説明

油脂含有レーヨン繊維、その製造方法及び繊維構造物

【課題】融点が20℃以上の油脂であってもビスコースを変質させることなく安定的に直接混合でき、レーヨン繊維を構成するセルロース内に微分散が可能であり、肌に優しい油脂含有レーヨン繊維、その製造方法及び繊維構造物を提供する。
【解決手段】油脂含有レーヨン繊維は、レーヨン繊維内に油脂が混合されており、油脂は、脂肪酸及びそのグリセリンエステルから選ばれる少なくとも一つの脂肪酸成分を含み、且つ20℃において固体であり、レーヨン繊維内のセルロースと油脂とは非相溶状態で、且つ油脂は前記セルロース中に微分散されており、油脂含有レーヨン繊維は、脂肪酸成分を含み、且つ20℃において固体である油脂にHLBの異なる乳化剤を添加して調製したエマルジョン液をビスコース原液に添加した紡糸用ビスコース液を用いて製造することができ、油脂含有レーヨン繊維を含む繊維構造物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の油脂を含有するレーヨン繊維、その製造方法及び繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
再生セルロースを用いたレーヨン繊維としては、ビスコース法、銅アンモニア法、溶剤紡糸法など様々な方法で製造されることが知られている。レーヨン繊維は基質がセルロースであるため、それ自体肌に優しい性質を有する。従来から、前記レーヨン繊維の性質をさらに発揮させるため、様々な提案がされている。例えば、脂肪酸(油脂分)を練り込んだ再生セルロース繊維に関する提案として、オレイン酸又はオレイン酸の金属塩を練り込む提案(特許文献1)、γ−リノレン酸乳化液を練り込む提案(特許文献2〜3)、ドコサヘキサエン酸(DHA)乳化液を練り込む提案(特許文献4)、γ−リノレン酸の乳化物を練り込む提案(特許文献5)、オレイン酸又はその塩を練り込み、セル状領域を形成したレーヨン繊維の提案(特許文献6)、脂肪酸又はその塩と脂溶性の抗酸化剤を練り込み、セル状領域を形成したレーヨン繊維の提案(特許文献7)、こめ油、γ−オリザノール、フェルラ酸を含む乳化液を練り込む提案(特許文献8)、相変化材料をマイクロカプセルに封入して添加したセルロース系繊維の提案(特許文献9)などがある。また、特許文献10には、スクワランなどの油分を含むレーヨン繊維などの含油繊維を原料繊維として用いた化粧・美容用不織布が提案されている。また、特許文献11には、天然蛋白質を含有させたビスコースレーヨン系繊維を含む繊維構造物が提案されている。
【0003】
特許文献1〜7で用いている脂肪酸は融点が14℃以下であるために常温で液体であり、容易に乳化することが可能である。また、特許文献8で用いているこめ油も不飽和脂肪酸を多く含むために低融点であり、容易に乳化可能である。特許文献9では、油脂あるいは脂肪酸をマイクロカプセル化して添加している。特許文献10で油分として用いているスクワランは、常温で液体であり、容易に乳化することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−143722号公報
【特許文献2】特開2002−161428号公報
【特許文献3】特開平09−296322号公報
【特許文献4】特開平09−296321号公報
【特許文献5】特開平08−337918号公報
【特許文献6】特開2007−138324号公報
【特許文献7】特開2008−285779号公報
【特許文献8】特開2007−314914号公報
【特許文献9】特表2009−544866号公報
【特許文献10】特開2010−195735号公報
【特許文献11】特開2010−216053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、融点が20℃以上の油脂をレーヨン繊維に直接添加することは容易ではない。20℃以上の温度で油脂を融解して液体化し添加すると、ビスコースがゲル化する可能性がある。また、ビスコース中のアルカリ分との接触で油脂が鹸化されて紡糸困難になる。また、マイクロカプセル化する技術はコストが高くなる問題と、カプセル材料がビスコース中のアルカリや紡糸浴の強酸に耐えられるものでなければならず、材料の選択が困難であった。また、特許文献11のビスコースレーヨン系繊維は、天然蛋白質由来の性状を有するに留まり、さらなる機能が求められている。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、融点が20℃以上の油脂であってもビスコースを変質させることなく安定的に直接混合でき、レーヨン繊維を構成するセルロース内に微分散が可能であり、肌に優しい油脂を含有するレーヨン繊維、その製造方法及び繊維構造物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の油脂含有レーヨン繊維は、レーヨン繊維内に油脂が混合された油脂含有レーヨン繊維であり、前記油脂は、脂肪酸及びそのグリセリンエステルから選ばれる少なくとも一つの脂肪酸成分を含み、且つ20℃において固体であり、前記レーヨン繊維内のセルロースと前記油脂とは非相溶状態で、且つ前記油脂は前記セルロース中に微分散されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の油脂含有レーヨン繊維の製造方法は、脂肪酸及びそのグリセリンエステルから選ばれる少なくとも一つの脂肪酸成分を含み、且つ20℃において固体である油脂に、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)が16〜19.5である乳化剤とHLBが6〜12である乳化剤とを加えて、平均粒子径が0.02〜2μmのエマルジョン液を調製し、セルロースを含むビスコース原液に、前記エマルジョン液を混合して紡糸用ビスコース液を調製し、前記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出して紡糸し、凝固再生することを特徴とする。
【0009】
本発明の繊維構造物は、前記油脂含有レーヨン繊維を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の油脂含有レーヨン繊維は、脂肪酸成分を含み、且つ常温で固体である油脂をレーヨン繊維中に練り込むことにより、肌に優しいレーヨン繊維とすることができる。また、油脂が繊維中に微分散されて多数存在することにより、油脂自体のもつ機能が発揮され、ヌメリ感があり、ソフトな風合いの繊維となる。
【0011】
本発明の製造方法は、油脂にHLBの異なる乳化剤を併合して加えて平均粒子径が0.02〜2μmのエマルジョン液を調製し、セルロースを含むビスコース原液に前記エマルジョン液を混合して紡糸用ビスコース液とすることにより、融点が20℃以上の油脂であってもビスコースを変質させることなく安定的に直接混合できる。
【0012】
本発明の繊維構造物は、肌に優しく、ヌメリ感があり、ソフトな風合いとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1Aは本発明の実施例1における油脂含有レーヨン繊維(繊維A)の側面を示す光学顕微鏡写真(倍率:320倍)であり、図1Bはマイクロスコープ(倍率:3000倍)で透過光にて観察した同断面の写真である。
【図2】図2Aは、本発明の実施例2における油脂含有レーヨン繊維(繊維B)の側面を示す光学顕微鏡写真(倍率:320倍)であり、図2Bはマイクロスコープ(倍率:3000倍)で透過光にて観察した同断面の写真である。
【図3】図3は本発明の実施例1及び2で使用したシアバターの示差走査熱量(DSC)測定データを示すチャートである。
