説明

油脂組成物

【課題】植物ステロールを高濃度に溶解しており、低温下等においても結晶化が抑制された油脂組成物の提供。
【解決手段】次の成分(A)及び(B):
(A)遊離型トリテルペンアルコール 0.4〜6質量%、
(B)β−シトステロールを20質量%以上含有する遊離型植物ステロール 0.2〜3質量%、
を含有し、且つ(A)遊離型トリテルペンアルコールと(B)遊離型植物ステロールの含有質量比[(A)/(B)]が0.9以上である油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ステロールを溶解状態で含有する油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物ステロールは、遊離状態或いは脂肪酸エステル、配糖体、フェルラ酸エステル等の形態で広く植物に存在するステロイドアルコールである。植物ステロールは、優れた血中コレステロール低下作用を有するため、これを食用油脂に配合することが行われている。植物ステロールのなかでもβ−シトステロールのコレステロール低下作用は優れているとされている(非特許文献1、2)。
しかし、植物ステロールは、天然物からの抽出、濃縮及び精製の段階で加水分解され、ほとんどが遊離の状態となるが、この遊離状態の植物ステロールは食用油脂に対して極めてわずかしか溶解しないという問題がある。
【0003】
そこで、植物ステロールを食用油脂に可溶化させる技術が検討され、例えば、多量のビタミンE及び乳化剤を用いて植物ステロールを油に可溶化する方法(特許文献1)、植物ステロールを脂肪酸エステルの形で油脂に添加する方法(特許文献2)等が提案されている。また、植物ステロールと同様な生理効果のあるオリザノールとトリテルペンアルコールを植物ステロールとともに含有する食用油脂において、トリテルペンアルコールと植物ステロールの遊離型のものの含量が一定量以下である場合、食用油脂として優れていることが報告されている(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−179086号公報
【特許文献2】特開平11−127779号公報
【特許文献3】特開2001−224309号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Atherosclerosis,28、325−338(1977)
【非特許文献2】The lipid vol.5,No.1,101−105(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の植物ステロールを配合した食用油脂は、調製時には清澄な外観を保っているものの、その保存中、特に低温下や高温高湿条件下で保存すると植物ステロールの結晶を生じてしまう問題があった。不溶化した植物ステロールは体内で吸収され難く、血中コレステロール低下作用を有効に発揮することは難しい。
【0007】
したがって、本発明の課題は、植物ステロールを高濃度に溶解しており、低温下や高温高湿条件下での保存においても結晶化が抑制された油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、遊離型トリテルペンアルコールが植物ステロールに対して優れた結晶抑制効果を発揮し、油脂中に遊離型トリテルペンアルコールを一定範囲で共存させると、遊離の植物ステロール、特にβ−シトステロールが高濃度に溶解した油脂組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)遊離型トリテルペンアルコール 0.4〜6質量%、
(B)β−シトステロールを20質量%以上含有する遊離型植物ステロール 0.2〜3質量%、
を含有し、且つ(A)遊離型トリテルペンアルコールと(B)遊離型植物ステロールの含有質量比[(A)/(B)]が0.9以上である油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物ステロール、特にβ−シトステロール含量が高く、生理効果に優れるものでありながら、低温下等における結晶化が抑制された油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書においてトリテルペンアルコールとは、炭素数30又は31の四環性トリテルペンアルコールである。
トリテルペンアルコールは、米、米糠、米油等のトリテルペンアルコールを含有する油脂及び油脂加工品からの抽出、γ−オリザノールの加水分解等によって得ることができる。また、市販品を用いることができる。
【0012】
また、本明細書において植物ステロールとは、炭素数28又は29の4−デスメチルステロールである。当該植物ステロールと前記トリテルペンアルコールは、明確に相違する化合物である。
植物ステロールは、野菜、豆類、穀物等の植物からの抽出、γ−オリザノールの加水分解、公知の有機化学合成法等によって得ることができる。また、市販品を用いることができる。
【0013】
トリテルペンアルコールと植物ステロールには、遊離型と脂肪酸エステル型とフェルラ酸エステル型がある。本明細書において遊離型とはステロイド核のC−3位に水酸基をもつものを指す。
【0014】
