説明

油脂組成物

【課題】より風味の優れた油脂組成物の提供。
【解決手段】ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量X(ppm)と、水酸基価Y(mg−KOH/g)が次式(1)の関係を満たし、油脂を構成する脂肪酸中のリノール酸のトランス体含有率(%)の値が2以上である油脂組成物。
(数1)
Y≧1.25X+4 (但し、Y≦88)(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味が改善された油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は身体の栄養素やエネルギーの補給源(第1次機能)として欠かせないものであるが、加えて、味や香りなど嗜好性を満足させる、いわゆる感覚機能(第2次機能)を提供するものとして重要である。さらに、ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂は体脂肪燃焼作用等の生理作用(第3次機能)を有していることが知られている。
【0003】
植物の種子、胚芽、果肉などから圧搾されたままの油脂には脂肪酸、モノアシルグリセロール、有臭成分等が含まれている。また、油脂は加工する際にエステル交換反応、エステル化反応、水素添加処理などで加熱工程を経ることで、微量成分が発生し、風味が低下する。これら油脂を食用油として使用するためには、これら微量成分を除去する事による風味改善が必要である。その手段として、高温減圧下で水蒸気と接触させる、いわゆる脱臭処理が一般的に行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−68398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記脱臭処理は通常高温で行われ、これにより有臭成分が留去され、油脂の風味が良好となる。一方、本発明者らは、高温の脱臭処理により得られた油脂組成物のなかに、脱臭処理により除去される有臭成分とは別に、僅かに重たく感じる風味を有するものが生じているという課題を発見した。この現象は熱履歴の高い油脂組成物ほど顕著である。そして、脱臭処理の条件を変化させても、一概に風味が良好になるというものではないということも判明した。
なお、本明細書において油脂組成物の「風味の重さ」とは、「ねっとりと絡みつくような口中感覚」をいい、「油っぽさ」とも表現されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記一定の熱履歴を受けた油脂組成物のなかに、僅かに重たく感じる風味を有するものが生じているという課題について検討を行ったところ、かかる油脂組成物では、ドイツ脂質科学会(以下、「DGF」ともいう)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSが増加していて、このMCPD−FSの油脂組成物中の含有量(ppm)が前記「僅かに重たく感じる風味」と高い相関を持つことを見出した。そして、油脂組成物中のMCPD−FS含有量(ppm)から一定の式により求められる値よりも、油脂組成物の水酸基価の値が大きい場合に、当該油脂組成物が優れた風味となることを見出した。なお、油脂は加熱により不飽和脂肪酸中の二重結合の異性化が生じ、トランス体が生成し増加するため、本発明者らは、熱履歴の指標としてトランス体含有率を用いた。
【0007】
すなわち、本発明は、ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量X(ppm)と、水酸基価Y(mg−KOH/g)が次式(1)の関係を満たし、かつ油脂を構成する脂肪酸中のリノール酸のトランス体含有率(%)の値が2以上である油脂組成物を提供するものである。
(数1)
Y≧1.25X+4 (但し、Y≦88)(1)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、風味の優れた油脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の油脂組成物は、植物性油脂、動物性油脂のいずれを原料とするものでもよい。具体的な原料としては、例えば、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米糠油、コーン油、パーム油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、シソ油等の植物性油脂、更に魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂、あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。
【0010】
本発明の油脂組成物は、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、及びトリアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものである。油脂組成物中、モノアシルグリセロールの含有量は風味を良好とする点から、0〜30質量%(以下、単に「%」とする)が好ましく、更に0.1〜28%、特に0.2〜25%、殊更0.5〜20%が好ましい。ジアシルグリセロールの含有量は、2〜95%が好ましく、更に3〜90%、特に4〜50%、殊更5〜20%であるのが生理効果、油脂の工業的生産性の点から好ましい。トリアシルグリセロールの含有量は5〜98%が好ましく、更に9.9〜96.9%、特に49.8〜95.8%、殊更75〜94.5%であるのが油脂の工業的生産性の点から好ましい。