【図4】図4は従来からのレギュラーレーヨン繊維の赤外線吸収スペクトルチャートである。
【図5】図5は本発明の実施例1及び2で使用したシアバターの赤外線吸収スペクトルチャートである。
【図6】図6は本発明の実施例2における油脂含有レーヨン繊維(繊維B)の赤外線吸収スペクトルチャートである。
【図7】図7は本発明の実施例5における油脂含有レーヨン繊維(繊維F)の断面をマイクロスコープ(倍率:3000倍)で透過光にて観察した写真である。
【図8】図8Aは、本発明の実施例6における油脂含有レーヨン繊維(繊維G)の側面を示す光学顕微鏡写真(倍率:640倍)であり、図8Bはマイクロスコープ(倍率:3000倍)で透過光にて観察した同断面の写真である。
【図9】図9は本発明の実施例5で使用した牛脂の示差走査熱量(DSC)測定データを示すチャートである。
【図10】図10は本発明の実施例6で使用したショートニングの示差走査熱量(DSC)測定データを示すチャートである。
【図11】図11は一回洗濯した実施例4の原綿(繊維E)における油脂抽出回数と油脂抽出率の関係を示すグラフである。
【図12】図12は洗濯0回、洗濯1回、洗濯5回、洗濯10回、洗濯30回した実施例4の原綿(繊維E)における油脂抽出率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者等は、脂肪酸成分を含み、且つ常温で固体である油脂を所定の条件でビスコー
スに添加・紡糸し、繊維化することにより、多数の微小領域に油脂を含有する繊維の製造が可能であることを見出し本発明に至った。本発明は20℃以上で固体である油脂をエマルジョン化することで繊維中に微細に存在させることができる。
【0015】
(1)油脂
本発明に用いられる油脂は、脂肪酸及びそのグリセリンエステルから選ばれる少なくとも一つの脂肪酸成分を含み、且つ20℃において固体である。前記脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が挙げられ、前記脂肪酸のグリセリンエステルとしては、飽和脂肪酸のグリセリンエステル、飽和脂肪酸の混合グリセリンエステル、不飽和脂肪酸のグリセリンエステル、不飽和脂肪酸の混合グリセリンエステル、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の混合グリセリンエステルが挙げられる。一般に脂肪酸は、炭素数が増加すると融点が上がり、同じ炭素数の場合、不飽和脂肪酸に比べて飽和脂肪酸の融点は高い傾向にある。20℃において固体の油脂を含有することにより、特に天然由来の油脂は融点が20℃以上であるものが多く、常温で液状の油脂に比べて、肌に良い効果を与えることができる。また、20℃において固体の油脂を含有することにより、常温で液体の油脂にはない機能が付与できる点で好ましい。本発明において、20℃において固体である油脂とは、油脂の融点が20℃以上であることを意味する。
【0016】
本発明に用いられる油脂に含まれる脂肪酸成分は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸及びそれらのグリセリンエステルのいずれであってもよい。脂肪酸の炭素数としては、特に限定されないが、例えば、炭素数16〜22であることが好ましい。前記飽和脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ペヘニン酸等から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。前記不飽和脂肪酸としては、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルシン酸等から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0017】
前記油脂は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を含むことが好ましく、飽和脂肪酸が30〜55質量%、不飽和脂肪酸が45〜70質量%であることがより好ましい。飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を含むと、それぞれの脂肪酸の持つ様々な効果を享受できる点で好ましい。例えば、飽和脂肪酸は腐敗しにくく、非常に安定性が良く、高いモイスチャー効果があるので、皮下組織で水分を保留する性質により保湿効果を有しており、好ましい。
【0018】
通常、油脂の融点は、油脂に含まれる脂肪酸の融点に依存する。例えば、複数の脂肪酸を含む油脂であれば、油脂として測定したときの融点をいい、その融解ピークがシングルピークの場合はその融点が20℃以上であれば20℃において固体である油脂に含まれ、融解ピークが複数現れる場合は、少なくとも一つの融解ピークが20℃以上であれば20℃において固体である油脂に含まれる。
【0019】
前記油脂が天然由来の油脂である場合、飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸のグリセリンエステルとして存在していることがある。グリセリンエステルとして存在することにより、各々の脂肪酸の有する機能を幅広く発揮することができる。また、融点について、融点の高い脂肪酸を含む場合であっても、ブロードな融解ピークを示して低融点側にシフトするので、後述する方法でエマルジョン化し易くなる。具体的には、天然由来の油脂の融点は、20〜82℃であることが好ましい。より好ましくは、25〜60℃である。
【0020】
前記天然由来の油脂としては、例えば、ババスの種子より得られる融点22〜26℃のババス油(通常、カプリル酸4.1〜4.8%、カプリン酸6.6〜7.6%、ラウリン酸44.1〜45.1%、ミリスチン酸15.4〜16.5%、パルミチン酸5.8〜8.5%、ステアリン酸2.7〜5.5%、オレイン酸11.9〜16.1%、リノール酸1.4〜2.8%を含む);shoreastenopteraの種子より得られる融点34〜39℃のボルネオ脂(通常、パルミチン酸18%、ステアリン酸43.3%、オレイン酸37.4%、リノール酸0.2%、アラキジン酸1.1%を含む);カカオの種子より得られる融点32〜35℃のカカオ脂(通常、パルミチン酸24.4%、ステアリン酸35.4%、オレイン酸38.1%、リノール酸2.1%を含む);油ヤシの種子から得られる融点27〜50℃のパーム油(通常、ラウリン酸0〜1%、ミリスチン酸1〜2%、パルミチン酸39〜46%、ステアリン酸3〜5%、オレイン酸38〜44%、リノール酸8〜11%を含む);乳牛の乳から得られる融点25〜35℃のバター(通常、酪酸3.7%、ヘキサン酸2.3%、オクタン酸1.4%、デカン酸2.9%、ラウリン酸3.6%、ミリスチン酸、11.9%、ペンタデカン酸1.7%、パルミチン酸33.1%、ヘプタデカン酸1%、ステアリン酸10.0%、アラキジン酸0.2%、ベヘン酸0.1%、リグノセリン酸0.1%、デセン酸0.3%、ミリストレイン酸1.1%、パルミトレイン酸1.7%、ヘプタデセン酸0.3%、オレイン酸21.8%、エイコセン酸0.2%、リノール酸2.1%、リノレン酸0.5%、イコサトリエン酸0.1%、アラキドン酸0.1%を含む);アカテツ科のシアバターノキの種子の胚から得られる融点25〜45℃のシアバター(通常、オレイン酸38〜50%、ステアリン酸34〜45%、パルミチン酸3〜9%、リノール酸5〜8%、アラキジン酸1〜2%を含む);牛脂;ショートニング(植物油を原料とした食用油、マーガリンから水分と添加物を除いて純度の高い油脂にしたもの);ラード;馬油;シャー脂;ヤシ油などが挙げられる。
