説明

油脂用結晶化抑制剤

【課題】 保存温度が5℃程度の低温および15〜35℃の場合に、油脂成分の結晶化を抑制する油脂用結晶化抑制剤の提供。
【解決手段】 炭素数14〜18の飽和脂肪酸二種と、炭素数6〜12の飽和脂肪酸および炭素数18の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上と、を構成脂肪酸としており、エステルを構成する全ての脂肪酸における炭素数14〜18の脂肪酸のモル比率が0.6以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルからなる油脂用結晶化抑制剤。この抑制剤におけるポリグリセリンの平均重合度は、2〜15であると良く、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は、80%以上であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の成分が結晶化することを抑制する結晶化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ用油やドレッシングに使用されている油脂を5℃以下の寒冷場所で保管すると、一部の成分が結晶化により析出して油脂が白濁するため、油脂の外観を損ねて商品価値を下げることになる。更に、結晶化が著しい場合には、油脂の流動性が損なわれて、容器からの採取が困難となる問題が生じる。
【0003】
このような油脂成分の結晶化防止のため、ポリグリセリン脂肪酸エステルが結晶化抑制剤として使用されている。例えば特許文献1に結晶化抑制剤が開示されている。その抑制剤は、ヨウ素価が10未満、水酸基価が60以下、構成脂肪酸にラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびアラキジン酸から一種または二種以上が選択されているポリグリセリン脂肪酸エステルである。この結晶化抑制剤は0℃程度の低温における結晶化を抑制することが、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平10-245583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パームオレイン油を15〜35℃で保管した場合にも成分が結晶化するため、白濁や容器からの採取が困難となる問題が生じる。この問題を解決するため、油脂を低温保存する場合に使用される結晶化抑制剤を用いても、15〜35℃における結晶化抑制が十分ではない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、5℃程度の低温で油脂を保存する場合だけでなく、15〜35℃で油脂を保存する場合であっても、油脂成分の結晶化抑制効果を発揮する油脂用結晶化抑制剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、油脂の結晶析出を抑制するポリグリセリン脂肪酸エステルからなる油脂用結晶化抑制剤であって、前記エステルを構成する脂肪酸は、炭素数14〜18の飽和脂肪酸から選択される二種と、炭素数6〜12の飽和脂肪酸および炭素数18の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上とからなり、前記エステルを構成する全ての脂肪酸において、前記炭素数14〜18の脂肪酸のモル比率が0.6以上であることを特徴とする油脂用結晶化抑制剤。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成された本発明に係る結晶化抑制剤によれば、5℃程度の低温において油脂成分の結晶化を抑制し、その上、15〜35℃の温度においても油脂成分の結晶化を抑制する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施形態に基づき本発明を詳細に説明する。本実施形態における結晶化抑制剤は、炭素数14〜18の飽和脂肪酸と、炭素数6〜12の飽和脂肪酸および/または炭素数18の不飽和脂肪酸と、を構成脂肪酸とするポリグリセリン脂肪酸エステルである。このポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は、12以下であると良い。ヨウ素価は、110以下であると良く、好ましくは40以下、更に好ましくは20以下である。ケン化価は、155〜260であると良い。ここで、酸価とは、油脂1gに含まれている遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。ヨウ素価とは、油脂100gに付加することができるヨウ素のグラム数である。ケン化価とは、油脂1gを完全に加水分解するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。
【0009】
炭素数14〜18の飽和脂肪酸は、二種類の直鎖飽和脂肪酸が選択される。例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびステアリン酸から二種選択されていると良い。好適には、ステアリン酸を必須としていることである。この炭素数14〜18の飽和脂肪酸のモル比率は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する全ての脂肪酸中において、0.6以上であり、更に好ましくは0.75以上である。このようなモル比率であると、15〜35℃における結晶化抑制効果が顕著に発揮される。
【0010】
炭素数6〜12の飽和脂肪酸および/または炭素数18の不飽和脂肪酸は、直鎖脂肪酸が一種または二種以上選択される。炭素数6〜12の飽和脂肪酸を選択する場合、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸およびラウリン酸から一種または二種以上選択されていると良い。好ましくは、カプリル酸及びカプリン酸から選択されることである。炭素数18の不飽和脂肪酸を選択する場合、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸から一種または二種以上選択されていると良い。炭素数6〜12の飽和脂肪酸および/または炭素数18の不飽和脂肪酸のモル比率は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する全ての脂肪酸中において、0.4以下であり、好ましくは0.25以下である。
【0011】
