度測定装置1についての近似式が求められる。そして、求められた近似式の係数が、油脂劣化度測定装置1のメモリに保存されることになる。
【0128】
近似式の作成に当たっては、予め、たとえば、酸価「0」、「0.5」、「1.0」、「2.0」、「3.0」、「4.0」の6つの酸価にそれぞれ対応した色調を呈する色見本を呈色部SAに備えた6つのマスタ試験紙を準備しておく。そして、図21に示すフローチャートに従って、それぞれの酸価に対応するマスタ試験紙について、油脂劣化度測定装置1の光強度比情報(R)を測定し、この光強度比情報(R)と酸価との関係を表す近似式を第2比較情報として作成する。そして、作成された第2比較情報(近似式)を、油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに記憶する。
【0129】
近似式の作成に先立って、近似式を求めようとする油脂劣化度測定装置1に、酸価「0」のマスタ試験紙を装着する。そして、油脂劣化度測定装置1にマスタ試験紙が装着された状態で、パソコンにより以下に説明する処理が実行される。
【0130】
パソコンの処理においては、先ず、LED20を発光させ、この光が、酸価「0」に対応する色調の呈色部SAで反射され受光素子26に受光されたときの受光強度A、および反射鏡32で反射され受光素子33に受光されたときの受光強度Bを測定する(ステップS710)。そして、受光強度Aおよび受光強度Bの比(光強度比A/B)を算出する(ステップS720)。そして、この測定された光強度比A/BをA/D変換したデータを、パソコン等に備えられる外部メモリに保存する(ステップS730)。
【0131】
光強度の測定(ステップS710)および測定された光の強度(受光素子26,33の光の強度)の比の算出(ステップS720)は、複数回、たとえば10回繰り返し、各測定毎に算出される光強度比A/Bに関するデータを逐一外部メモリに保存する(ステップS730)。つまり、光強度の測定(ステップS710)と、光強度比A/Bの算出(ステップS720)と、光強度比A/Bに関するデータの外部メモリへの保存(ステップS730)が、所定の回数実行されたかが判断され(ステップS740)、所定の回数実行されるまで、ステップS710、ステップS720、ステップS730が繰り返される。なお、光強度の測定(ステップS710)、光強度比A/Bの算出(ステップS720)、および光強度比A/Bに関するデータの外部メモリへの保存(ステップS730)は、複数回に限らず1回としてもよい。
【0132】
次いで、外部メモリに保存されたデータの平均値を光強度比情報(R)として算出し外部メモリに保存する(ステップS750)。そして、全ての色見本のマスタ試験紙について光強度比情報(R)を取得したかどうかを判断する(ステップS760)。
【0133】
全ての色見本のマスタ試験紙について光強度比情報(R)を取得していない場合には(ステップS760においてNo)、他の酸価のマスタ試験紙を装着部22に装着することを指示する通知を(パソコンのモニタ等に表示)行う(ステップS770)。そして、他の酸価のマスタ試験紙が装着部22に装着されると、上述のステップS710からステップS750の処理を繰り返す。一方、全ての色見本のマスタ試験紙について光強度比情報(R)を取得した場合には、(ステップS760においてYes)、外部メモリに保存されている各色見本のマスタ試験紙についての光強度比情報(R)に基づいて近似式を求める(ステップS780)。
【0134】
ここでは、6つのマスタ試験紙についてそれぞれ光強度比情報(R)が取得されているため、6つの光強度比情報(R)から近似式が求められる。つまり、最高で5次関数の近似式が求まることになる。なお、光強度を測定する光の波長は、近似式が不定とならない6つの光強度比情報(R)を測定することができるものが選択されているものとする。続いて、求めた近似式の係数を、油脂劣化度測定装置1に備えられるメモリに保存する(ステップS790)。
【0135】
このように、油脂劣化度測定装置1の個体毎に、個体自身によって測定された近似式を作成し、この近似式の係数を測定した個体自身に保持させることで、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。
【0136】
(第11の実施の形態)
(光学系31の他の形態)
上述した第7,8,9,10の実施の形態においては、図15に示す光学系31に換えて、図22に示す光学系34を用いてもよい。光学系34を用いることによっても、上述した第7,8,9,10の実施の形態を実施することができる。なお、図22に示す光学系34において、光学系31と同様の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0137】
