説明

油脂組成物

【課題】低温下においても、結晶の析出が抑制されたジアシルグリセロール含有油脂組成物を提供する。
【解決手段】グリセリンの平均重合度が20以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが、ジアシルグリセロールに対して優れた結晶抑制効果を発揮し、低温耐性を向上させる。すなわち、次の成分(A)及び(B):(A)グリセリンの平均重合度が20以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル、(B)ジアシルグリセロール20質量%以上、を含有する油脂組成物による。ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量は、80〜100%であることが外観、生理効果の点から好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアシルグリセロールを含有する油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアシルグリセロールには、血中コレステロール値を改善する効果(特許文献1参照)や体脂肪の蓄積を低下させ肥満を防ぐ効果が見出されている(特許文献2参照)。これは、ジアシルグリセロール摂取により、食後の血中中性脂肪の上昇が抑制されるためであると考えられている。一方でジアシルグリセロールは、トリアシルグリセロールに比べて融点が高いため、低温下で結晶化し易いという傾向がある。
【0003】
低コストで油脂の結晶化を抑制する方法として、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる方法が知られている。例えば、グリセリン平均重合度が2〜15で構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が4質量%以下のものを用いたもの(特許文献3参照)、グリセリン平均重合度が2〜15で構成脂肪酸としてエルカ酸を主成分とするものを用いたもの(特許文献4参照)、水酸基価が850mgKOH/g以下、1級水酸基含有率が50%以上であるポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化物であり、水酸基価が100mgKOH/g以下のものを用いたもの(特許文献5)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/48378号パンフレット
【特許文献2】特開平4−300826号公報
【特許文献3】特開平11−279115号公報
【特許文献4】特開2002−212587号公報
【特許文献5】国際公開第2010/010953号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、公知の結晶抑制技術では、結晶化に対して十分な抑制効果が得られない場合があることが判明した。
従って、本発明は、低温下においても結晶化が抑制されたジアシルグリセロール含有油脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、グリセリンの平均重合度が20以上のポリグリセリン脂肪酸エステルが、ジアシルグリセロールに対して優れた結晶抑制効果を発揮し、該ジアシルグリセロール含有油脂組成物の低温耐性を向上させることを見出した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(31)に係るものである。
(1)次の成分(A)及び(B):
(A)グリセリンの平均重合度が20以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル
(B)ジアシルグリセロール 20質量%以上
を含有する油脂組成物。
(2)ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が80mg−KOH/g以下である、上記(1)記載の油脂組成物。
(3)ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が0〜60mg−KOH/gである、上記(1)記載の油脂組成物。
(4)ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が3〜50mg−KOH/gである、上記(1)記載の油脂組成物。
(5)ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が5〜30mg−KOH/gである、上記(1)記載の油脂組成物。
(6)ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が5〜20mg−KOH/gである、上記(1)記載の油脂組成物。
(7)ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、以下の(a−1)、(a−2)及び(a−3)を満たすものである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の油脂組成物。
(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸が20〜80質量%
(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸が0〜80質量%
(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸が0〜80質量%
(8)ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、以下の(a−1)、(a−2)及び(a−3)を満たすものである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の油脂組成物。
(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸が20〜80質量%
(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸が0〜40質量%
(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸が0〜80質量%
(9)ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、以下の(a−1)、(a−2)及び(a−3)を満たすものである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の油脂組成物。
(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸が20〜80質量%
(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸が0〜38質量%
(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸が0〜70質量%
(10)ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、以下の(a−1)、(a−2)及び(a−3)を満たすものである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の油脂組成物。
(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸が20〜70質量%
(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸が10〜38質量%