結晶化抑制剤を構成するポリグリセリンは、特に限定されるものではないが、平均重合度が6〜15であると良い。ここで平均重合度(n)とは、水酸基価から算出される値であり、末端分析法によって算出される値である。詳しくは、次式(式1)及び(式2)から平均重合度が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
上記(式2)中の水酸基価とは、エステル化物中に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのエステル化物に含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、1996年度版」に準じて算出される。
【0012】
本実施形態におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸と水酸化ナトリウムとの混合液を、加熱してエステル化すると良い。また、公知の方法によりエステル合成したものであっても良い。エステル化は、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が80%以上、好ましくは90%以上になるまで行われる。エステル化率が80%以上であると、結晶化抑制効果が極めて優れたものとなる。ここでエステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)としたとき、(M/(n+2))×100=エステル化率(%)で算出される値である。ここで水酸基価とは、上述の水酸基価と同様に算出される値である。
【0013】
本実施形態のポリグリセリン脂肪酸エステルは、油脂に混合することによって使用される。油脂へのポリグリセリン脂肪酸エステルの混合量は、特に限定されるものではなく、0.001〜5重量%であると良い。また、5℃以下において結晶が析出する油脂だけでなく、15〜35℃において結晶が析出する油脂にも使用することが可能である。15〜35℃において結晶が析出する油脂としては、例えば、パームオレインを主成分としている油脂が挙げられる。
【0014】
本実施形態のエステルが混合されている油脂は、結晶化が抑制されたものとなる。更に、油脂の劣化の指標となる過酸化物価の上昇が抑制され、その上、油脂の曇点の上昇もないことが確認されている。
【0015】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
油脂成分の結晶化抑制試験を各種ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用して行なった。試験の詳細は以下の通りである。
【0017】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
モル比がデカグリセリン(阪本薬品工業株式会社製):混合脂肪酸=1:11〜13の混合物を調製した。この混合物に水酸化ナトリウムを0.01%添加し、その後、240〜250℃でエステル化して実施例および比較例のポリグリセリン脂肪酸エステルを調製した。なお、エステル化を、窒素気流化において攪拌しながら、酸価が10以下となるまで行なった。
【0018】
(試験方法)
ヨウ素価61.5、曇点6.0℃のパームオレイン(日清製油株式会社製)50gを80℃で溶解し、次に、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、または比較例2のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加混合した後、5℃または20℃で保存した。このときのポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量を、5℃の保存では0.1wt%とし、20℃の保存では0.05wt%とした。そして、保存中、パームオレイン中に目視で結晶を確認することができた時間を測定した。目視観察の時間間隔を、5℃の保存では1時間毎とし、20℃の保存では1日毎とした。
【0019】
試験結果を表1に示す。表1中、脂肪酸の混合比は、ポリグリセリン脂肪酸エステルの調製に使用した脂肪酸と、脂肪酸混合物における各脂肪酸のモル比を表したものである。参考例は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加しなったパームオレインの結晶析出時間である。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示す実施例および比較例の結晶析出時間を比較すると、実施例は、20℃保存における結晶析出時間が長期化している。また、実施例および参考例の結晶析出時間を比較すると、実施例は、5℃および20℃保存における結晶析出時間が長期化している。しかし、比較例1と参考例を比較すると、5℃保存における結晶析出時間に差は認められず、20℃保存においても差が小さい。また、比較例2と参考例を比較すると、比較例2は、5℃保存における結晶析出時間が長期化しているが、20℃保存における結晶析出時間が半減している。以上のことから、特定の構成脂肪酸が所定範囲の構成比率となったポリグリセリン脂肪酸エステルが、5℃および20℃で保存したパームオレイン中の結晶析出を抑制可能であることが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂の結晶析出を抑制するポリグリセリン脂肪酸エステルからなる油脂用結晶化抑制剤であって、
前記エステルを構成する脂肪酸は、
炭素数14〜18の飽和脂肪酸から選択される二種と、
炭素数6〜12の飽和脂肪酸および炭素数18の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上とからなり、
前記エステルを構成する全ての脂肪酸において、前記炭素数14〜18の脂肪酸のモル比率が0.6以上である
ことを特徴とする油脂用結晶化抑制剤。
【請求項2】
前記ポリグリセリンの平均重合度が2〜15であり、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が80%以上である請求項1に記載の結晶化抑制剤。
【請求項3】
請求項1に記載の結晶化抑制剤を含有する油脂。

【公開番号】特開2006−274126(P2006−274126A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97506(P2005−97506)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】