【0011】
本発明の油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸は、特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、80〜100%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、より好ましくは90〜100%、さらに93〜100%、特に93〜98%、殊更94〜98%であるのが外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、さらに16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。
【0012】
天然に存在する二重結合を有する不飽和脂肪酸は一般にシス型であるが、熱履歴によりトランス型に異性化を起こす場合がある。本発明の油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸のうち、オレイン酸がトランス型となったもの、すなわちエライジン酸の含有量は、生理効果の点から1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
【0013】
また、油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は20%未満であることが好ましく、より好ましくは0〜10%、さらに0〜7%、特に2〜7%、殊更2〜6%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、特に16〜22のものが好ましい。
【0014】
本発明の油脂組成物は、ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量X(ppm)と、水酸基価Y(mg−KOH/g)とが次式(1)の関係を満たすものである。
【0015】
(数2)
Y≧1.25X+4 (但し、Y≦88)(1)
【0016】
また、好ましくは次式(2)の関係を満たすものである。
【0017】
(数3)
Y≧2X+4 (但し、Y≦70.5)(2)
【0018】
前述の通り、一定の熱履歴を受けた油脂組成物は、MCPD−FS含有量(ppm)が増加しており、風味の重さがある。また、熱履歴の高さは油脂組成物中のトランス型不飽和脂肪酸含有量に反映される。そこで、本発明は、二重結合を2個有する炭素数18の脂肪酸(「全リノール酸」と呼ぶ)に対する、二重結合を2個有しかつトランス型二重結合を含む炭素数18の脂肪酸(「トランス型リノール酸」と呼ぶ)の割合を百分率で表したもの(「トランス体含有率(%)」又は「LTR」と呼ぶ)が一定以上の油脂組成物を対象とする。LTRの値は2以上であるが、さらに2〜8、特に2〜5、殊更2.1〜5であることが、本発明の効果が有効に発揮される点から好ましい。
【0019】
本発明において、MCPD−FSは、ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)(DGF Standard Methods 2009(14.Supplement),C−III 18(09),”Ester−bound 3−chloropropane−1,2−diol(3−MCPD esters)and glycidol (glycidyl esters)”)にて測定することができる。
DGF標準法C−III 18(09)は、GC−MS(ガスクロマトグラフ−質量分析計)による油脂の微量分析法であり、3−クロロプロパン−1,2−ジオール及びそのエステル(MCPDエステル)並びにグリシドール及びそのエステルの測定方法である。これら4成分の含有量合計がMCPD−FSの分析値として測定される。
本発明においては、当該標準法7.1記載のオプションA(”7.1 Option A:Determination of the sum of ester−bound 3−MCPD and glycidol”)の方法を用いる。測定方法の詳細は実施例に記載した。
【0020】
本発明の油脂組成物におけるMCPD−FSの含有量は、10ppm以下、さらに9ppm以下、特に5ppm以下であることが風味の重さを改善する点から好ましい。
【0021】
本発明の油脂組成物は、水酸基価が88mg−KOH/g以下であるが、水酸基価はさらに19〜87mg−KOH/g、特に26〜70mg−KOH/gであるのが風味の重さを改善する点から好ましい。ここで、水酸基価は日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「ヒドロキシル価(ピリジン−無水酢酸法 2.3.6.2−1996)」により測定した値をいう。
水酸基価の測定方法の詳細は実施例に記載した。
【0022】
油脂組成物の水酸基価は、水酸基価が前記範囲になるように各種油脂類、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロールの他、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のポリオール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドを適宜組み合わせて調整することもできる。
【0023】
本発明の油脂組成物の精製工程としては、通常油脂に対して用いられる精製工程を用いることができる。具体的には、トップカット蒸留工程、酸処理工程、脱色工程、水洗工程、脱臭工程、薄膜蒸発処理工程等を挙げることができる。