本発明で用いられる(A)遊離型トリテルペンアルコールとしては、例えば、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール、ブチロスペリモール、パルケオール等が挙げられる。遊離型トリテルペンアルコールは、単一化合物として用いることもできるし、混合物として用いることもできる。なかでも、生理効果の点から、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールから選ばれる1種又は2種以上であるのが好ましく、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール又はこれらの組み合わせであるのがより好ましい。
遊離型トリテルペンアルコールは、J.Am.Oil Chem.Soc.,82(6),439(2005)に記載の方法に従って測定することができる。
【0015】
本発明の油脂組成物は、(A)遊離型トリテルペンアルコールを0.4〜6質量%(以下、単に「%」とする)含有する。成分(A)の含有量を斯かる一定範囲とすることで、油脂への遊離型植物ステロールの溶解性を高めることができ、保存中、特に低温保存によっても遊離型植物ステロールの結晶化を抑制することができる。すなわち、(A)遊離型トリテルペンアルコールは、β−シトステロールを20%以上含む遊離型植物ステロールの油脂への溶解性向上のために使用でき、また、常温、低温又は高温高湿条件下における当該遊離型植物ステロールの結晶化抑制のために使用できる。また、(A)遊離型トリテルペンアルコールは、当該遊離型植物ステロールを0.2〜3%含有する油脂の常温、低温又は高温高湿条件下における安定性向上のために使用できる。
油脂組成物中の(A)遊離型トリテルペンアルコールの含有量は、更に0.85%以上、更に0.9%以上、更に1.2%以上、更に1.6%以上、更に2.1%以上であるのが生理効果の点から好ましく、また、6%以下、更に5%以下、更に0.4〜5%、更に0.4〜4%であるのが、耐冷性を良好にする点、高温高湿条件での安定性を良好にする点から好ましい。
【0016】
また、(A)遊離型トリテルペンアルコール中、シクロアルテノールの含有量は、15〜100%、更に20〜90%、更に25〜80%であるのが生理効果の点で好ましい。
【0017】
本発明の油脂組成物は、(B)遊離型植物ステロールを0.2〜3%含有するが、更に0.2〜2.5%、更に0.2〜2%含有するのが、保存安定性を良好にする点から好ましい。
【0018】
本発明で用いられる(B)遊離型植物ステロールは、β−シトステロールを20%以上含有するものである。遊離型植物ステロール中のβ−シトステロールの含有量は、更に20〜100%、更に20〜90%、更に20〜80%、更に20〜70%、更に20〜60%、更に20〜40%であるのが、耐冷性を良好にする点から好ましい。
【0019】
(B)遊離型植物ステロールは、β−シトステロールの他にカンペステロールを含有するのが結晶化の抑制の点から好ましい。
(B)遊離型植物ステロール中のカンペステロールの含有量は、5〜80%、更に10〜80%、更に20〜75%、更に30〜70%であるのが、高温高湿条件での安定性を良好にする点から好ましい。
【0020】
(B)遊離型植物ステロールには、β−シトステロールとカンペステロール以外の植物ステロール、例えば、α−シトステロール、スチグマステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、ブラシカステロール、フコステロール、イソフコステロール、スピナステロール、アベナステロール等から選ばれる1種又は2種以上が含有されていてもよい。
遊離型植物ステロールは、J.Am.Oil Chem.Soc.,82(6),439(2005)に記載の方法に従って測定することができる。
【0021】
本発明の油脂組成物において、(A)遊離型トリテルペンアルコールと(B)遊離型植物ステロールの含有質量比[(A)/(B)]は0.9以上であるが、更に0.9〜6、更に0.9〜5、更に0.9〜4、更に0.9〜3.5、0.9〜3であるのが、遊離型植物ステロールの溶解性を高め、該植物ステロールの結晶化を抑制する点から好ましい。
【0022】
本発明の油脂組成物において、脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの含有量は、1.4%未満、更に0.5%未満、更に0.1%未満、更に0.05%未満、更に0.01%未満、更に0〜1.4%、更に0.0001〜0.5%、更に0.0001〜0.08%、更に0.0001〜0.04%であるのが、風味を良好にする点から好ましい。脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールは、J.Food Science,65(8),1395(2000)に記載の方法に従って測定することができる。
また、脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールは、総トリテルペンアルコール量、遊離型トリテルペンアルコール量、フェルラ酸エステル型トリテルペンアルコール量から算出することができる。総トリテルペンアルコール量はJ.Am.Oil Chem.Soc.,82(6),439(2005)に記載の方法に従って測定することができ、フェルラ酸エステル型トリテルペンアルコールは、J.Food Science,65(8),1395(2000)やLipids,30(3),269(1995)に記載の方法に従って測定することができる。
なお、脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールとは、遊離型トリテルペンアルコールのC−3位の水酸基に脂肪酸がエステル結合したトリテルペンアルコールを指す。