【0021】
特に、ヒトや動物の皮膚に接触して使用する場合は、前記油脂の融点は、体温近傍に融解ピークを有する油脂であることが好ましい。具体的には、油脂の融点は、30〜45℃であることが好ましい。融点が上記範囲内にあると、皮膚に接触した時に油脂が軟化または溶融するので、肌への馴染みが良好であり、風合いも柔軟となり、好ましい。
【0022】
前記油脂の融点において、融解ピークがブロードである方が油脂含有レーヨン繊維及び繊維構造物の雰囲気温度の変化に対して安定であり、肌への馴染みが良好であり、風合いも柔軟となり、好ましい。例えば、後述するDSC法により測定される融解ピークがシングルピークである場合、融解ピークにおける半価幅が大きいほどピークがブロードであるといえる。前記油脂の融解ピークにおける半価幅は、3〜20℃であることが好ましい。より好ましくは、5〜15℃である。また、後述するDSC法により測定される融解ピークが複数のピークを有する場合、融解ピークの数は、2〜8であることが好ましい。また、それぞれの融解ピークのうち、最低温度と最高温度の差は、10〜60℃であることが好ましい。このような複数の融解ピークを有する油脂であると、油脂含有レーヨン繊維及び繊維構造物の雰囲気温度の変化に対して安定であり、肌への馴染みが良好であり、風合いも柔軟となり、好ましい。本発明において、「融解ピークにおける半価幅」とは、DSC法により測定される融解ピーク(吸熱ピーク)の頂点Xから温度軸に下ろした垂線と、吸熱ピークのベースラインとの交点をYとしたときに、線分X−Yを二等分する点をMとし、Mを通り温度軸に平行な直線と吸熱曲線との交点をそれぞれN1及びN2としたときに、線分N1−N2の長さ(温度幅)をいう。
【0023】
中でも好ましい油脂はシアバター(shea butter)である。シアバターはアカテツ科のシアバターノキの種子の胚から得られる植物性脂肪であり、常温(20℃)でワックス状の固体である。主にアフリカのナイジェリア、マリ、ブルキナファソ、ガーナで生産されている。食用でもあるが、近年ではハンドクリーム、石鹸、化粧品などに混合されることで広く知られている。シアバターの成分は、ステアリン酸とオレイン酸を含む脂肪酸のグリセリンエステルが主成分で、他にトコロフェノール、カロチノイド、トリテルペンも微量に含まれる。シアバターを用いることにより、ステアリン酸の有する皮脂の保護効果、抗酸化作用、皮脂分の補油効果、オレイン酸の有する角質層保護、乾燥肌改善効果を有する場合がある。
【0024】
シアバターの原料品質は産地、収穫時期、気候条件などにより変動するが、シアバターの脂肪酸組成は、飽和脂肪酸が30〜55質量%、不飽和脂肪酸が45〜70質量%であることが好ましい。上記範囲内にあると、各脂肪酸成分の機能を有効に発揮することができる。
【0025】
シアバターの融点は、ブロードな融解ピークを有しており、35〜40℃であることが好ましい。シアバターの融解ピークにおける半価幅は、5〜15℃であることが好ましい。このように20℃で固体であるシアバターは、後述する方法によりエマルジョン化することができる。
【0026】
また、前記油脂のうち、ヒトの皮脂の脂肪酸組成に近い油脂を用いると、肌への馴染みが良く、好ましい。このような油脂は、飽和脂肪酸としてパルミチン酸を油脂の脂肪酸組成の10質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは、15〜35質量%含む。パルミチン酸は、皮脂腺の増殖を妨げる働きがあり、肌、髪、粘膜等の細胞活性させるビタミンAを安定化させる働きを有している。また、不飽和脂肪酸としてオレイン酸を油脂の脂肪酸組成の10質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは、15〜55質量%含む。上記脂肪酸組成の範囲を満たす油脂としては、牛脂、ショートニング、ココアバター、バター、馬油、ボルネオ脂などが挙げられる。
【0027】
(2)油脂のエマルジョン化
前記油脂は、セルロースを含むビスコース原液に添加して紡糸用ビスコース液とするが、油脂をHLBの異なる乳化剤を併用して乳化させたエマルジョン液として用いることが好ましい。乳化方法としては転相乳化法、強制乳化方法など既知の乳化法を用いることができる。前記乳化剤としては、HLBが相対的に高い第一乳化剤と、HLBが相対的に低い第二乳化剤とを併用する。
【0028】
前記第一乳化剤としては、HLBが16〜19.5、好ましくは17〜19の乳化剤を用いることができる。前記HLB範囲を満たす乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチレン化ルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルスチレン化ルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンβ-ナフチルエーテル、ポリオキシアルキレンひまし油エーテル、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテルなどが挙げられる。特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシエチレンアルケニルエーテルであることが好ましい。前記HLB範囲を満たすポリオキシエチレンアルキル及びポリオキシエチレンアルケニルエーテルは、ポリオキシエチレンとして重合度が好ましくは30〜200、より好ましくは40〜150であり、且つアルキル及びアルケニル鎖の炭素数が好ましくは12〜22、より好ましくは16〜18である。前記第一乳化剤の添加量は、エマルジョンの低温貯蔵安定性も考慮すると、油脂に対して5〜35質量%であることが好ましい。なお、低温貯蔵安定性を要求しない環境下で使用する場合であれば、5〜15質量%であることが好ましい。
【0029】
前記第二乳化剤としては、HLBが6〜12、好ましくは8〜11の乳化剤を用いることができる。前記HLB範囲を満たす乳化剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンβ-ナフチルエーテル、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンベンジルエーテル等を用いることができる。前記HLB範囲を満たすポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンとして重合度が好ましくは1〜8、より好ましくは2〜4で、且つアルキル鎖の炭素数が好ましくは4〜12、より好ましくは6〜8である。前記第二乳化剤の添加量は、エマルジョンの低温貯蔵安定性も考慮すると、油脂に対して2〜25質量%であることが好ましい。なお、低温貯蔵安定性を要求しない環境下で使用する場合であれば、2〜10質量%であることが好ましい。
【0030】
前記HLBの異なる乳化剤を併用することで、乳化良好で且つ安定性良好なエマルジョン液が得られる。第一乳化剤と第二乳化剤の混合比は、質量比で、1:1〜20:1であることが好ましい。より好ましくは1.5:1〜10:1、さらにより好ましくは2:1〜5:1である。HLBの相対的に低い(HLB6〜12)第二乳化剤が油脂の極性に影響を与え、HLBの相対的に高い(HLB16〜19.5)第一乳化剤と併用することにより安定で粒子径の小さいエマルジョンが得られる。なお、本発明における所定のエマルジョンが得られる範囲において、第一乳化剤と第二乳化剤に加えて他の乳化剤を添加してもよい。
【0031】