【0024】
トップカット蒸留工程は、油脂組成物を蒸留することにより、脂肪酸等の軽質の副生物を除去する工程をいう。
【0025】
酸処理工程は、油脂にクエン酸等のキレート剤を添加、混合し、更に油水分離や減圧脱水することにより水分を除き、不純物を除去する工程をいう。キレート剤の量は、油脂に対し、0.001〜5%が好ましく、0.01〜1%がより好ましい。
【0026】
脱色工程とは、油脂に吸着剤等を接触させ、色相、風味を更に良好とする工程である。吸着剤としては、多孔質吸着剤が好ましく、例えば、活性炭、二酸化ケイ素、及び固体酸吸着剤が挙げられる。固体酸吸着剤としては酸性白土、活性白土、活性アルミナ、シリカゲル、シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を用いることができる。なかでも、副生成物の含有量を低減する点、風味及び色相を良好とする点から、固体酸吸着剤が好ましく、酸性白土、活性白土が特に好ましい。吸着剤の使用量は、色相、風味を更に良好とする点、生産性が良好である点から、油脂に対して2%未満が好ましく、さらに0.1%〜2%未満、特に0.2〜1.5%、とりわけ0.3〜1.3%が好ましい。
【0027】
水洗工程は、油脂に水を接触させ、油水分離を行う工程をいう。水洗により水溶性の不純物を除去することができる。水洗工程は複数回(例えば3回)繰り返すことが好ましい。
【0028】
脱臭工程は、油脂を減圧水蒸気蒸留する工程であり、温度条件は、120〜270℃、更に175〜250℃、特に220〜230℃が挙げられる。処理時間としては、1〜300分、更に3〜180分、特に5〜110分等が挙げられる。また、本発明の態様においては、精製処理の最終工程で、通常の脱臭処理よりも低熱履歴(マイルド)な条件で脱臭処理を組み合わせることが、風味の点から好ましい。ここで、通常の脱臭処理における温度と処理時間の条件は、190〜220℃で120〜300分、220〜250℃で30〜180分、あるいは250〜270℃で5〜60分等である。
【0029】
一方、低熱履歴の場合の脱臭処理の条件は、処理温度は120〜230℃が好ましく、下限値は更に175℃とすることが好ましい。処理時間は1〜110分が好ましく、下限値は更に5分とすることが好ましい。圧力は0.02〜2kPaが好ましく、0.03〜1kPaがより好ましい。水蒸気等の量は、油脂に対して0.1〜10%が好ましく、0.5〜6%がより好ましい。
【0030】
特に、その処理時間は、油脂の風味を良好とする点から、(A)処理温度が120℃以上205℃以下の場合は、5〜110分が好ましく、更に15〜70分が好ましく、(B)処理温度が205℃超215℃以下の場合は、5〜50分が好ましく、更に8〜45分、特に12〜40分が好ましく、(C)処理温度が215℃超230℃以下の場合は、5〜30分が好ましく、更に7〜27分、特に10〜24分が好ましい。
【0031】
薄膜蒸発処理工程とは、蒸留原料を薄膜状にして加熱し、油脂から軽質留分を蒸発させ、処理を行った油脂を残留分として得る処理である。当該処理は薄膜式蒸発装置を用いて行われる。薄膜式蒸発装置としては、薄膜を形成する方法によって、遠心式薄膜蒸留装置、流下膜式蒸留装置、ワイプトフィルム蒸発装置(Wiped film distillation)等が挙げられる。
【0032】
本発明の油脂組成物には、更に一般の食用油脂と同様に、保存性及び風味安定性の向上を目的として、抗酸化剤を添加することができる。抗酸化剤としては、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート、BHT、BHA、リン脂質等が挙げられる。
【0033】
本発明の油脂組成物は、一般の食用油脂とまったく同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食物に広範に適用することができる。例えば、ドリンク、デザート、アイスクリーム、ドレッシング、トッピング、マヨネーズ、焼肉のたれ等の水中油型油脂加工食品;マーガリン、スプレッド等の油中水型油脂加工食品;ピーナッツバター、フライングショートニング、ベーキングショートニング等の加工油脂食品;ポテトチップ、スナック菓子、ケーキ、クッキー、パイ、パン、チョコレート等の加工食品;ベーカリーミックス;加工肉製品;冷凍アントレ;冷凍食品等に利用することができる。
【実施例】
【0034】
〔分析方法〕
(i)MCPD−FSの測定(ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09) オプションA準拠)
フタ付試験管に油脂サンプル約100mgを計量し、内標(3−MCPD−d5/t−ブチルメチルエーテル)50μL、t−ブチルメチルエーテル/酢酸エチル混合溶液(体積比8:2)500μL、及び0.5Nナトリウムメトキシド1mLを添加して攪拌した後、10分間静置した。ヘキサン3mL、3.3%酢酸/20%塩化ナトリウム水溶液3mLを添加し攪拌した後、上層を除去した。さらにヘキサン3mLを添加し攪拌した後、上層を除去した。フェニルボロン酸1g/95%アセトン4mL混合液を250μL添加して攪拌した後、密栓し、80℃で20分間加熱した。これにヘキサン3mLを加え攪拌した後、上層をガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)に供して、MCPD−FSの定量を行った。
【0035】