【0023】
また、本発明の油脂組成物において、γ−オリザノールの含有量は、0.7%未満、更に0.5%未満、更に0.15%未満、更に0.1%未満、更に0.05%未満、更に0.01%未満、更に0.0034%未満、更に0.001%未満、更に0.0002%未満、更に0〜0.5%、更に0.000001〜0.1%、更に0.000001〜0.01%であり、更に0.000001〜0.003%、尚更0.000001〜0.0001%であるのが、風味を良好とする点から好ましい。
ここで、γ−オリザノールは、米油、トウモロコシ油、その他の穀類の糠油中に存在する物質で、上記トリテルペンアルコールやステロールのフェルラ酸(3−メトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸)エステルの総称である。γ−オリザノールは、J.Food Science,65(8),1395(2000)やLipids,30(3),269(1995)に記載の方法に従って測定することができる。
【0024】
本発明の油脂組成物に使用できる油脂(食用油脂)に特に制限はなく、例えば、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、米油、コーン油、パーム油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、サチャインチ油、クルミ油、キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂;あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。これらの油は、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは適宜混合して用いてもよい。なかでも、使用性の点から、植物性油脂を用いるのが好ましく、更に低温耐性に優れた液状油脂を用いるのが好ましい。液状油脂とは、基準油脂分析試験法2.3.8−27による冷却試験を実施した場合、20℃で液状である油脂をいう。また、食用油脂は、精製工程を経た精製油脂であるのが好ましい。
【0025】
本発明の油脂組成物中、油脂の含有量は90〜99.4%であることが好ましく、更に94〜99%、更に97〜99%であることが使用上の点から好ましい。
本発明の油脂は、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、及びトリアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものであるが、油脂組成物中、ジアシルグリセロールの含有量は、19%以下が好ましく、更に9%以下、更に0.1〜7%、更に0.2〜5%であるのが油脂の工業的生産性の点から好ましい。また、モノアシルグリセロールの含有量は風味を良好とする点から、3%以下が好ましく、更に0〜2%が好ましい。トリアシルグリセロールの含有量は78〜99.4%が好ましく、更に88〜99.4%、更に90〜99.4%、更に92〜99%であるのが油脂の工業的生産性の点から好ましい。
【0026】
また、本発明の油脂組成物に含まれる遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、5%以下が好ましく、更に0〜2%、更に0〜1%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0027】
本発明の油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸は、特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、60〜100%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、より好ましくは70〜100%、更に75〜100%、更に80〜98%であるのが外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、更に16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。
【0028】
また、油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は40%以下であることが好ましく、より好ましくは0〜30%、更に0〜25%、更に2〜20%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、更に16〜22のものが好ましい。
【0029】
更に、本発明の油脂組成物は、保存時及び調理時の酸化安定性の点より、油脂組成物中に抗酸化剤を0.01〜2%含有するのが好ましく、更に0.01〜1%、更に0.01〜0.5%含有するのが好ましい。抗酸化剤としては、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びブチルヒドロキシアニソール(BHA)等から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、より好ましい例としては、天然抗酸化剤、トコフェロール及びアスコルビルパルミテートから選ばれる1種又は2種以上の抗酸化剤である。そのなかでも、アスコルビルパルミテートとトコフェロールの併用が好ましい。