光学系34は、反射鏡32に換えてLED20と受光素子33との間にハーフミラー35が備えられている。また、LED20とハーフミラー35との間には、集光レンズ36が配置されている。ハーフミラー35は、LED20と集光レンズ36の光軸L1に対して反射面が45度に配置されている。そして、呈色部SA、受光素子26および集光レンズ27は、これらについての光軸L2が、光軸L1に対して直交する位置に配置されている。受光素子33は、ハーフミラー35を挟んだ光軸L1の延長線上に配置されている。
【0138】
上記のように構成される光学系34においては、LED20から照射された光が、ハーフミラー35において、ハーフミラー35で反射される光とハーフミラー35を透過する光に分けられる。LED20から照射されハーフミラー35で反射された光は、呈色部SAに入射する。そして、呈色部SAで、呈色部SAの呈色状態に応じた反射量で反射され、ハーフミラー35を透過し受光素子26に入射する。一方、LED20から照射されハーフミラー35を透過した光は、受光素子33に入射する。
【0139】
したがって、受光素子26、33において、それぞれ受光強度A,Bを測定することができる。光学系34を上述のように構成することで、LED20から照射された光を呈色部SAに垂直に近い状態で入射させることができる。したがって、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0140】
(第12の実施の形態)
(光学系31の他の形態)
上述した第7,8,9,10の実施の形態においては、図15に示す光学系31に換えて、さらに図23に示す光学系37を用いてもよい。光学系37を用いることによっても、上述した第7,8,9,10の実施の形態を実施することができる。なお、図23に示す光学系37において、光学系31と同様の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0141】
光学系37は、反射鏡32に換えてLED20と呈色部SAとの間に、反射鏡38が備えられている。反射鏡38は、両面に反射面が形成されると共に、反射面の略中央に光通過孔39が形成されている。また、LED20と反射鏡38との間には、集光レンズ40が配置されている。
【0142】
反射鏡38は、LED20と集光レンズ40の光軸L3に対して反射面が45度に配置されると共に、光通過孔39の略中心を光軸L3が通過するように配置されている。そして、呈色部SAは、LED20に対して反射鏡38を挟んだ位置に、呈色部SAの光反射面を光軸L3に直交させるように配置されている。受光素子26および集光レンズ27は、これらについての光軸L4が、光軸L3に対して直交する位置に配置されている。
【0143】
光学系37においては、LED20から照射された光の光束の外周部の光の一部を、反射鏡38で反射させ、この光を受けることができる位置に受光素子33が配置されている。
【0144】
集光レンズ40の焦点位置は、光通過孔39よりも呈色部SA、または、LED20側に設定されている。また、集光レンズ40の口径等は、LED20から照射された光の光束の外周部の光の一部が、反射鏡38で反射されるように設定されている。反射鏡38で反射された光の一部は、上述のように受光素子33に受光される。
【0145】
上記のように構成される光学系37においては、LED20から照射された光が、反射鏡38において、光通過孔39を通過する光と、反射鏡38で反射される光に分けられる。光通過孔39を通過した光は、呈色部SAに入射する。そして、呈色部SAで、呈色部SAの呈色状態に応じた反射量で反射され、さらに、反射鏡38の光通過孔39の周辺の反射面で反射され受光素子26に入射する。一方、LED20から照射され反射鏡38で反射された光は受光素子33に入射する。
【0146】
したがって、受光素子26、33において、それぞれ受光強度A,Bを測定することができる。光学系37を上述のように構成することで、LED20から照射された光を呈色部SAに垂直に近い状態で入射させることができる。そのため、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。また、光通過孔39の開口をできるだけ小さく構成することで、呈色部SAで反射された光を反射鏡38で受光素子26に反射する際に、その反射量を増やすことができる。つまり、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0147】