本発明では前記油脂を乳化する方法としては、異なるHLBの乳化剤を転相乳化する方法であることが好ましい。HLBの高い乳化剤を用いることで、エマルジョンの高温安定性、あるいは耐酸、耐アルカリ性などが向上すると推定される。
【0032】
前記第一乳化剤と前記第二乳化剤のトータル添加量は、エマルジョンの低温貯蔵安定性も考慮すると、油脂に対して7〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは、15〜50質量%である。なお、低温貯蔵安定性を要求しない環境下で使用する場合であれば、7〜30質量%であることが好ましい。より好ましくは10〜20質量%である。一方、乳化剤を増やすことで低温貯蔵安定性が増すことから、特に寒冷地での使用においては前記第一乳化剤と前記第二乳化剤のトータル添加量は30質量%以上であることが特に好ましい。この範囲未満では安定性が良好なエマルジョン液が得られない。前記範囲を超えると精練工程で泡が多く発生し、精練異常の原因となりやすい。
【0033】
前記エマルジョン液には、上述した乳化剤以外に、ポリオキシエチレン・ポリオキシアルキレングリコールブロックポリマー(PAG)を添加してもよい。ポリオキシエチレン・ポリオキシアルキレングリコールブロックポリマーの添加量は、油脂に対して0.5〜3.0質量%であることが好ましい。上記範囲内にあると、エマルジョン液の5℃以下での低温保存安定性をさらに改善できる。
【0034】
前記エマルジョン液におけるエマルジョンの平均粒子径は、0.02〜2μmであることが好ましい。より好ましい平均粒子径は、0.05〜1.5μm、さらに好ましくは0.08〜1.2μm、特に好ましくは0.1〜0.8μmである。平均粒子径が上記範囲内にあると、油脂が微分散され、微小領域を多数含むレーヨン繊維が得られるので、好ましい。平均粒子径は、乳化剤の組成、乳化剤の添加量、及び乳化条件によりコントロールすることができる。また、前記エマルジョン液は、エマルジョンの粒子径が3μm以上の粒子が3%以下であることが好ましい。より好ましくは、1%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下である。エマルジョンの粒子径が上記範囲内にあると、油脂が微分散され、微小領域を多数含むレーヨン繊維が得られるので、好ましい。本発明において、エマルジョンの粒子径及び平均粒子径は、光散乱法で測定・算出したものをいう。
【0035】
前記油脂の融点は60℃以下であると、安定的にエマルジョン液を作製することができ好ましい。
【0036】
本発明においては、前記エマルジョン液に抗酸化剤を添加してもよい。油脂を含有するエマルジョン液に抗酸化剤を混合することによって、油脂の酸化による繊維強度の低下を防止できる。前記抗酸化剤としては、例えば、脂溶性抗酸化剤及び水溶性抗酸化剤のいずれを用いてもよい。前記脂溶性抗酸化剤としては、例えばトコフェロール、β−カロチン、及びユビキノール(CoQ10)等の天然の抗酸化剤、並びにBHT(ジブチルヒドロキシルトルエン)、及びBHA(ブチルヒドロキシアニソール)等の合成抗酸化剤が挙げられる。なかでも、天然抗酸化剤であることが好ましい。前記トコフェロール類としては、天然トコフェロール及び合成トコフェロールのいずれを使用してもよい。前記天然トコフェロールは、一般に植物油等から抽出、濃縮、精製されるもので、光学異性体を含まない(D体のみ)。一方、前記合成トコフェロールは、一般に工業的に合成されたもので、光学異性体はD体とL体が混合した状態のものである。前記合成トコフェロールとしては、例えば酢酸トコフェロール等が挙げられる。特に抗酸化性の観点では、天然トコフェロールであることが好ましい。また、トコフェロール類には、α型、β型、γ型、δ型があり、特に抗酸化性の観点から、δ型トコフェロールを含むことが好ましい。β−カロチン、ユビキノール(CoQ10)、BHT、及びBHAは、トコフェロール類と同等の作用効果がある。前記水溶性抗酸化剤は、例えばアスコルビン酸、イソアスコルビン酸;カテキン、アントシアニン、タンニン、クエルセチン(ルチン、クエルシトリン等の各種配糖体、酵素処理イソクエルシトリン等の酵素処理及び化学処理を加えたものを含む)、ミリシトリン、ミリセチン、イソフラボン等のフラボノイド;クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン等のフェノール酸;リンゴポリフェノール、カカオマスポリフェノール等のポリフェノール;アスタキサンチン、ルテイン等の水に可溶なカルテノイドから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。前記水溶性抗酸化剤を含む植物抽出物は、例えば、茶、ローズマリー、葡萄、柿やヤマモモなどの抽出物であってもよい。上記植物抽出物は、特に制限されないが、例えば、上記植物を粉末にした後、水や含水アルコールなどの溶媒を用いて抽出する植物の溶媒抽出液やそれを濃縮若しくは乾燥したものなどが挙げられる。また、アントシアニンを含む市販の葡萄果汁や、ブドウ果皮色素などを用いてもよい。
【0037】
(3)紡糸条件
紡糸液(ビスコース液)としては、セルロースが7〜10質量%、水酸化ナトリウムが5〜8質量%、二硫化炭素が2〜3.5質量%のビスコース原液を調製して用いるとよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、二酸化チタンなどの添加剤を使用することもできる。紡糸液(ビスコース液)の温度は19〜23℃に保持するのが好ましい。調製したセルロースを含むビスコース原液に、上記のようにHLBの異なる乳化剤を併用して油脂を乳化して得られたエマルジョン液を混合して紡糸用ビスコース液を調製する。
【0038】
前記油脂の添加量は、セルロースに対して0.5〜15質量%の範囲が好ましい。より好ましくは、0.8〜14質量%であり、さらに好ましくは1〜10質量%の範囲である。前記の範囲であれば、皮膚の乾燥、老化防止、オレイン酸による角質層保護、乾燥肌改善、リノール酸による新陳代謝促進、リノレン酸による皮膚の細胞機能正常化などの効果を期待できる。
【0039】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、硫酸を95〜130g/リットル、硫酸亜鉛を10〜17g/リットル、芒硝を290〜370g/リットル含み、温度が45〜60℃であることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、100〜120g/リットルである。紡糸条件として、本発明のレーヨン繊維は、通常の円形ノズルを用いて製造することができる。紡糸ノズルの選定は、目的とする生産量にもよるが、直径0.05〜0.12mmの円形ノズルを1000〜20000ホール有するものが好ましい。
【0040】
前記紡糸ノズルを用いて、上記で得られた紡糸用ビスコース液を紡糸浴中に押し出して紡糸し、凝固再生させる。紡糸速度は35〜70m/分の範囲が好ましい。また、延伸率は39〜50%が好ましい。ここで延伸率とは、延伸前の長さを100%としたとき、延伸後の長さが何%伸びたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.39〜1.50倍となる。
【0041】
上記のようにして得られたレーヨン繊維糸条を所定の長さにカットし、精練処理を行う。精練工程は、通常の方法で、熱水処理、水硫化処理、漂白、酸洗い及び油剤付与の順で行うとよい。
【0042】
その後、必要に応じて圧縮ローラーや真空吸引等の方法で余分な油剤、水分を繊維から除去した後、乾燥処理を施して本発明の油脂含有レーヨン繊維を得ることができる。
【0043】