【0030】
本発明の油脂組成物は、一般の食用油脂と同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食物に広範に適用することができる。
【0031】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の油脂組成物、或いは使用を開示する。
<1>次の成分(A)及び(B):
(A)遊離型トリテルペンアルコール 0.4〜6%、
(B)β−シトステロールを20%以上含有する遊離型植物ステロール 0.2〜3%、を含有し、且つ(A)遊離型トリテルペンアルコールと(B)遊離型植物ステロールの含有質量比[(A)/(B)]が0.9以上である油脂組成物。
<2>(A)遊離型トリテルペンアルコールの含有量が、好ましくは0.85%以上、更に好ましくは0.9%以上、更に好ましくは1.2%以上、更に好ましくは1.6%以上、更に好ましくは2.1%以上である、前記<1>に記載の油脂組成物。
<3>(A)遊離型トリテルペンアルコールの含有量が、好ましくは6%以下、更に好ましくは5%以下である前記<1>又は<2>に記載の油脂組成物。
<4>(A)遊離型トリテルペンアルコールの含有量が、好ましくは0.4〜5%、更に好ましくは0.4〜4%である前記<1>に記載の油脂組成物。
【0032】
<5>(A)遊離型トリテルペンアルコールが、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール、ブチロスペリモール及びパルケオールから選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくはシクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールから選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくはシクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール又はこれらの組み合わせである、前記<1>〜<4>の1に記載の油脂組成物。
【0033】
<6>(B)遊離型植物ステロールの含有量が、好ましくは0.2〜2.5%、更に好ましくは0.2〜2%である、前記<1>〜<5>の1に記載の油脂組成物。
<7>(B)遊離型植物ステロール中のβ−シトステロールの含有量が、好ましくは20〜100%、更に好ましくは20〜90%、更に好ましくは20〜80%、更に好ましくは20〜70%、更に好ましくは20〜60%、更に好ましくは20〜40%である、前記<1>〜<6>の1に記載の油脂組成物。
<8>(B)遊離型植物ステロールが、β−シトステロールの他にカンペステロールを含有するものである前記<1>〜<7>の1に記載の油脂組成物。
<9>(B)遊離型植物ステロール中のカンペステロールの含有量が、5〜80%、好ましくは10〜80%、更に好ましくは20〜75%、更に好ましくは30〜70%である、前記<8>に記載の油脂組成物。
<10>(A)遊離型トリテルペンアルコールと(B)遊離型植物ステロールの含有質量比[(A)/(B)]が、好ましくは0.9〜6、更に好ましくは0.9〜5、更に好ましくは0.9〜4、更に好ましくは0.9〜3.5、更に好ましくは0.9〜3である、前記<1>〜<9>の1に記載の油脂組成物。
<11>油脂の含有量が、90〜99.4%、好ましくは94〜99%、更に好ましくは97〜99%である、前記<1>〜<10>の1に記載の油脂組成物。
【0034】
<12>トリアシルグリセロールの含有量が、78〜99.4%、好ましくは88〜99.4%、更に好ましくは90〜99.4%、更に好ましくは92〜99%である、前記<1>〜<11>の1に記載の油脂組成物。
<13>油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸の60〜100%、好ましくは70〜100%、更に好ましくは75〜100%、更に好ましくは80〜98%が不飽和脂肪酸である、前記<1>〜<12>の1に記載の油脂組成物。
<14>油脂組成物中の油脂を構成する脂肪酸の40%以下、好ましくは0〜30%、更に好ましくは0〜25%、更に好ましくは2〜20%が飽和脂肪酸である、前記<1>〜<13>の1に記載の油脂組成物。
【0035】
<15>脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの含有量が、1.4%未満、好ましくは0.5%未満、更に好ましくは0.1%未満、更に好ましくは0.05%未満、更に好ましくは0.01%未満である、前記<1>〜<14>の1に記載の油脂組成物。
<16>脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの含有量が、0〜1.4%、好ましくは0.0001〜0.5%、更に好ましくは0.0001〜0.08%、更に好ましくは0.0001〜0.04%である、前記<1>〜<14>の1に記載の油脂組成物。
<17>γ−オリザノールの含有量が、0.7%未満、好ましくは0.5%未満、更に好ましくは0.15%未満、更に好ましくは0.1%未満、更に好ましくは0.05%未満、更に好ましくは0.01%未満、更に好ましくは0.0034%未満、更に好ましくは0.001%未満、更に好ましくは0.0002%未満である、前記<1>〜<16>の1に記載の油脂組成物。