(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸が0〜60質量%
(11)ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、以下の(a−1)、(a−2)及び(a−3)を満たすものである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の油脂組成物。
(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸が20〜60質量%
(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸が10〜38質量%
(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸が20〜60質量%
(12)ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、以下の(a−1)、(a−2)及び(a−3)を満たすものである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の油脂組成物。
(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸が30〜45質量%
(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸が20〜35質量%
(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸が25〜40質量%
(13)ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の30〜90質量%がオレイン酸である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の油脂組成物。
(14)ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の35〜85質量%がオレイン酸である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の油脂組成物。
(15)ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の40〜80質量%がオレイン酸である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の油脂組成物。
(16)ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の45〜75質量%がオレイン酸である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の油脂組成物。
(17)ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の50〜75質量%がオレイン酸である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の油脂組成物。
(18)ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の55〜75質量%がオレイン酸である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の油脂組成物。
(19)ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の60〜75質量%がオレイン酸である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の油脂組成物。
(20)ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量が0.001〜5質量%である、上記(1)〜(19)のいずれかに記載の油脂組成物。
(21)ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量が0.005〜5質量%である、上記(1)〜(19)のいずれかに記載の油脂組成物。
(22)ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量が0.01〜1質量%である、上記(1)〜(19)のいずれかに記載の油脂組成物。
(23)ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量が0.03〜1質量%である、上記(1)〜(19)のいずれかに記載の油脂組成物。
(24)ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量が0.05〜0.5質量%である、上記(1)〜(19)のいずれかに記載の油脂組成物。
(25)ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量が0.1〜0.3質量%である、上記(1)〜(19)のいずれかに記載の油脂組成物。
(26)ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの平均重合度が20〜45である、上記(1)〜(25)のいずれかに記載の油脂組成物。
(27)ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの平均重合度が25〜45である、上記(1)〜(25)のいずれかに記載の油脂組成物。
(28)ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの平均重合度が31〜45である、上記(1)〜(25)のいずれかに記載の油脂組成物。
(29)ジアシルグリセロールの油脂組成物中の含有量が20〜99.5質量%である、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の油脂組成物。
(30)ジアシルグリセロールの油脂組成物中の含有量が25〜98質量%である、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の油脂組成物。
(31)ジアシルグリセロールの油脂組成物中の含有量が30〜95質量%である、上記(1)〜(28)のいずれかに記載の油脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジアシルグリセロールの含有量にかかわらず低温における結晶化が抑制された、ジアシルグリセロール含有油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の油脂組成物に用いられる成分(A)ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とをエステル化させて得られるものである。ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの平均重合度は20以上であるが、更に20〜45、更に25〜45、更に25〜40、更に30〜40、更に31〜45であることが、ジアシルグリセロール(以下「DAG」ともいう)の結晶化を抑制し、ジアシルグリセロールを含有する油脂組成物の外観を良好に保つ点から好ましい。「グリセリンの平均重合度」とは、ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリグリセリン部分の重合度をGPCにより測定した値をいう。