本発明の油脂含有レーヨン繊維は、繊度が0.3〜6.0dtexであることが好ましい。より好ましくは0.6〜4.0dtexであり、さらに好ましくは0.9〜3.3dtexである。繊度が0.3dtex未満であると、延伸時の単繊維切れが発生しやすい傾向にある。繊度が6.0dtexを越えると、衣料用途には使いにくい恐れがある。
【0044】
本発明の油脂含有レーヨン繊維は、長繊維状(例えば、トウ、フィラメント、不織布等)、短繊維状(例えば、湿式抄紙用原綿、エアレイド不織布用原綿、カード用原綿等)の形態で提供され、繊維構造物を形成することが好ましい。前記繊維構造物としては、例えば、トウ、フィラメント、紡績糸、中綿(詰め綿)、紙、不織布、織物、編物が好ましく、紡績糸、編物、織物及び不織布からなる群から選ばれる一種であることがより好ましい。
【0045】
本発明の繊維構造物は、前記レーヨン繊維が油脂を含むため、風合いが良好である。かかる風合いを詳細に説明すると、本発明の油脂含有レーヨン繊維を用いると、従来のレーヨン繊維に比べて繊維構造物にしたときに表面にヌメリ感があり、且つソフトな風合いが発現するので、肌に優しい風合いで商品に格段の高級感効果が発揮できる(以下において、風合い効果とも記す。)。また、本発明の油脂含有レーヨン繊維では油脂を繊維内に練り込んでいるので、本発明の風合い効果は、従来の繊維構造物の最終仕上げの段階で柔軟剤を付与する、いわゆる後加工仕上げと比較して抜群の洗濯耐久性を有する。
【0046】
本発明の繊維構造物として、例えば、紡績糸とした場合、前記油脂含有レーヨン繊維単独、又はその他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等の他の繊維と混紡、複合することが好ましい。このような紡績糸は、例えば織物や編物に加工されて衣料等に用いることができる。
【0047】
本発明の繊維構造物として、織物や編物とした場合、織物や編物の組織は特に限定されない。例えば、編物では、丸編み、横編み、経編み(トリコット)が、織物では、平織、綾織、繻子織が、本発明の風合い効果がよく発揮できることから好ましい繊維構造物の形態である。
【0048】
本発明の繊維構造物として、例えば、不織布とした場合、前記油脂含有レーヨン繊維単独、又はその他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等の他の繊維と混綿して用いることができる。不織布の形態としては、例えば、湿式不織布(湿式抄紙)、エアレイド不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布などが挙げられる。このような不織布は、例えば、ウェットティッシュ、対人・対物用ワイパー等のウェットシート、水解シート等に用いることができる。また、化粧パフ、吸収体等の衛生シートに用いることができる。
【0049】
本発明の繊維構造物において、他の繊維と混用する場合は、前記油脂含有レーヨン繊維は10質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上である。混用する場合の油脂含有レーヨン繊維の含有量の上限は、90質量%であることが好ましい。油脂含有レーヨン繊維が10質量%未満の場合は、前記したソフトな風合いが得られにくくなる傾向にある。また、90質量%を超える場合は、レーヨン繊維の比率が多くなるため、前記した風合い効果に加えて、吸湿性、放湿性、吸湿発熱性、及びドレープ性が高いが、レーヨン繊維本来の低強度、低乾燥性(乾きにくい)、保温性が低い、低ストレッチ性となる傾向にあり、かかる性能を補うには、他の繊維と複合することが好ましい。
【0050】
前記油脂含有レーヨン繊維に複合する他の繊維は、目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、強度を向上させるにはポリエステル繊維を複合することが好ましく、前記油脂含有レーヨン短繊維とポリエステル繊維を混紡する方法、あるいは前記油脂含有レーヨン繊維とポリエステル繊維を長繊維同士で合撚、交編、交織することで複合することが好ましい。また、汗や洗濯の低乾燥性改善には異形断面ポリエステル(長)繊維を複合することが好ましい。カチオン可染型ポリエステル繊維は、ポリウレタン系弾性繊維と同時に染色する場合に染色堅牢度を高くできるので、好ましい。保温性改善には、ポリアクリル繊維が好ましい。低ストレッチ性改善には、ポリウレタン系弾性繊維が好ましい。発色性アップや屈曲強度改善には、ポリアミド繊維が好ましい。また、コットン(綿)の硬い風合いを改善することやウールの暖かさを加味できるので、かかる繊維を用途、要求に合わせてそれぞれ複合することが好ましい。
【0051】
例えば、本発明の繊維構造物が、前記油脂含有レーヨン繊維を10〜30質量%、ポリアクリル繊維を30〜47質量%、カチオン可染型ポリエステル繊維を30〜45質量%、ポリウレタン系弾性繊維を3〜15質量%含む場合、ヌメリ感があり、ソフトな風合いがあるうえ、吸湿発熱性、保温性、強度、吸水性、乾燥性、ストレッチ性、染色堅牢性、及び風合いの洗濯耐久性に優れることになる。そして、この繊維構造物(例えば編み地)を冬期の薄地ニットインナーなどに用いると、薄く軽くて表面にヌメリ感があり、ソフトな風合いがあり、吸湿発熱性、保温性、強度、吸水性、乾燥性、ストレッチ性、染色堅牢性、及び風合いの洗濯耐久性に優れる商品を得ることができる。
【0052】
以下、図面を用いて説明する。図1Aは本発明の実施例1における油脂含有レーヨン繊維(繊維A)の側面を示す光学顕微鏡写真(倍率:320倍)であり、図1Bはマイクロスコープ(倍率:3000倍)で透過光にて観察した同断面の写真である。図1Aの黒い点が微分散した油脂である。図1Bの繊維断面内の島部分は微小領域部分であり、この微小領域内部に微分散した油脂が存在している。図1A−Bからレーヨン繊維内のセルロースと油脂とは非相溶状態で、且つ前記油脂は前記セルロース中に微分散されていることがわかる。図2Aは、本発明の実施例2における油脂含有レーヨン繊維(繊維B)の側面を示す光学顕微鏡写真(倍率:320倍)であり、図2Bはマイクロスコープ(倍率:3000倍)で透過光にて観察した同断面の写真であり、繊維Aと同様に油脂が繊維内に微分散して存在している。図2A−Bからもレーヨン繊維内のセルロースと油脂とは非相溶状態で、且つ前記油脂は前記セルロース中に微分散されていることがわかる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例で添加量を単に%と表記した場合は、質量%を意味する。
【0054】
(測定方法)
(1)融点及び融解ピークにおける半価幅
示差走査熱量分析計(DSC)を使用し、フローガスとして窒素ガスを30ml/min速度で流し、0℃〜90℃まで昇温速度5℃/分で測定し、吸熱ピークの極小点を融点(℃)として求めた。また、融解ピークにおける半価幅は、融解ピーク(吸熱ピーク)の頂点と、融解ピーク(吸熱ピーク)の頂点から温度軸に下ろした垂線と、吸熱ピークのベースラインとの交点を結ぶ線分を引き、前記線分を二等分する点を通り温度軸に平行な直線が吸熱曲線と交わる二つの交点を結ぶ線分の長さ(温度幅)から求めた。
(2)赤外線吸収(IR)測定
JASCO製FT−IR4100を使用し、ATR法にて測定した。
(3)平均粒子径
(株)堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA−950V2を使用し、測定した。
【0055】
(製造例1〜4)
[エマルジョン液の調製]