<18>γ−オリザノールの含有量が、0〜0.5%、好ましくは0.000001〜0.1%、更に好ましくは0.000001〜0.01%、更に好ましくは0.000001〜0.003%、更に好ましくは0.000001〜0.0001%である、前記<1>〜<16>の1に記載の油脂組成物。
<19>更に抗酸化剤を、0.01〜2%、好ましくは0.01〜1%、更に好ましくは0.01〜0.5%含有する、前記<1>〜<18>の1に記載の油脂組成物。
<20>抗酸化剤が、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、ジブチルヒドロキシトルエン及びブチルヒドロキシアニソールから選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくはトコフェロール、アスコルビルパルミテート及びアスコルビルステアレートから選ばれる1種又は1種以上であり、更に好ましくはトコフェロールとアスコルビルパルミテートの併用である、前記<19>に記載の油脂組成物。
【0036】
<21>前記<1>〜<20>の1に記載の油脂組成物の食用油脂としての使用。
<22>β−シトステロールを20%以上含む遊離型植物ステロールの油脂への溶解性向上のための遊離型トリテルペンアルコールの使用。
<23>β−シトステロールを20%以上含む遊離型植物ステロールの常温、低温又は高温高湿条件下における油脂中での結晶化抑制のための遊離型トリテルペンアルコールの使用。
<24>β−シトステロールを20%以上含む遊離型植物ステロールを0.2〜3%含有する油脂の常温、低温又は高温高湿条件下における安定性向上のための遊離型トリテルペンアルコールの使用。
<25>遊離型植物ステロール中のβ−シトステロールの含有量が、好ましくは20〜100%、更に好ましくは20〜90%、更に好ましくは20〜80%、更に好ましくは20〜70%、更に好ましくは20〜60%、更に好ましくは20〜40%である、前記<22>〜<24>の1に記載の使用。
<26>遊離型植物ステロールが、β−シトステロールの他にカンペステロールを含有するものである前記<22>〜<25>の1に記載の使用。
<27>遊離型植物ステロール中のカンペステロールの含有量が、5〜80%、好ましくは10〜80%、更に好ましくは20〜75%、更に好ましくは30〜75%である、前記<26>に記載の使用。
<28>遊離型トリテルペンアルコールが、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール、ブチロスペリモール及びパルケオールから選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくはシクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールから選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくはシクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール又はこれらの組み合わせである、前記<22>〜<27>の1に記載の使用。
<29>油脂中の遊離型植物ステロールの含有量が、好ましくは0.2〜2.5%、更に好ましくは0.2〜2%である、前記<22>〜<29>の1に記載の使用。
<30>遊離型トリテルペンアルコールの含有量が、0.4%以上、好ましくは0.85%以上、更に好ましくは0.9%以上、更に好ましくは1.2%以上、更に好ましくは1.6%以上、更に好ましくは2.1%以上となるように、遊離型トリテルペンアルコールを油脂に含有させるものである、前記<22>〜<29>の1に記載の使用。
<31>遊離型トリテルペンアルコールの含有量が6%以下、好ましくは5%以下となるように、遊離型トリテルペンアルコールを油脂に含有させるものである、前記<22>〜<30>の1に記載の使用。
<32>遊離型トリテルペンアルコールの含有量が0.4〜6%、好ましくは0.4〜5%、更に好ましくは0.4〜4%以下となるように、遊離型トリテルペンアルコールを油脂に含有させるものである、前記<22>〜<29>の1に記載の使用
<33>遊離型トリテルペンアルコールと遊離型植物ステロールの含有質量比[(A)/(B)]が0.9以上、好ましくは0.9〜6、更に好ましくは0.9〜5、更に好ましくは0.9〜4、更に好ましくは0.9〜3.5、更に好ましくは0.9〜3となるように、遊離型トリテルペンアルコールと遊離型植物ステロールを油脂に含有させるものである、前記<22>〜<32>の1に記載の使用。
【実施例】
【0037】
〔分析方法〕
(i)油脂のグリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
<GLC分析条件>
(条件)
装置:アジレント6890シリーズ(アジレントテクノジー社製)
インテグレーター:ケミステーションB 02.01 SR2(アジレントテクノジー社製)
カラム:DB−1ht(Agilent J&W社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=340℃
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:80℃から10℃/分で340℃まで昇温、15分間保持
【0038】
(ii)油脂の構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られた油脂サンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