(第13の実施の形態)
(油脂劣化度測定装置1の校正)
油脂劣化度測定装置1は、例えば、長年の使用により、LED20、受光素子26、受光素子33等が劣化する。そのため、呈色部SAの呈色状態が同一の場合であっても、受光素子26,33における光強度比A/Bが異なることがある。つまり、油脂劣化度測定装置1が新品の時に測定した酸価と、長年使用した時に測定した酸価と異なることがある。
【0148】
そこで、受光素子26と受光素子33に受光される光の強度が、呈色部SAの呈色状態に応じた所定の強度となるように、受光素子26,33から出力される信号のゲインを校正する校正手段を備えることとしてもよい。具体的には、色基準体としての、マスタ試験紙について測定を行い、マスタ試験紙に対応する酸価が表示部7に表示されるように、受光素子26,33の出力ゲインを調整することができる調整ボリュームを備え、この調整ボリュームの設定に応じて、受光素子26,33の出力ゲインを校正するように制御部9を構成する。
【0149】
上述したように、油脂劣化度測定装置1は、吸収された食用油の劣化の程度に応じて異なる呈色を生じる呈色部SAに対して光を照射する光照射手段としてのLED20と、LED20から照射され、呈色部SAで反射した反射光を受光する受光素子26と、LED20から照射された光のうち、呈色部SAで反射されていない光を受光する第2受光手段としての受光素子33とを備える。そして、所定の情報として、受光素子26と受光素子33とに受光される光の強度の比を呈色部SAの呈色状態に対応させた情報である第2比較情報と、受光素子26と受光素子33とに受光される光の強度の比に関する情報である第2測定情報とに基づき、制御部9に備えられる演算部において呈色部SAに吸収された食用油の劣化の程度が判断される。
【0150】
油脂劣化度測定装置1をこのように構成することで、LED20の発光強度や受光素子26の受光感度の変化等に拘わらず酸価を正確に求めることができる。
【0151】
また、油脂劣化度測定装置1は、LED20から照射される光の光路中にハーフミラー35が配置され、ハーフミラー35の反射側または透過側のいずれか一方の側に、第1受光手段としての受光素子26が配置されると共に、該一方の側に対して他方の側に第2受光手段としての受光素子33が配置されている。そして、LED20は、ここから照射される光の光軸L1が呈色部SAの光反射面に対して垂直に配置されている。
【0152】
油脂劣化度測定装置1をこのように構成することで、LED20から照射された光を呈色部SAに垂直に近い状態で入射させることができる。そのため、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0153】
また、油脂劣化度測定装置1は、LED20から照射される光の光路中に光通過孔39を有する反射鏡38が配置され、この反射鏡38を挟んで、一方の側に、第1受光手段としての受光素子26が配置され、その反対側には反射鏡38の反射側に第2受光手段としての受光素子33が配置されている。そしてLED20は、ここから照射される光の光軸L3が呈色部SAの光反射面に対して直交するよう配置されている。
【0154】
油脂劣化度測定装置1をこのように構成することで、LED20から照射された光を呈色部SAに垂直に近い状態で入射させることができる。そのため、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0155】
また、油脂劣化度測定装置1は、第2比較情報が、テーブルデータの形態または近似式の形態で保持されている。
【0156】
第2比較情報をテーブルデータの形態または近似式の形態で保持することで、呈色部SAの呈色状態に応じた酸価を容易に求めることができる。
【0157】
また、油脂劣化度測定装置1は、第2比較情報が、油脂劣化度測定装置1の個体毎に校正されている。
【0158】
このため、油脂劣化度測定装置1を構成する部材に個体差がある場合であっても、精度の高い酸価を測定することができる。
【0159】
また、油脂劣化度測定装置1は、油脂の劣化度に対応した基準の色を示している色基準体としてのマスタ試験紙Sに対する第2測定情報と、第2比較情報とを比較し、その比較結果に応じて受光素子26,33の出力信号を校正する校正手段として、調整ボリュームおよび制御部9を有している。
【0160】
このため、油脂劣化度測定装置1を構成する受光素子26,33等の各部が劣化した場合であっても、酸価の測定精度を正常な状態にすることができる。
【0161】