油脂として下記表1に示す脂肪酸組成を有し、且つ融点が38.4℃、融解ピークにおける半価幅が7.75℃である精製シアバター(ガーナ産、アマックス(株)製)を、乳化剤として下記表2に示す乳化剤を用い、下記表2に示す配合割合で油脂と乳化剤を混合して、製造例1〜4のエマルジョン液を調製した。なお、前記油脂の脂肪酸組成は、飽和脂肪酸が45.9%であり、不飽和脂肪酸が53%であった。また、製造例1〜4のエマルジョン液は、20質量%の油脂を含んでおり、乳化剤の油脂に対するトータル添加量は15質量%であった。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
上記表2のとおり、製造例1〜4では、乳化剤として、HLBの異なるポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することにより、油脂をエマルジョン化してエマルジョン液を調製することができた。特に、製造例1、2、4のエマルジョン液は、エマルジョンの平均粒子径が小さく、微分散されていた。製造例3のエマルジョン液は、エマルジョンの平均粒子径が大きいため、2〜3週間静置すると凝集を起こすが、凝集する前であれば十分に使用できるレベルであった。
【0059】
(実施例1)
[紡糸用ビスコース液の調製]
製造例4で調製したエマルジョン液を、油脂含有量がセルロースに対して3質量%となるように、原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.7質量%を含むビスコース原液を用いた。
【0060】
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度60m/分、延伸率50%で紡糸して、繊度1.4dtexのシアバター含有レーヨン繊維を得た。第一浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.06mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れ等の不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
【0061】
[精練条件]
上記で得られたビスコースレーヨンの糸条を、繊維長38mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、油剤を付与した後圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、その後、乾燥処理(60℃、7時間)を施して、繊維Aを得た。
【0062】
(実施例2)
製造例1で得られたエマルジョン液を、油脂含有量がセルロースに対して1質量%となるように、原料ビスコースへ添加した以外は実施例1と同様にして繊維Bを得た。
【0063】
得られた繊維A及び繊維Bの顕微鏡観察結果を図1及び図2に示した。図1A及び図2Aの繊維側面の顕微鏡写真において黒点が微分散した油脂である。図1B及び2Bの繊維断面の顕微鏡写真において、繊維断面内の島部分は微小領域部分であり、この微小領域内部に微分散した油脂が存在していると考えられる。また、実施例のレーヨン繊維中にシアバターが存在していることは、図4〜図6で確認した。図4はレギュラーレーヨン繊維の赤外吸収曲線データ、図5はシアバターの赤外吸収曲線データ、図6は実施例2で得られた繊維Bの赤外吸収曲線データである。これらを比較すると図6の2856.06cm-1(−(CH2n−)の部分の吸収波形、及び1749.12cm-1(−COOH)の部分の吸収波形が図4のレギュラーレーヨン繊維には見られず、図5のシアバターの赤外吸収曲線データに見られることから、繊維B中にシアバターが存在していることが確認できた。さらに官能(触感)試験で、繊維A及び繊維Bの風合いを評価したところ、油脂に起因する柔らかさとヌメリ感の良さが確認できた。
【0064】
(比較例1)
油脂は添加しない以外は実施例1と同様に実施して繊維Cを得た。得られた繊維Cを繊維Aと同様に顕微鏡で観察したが、油脂部分は観察されなかった(図示無)。
【0065】
以上の実施例1〜2、比較例1の結果をまとめて、下記表3に示した。
【0066】
【表3】

【0067】
(実施例3)
シアバターは産地、収穫時期、気候条件などによって原料品質が変動するが、本実施例では、実施例1〜2とは産地と脂肪酸組成が異なるシアバターを用いて作用、効果を確認した。具体的には、油脂の脂肪酸組成が、飽和脂肪酸35.2%、不飽和脂肪酸63.5%である下記表4に示す脂肪酸組成の精製シアバター(ウガンダ産、アマックス(株)製)を用いた。前記油脂30質量%に、乳化剤を油脂に対してトータル含有量が15質量%になるように、上記表2に示す配合割合で添加し、製造例5のエマルジョン液を調製した。上記表2のとおり、製造例5では、乳化剤として、HLBの異なるポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することにより、油脂をエマルジョン化してエマルジョン液を調製することができた。また、製造例5のエマルジョン液は、エマルジョンの平均粒子径が小さく、微分散されていた。そして、製造例5のエマルジョン液を原料ビスコースへ油脂含有量がセルロースに対して3質量%となるように添加した以外は繊維Aと同様にして繊維Dを得た。
【0068】
【表4】

【0069】
得られた繊維Dを官能(触感)試験で風合いを評価したところ、油脂に起因する柔らかさとヌメリ感の良さが確認できた。
【0070】
(製造例6)
上記表1に示す脂肪酸組成を有する精製シアバターに、下記表5に示す配合割合で乳化剤などを混合して、製造例6のエマルジョン液を調製した。製造例6のエマルジョン液は、20質量%の油脂を含んでおり、乳化剤の油脂に対するトータル添加量は、第1乳化剤と第2乳化剤のトータル添加量が45質量%、他の乳化剤(PAG)を含めると47質量%であった。また、PAG(日本乳化剤製商品名「Newcol 3280」)を油脂に対して2質量%添加した。
【0071】
【表5】

【0072】
(製造例7)
油脂として食用牛脂(ミヨシ油脂社製の食用牛脂)を用い、上記表5に示す配合割合で油脂と乳化剤などを混合して、製造例7のエマルジョン液を調製した。下記表6に食用牛脂の一般的な脂肪酸組成を示した。
【0073】
【表6】

【0074】
前記食用牛脂の試験管での目視による融点は、46℃であった。示差走査熱量分析計DSC3100SA(ブルカーエイエックスエス株式会社製)を用い、昇温速度1℃/分で10℃から80℃まで昇温して測定したDSC法での融解ピークは、19.9℃、32.1℃、35.4℃、38.9℃、42.7℃、及び44.4℃の複数のピークを有しており、最高ピーク温度と最低ピーク温度の差は、24.5℃であった。
【0075】
(製造例8)
油脂としてショートニング(ミヨシ油脂社製のショートニングエンブレム)を用い、上記表5に示す配合割合で油脂と乳化剤などを混合して、製造例8のエマルジョン液を調製した。
【0076】
前記ショートニングの試験管での目視による融点は、40.5℃であった。示差走査熱量分析計DSC3100SA(ブルカーエイエックスエス株式会社製)を用い、昇温速度1℃/分で10℃から80℃まで昇温して測定したDSC法での融解ピークは、12.1℃、40.2℃、43.6℃の複数のピークを有しており、最高ピーク温度と最低ピーク温度の差は、31.5℃であった。
【0077】
上記表5のとおり、製造例6〜8では、乳化剤として、HLBの異なるポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することにより、油脂をエマルジョン化してエマルジョン液を調製することができた。また、乳化剤の含有量を多くすることにより、エマルジョンの平均粒子径が0.2μm以下と小さく、微分散されており、5℃での低温貯蔵安定性も良好であった。