<GLC分析条件>
カラム:CP−SIL88 100m×0.25mm×0.2μm (VARIAN)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:200)、T=250℃
ディテクター:FID、T=250℃
オーブン温度:174℃で50分保持後、5℃/分で220℃まで昇温、25分間保持
【0039】
(iii)遊離型トリテルペンアルコール及び遊離型植物ステロール
J.Am.Oil Chem.Soc.,82(6),439(2005)に従ってサンプルを調製し、GLCに供して分析した。具体的には下記の方法で測定した。
油脂サンプル約500mgをヘキサン約5mLに溶解し、SPEカートリッジ(Sep−Pak Silica、5g、GLサイエンス社)にチャージした。ヘキサン/エーテル(体積比95/5)約40mLで洗浄した後、エタノール/エーテル/ヘキサン(体積比50/25/25)約40mLで溶出し、エタノール/エーテル/ヘキサン溶出画分を分取した。得られた画分から溶媒を留去し、PTLC(Si60、20×20×0.1cm、Merck社)にチャージした。ヘキサン/エーテル/酢酸(体積比90/10/2)、クロロホルム/エーテル(体積比95/5)で順に展開した後、遊離型トリテルペンアルコール部分と遊離型植物ステロール部分を分取した。分取した遊離型トリテルペンアルコール画分、又は遊離型植物ステロール画分と、トリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で30分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析し、遊離型トリテルペンアルコール量及び遊離型植物ステロール量(質量%)を測定した。
<GLC分析条件>
カラム:DB−1ht 10.0m×0.25mm×0.10μm (Agilent)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:80)、T=340℃
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:200℃から10℃/分で340℃まで昇温、10分間保持
【0040】
(iv)総トリテルペンアルコール
J.Am.Oil Chem.Soc.,82(6)439(2005)に従ってサンプルを調製し、GLCにより測定した。具体的には下記の方法で測定した。
三角フラスコに、油脂サンプル約5gと2N水酸化カリウム/エタノール溶液約20mLを加え、80℃で60分間加熱した。室温まで放冷した後、内部標準(コレステロール)と水15mLとヘキサン10mLを加え、振とうした。静置後、上層を分取し、濃縮した。濃縮物にトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で30分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析し、総トリテルペンアルコール量(質量%)を測定した。GLC分析条件は、(iii)と同じものを用いた。
【0041】
(v)γ−オリザノール
Lipids,30(3),269(1995)に従ってサンプルを調製し、HPLC−UVにより測定した。具体的には下記の方法で測定した。
油脂サンプル約100mgを酢酸エチルに溶解して10mLとし、HPLC法により分析した。
<HPLC分析条件>
カラム:Inertsil ODS−3 4.6mm×250mm、5μm(GLサイエンス)
カラム温度:40℃
流速:1.2mL/分
検出:UV325nm
溶離液:アセトニトリル/ブタノール/酢酸(体積比82/3/2)
【0042】
(vi)脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール
総トリテルペンアルコール量から、遊離型トリテルペンアルコール量と、遊離型に換算したγ―オリザノール量を減算し、遊離型に換算した脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール量を算出した。遊離型から脂肪酸エステル型へ換算を行い、脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール量(質量%)とした。なお、遊離型から脂肪酸エステル型への換算を行う場合には、結合脂肪酸をオレイン酸と仮定して計算した。
【0043】
〔遊離型トリテルペンアルコール及び遊離型植物ステロール〕
遊離型トリテルペンアルコールは、市販のオリザノール(和光純薬(株))を加水分解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離・精製して調製した。調製品の組成は、シクロアルテノール40%、24−メチレンシクロアルタノール60%であった。
遊離型植物ステロール(4−デスメチルステロール)は、市販のオリザノール(和光純薬(株))を加水分解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離・精製して調製したもの、市販の植物ステロール製剤(ADM(株))、試薬のβ−シトステロール及びカンペステロール(どちらもタマ生化学(株)製、純度99%)を用いた。オリザノールからの調製品の組成は、カンペステロール62%、β−シトステロール31%、スチグマステロール6%であった。植物ステロール製剤(ADM(株))の組成は、カンペステロール26%、β−シトステロール51%、スチグマステロール20%であった。