上述の各実施の形態において、呈色部SAで反射した光が受光素子26に至る光路中に配置されている集光レンズ27は、呈色部SAで反射された光を受光素子26に集光させて入射させる機能を有する。したがって、呈色部SAで反射した光の受光素子26における受光強度を高くすることができ、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0162】
しかしながら、受光素子26が、集光レンズ27による呈色部SAの光反射面の結像位置に配置される場合には、呈色部SAの光反射面の凹凸や色むら等により、呈色部SAの呈色状態が正確に受光強度に反映されない場合がある。そこで、集光レンズ27による呈色部SAの光反射面の結像位置に受光素子26の受光面が配置されないように、呈色部SA、集光レンズ27および受光素子26を配置してもよい。
【0163】
このように、構成することで、呈色部SAの光反射面の凹凸や色むら等の影響が少くない光を受光素子26に入射させことができる。したがって、呈色部SAの光反射面に凹凸や色むら等がある場合でも、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0164】
なお、呈色部SAと受光素子26との間に光均一化手段としてのライトパイプを配置し、呈色部SAで反射された光をライトパイプを通して受光素子26に入射させてもよい。
【0165】
このように構成することで、呈色部SAで反射された光はライトパイプ内を通過する際に照度分布の均一化が図られる。そのため、呈色部SAの光反射面に凹凸や色むら等がある場合であっても、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0166】
また、呈色部SAと受光素子26との間に光拡散手段としての光拡散板を配置し、呈色部SAで反射された光を光拡散板を透過させて受光素子26に入射させてもよい。
【0167】
このように構成することで、呈色部SAで反射された光は光拡散板を透過する際に照度分布の均一化が図られる。そのため、呈色部SAの光反射面に凹凸や色むら等がある場合であっても、受光素子26において、呈色部SAの呈色状態が正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0168】
上述の各実施の形態において、LED20は、白色光を発する白色LEDとしたが、赤色光、緑色光、あるいは青色光を発光するLEDを用いてもよい。この場合、第1比較情報、第2比較情報は、LEDの発光色に対応したものを用いることになる。また、可視光の他、1000nmから2000nmの波長の光を用いて呈色部SAの呈色状態を判断することもできる。
【0169】
上述の各実施の形態において、試験紙装着体3の窓部18には、透明な樹脂板が嵌められているが、窓部18は樹脂板を嵌めることなく吹き抜けの構成としてもよい。このような構成とすることで、窓部18を通過する光の損失を少なくすることができ、呈色部SAの呈色状態がより正確に反映された受光強度を得ることができる。
【0170】
(食用油の管理方法)
食用油の管理方法として、以上のように構成された油脂劣化度測定装置1を用いることで、食用油の劣化状態を定量的に把握でき、食用油の劣化状態の管理を適切なものとすることができる。
【0171】
具体的には、食用油の場合、厚生労働省の「弁当・総菜の衛生規範」においては、酸価が2.5を超えたら使用している食用油を交換する旨が規定されている。ところが、試験紙Sによる作業者も目視による判断(呈色部SAと色見本との比較)による場合は、作業者の個人差が生じる。特に、呈色部SAの呈色状態の変化は連続的であるため、呈色部SAの呈色状態と色見本との比較に個人差が生じ易い。しかしながら、油脂劣化度測定装置1を用いて定量的に食用油の劣化状態を管理することで、作業者の個人差を排除した客観的な管理を行うことができる。
【0172】
フライ調理での酸価の上昇度合いはその状況によりまちまちであるが、たとえば、1日当たりの酸価上昇が0.5未満である場合、作業前の酸化を2.0と判断できれば一日の終わり(一日の調理の終了時)には2.5以内であるといった予測もすることができる。つまり、油脂劣化度測定装置1を用いて、食用油の酸価を定量的に管理することで、上述の予測を行うことができる。また、一日の調理の終了時における食用油の酸価が予測できることで、食用油の無駄な破棄を防止することができる。
【0173】
(実施例1)