【0010】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸は、総脂肪酸量の20〜80質量%(以下、単に「%」と記載する)が好ましく、20〜70%がより好ましく、20〜60%が更に好ましく、25〜50%が更に好ましく、更に30〜45%であることがジアシルグリセロールの結晶化を抑制し外観を良好に保つ上で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸は、総脂肪酸量の0〜80%が好ましく、0〜40%がより好ましく、0〜38%がより好ましく、10〜60%が更に好ましく、10〜38%が更に好ましく、更に20〜35%であることがジアシルグリセロールの結晶化を抑制し外観を良好に保つ上で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸は、総脂肪酸量の0〜80%が好ましく、0〜70%がより好ましく、0〜60%がより好ましく、20〜60%が更に好ましく、25〜50%が更に好ましく、更に25〜40%であることがジアシルグリセロールの結晶化を抑制し外観を良好に保つ上で好ましい。
すなわち、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の20〜80%、(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の0〜80%、(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸が総脂肪酸量の0〜80%であることが好ましいが、更に炭素数16以上の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の20〜80%、炭素数14以下の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の0〜40%、炭素数16以上の不飽和脂肪酸が総脂肪酸量の0〜80%であることが好ましく、更に炭素数16以上の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の20〜80%、炭素数14以下の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の0〜38%、炭素数16以上の不飽和脂肪酸が総脂肪酸量の0〜70%であることが好ましく、更に炭素数16以上の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の20〜70%、炭素数14以下の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の10〜38%、炭素数16以上の不飽和脂肪酸が総脂肪酸量の0〜60%であることが好ましく、更に炭素数16以上の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の20〜60%、炭素数14以下の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の10〜38%、炭素数16以上の不飽和脂肪酸が総脂肪酸量の20〜60%であることが好ましく、更に炭素数16以上の飽和脂肪酸が30〜45%、炭素数14以下の飽和脂肪酸が総脂肪酸量の20〜35%、炭素数16以上の不飽和脂肪酸が総脂肪酸量の25〜40%であることが、ジアシルグリセロールの結晶化を抑制し外観を良好に保つ上で望ましい。
炭素数16以上の飽和脂肪酸としては、炭素数16〜22の飽和脂肪酸が好ましく、更にパルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。炭素数14以下の飽和脂肪酸としては、炭素数6〜14の飽和脂肪酸が好ましく、更にカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸が好ましい。炭素数16以上の不飽和脂肪酸としては、炭素数16〜22の不飽和脂肪酸が好ましく、例えば、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸等が挙げられる。なかでもオレイン酸が好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は単独であっても、2種以上の混合物であっても良い。
【0011】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価は80mg−KOH/g以下であることが好ましく、更に0〜60mg−KOH/gであることが好ましく、更に3〜50mg−KOH/gであることが好ましく、更に5〜30mg−KOH/gであることが好ましく、尚更5〜20mg−KOH/gであることが、ジアシルグリセロールの結晶化を抑制し、外観を良好に保つ点から好ましい。本発明における水酸基価とは、実施例に記載の基準油脂試験分析法により測定した値をいう。
【0012】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量はジアシルグリセロールの結晶化抑制の点から、0.001%以上であることが好ましく、0.005%以上であることがより好ましく、0.01%以上であることが更に好ましく、0.03%以上であることが更に好ましく、0.05%以上であることが更に好ましく、0.1%以上であることが更に好ましい。また、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量は風味の点から、5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが更に好ましく、0.3%以下であることがより更に好ましい。上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの油脂組成物中の含有量はジアシルグリセロールの結晶化抑制、風味、調理性の点から0.001〜5%であることが好ましく、更に0.005〜5%であることが好ましく、更に0.01〜1%であることが好ましく、更に0.03〜1%であることが好ましく、更に0.05〜0.5%であることが好ましく、更に0.1〜0.3%であることが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルは2種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明の油脂組成物は、油脂を含有するものである。本発明における「油脂」とは、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものとする。
【0014】
本発明の油脂の含有量は、本発明の油脂組成物中85%以上であることが好ましく、より好ましくは90〜99.999%、更に95〜99.5%、更に97〜99%とすることが、生理効果、工業的生産性、外観の点で好ましい。
本発明の油脂組成物は、成分(B)ジアシルグリセロールを20%以上含有するが、更に25%以上、更に30%以上含有するのが生理効果の点で好ましい。また、本発明の油脂組成物中成分(B)のジアシルグリセロール含有量は、99.5%以下、更に98%以下、更に95%以下であるのが工業的生産性の点で好ましい。本発明の油脂組成物中成分(B)のジアシルグリセロール含有量は、20〜99.5%、更に25〜98%、更に30〜95%であるのが、外観、工業的生産性、生理効果の点で好ましい。