【0044】
〔原料油脂〕
菜種白絞油のグリセリド組成及び脂肪酸組成は、表1に示すとおりであった。また、菜種白絞油中の遊離型及び脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール含量及びγ−オリザノール含量は0%であった。
【0045】
【表1】

【0046】
〔油脂組成物の調製〕
実施例1〜14及び比較例1〜9
菜種白絞油(日清オイリオグループ(株)製)に対して、表2に示した割合で、遊離型トリテルペンアルコール、試薬のβ−シトステロール、試薬のカンペステロールをそれぞれ配合し、50℃の温度を保ちながら撹拌機を用いて全体が清澄になるまで混合・溶解を行い、油脂組成物をそれぞれ調製した。各油脂組成物中の遊離型トリテルペンアルコール、遊離型植物ステロール、β−シトステロール及びカンペステロールの含有量は表2に示したとおりである。
【0047】
実施例15〜27及び比較例10〜17
菜種白絞油(日清オイリオグループ(株)製)に対して、表3に示した割合で、遊離型トリテルペンアルコール、オリザノールからの調製品(実施例15〜24及び比較例10〜17)、市販の植物ステロール製剤(実施例25〜27)をそれぞれ配合し、50℃の温度を保ちながら撹拌機を用いて全体が清澄になるまで混合・溶解を行い、油脂組成物をそれぞれ調製した。各油脂組成物中の遊離型トリテルペンアルコール、遊離型植物ステロール、β−シトステロール及びカンペステロールの含有量は表3に示したとおりである。
なお、いずれの油脂組成物も脂肪酸エステル型トリテルペンアルコール含量及びγ−オリザノール含量は、0%であった。
【0048】
上記で調製した油脂組成物を30mLバイヤルに20g入れて静置し、次のとおり保存安定性を目視にて評価した。
〔25℃での保存安定性の評価〕
25℃で1週間保存した際の外観をパネル9名が下記の評価基準で評価し、その平均値を保存安定性の評点とした。結果を表2及び3に示す。
(保存安定性)
4:良好
3:概ね良好だが、僅かに霞がかっている
2:やや劣り、若干霞がかっている
1:劣り、白濁している
【0049】
〔耐冷性の評価〕
0℃で1週間保存した際の外観をパネル9名が下記の評価基準で評価し、その平均値を保存安定性の評点とした。結果を表2及び3に示す。
(耐冷性)
4:良好
3:概ね良好だが、僅かに霞がかっている
2:やや劣り、若干霞がかっている
1:劣り、白濁している
【0050】
〔高温加湿条件における保存安定性の評価〕
湿度80%、40℃で1週間保存した際の外観をパネル9名が下記の評価基準で評価し、その平均値を保存安定性の評点とした。結果を表2及び3に示す。
(高温加湿条件における保存安定性)
4:良好
3:概ね良好だが、液面に若干結晶が析出している
2:やや劣り、液面に結晶が析出している
1:劣り、全体に結晶が析出して白濁している
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
表2及び表3に示すとおり、本発明の油脂組成物は、比較例のものと比べて保存安定性、特に耐冷性、高温加湿条件における保存安定性に優れることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)遊離型トリテルペンアルコール 0.4〜6質量%、
(B)β−シトステロールを20質量%以上含有する遊離型植物ステロール 0.2〜3質量%、
を含有し、且つ(A)遊離型トリテルペンアルコールと(B)遊離型植物ステロールの含有質量比[(A)/(B)]が0.9以上である油脂組成物。
【請求項2】
トリアシルグリセロールを78〜99.4質量%含有する請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記(B)遊離型植物ステロールが、更にカンペステロールを含有するものである請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
成分(A)遊離型トリテルペンアルコールが、シクロアルテノール、24−メチレンシクロアルタノール及びシクロブラノールから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項5】
γ−オリザノールの含有量が、0.7質量%未満である請求項1〜4いずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項6】
γ−オリザノールの含有量が、0.0034質量%未満である請求項5記載の油脂組成物。
【請求項7】
脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの含有量が1.4質量%未満である請求項1〜6いずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項8】
脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの含有量が0.05質量%未満である請求項7記載の油脂組成物。

【公開番号】特開2013−99309(P2013−99309A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−273483(P2011−273483)
【出願日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】