図24に示す表は、酸価がおよそ0、1.0、2.0、2.5、3.0付近になるよう脂肪酸を添加して調整された食用油を試験紙Sに付着させ、これを油脂劣化度測定装置1を用いて酸価を測定したときの結果を示すものである。なお、測定においては、試験紙Sとして、東洋濾紙株式会社製のAV−CHECK(登録商標)を用いた。また、調整された食用油は、基準油脂分析法(日本油脂科学会編)にて、実際の酸価を測定した。その結果、図24に示すように、油脂劣化度測定装置1によって測定された酸価は、基準油脂分析法による分析値とほぼ同じ値が得られた。このように、油脂劣化度測定装置1を用いることで正確な酸価を測定することができる。
【0174】
(実施例2)
様々な作業現場において、天ぷら、フライ、唐揚げ等を揚げた使用油および廃油を採取した。各採取油を濾紙にて濾過後、基準油脂分析試験法に準じて、酸価の測定を行った。各採取油に対し、代表的な酸価判定用試験紙であるAV−CHECK(登録商標)を用いて、所定の方法で酸価を読み取った。具体的にはAV−CHECKの呈色反応部分を常温の採取油に浸漬して、呈色させ一定時間経過後の呈色度合いを標準色との比較により読み取った。続いて、このAV−CHECKに対して、実施例1で用いた油脂劣化度測定装置でその呈色度合いを読み取り、酸価値として表示させた。基準油脂分析試験法による酸価の実測値(滴定値)と、目視による判断値との相関を図25に、基準油脂分析試験法による酸価の実測値(滴定値)と、測定装置による酸価値との相関を図26に示した。図25および図26から明らかなように、測定装置により表示した酸価値は、目視により判断した酸価値より実測値に近い酸価値であることがわかった。また、本発明による油脂劣化度の測定では、酸価値をデジタルで表示できるため、厚生労働省の衛生規範である酸価2.5という基準を遵守できるので、より適切に廃油時期を判別することができる。従って、食品衛生上も適切な使用油管理が可能となり、同時に無駄のない食用油のフライ油としての使用ができる。
【0175】
上述の実施の形体においては、油脂として食用油の酸価を測定する場合について説明したが、本発明は食用油以外の各種の油脂、たとえば、機械の潤滑油、シリンダ等の油圧製品に使用されるオイル等の劣化を測定する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0176】
SA … 呈色部(呈色体)
1 … 油脂劣化度測定装置
3 … 試験紙装着体(呈色体装着体)
4 … 蓋体
5 … 本体
7 … 表示部(表示手段部)
9 … 制御部(演算部,校正手段)
10 … 台座部
20 … LED(光照射手段)
22 … 装着部
26 … 受光素子(第1受光手段)
27 … 集光レンズ
29 … 三角プリズム(屈折手段)
33 … 受光素子(第2受光手段)
35 … ハーフミラー
38 … 反射鏡
39 … 光通過孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と反応して、上記油脂の劣化の程度に応じて異なる呈色を生じる呈色体に対して光を照射する光照射手段と、
上記光照射手段から照射され、上記呈色体で反射した反射光を受光する第1受光手段と、
所定の情報に基づき、上記油脂の劣化の程度を判断する演算部と、
上記演算部で判断された上記油脂の劣化の程度を表示する表示手段部と、
を備え、
上記所定の情報は、所定の第1比較情報と、上記第1受光手段で受光される上記反射光の強度に基づく情報である第1測定情報とを有すること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記光照射手段から照射された光のうち、前記呈色体で反射されていない光を受光する第2受光手段を備え、
前記所定の情報は、所定の第2比較情報と、前記第1受光手段に受光された光の強度および上記第2受光手段に受光された光の強度に基づく情報である第2測定情報とを有すること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記光照射手段から照射される光の光路中にハーフミラーを配置し、
上記ハーフミラーの反射側または透過側のいずれか一方の側に、前記第1受光手段を配置すると共に、上記一方の側に対して他方の側に前記第2受光手段を配置し、
前記光照射手段から照射され前記呈色体に入射する光の光軸が前記呈色体の光反射面に対して垂直に配置されていること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項4】
請求項2に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記光照射手段から照射される光の光路中に光通過孔を有する反射鏡を配置し、
上記反射鏡を挟んで前記第1受光手段を配置すると共に、上記反射鏡の反射側に前記第2受光手段を配置し、