【0078】
(実施例4)
製造例6で得られたエマルジョン液を、油脂含有量がセルロースに対して3質量%となるように、原料ビスコースへ添加した以外は実施例1と同様にして繊維Eを得た。
【0079】
(実施例5)
製造例7で得られたエマルジョン液を、油脂含有量がセルロースに対して0.5質量%となるように、原料ビスコースへ添加した以外は実施例1と同様にして繊維Fを得た。
【0080】
(実施例6)
製造例8で得られたエマルジョン液を、油脂含有量がセルロースに対して10質量%となるように、原料ビスコースへ添加した以外は実施例1と同様にして繊維Gを得た。
【0081】
得られた繊維F、Gの顕微鏡観察結果を図7及び図8に示した。繊維F、Gにおいても、繊維A、B、Dと同様に、繊維断面内の島部分は微小領域部分であり、この微小領域内部に微分散した油脂が存在していると考えられる。
【0082】
繊維A、F、Gにおいてレーヨン繊維中、及び製造例4、7、8のエマルジョン中に油脂が存在していることを、ヨウ素価を測定することで確認し、その結果を下記表7に示した。
(1)原綿の場合、原綿の水分率を測定する。
(2)油脂量でおよそ0.1gとなるように、原綿又はエマルジョンを精秤し、三角フラスコに入れる。
(3)シクロヘキサン20mlを加えて撹拌し、さらにウィス試薬(一塩化ヨウ素の酢酸溶液)10mlとイオン交換水20mlを加える。
(4)ときどき撹拌しつつ、30分常温暗所にて静置する。
(5)10質量%のヨウ素化カリウム溶液20mlと、イオン交換水20mlを加えた後、0.1Nのチオ硫酸ナトリウムで滴定する。
(6)液の色が薄くなってきたらデンプン指示薬を加え、色が消失したところを終点とする。
(7)サンプルを入れずに同様の試験を行い、空試験とする。
(8)下記式を用いてヨウ素価を算出する。
繊維のヨウ素価[g/100g]=(空試験滴定量−滴定量)×1.269/綿絶乾質量
油脂のヨウ素価[g/100g]=(空試験滴定量−滴定量)×1.269/油脂質量
上記式において、1.269は濃度換算係数(0.1Nチオ硫酸ナトリウム1mlに相当するヨウ素の量[mg]である。
【0083】
【表7】

【0084】
また、官能(触感)試験で、繊維E、F、Gの風合いを評価したところ、油脂に起因する柔らかさとヌメリ感の良さが確認できた。特に、対セルロース含有量の多い繊維E及びGはヌメリ感に優れた繊維であった。
【0085】
実施例4(繊維E)について、以下の方法で30回洗濯での洗濯耐久性を評価した。
【0086】
[洗濯耐久性]
(1)洗濯
試験試料:原綿(繊維E)
洗濯方法:JIS L 0217(103)に準じて測定した。
使用洗剤:中性洗剤(JAFET標準洗剤)
洗濯回数:0、1、5、10、30回
(2)油脂抽出
(I)試料約2.3gを精秤し、底部に小さい穴の空いた試料管に詰める。
(II)底部の穴を塞ぎ、抽出溶媒としてメタノール10mlを試料管に注加し、一定時間静置し浸透させてからプレス装置によりメタノール処理液を抽出する。
(III)抽出したメタノールは加熱器上にセットしたアルミカップで受ける。カップ上の液を蒸発させ、乾いた抽出物を秤量する。
上記の操作(II)〜(III)を1サイクルとし、同じ試料を使用して抽出を7回繰り返した。測定はn=2で行い、平均値を測定結果とした。
(3)評価
1回洗濯時の抽出回数と抽出率の結果を図11に示した。図11からわかるように、繊維中の油脂は一回の抽出操作で全てが抽出されるのではなく、徐々に抽出されることが分かった。7回抽出で油脂がほとんど抽出されることが分かったので、抽出を7回繰り返したデータを用いて、洗濯回数による油脂抽出率の比較を行い、洗濯耐久性を評価した。
【0087】
図12に、実施例4の繊維Eの洗濯回数毎に7回抽出操作を繰り返した時の油脂抽出率を示した。図12から、洗濯0回(ブランク)の原綿は、精錬工程で付与した工程油剤が0.2%付着しているので、その分油脂の抽出量が多くなっているが、洗濯前後で抽出される油脂の量はほとんど変わらず、30回洗濯後でも油脂(シアバター)は脱落することなく繊維内部に存在していることが確認できた。
【0088】
(実施例7)
実施例3と同様の方法でシアバターをセルロースに対して3質量%含む油脂含有レーヨン繊維(繊度1.1dtex、繊維長38mm)を作製した。得られた油脂含有レーヨン短繊維(繊度1.1dtex、繊維長38mm)35質量%と、ポリアクリル短繊維(繊度1.0dtex、繊維長38mm)65質量%を混紡し、毛番手80番の紡績糸を得た。得られた紡績糸と、断面ミックス(丸断面と6角断面の混合断面)のカチオン可染型ポリエステル長繊維84dtex(48フィラメント)と、ポリウレタン系弾性繊維28dtexとを、釜径34吋、ゲージ数28ゲージ、ウェル40本/吋、コース62本/吋で交編してベア天竺の丸編み地に編成、生機を得た。次いで、この生機を180℃で40秒間ピンテンターで生機セットした。次いで精錬、乾燥した後、ポリエステル長繊維とポリアクリル短繊維サイドを黒のカチオン染料(日本化薬株式会社製のKayacryl Black R―ED、8%o.w.f)で、110℃で40分間染色し、次いでレーヨン繊維サイドを、黒の反応染料(住友化学株式会社製のSumifix Black B、4%o.w.f)で60℃で40分間染色し、仕上げた。仕上げ反は幅155cm、目付145g/m2、ウェル48本/吋、コース61本/吋、編み地全体における繊維の混率が本発明の油脂含有レーヨン繊維18質量%、ポリアクリル繊維34質量%、カチオン可染型ポリエステル長繊維39質量%、ポリウレタン系弾性繊維10質量%であった。
【0089】
(比較例2)
油脂含有レーヨン繊維に替えて通常のレーヨン繊維を用いた以外は、実施例7と同様にして編み地を得た。
【0090】
実施例7及び比較例2の編み地の風合い、吸湿発熱性、残留水分率が30%以下になる時間(速乾性)及び保温率について以下のように評価した。
【0091】
(1)風合い
風合いについては、下記のような5段階で官能評価を行った。具体的には、被験者10名で、5段階のポイント積算方式で官能評価を行った。
5点:ヌメリ感がありソフトな風合いで極めて好ましい
4点:ヌメリ感がありソフトな風合いで好ましい
3点:ヌメリ感、ソフトな風合いは普通
2点:ヌメリ感が少なくソフトな風合いに欠ける
1点:ヌメリ感がなく、ハードな風合いであり、劣る
【0092】
(2)吸湿発熱性
密閉した容器の中に長さ約10cm、幅約10cmの大きさの試料を取り付け、試料の温度が測定できるように表面温度計センサーを取り付け記録計で読み取る。試料温度測定開始後に、測定室内の20℃下の室内雰囲気中にシリカゲル容器を通過させた乾燥空気(湿度10%RH以下)を送入して試料を乾燥させた。試料を30分以上乾燥させ試料温度が安定した時の表面温度Aに対して、その後イオン交換水を通した湿度約90%RHの空気を約30分間送入している間の試料表面温度最高到達温度Bを読み取り、その差B−Aを吸湿発熱性能(℃)とした。
【0093】
(3)残留水分率が30%以下になる時間(速乾性)
長さ約10cm、幅約10cmの大きさの試料を20℃、65%RH下の雰囲気中で24時間放置した後に質量G(g)を読み取り、同雰囲気中でこの試料に約0.3gの水を滴下させ、滴下直後の質量Go(g)を読み取り、滴下後の経過時間毎の質量Gx(g)を読み取る。滴下直後の質量に対して下記式で求めた残留水分率(%)が30%になった時間(分)を求めた。
残留水分率(%)={(Gx−G)/(Go−G)}×100
【0094】
(4)保温率