本発明の油脂組成物は、トリアシルグリセロールを1〜80%、更に5〜80%、更に10〜80%であるのが、生理効果、工業的生産性、外観の点で好ましい。また、モノアシルグリセロールの含有量は2%以下、更に0.01〜1.5%であるのが好ましく、遊離脂肪酸(塩)の含有量は3.5%以下、更に0.01〜1.5%であるのが風味等の点で好ましい。トリアシルグリセロール及びモノアシルグリセロールの構成脂肪酸は、ジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0015】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量は、80〜100%であることが好ましく、更に85〜99%、更に90〜98%であることが外観、生理効果の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、更に16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中、オレイン酸の含有量は30〜90%であることが好ましく、更に40〜80%、更に45〜75%、更に55〜75%、更に60〜75%であることが、本発明の効果が有効に発揮され、外観、風味が良好となる点及び生理効果の点で好ましい。
【0016】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、トランス型不飽和酸の含有量は0.01〜5%であることが好ましく、更に0.01〜3.5%、更に0.01〜3%であることが生理効果、外観の観点から好ましい。また、風味の観点から炭素数12以下の脂肪酸の含有量は5%以下であることが好ましく、更に0〜2%、更に0〜1%であることが好ましい。
【0017】
ジアシルグリセロールを含有する油脂の起源としては、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油(キャノーラ油)、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、パーム油、やし油、オリーブ油、ぶどう油、アボガド油、ごま油、落花生油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、くるみ油、豚脂、牛脂、鶏油、バター油、魚油等を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものが、油脂を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。
【0018】
ジアシルグリセロールを含有する油脂は、上述した油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応(グリセロリシス)等により得ることができる。これらの反応はアルカリ触媒等を用いた化学反応でも行うことができるが、1,3−位選択的リパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが、風味等の点で好ましい。
【0019】
本発明の油脂組成物は、抗酸化剤を含有することが好ましい。抗酸化剤の油脂組成物中の含有量は、風味、酸化安定性、着色抑制等の点で0.005〜0.5%であることが好ましく、更に0.04〜0.25%、更に0.08〜0.2%であることが好ましい。抗酸化剤としては、通常食品に使用するものであれば何でも良い。例えば、ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、t−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ビタミンCまたはその誘導体、リン脂質、ローズマリー抽出物等の天然抗酸化剤を用いることができる。
【0020】
本発明の油脂組成物は、植物ステロール類を含有することが好ましい。植物ステロール類の油脂組成物中の含有量は0.05〜5%、更に0.3〜4.7%であることが、コレステロール低下効果、外観の点から好ましい。ここで植物ステロール類としては、例えばα−シトステロール、β―シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β―シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール等のフリー体、及びこれらの脂肪酸エステル等のエステル体が挙げられる。
【0021】
本発明の油脂組成物は、外観、作業性、風味等の点で良好であるため、一般の食用油脂と同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食品に応用することができる。
【0022】
かかる飲食品としては、例えば抗肥満機能を発揮して健康増進を図る健康食品、機能性食品、特定保健用食品等が挙げられる。具体的な製品としては、パン、ケーキ、ビスケット、パイ、ピザクラスト、ベーカリーミックス等のベーカリー食品類、スープ、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、コーヒークリーム(粉末状の形態も含む)、アイスクリーム、ホイップクリーム等の水中油型乳化物、マーガリン、スプレッド、バタークリーム等の油中水型乳化物、ポテトチップス等のスナック菓子、チョコレート、キャラメル、チーズ、ヨーグルト等の乳製品、ドウ、エンローバー油脂、フィリング油脂、麺、冷凍食品、レトルト食品、飲料、ルー等が挙げられる。
【0023】
本発明は、ジアシルグリセロールを含有する油脂に対して、グリセリンの平均重合度が20以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することで、ジアシルグリセロールに対して優れた結晶抑制効果を発揮し、該ジアシルグリセロール含有量の高い油脂組成物の低温耐性を向上させる。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のオレイン酸含量が高いと低温下において特に結晶化し易いが、本発明は、オレイン酸含量が高い油脂に対しても優れた結晶抑制効果を発揮する。
【実施例】
【0024】
〔分析方法〕
(i)油脂のグリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
【0025】
(ii)油脂の構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists’ Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0026】
(iii)ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価
日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「ヒドロキシル価(ピリジン無水酢酸法 2.3.6.2−1996)」に従い、首長の丸底フラスコに油脂サンプル約5gを計量し、アセチル化試薬5mlを加え、フラスコの首に小さな漏斗をのせ、フラスコの底部を加熱浴に約1cmの深さに沈めて95〜100℃に加熱した。1時間後、加熱浴からフラスコを取り出し冷却し、漏斗から1mlの蒸留水を加え、再度加熱浴に入れ10分間加熱した。再び常温まで冷却し、漏斗やフラスコの首に凝縮した液を5mlの中性エタノールでフラスコ内に洗い流し、0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液でフェノールフタレイン指示薬を用いて滴定した。なお、本試験と並行して空試験を行い、滴定結果から下記の式をもとに算出した値を「水酸基価(mg−KOH/g)」(OHV)とした。
水酸基価=(A−B)×28.05×F1/C+酸価
(A:空試験の0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)、B:本試験の0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)、F1:0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター、C:試料採取量(g))