前記光照射手段から照射され前記呈色体に入射する光の光軸が前記呈色体の光反射面に対して垂直に配置されていること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記光照射手段は、前記呈色体の光反射面に対して斜め方向に配置され、前記光出射手段と前記呈色体の光反射面との間には、前記光照射手段から照射された光を前記呈色体の光反射面の側に屈折させる屈折手段が配置されていること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記呈色体と前記第1受光手段との間には、前記呈色体で反射された前記第1受光手段に入射する光を集光する集光レンズを有し、
前記第1受光手段の受光面は、上記集光レンズによる前記呈色体の結像位置からずれた位置に配置されていること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。

【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記呈色体と、前記第1受光手段との間には、光拡散手段または光均一化手段が配置されていること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記油脂劣化度測定装置は、本体と、前記呈色体が装着される呈色体装着体とを有し、上記本体に対して上記呈色体装着体が着脱可能であること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項9】
請求項8に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記呈色体装着体は、前記本体に対して取り付けられる台座部と、この台座部に対して開閉可能な蓋体とを有し、
上記蓋体の内側に、前記呈色体が装着される装着部が備えられること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記第1比較情報および前記第2比較情報は、テーブルデータの形式または近似式の形式であること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の油脂劣化度測定装置において、
前記第1比較情報および前記第2比較情報は、前記油脂劣化度測定装置の個体毎に校正されていること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項12】
請求項1に記載の油脂劣化度測定装置において、
油脂の劣化度に対応した基準の色を示している色基準体に対する前記第1測定情報と、前記第1比較情報との比較結果に基づき、その比較結果に応じて前記光照射手段から照射される光の強度あるいは前記第1受光手段の出力信号の少なくとも一方を校正することができる校正手段を有すること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項13】
請求項2に記載の油脂劣化度測定装置において、
油脂の劣化度に対応した基準の色を示している色基準体に対する前記第2測定情報と、前記第2比較情報との比較結果に基づき、その比較結果に応じて、前記第2測定情報を校正することができる校正手段を有すること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の油脂劣化度測定装置の製造方法において、
前記第1比較情報および前記第2比較情報を、油脂の劣化度に対応した基準の色を示している色基準体を用いて、前記油脂劣化度測定装置の個体毎に校正すること、
を特徴とする油脂劣化度測定装置の製造方法。
【請求項15】
請求項1から13に記載の油脂劣化度測定装置、または請求項14に記載の製造方法により製造された油脂劣化度測定装置のいずれか1つの油脂劣化度測定装置を用いて油脂の劣化状態を管理すること、
を特徴とする油脂の劣化状態管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−281610(P2010−281610A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133374(P2009−133374)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(509304667)株式会社SUWAオプトロニクス (17)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】