(株)加藤鉄工所の精密迅速熱物性測定装置「サーモラボII型」(KES-F7)を用い、熱版温度40℃の熱版表面上に試料を接触する状態に置き、5分間ウォーミングアップを行い安定状態にした。安定状態確認後、測定を開始し、60秒間の消費電力Wを読み取った。別に熱版に試験片を取り付けない状態で熱版温度40℃で5分間ウオーミングを行い安定状態確認後、測定を開始し、60秒間の消費電力Woを読み取った。これらで求めた消費電力WoとWの値を用い、下記式で保温率(%)を求めた。
保温率(%)={(Wo−W)/Wo}×100
【0095】
上記官能評価の結果、実施例7は極めて風合いがソフトであり、高級感溢れる黒のベア天竺編み物であった。風合いのポイント積算は10名中8名が5点、2名が4点であり、トータル48点の高得点であった。また、洗濯30回実施した後の風合いについても同様に評価したが、風合いの変化が殆どなく、極めて高い洗濯耐久性を有していた。また、実施例7の編み物は、吸湿発熱性が2.3℃、保温率が18.4%、速乾性が32分であった。また、破裂強力、吸水性、ストレッチ性、染色堅牢性についても全く問題ないレベルのものであった。実施例7の編み物を用いると、軽く暖かく、かかる風合いと高機能性を有する、素晴らしい冬物インナーウェアーが得られた。
【0096】
一方、比較例2のニットは、硬く、ヌメリ感に乏しい、風合いが劣るものであった。風合いの評価の詳細は10名中1名が3点、7名が2点であり、2名が1点でありトータル19点の低得点であった。肌触り風合いが良いものではなく、冬物インナーウェアーの生地としては不満足であった。
【0097】
(実施例8)
実施例3と同様の方法でシアバターをセルロースに対して3質量%含む油脂含有レーヨン繊維(繊度1.1dtex、繊維長38mm)を作製した。得られた油脂含有レーヨン短繊維(繊度1.1dtex、繊維長38mm)60質量%とコットン(綿)短繊維(繊度約2.5dtex、繊維長約38mm)40質量%を混紡し、綿番手30番の紡績糸を得た。この紡績糸と、ポリアミド長繊維(ナイロン6)44dtex(17フィラメント)と、ポリウレタン系弾性繊維22dtexとを、交編して靴下に編成、生機を得た。次いで、得られた生機において、ポリアミド繊維サイドを赤の含金酸性染料(ハンツマン社製のNylosan Red F―4BL、3%o.w.f)で、98℃で20分間染色し、次いでレーヨン短繊維とコットン短繊維の混紡糸サイドを、赤の反応染料(住友化学株式会社製のSumifix Supura Red E―XL、3%o.w.f)で、60℃で40分間染色し、120℃でセットし、仕上げた。仕上げた靴下全体における繊維の混率は、油脂含有レーヨン繊維47.4質量%、コットン繊維31.6質量%、ポリアミド繊維17.9質量%、ポリウレタン系弾性繊維3.1質量%であった。
【0098】
(比較例3)
油脂含有レーヨン繊維に替えて通常のレーヨン繊維を用いた以外は、実施例8と同様にして靴下を得た。
【0099】
実施例8及び比較例3の靴下の風合い、吸湿発熱性及び保温率を上述した評価方法で評価した。
【0100】
官能評価の結果、実施例8は極めて風合いがソフトであり、高級感のある赤の靴下であった。風合いの詳細は10名中9名が5点、1名が4点であり、トータル49点の高得点であった。また、洗濯30回実施した後の風合いについても同様に評価したが、風合いの変化が殆どなく、極めて高い洗濯耐久性を有していた。また、実施例8の靴下は、吸湿発熱性が2.7℃、保温率が24.6%であった。また、破裂強力、吸水性、ストレッチ性、染色堅牢性等についても全く問題ないものであった。軽く暖かく、ソフトな風合いと保温性に優れた、秋冬用に最適な素晴らしい靴下であった。
【0101】
一方、比較例3の靴下は、硬く、ヌメリ感に乏しい、風合いが劣るものであった。風合いの詳細は10名中8名が2点であり、2名が1点でありトータル18点の低得点であった。肌触り風合いが硬い、平凡な靴下であった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の油脂含有レーヨン繊維は、例えば、紡績糸、編物、織物、不織布、トウ、フィラメント、中綿(詰め綿)、紙などの繊維構造物に用いることができる。また、本発明の繊維構造物は、衣料、化粧パフ、吸収体等の衛生材料、ウェットティッシュ、対人・対物ワイパー等のウェットシート、水解性シート、ドライワイパー、フィルターなどに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーヨン繊維内に油脂が混合された油脂含有レーヨン繊維であり、
前記油脂は、脂肪酸及びそのグリセリンエステルから選ばれる少なくとも一つの脂肪酸成分を含み、且つ20℃において固体であり、
前記レーヨン繊維内のセルロースと前記油脂とは非相溶状態で、且つ前記油脂は前記セルロース中に微分散されていることを特徴とする油脂含有レーヨン繊維。
【請求項2】
前記油脂は、融点が20〜82℃の天然由来の油脂である請求項1に記載の油脂含有レーヨン繊維。
【請求項3】
前記油脂は、シアバターである請求項1又は2に記載の油脂含有レーヨン繊維。
【請求項4】
前記油脂の配合量が、セルロースに対して0.5〜15質量%の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の油脂含有レーヨン繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の油脂含有レーヨン繊維の製造方法であって、
脂肪酸及びそのグリセリンエステルから選ばれる少なくとも一つの脂肪酸成分を含み、且つ20℃において固体である油脂に、HLBが16〜19.5である乳化剤及びHLBが6〜12である乳化剤を加えて、平均粒子径が0.02〜2μmのエマルジョン液を調製し、
セルロースを含むビスコース原液に、前記エマルジョン液を混合して紡糸用ビスコース液を調製し、
前記紡糸用ビスコース液をノズルより押し出して紡糸し、凝固再生することを特徴とする油脂含有レーヨン繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の油脂含有レーヨン繊維を含む繊維構造物。
【請求項7】
前記油脂含有レーヨン繊維を10〜90質量%含み、
他の繊維として、ポリエステル繊維、カチオン可染型ポリエステル繊維、ポリアクリル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン系弾性繊維、コットン及びウールからなる群から選ばれる少なくとも一つの繊維を複合した請求項6に記載の繊維構造物。
【請求項8】
前記油脂がシアバターであり、
前記油脂含有レーヨン繊維を10〜30質量%、ポリアクリル繊維を30〜47質量%、カチオン可染型ポリエステル繊維を30〜45質量%、及びポリウレタン系弾性繊維を3〜15質量%含む請求項6又は7に記載の繊維構造物。
【請求項9】
前記繊維構造物が、紡績糸、編物、織物及び不織布からなる群から選ばれる形態を有する請求項6〜8のいずれか1項に記載の繊維構造物。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2012−97399(P2012−97399A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222209(P2011−222209)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(591264267)ダイワボウレーヨン株式会社 (13)
【出願人】(390014856)日本乳化剤株式会社 (26)
【Fターム(参考)】