(ii)グリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
【0036】
(iii)構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists’ Society. Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0037】
(iv)トランス体含有率
上記で得られた脂肪酸組成をもとに、二重結合を2個有する炭素数18の脂肪酸(全リノール酸)に対する、二重結合を2個有しかつトランス型二重結合を含む炭素数18の脂肪酸(トランス型リノール酸)の割合を百分率であらわしたものを「トランス体含有率(%)」(LTR)とした。
【0038】
(v)水酸基価 日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「ヒドロキシル価(ピリジン−無水酢酸法 2.3.6.2−1996)」
首長の丸底フラスコに油脂サンプル約5gを計量し、アセチル化試薬5mlを加え、フラスコの首に小さな漏斗をのせ、フラスコの底部を加熱浴に約1cmの深さに沈めて95〜100℃に加熱した。1時間後、加熱浴からフラスコを取り出し冷却し、漏斗から1mlの蒸留水を加え、再度加熱浴に入れ10分間加熱した。再び常温まで冷却し、漏斗やフラスコの首に凝縮した液を5mlの中性エタノールでフラスコ内に洗い流し、0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液でフェノールフタレイン指示薬を用いて滴定した。なお、本試験と並行して空試験を行い、滴定結果から下記の式をもとに算出した値を「水酸基価(mg−KOH/g)」(OHV)とした。
水酸基価=(A−B)×28.05×F/C+酸価
(A:空試験の0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)、B:本試験の0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)、F:0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター、C:試料採取量(g))
【0039】
〔風味評価〕
風味の評価は、5人のパネルにより、各人1〜2gを生食し、下記に示す基準にて官能評価することにより行い、その平均値を示した。なお、4以上が消費者への受け入れ性がよいものと判断される。
5:油っぽくなく、軽い
4:油っぽさが少なく、軽い
3:油っぽさが少なく、やや軽い
2:油っぽさがあるが、やや軽い
1:油っぽさがあり、重い
【0040】
(原料油脂)
原料油脂A〜Cとして、表1の組成を持つ油脂を用いた。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1及び2
原料油脂A又はBに対し、薄膜蒸発装置としてスミス蒸留器を用い、圧力4Pa、蒸留温度240℃にて、油脂サンプルを毎分3gで供給しながら蒸留を行い処理油を得た。次いでこの処理油に対して、圧力400Pa、処理温度180℃にて、水蒸気/処理油質量比=0.1の条件で30分間水蒸気を接触させ、油脂組成物を得た。分析値を表2に示す。
【0043】
比較例1、3及び5
原料油脂A〜Cに前記実施例1等の処理を行わなかった場合の分析値を表2に示す。
【0044】
比較例2及び4
原料油脂A又はBに対して、圧力400Pa、処理温度180℃にて、水蒸気/原料油脂質量比=0.1の条件で30分間水蒸気を接触させた場合の分析値を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例3〜15、比較例6及び7
原料油脂A又はBに対し、ショ糖脂肪酸エステル(O−170、三菱化学フーズ(株)製)、グリセリン脂肪酸モノエステル(O−95R、花王(株)製)を添加して油脂組成物を得た。分析値を表3及び4に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表2〜4に示すように、熱履歴を経た公知の油脂(比較例1、3及び5)には風味の重さがあり、公知の油脂に対し蒸留は行わず処理温度180℃にて脱臭処理のみを行った油脂(比較例2及び4)においても風味の重さの改善は達成できなかった。また、水酸基価(OHV)が88mg−KOH/gを超える油脂(比較例6及び7)では風味の重さが感じられた。
一方、油脂組成物の水酸基価(OHV)を88mg-KOH/g以下、かつMCPD−FSの含有量から上記式(1)により求められる値よりも大きい油脂組成物とすることで、油っぽくなく非常に優れた風味の油脂組成物を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量X(ppm)と、水酸基価Y(mg−KOH/g)が次式(1)の関係を満たし、かつ油脂を構成する脂肪酸中のリノール酸のトランス体含有率(%)の値が2以上である油脂組成物。
(数1)
Y≧1.25X+4 (但し、Y≦88)(1)
【請求項2】
ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09)にて測定されるMCPD−FSの含有量(ppm)が10ppm以下である請求項1記載の油脂組成物。

【公開番号】特開2011−213852(P2011−213852A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83158(P2010−83158)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】