酸価については、日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「酸価(2.3.1−1996)」に従い、三角フラスコにサンプル約5gを計量し、エタノール:酢酸エチル=1:1の溶媒を100mL加え溶解した。0.1mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液でフェノールフタレイン指示薬を用いて滴定し、滴定結果から下記の式をもとに算出した値を「酸価(mg−KOH/g)」とした。
酸価=5.611×D×F2/E
(D:0.1mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)、E:試料採取量(g)、F2:0.1mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター)
【0027】
(iv)ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成成分の単離
阪本薬品工業株式会社発行「ポリグリセリンエステル(P75)」記載の方法にて、ポリグリセリン脂肪酸エステルをポリグリセリン部と脂肪酸部とに分けた。得られたポリグリセリン部はグリセリン平均重合度の分析に、脂肪酸部は構成脂肪酸の分析に供した。
【0028】
(v)ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリン平均重合度の測定方法
ポリグリセリンを、カラムはTSK2500PWXL(東ソー(株))、溶媒は蒸留水(トリフルオロ酢酸を0.1%添加)、流量は1mL/min、検出器はRID、温度40℃、注入量50μLの条件でGPCにより分析した。ポリエチレングリコールで検量線を作成し、ポリエチレングリコール換算のポリグリセリンの重量平均分子量(Mw2)、グリセリンの分子量(Mw1)を測定した。次にグリセリンの換算係数(F)を次式(1)により算出した。
F=92/Mw1 (1)
(式中、F=グリセリンの換算係数、Mw1=グリセリンの分子量)
ポリグリセリンの「グリセリン平均重合度」は、上記で求めた重量平均分子量(Mw2)から、次式(2)により求めた。
n=(Mw2×F−18)/74 (2)
(式中、n=グリセリン重量平均重合度、F=グリセリンの換算係数、Mw2=ポリグリセリン重量平均分子量)
【0029】
(vi)ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸組成
油脂の構成脂肪酸組成と同様の方法により測定した。
【0030】
〔ポリグリセリン脂肪酸エステル〕
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、PGE1〜PGE9(太陽化学(株)製)、デカグリセリン脂肪酸エステルTHL―15(阪本薬品工業(株)製)を用いた。また、PGE4とPGE9を混合してPGE10と11を得た。それぞれのグリセリン平均重合度、水酸基価、脂肪酸組成を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
〔DAG高含有油脂の調製〕
菜種油を加水分解して得た脂肪酸564gとグリセリン92gとを混合し、固定化1,3位選択リパーゼ(ノボルディスクインダストリー社製)を触媒としてエステル化反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を分子蒸留し、更に脱色、水洗した後、235℃にて1時間脱臭して油脂Xを得た。
油脂Xに菜種油を添加し、DAG含量を調整することで油脂Y及びZを得た。
【0033】
大豆油を加水分解して得た脂肪酸からウィンタリングにより飽和脂肪酸を低減させたものを395g、菜種油を加水分解して得た脂肪酸を169g、およびグリセリン92gを混合し、固定化1,3位選択リパーゼ(ノボルディスクインダストリー社製)を触媒としてエステル化反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を分子蒸留し、更に脱色、水洗した後、215℃にて1時間脱臭して油脂Wを得た。
【0034】
菜種油を加水分解して得た脂肪酸2500gとグリセリン410gとを混合し、固定化1,3位選択リパーゼ(ノボルディスクインダストリー社製)を触媒としてエステル化反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を分子蒸留し、更に脱色、水洗した後、235℃にて1時間脱臭して油脂Vを得た。
得られた油脂X、Y、Z、W及びVのグリセリド組成及び脂肪酸組成を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
〔油脂組成物の調製〕
DAG含有油脂X、Y、Z又はWに対し、PGE1〜PGE7又はデカグリセリン脂肪酸エステル「THL―15」を油脂組成物中0.1%となるように添加することにより、実施例1〜14及び比較例1〜16のDAGを含有する油脂組成物を調製した。
DAG含有油脂Vに対し、PGE1、PGE4、PGE7、PGE8、PGE10又はPGE11を表7に示す種々の濃度になるように油脂組成物に添加することにより、実施例15〜22、比較例17及び18のDAGを含有する油脂組成物を調製した。
これら油脂組成物をガラスバイアル(SV−50、日電理化硝子(株)製)に30g分注し、蓋をして、5℃(油脂Xを使用した実施例1〜5、比較例1〜4)、0℃(油脂Y、Z又はWを使用した実施例6〜14、比較例5〜16)又は8℃(油脂Vを使用した実施例15〜22、比較例17及び18)の冷蔵庫内に1〜7日間静置し、毎日、目視にて次に示す基準により結晶の有無を確認した。結果を表3〜7に示す。
【0037】
〔結晶の有無の評価基準〕
○ :清澄
△ :わずかな結晶析出/曇り
× :結晶析出
××:固化
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
表3〜7に示された結果から、比較例では、低温下において短期間で濁りあるいは結晶が発生し、低温耐性が十分とはいえないことが確認された。一方で、グリセリンの平均重合度が20以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた実施例では長期間清澄の状態を保持していた。また、構成脂肪酸中のオレイン酸含量が高いDAG含有油脂であっても低温耐性が向上していることが実証された。特にPGE4、6、7を用いた場合は7日間経過後も清澄状態を保持しており、著しく低温耐性が向上していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)グリセリンの平均重合度が20以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル
(B)ジアシルグリセロール 20質量%以上
を含有する油脂組成物。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価が80mg−KOH/g以下である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、以下の(a−1)、(a−2)及び(a−3)を満たすものである請求項1又は2記載の油脂組成物。
(a−1)炭素数16以上の飽和脂肪酸が20〜80質量%
(a−2)炭素数14以下の飽和脂肪酸が0〜80質量%
(a−3)炭素数16以上の不飽和脂肪酸が0〜80重量%
【請求項4】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の30〜90質量%がオレイン酸である請求項1〜3のいずれか1項記載の油脂組成物。

【公開番号】特開2012−82402(P2012−82402A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199043(P2011−199043)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】